※この作品はR-18です。

【2025.9.5コミック発売】異世界で淫魔師ハレム【完結】   作:ドン・ドナシアン

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439 女囚いじめの結末

「俺から、いくぜ」

 

 正面に立った監守がエリカの顔に怒張を突きつけた。

 すでに、その先端からは汚臭のする精液が滲み出ていて、それがエリカの鼻先に迫って来ている。エリカは、恥辱よりも、口とはいえ、自分が汚される恐怖に目を見開いて、言葉にならない声を迸らせた。

 だが、開口具によって無様に開いた口の中に、容赦なく、その男の性器が口の内側の粘膜をねぶるように押し入れられてくる。

 

「がっ、あがっ」

 

 エリカは嗚咽のような声を放ちながら、顔を振って挿し込まれた肉棒を吐き出そうともがいた。

 

「んがああああっ」

 

 だが、次の瞬間、股間にまるで尖った刃物を突き刺されたように激痛が走って、エリカは身体を弓なりに反らせた。

 それでいったん、顔から男の性器が引き抜かれたかたちになったが、後ろと左右を囲む男たちが四人がかりで、エリカを跪く体勢に戻すとともに、さらに別の男がエリカの髪の毛を掴んで、強引に口を正面の男の股間に押し込む。

 なにをされたのかわかったのは、男の性器を再び喉の奥にねじ込まれてからだ。

 エリカの股間には、足の指からは切断してもらったものの、“ぴあす”に繋がった糸がまだぶら下がっている。

 それを思い切り引っ張られたのだ。

 

「無駄な抵抗をしやがると、この糸を天井に繋いで、ひと晩中放置してやるぜ、エルフ女」

 

「それもただ吊るすんじゃねえ。とっておきの媚薬を塗りながら、交代で刷毛でくすぐるんだ。吊った場所をな」

 

「まあ、それをやると、大抵の女囚は気が狂ってしまうけどな」

 

 身体を押さえつけている監守たちがげらげらと笑いながら、エリカを持つ手にさらに力を入れた。

 目の前の男はエリカの口を汚している男が乱暴に性器の出し入れを開始する。

 

「おがっ、があっ、んああっ」

 

 男の性器は大きくて、硬くて、しかも、驚くほどに長かった。

 普通に出し入れするだけで、喉の奥を突きあげられる。

 男根の出し入れで、何度も何度も嗚咽がこみ上がる。

 苦しさにエリカの両目からはいつしか涙が零れ落ちているのがわかった。

 そして、何十回目かの口への抽送が繰り返されたとき、不意に男の怒張が口から引き抜かれた。

 思考するいとまもなく、そのまま顔に精液をかけられる。

 おぞましい悪臭が顔に拡がる。

 

「そら、休ませるんじゃないよ。すぐに、次を咥えさせな」

 

 野次のような女の声──。

 あの女監守長だ。

 呆けかけていたエリカの心に、憤怒の感情が戻ってくる。

 しかし、女監守を睨むことも許されずに、髪の毛を引っ張られて、次の怒張を口に入れられた。

 

「んぐあっ、がっ」

 

 エリカは悲鳴を涎とともに迸らせた。

 またもや、忌まわしい男の性器が口の中を占領してきたのだ

 噛み千切ってやろうと、渾身の力を開口具に込める。

 しかし、さすがに金属の口環はびくともしない。

 

「おい、ちょっと、刺激してやってくれねえか。俺は感じている女を見ながら射精するのが好きなんだ」

 

 口に股間を打ちつけてくる男が愉しそうに笑った。

 すぐさま、四方から胸や股間に手が伸びてくる。

 ロウに刻まれている刻印により、膣内そのものには男たちの指の侵入を許さないが、乳首についている“ぴあす”を揺らされ、股間のぴあすを揉むように動かされると、たちまちにエリカの身体は激しい愉悦の疼きを噴きあがらせる。

 口を凌辱されることよりも、こんな下劣な男たちに快感を迸らされてしまうことに、エリカは泣きたくなるような屈辱を味わった。

 

「んがあっ、あああっ」

 

 エリカは必死になって身体を暴れさせる。

 無理矢理に引き起こされる快感が引き起こすのか、犯される口からも、だんだんと性感の炎が燃えあがるような感覚が呼び起こしてきたのだ。

 そのことに、身の毛もよだつほどの恐怖を覚えた。

 

「ああっ、ああっ、あがあっ」

 

 口の中の男の抽送が速くなる。

 それに合わせるように、エリカの裸身に対する愛撫の手も激しくなっていく。

 エリカは無理矢理に快感をせり上げられた。

 

「へへへ、美貌のエルフっていうのは、気をやりかけている顔も綺麗なんだな」

 

 目の前の男が下品そうな笑い声をあげる。

 そして、またもや、口から肉棒が抜かれる。

 また、顔にかけられる……。

 エリカは思わず、目をつぶった。

 

 しかし、不意にその男が離れていく感覚が襲った。

 眼を開けると、なぜかその男は音を立てて、目の前で仰向けにひっくり返っていた。

 

 えっ?

 

 なにが起きたのかわからなかった。

 

 だが、血の匂い……?

 

 精液の匂いで麻痺していた鼻に、わずかに血の匂いが漂ってきた。

 見ると、目の前に倒れた男の首の横からだくだくと血が流れている。

 

 死んでいる……?

 

 エリカは目を見張った。

 

「どうしたんだい?」

 

 驚愕したようなだみ声は、離れた卓で酒を飲んでいた女監守長だ。

 周りの男たちも、なにが起きたのかわからないようだった。

 エリカの身体を掴んでいた手が緩む。

 すると、ぱらりと股間と乳首から糸がばらけて落ちた。

 呆気にとられたが、すぐに身体をなんらかの魔道が覆ったのだと知った。

 さらに、二の腕に嵌まっていた腕輪が二つに分かれて弾け飛ぶ。

 エリカの魔道を封じていた「魔道封じの腕輪」だ。それが壊れて外れた。

 

 なにも考えない。

 

 エリカは背中で拘束されている革帯を魔道で引き千切った。

 次の瞬間、エリカはそばの監守の腰から剣を抜いていた。

 

「うぐっ」

 

 しゃがんだままの体勢で性器を出しっぱなしのひとりの男の腹に剣を貫かせた。

 女監守の命令で得体の知れない魔道を遣った男だ。

 この男以外には、ここには魔道を遣う者はいない。

 エリカはずっと目を付けていたのだ。

 その男を手で突き飛ばして、剣から腹を引き抜いたときと、最初にエリカの口の中に性器を入れた別の男が崩れ落ちるようにその場に倒れたのはほぼ同時だった。

 その男の首も横から鋭利な刃物で斬り裂かれていた。

 

「コゼ──」

 

 叫んだ。

 完全に気配を消してエリカに群がる男を殺したのは、いつの間にか部屋の中に潜入していたコゼだった。

 四人目の男監守がまたもや倒れて、不敵に微笑む小柄なコゼと視線が合う。

 残りは卓にいる女監守ふたりと、まだ死んでいない男監守が七、八人か……?

 とにかく、これまで一瞬のことに過ぎない。

 

「お、お前、どこから──?」

 

 声をあげたのは、女監守長の横にいたもうひとりの女監守だ。

 やっと侵入者に気がついたのだ。

 しかし、その女監守たちが悲鳴をあげて、その場にひっくり返る。

 

 魔道?

 髪の毛が青みがかった白色の女だ。

 誰?

 外に通じる出入り口は閉まっているが、女はその扉を背にして女監守たちに両手を向けている。

 その女が魔道を放ったのか?

 おそらく、電撃でも女看守たちに叩きつけたに違いない。

 最初にエリカの魔道封じの腕輪を外したのも、その女だろう。

 それで、気がついた。

 髪が違うので、印象が変わっているが、スクルズか?

 なぜ、ここに?

 

 さらに、ふたり入ってきた。

 イライジャだ。そして、イライジャの横には、ひとりのエルフ美女がいる。それがブルイネンという名のエルフ軍の女隊長だとわかった。

 水晶宮で捕えられたとき、ロウが彼女を人質にして、その口の中に唾液を注ぎ込んだのをしっかりと横で見ていた。

 ブルイネンは激しく怒っている表情のイライジャとは対照的に、イライジャの傍で困惑したような顔で立ち尽くしている。

 

 いずれにしても、助かった──。

 エリカは剣を一閃させて、周りの男たちの股間付近を五、六人同時に斬り裂いてやった。

 どの男たちも下着をズボンを足首までおろしている。

 それで咄嗟には、対応できなかったようだ。

 

「うわっ」

「なんだ?」

「ひいいっ」

 

 やっと周囲の男たちが狼狽えて逃げ始める。

 とりあえず、エリカは口に嵌められていた口環を手を伸ばして外そうとした。

 しかし、金具のようなもので留められていて、片手では外せなかった。

 

「大丈夫ですか、エリカさん。わたしが……」

 

 やっぱり、スクルズだ。

 駆け寄ってきたスクルズが魔道を加えると、音を立てて紐の部分が切断された。

 エリカは舌で開口具を吐き出した。

 

「ありがとう、スクルズ――。だけど、なんで……、いや、あんたとの話は後にするわ」

 

 エリカは、看守たちに向き直る。

 

「あ、あんたら、覚悟はいいわね──。そして、クグルス──。よくも、置き去りにしてくれたわね。わたしがどんな目に遭ったと思ってんのよ──」

 

「ぼ、ぼく──? な、なんで?」

 

 ブルイネンの胸から魔妖精のクグルスが飛び出してきた。

 助けを呼んで来ると言ってから、エリカの身体から消えたので、ここまでコゼたちを引っ張ってきたのだろう。

 だが、理不尽だと思っても、クグルスに対する怒りは消えない。

 ここに、エリカだけを放置しなければ……。クグルスがいただけでも、こいつらに好き勝手はされなかったに違いない。

 

「うるさい――。あんたがわたしを置き去りにしたせいで、ひどい目に遭ったのよ――」

 

 怒鳴りあげた。

 そして、立ちあがる。

 すると、なぜか、スクルズがすっと前に出てきた。

 

「ところで、わたしは、スクルズではなく、スクルドですわ。神殿長のスクルズは王都で処刑されたんです。ここにいるのは、ロウ様に飼われる雌犬にしてもらうつもりのスクルドです」

 

 なにを言っているのか、さっぱりわからない。

 しかし、ぱちんと金属音がして、足首が自由になったのがわかる。体液にこびりついた身体もきれいになる。

 洗浄術だろう。

 男によって汚された口の中も、違和感が消滅した。

 

「よくも、よくも……」

 

 とにかく、エリカは剣を構えた。

 生まれてこの方、こんなにも激怒したのは初めてだ。

 まだ、生きている男たちが蒼白になるのがわかった。

 

「うわあっ」

「やめろお」

「た、助けてくれ」

 

 男たちが背中を向けた。

 どの男も剣を吊っているがそれを抜こうとする者はいなかった。

 それよりも、恐怖が勝っているのだろう。

 とりあえず、逃げ損ねている男監守の背中を斬り、その横の男の首も後ろから斬り裂いた。

 ほとんど同時にやっていた。

 

 声も出すことなく、ふたりは倒れる。

 逃げ散ろうとした男たちも、風のように動くコゼが、次々に倒していく。

 気がつくと、部屋で動く者は、エリカのほかには、コゼとスクルズ……いや、スクルドだけになっている。

 また、顔色を失くして立ち尽くしているブルイネンは、硬直したように静止したままだし、イライジャはその横だ。

 スクルドに電撃を浴びせられた女監守たちは、まだその影響が残っていて、呻き声を出して床で横たわっている。

 

 ほかは屍体だ。

 すべての男たちは、コゼとエリカによって、ただの肉塊に変えられた。

 

「ところで、さっきは、お取込み中のようだったようね……。ご主人様には黙っておいてあげるわ」

 

 コゼが血で汚れた二本のナイフを倒れている男の屍体の服で拭きながらくすりと笑った。

 どうやっているのか、あれだけの男たちを十人近くも斬り裂きながら、コゼの服にはまったく返り血がない。

 それに比べれば、エリカの身体は血だらけだ。

 

「な、な、な……、なによ――? だ、黙ってるって、なによ。わ、わたしは、ロウ様に隠すようなこと……」

 

「だって、看守のあれを咥えてたじゃない」

 

 コゼがからかうように言った。

 エリカはかっとなった。

 

「あれは……」

 

「問題ありませんわ、エリカさん。ロウ様から罰を与えられても、それはご褒美ですよ……。それよりも、どうかこれを……」

 

 スクルドが再び寄ってきて、洗浄術をまたかけて、被り血を消滅させる。さらに、黒いマントを差し出してきた。

 エリカはそのマントを身につけて、とりあえず裸身を隠す。

 それにしても、やっぱり、喋ることがわけがわからない。

 本当に、どうしてここに?

 

「こ、こんなことして……す、すぐに……近くの詰め所から……兵が……」

 

 そのとき、やっと舌が動くようになったのか、女監守長が床に倒れたまま、呻くように口にした。

 一方で、もうひとりの女監守が手を腰にゆっくりと動かしているのがわかった。

 なにを手に取ろうとしているのか知らないが、とりあえず、持っていた剣を槍のようにして投げた。

 

「うぎゃああ」

 

 女が動かしていた手が剣によって、床に縫い付けられた。

 部屋に絶叫が響き渡る。

 もうひとりの女監守長は目を丸くして、這ったままの身体を硬直させている。

 

「うるさいわねえ。いくら、スクルドが防音の結界をしたとはいえ、騒がしいのは嫌いなのよ……。それで、こいつら、どうする?」

 

 コゼがエリカを見る。

 だが、やっと助かった……。

 そう考えると、張っていたエリカの気がすっと抜けるのを感じた。

 その瞬間、我慢していたものが、股間で爆発した。

 

「あああっ、も、もうだめえっ、痒いいいいっ」

 

 絶叫するとともに、その場にうずくまって股間を押さえる。

 押さえただけじゃ収まらない。

 気がつくと、狂ったように手を股に当てて動かしていた。

 随分と長い時間、痒み縄とかいう得体の知れない責め具で股間を締めつけられていた。

 そのあいだ、まったく満たされることのなかった掻痒感が灼熱の炎のようにエリカの全身を駆け巡ってきていた。

 だが、それも、責められているあいだや、自分を侮辱したこいつらに剣を振るっているあいだは、なんとか忘れることもできた。

 しかし、もうだめだ。

 やっと救出されて、心の張りが解放されてしまうと、それはもはや目を背けることができない、もっとも大切な緊急事態になっていたのだ。

 

「んんんんっ、んんんんっ」

 

 狂ったように股間で手を動かすと、あまりの気持ちよさに、快感の声が迸りそうになる。

 エリカは必死になって口をつぐみ、それが漏れ出るのを防いだ。

 

「あ、呆れた──。この状況で、あんた、いきなり自慰? 本当にあたしたちだけのときには、慎みっていうのがなくなるわねえ」

 

 コゼが呆れた声を出す。

 しかし、擦り始めると、もう手を休めることなどできない。

 狂気のような股間の痒みに、もう自分がどんな無様な姿を晒しているのかを考えるのも不可能だ。

 

「うるさい──。あ、あんたには、この痒みの苦しみがわかんないのよ」

 

 エリカは、胯間を慰めながら怒鳴った。

 スクルドがエリカの身体に触れる。

 

「ごめんなさい、エリカさん。すぐに治療術で毒抜きしますね」

 

 スクルドが術をかける気配を示した。

 

「うわっ、待って。エリカからすごい淫気……。ちょっとばっかり、吸わせてよ……。ご主人様から大量に淫気もらったけど、こっち側の世界を飛び回って、たくさん使ったし……。あーあ、なくなった」

 

 クグルスがエリカの周りを飛び回りながら言った。

 しかし、身体を温かいものが包み、狂うほどに痒かった苦しみが消える。

 エリカは胯間を擦るのをやめた。

 また、糸で引かれたために、じんじんとしていた乳首とクリトリスの疼痛(とうつう)も消滅した。

 エリカはほっとした。

 

「あ、ありがとう、スクルド……。れ、礼を言うわ。あんたがどうして、ここにいるかわかんないけど……」

 

「そうですね……。話せば少し長くなります。王都で色々ありまして……」

 

 相変わらず、屈託のなさそうな顔でにこにこしている。

 だが、本当にスクルズだ。

 髪の毛は変わってるが……。

 

「あっ、そう……。じゃあ、あとで……。ところで、クグルス――」

 

 エリカは、飛び回っている魔妖精を掴もうとした。

 しかし、ひらりと避けられる。

 

「うわっ、なんだよ。ここまで助けを連れてきたじゃないか」

 

「やかましい――。わ、わたしは、まだ怒っているのよ……。置き去りにしたことだって……。パリスの前で恥をかかされたことだって……」

 

 エリカは肩で息をしながら言った。

 そして、視線をコゼとイライジャに向ける。

 彼女たちふたりが、この一日、どこでなにをしていたのか?

 どうやら、無事でいたようだが、やっぱりロウの勘のとおり、コゼたちもまた一度は捕らえられたのか……?

 だとしたら、どうやって、助かったのか?

 ブルイネンや、スクルズ改めスクルドが同行しているのはどういう経緯で?

 そもそも、ここは正確にはどこなのか?

 エリカが離されたロウの状況を彼女たちは承知している?

 

 訊ねたいことは山ほどある。

 でも、これからどうするかは、わかりきっている。

 彼女たちから話を訊くのは、行動を起こしながらでも問題ない。

 

「そんな意地悪を言うんなら、だったら、さっきの痒みを戻しちゃうぞ。死ぬまで自慰をしてたらいいさ」

 

 クグルスがからかうような物言いをした。

 エリカは、またもや、かっとなった。

 

「そんなことしている場合じゃないでしょう──。ロウ様を助けにいくわよ。わたしを水晶宮に連れ戻しなさい、クグルス」

 

 エリカは怯えた顔を向けている女監守長に近づいていく。

 そして、さっともうひとりの女の手を床に縫い付けている剣を抜いた。

 手から剣を抜かれて悲鳴をあげる女を蹴飛ばし、壁まで転がす。

 血の付いた剣は、そのまま女監守長の顔に向けた。

 裸にマントだけでは、心もとない。

 とりあえず、こいつの服をもらう……。

 

「ひいっ」

 

 女監守が声をあげた。

 エリカは剣を持っていない手で彼女の襟首を掴むと、身体を引き起させる。

 

「いつまでも身体が痺れたふりはやめなさい。服を脱ぐのよ。一枚残らずね。それをわたしに寄越しなさい」

 

「ふ、服?」

 

 女監守長が完全に怯えた口調になって言った。

 エリカは立ちあがると、壁まで蹴り飛ばされていた女監守に無造作に近づき、剣を背中に突き刺す。

 女は身体を一瞬だけ弓なりに反らせて、それから吐くような大きな息をした。

 剣を抜いたときには、血が噴き出した。

 女は屍骸の仲間入りだ。

 

「まだ汚れていない服は、あんたの服だけなのよ。だから、脱げって、言ってんのよ。わたしは腹が煮え返ってんのよ……」

 

「こわっ」

 

 茶化すような声を出したのはコゼだ。

 エリカは、コゼを睨みつけた。

 いまは、こいつの冗談に付き合う気分じゃない。

 コゼがわざとらしく肩を竦ませる。

 

「……少しは急いだ方がいい……。襲撃が起きたことを報せる魔道信号をすでに打たれている。それはわたしが遮断させたが、時間が経ってしまうと、今度は遮断されていることに対して、不審に思う者が出ないとも限らない」

 

 声の方向に視線を向ける。

 ブルイネンだ。

 表情は複雑そうだが、とにかく、彼女は「味方」だと判断していいのだろう。

 唾液を注ぎ込んだけだと思ったが、すでにロウの淫魔の術に捕まっているということか……。それとも、エリカの知らないところで、ロウとなにかあった?

 とにかく、すでにブルイネンはロウの支配下にある感じだ。

 

 それにしても、本来は敵であるはずのブルイネンが、主家を裏切るかたちになるにも関わらず、「犯罪者」であるロウや自分に肩入れするとは……。淫魔術というのは、どこまで強力なのだろう。

 本当に、このところのロウの不思議な力は神がかっている気がする。

 しかし、なんとなく、姿勢が不自然だ。

 エリカは首を傾げた。

 

「ブ、ブルイネン様──。こ、これは、どういうことですか──。お、お助けを……」

 

 女監守がやっとブルイネンの存在に気がついたようだ。

 しかし、すぐに顔が曇る。

 ブルイネンが自分の助けにはならないということには、すぐに気がついたようだ。

 エリカは剣をさっと振る。

 女監守の右半分の髪が肩口からばっさりと床に落ちていった。

 悲鳴があがる。

 

「聞こえないの、お前。ふ、く、よ」

 

 エリカの言葉に、やっと恐怖にひきつらせた女監守がやっと服を脱ぎ始める。

 脱いだ先から引き寄せ、マントを脱いで、衣類を身につけていく。

 さすがに股につける下着には手を出す気はならないから、ズボンは素肌の上に直接はいたが、胸当てについてはさせてもらった。

 これがなければ、動くたびに乳房が揺れて邪魔なのだ。

 やがて、すっかりと服を交換することができた。

 背格好が似ているので、大丈夫だと思ったが、服を着てみると、胸はきつくて、ほかの部分はやたらに緩い。

 仕方がないので、緩い部分は紐を見つけて調整する。

 胸は上ふたつ分のボタンを外しておくしかない。

 改めてマントを身につける。

 

「じゃあ、あんた、ごめんね」

 

 コゼが小さく言った。

 しばらく壁を背にして静かにしていたコゼがすっと動いた。

 女監守はコゼの接近に振り返ることもできなかった。

 息を吐く間もなく、彼女が床に倒れていく。

 その首は喉の部分で完全に斬り裂かれていた。

 

「さあ、これで落ち着いたわね。話は後よ、エリカ。とにかく、ここを出るわよ。とりあえず、冒険者ギルドに行くわ。ひと悶着あったんだけど、いまはそこを拠点にしているのよ。あんたも、そこで……」

 

 イライジャだ。

 冒険者ギルド──?

 なんで、そんなところに……と一瞬、思ったが、すぐに考えてみれば、いい隠れ処だと考えた。

 ロウのパーティの一員として、コゼもエリカも、(シーラ)ランクパーティーの冒険者だ。

 その(シーラ)ランクパーティーをギルドは無条件に既存権力から匿う義務がある。

 なるほど、ギルドか……。

 

「だめよ、イライジャ」

 

 そう思ったが、エリカは首を横に振った。

 そして、エリカは持っていた剣を捨てて、部屋の隅にあった誰かのものらしい細剣を手に取った。

 普通の剣よりも、こっちがエリカの得手なのだ。

 

「……だめってなによ、エリカ……。とりあえず、あんただって、身体を休めないと……。酷い目に遭ったんでしょう……?」

 

 コゼが怪訝な口調で言った。

 

「なに言ってんのよ、コゼ。ロウ様はまだ水晶宮よ。取り返しにいくわよ」

 

 エリカは断固として言った。

 ロウのことだから、あるいはもう自力で逃亡しているかもしれないが、だからといって、エリカはひとりで安全な場所に先に向かうつもりはない。

 エリカはロウの一番奴隷で、ロウの護衛だ。

 

 あのとき……。

 

 最初に受けたロウからの命令は、ロウを助けることだ

 その命令はいまでも、エリカの心の深い部分に貫かれている。

 それにもかかわらず、エリカをひと足先に逃がしたロウにも、エリカは腹を立てている。

 

 ロウの安全を確かめずして、戻るものか……。

 

「でも、状況もわからないし……。ギルド長のエビダスに情報を集めさせているわ。とりあえず、一度態勢を整えてから……」

 

 イライジャが困ったように言った。

 

「だったら、イライジャたちはギルドで待ってて。わたしは、ひとりでだって、いまから突撃するわよ」

 

 エリカは、剣を腰にさげる。

 そして、クグルスを見た。

 

「お前は一緒に来るのよ、クグルス。塔や水晶宮の見張りにでも、なんでもとりついて、とにかく、ロウ様のところに近づくのよ。お前にはロウ様の居場所を感じることができるんでしょう」

 

「まあ、近づければね……」

 

 クグルスが言った。

 

「ま、待ちなさい、エリカ。あたしも連れて行きなさいよ……。この不良巫女も行くわ。イライジャはギルドに戻って待機してて。情報を集めながら、そこで待ってて」

 

 コゼが慌てたように言った。

 すると、さすがに、イライジャも同行すると声をあげる。

 しかし、エリカは首を横に振る。

 

「やっぱりイライジャは、安全なギルドに……。全員が戻ることないわ。イライジャはギルドで情報を集めて。万が一にも、ロウ様の救出に失敗したときには、ギルドを動かしてでも、手を打って」

 

 きっぱりと言った。

 

「そうね。それに、エビダスに渡す毒消しを届けないとね。このまま行くんだったら、そっちも処置しないと……。ほったらかして死なれたら、さすがに目覚めが悪くなるわ」

 

 さらにコゼも言った。

 でも、毒消し?

 なんのこと? なにやったんだろう。

 

「だけど…」

 

 イライジャは、ひとりだけ居残るということに、当惑しているようだったが、今度ははっきりと、イライジャの腕では足手まといだと告げた。

 頭はいいが、イライジャは戦士ではない。

 イライジャを守りながらでは、ロウを助けられない。

 エリカの言葉に、イライジャは黙りこんでしまった。

 そのとき、コゼが「あたしらが捕らえられたら、あれが積極的に動く?」とぶつぶつと口の中で言ったのが聞こえた。

 

「水晶宮に戻るんだったら、こいつが案内できるよ。こいつも水晶宮から逃げてきてるから、当たり前のところは使わなかったんだって……。こっちに降りてくるときも、誰もいない道から来たらしいよ」

 

 すると、クグルスが口を挟んできた。

 “こいつ”というのは、ブルイネンのことだろう。

 だが、ブルイネンも逃げてきた?

 しかし、まあいい。

 それよりも、ロウだ。

 

「誰もいない道って、なに?」

 

 エリカは訊ねた。

 

「うん、さっき、身体の中から聞いたんだけどね……。お前、なんとかしな。案内できるんだろう? さもないと、いつまでも、そのままだぞ」

 

 すると、クグルスがブルイネンに向かって、口を開いた。

 “いつまでも、そのまま?”

 クグルスの脅しのような物言いに、改めてブルイネンを眺めると、ブルイネンのズボンはまるでおしっこでも漏らしたかのようにな大きな染みがあった。

 顔も赤いし、息も少し荒い。

 

 もしかしなくても、クグルスはブルイネンに淫らな魔道をかけっぱなし?

 そういえば、クグルスはブルイネン体内に入ってここまで、コゼたちを連れてきたのだろう。

 クグルスの悪戯好きは、嫌というほど知っている。

 

「ああ……もう苦しめないでよ、妖精さん……。もちろん、案内するわ。太守も知らない秘密の脱出路がある……。水晶宮に繋がる別の転送門が……。そこから浸入できる。そして、門を潜って、直接に水晶宮に行きましょう」

 

 ブルイネンが股を擦り合わせるように動かしながら、切なそうな息とともに言った。

 

 

 

 

(第31話『下層地区のエルフ女囚』終わり、第32話『淫魔師と死の呪文』に続く)

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