【2025.9.5コミック発売】異世界で淫魔師ハレム【完結】 作:ドン・ドナシアン
「……あんたは、俺たちのなにを知っている?」
一郎は用心深くノタージュから距離を取った。
ただし、前にいるエリカから斜め後ろにさがるようにだ。
銃線が重ならないためであり、距離を開ければ、瞬時に亜空間から銃を出せる一郎に有意な間合いだ。
「そろそろ、術を練り終わった……。じゃあ、言ってやる。知ってるのは、お前らが盗っ人だということかな」
また、口調が変わった。
今度は老人にようには聞こえない。もっと若い印象だ。
やっぱり、こいつは変だ──。
「……コゼとイライジャはどこだ?」
一郎は言った。
「口のきき方に気をつけな。俺は気が短けえんだ」
ノタージュが睨む。
「知ったことじゃないわ……。もう一度、訊ねるわ。コゼとイラ……、ええっ?」
エリカの大声が聞こえた。
一郎も気がついた。
いつの間にか床全体が真っ白く光っている。
紋様だ──。
だが、今度は床の一部だけでなく、倉庫の床全体が巨大な白い紋様に覆われている。
次の瞬間、ふわりと身体が浮かぶ感覚が襲った。
落ちる?
足の下に感覚がなくなった。
「きゃあああ、ロウ様──」
エリカの悲鳴──。
落下している。
目の前に鉄の棒が浮かぶ。
一郎はとっさにそれを握った。
身体に衝撃が走り、ぐんと全身が伸びる。
足の下になにもない。
一郎は天井から伸びる肩幅ほどの鉄の棒に両手でぶら下がっていた。
「大丈夫ですか、ロウ様──」
少し離れた場所から、切羽詰まったエリカの声がした。
視線を向けると、天井から繋がっている長い鎖の先についている鉄の棒に両手でぶら下がっている。
一郎も同じ姿だ。
足元にはなにもなく、真っ暗で巨大な穴があるだけだ。
そして、かなり時間が経ってから、真下でなにかがぶつかる音がした。
エリカが手に持っていた剣だろう。
エリカも一郎と同じように、宙に浮くような感覚に襲われたときに、咄嗟に武器を離して目の前の鉄の棒に掴まったのだと思う。だから持っていた武器が下に落下したのだ。
しかし、武器が下に着くまでの時間を考えると、闇に包まれている真下の穴までは、かなりの深さがあることがわかる。
なにが起きたのかすぐにはわからなかったが、ノタージュが倉庫の床に大きな紋様を描き、それで一種にして、この穴の上に転送されたのだと思った。
いま一郎たちがぶら下がっているのは、さっきまでの倉庫ではない。
見知らぬドーム型の球場を思わせる場所だ。
ただし、地面はなく、一郎たちはなにもない穴の上に、ぶら下がる二本の鎖についた鉄の横棒に、それぞれにぶら下がっているのだ。
「なかなかに、反射神経がいいじゃねえか。まあ、そのまま落としてやってもよかったが、少しばかり、訊ねたいこともあったしな」
声がした。
かなり離れた「穴」の縁にひとりの少年がいる。
十歳くらいだろうか……。
にやにやと腕組みをして笑っている。
穴の縁までは相当の距離があり、とてもじゃないが跳躍をしてと届くような距離じゃない。エリカでも無理だろう。
その少年が手を振った。
すると、そこに椅子が出現した。
少年がそれに腰掛ける。
「お前は、ノタージュか……?」
口調でわかった。
あいつは、さっきまで一郎たちと一緒にいたノタージュだ。
一郎たちをここに転送する直前に話しかけてきた口調と同じだったのだ。
一郎は魔眼を飛ばした。
だが、今度はなにかに「力」を跳ね返される感覚が襲って、ノタージュの情報を得ることはできなかった。
「さっきも、やっていたみたいだが、なにか、魔道を飛ばしてんのか、淫魔師さんよ? さしずめ、鑑定術でも飛ばしてやがるか? いずれにしても無駄だ。俺にはどんな魔道も遮断できる。効かねえよ」
ノタージュが勝ち誇ったような口調で言った。
だが、確かに、これは絶体絶命には違いない。
この状況では、一郎が仕込んでおいた「反撃」の手段は使えない。
「ここはどこよ──? コゼとイライジャも、あんたが捕まえてんの──?」
一郎同様、巨大な穴の上で、鉄棒にぶら下がっているエリカだ。
一郎とエリカは、距離にして三メートルほど離れている。
お互いにどうすることもできない。
おそらく、エリカの魔道でも、この状況を脱する方法はないと思う。
「さあな。カサンドラの
「アスカの指示か?」
一郎は言った。
いまは、もう確信している。
こいつは、アスカ城の手の者だろう。
一郎とエリカを揃って捕らえようというのであれば、ほかに思いつかない。
だが、一郎の言葉に、少年は怪訝な表情になった。
「アスカの指示──? お前、この期に及んでしらばくれんのかよ。報せを耳にして、怒りではらわたが煮え返りそうになったぜ。ノルズに命じて、あの淫乱魔女をアスカ城から連れ出したのは、お前だろうが──。以前、ハロンドールに送り込んだノルズが、お前に支配されてしまったということまでは、調べがついてんだ。アスカをどこにやった──?」
ノタージュが怒鳴った。
しかし、言っていることがさっぱりと理解できない。
あのアスカがアスカ城から逃亡したというように聞こえたが、そういう意味だったのだろうか。
しかも、それを一郎がノルズに命じてやらせたと思っている?
一郎は困惑した。
それにしても、この体勢にはだんだんと堪えてきた。
手が痺れてきて、そんなにもう長くはぶら下がってはいられない気がする。
一郎の苦痛を感じたのか、エリカが心配そうな視線を向けてきた。
「こ、ここから下ろしなさい──。わたしたちをどうするつもりよ──。それに、アスカ様が逃げたってなによ。あんたはアスカ様の手先なんでしょう──。アスカ様を裏切ったのはわたしよ──。わたしを連れていきなさい。ロウ様には関係のないことよ」
エリカが叫んだ。
だが、ノタージュの顔がますます険しいものになる。
「俺がアスカの手先だと──。あの奴隷女のか――? 馬鹿にしてんのか──」
ノタージュが激昂した。
次の瞬間、たくさんの光の玉がノタージュから跳んできたと思った。
ぶつかる──。
衝撃が怒った……。
「あがあああ」
「ひぎいいいい──」
それがぶつかったと思ったとき、一郎もエリカも絶叫をしていた。
凄まじい激痛が襲ったのだ。
一瞬だったが、思わず意識を飛ばしかけたほどの苦痛だった。
すぐに終わったが、全身が火傷でもしたような痛みが残る。
辛うじて手だけは離さなかったが、気がつくと、身体を覆っていた服はほとんどが引き千切られてなくなっていた。
一郎もエリカも、下着まで失って完全に裸体を露出した全裸状態になった。
しかも、ふと見ると、エリカの白い肌には、蚯蚓腫れのような無数の傷がついている。
「くっ……」
一郎は歯を喰いしばりながらも、エリカに向かって淫魔術を飛ばす。
淫魔術で支配した性奴隷に限り、一郎はいくらでも、その女の身体を操作することができる。
エリカの傷を一瞬にして治療するくらい簡単なことだ。
白いエリカの身体の傷はすぐに消滅した。
「はあ、はあ、はあ……。あ、ありがとうございます……。で、でも、ロウ様は……」
エリカが荒い息をしながら言った。
自分の女の傷は治療したが、一郎自身は癒しの力はない。
地面に足をつければ、ユグドラの癒しが遣えるが、ここは空中だ。
いずれにしても、すでに鉄の棒を掴んでいる手の力が極限にきている。
自分の腕が痙攣したように震えてくるのがわかる。
しかし、それよりも、一郎には思いついたことがある……。
おそらく、間違いない……、
「あ、あんた……パリスだろう……?」
一郎は言った。
アスカ城を支配しているのは、アスカではなく、パリスだというのは、ノルズも言ったし、褐色エルフ里でメイに憑依していた魔族も口にしたことだ。
目の前の少年がパリスだということを示すものはなにもないが、一郎はなんとなく、そんな気がした。
この得体の知れない魔道──。
一郎の魔眼さえ弾くような大きな力──。
アスカを軽んじているような不遜な態度……。
しかも、こいつはあのアスカを奴隷女とはっきりと口にした……。
こいつが、あのパリスだ。
おそらく、間違いない……。
「ほう、俺の名を知ってんのか? やっぱり、すべてはお前だな? なにかと俺のことを邪魔だてすんのは、わかっててやってんのか……? まあいい……。訊きたいことは山ほどあるが、まずは、ユイナから渡されたという古文書の場所を白状しな。どこにあるんだ? ハロンドールの王都にあるお前らの屋敷か? この旅に持ってきてるのか? あるいは連れの女が持ってるか? とにかく、言え──」
パリスだということを認めたその男が怒鳴った。
それはいいのだが、いきなり古文書だと言われて戸惑ってしまった。
なんのことか、さっぱりとわからない。
パリスはなにを言っているのだ?
「古文書? なんのことよ──?」
「なんの古文書だ?」
エリカに続いて一郎も怒鳴った。
パリスがなにを喋っているのかわからない。
「お前がユイナから受け取った禁忌術の魔道書だよ──。ユイナははっきりとお前に渡したと言ったぜ。白を切るのもいいが、そのエルフ娘の身体をいたぶってみるか? そうすれば、色々と思い出すかもな」
ユイナ?
やっぱり、さらったのはこいつか?
一郎たちを捕らえるのに、シティのエルフ兵を大量に出動したことといい、エルフ女王のガドニエルの女部下がユイナをさらったという情報といい、パリスとエルフ族は繋がっているのか?
さっぱりわからない。
しかし、パリスの言葉が終わるとともに、今度はエリカの身体の周りに、無数の白い鳥の羽根のようなものが浮かびあがったのがわかった。
エリカがぎょっとしている。
すぐにそれがエリカの裸身にまとわり始める。
「いやあああ、あっ、ああああっ、だ、だめええっ、あああああっ」
エリカが身悶えをして暴れ始める。
宙に浮かんでいる白い鳥の羽根が一斉に、エリカの身体をくすぐりだしたのだ。
棒を掴んでいるエリカの裸身が空中でのたうち回る。
「はははは、男の前で股ぐらを拡げんじゃねえよ。ほら、色男、早く、魔道書の有りかを白状しな。さもないと、そのエルフ女は真っ逆さまだぜ」
パリスが笑い始めた。
そのあいだも、エリカは苦しそうに悲鳴をあげて暴れ続ける。
「ひいいいっ、ひいっ、いやああ、くふふふっ、や、やめええっ、んぎいいっ、くくくくっ」
エリカが全身を真っ赤にして苦しそうに笑っている。
鉄の棒で裸でぶらさがる無防備な裸身を、宙を舞う鳥の羽根でくすぐられて、エリカも狂ったようにもがいている。
あれは、もう、いくらももたないだろう。
「や、やめろ、パリス──。魔道書って、なんだ──? いくらでも、そんなものはくれてやる。とにかく、やめろ──」
一郎は怒鳴った。
だが、そのとき、はっとした。
魔道書というのがなんのことか、予想がついたのだ。
そういえば、褐色エルフの里でユイナがクグルスを召喚して大騒ぎを起こしたとき、あいつは、禁忌の魔道のことが書いている古い魔道書を使って、その術を遣っていた。
もしかしたら、パリスはそれを欲しがっているのか?
そう考えると、だんだんと辻褄が合致してくる。
そもそも、パリスたちは、ユイナが発見したという瘴気をこの世に溢れさせる秘術を欲しがっていたということだった。
ユイナの祖父のトーラスが言ったことだ。
パリスたちがユイナを奴隷にして連れていったのはそのためのようだし、あるいは、その古文書に、その術のことが書かれていたのだろうか……?
そして、もしかして、ユイナは、それを一郎に持っていかれたと、パリスに告げた……?
だが、断じて、一郎はそんなものは持っていない。
そもそも、ユイナが大切にしていた古文書の存在など、いまの今まで忘れていた。
いずれにしても、一郎の想像が正しければ、なんという迷惑なことをあいつは喋ったのだ――。
「いやあああ、いひひひひ、あははははは、うくふふ、あはははは……。く、苦しいい――。はははは、や、やめてええっ」
一方で、くすぐり続けられるエリカは、裸体を真っ赤にして宙吊りの裸体を暴れさせ続ける。
「エルフ女よ。何度言やあ、わかるんだ? 股を拡げんじゃねえよ。もっと慎みを持ちな。んんっ? なんか乳首と股に着けてんのか? 金具か?」
パリスが穴の淵から笑いながら言った。
一郎は歯噛みした。
一方で、エリカは太腿だけでなく、足の裏と脇の下を同時にくすぐられている。
必死になって棒にぶら下がりながら、白い裸身を宙に躍らせ続ける。
「いやああ、許して、いやよおおお」
たおやかなエリカの裸身は、いつ果てるともなく狂ったように空中で踊り続ける。
「やめろおお、パリス――。なんでも、やる。だから、やめろおお――」
「だったら、先に古文書の場所を言え──」
パリスが怒鳴った。
一郎は歯噛みした。
そして、エリカに怒鳴った。
「手を離せ、エリカ──。俺を信じろ──」
一郎は叫んだ。
エリカが手を離す。
一郎もまた、ほぼ同時に、鉄の棒から手を離し、真下の闇の中に自分の身体を落下させた。