【2025.9.5コミック発売】異世界で淫魔師ハレム【完結】 作:ドン・ドナシアン
ニーナの唄が響いている。
だが、それはステファンの知っているニーナの唄とはまったく別のものだ。声に張りがなく、あの独特の感情の抑揚も失われている。
また、多くの客がニーナに注目しているものの、彼女の唄にはまったく興味を抱いていないのがわかる。
それも悔しい。
彼らが愉しんでいるのはニーナの声ではなく、首輪を嵌めただけの完全な裸身で唄を歌わされている歌姫の惨めな姿であり、羞恥と媚薬の火照りに全身を真っ赤にしているニーナの憐れな状況だ。
女伯爵のドルニカの主催している晩餐会だった。
男客もいれば、女客もいる。
人数は五十人くらいだろう。
共通するのは、集まっている客たちの全身が顔の上半分を隠す仮面をしているということだ。
この中で素顔を晒しているのは客たちの真ん中にいるニーナだけだ。
ステファンがニーナを見るのは十日ぶりだ。
十日前──。
あのニーナを最後に見たのは、ニーナの幼馴染であり、元婚約者のトーイという青年の働くマイムの城郭の安宿だ。
ニーナは歌姫として、この王都で、ステファンのような家人を雇い、屋敷を構えるほどの身分になりながらも、あの安宿のことを大切にしていて、月に一度は必ず泊まりがけで、そこに唄を歌いに行っていた。
十日前も、月に一度の訪問日であり、ニーナの執事でもあるステファンは、ニーナを出迎えるために、マイムまで馬車で行ったのだった。
しかし、その日、ニーナはトーイが何者かに命を狙われたと狼狽えていて、トーイの危険が去るまで絶対に王都には帰らないとステファンに告げたのだ。
ステファンは驚愕した。
しかも、ステファンが敬愛するニーナが、そのトーイという青年にまだ未練があるのは、さすがに薄々わかっていた。
だから、ニーナがトーイのために、あんなに動揺しているのに接したときは、怒りで腹が煮え返りそうにもなった。
いずれにしても、名目ではステファンの主人はニーナであり、ニーナの屋敷の執事業務と、彼女の歌姫としての活動の管理が任務だ。
ニーナの指示には従う義務がある。
仕方なく、ステファンは王都にひとりで帰り、しばらく王都には戻らないと宣言したニーナの命に従い、予定をされていた多くの唄会の仕事を中止するための業務に翻弄していた。
無論、事の経緯は正直にニーナのパトロンであるドルニカ夫人にもすぐに伝えた。
実は、ステファンはニーナに仕える執事であるが、本来の雇い主はドルニカ伯爵夫人なのだ。
歌姫となったニーナの公私の管理を任されており、ニーナがしばらく唄をやめるなどということは、すぐにドルニカに報せる義務があった。
もっとも、ステファンも、それがこんなことになるとは夢にも思わなかった。
ステファンがドルニカにすぐに一報したのは、ニーナが唄会を勝手に中止したことをドルニカが怒り、ニーナから唄を取りあげるような事態に陥らないようにするためだった。
ニーナの唄は芸術だ──。
素晴らしいものだ──。
それを失わせてはならない──。
その一心だった。
ステファンの本当の雇い主はドルニカだが、ステファンの心はニーナの唄にある。
あの素晴らしい唄という芸術にすべてを捧げる──。
そのつもりだった。
ニーナを裏切るつもりは露ほどもなかった。
まさか、こんなことになるとは……。
ステファンは変わり果てたニーナの姿と、すっかりと声がかげった唄に仮面の下で涙をこぼしかけた。
「……どう愉しんでいる、ステファン? 長くあんなただの町娘に執事として仕えてくれたご褒美よ。今夜はうんと愉しんでちょうだい──。お前には、本来相応しい新しい職務を準備するわね」
ステファンは振り返った。
それは美しいドレスに身を包んだドルニカだった。
ステファンは慌てて姿勢を正した。
「こ、これは奥様……。こ、今夜はいつもに増してお美しく……」
ステファンはありきたりのお世辞を口にした。
だが、本当に言いたいのはニーナのことだ。
ニーナの扱いを中止させ、ニーナを歌の世界から離してはならない──。
それを訴えたかった。
だが、できない……。
ドルニカに抗議するには、ステファンはドルニカの怖さを知りすぎている。
ブルドという恐ろしい毒遣いのことも……。
だから、ただ言葉もなく、項垂れることしかできない。
ドルニカからニーナの歌姫としての活動をやめさせ、今後は単なる性奴隷として扱うと知らされたのは三日前のことだ。
ステファンは驚愕した。
ニーナがドルニカ夫人とともに、マイム市から王都に戻っていることは薄々承知していたのだが、そのニーナにも、ドルニカにもステファンは連絡が取れないでいた。
ドルニカ夫人がニーナをこの王都の屋敷に連れ込んで、そのまま、夫人の屋敷内に留めているのも、大体感づいていたのだが、ステファンが訪問しようとしても、どうしてもドルニカはステファンに会ってくれなかったのだ。
いまにして思えば、それは、このドルニカ夫人がニーナの再調教という「遊び」にかまけて忙しかったからだとわかる。
ドルニカから連絡があったのは三日前であり、ニーナに与えていた屋敷と財をすべて処分せよという指示だった。
衣類もすべて処分して構わない──。
なにしろ、ニーナは二度と服など身体に身に着けることもないだろうから……。
そんな内容まで書かれた指示書が届けられたのだ。
まるで、手紙の向こうからドルニカの下品な嘲笑が聞こえてくるような文面だった。
驚いたステファンは、大急ぎでドルニカの屋敷に向かった。
これまでと同じように門前払いされそうになったが、今度は強引に屋敷に入った。
そして、そこで、変わり果てたニーナを見たのだ。
ニーナは三人ほどの男奴隷の性器にむしゃぶりついていた。
よくわからないが、ニーナはとても苦しそうであり、懸命に「薬を……」と口にしていた。
そんなニーナをドルニカは何人かの女友達とともに嘲笑して愉しんでいたのだ。
ドルニカの家人を振り払うようにしてやってきたステファンをドルニカは咎めなかった。
それどころか、長年、この本来はそれに相応しくない身分であるただの町娘に仕えてくれたお礼に、今夜の晩餐会に招待しようと言ってくれたのだ。
ステファンは呆然とした。
そして、愕然した。
ドルニカは、あれほどステファンが愛したニーナの唄を、本気で取りあげてしまうつもりでいることがわかったのだ。
しかし、ステファンにはどうすることもできない。
ドルニカに翻意を促す言葉を告げるのは怖い。
恐怖で舌が凍った。
それを知らずに、ドルニカに逆らった者の末路がこのニーナだ。
ニーナは唄も屋敷も財もすべて取りあげられて、この晩餐会で見世物のような姿をさらされている。
「は、はい……」
いまも、ステファンはただそう返事することしかできなかった。
ドルニカが手に持っていた葡萄酒の杯を一気に呷った。
杯が空になる。
「ニーナ──。もう、そんな唄はいいわ──。こっちに来て、葡萄酒を注ぎなさい。ほかのお客にもよ──」
ドルニカがニーナに向かって叫んだ。
ニーナがはっとしたように唄をやめて、慌てて、そばのテーブルから葡萄酒の瓶を抱えて駆け寄ってくる。
ニーナの唄を途中でやめさせた──。
それだけでステファンには、このドルニカという女伯爵が本当は芸術家を支えるパトロンの資格などなにもないことを悟った。
ニーナがドルニカの杯に酒を注ぎに来た。
「ド、ドルニカ様……。お、お願いです……。言われたとおりに裸でパーティに出ました……。唄も歌いました……。給仕でもなんでもします……。で、ですから、今日の分の薬を……」
葡萄酒をドルニカの杯に注ぎ終わったニーナが、苦しそうに言った。
ニーナがステファンの存在に気がついた様子はない。顔を半分を隠しているとはいえ、ステファンはニーナに五年以上も仕えていた。そのステファンにニーナは気がつかないのだ。
そのことにも愕然とした。
さらにそのニーナが三日前に垣間見たときと比べて、もっとやつれていることにも気がついた。
唄声が鈍っているのは、ニーナの身体が随分と衰弱しているからだろう。
こんなに身体がぼろぼろでは声など出せるわけがない。
「ほほほ……。薬はあげるわ。やることをやったらね──。まだ、挨拶が終わってないでしょう、ニーナ──。わたしはお前に命じたはずよね。晩餐会ではわたしの客にちゃんと挨拶をしろとね──。やることをやってから、欲しいものを要求するものよ」
ドルニカが笑った。
ニーナが項垂れた様子になった。
だが、すぐに諦めたようにその場に四つん這いになった。
ステファンは少し驚いた。
「ああ……わ、わたし、ニーナは……ド、ドルニカ様に仕える雌犬です……。ご主人様のお友達には……お、同じようにお仕えするように命じられております……。で、ですから……どんな命令にも従います……」
ニーナが強要されたような雰囲気で、大きな声でそう叫ぶように言った。
そして、さらに大きな声で泣き始めた。
ステファンはそれ以上いたたまれなくなった。
「それだけかい、雌犬──?」
ドルニカが足を大きく踏み鳴らした。
「あ、ああ……。そ、それで、もしも、しょ、小尿をなさりたい方がおりましたら、わ、わたしがすべて口で飲ませて頂きます……。ど、どうか、遠慮なく……」
ニーナは泣き出してしまった。
「まったく、この雌犬はめそめそと……。挨拶もちゃんとできないのかい」
ドルニカは苛ついた様子で舌打ちした。そして、自分のスカートをたくし上げて、そこから乗馬鞭を取り出した。
「前──」
ドルニカが怒鳴った。
いつの間にか、この晩餐会に集まった全員の客がここを取り巻いている。
ニーナは弾かれたように立ちあがると、両手を頭の上に組んで、足を開いて、がに股にするような格好になり、腰を前に突き出した。
それだけでも羞恥に息が止まるような恥辱だろう。ニーナの股間には一本の恥毛も生えていない。
いずれにしても、言葉ひとつですぐにそんな破廉恥な格好になるのは、ニーナがこんなことをずっとこのしばらく続けさせられていたということを悟れる。
ステファンはニーナの苦しみと屈辱がそれだけで理解できた。
そのニーナの股間にドルニカは思い切り乗馬鞭を打ち据えた。
ステファンは叫びそうになった。
「ひぎいいい──」
ニーナがその場にひっくり返ってのたうちまわる。
「だれが勝手に姿勢を崩していいと言ったんだい、雌犬──。まったく、こいつは言いつけひとつ守れないのかい──。そんな料簡なら薬を抜くよ──。まったく──」
ドルニカが大笑いしている。
薬……。
やはり、ニーナは薬が切れると、怖ろしい苦しみが訪れるような薬物中毒にさせられているのだと思った。
ステファンは改めて、ドルニカの恐ろしさを認識した。
もともとは一介の町娘とはいえ、ニーナほどの歌姫をそんな惨めな目に遭わせるとは……。
「も、申し訳ありません──。も、もう一度機会を……」
ニーナが慌てて立ちあがる。
さっきと同じような姿勢になる。
「もういいよ……。じゃあ、お前、雌犬らしく、そこでおしっこをするのよ」
ドルニカがテーブルから料理の入った平たい器を手に取った。
そして、ニーナががに股に開いている脚のあいだに笑いながら置く。
皿の中身はサラダと卵が絡めてある料理のようだった。
「その器にこぼさないようにするのよ。一滴もこぼさずに皿の中に注ぐことができたら薬を塗ってあげるわ」
ドルニカが言った。
ニーナの顔が引きつった。
「……お、お慈悲を……」
ニーナは命令されたことのあまりの内容に震えていた。
ステファンは正視をすることができず、こっそりと下を向いた。
ドルニカがニーナに怒鳴り、それを周りの客たちが嘲笑とともにからかいの言葉をニーナにぶつける。
こいつら全員狂っている──。
ステファンは握りこぶしをぐっと握った。
やがて、ニーナの慟哭の声が大きくなったと思った。
じょろじょろと皿に水滴が落ちる音が始まった。
ニーナはドルニカの命令に逆らうことができずに、本当に料理の入った皿に尿を始めたのだろう。
客たちの野次のような声が一斉に沸いた。
「まあまあ、随分とこぼしたじゃないのよ──。それじゃあ薬はあげられないわね……。ところで、腹も減ったでしょう、ニーナ──。食事をお食べ。また四つん這いになるのよ──」
ドルニカの酔ったような声に、ステファンは顔をあげた。
ニーナは泣きながら四つん這いの姿勢に戻った。
ドルニカは横の卓から肉を摘まむと、それを自分の口でしばらく咀嚼を始めた。そして、それをさっきニーナが尿を放出した皿に吐き出した。
ステファンは信じられない行為に目を見開いた。
「どれ、わしもやろう──」
「じゃあ、わたしも──」
五人ほどの客がそれぞれの口の中でしばらく噛んだ食べ物をニーナの前にある皿に次々に吐いていく。
その皿には、最初に入っていた料理の余りのほかに、ニーナが垂れ落とした尿が満ちているはずだ。
それに、今度はドルニカやその客たちの咀嚼中の食べ物が加わる。
ニーナはあまりのことに呆然としている。
無論、ステファンもだ。
「まあ、美味しそうね──。じゃあ、お食べ──。わかっていると思うけど、ひとつ残らず口に入れるのよ──。もちろん、手を使わずにね。床にこぼれたものも、すべて舐めとりなさい」
ドルニカが大笑いした。
ニーナの前にある皿からは、ここまで不潔な匂いが漂っていた。
「そ、そんなあんまりです……。こ、これ以上辱めないでください。そ、それに薬を……。ほ、ほかのお方がいない場所なら、本当になんでもします──。でも、い、嫌なんです──。こんなに大勢の人の前で辱められるのは……」
ニーナはそこまでしか言葉を喋れなかった。
それからはただ泣きじゃくった。
だが、ドルニカはなにを言っても聞き入れることはないだろう。
ニーナの嘆きは嘲笑で返されるだけだ。
やがて、ニーナは諦めたように、皿の上に顔を屈め、惨めで不潔な「料理」を口にし始めた。
ステファンが耐えられたのはそこまでだ。
すでにドルニカがステファンの存在など忘れていることは明らかだ。
これ以上は耐えられない。
ステファンはこの晩餐会を後にすることにした。
会場から抜け出ようとするとき、入れ替わるように五人ほどの男奴隷が会場に入れられるのとすれ違った。
男奴隷の全身が下半身だけが裸だった。
しかも、すでに勃起している。
まさかと思い、ステファンはもう一度ニーナのいる方向に、もう一度だけ視線を向けた。
客たちの身体を越しだが、皿に顔を埋めているニーナを背後からすぐに男奴隷たちが後ろから犯し始めたのが見えた。
しかも、ニーナは「食事」を続けることを強要されている。
「早く、孕むのよ──。この男奴隷たちのどの精がお前を孕ませるのか愉しみね──。女友達たちと賭けをしているのよ。生まれてくる赤ん坊の髪の色がどんな色かをね」
ドルニカが狂ったように叫んでいる。
ステファンは、その言葉で男奴隷たちの髪の色がすべて異なるということに気がついた。
いずれにしても、そこまでだ。
ステファンは、もう二度とドルニカには関わるものかと決心して、晩餐会の行われている場所から立ち去った。