※この作品はR-18です。

【2025.9.5コミック発売】異世界で淫魔師ハレム【完結】   作:ドン・ドナシアン

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403 四人組の崩壊

 サキは、王宮から会合場所に指定した監獄塔の最上階に跳躍した。

 アネルザのために準備した調度品の類いがそのままに置いてある。

 たったいま伝言球を送ったばかりであるし、当然ながら、まだ向こうは来ていない。

 まあ、呼び出してすぐに準備ができるということはないだろう。

 

 サキは、待っている間に酒でも飲もうかと思って、最初の日に持ち込んだ木箱を探った。箱の中身は値打ち物の火酒であり、かなりの数があったはずなのだが、どれもこれも空瓶ばかりだ。

 半年分くらいあると思っていたのに、全部飲み干したのか?

 呆れながら、仮想空間から手持ちの酒を取り出して、柔らかい背もたれ付きの椅子に座り込んだ。

 

 だが、すぐに目の前の空間に揺らぎが生じた。

 転送術の出口が発生しようとしているのだ。

 果たして、そこからミランダとベルズが現われた。

 

「おう、存外早かったな。やって来るのに半日はかかると思っていたぞ」

 

 サキは口に仕掛けていた酒瓶を置いて、ふたりに向き直った。

 

「サキ、あんた、なにを考えているのよ。罪もない貴族の妻女や子女を集めて、王宮に監禁なんて、どういうつもりよ──」

 

 すると、いきなり、ミランダが怒鳴ってきた。

 サキはむっとした。

 

「なんだと──。わしに言っておるのか──」

 

 立ちあがって怒声を浴びせたが、ミランダも険しい顔をして睨み返してきた。

 サキはぶん殴りたい衝動をぐっと耐える。

 さすがに、ロウの女を殴るわけにはいかない。

 そんなことをすれば、ロウが激怒する。

 

「あんたに言っているのよ、サキ──。とにかく、やり過ぎよ。すぐに解放しなさい。罪もない貴族の子女を集めて、噂じゃあ性奴隷調教をしているって話じゃない。まさか、本当じゃないでしょうねえ」

 

 ミランダが声をあげる。

 サキはにやりと笑った。

 

「ほう、もう伝わっておるのか? まあ、確かにやっておるがな。心配するな。ちゃんと仕上げてみせるぞ。主殿(しゅどの)に喜んでもらえるような奴隷ハレムを準備しようと思ってな。なにしろ、わしの主殿がついに、この国の王になるのだ。それに相応しい奴隷宮も準備せんとな」

 

「はあ──? なに言ってるのよ、サキ──。そんな勝手なことをすれば、ロウは激怒するわよ。あいつは、そういうことが一番嫌いなんだから」

 

「お前こそ、なにを言っておる、ミランダ。主殿が好色なことは、お前も知っておるだろう。主殿は喜ぶに決まっておる。だが、主殿に褒められるのはわしだぞ。これは主殿への贈り物なのだ」

 

「は、話にならないわねえ──。いい、サキ──」

 

 ミランダがさらに激怒した感じで詰め寄ってきた。

 しかし、話にならないと感じているのはこっちだ。

 こいつはなにをそんなに怒っているのだろう。

 確かに人間族の貴族女を集めたが、殺したわけでもないし、多少は鞭打ちもしたが、それは調教の一環であり、無茶はさせていない。

 すぐに回復もさせている。ちゃんとした食事もさせている。

 そんなに怒られるいわれはない。

 

「待て、そっちは後にしよう、ミランダ。こっちの方が問題だ」

 

 そのとき、横のベルズが口を挟んだ。

 このベルズについては、サキもあまり面識はない。

 ロウ主催の「破廉恥祭り」で会うくらいで、女神官だが頻繁にはロウのところにも来ないみたいだ。

 愛人集団の中では、一線を敷いた付き合いをずっと守っている不思議な女だ。

 ただ、魔道力は高い。

 スクルズ、いや、スクルドには敵わないが、人間族にしては別格だろう。

 

「サキ殿、まず、訊ねたいが、わたしは、ミランダから、アネルザたちと企てたこの叛乱の行く末は、最終的にはルードルフ王を退位させることと聞いている。そのために動いてるとな。それに間違いないか?」

 

「まあ、そうじゃな。基本的にはそうだ」

 

 サキは頷いた。

 そういう風に約束し、お互いにここで、義姉妹の誓いまでした。

 

「基本的に? じゃあ、退位させることが目的でいいのだな?」

 

「そうだと言っておる。しつこいのう」

 

「ああ、全員がその認識と聞いていた。王妃殿からの手紙も受け取り、それによれば、少なくとも、アネルザ殿下は辺境侯を中心に主要貴族が結託し、一斉に退位要求を付けつけてくれって呼び掛けたと言っていた。もう一度言うけど、退位要求だ──。辺境侯もそれで動いていたはずだ」

 

「うるさいのう。まず、なにを怒っておるのか言え。細かいことは知らん」

 

「ところが、わたしが昨日から通信球で各地の領主とやり取りをしてわかったけど、辺境侯は、退位要求ではなく、叛乱を起こすという檄文に変えて、軍の結集を呼び掛けているそうだ。退位要求ではなく、叛乱軍への参加の呼びかけに変わったのだ。そして、辺境侯のところに通信球を送って確かめたら、そなたの眷属が……チャルタだっけ……彼女が向こうにいるそうだな。つまりは、そなた、これに関わっているな?」

 

「退位要求、退位要求とうるさいのう? だから、王を退位させて、主殿を王にするのだろう? そういう企てだ。わかっておる」

 

 サキは言った。

 確かに、チャルタを少し前に辺境侯とやらに送り込んだ。

 しかし、テレーズのことがあったので、指示はラポルタを通じて行った。サキが関わると、テレーズが望むことを汲み取って、それに基づく指示を与えることになるからだ。

 そういえば、ラポルタが、送り込んだチャルタから、事前に与えられた状況と異なり、人間族の辺境候が戦支度をしていないと伝えてきたと告げられた気がする。

 辺境侯は、国王に叛乱はするが、それは貴族たちが一斉に退位要求するという形式であり、戦じゃないらしいと……。

 サキには話がよく理解できなかったが、ぐずぐずせずに、さっさと戦支度をさせろとラポルタを怒鳴りつけた。

 

 とにかく、ロウを旗頭にした叛乱軍を作って、王都に向かって進軍させるのだ。

 そうじゃないと王位の退位などない。

 だいたい、退位要求とはなんだ?

 まだ、負けてないのに、王位を捨てるということか? 

 そんなわけない。

 少なくとも、妖魔族は負けもしないのに、負けは認めない。

 とにかく、戦だ。

 そして、それに王軍を向かわせて、ど派手に王軍を負けさせてやる。

 それで、ロウが新しい王だ。

 チャルタは、辺境侯たちを操って、そうやって動いているはずだ。

 

「わかってない。王になるのはイザベラよ。そう説明したはずじゃない。あんた、もしかして、本当になにかやったの?」

 

 ミランダが声をあげた。

 しかし、いまだもって、なにを怒っているのか、さっぱり理解できない。

 

「だから、あの王太女と主殿がつがいになって王になるのだろうが。そうなるように動かさせた。なにを怒っているのだ。わかるように説明しろ──」

 

 サキも怒鳴り返した。

 

「ねえ、どうしたのよ、サキ? なんで勝手なことばかりをしているの? それとアネルザのこともそうよ。ノールの離宮に追いやったけど、眷属に命令して姫様を含めて全員を足止めしているそうじゃないのよ。すぐにやめなさい──」

 

 ミランダが怒鳴る。

 そういえば、韋駄天族のスカンダをけしかけて、ノールから足止めさせたのだった。

 テレーズもいたし、あいつらに王宮に戻られたら、極めて都合が悪かったからそうしたのだが、もう解消してもいいだろう。

 完全に忘れていた。

 

「そんなこともあったのう。忘れていたがな。スカンダは引きあげさせよう。もう問題ない」

 

「何が問題ないよ。そして、スクルズはどうしたのよ──?」

 

「スクルズ? スクルズって……、いや、これからはスクルドと呼んでくれと言っていたか? あいつがどうした?」

 

 サキはきょとんとした。

 数日前から、スクルズ改め、スクルドは、王宮に隠れている。どうしたと言われても、どうしたというのだ?

 

「しらばっくれないでよ。いくらベルズが呼び出しても、反応がないらしいし、アネルザのことといい、スクルズのことといい、あんたはなにをやってんのよ。今日という今日は、ちゃんと説明してもらうわよ」

 

 ミランダはすごい剣幕だ。

 しかし、サキとしては戸惑うばかりだ。

 一体全体、なにに対して、こんなに腹をたてているのかわからない。

 そりゃあ、アネルザやイザベラのことをノールに足止めしたことについては悪いと思うが……。

 だが、テレーズがいたのだ。

 王都に戻られれば、なにをされるかわからないし、サキもあの状況ではテレーズからか守ってやれなかった。

 サキがテレーズに支配されていることは、漏らすことを禁止されていたし、あれが最善の方法だったのは間違いない。

 テレーズさえも、あのタリオのマーリンとやらに隷属されており、もしも、危害を加えろと指示されれば、そうするしかなかったのだ。

 事情を説明すれば、サキとしては感謝されことすれ、罵倒される筋合いはない。

 だが、スクルドがどうした?

 

「もしかして、テレーズとやらの女狐が関係あるのか? もしや、あいつに脅迫されておるのか?」

 

 ベルズが横から口を挟んだ。

 テレーズから脅迫?

 むっとした。

 あんなものに妖魔将軍の二つ名を持つサキが屈したなどというのは、侮辱もよいところだ。

 しかし、脅迫ではないが、支配されていたことは事実ではあるのだ。

 よく考えると、途端にあの恥辱が蘇ったきた。

 真名で支配されて、あいつのやることに協力させられたことはよい。

 だが、スカートをめくらされ、真名で身動きを禁止させられたうえに、掻痒剤を塗られたり、ひと晩中寸止め自慰を強要されたり……。

 思い出すと、あのときの屈辱で腹が煮え返りそうになる……。

 

「んん? どうした? 先日も子爵家の子供を、テレーズが連行したことがあったな。騎士団から女騎士を後宮に連れ込んだことも……。テレーズが自ら軍を連れてきて、やったと耳にしている。貴族の妻女や子女を集めさせているのは、そなたではなく、テレーズのしていることと考えてよいのか?」

 

 ベルズの声がやや小さなものになる。

 だが、そんなことよりも、テレーズのことは絶対に否定しなければと思った。

 やっぱり、サキともあろうものが、人間族の小者に支配されて、やりたい放題の恥辱を受けていたなどということは、墓場まで持っていくべき秘密だ。

 そもそも、子爵家の子供を後宮に連れ込んだというのは、数日前のことであり、試しに童女の性奴隷を育成できるのかどうかを試すために、テレーズに化けているラポルタに手頃な貴族娘を連れて来させた。

 泣くばかりで快感など受け入れる気配もなかったので、すでに送り返しているが……。

 

 また、騎士団から女騎士を連れてきたというのは、ベアトリーチェのことだろう。

 ルードルフが公爵令嬢のエリザベスを襲ったとき、駆けつけた女だ。

 なかなかに凛々しい感じなのを垣間見て、理由をつけてラポルタに捕縛させて、赤色組に強引に編入させた。

 そこそこ気も強そうだったし、ロウ好みだろう。

 いずれにしても、よく調べていると思った。 

 子爵令嬢のことはともかく、女騎士については王宮内のことだ。

 間者でも入れているのか?

 まあいいが……。

 

「そのテレーズは、わしの眷属だ。わしの命で動いているだけだ」

 

 サキはきっぱりと言った。

 間違いはない……。

 ベルズが言及した二件については、間違いなくサキが命じて、ラポルタにやらせたことだ。

 ラポルタには、変身の術を使って、いなくなったテレーズの代わりを務めさせているのだ。

 すると、ベルズの顔が再び険しいものに変わった。

 ミランダもだ。

 

「だったら話を戻すわよ、サキ。とにかく、マルエダ辺境候について、チャルタにおかしな指示をしたのなら、まずはそれを取り消しなさい。さらに、後宮に集めた女性たちを即刻解散すること──。今後は、わたしたちの指示に従いなさい、サキ──。さもないと、このままじゃあ、この国に大きな内乱が起きてしまう」

 

 そして、ベルズが怒鳴った。

 今度こそ、腹がたった。

 なんという失礼な連中だ。

 

「わしを誰だと思っておるかっ──。お前らの指示に従えとは、なんという限度を越えた無礼だ──。わしに命令できるのは主殿だけだ──。大概にせい──」

 

 サキは激昂した。

 ベルズがたじろいだように数歩さがる。

 すっと、ミランダが庇うように、ベルズの前に出る。

 

「サキ、頭を冷やして──。こんなことをロウが喜ぶわけないでしょう。そもそも、集めた貴族女たちを集団調教しているなんて知れたら、絶対に激怒して……」

 

「やかましい──。そんなわけあるか──。わしのやることは全部主殿のためのことじゃ──。とにかく、もう、わしに連絡してくるな──。いい加減に鬱陶しいわい──。二度と通信球も受けんし、手紙も受け取らん。とにかく、主殿を王にすればよいのだろう。わかっておるわ──。わしひとりに任せおればよい」

 

 サキは怒鳴り散らしてから、さっと術を放った。

 目の前のこいつらをさっきの転送術の発進点に逆に送り返したのだ。

 ふたりは驚愕した表情のまま、魔道紋の向こうに消えていった。

 

「もう一度言う──。わしに命令できるのは主殿だけだ──」

 

 逆転送先にサキの言葉を送り込むとともに、ベルズの魔道紋を完全消滅させた。

 

 

 *

 

 

「うわっ」

「いたっ」

 

 魔道風のようなものが当たったかと思うと、気がつくと、ベルズはミランダとともに、第三神殿の裏庭の地下に隠されている臨時冒険者ギルドの一室に尻餅をついていた。

 監獄棟の最上階に向かう前にいた場所であり、この地下の最奥になるミランダの私室のような場所だ。

 ここに、ベルズもウルズも、居候のようにすごしていたのだ。

 どうやら、サキによって、転送紋を逆方向に跳ばされたみたいである。

 

「わっ、べーまま、ミランダちゃん」

 

 ひとりで床に座って、積み木で遊んでいたウルズがびっくりしている。

 跳躍する前に、ここで大人しくしてるように言って残していたのだ。

 ベルズたちがあてがわれている部屋だ。

 

『もう一度言う──。わしに命令できるのは主殿だけだ──』

 

 すると、サキの怒鳴り声が響き渡る。

 それで終わりだ。

 向こう側から、ぷっつりと転送術の繋がりが遮断された。

 

「きゃあ」

 

 その大きな声に驚いたウルズが、ベルズにしがみついてきた。

 

「大丈夫だ……。心配ないぞ、ウルズ」

 

 ベルズはウルズをなだめながらミランダを睨む。

 

「だから、言ったであろう、ミランダ。ちゃんと事態を収められるようにせいとな。どうするのだ? このまま放っておくと、王の退位どころじゃない。戦争だ。国が滅びるぞ」

 

 とにかく、ベルズはミランダに不平を言った。

 交渉が決裂したのは明らかだ。

 そして、この状況を作ったのは、ミランダであり、スクルズであり、アネルザだ。百歩譲って、ロウを守るために王宮工作をするのは認めたとしても、魔族であるサキに、王宮工作を単独でやらせるなんて……。

 

「言い出しっぺはアネルザなんだ。そっちに文句を言っておくれ」

 

 ミランダも不機嫌だ。

 お尻を打ったのか、腰を擦りつつ立ちあがっている。

 

「その調子じゃあ、交渉決裂かい? どういう話になったんだい?」

 

 声をかけたのはマアだ。

 ほかにこの部屋には、二日前に王都に戻ってきたタリオの豪商のマアと、マアと一緒にきたエルザがいる。

 ほかに、マアの護衛だという男装の少女のモートレットいう女剣士がいる。ただ、そのモートレットは、無口のたちらしく、あまり口を開くことがない。

 いまも、まるで壁の置物のように部屋に隅に突っ立っている。

 

 一方で、エルザとは、タリオ公国のアーサーに嫁ぐ前からベルズは知り合いだ。

 まだ、婚姻前のときにつき合いもあったが、ちょっとした会話からわかる彼女の頭の良さには感嘆していたのを覚えている。

 その護衛のモートレットを含むマアとエルザが、ひっそりと隠れるように王都にやって来て、この秘密の場所を訪れたときには驚いた。

 一昨日の夜のことだ。

 

 とにかく、マアとエルザは、アネルザやイザベラの意を汲んで、王都の窮状をなんとかするために、やってきてくれたのだ。

 彼女たちの手配で、現在大量の食糧が王都に入り込みつつある。

 まだ、一日程度であるが、第一弾の流入と、ミランダが今後、続々と物資は王都に入り、食料不足はすぐに改善すると宣伝させたことで、早くも狂乱していた物価が好転の兆しを見せてきた。

 しかも、エルザの指示により、食料については、市場に開放するだけでなく、とりあえず、飢えに窮している貧民層に、王太女イザベラの名で配給もさせている。

 わかりやすい人気取りであるが、この混乱の中で行われる救済は、王都市民の中では名が通っていないイザベラの人気をいやが上にもあげることだろう。

 中々にあざとい……。

 

 それはいいのだが、そっちの手配もあり、今回サキとの話し合いには、マアは同行しなかった。

 こうなっては、一緒に来てもらえばよかったかもしれない。

 あそこまで、こじれるとは思わなかった。

 

「どうしたも、こうしたも……」

 

 ベルズは、簡単にサキとの話し合いの顛末について説明した。

 もっとも、ベルズとしても、なにがなんだかわからない。

 説明が終わったとき、エルザが口を開いた。

 

「大丈夫なの? そのサキという寵姫? 魔族だっけ? そんなのに王宮が占拠されているなんて……。そして、テレーズというのは、サキという魔族の眷属ということ?」

 

 エルザはとても驚いているようだ。

 当然だろう。

 魔族が王宮にいるということだけでも驚愕ものなのに、それが王宮を完全支配しているということなのだ。

 さらに、そのサキはロウの愛人のひとりなのだ。

 ベルズも、わけがわからない。

 しかも、その状況を許したのが、そもそも、アネルザであり、目の前のミランダなのだ。

 もうひとりの責任者のスクルズについては、王宮に逃げ込んだまま連絡が取れないのだが、それを確認できることなく、サキから追い返されてしまった。

 

「大丈夫かどうかは知りませんよ、エルザ様……。まあ、ミランダたちに訊くといいでしょう。わたしには、この始末をどうしようとしているのか、さっぱりとわかりませんし」

 

 ベルズは皮肉を言い、ばつの悪そうな顔をしているミランダに視線を向けた。

 

「な、なによ……。そんな嫌味な言い方はないでしょう……」

 

 ミランダは困惑したように言った。

 

「とりあえず、そなたらの目的が達成されたのは間違いない。ロウ殿の捕縛どころの騒ぎじゃない。国が滅亡するんだから、そんなのは棚上げだ」

 

「皮肉ばかりを言わないでおくれよ、ベルズ。とにかく、ノールの離宮にいるアネルザにも相談するさ。通信球でこっちの状況を送ってくれないかい。アネルザの言葉なら、まだ、サキも耳を傾けるかもしれん。今度はマアにも……」

 

 すると、マアが口を開いた。

 

「そうだね。もっとも、話を聞いた限り、かなり怒らせたみたいだから、数日、時間を置いた方がいいかもしれないけどね。辺境候の状況についても、アネルザ殿に耳に入れておくべきだし……」

 

 アネルザが中心となってやっていたマルエダ辺境候の工作が、当初の計画だった地方貴族が結集したルードルフへの退位要求というかたちから、完全に戦争準備をしているという情報が入ってきたのは、マアたちが王都に到着したときとほぼ同じ頃だった。

 ほかにも複数の情報があり、どれも辺境候の戦争準備のことを裏付けしている。

 さらに情報を集めさせているが、辺境候の新しい「愛人」だというチャルタの名がもたらされたのは、今朝のことだ。

 チャルタといえば、これもまたロウの愛人の魔族だし、ベルズは騒動のもとが、ことごとく、ロウの愛人が関わっていることに、呆れかえったものだ。

 

「そうね……。ベルズ、頼むわ。ノールでは情報がほとんど入らないのよ。辺境候の情勢については向こうでも危惧していたんだけど、とにかく錯綜していて……。王都の情勢も、正確には掴んでないわ。まずは向こうにも情報を入れてあげてよ」

 

 エルザも言った。

 

「まあ、やってみます……。んんっ?」

 

 ベルズは、まずは通信球の準備のための魔道を刻もうとした。だが、思わずうなり声をあげてしまった。

 

「どうしたんだい、ベルズ?」

 

 マアは横から訊ねた。

 

「サキだ。わたしの通信系の魔道をあいつに封印されてしまっている……。いや、移動術もだな。もう来るなということだろう。なんて奴だ」

 

 ベルズは舌打ちした。

 ミランダもびっくりしている。

 ベルズは嘆息した。

 そして、ミランダを見た。

 

「……ミランダ、こうなったら、サキよりも早く、ロウ殿の身柄を押さえることだ。サキはロウ殿を旗頭にして、王都に向かって叛乱軍を動かさせるつもりなんだろう。その前に、ロウ殿を捕まえて、サキに命令させるのだ」

 

「ロウを捕まえにいくということについては、スクルズ……いや、スクルドが動いているよ……。だけど、サキと打ち合わせて向かうと言って出て行って、まったく連絡はないし……」

 

 ミランダが困ったように言った。

 そのことについては、ベルズも覚えている。

 あのスクルズの偽物の死骸を王都の空で発光とともに処分したあと、スクルズには改めて、徹底的に説教をした。

 その後、まるで逃亡するように、ロウの身柄を押さえるための行動について、サキと話し合うと言って、ここを出ていったのだ。

 あれから、まったく連絡がない……。

 いや、あれは、“逃亡するかのように”、じゃない。完全に“逃亡”だ。

 間違いない──。

 

「だが、スクルズは味方か? あれは、サキと一緒にいるのだぞ。そのまま、スクルズがロウ殿を叛乱軍と合流させてしまったら終わりだぞ。予測だが、サキが考えているのは、ロウ殿を旗頭にして、辺境候に叛乱を実際に起こさせることだろう。そして、一度、軍が動くともうとまらん。雪崩のように事態は拡大する。戦とはそういうものだ」

 

 そのとき、ぎゅっと身体が締めつけられた。

 

「べーまま、困ってる? 悲しそうなお顔だよ」

 

 ウルズだ。

 ベルズとミランダが不安そうに会話をするので、ウルズも心細くなったのだと思う。

 それにしても、力が強い。

 耐えられずに、そのまま長椅子にウルズごと押し倒されるように座り込んだ。

 

「だ、大丈夫だぞ、ウルズ。なんもない。なんもないぞ」

 

 ベルズはウルズの頭を抱えるようにして、そっと頭を撫でる。

 ウルズがほっとしたように、さらに、ベルズにもたれかかってきた。

 どうでもいいが、仕草と口調は幼女だが、身体と力は大人だ。

 重い……。

 

「ノール宮には、緊急クエストをかけて、冒険者に手紙を運ばせる。しばらくは、それで情報をやり取りするしかないね。少なくとも、サキの頭が冷えるまで……。いや、あたしが直接に行ってもいいか……。あたしなら一日でノール宮にたどり着く」

 

 ミランダだ。

 

「いや、ミランダはここにいるべきよ。王都内で暴動が起きないように、世論工作が必要だもの。ほかにも食料配布の手配も……。とにかく、市民に渡る食料がこのまま消えて、飢えが進めば、すぐに暴動は起きるわ。こっちの方が最優先よ」

 

 エルザが言った。

 

「それもそうね……」

 

 ミランダが頷く。

 

「いずれにしても、王宮に諜者を入り込ませているけど、後宮そのものには接触できなくてねえ……。とにかく、サキ殿を説得するんだね。いずれにしても、困ったことになったものさ。ロウ殿が戻る前に始末をつけないとねえ」

 

 マアが嘆息しながら言った。

 

 

 

 

(第25話『園遊会事件』終わり、第26話『過激派・穏健派・淫乱派?』に続く)

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