【2025.9.5コミック発売】異世界で淫魔師ハレム【完結】 作:ドン・ドナシアン
394 老魔道師の困惑
マーリンは、王都内で暴動が起きたという情報をマルリスとして暮らしている薬師の店で知った。
夜もかなり深くなった頃だ。
驚いた。
そんなことがあったなど、まったく知らなかったからだ。
このマルリスの店を兼ねた家は、王都の北部側の城壁沿いにあり、大騒動の発生場所からかなり距離がある。マルリスに限らず、周囲に王都中央部における騒乱のことが伝わるのは時間がかかっていた。
だから、単純に情報が遅れたということではあるのだが、由々しき問題を孕んでいた。
つまりは、マーリンの作っている諜報組織がまったく機能をしていないということだ。
そもそも、こんな大きな情報がマーリンに即座に入らないなどあり得ない。
しかし、そのあり得ないことが起きた。
マーリンは、騒動の内容よりも、マーリンに情報が遅延したということを重視した。
騒乱の場所は王都広場、あるいは、噴水広場と称される王都の中央部のことであるようだ。
情報の把握が遅れたマーリンは、すでに事が完全に終わってから、それを報告をしてきた手の者から詳細を把握した。
それによれば、今日の昼過ぎに、その王都広場で二公爵とともに、あの第三神殿の若い女神殿長であるスクルズの晒し刑が起きたのだという。
暴徒は、そのスクルズの処刑に対する抗議が発端だということだ。
とりあえず、鎮まったようだが、一時期は万を超えた民衆の暴徒が王宮を囲むのかと思うほどの大混乱だったという。
そんなことがあったのだ。
仰天した。
二公爵の処刑と磔刑──?
国王自らのスクルズの処刑?
なんの話かと思った。
少なくとも、マーリンが描いた絵にはなかったことだ。
王宮工作はほぼテレーズに一任しているが、そのテレーズを使って牛耳っているのはマーリンだ。
しかし、マーリンの預かり知らぬところで、大きな政変が起きている。
考えられるのはテレーズが独走し、マーリンに相談なく、それほどのことを引き起こしたということだ。
それは、ある意味、テレーズの裏切りといえなくもない。
そうでなくても、マーリンの示唆を受けずに、これほどの事を起こすのは許されないことだ。
一方で、そもそも、なぜ、マーリンに事前に情報が入らなかったのか……。
マーリンは決して情報収集を怠っていたわけではない。
もっとも、危険な任務についているテレーズこそ、最小限の接触しかしないようにし、万が一にもテレーズのやっている工作が発覚した場合には、容赦なく切り捨てられるように、マーリンとはほぼ接触は断たせていた。
しかし、そのテレーズについては、王宮に送り込んでいるタリオの諜報員に見張らせ、その動きを逐一監視させているし、その報告受けも怠っていない。
だから、万が一、テレーズがマーリンを出し抜いて、勝手なことをしようとしても、それができるわけがないのだ。
テレーズのやることは、全部マーリンに報告が入る。
そういう態勢を作っていた。
だが、実際には、これほどのことを王宮のルードルフ王がやっている。
これをテレーズが知らなかったことはあり得ないし、彼女に強いているルードルフ王の寵姫である女官長という立場のテレーズが、事前に関与していないということもないだろう。
つまりは、テレーズは、マーリンの命令を越えて勝手に動き、さらに、テレーズを見張らせている手の者がそれをマーリンに意図的に情報を入れなかったということになる。
とにかく、テレーズについては、ずっとマーリンの手の上で躍らせていたつもりであり、接触を最小限にする反面、彼女の監視は怠っていなかったつもりだった。
最近についても、手段を与えて支配をさせた魔族の女と、百合遊びの悪戯に興じるのが愉しいらしく、人目のないところで、彼女が魔族女を性的にいたぶって悦に嵌まっているということさえ、度々報告を受けていた。
任務のために、男と寝かせたことはかなりあるが、実は女好きの女だったのかと、呆れてもした。
奴隷化しているとはいえ、ずっと感情が読めない不気味さがあったものだから、彼女の好色の一面に接して安堵もしていた。
この程度の女なのかと、蔑む気持ちにもなった。
そういう評価のテレーズが、マーリンの手から勝手におりて、マーリンの想像を越えた行動をすることは予想していなかった。
だが、実際には、マーリンが事前に把握することなしに、二公爵の処刑などということが行われている。
事前に情報は入っていない。
それどころか、マーリンが城郭にばらまいている諜報員の誰もが、積極的にマーリンに報告をするということがなかった。
ありえないことだ……。
だから、マーリンは、自分が関与せずに大きく事態が変化したということよりも、マーリンに対する情報が遮断されたということの方が気になった。
マーリンがアーサーから指示をされているのは、タリオ公国が全力をもって、カロリックに動くあいだ、万が一にもハロンドール王国にそれに対応させないようにすることだ。
大国であるハロンドール王国については、アーサーがハロンドール王国から妃をもらって同盟関係を作っているが、実はカロリックとハロンドール王国もそれなりに友好関係を作っている。
古く歴史のある国なので、王族に限らず、力を持つ上級貴族たちがタリオ、カロリック、デセオなどと複雑に親族関係や婚姻関係を持っているのだ。
アーサーの狙いは、カロリックに軍事行動を起こす場合に、ハロンドール側の勢力が万が一にも、カロリック側につかれないようにすることだ。
マーリンからすれば、あの愚王が、三公国の騒乱に積極的に対応して機先を制するような真似をできるとは想像もできないのだが、アーサーは自分が考えるほどのことくらいであれば、他人も当然に思考するであろうと判断する傾向がある。
少なくとも、そういう思考過程で準備する。
だからこその、今回のハロンドール工作だ。
マーリンからすれば、こんなことまで心配する必要がないと思うが、アーサーの頭の働きには、マーリンもかなわない。
それに、王国そのものが動かなくても、目先の利いた王国内の大貴族が三公国関与に動くこともあり得る。
だから、こっちで騒動を起こす……。
少なくとも、国外についてなど、意識を向けることができない程度のことを謀略によって発生させる。
これがマーリンに対するアーサーの指示だ。
もっとも、今回のことは、アーサーの私怨が含まれている気がする。
なにしろ、アーサーからは、先回の王国訪問で恥をかかされたらしいロウを必ず陥れよとか、権力の場から遠ざけろという指示が入っていたからだ。
まあ、女にもてはやされるのが当たり前で、女から振られたことのないアーサーなのだが、ハロンドールの王太女や姉の王女が、アーサーには見向きもせずに、ロウに首ったけだったのが相当に気に入らなかったみたいだ。
アーサーは周囲に緘口令を敷いていたみたいだが、やっとそういう裏事情もマーリンの耳に入って来ていた。
いずれにしても、マーリンとしては、指示されたことをするだけだ。
そういう意味では、そもそも、二公爵の処刑は問題ない。
マーリンの役目は、この国がしばらく国外に関与できないような騒乱を起こすことだからだ。
二公爵については、もう少し使いたかったというところもあるが、あまりに愚物すぎて、長く使える感じではなかった。
動き回る道化としては愉快だったが、あれでは反乱の真似事を起こさせようにも、あんなのについてくる者はいない。
あのふたりは、自分たちこそ王に相応しい大物だと考えていたふしがあるが、あれはどう見ても人の上に立つ器ではない。
もう少し使いたかった気もするが、処断されるのは問題ではない。
王都に混乱を作ってくれるのに十分に役立った。
また、スクルズという女神殿長の処刑──。
これはマーリンの考えていた工作の可能性から完全に外れていた。
彼女のように、王国でも貴賤を問わない人気があり、しかも、調べる限り、まったく権力に興味がなくて無害に近く、さらに王国にとって、非常に大切な存在のはずの上級魔道遣いを呆気なく処刑させてしまう工作など考えられるわけもない。
そもそも、神殿の神官というのは、俗世である国王の権力に属するものではなく、国境を跨ぐティタン教団からその立場を与えられている存在だ。
それを勝手に、しかも、王都大神殿の神殿長ほどの者を理不尽に殺してしまうなど、ルードルフ自身が教団から破門をされてもおかしくない愚挙だ。
マーリンの価値観では、絶対にやってはならない愚行である。
だが、実際にはそうなった。
マーリンが受けた情報によれば、ルードルフ王は、およそ最悪のやり方で、あのスクルズを処刑したようだ。
しかも、その一部始終を記録した『映録球』を大量に王都の市民にばらまかれて、大暴動が起きかけたのだという。
もっとも、その暴動は晒されたスクルズの死体が突如として昇天し、天空神の使徒に迎えられて天界に向かった「奇跡」が起こり、その光景に度肝を抜かれて、とりあえず、暴動は収まってしまったという。
なんとも、ばかばかしくも信じられない結末だが、情報が錯綜して混乱が起きているということに違いない。
天空に昇天など……。
とにかく、慮外の出来事とはいえ、市民により暴動など、マーリンに任されている王国工作の手段としては、かなり効果的な結果だ。
王都では国王以上の嫌われ者である二公爵を強引に旗頭にさせて、この国の貴族を分裂させるというやり方よりも、ずっと精錬されているといっていい。
今回は大暴動には終わらなかったが、一度乱れた治安はなかなか回復させるのは難しい。
王都の物価高による不満はまだまだ続いているし、これからはちょっとしたことでも、この王都内では民衆による暴乱が起こっていくだろう。
いい傾向だし、マーリンの仕事はずっとやりやすくなると思う。
しかし、唯一気に入らないのが、それらがマーリンの預かり知らぬところで、やられたことだということだ。
さらに、愉快でないのは、その情報がマーリンに入るのにこれほどの時間が経っていたということだ。
王都中央で起きた大騒動の情報が、その日の夜遅くまでマーリンに入らない?
あり得ない……。
愉快でないどころではない……。
大きな問題だ……。
なぜ、マーリンに情報が入らなかった……?
なぜ、マーリンの作った諜報網が機能しなかった……?
どうしても納得できなくて、マーリンは珍しくも、自ら動いて、本来、マーリンに情報を入れるためにすぐに動くべき者たちに接触した。
考えたのは、意図的に彼らがマーリンに対して、報告を遅延するように動いた可能性だ。
そんなことをする理由もないし、それそのものがあり得ないことだと認識しているが、マーリンは慎重な性質だ。
なにか気になることがあれば、絶対に確認しなくては気が済まない。
マーリンが知らないところで、なにかの操り術をかけられていることさえ、想像した。
そして、わかった。
マーリンが調べた限り、彼らのいずれもが、操り術を掛けられていたということはなかった。
ただ、わかったのは、彼らの意思で意図的に情報を遅らせたということだ。
理由もない。
ただの怠情だ。
しかも、ひとりではない。
マーリンが接触した工作員は、ことごとくが怠情の心に襲われていた。
いままでは、マーリンの性格もあり、小さなことでも逐一報告していたのに、なぜか、今回については、急いで情報をマーリンに入れる必要がないと考えてしまった。
全員が一度にだ……。
そんなことがあり得るか?
そして、それを考えたとき、マーリンはひとりの人間のことを思い浮かべた。
テレーズ……。
彼女の扱う闇魔道は特別だ。
心を操るのではなく、感情を動かすのだ。
しかも、無理矢理ではなく、心の中に浮かんだ闇をごく自然に大きくして、テレーズの望む感情側に他人の心を傾けるのである。
魔道ではあるのだが、自然な感情変化を土台にしているだけ、非常に魔道の影響がわかり難い。
マーリンに情報を入れなかった工作員が陥っていた状況を説明するには、マーリンが知る限り、テレーズによる感情操作が行われていると考えるのが、もっともうまく説明がつく。
しかし、まさか、テレーズが裏切っている……?
いまの時点では、裏切りともいえるものではないが、マーリンの知らぬところでテレーズがなんらかの動きをしている?
なんのために?
どうして?
そもそも、テレーズはマーリンに隷属されている「奴隷」だ。
マーリンの命令のとおりにしか動くことのできない「人形」でしかない。
そういうように暗示をかけているし、徹底的に命令をテレーズの身体に刻み込んでいる。
だが、工作員が受けていた影響……。
マーリンは闇魔道は使えないので、テレーズの闇魔道が工作員たちに浸透していたのかどうかを直接に図る手段はない。
闇魔道というのは、それほどに一般には知られていない魔道だ。
しかし、諜報員が一斉に怠慢を起こしたことに対する合理的な説明……。
テレーズの闇魔道が関与したとしか、うまく説明がつかない。
……とはいっても、テレーズがマーリンに意図的に逆らっているということもあり得ない。
しかし、ほかのすべての可能性が排除できるのであれば、残った唯一のものが真実と考えるしかないのかもしれない……。
テレーズ……。
あいつが、マーリンに逆らう……?
それがあり得る……?
マーリンは困惑している。
テレーズか……。
彼女がマーリンを出し抜いて、なにかをやろうとしているかもしれないと考えたとき、そもそも、マーリンはテレーズが裏切る可能性があるかどうかを判断できる知識がないことに気がついた。
よく考えれば、マーリンはテレーズのことをほとんど知らないのだ。
興味がなかったと言っていい。
なにしろ、あれは単なる道具だ。
道具が裏切るかどうかなど、どうして考える必要がある。
テレーズか……。
マーリンは改めて、彼女のことを記憶から呼び起こした。
そもそも、テレーズというのは本来の名前ですらない。
今回の任務がこの国の女伯爵のテレーズ=ラポルタと入れ替わることだったので、マーリンが命令して、テレーズと名付けたのだ。
姿形についても、特殊な魔石の魔道具で四十過ぎの女伯爵に変えさせた。
もともとの姿は、もっと若かった気もするが、マーリンは彼女の名前同様に、ほとんど覚えていない。
あの女は道端で拾ったのだ。
ただの石ころだ。
マーリンは、それ以上の感情を彼女に対して持っていない。
あの女を拾ったときのことを、マーリンはぼんやりとしか覚えていなかった。
確か、行き倒れの女だったと思う。
場所はどこだったか……。
どこかの山の中だったと思うが、三公国のどこか……? それとも、ナタル森林? どうしても思い出せない。
もしかしたら、名を覚えていないのは。そもそも名乗ってないからではないか? 訊ねたことすらなかったのは間違いないだろう。
とにかく、かろうじて記憶にあるのは、その女が死にかけていたということだ。怪我をしているということではなかった。
ただ、衰弱していた。
おそらく、数日は食事もしていなかったと思う。
マーリンの見たところ、飢えて判断力がなくなり、毒のある草か、果実、あるいは、茸の類いのでも口にしたのだと思う。
いずれにしても、マーリンは、その女に自分に仕えるのであれば、助けてやってもいいという意味のことを喋った気がする。
マーリンとしては、その女が生きようが死のうが、どうでもいいことだったが、なぜか、そのときには、ほんの気まぐれが起きたのだ。
あのとき、その女は応諾した。
……というよりも、本当に死にかけていて、まともに思考する能力を失っていたのだと思う。
呆気ないくらいに、女はマーリンの隷属魔道を受け入れた。
これが最初だった。
そして、その女は、とんだ拾いものだった。
驚くことに、彼女は魔道遣いだったのだ。
しかも、マーリンですら伝承でしか接したことのない「闇魔道遣い」だという。
最初は信じられなかったが、すでに隷属してたので、絶対に嘘をつくなと命令して喋らせた。
少なくとも、彼女自身は、自分が闇魔道師だと信じているということは確かだ。
なにができるのかと問うと、他人の悪心を操り、それ増幅して、感情を操れると説明した。
考えてみれば、マーリンが彼女について興味を抱いた唯一のことがそれだっただろう。
これ以降は、道具として使う者と、その道具との関係だ。
意外だったが、彼女は闇魔道師という特殊な技能を持っているだけではなく、なぜか諜報員がやるような裏工作の知識と技術もあり、かなり重宝な存在だった。
たまたま拾った路傍の石だっただけに、マーリンも気にすることなく、どんどんと危険な任務に彼女を使った。
使い捨て同様に、敵対組織に放り込んだことは、一度や二度じゃない。
その都度、彼女は持ち前の闇魔道を駆使して、任務を遂行して、マーリンのところに戻ってきた。
非常に便利な道具だった。
そのテレーズがマーリンを出し抜いている?
あり得ないと思うとともに、ならば「処分」すべきなのだろうなと思った。
しかし、処分をする前に、幾つか確かめなければならないことがある。
また、そもそも、テレーズには、王宮に入っていた魔族女を真名で支配して、隷属をさせている。
魔族に接するなど危険極まりないことなので、マーリンは直接に魔族女に接するのは避けていたが、テレーズを処断するとすれば、先に魔族女の隷属をマーリンに移す必要がある。
隷属の支配は、特に条件付けをしていない限り、主人側が死んだ瞬間に、隷属が解消される。
テレーズを殺すということは、いいように使い続けてきた魔族女が自由になるということであり、その恨みをマーリンを含めたタリオ公国に向けてくることは間違いない。
テレーズを処分する前に、魔族女をマーリンが支配する。
まずこれをしなければ……。
幸いにも、確か、サキという通称名だったと思うが、サキはテレーズから破廉恥ないたずらを受けて、嬌声を出してよがるような情けない女魔族でもある。
そんなものを過敏に恐れる必要もないようだし、次は直接にマーリンが支配してやろうと考えた。
マーリンは夜中に、薬師の家を発った。
テレーズがいるのは、王都ハロルドの中心にある王宮施設の中でも、後宮と呼ばれている正殿に隣接する離宮殿だ。
王宮そのものの警備は厳重だが、入り込んだタリオの手の者が警戒を無効化しているので、忍び込むのは容易だった。
マーリン自身が侵入するのは初めてだが、テレーズがいる寝室まで迷うことなく進む。
これまでのたくさんの報告から、マーリンはこの王宮内のほとんどの構造を頭に叩き込んでいる。
当然に、テレーズが休む部屋も知っている。
最初の頃は、寵姫としてルードルフ王と閨を共にしていたが、このところは、国王が不能になったということで、夜は遠ざけられているようだ。
国王にその手の毒を盛って、射精を統制しているのはテレーズであり、それにより、彼女は王の心の悪心を発生させて、闇魔道で支配することに成功した。
これについては、テレーズから報告を受けている。
マーリンが部屋に入ると、テレーズは寝台の上で起きていて、灯台の光の中に出現したマーリンに、弾かれたように短剣を向けた。
「どうした、俺だ」
「マ、マーリン様……」
テレーズは短剣をおろした。
「刃物をおろす必要はない。立って壁まで動け。短剣の刃は自分の喉に向けろ。毒が塗ってあるのだろう? 掠っただけで死ねるぞ」
マーリンは言って、立ちあがったテレーズと入れ替わるように、寝台に座る。
自分の喉に短剣を向けるテレーズが口を開く。
ただ、表情は読めない。
相変わらずの無表情だ。
改めて接すると、マーリンはテレーズに馬鹿にされている気がした。
「どうしたのです? こんなことをしなくても、あなたには逆らえませんよ。隷属の魔道を刻まれているんですから……。殺したいのなら、そう命令すればいい。刃物を向ける脅迫は無意味です」
「そうかもしれんのう。まあ、訊きたいことがあるのだ……。まずは、訊問のあいだ、お前を拘束させてもらう。わしはとても用心深くてな……」
さすがに、テレーズが焦ったような顔になる。
テレーズは薄い夜着をまとっていた。
その下には下着は身に着けていないようだ。
立たせると桃色の乳房や股間の陰毛までが薄っすらと透けて見える。
「よく見れば、なかなかに欲情を誘うような女なのだな。わしがあと十年も若ければ、興味を抱いたかもしれん」
マーリンはほくそ笑んだ。
一方で、内心の半分で驚いていた。
自分自身がこんな下劣な物言いをするということが意外だったのだ。
しかし、なぜか、この女に対する嗜虐欲が沸き起こっている。
もしかしたら、マーリンを裏切ったかもしれない目の前の女を下劣に辱めるということをしたくなった。
「だったら、折角の隷属の支配ですから、手を出してらどうですか?」
テレーズが自分の喉に刃物を向けながら口の端だけで笑った気がした。
いや、実際にはテレーズの表情などほとんど動かなかった。
しかし、マーリンには、テレーズの顔に浮かんだ、マーリンへの侮蔑をはっきりと感じたのだ。
やはり、この女は、限りなく“黒”に近い。
「誘っておるのか?」
「まさか……。ただ、命令をされれば、相手をすること以外にはなにもできなせんし。あなたが、あたしに女を感じているような目をしたのが意外だったものですから」
「わしのような老いぼれには、お前の女としての部分には興味はない」
マーリンは吐き捨てた。
そして、収納術によって亜空間にしまっていたものの中から、小さな平たい金属の缶に入っている油剤を出して、テレーズに投げた。
「刃物を床に置いて、右手の人差し指を尻の穴に、左の人差し指を股間に付け根まで挿せ。命令だ……。これを使うといい。わしの店で売っている媚剤だ。普通の薬草もいいが、こういうものも需要があるでな。幾らか作っておる」
「なっ」
さすがにテレーズが顔色を変えて、鼻白むのがわかった。
マーリンは、沸き起こった嗜虐欲が刺激されるのを感じた。
「心配するな。手は出さん。ただ、男であれ、女であれ、下手に縄や枷で拘束するよりも、尻穴に指を入れさせるのが効率的だ。どんな武辺者でも、尻穴に指を入れたままではすぐに動けんでな。女の場合は、さらに前の穴にも指を入れさせる。媚薬で欲情させられたままでは気が集中できんから、魔道も遣えなくなる……。さっさとやれ……。命令だ……」
マーリンは言った。
テレーズが媚薬を拾い、恥辱のせいか、怒りのせいなのかはわからないが、彼女にしては珍しくも感情を露わにした真っ赤な顔で命令に従って動き出す。
「んっ、んくっ……」
そして、寝着の裾をまくって、油剤を塗った指を下着の中に入れ、前後の穴に自分の指を付け根まで挿し込んだ。