【2025.9.5コミック発売】異世界で淫魔師ハレム【完結】 作:ドン・ドナシアン
「いや、ギルド法は承知しておる。繰り返す必要はない。ただし、そのクエストは受けられない……」
エビデスがそこまで喋ったとき、コゼがもの凄い表情をして立ちあがった。
百戦錬磨のエビデスが思わず怯えるほどの殺気だった。
エビデスは慌てて、言葉を継いだ。
誤魔化す必要があった。
「違う──。そうではない。同じ内容のクエストをすでにギルドで扱っている。ロウ=ボルグをリーダーとする冒険者パーティを保護せよというクエストをね。もしも、あなたたちがそうなら、もちろん、あなた方ふたりについても、仲間についても、絶対の保護も約束する」
すでに確認はほぼ終わっているが、それを口にする必要はない。
エビデスはそれを隠した。
「同じ内容の……クエスト?」
疑念の言葉を返したのは、黒エルフの女だ。
しかし、エビデスの肚はほぼ決まっている。
だが、迷っているのも本当だ。
「まだ、クエストを受けたパーティはいないが、君たちの保護について、最重要の緊急クエスト要請がかけられていて、ギルドとしては、すでにそれを受けている。異例だが、ギルド長である俺がクエスト受領者になろう。ギルドの責任において、君たちを守る」
エビデスははっきりと言った。
ふたりの顔に安堵の色が浮かぶ。
エビダスは、部下に指示をしてポーションを持ってくるように告げた。
ふたりを促して、ギルド本部の個室に促す。
部屋に入ると、ほとんど倒れ込むように、ふたりとも椅子に倒れ込む。
エビデスは、残っている椅子に腰かけた。
「……とにかく、事情を聞こう。それと、君の仲間はどこにいる。外にいる連中が捜しているのは、おそらく、ロウという君たちのパーティリーダーとエリカという女のはずだ。危険な状況にあるというのは間違いない。しかし、君たちの仲間を保護しようにも、我々はふたりの居場所も顔もわからない」
最初は、外のエルフ兵の捜索の対象がこのふたりなのかと思った。
ふたりはおそらく、エルフ軍のどこかで捕えられていたのではないだろうか。
だが、なんらかの手段で脱走した。
それで、逃亡した彼女たちを捕まえるために、大規模な捜索が開始されたのだろうと考えた。
しかし、ふたりが、数日前に太守夫人カサンドラから伝えられたロウとエリカという者の仲間だというなら、話は少し違ってくる。
おそらく、外の連中は、太守夫人カサンドラの命令を受けて、ロウとエリカというふたりを懸命に探しているのだ。
ふたりが捕らわれていたとすれば、目の前のふたりが、そのロウたちの仲間だからだと思う。
拷問を受けた様子なのは、ロウたちの居場所を吐かせようと、エルフたちが拷問をしたのかもしれない。
ふたりを匿うということは、カサンドラの意向に逆らうということだ。なにしろ、カサンドラが個人的なクエストとして、ロウ=ボルグの捕獲を依頼してきたのは事実なのだ。
「コ、コゼ、信用しよう……。ギルドの掟は絶対よ。ギルドは一度受けたクエストのことであれば、たとえ、国そのものが敵になったとしても、信頼を裏切らない。それができなければ、ギルドはギルドで足りえないのよ」
黒エルフが言った。
すると、コゼが納得したように小さく頷いた。
「……ご主人様は、宿屋地区にいるはずよ。でも、この騒ぎだから、もうどこかに隠れているかも……。ただ、ご主人様は黒髪で背格好は普通。女たちはエリカも含めて、無駄に目立つくらいに美女揃いよ。すぐにわかると思うわ。これだけ、捜索を続けているということは、まだ見つかっていないということよね……」
コゼが仲間の特徴を説明しはじめた。彼女が“ご主人様”と呼んだのが、ロウという男のことのようだ。
エビダスは、《現出の魔鏡》という魔道具を持ってこさせる。
思い描いた映像を鏡に映しだすことができるという魔道具だ。
コゼに手渡すと、鏡の中に目の前のコゼたちを含めて八人の男女が浮かびあがった。
八人のうち、中心にいる唯一の男がロウなのだろう。エリカはどれかと訊ねると、残りの七人の女の中で一番美しい顔立ちをしているエルフ美女をコゼが指さした。
この女がエリカなのだと思った。
それにしても、なぜ、ふたりは追われているのだろう?
しかも、これだけの軍を使ってでも、捕らえようとしているのはなぜなのだ……?
「みんなを保護して……。約束よ……。じゃあ、あたしたちは行くわ……。さあ、イライジャ……」
コゼが黒エルフを促した。
黒エルフの名はイライジャのようだ。
それはともかく、ふたりは立ちあがって、いまにも出ていく気配だ。
エビダスはびっくりした。
「どこにいく──。外はこの騒動だぞ?」
エビダスは言った。
だが、イライジャというらしい黒エルフが首を横に振った。
「……捕えられて拷問を受けたの……。それだけじゃない。わたしたちの身体には、居場所を追跡するようななんらかの仕掛けをされている可能性がある。だから、ここにはいられない……。わたしたちはエランド・シティを出るわ。ここに立ち寄ったのもわかっていると思うから気をつけてね。ただし、向こうは、わたしたちを泳がせて、ロウたちに合流するのを待っていると思うわ。だから、わたしたちが動き回っているうちは、それまでちょっかいは出さないと思うけどね……」
イライジャの言葉にエビダスはびっくりした。
そして、急いで魔道探知をした。
確かに、かすかだが、ふたりの身体に魔道具の気配がある。
その部位もわかった。
エビダスは舌打ちした。
ならば、ここに隠しておけばすぐに発覚するかもしれない。
ただ、一応は魔道具から魔力が発散しないように処置にして、追跡はできないようにはなっているみたいだ。
もっとも、単にそう見えるだけなのか、本当に探知具の無効化に成功しているかはわからない。
「なるほどな……。だったら、それを外す方法を考えよう……。任せろ。魔道で外せると思う。とにかく、その身体をなんとかしないとな……。いずれにしても、ギルドには、行政府と結んでいる協定がある。ここをギルドの許可なく捜索はできん。お前たちのことは守ろう」
エビダスは断言する口調で告げた。
コゼが困惑した表情になり、そして、イライジャに視線を向ける。
イライジャは、少しのあいだ思念したのち、エビダスの顔をじっと見つめたまま口を開いた。
「……信用していいのね?」
「信用しろ」
エビダスの言葉に、イライジャが頷いた。
「エビダス様……」
そのとき、屋側からギルド職員が現われた。
指示の通りだ。
十本ほどのポーションを入れた容器を持っている。指示の通りだ。ただし、すべてにラベルはついていない。
ここの職員にしかわからない記号がついていて、ほかの者には判別不能だ。
「飲むといい。まずは毒消しだ。それは毒だろう?」
受け取ったポーションから、ひとつを選んでイライジャに渡す。
ひったくようにして、彼女がポーションを口にする。
「あ、あああっ、た、助かったわ……。な、なくなった。かゆみ……、いえ、毒が消えたわ……」
イライジャは感極まったように言った。
余程嬉しいのだろう。
エビダスは苦笑した。
しかし、エビダスは、ふと思い出してしまった。
ふたりの保護とともに受けているのは、ロウたちに対する伝言だ。
数日前に届いたもので、伝言球という特殊な伝達用の魔道具だ。
ただの白い球体だが、宛先の対象人物が握ると、伝言が相手の頭の中で流れるのだ。
ただし、ほかの者が握っても、なんの反応はしない。
そういうものだ。
こっちは渡すか……。
伝言球があるというと、ふたりとも怪訝な顔をした。
とりあえず、部下に持って来るように指示をする。
「……そういえば、わたしたちを保護するように依頼した相手は誰なの? 緊急クエストだと言っていたようだけど……」
イライジャが訊ねた。
依頼人のことについて不用意に情報を洩らすことは、本来であればご法度だが、保護される本人たちであるから問題はないだろう。
「あんたらの保護は、ハロンドール王国の王都から依頼されている。依頼人は、ハロンドール王国の王都ハロルドの冒険者ギルドの副ギルド長だ」
エビダスは記憶を思い起こしながら言った。
「ミランダが──?」
「なんで?」
コゼとイライジャは同時に声を出した。
知り人ではあるようだが、ふたりにとっては意外な依頼人だったようだ。
「ギルマス、これです」
部下が伝言球を持ってきた。
それを手渡す。
これが反応すれば、ふたりがクエストで依頼されている保護の対象人物だという証拠だ。まあ、魔道球でも身元を確認しているので間違いはないが……。
エビダスは、しばらく近寄らないように指示をして、部屋に三人になった。
一方で、コゼとイライジャは、ふたりで伝言球をぎゅっと握った。
伝言球が反応したのがわかった。
エビダスには聞こえないが、ふたりの頭の中に伝言が流れ出したのだろう。
ふたりの表情がさっと変化する。
しかし、だんだんとコゼとイライジャの顔は険しいものに変っていった。
伝言球が反応を終わったとき、ふたりの眉間にはくっきりと皺が寄っていた。
「……イライジャ、どういうこと? あんたの頭の中にも同じものが流れたの? アネルザ様が捕らえられたって、あたしの方では言っていたわ。ご主人様には手配書が回っていて、入国次第に逮捕するように命令されているって……」
「こっちも同じよ。本当にミランダからなの、これ?」
ふたりは信じられないという口調だ。
どんな内容なのか不明だが、それほどに意外なものだったようだ。
だが、それよりも、さっきから気になるものがあった。
ふたりが、依頼人の相手をミランダと呼んだことだ。
クエストの依頼人も、伝言球を送ったのも、ハロンドール王国の王都にある冒険者ギルドの副ギルド長ではあるが、名前が違うのだ。
だから、そう言った。
すると、ふたりとも目を丸くした。
「どういうこと? 副ギルド長はミランダよ」
コゼが言った。
だが、エビダスは否定した。
依頼人は、ハロンドール王国の副ギルド長には違いないし、立場を偽称することのできない方法で、クエストが流れている。
ハロンドール王国の冒険者ギルド本部は、副ギルド長が事実上のギルド長だ。
その権限でなければ、緊急クエストはかからない。
だから、ギルドの魔道が、このクエストを緊急クエストとして受け入れたということは、送り主は副ギルド長に間違いはないということだ。
そして、この方法の場合は、絶対に名前を偽称できない。
絶対にだ──。
「そうは言われても、依頼人となっている相手は、副ギルド長に間違いはないが、ミランダという名ではない。依頼人の名は、サキ。そうある。よくはわからないが、あんたらがその王都にいたときは、ミランダという人物が副ギルド長だったというのであれば、なにかの理由で、そのサキという人物に副ギルド長が交代したということではないかな」
エビダスは自分の考えを口にした。
「サキ? どういうこと?」
「サキって、ロウの女のひとりの寵姫とかいう女? それとも、違う人?」
「知らないわよ。あんたの頭に入ってきた言葉しか、こっちにも情報ないわよ。多分……」
ふたりが途方に暮れたような表情になった。
「……とにかく、今度は身体を回復させるポーションだ。ふたりとも飲め」
エビダスは箱から次のポーションを取り出して、ふたりに渡す。
さっきの毒消しは本物なのだから、こっちのポーションについても疑うことはないだろう。
ふたりは、すぐに「ポーション」を飲み干した。
ふたりが椅子に身体を倒したのはすぐだった。
ほぼ一晩拷問を受けた身体で逃げ回ったに違いなく、無理もないことだ。
もちろん、ふたりに渡したのは、回復薬でもなんでなく、睡眠効果のある薬液だ。
エビダスは、話の流れにより、助けるか、見捨てるかを決心するつもりで、回復薬も睡眠液も、両方を持ってくるように指示していた。
そして、選んだのが、睡眠液ということだ。
あっという間に、ふたりが寝息をかきだしたのを確かめて、エビダスは準備していた魔道の護符をふたりの真ん中に貼りつける。
移動術の護符だ。
転送先は、城郭の広場でいいだろう。
そこに放り出せば、すぐに軍に捕まるに決まっている。
あとは、知らぬ存ぜぬで過ごせばいい。
ふたりは保護を求めてやって来たが、治療をするとどこかに出ていった。
さっき、小柄な女、すなわちコゼの方が自ら口にしたし、それはほかの職員も耳にした。そして、この部屋に移っていまは、三人だけだ。
エビダスが描いたシナリオはそういうことだ。
ここを守るため……。
ギルドの掟は大切だが、まずは出来たばかりのギルドを維持することこそ、重要視しなければ……。
エビダスは魔道の護符に魔道を注いだ。
ふたりが光に包まれる。
そして、誰もいなくなった。