【2025.9.5コミック発売】異世界で淫魔師ハレム【完結】 作:ドン・ドナシアン
404 奴隷部屋の奇跡
「う、うう……」
「はあ……」
「ああ……」
女の吐息が闇の中に静かに響いている。
フラントワーズは、敷布にしている毛布をぎゅっと噛んで、全身を駆け巡っている狂おしい官能の疼きに耐えていた。
眠らなければならないのはわかっている。
しかし、とてもじゃないが眠れない。
フラントワーズたちがいるのは、後宮に務める召使い用の部屋らしく、ひとつの部屋に四個の寝台と机がある四人部屋だ。
ほかの三人も、横たわっているが苦しそうな官能の息をずっとあげ続けている。
無理もない……。
もう十日近くもだ。
一度も達していないのに、不規則で微弱な張形の振動ばかり与えられるばかりで、女の絶頂は与えられていない。
おそらく、口にする飲み物や食べ物にも媚薬が混ぜられているのだろう。
食事をすると、かっと身体が燃えあがるようになるとともに、股間から大量の愛液が滴り落ちるのでそれがわかる。
与えられ続ける寸止めのような肉欲への飢餓感……。
延々の性の地獄……。
苦しい……。
でも、抵抗の術はない。
与えられる快感を発散することもできない。
貞操帯で封印されているからだ。
だから、こうやって発狂するような耐えがたい疼きに耐えるだけだ。
定められている就寝時間である今は、股間の振動はとまっている。
睡眠までを妨げると倒れる者が出るという配慮らしく、就寝時間を越えると股間の張形の振動は動かないようになっているみたいだ。
だが、それはそれで、フラントワーズたちをさらに苦しめている。
股間とアナルに、張形が挿入されっぱなしで、まったく動いてくれないというのは、逆につらいのだ。
子宮から身体全体に拡がっている熱い疼きはそのままで、張形を挿入して、それで眠れというのは惨い仕打ちである。
フラントワーズは、知らず股間を貞操帯の上からぐっと手で押していた。
なにも感じない。
外から与えられるあらゆる刺激は遮断する仕掛けになっているのだ。
泣きたくなるくらいに、秘裂の奥がさらなる快感を求めて強く疼き続ける。
できるのは、挿入されている張形をぎゅうぎゅうと締めつけるだけ……。
そして、それはさらに耐え難い快感への疼きを生み出す悪循環……。
寝なければ……。
公爵夫人として、右にあるものを左に動かしたことさえない生活をしていた女が、毎日毎日、慣れない家事労働を強要されているのだ。
全身はくたくただ。
しかも、それを股間に装着されている貞操帯が与える快感の疼きに耐えながら、家事を行わなければならない。
いやが上にも、疲労は拡大する。
また、蓄積する疲労により、思考力も失われていく。
こんな生活がもう数日続いただけで、多分、フラントワーズは狂ってしまうだろう。
いや、もしかしたら、もうおかしくなっているのかもしれない。
ここに連れ込まれて、最初のときには、絶望や屈辱、あるいは、このような仕打ちを受けなければならない怒りと憎しみの感情に包まれていた気がするが、いまは、身体に巣食っている快楽の焦燥感に狂うばかりだ。
そのときだった。
音もなく扉が部屋の扉が開くのがわかった。
決まっている就寝時間から、すでに三ノスはすぎている。
時刻も真夜中だろう。
フラントワーズは、自分たちを監視している女兵が入ってきたのかと思って、身体を緊張させた。
「……お待ちください、フラントワーズ様……。わたくしでございます……。ティアでございます。ティア=マイネスです……」
身体を縮めるようにして部屋に入ってきたのは、ティア=マイネス伯爵夫人だ。
びっくりした。
なにしろ、彼女は青色組なのだ。
フラントワーズたち黄色組が後宮に押し込められて、家事労働をさせられていることに対して、マイネス夫人たち青色組については、十人で交代にルードルフ王の性の相手をすること強要されている。
彼女たち青色組の世話についても黄色組の役目なので、彼女たちの事情も承知しているが、ルードルフ王は女を抱く前に、必ず惨く女を痛めつけなければ勃起しないという話であり、彼女たちの扱いは酷いものだ。
それはともかく、なぜ、ここに青色組の彼女が?
黄色組については召使いの役目をしているので、監視はあるものの四人部屋になっている居室には鍵は掛かっていない。
だが、青色組については違う。
狭い部屋に十人が押し込められて、国王の伽に侍る以外は部屋に鍵をつけられて監禁されているはずである。
食事も黄色組が、女兵の監視のもとで部屋まで運び込み、そのときに、幾らかの会話もできるから、彼女たちの事情もある程度わかっているのだ。
青色組は、黄色組以上の制限を受けている。
例えば、用便だ。
黄色組は朝夕の時間限定で、排便のために貞操帯を外してもらえるが、青色組については伽の直前に貞操帯を外すときだけが許された用便の時間だそうだ。
つまりは、それくらい厳重に行動を管理されているということだ。
それにも関わらず、青色組の彼女がどうしてここに……?
「ティア様……、どうして?」
フラントワーズは、扉のところで小さくしていた彼女を寝台のところに呼び寄せた。
ティア夫人が胸の前に両手を置いた格好でにじり寄ってくる。
どうしてそんな仕草をするのかと思ったら、両方の乳首にぶら下げられている鈴の音がしないように、ぎゅっと拳で包んでいるようである。
「マイネス伯夫人なの……?」
横のマリアが身体を起こしながら囁く。
マリア=ラングール……。
フラントワーズ同様に、園遊会で上級貴族の妻子が集められる前日に、王家の軍に捕縛された二公爵家の妻のひとりだ。
さらに、壁側のふたりも身体を起こしている。
「ここにはどうやって来たのですか? 女兵の監視は?」
フラントワーズが低い声で訊ねた。
とにかく、自分の寝台の上にティア夫人を招き寄せる。
フラントワーズたちと同様に貞操帯ひとつだけの裸の彼女があがってきた。
むっとするほどの女の香り……。
上気している肌……。
フラントワーズよりも十歳ほど年上のはずだが、艶やかでまだまだ美しい。
こうやって肌を接するようにすると、フラントワーズも思わず唾を呑み込んでしまうほどのむんむんとする女の色香だ。
彼女たちは、国王の性の相手をしながら、やはり魔道で絶頂感を遮られて、黄色組同様に性の飢餓状態に追い詰められているのだ。
だが、本当にどうしてここに……?
「夕方の点呼のときに隠れて……。今日の夕方、女兵が鍵を掛け忘れて去ったのです。すぐに閉じられたのですが、そのあいだに部屋を抜け出して隠れていました……。わたくしの話は、ラジル様をはじめ全員の言葉です……。それをお伝えに……」
ティア夫人が緊張したように言った。
ラジルというのは、青色組になった夫人のひとりであり、黄色組のとりまとめのような役割をフラントワーズがしているのに対して、青色組の最年長として向こうを仕切るのがラジル=ポリニャックである。
ポリニャック家は古い侯爵家であり、評判の悪かった王族公爵の二家とは異なり、歴史でも格式でも、ポリニャック家はこの王国貴族世界の重鎮といっていい。
夫人の年齢が高いことからも、自然に彼女が長のような立場になったみたいだ。
そのラジル夫人の伝言がなんと?
しかも、こんな危険を冒してまで伝えることとは……?
「……もう限界です……。反乱をしましょう」
ティアが言った。
フラントワーズは絶句した。
「……反乱……。どうやってですか……?」
驚きで言葉がすぐに出てこなかったフラントワーズに対して、すぐに問い返したのは、向かいの寝台にいるマリアだ。
マリアの顔を見ると、暗がりだが真剣な表情をしているのがわかる。
彼女もかなり追い詰められているのは知っているが、いまは毅然とした顔をしていた。
「……決起を……。明日、青組で騒動を起こします……。伽のときには部屋の扉が開くのです。そのときに一斉に襲い掛かって女兵から武器を奪います。できれば、テレーズを人質に……。黄色組はその騒動を合図に一斉に逃亡してください。うまくすれば数名は脱出できるかもしれません……。そして、外に連絡を……。この後宮内で行われている無謀をどこかに伝えるのです」
「うまくいきますか? そもそも危険です。特に青色組の方々が……」
マリアだ。
すると、ティアがマリアに顔を向けて首を横に振った。
「もとよりわたしくしたちは命を捨ててます。全員が殺されるでしょう。しかし、そのとき、必ずこちらの監視が手薄になります。わたくしがこうやって抜けてこれたくらいです。おそらく隙が生まれます。それでなんとか……。とにかく、外に報せて助けを求めなければ……。赤組として地下に集められている少女たちのためにも……」
「命を捨てるなど……。も、もちろん、なんとかしなければならないのは当然ですけど……。でも……」
フラントワーズはやっと言葉を継ぐ。
怖ろしく無謀で、とてもうまくいくとは思えない。
下手をすれば、少なくとも、青色組は全員が殺されて終わりだ。
特に、最初に暴動を起こすという青色組は、絶対に全員が殺されるだろう。
黄色組同様に、青色組もこの忌々しい貞操帯を装着させられている。
武器を向けるまでもなく、魔道で操作しているらしい貞操帯を強く振動されれば終わりだ。
あっという間に無力化させられる。
人質など無意味としか思うしかない。
「……やってみる価値はあります……。わたくしたちは騒動を起こすだけです。なんとか、そのあいだに黄色組の誰かが外に……」
ティアは悲痛な表情で言った。
フラントワーズはやっとティア夫人たちの狙いがわかった。
彼女たちも、青色組で起こす暴動が成功するとは露とも思ってないようだ。
だが、無力化されようと、殺されようと、その一時期については、後宮を監視している女兵の注目は青色組に集中するに違いない。
黄色組の役目は、その隙を見つけて逃亡するということだ。
それで助けを求める。
フラントワーズはそれがわかってきた。
「狙いはわかりました……。でも、もう少し策を練りましょう。命を粗末にするような行為以外に、女兵たちの隙を作るやり方はほかにあるはずです。つまりは騒動を起こせばいいのですから……。例えば、厨房でぼやを起こすというのはどうでしょう。黄色組は交代で厨房にも入ります。そのときに、火事をわざと発生することは可能だと思います。話し合いに数日必要でしょうけど、女兵の注目を集めるという狙いは同じことです。黄色組でやってみます」
フラントワーズは言った。
それなら、最悪、策がうまくいかなくても、不慣れな家事をさせられている黄色組の失敗ということで終われる。
懲罰は受けるだろうが、全員が殺されることがわかっている青色組の暴動を切っ掛けにということよりも遥かにましだ。
だが、ティア夫人は再び首を横に振った。
「……わたくしたちは、全員がもう覚悟を決めています……。わたくしたちを監視していた女兵たちが教えたのです……。国王陛下がわたくしたちを犯している映録球が王都の市民で出回っていると……。詳しいことはわからないのですが、実際に映録球も見せられました。恥ずかしいわたくしたちの痴態です。それが世間に出回っているとなれば、もはや、わたくしたちは貴族としても、女としても終わりです。だから、せめて、ほかの女性たちが逃亡するための材料になれれば……」
ティア夫人が悲痛な顔で言った。
フラントワーズは再び絶句した。
そして、動顛した。
国王に犯されている情景の映録球が外に出回っている?
それは、黄色組や、もしや、赤組の若い娘たちの姿もそうなのだろうか?
だとすれば、もう貴族として終わりであり、死を覚悟したというティア夫人の言葉も頷ける。
そのとき、扉の外の廊下に足音が聞こえてきた。
革靴で床を叩く音……。
見回りの女兵だ──。
しかも、駆けている。
声が洩れたか──?
「入って──」
フラントワーズは素早く横になるとともに、ティアと密着するようにして毛布を被った。
マリアたちほかの者も素早く寝る。
扉が勢いよく開いた。
「なにを喋って……。んん? おいっ、そこでなにをしているの──?」
入ってきたのは女兵だ。
しかも、あっという間に見つかった。
フラントワーズは、一気に冷たい汗が背中から噴き出るのがわかった。
「全員に警報を──。脱走かもしれない──」
女兵が廊下に向かって怒鳴った。
部屋の外にも誰かいるのか?
フラントワーズに絶望が沸き起こった。
毛布の中で縮こまっているティア夫人も恐怖で震えている。
すると、不意に廊下側で白い光が瞬いたと思った。
何事かと思ったが、廊下の喧噪が消滅する。
部屋に入ってきた女兵に、開いている扉の隙間から、さらに廊下から光が当たる。
女兵の顔から表情が消滅して、能面のような顔になる。
「……忘れなさい……。ここであなたたちは、なにも見なかった。聞かなかった……。さあ、見張りを続けましょう。いままでどおりよ……。なにも問題ないわ……。問題ないの……」
くすくすと小さな笑いとともに、女性の声が聞こえてきた。
誰──?
フラントワーズは驚いた。
しかも、声にどこかで聞き覚えがあるような……。
「……なにも問題ない……。なにも見てない……。聞いていない……」
「いい子ね……。じゃあ、さようなら……」
廊下の声とともに、女兵が反転して部屋から出て行く。
フラントワーズは呆気にとられた。
いずれにしても、危機は去ったのか?
だが、どういうこと?
「マイネス様……、いえ、皆さんは、家名でなくて名前で呼び合うようにしたのですよね。だったら、わたしも名前で呼んでいいでしょうか……? ティア様、お部屋に戻りましょう。わたくしが送りましょう……。そして、そんなに心を乱さないでください……。なにも問題ないのですよ……。サキさんも言葉が足りないのです……。皆さんは、むしろ幸運なのですよ。選ばれたのですから……」
廊下のいる何者かがくすくすとまた笑う。
誰なのだ──?
とにかく、得体の知れない能力を持っている存在というのは確かだろう。
おそらく、さっきのは魔道だ。
一瞬にして女兵を無力化して、記憶を操作したのだと思う。
怖ろしいほどの高等魔道だ。
本当に誰なのだ……。
助けてくれたというのは間違いなさそうだが……。
とりあえず、フラントワーズは再び身体を起こした。
小さくなっていたティア夫人も、恐る恐るという感じで起きあがる。
フラントワーズは、さらに扉ににじり寄ろうとした。
「あっ、わたしの姿は見ないでくださいね。都合が悪いものですから……。なにしろ、わたしは死人です。死人がうろうろしているのはおかしいですよね」
また、その女性が笑った。
どうでもいいが、本当に心から愉しそうな笑い声だ。
思わず、釣り込まれてしまうような……。
その笑い声に誘われて、なぜかフラントワーズも頬を緩めてしまう。
すると、横にいるティアと向かい側のマリアも、小さく笑った。
やはり、笑いに釣り込まれたのだ。
なんだろう、これ?
不思議な高揚感に襲われながら、フラントワーズは戸惑った。
「あら、やっと笑っていただけましたね。ずっと見守っていたんですけど、とても苦しそうで困ってました……。だけど、もしも、この先で誰にお仕えするかを教えてあげられることができれば、きっと調教も苦しくないものになると思うのです。それを伝えてあげられればよいのですけど……」
「この先で誰かに仕える……?」
フラントワーズは、思わずその言葉を繰り返した。
疑念で問い返したのでなく、なぜか凄まじいほどの迫力で、その言葉の綴りが心に入ってきたのだ。
頭の中で、その言葉だけが不可思議に繰り返す。
“この先で誰かに仕える……?”
なにそれ……?
「わたくしも、もうすぐ、そのお方に会えるのです。ああ、本当にこの幸せを分けてあげられたら……。だけど、あなたたちも会えますよ。きっとわたしが連れて来てさしあげます。そのお方に会いさえすれば、いまの苦役は笑って思い出すことができます。いまは、わたしの言葉を信じてとしか申せません。とにかく、信じて待ってください。そして、いま以上に調教にお励みください。あのお方に会うための修行と思って……」
“そのお方に会えば、いまの苦役を笑って思い出すことができる”
“私を信じよ”
“調教を修行と思って励め”
まただ。
言葉の内容よりも、言葉そのものが心に刻まれる
よくわからないが、さっき女兵を沈黙させたとの同じ力だと思った。
魔道?
いや、それとは違うのか……?
言葉そのものが持つ力……。
「あ、あのう……」
ティアだ。
様子がおかしいと思って、彼女に振り向いた。
まるで憑りつかれたような表情になっている。
はっとした。
向かい側の寝台のマリアもだ。
もしかしたら自分も……?
いずれにしても、とにかく心地いい……。
廊下にいる何者かの幸せそうなたたずまいが言葉とともに伝わり、それが心地よい気持ちにさせていく。
本当に幸せだ。
なぜか、そんな感情に包まれる。
「ティア様はおいでください。わたしが青色の皆さんにお話もしましょう……。早まってはいけませんわ。だって、待っていれば、素晴らしいお方に愛していただけるのですから。わたしも口をきいてさしあげます。きっと皆さんを愛してもらえます。それでみんな幸せになったんです……。とにかく、さあ……」
扉がちょっとだけ、さらに開いた。
白い着物を身に着けている手だけがすっと入ってくる。
「あっ、はい……」
ティアが誘われるように、その手に向かっていく。
そのまま、手を掴み、引っ張られるように廊下に出ていく。
「あっ、あなた様は──」
廊下側でティア夫人の大きな声が響いた。
すると、またあの幸せそうなくすくすという笑い声……。
「しっ、静かに……。わたしのことは内緒ですよ……。その代わり、皆さんに贈り物をしますので……。それだけでなく、サキさんにも扱いを緩めるよう諭しましょう。だから、早まらないで……」
女性の声……。
そして、扉がゆっくりと閉じていく……。
「お、お待ちください──。あなたは誰なのです。教えて……」
フラントワーズは、慌てて寝台からおりた。
行ってしまう──。
もしかしたら、フラントワーズを助けてくれた不思議な存在を確かめるということよりも、あの幸せな風のようなものが去るということが我慢できなかったのもしれない。
とにかく、フラントワーズは、遮二無二、あの声の本人を追いかけようとした。
それは、本能のようなものであり、理性ではなかった。
「ごめんなさい……。あまり姿をお見せするわけにはいかないのです……。とにかく、信じて待ってください……。ここの日々は、あの方に愛してもらうための修行です。必ず、みんな幸せになれますよ。信じて……」
またもや、声だけ。
そのときには、フラントワーズは扉のところにいた。
急いで立ったので、乳房につけられている鈴がちりんちりんと鳴った。
寸前で扉が閉まる。
しかし、一瞬だけど、フラントワーズは視界に、驚愕している様子のティア夫人と手を繋いでいるその女性の姿を垣間見ることができた。
びっくりした。
まさか……。
「えっ?」
フラントワーズは声をあげた
その女性のことを知っていたのだ。
かなり見た目が変わっているが間違いない。
髪は長くなり、神々しい青白い髪になっていて、なによりも、迫力さえ感じるほどに、とても幸せそうに微笑んでおり、その表情には慈愛が溢れていた。
だが、死んだはずだ。
直接に死に接したわけではないが、彼女の惨い死については、一日遅れで後宮に集められてきた令夫人たちから口々に聞かされた。
園遊会の直前に、彼女の死の情景が映された「映録球」が王都にばらまかれたのだそうだ。
それだけでなく、王都広場に晒された彼女の死体を見た者もいるし、昇天するように天にあがっていった光景を目の当たりにした者までいた。
「スクルズ様……?」
呟いた。
すると、またもや扉の向こうから笑い声が聞こえてきた。
「スクルドです……。人違いですわ……。それよりも、これは贈り物です。絶頂を禁じるなんて、サキさんもあんまりですもの……。それを股間に当てれば、幸せな気持ちになれますよ。皆さんでお使いください」
それで終わりだった。
扉の向こうで魔道の波動が動くのがわかり、それで人の気配がなくなった。
あの幸せな笑い声が消滅してしまったのがわかった。
フラントワーズはがっかりしてしまった。
とにかく、彼女がいなくなってしまったのが残念だった。
「フラントワーズ様」
そのとき、マリアが声をあげた。
振り返る。
すると、さっきまでフラントワーズが横たわっていた寝台に、“それ”が乗っていた。
「贈り物……?」
“それ”を見て、フラントワーズは言った。
一方で、いまでも頭の中では、不思議な余韻になって、彼女の言葉ががんがんと繰り返している。
“この先で誰かに仕える……?”
“そのお方に会えば、いまの苦役を笑って思い出すことができる”
“私を信じよ”
“調教を修行と思って励め”
まるで、天から贈られた天啓のように……。