【2025.9.5コミック発売】異世界で淫魔師ハレム【完結】 作:ドン・ドナシアン
「最初に言っておく。わしは、すでにミランダとベルズたちとは袂は分かっておる。あまりに無礼なのでな。いかに、
サキは現われたスクルズ、いや、外観をやや改めて、名乗りを変えた“スクルド”を睨んだ。
後宮に設けた面会のための一室だ。
ふたりきりではない。
ジャスランという女眷属を同席させている。
このジャスランは、人間族の男を父に持つという変わり種であり、魔道についても武辺についても超一流である。
外観は、血の半分の人間族のものが濃く、見た目はスクルドと同じ年齢の人間族の女にしか見えない。
だが、本人はそれを嫌っていて、血の半分が人間族であることを否定する。
なにしろ、ジャスランの母は、いわゆる「迷い魔族」であり、妖魔族と称する異界に棲み処を持つ魔族ではなく、人間族の中にこっそりと生きている魔族だったのだ。
だが、高貴な人間族に捕らわれ、丈夫な魔族であることがばれて、魔道を封じられて見世物奴隷になっていた。
あるとき、力のある妖魔が、監禁されて酷い目に遭っている同朋の存在を知り、飼い主を殺して、彼女を開放した。
だが、そのときには、ジャスランの母は、その飼い主の子を身ごもっていて、異界で庇護を受けるようになってから、娘を産んだ。
それがジャスランだ。
だから、ジャスランは、自分の血の半分を恥じている。
しかし、今回サキが気に入ったのは、血の半分が人間族である部分だ。
つまり、見た目だ。
サキやラポルタの目がある王宮近くで使うのではなく、遠く離れた地に単独で行動させるのだ。
ラポルタのように、本来の姿が妖魔族そのものである存在と異なり、なにかの魔具で外観を暴露されて、妖魔狩りに遭うということもないだろう。
なにしろ、こうやって人間族を装う魔道は、かなりの魔力を必要とする。
王宮内で女兵に扮させている連中は、サキの持つ膨大な魔力を借りて、人間族の姿に化けている。
だが、ここから離れるとあっては、そういうわけにはいかない。
十分な魔力を持っている個体にしてさえ、人間族に化けるのに魔力を費やし、咄嗟の魔道が疎かになる可能性がある。
その点、このジャスランは別だ。
見た目は人間族なのだ。
余計なことに力を使う必要がない。
ただ、いまは護衛の体で、壁沿いに立っていると命じている。
服装は女兵の恰好ではなく、女傭兵のような出で立ちだ。
ジャスランに与える任務として必要なものだ。
しかし、ちらりとそっちを見ると、現れたスクルドを親の仇のような視線で睨んでいる。
初めて会ったはずであり、スクルドに反感を持つ理由もないのだが、おそらく、スクルドが人間族であるということが気に入らないのだろう。
まったく、どこまで人間族が嫌いなのかと苦笑したくなる。
それはともかく、このスクルドだ。
数日前からここにいるのだが、普段はなにをやっているのか、まったく出会わない。こうやって呼び出すのも時間がかかるし、今朝もやっと身柄を拘束できた。
どうして、居候のような女をひとり呼び出すのに、苦労しなければならないのか……。
サキとしては、なんだか腑に落ちない気分になる。
「まあ、喧嘩ですか? 皆さん、ロウ様がいらっしゃらないので、苛つきが溜まっていおりますものね。仕方ありません……。でも、問題ありませんよ。ロウ様がお戻りになれば、すぐに解決することですから……。だから、ご心配しないでください。わたしが必ず、ロウ様をお連れします」
スクルドがにこにこして言った。
それにしても、この目の前の女は、短い言葉の中で、どれだけ“ロウ”の名を出すのだと思った。
もしかしたら、この王都でロウの帰還を待っていなければならない、サキへの嫌がらせかとさえ思った。
まあ、スクルドの屈託のない笑顔を見ていると、こいつにそんな気はないのはわかるが……。
サキは嘆息した。
「まあいい……。ところで、そのときに、ミランダとベルスが、わしがお前を監禁しているというようなことを言っておったぞ。もしかして、ずっと連絡してないのか?」
昨日は激昂していたので気にならなかったが、一日経ってみると、腑に落ちないことが数個あることに気がついた。
その中のひとつが、ミランダが口にした、サキがスクルドを監禁しているのではないかという弾劾だ。
だが、サキはそんなことはしていない。
確かに、スクルドは、あの「処刑の日」以降、ずっとここにいるが、別段、サキが強要しているわけではなく、スクルドが自らここにいるだけだ。
現に、こうやって要件があってスクルドを呼び出すのも、後宮内のどこにいるのかわからずに、時間がかかったくらいだ。
サキとしては、まったくスクルドを拘禁したりはしていない。
「ベルズとミランダがですか? まあ、そんなに心配しなくても問題ないのに。ただ、向こうにいると、延々とお説教をするのですよ。だから……。わかりました。とにかく、ロウ様と戻ってきたら、ふたりには謝ります。心配しないでください、サキさん」
スクルドがにこにこと微笑む。
どうやら、戻って来るまで、あのふたりには会うつもりはないようだ……。
まあ、いいか……。
「わかった。では本題だ。やっと手筈が整った……。モーリア男爵に対するお前についての紹介状のことだ。ルードルフに書かせた。人間族の仕来りには詳しくないが、これがあればいいのだろう? だが、紹介状でよいのか? 素直に命令書を渡せばいいのではないのか?」
「十分ですわ、サキさん。それに、辺境域にいる貴族というのは、王家といえども、命令には素直に従いません。自分自身の武力もありますから、王家の権威に抗うこともやぶさかではないのです。それに、モーリア家といえば、いまは急激な成長をしている昇り竜のようなお方です。失墜している王家の命令などを渡せば、むしろ、警戒をして協力してくれないのではないかと思うのです」
スクルドが笑みを絶やさないまま言った。
サキは苦笑した。
「失墜した権威のう……。じゃあ、むしろ、紹介状だけで会うか? ましてや、兵を出すか?」
失墜した権威というのはその通りだが、まあサキがそうさせているのだから、当然そうなっているだろう。
そんな王に、ここにはいない地方貴族とやらが従わないというのもわかる。
サキがやろうとしているのは、彼らを利用して、戦を起こさせ、そのときにロウを旗頭にさせて、そのままロウをこの国の支配者にさせようということだ。
ロウはそういう権威には興味がなさそうだったので、最初は嫌がるかもしれないから、王になったら自由にできる貴族奴隷の集団を準備した。
好色なロウならきっと受け入れるに違いないし、最終的にはサキを褒めてくれると思う。
それに、サキとしても、妖魔将軍とも称されるサキの「
最低でも、一国の王くらいにはなってくれないと、我慢できないと思っている。
それに、ロウは間違いなく、王の中の王、すなわち、「皇帝」の器だろう。
そして、そのために、今回はどうしても、手頃な地方貴族に兵を出してもらわねばならない。
ロウを確保してくれる兵ということだ。
地方にいる王軍に処置させることも考えたが、調べてみると人間族の権威というのは簡単でないらしく、遠く離れている軍というのは、命令書一枚ではどうにも動かせないことも多いらしく、本来の任務以外のことで動かすのは、むしろ面倒そうだった。
一番偉い者の命令が、素直に末端に届かないこともあるというのは、本当に人間族といのは、わからない種族だ。
それはともかく、今回の策では、ロウの身柄をとにかく早く確保しなければならない。
地方王軍や各領主には、先回ルードルフが発出した「ロウの捕縛指示」は、「身柄確保指示」に変えて手配させているが、誤って連中が手酷い目にロウを合わせれば、まずは、そいつらを八つ裂きにしにいかなければならないし、サキもロウに謝罪のしようもない。
それよりも、スクルドのような者に行ってもらって、ロウがハロンドールの国境を越えて戻る前に、丁重にロウを確保したい。
そして、チャルタに準備をさせているマルエダ辺境候の集めた国王反乱軍に合流をしてもらうというわけだ。
後は、ロウはなにもしなくても、大きな決戦が王都周辺で起きて、ロウが新たな王として凱旋する手筈になっている。
「問題ありませんわ。わたしとしては、モーリア様に面会を申し出る大義名分さえあればよいのです。あとはお任せください。きっとロウ様を出迎えるための軍兵をナタル森林側に出すようにお願いしてきます」
スクルドが言った。
モーリア男爵というのは、実は、あのシャングリアの実家ということであり、いま男爵位についているモーリア男爵は、シャングリアの遠縁の親族ということになるそうだ。
ナタル森林に入っているロウの身柄を帰還次第に抑えて、準備している叛乱軍に合流してもらう──。
そのために、手頃な地方領主に軍を出してもらい、国境沿いのナタル森林にロウを迎える兵を待機させる──。
やろうとしていることは、それであり、目をつけた辺境貴族として、シャングリアの実家のモーリア家を選んだのは偶然のことだ。
爵位こそ男爵と低いが、辺境沿いにある貴族として、商売もしている裕福な一族であり、大量の傭兵を常備軍として抱えている。しかも、いまのモーリア男爵になってから、さらに領内の流通発展に成功をして、大変な権勢を持つらしい。
実態としては、そこらの伯爵家以上の力を持つと言っていた。
そして、モーリア男爵は、軍人あがりでもあり、質実剛健でもあり、人間族としては正直者でも通っていた。
まさに、ロウが最初に支配する軍勢としては、好都合だと思った。
そのために、スクルドが向かう。
ただ待つだけではなく、そういう軍を準備しなければならないと訴えたのは、ほかでもない、このスクルドだ。
このために、自分が「死人」になるという策までこっそりと持ってきた。
サキは、それに乗ることにした。
「まあよい。とにかく、これがルードルフに書かせた親書とやらだ」
サキは一通の封書を取り出して宅に置く。
スクルドがそれを手に取った。
「とにかく、問題ありません。では、そろそろ、これで……。ロウ様をお待たせするわけにはいきませんし」
一瞬にして、封書が消えた。
亜空間術だろう。
それはいいが、ロウを待たせるわけにはいかないという言い草はどうなのだろう。なにか腹がたってくる。
よく考えたら、こうやってサキが色々と骨を折っているのに、ロウに率先して会いに行くという一番いい役割をこの女が掴んでいる。
だが、そのスクルドが、すぐに立ちあがって、出立するような素振りを示したので、サキは慌てた。
スクルドが身に着けているのは、平凡な部屋着のようなものだが、スクルドほどの魔道遣いであれば、そのままどこにでも行けるだろう。
そもそも、亜空間術で必要なものはしまっているだろうし……。
「待て、スクルド、連れを紹介する。こいつを一緒に連れていくがいい。わしの部下でジャスランだ。護衛だ。モーリア男爵に会うときには、口は出さんように言いつけている」
サキはジャスランに、こっちに来るように合図した。
ジャスランがサキとスクルドの前に立つ。
「ジャスランだ、女」
ジャスランがスクルドを睨んで言った。
スクルドが戸惑って、サキに視線を向ける。
「護衛? 必要ありませんわ」
スクルドがあげかけた腰をおろしてきょとんとした。
護衛をスクルドが必要しないのは分かっている。ジャスランをつけるのは、お目付け役だ。
どうにも、この女は飄々としてとらえどころがない。
だから、念のためだ。
最初は、スクルドを信頼しないということは考えていなかったが、ミランダやベルズがサキのやることに反対をしているということがわかったので、急遽、スクルドにもサキの眷属をつけることにした。
どういう料簡なのか、さっぱりと理解できないが、昨日の口ぶりでは、ミランダたちはサキがやろうとすることを邪魔しようとしているのだろう。
つまりは、ロウを王にするという企てだ。
だとすれば、次に考えられるのは、こっちのすることを阻止しようと動くことだ。
それには、ロウの身柄を押さえて、こっちに都合の悪いことを先に吹き込むかもしれない。
そんなことをさせるわけにはいかない。
だから、スクルドをロウの身柄を押さえてもらうために行かせるのだけれども、実際のところ、スクルドが本当にサキに協力してくれるつもりなのかどうか、よくわからないのだ。
スクルドは、なんだかんだといって、サキよりもミランダやベルズたちと昵懇だ。
あいつらにそそのかされれば、そのときには、サキを裏切り、あいつらに与するに決まっている。
だから、ジャスランだ。
ジャスランには護衛という役割で、スクルドに不審な動きがないか見張れとも申し渡している。
「必要はないかもしれんが、連れて行ってもらうぞ。さもなければ、王都を出ることは許さん」
サキはきっぱりと言った。
スクルドがちょっとだけ、怪訝な顔になったが、すぐにそれが元の微笑みに隠される。
「見張り役ということですか? わたしはサキ様と喧嘩をしたりしませんわ。ロウ様には、王になって欲しいと思っております。すべては、ロウ様の思いのままにです。ロウ様がお望みになるのであれば、王にでも、皇帝にでもなられるべきです。わたしはそう思っています」
スクルドが言った。
しかも、お道化るような仕草で、臣下が主人に礼をするような恰好で手を胸の前に動かして頭をさげる。
なんだか、からかわれているように思った。
まあ、そうなのだろうが……。
いずれにしても、スクルドも、ジャスランの存在を正確に「見張り役」と口にした。
どうやら、わかっているようだ。
「ならば、あのドワフ女や巫女よりも、話はわかると思ってよいのだな? ジャスランと一緒に行け。ふたりで、ロウを人間族の王にしよう」
「わかりました。じゃあ、よろしくね、ジャスランさん」
スクルドがジャスランに微笑みかけた。
ジャスランは不愉快そうに顔を歪める。
「よろしくはしない……。サキ様の命令だから一緒に行ってやる。だが、サキ様のご命令に背くようなことはせんことだ。私が常に見ていることを忘れるな」
ジャスランが言った。
その口調には、まるで感情がないようで冷淡だ。
サキは苦笑した。
「まあ、怖いですね。ところで、とてもお綺麗な顔をされてますね。もしかして、あなたも、ロウ様の性奴隷になりたいのですか? 興味がおあり?」
スクルドがジャスランに言った。
ジャスランが目を丸くする。
「わ、私が人間族の男の性奴隷──? ば、馬鹿にするな……。い、いや、決して、サキ様の番のお方を馬鹿にするわけでは……」
一瞬、むっとした表情になったが、次には慌てて取り繕ったようにする。
人間族嫌いのジャスランなので、人間族の男が性の相手ということで怒ったと思うが、すぐに、そのロウがサキの相手ということを思い出したのだと思う。
それで慌てたということだ。
まあ、それくらいどうでもいいのだが……。
そのとき、スクルドがころころと声をあげて笑い出した。
「でも、ロウ様に会ったら、お気持ちが変わるかもしれませんね。そのときには、わたしがご協力してもいいですわ。ロウ様に抱いていただければ、それこそ、人生が変わります。誰も彼も幸せになれます。これは心からの言葉ですよ」
スクルドが言った。
ジャスランは面食らったようになっている。
「じゃあ、行け。
サキは口を挟んだ。
「はい、お任せを」
スクルドが嬉しそうに立ちあがる。
ロウに会いに行くのが本当に楽しそうだ。
やっぱり、ちょっと羨ましいか……?
いや、すごく羨ましい……。
「スクルド、お前はわしを裏切るなよ。お前はわしの味方だな?」
最後にサキは言った。
スクルドはちょっと小首を傾げる。
「決まっているではありませんか。わたしも、サキ様も、ミランダもベルズも、みんなロウ様の性奴隷ですわ。ロウ様のことしか頭にありません。ロウ様を王にしましょう。ミランダたちも、それがロウ様の幸せになるのであれば、わかってくれます。いえ、わからなければいけません」
スクルドがきっぱりと言った。
サキはちょっとだけ意外に思った。
言葉の内容にではない。その裏にあるものだ。
ミランダたちと仲違いしたことは、さっき口にしたものの、詳しくは話していないのだ。
しかし、いまは、まるで、ずっと深いところまでを知っている物言いだ。
もしかして、やり取りを魔道で覗いていた?
そんなことを思った。
「当然だ。わしは、主殿を人間族の王にする──。誰がなんというともだ──。わしの主殿は、そうあるべきなのだ」
「わかりました……。では、行きましょう、ジャスランさん……。ああ、そういえば、サキさん、先日のことをお考えください。彼女たちは、きっとよい性奴隷になりますわ。とても、一生懸命ですし……」
スクルドが思い出したように言った。
先日のことというのは、数日前だが、後宮に集めているロウのための性奴隷候補たちの待遇を少し良くしてやれと言いにきたことだ。
魔族とは違い、人間族は体力以上に心が弱いので、「調教」も締めつけるだけではよくないらしい。
それ辺りの機微はサキにはわからないので、多少はそれも考えることにした。
確かに、ロウに与えて喜んでもらうはずの性奴隷たちが、気力の無い人形のようになってしまっては困る。
「それは考える……いや、幾つかは忠告に従うことにした。魔族とは異なり、人間族の調教というのは、痛めつけるだけでは駄目だというのは、わかる気もする。そうする」
素直に言った。
スクルドは嬉しそうに笑う。
「感謝します。彼女たちのためにも……」
スクルドは言った。
サキはちょっと迷ってから、口を開く。
「ところで、お前は令嬢たちを集めたことには反対しないのだな。ミランダとベルズはすさまじい剣幕だったが……。それに、こんなことは主殿は喜ばないと言っていたりしたが……」
あのドワフ女の機嫌などどうでもいいが、後になって、唯一、気にかかったのはそれだ。
もしかして、本当は、性奴隷を集めるなど、ロウが好まないことなのだろうか?
好色なロウだから、万が一にも喜ばないということなどないとは思うが、サキはロウに怒られたくないのだ。
「……いまは、不安もあるかもしれませんが、ロウ様に抱いてもらう立場になるのです。あとで、絶対に感謝するのは間違いありません。ロウ様に抱かれるための調教なら、わたしも一緒になって、受けたいくらいです。なんの問題もありません」
スクルドは言った。
その表情に迷いやごまかしはない。
心からそう思っている感じだ。
サキはほっとした。
やっぱり、問題ないのだ。
「それでは……。じゃあ、ジャスランさん」
スクルドがジャスランに声をかけて、すぐにふたりの姿が消えた。
移動術だ──。
旅立ったのだ。
「やっぱり、わしは間違ってない……」
サキはスクルドが残した言葉に、不思議な安らぎを覚えながら、ほっとして呟いた。