【2025.9.5コミック発売】異世界で淫魔師ハレム【完結】 作:ドン・ドナシアン
「エリカ、俺を信じろ──」
次の瞬間、エリカはすぐに両手を離して、自分の身体を漆黒の大穴の中に落下させた。
少しくらい躊躇しろよと苦笑したくなるのを堪えて、一郎もまた落下するエリカに向かって飛ぶ。
「ロウ様──」
エリカが上から降ってくる一郎に視線を向けながら手を伸ばした。
その手をしっかりと、一郎は掴む。
さらに、そのときには、クグルスを呼び出ている。
「呼ばれて、飛び出て、じゃじゃ……。うわっ、な、なに、この状況──?」
闇の中に落下し続けている一郎とエリカに気がついて、魔妖精のクグルスが悲鳴をあげた。
そのクグルスを一郎は、エリカを掴んでいない片手で掴む。
「クグルス──。俺の淫魔力を根こそぎ使っていい──。下に向かって爆炎を放て──。大火力だ。俺の合図で下に向かって撃て──。準備しろ──」
一郎は叫んだ。
そのあいだも、一郎とエリカは落ち続けている。
どれだけ深いのか──?
この状況でも、まだ床が見えてこない──。
「ええっ? ええっ、ええっ?」
一方で、クグルスはいまだに状況が理解できなくて戸惑っている。
だが、このままじゃあ、一郎もエリカも、真下にあるはずの、この奈落の底に全身を叩きつけられて即死だ。
「ロウ様──」
一方でエリカも必死の形相で腕を手繰って、一郎の身体にしがみついてきた。
だが、全裸で、しかも、鳥の羽根にいたぶられて全身を愛撫されていたエリカの身体は、とても熱くて、汗がしっとりと濡れていて……。
そのエリカが全力で一郎にしがみついてくる……。
これは……。
「う、うわっ」
エリカが一郎に片手で抱き締められながら、びくりと身体を震わせた。
一郎の股間が見事なくらいに勃起したからだ。
そして、“それ”は、全裸で抱き合っているエリカの腹にぐいと当たっている。
我ながら、こんなときに、なんという慎みのない身体だと思うが、健気で美しく、しかも、無条件に一郎を信じ、そして、愛してくれる美貌のエルフ娘を前にしては仕方がないと思う。
すると、くすくすと反対側の手から笑い声が起きた。
「相変わらずだね、ご主人様──。状況をわきまえない絶倫ぶりはさすがだよ……。さすが、ぼくのご主人様」
手の中のクグルスが喉を鳴らして笑っている。
一郎の淫魔力にはとことん弱いクグルスだが、まだ、淫魔力は注いでいない。
だが、ひとたび、このクグルスの身体を淫らな感情を込めて触ってやると……。
「んひっ──、ごしゅりしゃまあ、りゃめえええ」
たちまちに、クグルスが性感のすべてが燃えあがってしまうような派手な反応を示した。一郎の手の中で、小さな身体を弓なりにしてがくがくと震わせる。
そして、二度、三度とオルガニズムに達した仕草を魔妖精が表す。
「いまだ、吹っ飛ばせ──。ありったけの淫気を俺から吸い取れ──」
一郎は自分の掌の中で、体液をまき散らしてよがり狂うクグルスを真下に向ける。
そこには、かすかだが、少し前にエリカが落とした剣が映ったのだ。
こんなにも深い穴などあり得ず、魔道的ななにかの作為を感じるが、とにかく、このまま激突すれば、一郎の身体も、エリカの身体も木っ端みじんに肉の塊に変わってしまうことは疑いない。
あるいは、死の恐怖そのものを味わわせることが、パリスの狙いなのかもしれない。
だが、一郎とて、パリスの思惑に嵌まるつもりはない。
パリスがこの不可思議な穴への落下で、一郎とエリカに死の感覚を与えて、なにかの心の操作をしてくるつもりなのであれば、一郎は、死を免れたという認識に自分の意識を染め返すだけだ。
「わがだあああ──。ごじゅりじゃまあ、まだ、いぐうう──」
一郎から純度の濃い淫気を注がれているクグルスが悶絶しながら、火炎の塊を下に向かって放った。
クグルスが放った火の玉は、それだけでかなりの大きさと勢いがあったが、一郎はそれに、クグルスを通じて、淫気をさらに充填することで、巨大な火の玉にさらに拡大してやる。
「ロウ様──」
エリカが驚いて、一郎をぎゅっと抱き締めてきた。
必死の様子で一郎の頭を抱え直そうとしている。
衝撃から一郎を守ろうとしてくれているのだ。
健気な女だ。
巨大な火の玉が当たった床が衝撃で揺れたような景色になるとともに、轟音が周囲に響く。
そのときには、黒い床はかなりの距離まで迫っている。
すると、床から跳ね返った衝撃波が一郎とエリカにぶつかる。
爆風がふわりと一郎たちの身体を浮かせた感じになった。
「クグルス、エリカの身体に入れ──。床に叩きつけられても、エリカの身体を癒して守るんだ。エリカ、クグルスを受け入れろ」
一度浮いた一郎たちの身体は、落下の速度をかなり減殺して、再び床に向かって落ちだす。
だが、今度は死ぬような勢いではないというのは一郎にもわかる。
捨て身の火炎の衝撃波が、一郎たちが床に激突するのを防いでくれたのだ。
「で、でも、ロウ様は──?」
エリカが叫んだ。
一方で、まだ絶頂の余波と自分の本来の能力を遥かに越える淫気を一郎から受け入れさせられ、触媒代わりに魔道を拡大させられたクグルスは、正体を失ったようにぐったりしている。
一郎はクグルスをエリカの方向に押しつける。
返事をする気力もなかったようだが、一郎の命令はしっかりと頭に入れてくれたようであるクグルスは、エリカの身体の中にすっと消えていった。
一郎にも同じことができるが、クグルスは人族の身体の中に入り、性感を操ったり、ある程度の身体の操り、あるいは、感情の操作をすることができる。それに加えて、憑依して操っている相手の身体を癒すことができるのだ。
クグルスを受け入れさせたことで、エリカに身体は叩きつけられても、その傷をすぐに治すことができると思う。
「ロ、ロウ様──」
エリカが一瞬身体を痺れたように震わせてがくがくと身体を震わせた。
魔妖精であるクグルスを受け入れたことによる反動だ。
脱力したエリカを一郎は今度は守るように抱え直した。
それだけでなく、自分の身体がエリカよりも下になるように、体勢を変化させる。
「んぐうううっ」
全身が床に叩きつけられた。
床に当たった瞬間、自分の腿と腕の骨が折れる感触がはっきりと伝わってくる。
それでも一郎は耐えた。
考えていたのは、抱き締めているエリカの身体を守ることだけだ。
幸いにも、エリカの身体は一郎の上になるように落ちたので、直接にエリカの身体が床に激突することだけは防げたと思う。
床に当たった瞬間、一郎はエリカの身体を抱き締めたまま、一度リバウンドして、もう一度エリカごと床に叩きつけられた。
今度もエリカを守ることには成功したが、二度目はしこたま頭を床に打った。
どっと汗が頭から噴き出した。
自分の身体がごろごろと床に転がる。
二度目の激突のあと、エリカの身体は手放していたので、一郎は懸命にエリカの姿を転がりながら追いかけた。
落ちた場所は真っ暗闇ではなかったが、なにも存在しない広い空間のような場所だった。光源はないのだが、なぜか辺りは薄っすらと明るく、一郎にはエリカの白い身体が血まみれで横たわるのをしっかりと確認してしまった。
「……エ、リカ……」
叫ぼうとしたが、驚くほどに小さな声しか自分の口からは出なかった。
そして、さっきから流れ続ける大量の汗が頭から流れ続けている。
流れる汗が、実は汗ではなく、一郎の頭から流れ続ける自分の血だとわかったのは、すぐに血相を変えたエリカが一郎に駆け寄ってきたのを見てからだ。
血だらけだと思ったエリカの身体には、傷らしい傷はない。
血まみれだと思ったのは、頭を切った一郎から流れる血がエリカの裸身にかかったからのだようだ。
とにかく、エリカが無事であることに、一郎はほっとした。
「な、なんで──。なんで、わたしを庇ったんです──? ロウ様を守るのが私の役目なのに──」
横たわる一郎に横に泣き顔のエリカがしゃがみ込む。
「し、心配ない……。俺には加護が……」
試してみるつもりはなかったから、これまでその効果を実感することは少なかったが、一郎にはこの世界にやってきてすぐに、ユグドラという精霊にかけてもらった「ユグドラの癒し」という護りがある。
それは、死ぬような負傷や猛毒を負ったとしても、不思議な大地の力でそれを治癒してくれるというものだ。
そういえば、彼女はどう過ごしているのだろう。
なんだかんだと、思い出深い女性だ。
もしかしたら、いまの一郎であったら、彼女すら自分の支配下に置くこともできるかも……。
そんなことを考えてしまい、一郎は、自分の果てしない淫欲に、思わず苦笑してしまった。
それはともかく、血は流れ続けているが、なんとか、それが効果を及ぼしてくれ始めたようだ。
悲鳴をあげるほどに痛かった腕と脚が、いまは穏やかな温かみに包まれたようになっている。
全身の力はまだ入らないが、すでに折れた骨も元通りに繋がり直したらしい。
エリカも、一郎の負傷が癒えつつあることに気がついたらしい。
一郎を見下ろしながら、その顔がほっとした表情に変わる。
「案外にしぶといな、色男──。まさか、生き延びるとは思わなかったぜ……。まあ、殺すつもりだったんだがな」
声がした。
視線を向けると、少年がそこにいる。
パリスだ。
「お、お前──」
エリカが叫んで、身体をこわばらせる。
一郎は素早く亜空間から新しい剣を出す。
エリカがその剣をさっと受け取って構えた。
「……んん? どこから出した? さっきの剣か?」
パリスが眉間に皺を寄せて首を傾げている。
得体の知れない魔道遣いのようだが、亜空間の術については正体がわからないようだ。
また、どうやら、一郎の淫魔術については、認識ができないらしい。
「さあな……。手の内をさらすつもりはないしな……」
この頃には、かなり頭もすっきりしてきている。
抜けた血も、それなりに回復してきているようだ。
本当にこの加護は使える。
「まあいいや。それよりも、死んでくれるか。絶望を味わってくれや」
パリスが腕を振った気がした。
次の瞬間、無数の槍のようなものが床から出現して、一郎だけでなく、エリカの身体を刺し貫いた。
自分の胸から突き出た十本近い刃先──。
「うああああっ、ロ、ロウ様──」
エリカが断末魔の声をあげた。
しかし、一郎はそろそろ、パリスの仕掛けている絡繰りに気がついてきてもいた。
このおかしな空間……。
おそらく……。
「エリカ、幻影だ──。全部作り物だ──。気をしっかり持て──」
一郎は叫ぶととともに、すぐさま、淫魔術でエリカを操って意識を飛ばした。
意識を失わせることで、エリカが幻影に堕ちることを防いだのだ。
たくさんの槍が貫いていたエリカが崩れ落ちる。
しかし、床に倒れたエリカの身体には、槍どころか、身体を貫いていたはずの傷がどこにもない。
そして、無論、一郎自身にも槍がなくなっている。
「へえ……。なにしたんだ、お前? てっいうか、なんで幻覚だって、わかったんだ?」
パリスが呆れたという表情をしている。
しかし、なんでわかったかと言われても、単なる勘だとしか言えない。
おそらく、目の前のパリスの能力のひとつは、相手に死の幻影を味わわせることではないだろうか。
そもそも、パリスは一郎から情報を訊き出したいのだから、簡単には死なせたくないはずなのだ。
だから、殺すわけがない。
一郎には覚えがないが、パリスは、あのユイナが持っていた古文書の魔道本を欲しがっていた。
しかも、パリスは一郎がそれを隠していると思い込んでいて、さっきもエリカを相手に拷問まがいのことをして、一郎にそれを「白状」させようとした。
それにもかかわらず、いきなり、一郎を殺そうとするのは不自然だ。
従って、深い穴から落下させたのも、槍で突き刺されたのも、本当ではなく、幻影かもしれないと考えた。
そして、エリカをとっさに気絶させたのは、エリカが死の感覚を受け入れてしまうことに対して、嫌な予感がしたからだ。
なんで、わかったんだと問われれば、勘だとしか答えようがないが……。
「死の感覚を与えて、その恐怖心につけ込んで、なにかの術を刻む……。そんなところか? もしかして、アスカもそうやって操ったか?」
一郎は何気なく思いついたことを語った。
なんとなく、腑に落ちなかったのは、あのアスカを目の前のパリスが操っているのだという、何人かが語った言葉だ。
しかし、一郎からすれば、あのアスカこそ、絶対的なの能力を持つ無敵の魔女だ。
パリスのステータスは読めないが、アスカに比べれば、なんとなく小者感がある。
だとすれば、このパリスには、アスカを出し抜くほどの切り札があるのではないだろうか。
それが、死の感覚を与えることで、相手を自分の支配下に置いてしまうというなにかの術じゃないだろうかと思ったのだ。
すると、目に見えて、パリスの顔色と表情が変化した。
顔に激怒の感情が浮かんでいる。
やっぱり、こいつは小者だ……。
一郎は予感した。
「ロウ様……?」
一方で、一郎の淫魔術の操りで一時的に意識を失わせていたエリカが覚醒した。
困惑した表情で起きあがったが、すぐに一郎の駆け寄って、パリスから一郎を守るように立ちはだかる。
「エリカ、こいつは幻術を使う。ただ、それに乗せられて恐怖心を拡大させると、心を支配されるぞ」
「闇属性の魔道師ということですか……」
エリカが呟くように言った。
闇属性とかいうのがよくわからなが、そういうものなのだろうと思った。
「やっぱり、いけ好かない奴だぜ。ひと目でこんなにも忌々しいと感じたのは、お前が初めてだよ。古文書の場所を聞き出したら、せいぜい、残酷に殺してやるぜ」
「やってみな」
一郎はエリカの半身に手を伸ばして抱きしめながら、自分の意識を強くする。
おそらく、パリスはエリカが口にした闇魔道を操って、一郎とエリカの心の中に浸透をして幻を見せている。
奈落の底にような穴に落下したときも、もしかしたら、物理的な高さのどこかから実際に落下したのかもしれないが、かなりの部分は幻術に違いない。
死の恐怖を味わわせて、自分の闇魔道で支配してしまおうとしているというのは、間違いのない推測と思う。
だとしたら、一郎は、レベル100の淫魔師だ──。
この世界の約束事に従えば、ジョブに関わりなく、レベルが上の者がレベルが下回る相手の支配術を受けつけない。
だから、パリスの幻影を跳ね返せるはずだ。
意識を集中する。
すると、だんだんと闇が晴れてきた感覚が拡がってきた。
「ちっ、俺の術を抜け出すのかい……。本当に忌々しいぜ……」
パリスが憎々し気に一郎とエリカを睨むと、さっと手を振った
その瞬間、闇が消えた。
陽の光と風を肌に感じた。
外か……?
すでに、夜が明けている?
一郎たちがいるのは、庭園のような場所だった。
そして、気がつくと、周囲を大勢のエルフ兵が囲んでいる。
少し距離があるが、無数ともいえる弓が一郎とエリカに向けられていた。
「こ、ここはどこですか、ロウ様?」
エリカは、周囲の光景に訳がわからないという表情をしている。
それは、一郎も同じだ。
なにがどうなっているのか、さっぱりとわからない。
ただ、途方もなく、とんでもないことに巻き込まれかけているという予感だけはする。
どうでもいいが、エリカも一郎も素っ裸だ。
エリカも居心地が悪そうだ。
「お前たちはなんだ──? どうやって、この水晶軍の営庭に侵入した──?」
すると、突然に大きな声がした。
女の声だ。
振り返ると、派手な軍服を身に着けたエルフ族の若い女がいる。
また、周囲を武装しているエルフ兵に囲まれている。
百人くらいいるんじゃないだろうか……。
もしかして、パリスの術で、エルフ軍の軍営、つまり、水晶軍の施設に飛ばされたのか?
とにかく、完全に包囲されている。
やれやれ、どうやって逃げようか……。