※この作品はR-18です。

【2025.9.5コミック発売】異世界で淫魔師ハレム【完結】   作:ドン・ドナシアン

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422 冒険者ギルド長の困惑

 エランド・シティの冒険者ギルドのギルドマスターのエビデスは、喧噪で目を覚ました。

 

 まだ、外が騒がしい……。

 

 エビデスは、ギルドの三階に私室を持っていて、そこで寝泊りしていた。

 夕べから続いている騒動は認識している。

 果たして、窓を覗くと、上層地区からやって来たらしい水晶軍の集団がいまだに外の通りを動き回っている。

 

 何事なのだろうか……?

 時間を確かめる。

 夜ではあるが、そろそろ夜が明ける。そんな時間だ。

 

 夕べから動き回っているエルフ兵の集団は、その服装で、下層地区に駐屯している警邏(けいら)隊ではなく、上層地区からやってきた正規軍のようだ。

 上層地区の軍が下層地区に派遣されること自体珍しいのだが、あのような大袈裟な行動など尋常なことではない。

 見ている限りにおいては、なにかを捜索しているような動きである。

 

 エルフ族は夜目が利く。

 夜とはいっても、大して探し物をする障害にはならないが、まだ、朝にはほど遠い時間ではない。明るくなるのを待てぬほどに、重要な事態が生起したということだろう。

 そして、あれほどの多くの水晶軍のエルフ隊が動くということは、太守代理をしているカサンドラが直接の指示をしているのは間違いない。

 

 もしかして、「あれ」だろうか……?

 エビデスは、数日前に太守夫人カサンドラの家人を通じて、ギルドに依頼をされた「あるクエスト」のことを思い出していた。

 

 エビデスは、ドワフ族である。

 エルフ族が主体のエランド・シティで、ドワフ族の冒険者ギルド長をやっていくのは、かなりの軋轢もあるのだが、一応はうまくやっている。

 国との繋がりよりも、それぞれの地域ギルドの横のつながりを重視する冒険者ギルドにとっては、執政からある程度の独立する特権を保持することがなによりも重要であり、あの手この手でそれぞれの地方ギルドは、独立勢力という特権を確保するための努力をしている。

 ハロンドール王国のように、王族をギルドマスターに受け入れ、ギルドの力の一部を渡すことを条件に、冒険者ギルドの独立を確保するところもあるし、三公国のように冒険者ギルドというよりは、三公国に匹敵する政治的な四番目の勢力として、駆け引きや調略によって自己の権利を守っている場合もある。

 一方で、エルニア魔道王国などは、ギルドマスターが世襲であり、かつ、大貴族であって、王族との何世代にもわかる婚姻関係により、揺るぎない立場を保持をしている。

 地方によりそれぞれだし、時代によっても変わってくる。

 変わらないのは、ギルドはあらゆるものから独立して、ギルド相互の関係をなによりも重視するという鉄の掟だ。

 所在する国ではなく、ギルドの横の繋がりを守る力を保持する──。

 それが冒険者ギルドだ。

 もっとも、それは建前だ。

 実際には、普段では必要ではない横の繋がりよりも、それぞれの土地におけるしがらみの方が重要だったりもするのは事実だ。

 現実は現実だ……。

 エビデスは、誰よりも現実を知っているつもりだ。

 

 そもそも、地方ギルドとして、もっとも新しいナタル森林のギルドは、それほどに権力に喰い込んでいるわけじゃない。

 このナタル森林の冒険者地方ギルドの特権を守っているのは、その中心となるエランド・シティにある本部長のエビデスとエランド・シティの太守夫人カサンドラとの個人的友誼でしかない。

 ふたりの友情が太守夫人カサンドラをして、ナタル森林で唯一のこの冒険者ギルドの権威を保証してくれているのである。

 

 実は、病床で起きることのできない太守に代わり、事実上のシティの太守である太守夫人カサンドラとは、まあ昵懇と言っていい仲だ。

 かつて、エビデスがもっと若く、冒険者をやっていた時代に、彼女の依頼するクエストを何度か解決してやったことがあり、それが縁で個人的な付き合いができたのだ。

 そのクラストには、森を出ていって、町エルフになってしまった太守夫人カサンドラの娘たちのトラブルの解決に関することも含めれている。

 そんな縁があったので、エビデスが冒険者を引退して、ナタル森林で最初にできたこのエランド・シティ一のギルドマスターに就任したときには、たくさんの便宜を図ってくれた。

 いま、こうして、ナタル森林の各地に冒険者ギルドを展開することができたのも、太守夫人カサンドラとの友情のおかげだと思っている。

 

 もっとも、上層地区にある水晶宮にいる太守夫人カサンドラと、下層地区のギルド本部に位置するエビデスとでは、それほどの密接な付き合いがあるというわけでもない。

 いまでは、ギルドマスターとしての面談を除けば、個人的に会うのは、年に一度か二度、太守夫人カサンドラの個人的な夜会などに招かれて訪問するくらいのことだろうか。

 それも、この数年については、疎遠が続いているが……。

 

 エビデスは、とりあえず情報を得るために、部下に指示を出そうとした。

 夜中も開いている地域ギルド本部もあるが、エランド・シティの下層地区にある冒険者ギルドは、深夜前には閉鎖し、翌朝開けるということをしている。

 下層地区の住民は、ほとんど夜中は活動をしないからだ。

 

 そのときだった。 

 部屋の扉が廊下側から荒々しく叩かれたのだ。

 返事をすると、当直の若い人間族の職員が血相を変えた様子でそこに立っていた。

 

「どうした? なにかあったか?」

 

 エビデスは、その職員の名を呼んだ。

 

「ギルマス──。大変です──。侵入者です」

 

 その職員が怒鳴った。

 エビデスは驚いてしまった。

 

「侵入者? まさか──」

 

 絶句してしまった。

 あり得ないことだ。

 余所はいざ知らず、下層地区の冒険者ギルドといえば、そこらの行政府の施設よりも、余程に厳重な侵入者避けの警戒設備を設置している。

 ここに、侵入者がやって来るなどあり得んことだ。

 

「それで、捕らえたのか?」

 

「いえ、それが……」

 

 部下が説明をした。

 それによれば、封印しているはずのギルド本部の鍵を解除して入ってきた侵入者は、外の騒動を警戒して職員の宿泊用の部屋ではなくロビーに詰めていた職員を見つけると、すぐに保護を申し出たのだという。

 入ってきたのは、黒エルフと小柄な人間族のふたりの若い女であり、そのうちの人間族の女が、(アルファ―)ランクの冒険者の印である紋章入りの首飾りを持っていたのだそうだ。

 また、ギルドにある魔道球でも、彼女たちがギルドに登録されている冒険者であり、確かに、彼女たちの属しているパーティリーダーが(シーラ)ランクの冒険者であるとも判定したを説明した。

 つまりは、彼女たちは、Sランクパーティに属する冒険者ということだ……。

 

 そうであれば、ギルド法に基づき、保護を求めたSクラスの冒険者については、絶対の保護を与える義務がエビデスには生じる。

 Sクラス冒険者が救助を求めながら、それを断ったりすれば、そのギルドは、ギルドの繋がりから断絶されるだけでなく、関係するすべてのギルド員の処断命令が大陸中のギルドに共通クエストとして流される。

 ギルドによる死刑宣告だ。

 部下が慌てた様子でエビデスに指示を仰ぎに来た理由はわかった。

 エビデスは廊下に出て、一階のロビーに向かった。

 

「……それで、ふたりの様子は?」

 

 歩きながら訊ねる。

 この深夜に冒険者ギルドの潜入して、突然に保護を求めるなど尋常じゃない。

 しかも、外の喧噪だ。

 エビデスでなくても、下層地区で起きている大規模なエルフ軍の捜索と、そのふたりがなんらかの関係があることはわかる。

 厄介なことになったものだ……。

 

「ひとりは大怪我を……。低級ポーションで応急処置をした形跡はありますが、拷問を受けた形跡があります。もうひとりは、全身が汗びっしょりで、痙攣のような震えをしていて……。あるいは毒を盛られているかと……。その治療もふたりは求めています」

 

 エビデスの問いに対して、部下が低い声で返した。

 

「そうか……」

 

 エビデスは溜息をついた。

 とりあえず、エビデスは武器を手に取って、一階のロビーに向かった。

 

 果たして、ロビーには昏睡した様子の二人の女がいた。

 ふたりは準備されていた椅子に身体をもたれさせるように座っていて、その周りを五人ほどのエビデスの部下が囲んでいる。

 ふたりのうち、ひとりは黒エルフであり、全身に汗をかいて小刻みに身体を震わせている。それだけでなく、顔が赤く時折苦しそうに身体を悶えさせる。

 しかし、その仕草がなんとも色っぽい。

 

 また、もうひとりは小柄な人間族の女だ。

 こっちも美女だが、全身が血だらけだ。

 そして、血はとまっているものの、足に穴が開けられていたような無残な痕がある。

 

「あ、あんたが……責任者……? あ、あたしはイライジャ……。ギ、ギルド法に基づく保護を求める……。それと治療を……。さらに緊急クエスト……」

 

 口を開いたのは黒エルフの女の方だった。

 確かに、全身が真っ赤でかなりの汗をかいている。いやらしく腰を動かしているのが妙に気になるが……。

 

「緊急クエスト?」

 

 保護と治療はともかく、つけ足された意外な言葉に、エビデスは思わず言葉を繰り返してしまった。

 

「はあ、はあ、はあ……。そのSランクパーティに属する冒険者のイライジャの権限による……き、緊急クエスト発出よ。ギ、ギルド法の……二十一条……Sランクの冒険者に与えられる権限に……緊急クエストの発出権がある……。あんたは従わなければならない……」

 

 黒エルフが荒い息をしながら言った。

 

「話を聞いてからだ」

 

 エビデスは舌打ちをしたくなるのを我慢して、それだけを返した。

 

「とりあえず、個室に……。外はあれだけの騒ぎだ。そのうち、一軒一軒、建物まで探し始めるかもしれん」

 

 エビデスは言った。

 だが、コゼと名乗った女が首を激しく横に振った。

 

「ク、クエストを授受してからよ──。あ、あたしの仲間を保護して──。ロウ=ボルグ、エリカ、シャングリア、ミウ、マーズ、そして、それに同行しているイットという獣人の少女よ。全員を安全に保護して、ギルドで責任をもって匿うこと──。依頼料は金貨十枚──。手形で手続きを……」

 

 金貨十枚──。

 ただの身柄の保護に対して支払う依頼料としては常識外れだ。

 だが、それに見合う仕事だと、このイライジャは認識しているのだろう。

 それだけ、危険な状況ということだ。

 また、手形というのは、どこかの冒険者ギルド、あるいは、商業ギルドなどに持ち金を預けておき、「手」に魔道をかけて、特殊な魔道具でどこであろうとも、それを保有していることを証明できるようにしたものだ。

 実際に金を持ち歩くよりも安全だし、身軽なので多くの冒険者はそれを使用している。

 手形で証明ができれば、世界のどこのギルドでも、自分の預けた金を引き出すことができる。

 十年ほど前に開発された魔道制度であり、あっという間に大陸中に拡がった。

 便利なものだ。

 

 それはともかく、エビデスはやはり、自分の嫌な予感が的中していたことを悟った。

 たったいま、コゼが口にした者たち……。

 その中に、先日、太守夫人カサンドラがエビデスに依頼してきたクエストの対象となる人物があったのだ。

 

 ロウ=ボルグ……。

 エリカ……。

 

 そのふたりこそ、太守夫人カサンドラが冒険者ギルドに依頼をしてきたクエストの対象人物──。

 手段は問わないので、ふたりを捕えて欲しい。

 

 それが家人を通じた太守夫人カサンドラからの依頼だったのだ。

 彼女の頼みであれば、なによりも優先してクエスト受領をしたかったが、それはできなかった。

 すでに、それに相反するクエストがほかの地方ギルドから、最重要クエストとして転送されてきていた。

 

 通常のクエストであれば、依頼を受けたギルドの窓口のみで完結するクエスト扱いとなるが、一個のギルド支所どころか、地方ギルドを飛び越えて、全ギルド共通の最重要の緊急クエストとして、あるクエストが発信されていたのだ。

 それは、全世界のギルドを結ぶ魔道球を通して伝えられてきた。

 滅多にないことであり、さすがにエビデスも記憶していた。

 

 その重要クエストの内容は、「Sクラス冒険者であるロウ=ボルグとその仲間のパーティを保護して、必要であれば救助の手を差し伸べること。そして、魔道通信の内容を伝えること」──。

 

 そうあった。

 しかも、魔道球からの情報によれば、そのロウ=ボルグという男がリーダーのパーティがいると思われている場所が、このナタル森林域であり、エビデスはそれを処置する必要があったのだ。

 

 もっとも、そのロウが訪れる場所として流れてきたのは、このエランド・シティではなく、褐色エルフの里と呼ばれる肌の黒いエルフたちが集まって作っている集落だった。

 エビデスは、だったら、こっちでできることはなにもないなと判断した。

 ほかの地域の冒険者クエストとは異なり、ナタル森林には、このシティにあるギルド本部のみだ。

 横の連携などない。

 冒険者ギルドのロビーに張り紙をして終わりにした。

 それが五日ほど前──。

 

 そして、その日の午後、驚いたことに、太守夫人カサンドラの家人がやって来て、そのロウの捕獲を依頼してきたのだ。

 緊急クエストとして発信されているものに相反するクエスト依頼については拒絶するしかなく、その理由も語ることはできなかったが、とにかく驚いたものだ。

 

 さらに今夜──。

 

 このエランド・シティの深夜の大騒動と、突然にやって来たロウの仲間であるふたりの女──。

 

 なんという日だ……。

 

「ど、どうしたのよ……。こ、こっちは……S冒険者パーティよ……。じ、事情なしに、Sランクの緊急クエストを拒絶できないはずよ……。ギルド法の……」

 

 黒エルフが険しい表情でエビデスを睨みつけてきた。

 エビデスの沈黙を彼女たちの申し出の拒否として誤解してしまったのだろう。

 それにしても、息が荒く、自分の身体を抱くようにしている彼女は、とても艶めかしい。

 毒というよりは媚薬……?

 エビダスは、ぴんときたが、まあ、媚薬もある意味で毒だ。

 毒消しのポーションで身体を癒すこともできると思う。

 しかし、どうするか……?

 こいつらを保護すれば、明らかに、シティ内の水晶軍を敵に回すことになる。ほかの地域の冒険者ギルドとは異なり、ここでは力のないナタル森林ギルドなど、水晶宮に逆らう力などない。

 ギルドが潰されるどころか、下手をすればエビデス以下の全員が捕縛されてしまう。

 なくなってしまったところで、遠いほかの国のギルドなど、エビデスたちを守ってくれないだろう。

 

 どうする……。

 とにかく、話を聞くしか……。

 

「いや、ギルド法は承知しておる。繰り返す必要はない。ただし、そのクエストは受けられない……」

 

 エビデスがそこまで喋ったとき、コゼがもの凄い表情をして立ちあがった。

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