※この作品はR-18です。

【2025.9.5コミック発売】異世界で淫魔師ハレム【完結】   作:ドン・ドナシアン

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40  依頼の取り消し

 十本目の触手ペニスが股間から消滅するとともに、股に喰い込んでいた縄もなくなった。

 

 ニーナはすべての気力を使い果たしたような気がした。

 媚薬の火照りと便意の苦痛はすでに限界を遥かに超えている。

 それでも、いまだに絶頂と排便を耐えているのは、トーイのことを想い続けていたからだ。

 

 トーイ……。

 

 もう、決めた。

 

 歌姫などやめる。

 やっと、はっきりと決心した。

 王都における華やかな生活と唄の世界などどうでもいい……。

 

 トーイのところに帰るのだ。

 そして、あの懐かしい宿屋で……。

 

 いまなら戻れる──。

 ドルニカ夫人によって淫らに調教されてしまったニーナだが、まだ、「男」はトーイしか知らない。

 

 汚れていない……。

 もう、王都には戻らない……。

 いまなら……。

 その想いだけで耐え続けていた。

 

「なんて美しい姿なのかしらね──。やっぱり、可愛い女が絶望の苦痛に顔をしかめるのはいいわねえ──。強烈な媚薬とさらに強烈な排便欲を我慢するのはどんな気持ち、歌姫さん?」

 

「でも、さすがは王都の歌姫だけあるわ……。最初の障害を耐えるとは思わなかったもの」

 

「これもドルニカの調教の成果かしら……」

 

 ドルニカ夫人の女友達たちが笑いさざめく。

 

「ほほほ、確かに頑張ったわね。わたしの躾けた雌犬だから、このくらいは耐えると思ったけどね。さあ、次の障害よ──。厠はあとふたつの障害の後よ」

 

 ドルニカ夫人も愉しそうに笑った。

 そして、歩き始める。

 三人の女友達たちがそれに続き、ニーナは重い首枷のままその後を追った。

 肛門からはいまにも抽入された大量の薬液が飛び出しそうだ。

 

 だが、ニーナが排便した瞬間に、薬物で勃起させられている五人の男奴隷にニーナを犯させると言われている。

 その五人は、血に飢えた獣のような息遣いと血走った目つきのまま、ほとんど裸身のニーナを取り囲んでいた。彼らの性器からは先走りの精液が垂れ落ちていて、その臭気がニーナを追い詰める。

 ドルニカ夫人の言葉によれば、ニーナの身体は服用している避妊薬の効果を取り消されて、逆に妊娠しやすい状態に変えられているはずだ。さらに、ニーナを囲んで歩いている全裸の奴隷男たちもまた、女を孕ませ易いように特別に精を濃くしているのだという。

 それをニーナにけしかけるというのだ。

 

 ドルニカ夫人は、「調教」に関しては嘘は言わない。

 彼女が「やる」といえば、絶対に「やる」のだ。

 

 ニーナが浣腸に敗北して糞便を巻き散らせば、ドルニカ夫人は容赦なく、男奴隷たちにニーナを犯す許可を与えるだろう──。

 

 ニーナは男奴隷の子を宿すかもしれない。

 いや、ドルニカ夫人は、ニーナがトーイのことを諦めざるを得なくなるために、意図的にそうするつもりなのだ。

 恐怖した。

 そうなれば、もう、トーイのところに戻るのは絶対に不可能になる。

 

 トーイのところに……。

 

「ふたつめの障害は鞭の林よ。左右に五十人の家人たちがいるわ。そのあいだを通り抜けなさい」

 

 ドルニカ夫人がそう言って振り返った。

 ニーナは顔をあげた。

 眼の前には両手間隔くらいに離れたたくさんの男の家人が、人による道を作っている。彼らの全員が乗馬用の鞭を持っていた。

 

「ああ……」

 

 ニーナは声をあげた。

 

 だが、進むしかない。

 さもなくば、男奴隷たちに孕ませられて、トーイのところに戻れない身体にされる……。

 

 絶望感がニーナを覆い尽くそうしていた。

 もう余力はない……。

 強烈な波が来る……。

 最初の障害を終えることができたのは、たまたま便意が引き潮だったからだ。

 しかし、もうすぐ便意の潮がまた満ちる……。

 ニーナはドルニカ夫人が集めた男の家人たちの鞭のあいだを進み始めた。

 

「あぐっ」

 

 尻たぶに最初の鞭が喰い込んだ。

 ニーナは歯を食い縛って耐えた。

 だが、反対側から乳房の上にまともに鞭が襲ってきた。

 ニーナは身体を竦ませて、腰を落としかけてしまった。

 

 身体がぐらつく。

 懸命に堪えた。

 倒れれば終わりだ。

 ひとりでは立ちあがることのできない首枷の重みだ。

 おそらくドルニカ夫人は、もしもニーナが倒れて自力で起きあがれなくなれば、ニーナがそこで糞便をするまで放置するに決まっている。

 ニーナは脚を踏ん張りながら一生懸命に足を進める。

 

 前に進むしかない。

 だが、残酷な重みの猛威を振るっている首枷は、ニーナに足速に進むことを許さない。

 ニーナは左右に首枷が揺れるのを防ぐだけで精一杯だ。

 そこに左右の鞭が喰い込む──。

 避けることも許されない。

 そんな動きをすれば、首枷のバランスが失われて身体が倒れるのだ。

 

 太腿に鞭が襲う──。

 

 次は脇腹──。

 

 腿──。

 

 そして、胸──。

 

 後ろからも──。

 

「力の限り打つのよ──。手を抜いているのがわかれば、懲罰部屋行きだからね」

 

 ドルニカ夫人が家人たちの後ろから愉快そうに声をかけ続けている。だから、家人たちも必死だ。

 懲罰部屋というのは、この別宅にも、王都の屋敷にもある地下牢のことだ。ニーナは入れられたことはないが、その暗い地下牢の恐ろしさは、よく耳にする。

 

 打擲が続く。

 しかし、ニーナはだんだんと鞭の痛みにも慣れてきた気がした。

 「痛み」には耐えられる……。

 それがわかった。

 むしろ、激しい媚薬の火照りに襲われているニーナには心地よい刺激だ。

 早く──。

 ニーナは自分に言い聞かせながら、重い足を引きずって進んだ。

 途切れることなく襲いかかっていた鞭の林がやっと終わった。

 

「二つ目も終わりね……。じゃあ、最後の障害よ。これが終われば、厠の場所に連れていくわ」

 

 息もたえだえのニーナにドルニカ夫人が声をかけてきた。

 今度は前庭に流れている小さな小川がそこにあった。

 幅は人の片腕ほどあり、さっきのようにドルニカ夫人の大勢の家人が人の道を作っている。

 ただ、さっきとの違いは、男の家人たちではなく、そこにいたのは女の家人だということだ。

 しかも、鞭ではなく細く長い棒の先に柔らかそうな鳥の羽根を持っている。

 

「川を跨いで進みなさい、ニーナ──。小川の水に足が触れたら失敗とするわ。そうなれば、最初の触手ペニスの縄からやり直しよ」

 

「お、お慈悲を……」

 

 ニーナは無駄だとわかっている哀願をした。

 しかし、戻ってきたのは容赦のないドルニカ夫人と三人の女友達の嘲笑だけだ。

 仕方なくニーナは最後の「障害」を進み始めた。

 

 だが、それは怖ろしい責め苦だということがすぐにわかった。

 激しい鞭責めで敏感になりすぎている身体に与えられる羽根の刺激は、気の狂うようなくすぐったさをニーナにもたらしたのだ。

 

 しかも、強烈な薬物で熟れきっている身体だ。

 腋の下や股間そのものを這いまわる羽根は、限界に陥っているニーナの身体をさらに快感で追い詰める。

 そして、必死に力を入れている肛門の筋肉を緩めようとさせる。

 

「ひゃあ、ひゃははは──や、やめて──もう、もう許して──か、かんにん──ひゃははは──」

 

 ニーナはいてもたってもいられないような感覚に襲われながら悲鳴をあげ続けた。

 それでも歩みはやめない。

 肛門の筋肉も必死に締め続けている。

 

 もう、止まれば終わりだ──。

 ニーナにそれがわかっていた。

 もう一度でも歩くのをやめれば、二度と歩けない……。

 

 便意も身体の火照りも、首枷の重みに耐えるのも、いまのが最後の気力だ。

 羽根が全身を襲い続ける。

 

 そして、小川を跨ぐために開いているニーナの股と尻たぶに羽根の責めが集中し始めた。

 ドルニカ夫人の指示だ。

 しかし、足を閉じることも、羽根を避けることもできないニーナは、ただそれを受け入れるだけだ。

 地獄のような責め苦を受けながら、ただ進んだ。

 汗のために目はかすみ、頭は朦朧とする。

 

 やがて、小川の幅がさらに広くなる場所にやってきた。

 もっと足を拡げなければならない……。

 考えたのはそれだけだ……。

 小川の水に足を触れてしまえば、最初からやり直し……。

 残酷なドルニカ夫人の言葉がニーナの頭をよぎる。

 

「あっ」

 

 そのとき、なにかが足首に当たったと思った。

 

 糸だ──。

 

 見えないくらいの細い糸が、意地悪にも足首の高さに張ってあったと悟ったのは、すっかりと態勢を崩して、小川の中に跪いてしまったときだった。

 ニーナは首枷の重みで、小川に落ちた状態で前屈みになってしまったまま動けなくなっていた。

 

「残念ね、ニーナ──。最初からやり直しよ。じゃあ、触手ペニスの縄の障害の位置に戻りなさい」

 

 ドルニカ夫人が言った。

 ニーナは泣き声をあげてしまった。

 そして、本当の最後の気力も完全に消滅した。

 ニーナの肛門からはついに決壊した大量の糞便が噴き出し始める。

 大量の糞便が小川の中に迸った。

 

「犯せ──」

 

 突然に、女友達のひとりが強く叫んだ。

 

「ひいいいっ、いやあああっ」

 

 いまだに肛門から浣腸液を噴き流しているニーナに男奴隷たちが群がって、小川から引きずり出された。

 首枷を外される。

 最初のひとりが雄叫びをあげながら、ニーナの膣に勃起した性器を突き挿した。

 いまだ、お尻からは汚物が噴き出し続けている。

 ニーナはあまりのことに絶叫した。

 

「男奴隷たちと糞まみれのセックスを愉しんだら、股とお尻にドラクスの薬をたっぷりと塗ってあげるわ、ニーナ──。とても気持ちがいいのだけど、その代わり、強烈な中毒症状ももたらす秘薬よ。それを一日一度、同じ場所に塗ってもらわないと、気が狂うほどの苦しみが襲うわ。だけど、ドラクスの秘薬は、そこらにはない貴重な薬剤よ。わたしから離れれば、お前はそれを貰えなくなり、苦しみ続けるしかないということね」

 

 ドルニカ夫人の狂気のような笑いが辺りに響き渡った。

 だが、ニーナはもうなにも聞いていない。

 

 ただ、糞便を流しながら犯されるというおぞましさと、それ以上に襲いかかる媚薬にただれた股間を抉る男奴隷の肉棒の気持ちよさに、頭が真っ白になった気分を味わっていただけだ。

 

 ニーナの肛門からはまだ糞便が垂れ続けている。

 それを厭わずにニーナを犯す男奴隷の狂喜の声を前に、ニーナの意識は急速に失われていった。

 

 

 *

 

 

 夜が明けた──。

 結局のところ、ニーナはやって来なかった。

 

 一郎はエリカとコゼとともに、早めの朝食を取っていた。

 ニーナにはニーナの予定があるのだろうから、急にやってこられなくなったというのは不自然なことではない。

 

 ニーナは王都でも有名な歌姫だ。

 その歌姫が宿泊しているとなれば、訪ねてくる客もいるかもしれない。

 しかし、トーイを襲った者について調べて、その危険を排除するという依頼の調査経過を訊ねるために、毎日やってくるとニーナは力強く宣言をしていたのだ。

 それがトーイに会いに来るための口実であるというのは、さすがの一郎にもわかる。

 

 ニーナはトーイを強く想っている。

 そのニーナが、毎日やって来ると言ったにもかかわらずに、昨夜は一度も顔を表さなかったということが気になった。

 

「ニーナさんを迎えに行くべきじゃないですか、トーイさん」

 

 朝食を食べていたエリカが、厨房の入口にある椅子に腰かけているトーイに不満そうに声をかけた。

 

「放っておいてくれと言ったはずです──」

 

 戻ってきたのはトーイの不機嫌そうな声だ。

 一郎は肩を竦めた。

 トーイを襲わせたのはニーナの後見人であるドルニカという伯爵夫人であろうという一郎の想像をトーイに話したのは昨夜のことだった。本当は、ニーナとトーイが揃ったところで聞かせるつもりだったが、そのニーナが結局現れなかったので、トーイだけに告げることになった。

 

 予想外だったのは、それを聞いたトーイがまるで動揺しなかったことだ。

 しかも、ニーナは歌姫を続けるために、ドルニカ夫人の後見を受け続けるべきだとはっきりと言ったのだ。

 

 ニーナはドルニカ夫人の「愛人」にされていて、この七年間、性奴隷のように「調教」されるという日々を送っていた。それが、ドルニカ伯爵夫人が、無名の町娘を王都一の「歌姫」にまでのしあげることに対するために求めた代償だったのだ。

 一郎はそう説明した。

 

 そして、おそらく、ニーナはドルニカ夫人に対して、歌姫をやめて、この宿屋に戻りたいと告げたに違いない。それを怒ったドルニカ夫人が、ニーナに隠して密かに送り込んだプロの殺し屋が、トーイを襲った毒遣いの正体だ。

 

 それが真相だと思う。

 しかし、それを教えられたトーイは、怒るでもなく、怖がるでもなく、ただ、納得したようにうなずいただけだ。

 そして、しばらく前に脅迫めいた手紙を送られていたことを一郎たちに教えてくれた。

 一郎もそれを読んだ。

 読んだといっても、実際には一郎は、この世界の文字は読めない。エリカに口に出して読んでもらったのだ。

 それによれば、トーイは脅迫されていたようだ。

 

 ニーナとよりを戻せば、トーイも殺すし、ニーナも殺す──。

 

 それには、そう書いてあった。

 それを送らせたのも、ドルニカ夫人に違いない。字体から女文字のようだとエリカも言っていた。

 トーイが脅されているのではないかと一郎も予想していたが、やはりそうだった。

 

 これで線は繋がった。

 今回の騒動の張本人はドルニカ夫人──。

 

 それに間違いない──。

 

 だが、トーイはむしろ安心したようだった。

 それならば、トーイがニーナを受け入れなければ、すべてはあるべきものに落ち着く。

 ニーナは歌姫を続けられるし、トーイの命が襲われることはない。

 トーイははっきりとそう言ったのだ。

 

「だけど、ニーナさんは、歌姫の地位を捨ててまでトーイさんのところに戻りたいという気持ちを持っているのに──」

 

 エリカはさらに不満そうにトーイに言った。

 ニーナがドルニカ夫人にそう訴えたのではないかというのは一郎の勘だが、それを信じているエリカは、そのニーナの想いに応じようとしないトーイに不平の気持ちを昨日から洩らし続けている。

 エリカには、大切に思っている女性が、女とはいえ、ほかの「恋人」に寝取られていることについて、許容した態度をとっているトーイの気持ちがまったく理解できないでいるようだ。

 

 エリカは、トーイがニーナを好きでないのかと詰め寄った。

 ニーナがトーイのことを想っているのであれば、それに応えればいいとも言った。

 

 ニーナだけでなく、トーイもまた、ニーナことを大切に想っているのは、その態度を見ればわかる。エリカも同じように感じたのだろう。

 

「いいんです──。唄歌いはニーナの夢だったんだ。そして、俺の夢でもある。その夢がかなったんだ──。だったら……」

 

 トーイは頑なそうな表情で首を横に振った。

 

「それでも男なんですか──? ニーナさんは、大切な唄を捨ててまで、あなたとよりを戻したいと思っているみたいなのに──」

 

 エリカがまた言った。

 

「だから、もう、放っておいてくれと言っているだろう、エリカさん──。ニーナは歌姫をやめない──。俺のところには来ない──。それで俺の危険も去る──。それで終わりだ。依頼は完了だろう。もう、口を出さないでくれ──」

 

 トーイが声をあげた。

 

「残念ながら、依頼者はあなたではないわ──。ニーナさんよ。わたしたちは、ニーナさんがどうしたいかという気持ちを尊重するわよ。それがドルニカ夫人を排除して、ニーナさんやトーイさんに加えている圧力を消すことなのであれば、わたしたちは依頼を果たすためにそうするわ」

 

 エリカが強く言った。

 伯爵夫人を排除することなど承知してはいないがな……と一郎は苦笑した。

 だが、エリカは随分と感情的になっているようだ。

 すっかりとドルニカという伯爵夫人からニーナを解放させ、歌姫から一介の宿屋の女に戻るというニーナの希望をかなえるつもりでいるらしい。

 

「そ、そんなことをすれば、ニーナは歌姫でいられなくなるじゃないか──」

 

 トーイが叫んだ。

 

「それがニーナさんの望みなのよ──。それがわからないの──?」

 

「やめろ──。歌姫はニーナの夢なんだ──」

 

「いまはもう違うわ──」

 

「違わない──。とにかく、もう依頼は取り消しだ。すべては解決した。ニーナが歌姫を続ければいいだけの話じゃないか──。依頼はもう終わりだ。俺の危険は排除された」

 

 トーイはきっぱりと言った。

 

「残念ながら依頼人はニーナさんよ。あなたじゃないわ──。あなたの指示には従えないわね。わたしたちは、ドルニカという伯爵夫人と戦って、ニーナさんを解放させる。それをするわ」

 

 エリカが断言した。

 

「落ち着きなさいよ、エリカ……。こんな意気地なしなんて放っておきなさい──。それよりも朝食を食べるわよ」

 

 コゼが声をかけた。

 ドルニカという伯爵夫人が歌姫の代償として、ニーナを「玩具」にしているということについて、コゼはエリカほどの怒りは感じていないようだが、それを許容するトーイについては、エリカと同じように不満ではあるように思う。

 しかし、エリカのように感情を表に露わにしてはいない。

 ただ、ドルニカ夫人の「脅威」と「影響」をニーナから取り除くことは、ニーナと「契約」した依頼の範疇だとは思っているようだ。

 

「だって、コゼ──」

 

 エリカが、またなにかを口にしようとした。

 そのとき、宿屋の前をたくさんの騎馬がやってきた。

 一郎は驚いて顔をあげた。

 

 軍だ──。

 

 前の通りを進んでいるのは、正真正銘の王軍の騎馬隊だ。華やかな兵装からそれがわかる。

 

 なぜ、こんな城郭の外れに──?

 そう思っていると、やがて、宿屋の前に一台の豪華な馬車が停まり、騎馬の一団も動きを止めた。

 どうやら、宿屋の前にいる王軍は、その豪華な馬車の護衛任務を負っているようだ。その証拠に、馬車の後ろにも騎馬隊の一団がいる。

 

 呆気にとられていると、馬車からニーナが降りてきた。

 すぐ後ろに、ひとりの目つきの鋭い女がぴったりとついている。

 

 

 

 “ブルド

  人間族、女

  年齢28歳

  ジョブ

   毒遣い(レベル11)

   魔道遣い(レベル2)

  生命力:50

  攻撃力:170(装備:サイの毒針)

  経験人数:男3、女5

  淫乱レベル:B

  快感値:250(通常)”

 

 

 

 一郎はその女のステータスを魔眼で覗いて愕然とした。

 トーイを襲ったのは、この女だ──。

 一郎は確信した。

 ジョブに毒遣いとある──。

 しかも、レベルは“11”──。

 そこそこの腕だ。

 

 サイの毒という致死性の毒薬でトーイを襲ったのは、このブルドという女に間違いない。

 一郎はしっかりと卓の下で必撃の剣を握った。

 

「あ、あの……。み、皆さん……。わ、わたしの依頼は取り消します……。こ、これは違約金としての金貨です……。ほ、報酬と同じ額です……。こ、これで依頼の解除を……」

 

 ニーナは、たどたどしい口調でゆっくりと語った。

 

 一郎は驚いた。

 その内容にではない。

 ニーナの様子にだ。

 

 眼が虚ろだ。

 しかも、薄っすらと涙が溜まっている。

 そして、息も荒い。

 顔も真っ赤だ。

 よく見ると、身体全体に脂汗のようなものをかいている。

 明らかに異常だ。

 一郎は魔眼でニーナのステータスを覗く。

 

 

 

 “ニーナ

  人間族、女

  年齢20歳

  ジョブ

   唄歌い(レベル40)

  生命力:40

  攻撃力:5↓

  (魔毒による弛緩)

  経験人数:男6、女30

  淫乱レベル:S

  快感値:40↓

  状態

   ドラクス中毒”

 

 

 

 ドラクス中毒──?

 なんだ、それは──?

 しかも、性交の経験人数が増えている。つい先日まで、ニーナの経験数は、女は常識外の人数だったが、男は明らかにトーイひとりだった。

 しかし、たったひと晩で五人も増えている。

 これは……。

 

 そのとき、一郎は、馬車の中に四人の貴婦人が乗っていることに気がついた。

 貴族女だ──。

 すぐにわかった。

 

 王軍騎馬隊も、彼女たちを護衛するために一緒にいるのだと知った。

 一郎はその中のひとりのステータスに注目した。

 

 

 

 “ドルニカ

  人間族、女

   伯爵

  年齢45歳

  ジョブ

   治政力:30

  生命力:50

  攻撃力:20

  経験人数:男10、女15

  淫乱レベル:A

  快感値:500”

 

 

 

 ドルニカ夫人──。

 

 彼女がそうか……。

 そして、はっとした。

 夕べ、ニーナがここに来なかった理由に思い当ったのだ。

 ドルニカ夫人がニーナを連れていったのだ。

 

 そこでニーナを「再調教」した。

 ドラクス中毒というわけのわからない状態も、男の経験数が増えているのも、それで合点がいく。

 ニーナが突然に依頼の解除を申し出たのも……。

 

「こ、これが契約の硬貨です……。さあ、契約解除です……」

 

 ニーナが一枚の硬貨を差し出しながら言った。

 それはエリカが魔道で魔道契約を施す証として相互に持つことを促した効果だ。

 もう片方は一郎が持っている。

 内ポケットにあるそれが反応した気がした。

 一郎はそれを出してみた。

 別になんの変哲もない。

 

「……け、契約は解除されました……。依頼人の正式な取り消しにより、それは成されました。違約金の支払いにより、魔道契約の解除が成立したのです……」

 

 エリカが呆気にとられた口調で言った。

 突然の事態の変化に、エリカだけでなく、コゼもびっくりしている。

 

「……トーイ……。さようなら……。もう、二度と来ない……。そ、そして、ごめんなさい……。いろいろと……」

 

 ニーナはトーイの顔を見ずに言った。

 そして、馬車に戻っていく。

 一郎はなにもすることができなかった。

 強引にニーナを連れ戻すのは不可能だ。

 王軍の騎馬隊がいる。

 暴れたとしても、一郎たち三人が殺されるか捕えられるかするのに、いくらもかからないだろう。

 

「ニ、ニーナ──?」

 

 トーイが大きな声をあげた。

 だが、そのときには、すでにニーナはドルニカ夫人のいる馬車へ乗り込んでいる。

 馬車はすぐに動き始めた。

 

 あっという間の出来事だった──。

 

 

 *

 

 

「ああ……。ド、ドルニカ様……く、薬を……薬をください……」

 

 馬車が動き始めた途端に、ニーナが馬車の床に跪いて叫んだ。

 このあいだのような四人掛けの小さな馬車ではない。八人乗りの大きな馬車だ。

 王都までの道中で、たっぷりとニーナを辱めるために、特別に準備した馬車だ

 ニーナが苦しそうに呻いている。

 

「ほほほ、さっそく、ドラクス中毒が始まったわね……。もっと、もっと苦しくなるわよ──。一度侵されたら最後、二度とは消滅させることのできないドラクスの毒よ──。しばらく、薬が途切れる苦しみを味わうといいわ、ニーナ──。そして、わたしから離れられなくなったということを思い知るのよ」

 

 ドルニカは笑った。

 ニーナが引きつったような声をあげた。

 夕べに塗ったドラクスの薬物中毒がさっそくニーナを苦しめ始めたのは明白だ。

 ニーナには繰り返し、あの魔毒を股間と尻穴にたっぷりと塗ってやった。

 これで日に一度以上、同じ薬をそこに塗らないと、死ぬよりも苦しい中毒症状にニーナは襲われることになる。

 だが、ドラクスの魔毒は、ブルドが特別に調合した秘薬だ。

 ほかには存在しない。

 だから、ニーナはドルニカから去ることが不可能だ。

 

「ああ、もう、思い知っています──。命じられたとおりに、依頼も取り消しました。トーイにも別れの言葉を言いました──。も、もう、意地悪しないで──」

 

 ニーナが泣き叫んだ。

 ドラクスの中毒は本当に苦しいらしい。

 試しに奴隷女に使って放っておいたら、本当に三日で狂死したと教えられた。

 そんなに怖ろしい魔毒なのだ。

 

「だったら、そこにいる男奴隷の精をまた受けなさい──。そうしたら、ドルニカに薬を与えてあげるように頼んであげるわ」

 

 女友達のひとりが愉快そうに言った。

 最後尾の座席に男奴隷をひとり積んでいる。

 股間を剥き出しにさせていて、その性器は勃起状態だ。

 

「そうね……。孕ませてくれと言いながら、その男奴隷の一物を股で咥えなさい。トーイとかいう男にもう未練がないという証にね──。できるだけ卑猥な言葉を叫びなさい。卑しい町娘らしくね」

 

「は、はい……。お、犯してもらいます……。孕みます。その代わり、もうトーイには……」

 

 ニーナが泣きそうな顔で、後ろに這い進んで言った。

 トーイを毒で殺すことを命じたのは、ほかでもないこのドルニカであることをニーナに教えた。

 

 ニーナは愕然としていた。

 そして、トーイにもう手を出さないことを条件に、ドルニカの命令には二度と逆らわないことを誓った。

 ドラクスの魔毒の苦しみか、それとも、トーイの命を守ることのどちらが、ニーナを突き動かしているのかわからない。

 しかし、ニーナはもうなんの躊躇いの様子もなく、男奴隷の股間に跨った。

 ニーナには下着をつけさせていない。

 

 ドラクスの魔毒は媚薬でもある。

 すでに股間は愛液でびっしょりだったに違いない。

 ニーナの膣は抵抗なく男奴隷の性器を受け入れた。

 

「は、孕まして、お願い──。おお、孕まして──おおっ、き、気持ちいい──あああっ」

 

 ニーナが感極まったような声をあげた。

 ドルニカと三人の女友達は、人が変わったような歌姫の姿に、しばらくのあいだ大きな声で笑い続けた。

 

 

 

 

(第7話『歌姫と幼馴染』終わり、第8話『女伯爵と寝取られ男』に続く)

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