【2025.9.5コミック発売】異世界で淫魔師ハレム【完結】 作:ドン・ドナシアン
42 新たな依頼
ギルド本部はちらほらと冒険者に溢れていた。
最初に一郎が思ったのは、広くて施設が充実しているなという感想だ。
デルタ支部には、クエストを紹介する壁一面の張り紙と、受付に座るテリオ婆さんの机があるだけで、あとは床があるだけの殺風景な場所だったが、この本部の広間は、冒険者の集いの場所のようにもなっていて、壁一面のクエスト紹介の張り紙は同じだが、ほかにも、たくさんの長椅子や卓、五個ほどの受付、冒険者に必要な魔道具や武具などを扱う店らしきものや、食事もできる食堂のような場所もある。
人もそこそこ多い。
広間に広がる卓にはただの雑談に興じている冒険者らしき者たちもいるが、真剣な表情で話し込んでいるグループもいる。
真剣な雰囲気で話をしている者たちは、なんとなく商談という感じだ。
「ああやって、クエスト内容に応じたメンバーの引き抜きや、成功報酬の取り分の話し合いなどをしているんです。わたしたちのような固定されたメンバーによるパーティも多いですが、逆に報酬次第でクエストごとに、別々のパーティに参加する流しの冒険者もいます」
エリカがささやいた。
一郎がじっと視線を送っていたので教えてくれたのだろう。
とりあえず、チャーリー登録をするために空いている受付を探した。
デルタ支部のテリオ婆さんによれば、すでに連絡がいっていて、受付でパーティ長の一郎の名を出せば、話は通じると聞いている。
それにしても、冒険者の人数が多かったのに比して、受付がひとつしかなかったデルタ支部は、依頼を受けるために受付に向かうのも行列だった。
だが、ここはなんとなく余裕もある感じだ。
「おうおう、見かけねえ面だなあ、若いの──。新入りか──? しかも、別嬪連れか──」
すると、いきなり背後から声をかけられた。
振り返ると一郎の倍の幅もありそうな巨漢がふたりいる。ひとりはスキンヘッドで、もうひとりは長髪だ。共通しているのは全身にある無数の傷だ。それは剥き出しの腕だけでなく、頬にも大きな縫い傷のようなものもある。
この世界には、身体に残る傷などきれいさっぱりと消してしまう魔道薬もあるから、わざわざ顔の傷まで残してあるのは虚仮威しだろう。
また、どことなく顔も似ている気もする。
もしかしたら、兄弟なのかもしれない。
しかも、ふたりとも顔が赤い。
明らかに昼間から酒を喰らっていて、かなり酔っているという気配だ。
とりあえず、魔眼でふたりの能力を覗く。
ドク
人間族、男
冒険者
年齢34歳
ジョブ
戦士(レベル11)
生命力:100
攻撃力:150(剣)
魔道反射の指輪
ベク
人間族、男
冒険者
年齢32歳
ジョブ
戦士(レベル10)
生命力:100
攻撃力:145(剣)
魔道反射の指輪
これは相当のものだ。冒険者ランクも“
しかも、おそらく魔道具だと思うが、“魔道反射の指輪”という得体の知れないものを装備している。そういえば、ふたりとも指に奇妙な飾りと紋様のある銀色の指輪をしている。
いずれにしても、腕の振り一発で一郎など吹っ飛びそうな身体だ。
一郎はぞっとするとともに、なんで一郎に絡んできたのかと不安な気持ちになった。
まわりがざわめている。
その雰囲気から、このふたりが性質のよくないふたり連れだということがわかった。
「なあ、ドク──。俺はこの人間女の方でいいぜ──。ちょっと、この新入りに貸してもらおうぜ」
「だったら、俺はこっちのエルフ娘か? いいぞ──。じゃあ、新入り、ちょっと、この女たちを借りていくぞ」
ドクという男がそう言って、いきなりエリカの短いスカートに手を触れようとした。
一郎はびっくりした。
「な、なにすんのよ──」
エリカが激怒した声をあげて、ドクを蹴り飛ばそうとしたのがわかった。
だが、その動きが一瞬だけ躊躇した。
そういえば、エリカには、一郎の悪戯であの短いスカートの中の下着を取りあげて、ノーパンにさせていたのだ。
それを思い出したエリカがちょとだけ、動くのを迷ったに違いない。
だが、その一瞬でドクにとっては十分だったようだ。
ドクはエリカを羽交い絞めにして、エリカの動きを止めてしまった。
「きゃあああ──。は、離しなさい──」
エリカが悲鳴をあげた。
さすがのエリカもこの巨漢にまともに抱きつかれては抵抗などできない。
「こ、この──」
エリカが形相を変えた。
魔道か──?
エリカは杖なしでも、そこそこの魔道を遣える。エリカは魔道を迸らせて、ドクを振りほどこうとしているのだろう。
だが、さっき魔眼で見えた“魔道反射の指輪”というアイテムが、なんとなく気になる。
一郎はとっさに、エリカをとめようと思った。
「ぐあああ──」
次の瞬間、ドクに抱きつかれているエリカが絶叫するとともに、がくりと身体を脱力させた。
「わははは──。俺に電撃の魔道でも食らわそうとしたのか、エルフ娘──? 無駄だ──。どんな魔道でも跳ね返して、逆に術者に打ち戻す防御具をしているのだ。自分の電撃にあてられたのだろう?」
ドクが大笑いしている。
「こらっ、エリカになにすんのよ──」
コゼがさっと動く。
それをすかさず、もうひとりのベクという巨漢がそれを身体を入れて邪魔をした。
「邪魔よ──」
コゼがベクの右手をとって捻った。
大きなベクの身体がその場で一回転する。
大きな音がして、ベクの巨体が床に叩きつけられたのが横目で見えた。
一方で、一郎はエリカに抱きついているドクに飛びかかっていた。
ほとんどなにも考えていなかった。
エリカに手を出した男に対する怒りで、なにも考えられないくらいに頭が熱くなっていた。
しかし、なにかが飛んでくるのを感じた。
考えるよりも先に身体が動いた。
咄嗟に避けた顔面にドクの蹴りがかすったのがわかった。
まともには当たらなかったが、衝撃だけでひっくり返る。
天地がひっくり返った。
「ご主人様──」
コゼの悲鳴がした。
だが、まともには当たってない。
蹴りが飛んでくるような勘が動いて、それが一郎の身体をかわさせてくれた。
「おっ、うまく避けたか?」
ドクが愉しそうに笑う。
かっとなった。
床に倒れていた一郎が見たのは、大きな腕で羽交い絞めにして、無遠慮にエリカの身体を触っている巨漢のドクの姿だ。
一方で自分の電撃にあてられてしまったエリカは、その衝撃で脱力してしまっていた。
それをいいことに、ドクは服の上からエリカの胸や腿のあたりを触りまくっている。
その瞬間、一郎の全身にこれまで感じたことのないような怒りが満ち溢れるのがわかった。
「コゼ、手を出すな──」
一郎はすぐさま起きあがると、飛びかかろうとしているコゼを制して、もう一度ドクに向かって飛び込んだ。
一郎の中のなにかがぶっ飛んだ。
怒りで血が沸騰した。
思わず、腰にさげている必撃の剣を握る。
だが、わずかに残った冷静な部分が、こんな場所で剣を振るえば、下手をすれば咎められるのは一郎の方だという理性も働かせる。
一郎は鞘を抜かないまま、腰から剣を外した。
一郎はもうひとりの与太者のベクを倒して、ドクに飛びかかろうとしたコゼを制して、ドクにもう一度飛び込んだ。
眼の前の巨漢に勝てるとか、勝てないとかいう考えはない。
エリカの身体を汚い手で触れているという行為に対して、ただ血が熱くなっていた。
そのとき、目の前のドクの踵の付近がぼんやりと青く光っているのに気がついた。
はっとした。
なにも考えない。
ただ、その青い光めがけて、鞘にしまったままの剣を棒のように振って打ち据えた。
「いたあっ」
ドクが悲鳴をあげて体勢を崩す。
力の緩んだ腕からエリカが抜け出た。
「こ、このお──、くそが」
ドクが真っ赤な顔して、一郎に向かって腕を振りあげる。
右脇に青い光──。
そこを突く。
「ぐあっ」
今度は完全にドクは体勢を崩した。
「よ、よくも、やったわね、この酔っぱらい」
やっと意識をはっきりさせたエリカが、そのドクの顔面に拳を叩き込んだ。しかも、受け身が取れないように、横にいたコゼが手を伸ばして、ドクの腕を固めて頭が下にくるように腕を固めてしまっている。
受け身なしに頭を床に叩きつけられたドクは、呻き声をあげただけで完全に床に崩れ落ちた。
「ロ、ロウ様、怪我は──?」
すぐにエリカが駆け寄ってくる。
「だ、大丈夫だ……。お前こそ……」
一郎は息を整えながら言った。
ドクの装備していた魔道具の指輪で、自分の電撃を逆に浴びることになったエリカこそ、まだ身体がだるそうだ。
それにしても、さっきの青い光はなんだったのだろう……?
そういえば、以前にも同じようなことがあった。最初はルルドの森でエリカが妖魔に襲われていたときであり、二度目は同じルルドの森でアスカの影に追ってこられて、エリカが拷問を受けていたときだ。
いずれも、一郎は強い怒りのような感情に支配されていた。
そして、そのときの青い光は、自分の危機というよりも、性奴隷として支配したエリカの危機のときに発動した。
これも淫魔師としての力なのだろうか……?
それとも、魔眼?
そして、気がついた。
いつの間にか、一郎たち三人と、ひっくり返っているドクとベクの周りを大勢の冒険者たちが囲んで人垣を作っている。
一瞬のことで呆気にとられていた雰囲気だった彼らが、一斉にわっと喚声をあげた。
「ご主人様、エリカ、大丈夫ですか?」
コゼもやってきた。
そのとき、大きな拍手がして、一郎たちに集まりかけていた人の輪が割れた。
そこに現れたのは、身体の線にぴったりの革の上下を身につけたひとりの女性だ。
最初は、元の世界における小学生くらいの年齢なのかと思った。
背の高さが一郎の半分ほどしかなかったのだ。しかも、童顔で顔も子供っぽい。
だが、醸しだす雰囲気は妙齢の女性だ。また、少し肩幅が少し広いのを除けば、身体つきもスマートだ。身体の大きさの割には乳房が大きく、革のスーツの胸の部分には、見事な谷間を作っている。
胸の大きさだけは、完全に大人の女性と同じだ。
とにかく、美しい大人の女性を小学生並の背丈に縮小したような感じなのだ。
ミランダ
ドワフ族、女
副ギルド長(冒険者ギルド)
元冒険者
年齢60歳
ジョブ
戦士(レベル40)
ギルド運営(レベル30)
魔道遣い(レベル5)
生命力:200
攻撃力:800
魔道力:100
経験人数:男10
淫乱レベル:B
快感値:300(通常)
やってくる女性を一郎は魔眼で確認した。
ドワフ族──。
人間族が中心のハロンドール王国の中で、エルフ族と並ぶ二大異人種族がドワフ族だ。エルフ族のように、もともとは森林の中で生活をする種族だったが、いまでは、かなりの一族が人間世界に同化しているらしい。
ただ、一郎自身は、これまでドワフ族に接する縁がなく、このミランダが初めてのドワフ族ということになる。
しかも、六十という年齢に驚いた。
エルフ族もドワフ族も、人間族に比して長命であり、エリカにいわせれば、特にドワフ族の年齢はわかりにくいという。
一郎の眼にも、魔眼で六十とわかるミランダというドワフ族の女性が、どうしても童女のようにしか見えない。
これがドワフ族か……。
改めて一郎は感嘆した。
「デルタ・ランクから昇格したロウのパーティね。デルタ・ランクのクエストとはいえ、大ラットを半日で百匹以上も捕まえてきた実力だと報告を受けているわ。実力のあるパーティは大歓迎。あたしは、ミランダ。このハロンドールギルド本部の副ギルド長よ」
ミランダがにっこりと笑った。
笑うと本当に子どものような顔になる。
しかし、声と口調は完全な大人の女性だ。
さらに、胸元の大きな谷間……。
そのアンバランスに戸惑う。
「ちょっと、待っていて……」
ミランダは声をかけて周りに集まっていた野次馬たちを追い払った。
そして、頭を床に打ち付けて、まだぐったりしているドクとベクに近づいた。
右手で握りこぶしを作り、中指に嵌めた大きな指輪をふたりに突きつけるようにした。
「……エルフ族が杖を遣って魔力を増幅させることに対して、ドワフ族は彼ら独特の錬金術で作った貴金属で魔力を増幅させます……。おそらく、あの指輪がエルフ族の遣う杖の役割を果たしているのだと思います……」
エリカが小声でささやいた。
「なるほど……。ところで……」
一郎は上衣の内ポケットに隠しているエリカの小さな下着を丸めたまま、エリカの手に押しつけた。
「……どこかではいてこい──。さっきみたいに、恥ずかしくて動けなくなるようならな」
「ちょ、ちょっと、こんなところで渡さなくても……」
エリカが顔を真っ赤にして、その下着をひったくるようにして手の中に隠した。
そして、きょろきょろと周りを見回して、ほっとしたように息を吐いた。そして、一郎に赤らめた顔を向けた。
「……で、でも、ありがとうございます……」
小さな声で言って、少しだけ頭を下げた。
「いや……」
一郎は首を横に振る。
悪いのは一郎だ。
ちょっと調子に乗っていた。
ここは平和惚けした一郎の元の世界とは違うのだ。
常に死と隣り合わせである剣と魔道の危険な世界である異世界だ。このところ、エリカとコゼというふたりに守られていい気になっていたと思う。
嗜虐欲にかまけて、羞恥責めなんてプレイをしてなければ、エリカはこんな与太男に不覚をとることはなかったろう。
一郎は少しだけ反省した。
あくまでも少しだけだが……。
視線をミランダに戻した。
そのミランダの手に向かって、ドクとベクが首にかけていた金属の細い鎖が浮びあがった。鎖には丸い銀色の金属がぶら下がっていて、それには紋章のようなものが刻まれている。
首飾りのようだ。
「なっ?」
「なんだ?」
ドクとベクのふたりがやっと正気に戻って起きあがった。
だが、そのときにはふたりがしていた首飾りは、ミランダの手の中にある。
「……あれは、ギルドに登録されている冒険者であることを証明する首飾りです。わたしも三公国で冒険者ギルドに登録をしていた頃にはもらっていました。大陸中の各地の冒険者ギルドに自由に入れるほか、あれそのものが手形の代わりになって、自由に旅をすることができるようになります」
エリカがすかさずささやいた。
だが、デルタ・ランクとして登録していたときには、そんなものはなかったから、もしかしたら、チャーリー・ランクにあがったことで、一郎たちもそれをもらえるのだろうかと思った。
「ベク、ドク、あんたらふたりは、デルタ・ランクに格下げよ。今度、騒動を起こせば、厳罰にすると警告していたはずよ。さあ、出ていきなさい──。それとも、叩き出されたい?」
ミランダがふたりの首飾りを握ったまま、両手を腰に当てて睨んだ。
一見するだけでは童女にしか思えないミランダが、巨漢のふたりに凄む光景は奇妙なものだったが、一郎の魔眼には、素手のミランダの直接攻撃力が巨漢の男ふたりを遥かに凌ぐ“800”もあることを見抜いている。
ミランダの実力は、ここでは周知のことなのだろう。
ベクとドクは、ただの冗談だったと釈明めいたことを口にしたが、結局このギルド本部から外に出されてしまった。
それとともに、エリカがどこかにさっと駆け去った。
きっと、一郎が返した下着をはきにいったのだろう。
ミランダは、空いている席に一郎たちを促し、一度奥に引っ込んだ。
だが、すぐに戻ってくる。
エリカもまた帰ってきた。
四人でひとつの卓を囲んだ態勢になる。
「さっきも自己紹介したけど、この本部の副ギルド長のミランダよ。ここで、あなた方のような冒険者の相談役のようなことをしているわ。なにか困ったことがあったら言ってちょうだい──。デルタ支部のテリオのお墨付きだけあって、さすがの実力ね。あのドクとベクの兄弟は、このギルドでも鼻つまみ者だったのよ。何度もほかの冒険者たちとトラブルを起こしていたの。だけど、実力だけはあったのよね──。それを呆気なくやっつけるなんて大したものよ」
ミランダが笑った。
とても気さくな笑顔だ。
「あ、あの……。わたしたちは、チャーリー・ランクにあがったばかりの新米冒険者パーティなんですけど、昇格してきたパーティには、いちいち副ギルド長が対応されるんですか?」
エリカがおずおずと訊ねた。
それは一郎も少しだけ不思議に思った。
冒険者ギルドに登録している冒険者の数は多い。
それをいちいち副ギルド長ほどの人物が面談をするというのは異例ではないかと思った。
「もちろん違うわ。あなた方にはある理由があって、あたしが直接に面談することにしたのよ。少しどんな人物なのか見極めたくてね。なにしろ、冒険者ギルドというのは、依頼されるさまざまな仕事をクエストという任務に直し、それを遂行する人材を供給するということで成り立っている組織よ。つまりは、適材を的確なクエストにあてがうことは大切な要素なの。だから、特に気になるパーティとは、こうやって面と向かって話すことにしているのよ」
「俺たちが気になるパーティということですか?」
一郎は言った。
「そうね。まあ、その理由は説明するわ──。それよりも、冒険者ギルドの掟は知っている? 改めて説明した方がいい? デルタ・ランクには一切の恩恵もない代わりに、なんの義務もないから、テリオは説明をしなかったと思うけど、チャーリー・ランク以上になれば、所属冒険者には権利と義務が伴うわ。知らなければ説明するけど」
ミランダは言った。
何度も思うが、本当にこのミランダは一郎の感覚では“小学校の高学年”の美少女というところだ。
大きな乳房はアンバランスだが……。
だから、そのミランダに偉そうに話しかけられると、とても違和感がある。まあ、それだけの実力があることは、ステータスを覗けば明白なのだが……。
また、こんな童女体型なのに、性の経験は十人もある。
もっとも、六十という年齢であれば、常識的な数だろうが……。
いずれにしても、その十一人目になったら、どんな感じなのだろう。
一郎の心に危ない心が芽生えてくる。
「わたしは以前、ローム三公国で冒険者ギルドに登録していましたから、ある程度はわかります。でも、このロウ様とコゼは冒険者の経験はありません。できれば、簡単に説明してくれればありがたいです」
エリカが口を挟んだ。
ミランダがうなずいた。
身体を動かすと、大きな乳房がぶるぶると揺れる。
一郎はごくりと唾を飲んだ。
「じゃあ、簡単に──。ギルドに登録する冒険者の大きな権利は、ギルドの影響下を及ぼすことのできる土地であれば、どこでも好きなように定住することも、旅をすることもできることよ。証明書はギルドが渡す紋章付きの首飾り。これが身分保障になるの。魔道のかけられた魔道具だから、他人がしても意味はないわ。その場合は消滅してしまう。そういう魔道をギルドがかけているの。だから、身分証明書になるのよ。もうひとつの権利はクエスト。成功すれば報酬が与えられる仕事がクエストして与えられる。それが生活の手段ということね……。次は義務よ。その義務が絶対であることは、以前に登録していたのなら承知ね、エリカ?」
ミランダがエリカに視線を向けた。
「わかります。冒険者ギルドに登録している者はギルドの掟に強く拘束されます。それを怠ったり、無視したりすれば、ギルドは所属する冒険者を裁く権利も持っています。裁きの最高刑は処断です。ほかにもランク降格や権利の剥奪、追放などの刑罰があります」
エリカが応じる。
「そういうことね。代表的な義務は、所属する冒険者は一定期間に定められた数のクエストをこなす必要があるということね……。それを怠れば処罰がある。ほかにも、クエストの失敗を繰り返せばやはり処罰があるし、クエストによっては損害補償金として罰金を取られることもある。払う能力がなければ、奴隷にして売ってでも払わせる。そういうことよ……。ほかにも、チャーリー・ランク以上の冒険者には、城郭が危機に陥ったとき、国王や城主の動員に応じる義務もあるわ。それを嫌がる冒険者は、義務を放棄して、あえてデルタ・ランクに留まる者もまれにいるわ。デルタ・ランクは現実には冒険者ではないけれど、最低限の日雇い仕事の斡旋と城郭内に定住する権利は許されるわ。それで満足する者も多いのも事実ね。あなた方はどうなの?」
「義務には応じます。俺たちは昇格を望みますから」
一郎は言った。
ミランダがうなずく。
「それと、もうひとつの義務は、クエストの強制請負よ。もっとも、これはブラボー・ランク以上の登録パーティだけなんだけどね。普通は各冒険者が自ら選択して応じるクエストだけど、ギルドが請負を特に指示する場合は、それを強制的にやらなければならないという義務もある。まあ、こんなところかしら。質問はある?」
「強制クエストの場合でも、失敗には罰則があるのですか?」
一郎は訊ねた。
「あるわ。自ら選択したクエストと同じよ。ただ強制クエストの場合は、それを決めたギルド職員側にも罰則がある。能力に見合わないクエストを強制させたという罰がね」
「わかりました」
一郎は頷いた。
「じゃあ、冒険者として正式登録ということでいいわね? ようこそ、冒険者ギルドへ」
そして、ミランダは懐から三つの首飾りを取り出した。
さっきドクたちからとりあげたものと同じ銀色の丸い金属がぶら下がっている。
「これは?」
エリカが驚いたような声をあげた。
「どうしたんだ、エリカ?」
一郎はエリカを見た。
「これはブラボー・クラスの紋章です、ロウ様─。チャーリー・ランクは銅、ブラボーが銀、アルファは金色、最高位のシーラ・クラスは白金製の白です。これは、ブラボー・ランクです」
「ブラボー・ランク?」
一郎も驚いた。
ミランダが頬を綻ばせた。
「一気に二ランク昇進は珍しいことじゃないけど、例外には違いないから、こうやって面接しているのよ。本当は、能力を試すようなこともするつもりだったけど、いい具合に、あの馬鹿兄弟がちょっかい出してくれたから、あなたたちの力を見極めることができたわ。あの馬鹿ふたりは、あれでもブラボー・ランクだったのよ。それを手もなくやっつけたんだから、あなた方は少なくとも、ブラボー・ランクの能力があると認めるわ」
ミランダが三個の首飾りを一郎たちに押し近づけた。
それぞれに受け取って首にかける。
「……あたしも冒険者に……。一人前の人間として認められたんですね……。ご主人様のおかげです……」
コゼが控えめながら感無量の口調で呟いた。
「ご主人様? あなた、この女傑に“ご主人様”なんて呼ばれているの? この小さな身体でベクの巨体をひっくり返した技はびっくりしたわ……。確か、登録名はコゼだったわね……。そして、こっちのエルフ族の娘さんはエリカ……。コゼとエリカが猛者であることは、すぐに身のこなしでわかったわ。でも不思議なのはあなた。最初は弱いのかと思ったけど、ドクの急所と隙を見事に突いて倒していたわね。蹴りもうまくかわしていたし……。まあ、とどめはエリカだったけど。不思議な技を使うのね? 少し驚いたわ」
ミランダが興味深そうに笑った。
一郎は弱い。
それは自覚している。
ただ、あのとき、以前にも感じた青い光をドクの身体に感じることができた。それは闘いに際して弱点というよりは、闘う相手に発生する隙のようなものを浮かびあげてくれる能力だと思う。
一郎はそれをただ攻撃しただけだ。
最初に間一髪で避けられたのも奇跡のようなものだ。なにかが飛んでくるという勘がとっさに動いたのだ。
魔眼保持者特有の勘だと思うが、なんで避けられたのか見当もつかない。
「俺は弱いですよ。得意は武術ではありませんし……。俺なんか、このエリカやコゼが本気になれば、瞬殺されるでしょうね」
一郎は笑った。
「だけど、魔道遣いというわけでもなさそうね。それでも、このふたりほどの女が大人しく従っているところをみると、リーダーとしての能力には長けるのでしょうね? 専ら頭脳担当というところ?」
ミランダはかまをかけるように言った。
何気ない会話を装っているが、ミランダが一郎たちを見極めるという作業を続けていることは明白だ。
「彼女たちが俺に従っているのは、もっと本質的なものですよ」
一郎はにこにこと笑いながら言った。
「本質的なこと?」
ミランダは首をかしげている。
一郎はミランダの耳に口を近づけた。
「……俺の得意は房中術です。つまりは閨の技ですね……。ふたりとも俺の与える性愛の技に夢中ということです……」
一郎はうそぶいた。
もっとも、これは本当のことだ。
それにエリカとコゼが一郎の女であることを隠す理由はひとつもない。むしろ、堂々と宣言をしておく方が面倒はない気がする。
「ロウ、ロウ様」
「まあ、ご主人様」
エリカとコゼがあからさまな一郎の告白に焦ったような声をあげた。
「ね、閨の技?」
しかし、意外なのはミランダの反応だ。
百戦錬磨の女副ギルド長のように思えた彼女が、顔を真っ赤にしてたじろぐような仕草を見せたのだ。
意外すぎる初心な反応に一郎の方が驚いてしまった。
だが、ミランダは、慌てたように咳払いして平静を装う。
その態度がものすごく可愛らしい。
そのとき、一郎の眼にはミランダの身体に浮かぶ、たくさんの桃色のもやが見えた。
いまなら、一郎は百パーセントの確率でミランダをいかせることができる。
そう思ったが、さすがに自重した。
まあ、童女にしか見えないドワフ族の女傑が閨でどんな風に泣くのか興味がないといえば嘘になるが……。
いずれにしても、一瞬でも目の前のミランダの優位に立ったことで少し落ち着いてきた。
なぜ、ミランダが一郎たちの能力を見極めてまで、ブラボー・ランクまで引きあげたようとしているのか予想がついたのだ。
さっきミランダは、ブラボー・ランク以上の冒険者パーティには、強制的なクエスト受けの義務があると言った。
それに関わりがあるのだと思う。
「……それで、俺たちをブラボー・ランクに引きあげて、どんな強制クエストを与えようとしているんです? そろそろ教えてください、ミランダさん?」
一郎はにっこりと笑った。
ミランダはまたも目を大きくして驚きの表情を示した。
「……驚いたわね。随分と勘がいいのね……」
ミランダが感嘆の息を吐きながら言った。
「それだけは自信があります、ミランダさん」
「ミランダよ……。今度、このあたしに丁寧な言葉遣いをしたら、副ギルド長権限で処断するわよ」
ミランダが言った。
今度は一郎が当惑する番だった。
ミランダがにっこりと笑った。
「新米のあなた方指名のクエストが一件入っているわ……。一応は依頼人の希望を尊重するのが決まりだけど、ただ、このクエストはわたしは少なくともブラボー・ランク以上の案件だと判断している。だから、ほかの熟練のパーティに回すつもりだった……。もしも、あたしの目にあなた方がかなわなければね」
「それで結論は、ミランダ?」
一郎は言った。
「合格よ。強制クエストを発動するわ。依頼人はマイム市に住居するトーイという青年。依頼内容は、彼の婚約者を彼の元に連れ戻すこと。そのために、彼と一緒に行動して欲しいそうよ。成功報酬は金貨三枚。彼はあなた方を指名しているわ」
「トーイさんが?」
声をあげたのはエリカだ。
一郎もびっくりした。
「請負いパーティの指名は珍しいことじゃないけど、デルタ・ランクに所属していたパーティを指名してきた依頼は今回が初めてよ。まあ、いまはブラボー・ランクだけどね……。いずれにしても、なんでも初めてづくしのパーティね」
ミランダが微笑んだ。
「そりゃ、どうも」
一郎は肩をすくめた。
それにしても、トーイが……。
煮えきらない男だったが、なにか思うことがあったか?
それとも、やっと腰をあげる気になったか?
「ただし」
すると、急にミランダが真顔になった。
「……このクエストに限り、失敗しても咎めはない。危ういと思えばやめなさい。依頼人は隣室に待たせているわ。この奥よ。いきなさい」
ミランダは言った。
どうやら、ミランダもある程度の事情を承知している気配である。
一郎は頷いた。