※この作品はR-18です。

【2025.9.5コミック発売】異世界で淫魔師ハレム【完結】   作:ドン・ドナシアン

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44  歌姫無惨

「あ、あっ、ああっ──」

 

 男奴隷の怒張がニーナの股間を貫く。

 自分でも恥ずかしいくらいに身体が反応している。

 ニーナの股間にやっとあのドラクスの薬が塗り足してもらえた。

 そして、男奴隷の怒張がそこを貫く。

 薬の欠乏でおかしくなりかけていたニーナの全身にとてつもない快楽の暴流が流れ始める。

 

 これだ──。

 この快感だ──。

 もうニーナにはなにも考えられない。

 あとは狂うだけだ──。

 この快感があれば、もうなにもいらない……。

 

 ニーナは最高の愉悦とともに、雲にでも乗っているような心地よさを味わい続けることができる。

 

 だが、怖ろしいのはその後だ。

 やがて、薬の効果が途切れるときがやってくる。

 それは怖ろしい苦しみだ。

 心も身体もじわじわと引き裂かれるような、なにかに踏み躙られるような凄まじい苦痛が少しずつ広がっていくのだ。

 そして、息をするのも苦しくなり、薬を再び塗ってもらいたくてたまらなくなる。

 その苦しみは言語を絶する。

 

 だが、ドルニカ夫人は簡単には薬を与えてくれない。

 膣に──。

 お尻に──。

 それを塗ってもらわなければ、ニーナはおそらく発狂して死んでしまうと思うのに、さまざまな苦役や恥辱の行為と引き換えでなければ、ドルニカ夫人はニーナに薬を与えてくれないのだ。

 

 だから、ニーナはなんでもした。

 

 男奴隷の精を受け入れろと言われれば、躊躇なく股を開いて腰を突き出したし、性器を舐めろという命令ならその通りにした。

 男奴隷の尻を舐めろという言葉でさえも、ニーナは躊躇う気にはならなかった。

 

 逆らえば薬はもらえない。

 だが、いまはもらえた。

 それでいい。

 

 途方もない快楽──。

 この世のものとは思えない愉悦──。

 

 男奴隷たちの性器が、ドラクスの薬を塗ってもらったばかりの膣を犯してくれている。

 

 最高だ。

 だが、これがもらえるのは簡単ではない。

 ドルニカ夫人は、ニーナが満足するような頻度では薬を与えてはくれない。

 薬の欠乏でどうしようもなくニーナが苦しみ、薬を与えるだけの辱しめをニーナが受けたと判断したときにしか、薬を追加してくれない。

 

 ニーナは薬を塗ってもらうために、本当になんでもした。

 

 どんなに屈辱的なことでも、薬が欲しくて進んでそれを実行してしまう自分がいる。

 ニーナはこの屋敷の内外を裸で四つ足で這い、自分自身を含めたあらゆる者の尿を飲み、残飯を食べ、寝るときは檻に入った。

 

 男奴隷たちの精も悦んで受け入れた。

 ニーナを孕ませるための精の抽入は日に三度──。

 五人の男が毎回準備される。

 

 そして、日に三度とも、その男奴隷たち全員の精を子宮に受け入れるのだ。

 ドルニカはニーナが妊娠しやすくなる薬物を必ず摂取させていたし、逆に男奴隷は精を強くする薬物を飲まされているようだ。

 ドルニカはニーナに男奴隷の子を孕ませるつもりなのだ。

 そうすれば、トーイのことは諦めざるを得ないし、二度とドルニカ夫人から逃亡しようと考える気は起きないと思っているようだ。

 そして、おそらく、産まれた子もまた、ニーナから奪われ、ニーナを従わせる道具として使われるのだと思う。そんなことをドルニカ夫人が話していたのを聞いた気がする。

 

 だが、もうどうでもいい……。

 トーイの子でなければ、誰の子を孕ませられても一緒だ。

 

 トーイと会えないのであれば、もうニーナはずっとここに監禁されたままでもいい。

 

 トーイのところでないなら、どんな牢獄でも同じだ。

 

 そこが地獄であろうとも……。

 

 トーイとは二度とは会えないということが地獄だ……。

 しかし、もうトーイには会えない……。

 

 しっかりと薬物依存症にされてしまい、もはや、トーイのことを考えられなくなっている。

 また、毎日のように、これだけ男奴隷の精を注がれれば、おそらく妊娠していると思う。

 腹に男奴隷の子を宿したことがわかる頃には、ニーナはトーイのことを思い出すことができなくなっている気がする。

 

 いまでも、朝から晩まで、起きているあいだに考えているのは薬の事ことだけなのだ。

 この瞬間だって、一生懸命に考えないとトーイのことを思い出せない。

 

「はぐううう──」

 

 獣のような声がした。

 それが自分自身の声だとわかるのに、少しの時間が必要だった。

 これ以上、なにも考えられない。

 とてつもない波がニーナを襲い、もうなにもかもわからない。

 

 たったいま誰のことを考えていたのか……。

 それもわからない……。

 愉悦が襲い続ける……。

 また獣の声がした。

 激しい戦慄がやって来る。

 

 それは我慢するには、あまりにも凄すぎる快美感だった。

 ニーナは男奴隷の精がたっぷりと子宮に迸るのを感じながら、吠えるような雄叫びをあげた。

 

 

 *

 

 

 ニーナが涎を流しながら、男奴隷に精を注がれるのを横目で見ながら、ドルニカは、ブルドからの報告を受けていた。

 

 ブルドはドルニカの使う毒遣いであり、トーイというニーナの元婚約者の監視を命じてあった。ブルドは手の者をマイムの城郭に送り、ずっとニーナの想い人である、あの宿屋の息子を見張らせていたのだ。

 

 そのトーイという若者は、なかなかの愚図ぶりを発揮して、ニーナの告白を断り、さらに、ニーナが雇った冒険者を追い出して、ニーナはドルニカのもとにいるべきだと繰り返していたということだった。

 どうやら、万が一にもニーナを奪い返そうと行動を起こす気概も無さそうだった。

 だから、放っておいたのだが、この数日で動きに変化があったということで、ブルドから報告を受けているところだ。

 

「……それで、その宿屋の息子はどうしているの、ブルド? まさか、ひとりでこの屋敷に乗り込んで来て、ニーナを奪い返そうとしているんじゃないでしょうねえ? まあ、そうなったら面白いけどね。もののついでに、ニーナもろとも性奴隷として、飼ってやってもいいかもしれないわね。あの性奴隷の男奴隷たちは借り物だけど、そろそろ、わたしも男の性奴隷を持ってもいいかも」

 

 ドルニカは笑った。

 すると、ブルドが当惑したような表情でニーナをちらりと見た。

 ニーナの前で堂々と、トーイを捕らえてしまえとドルニカが仄めかしたことに驚いたのだろう。

 

「この雌犬のことだったら、気にしなくていいわ。もうドラクスの薬と男奴隷の性器が気持ちよくって、訳がわからなくなっているわ。もしも、聞いていたとしても、いまさらどうしようもないしね」

 

 ドルニカは笑った。

 ニーナは四つん這いの体勢で男奴隷たちに犯されている。

 眼は虚ろで、だらしなく舌を出して、大声で吠える姿には、もはや知性は感じられない。

 ああやって、日に三度、五人の性奴隷たちに犯させ、朝、昼、晩と精液を子宮に注がせているので、そろそろ、妊娠してもおかしくはないが、それがわかるのは、まだしばらくはかかるだろう。

 

「そうですか……。では、言いますが、宿屋の息子は確かに王都にやってきています。三日前のことですが……。そして、冒険者ギルドに、ニーナを見つけてくれと依頼を出したようです」

 

 ブルドが言った。

 

「冒険者ギルド? それで、まさかギルドは、その依頼を受けたのではないでしょうね?」

 

 ドルニカは眉をひそめた。

 

「受けたようです。トーイは、自分の婚約者を探して欲しいと依頼をしたようです。ギルドとしては断る理由もなかったようですね」

 

 ドルニカは舌打ちした。

 たかが冒険者と放置したいところだが、あのギルドには一騎当千の実力を持った者も多く、油断すると足元をすくわれるということもある。ほとんどの冒険者の構成員がもともと異国人だったり、風来坊だったりするので、貴族に対する遠慮のようなものはない。

 クエスト達成のためなら、世の中の権威くらい平気で踏みにじるような野蛮人だ。

 

 もともとは国力を向上させるための移民受け入れの施策として作られた冒険者ギルドだが、いまでは、他国にまで拡がったりして、馬鹿にならない戦力を抱える、国境を跨いだ一大勢力だ。

 それなりの独立した権威であり、宮殿もその力を認めている。

 だから、一介の貴族程度では、抑えきることは難しい。

 厄介なことになる前に手を打った方がいいと思った。

 

「……いいわ。わたしも、宮廷に手を回してその依頼が取り消されるように図るわ。知っている将軍に頼んで、屋敷の警備も回してもらう。ところで、そのトーイとかいう宿屋の坊やと、雇われた冒険者がどこにいるかはわかっているの?」

 

「彼らは外壁に近い安宿に泊まっていたのですが、いまはそこを引き払っています。どこかに身を隠したようです──。でも、問題ありません。いま手の者に探させています。すぐに見つけます」

 

「いいわ。じゃあ、見つけ次第、処置しなさい。お前はお前で、その依頼を受けた冒険者を片付けるのよ。死体にして道端に放逐しなさい。それと、依頼をした息子のトーイは生け捕りにしておいで──。このわたしに逆らう者はどういうことになるか、いい機会だから世間に示しておくことにするわ」

 

「かしこまりました」

 

 ブルドが頭を下げる。

 ドルニカは満足して頷いた。

 

 そのとき、ニーナが吠えるような声をあげた。

 すっかりと正体を失くしていて、男奴隷の珍棒が気持ちよくて仕方がないという感じだ。

 堂々と、トーイを捕まえるということを話していたのに、それが聞こえた様子もない。

 

 情けないニーナの姿にドルニカは苦笑した。

 

 

 *

 

 

「ふざけたことを言うな、てめえ──。どいつもこいつも、虫けらだ──。臆病者で、卑しい心しか持たない禄でなしだ──」

 

 ステファンは酒をあおって叫んだ。

 その罵詈雑言が誰に向かって叫んでいるのかはもはやわからない。

 いや、わかっている。

 この憎悪はステファン自身への怒りだ。

 

 ニーナの唄を愛しながらも、それを救うためになにひとつやろうとしない、自分自身への感情の迸りだ。

 覚えているのは、居酒屋を三軒飲み歩いたところまでだ。

 それぞれの店で滅茶苦茶に酒を飲み、周囲に当たり散らしたところで、店を叩きだされた。

 

 だが、金ならいくらでもある。

 ステファンを酔わせてくれる酒場に事欠くことはない。

 追い出されれば、次の店で飲むだけだ。

 そうやってステファンは、居酒屋を巡り続けた。

 

 酔いたいのだ。

 酔って苦しみから逃れたい──。

 

 ニーナ──。

 

 ニーナの唄を──。

 

 情けない──。

 自分はなんという情けない男なのだ──。

 

 敬愛しているニーナがあんな目に遭っているというのに……。

 

 なにもしない……。

 なにもしようとしない……。

 

 自分は愚物だ──。

 どうしようもない意気地なしだ──。

 なぜ、ニーナを助け出そうとしない……。

 どうして、最初から諦めている……。

 ニーナの唄に人生を捧げると誓ったのではないのか……。

 あのニーナの可哀想な姿……。

 

 畜生──。

 

 畜生……。

 

 ステファンは酒を飲もうと手を伸ばした。

 だが、その胸倉が不意に掴まれて、身体を椅子から引き起こされた。

 

「ふざけるな──。さっきからうるさい奴だ──。喧嘩を売りたいなら買ってやる──。表に出ろ──」

 

 怒鳴っている男が誰だかわからないが、どうやらステファンは、その男に悪態をつき続けていたようだ。

 本当はステファン自身に対する言葉なのだが、その男は自分に向けられていると思ったらしい。

 実際に、その男に向かって罵っていたのだろうが……。

 

「表に出たらどうする──? 俺を殴るのか──? はっ──。だったら、殴れ──。殴ることができるならな──」

 

 ステファンは怒鳴った。

 すると、突然に天地がひっくり返った。

 

 泥の匂いがした。

 顔が痛い。

 口に血の味がする。

 殴られたのか──?

 だが、よくわからない。

 

 しかし、それで頭がかっと熱くなった。

 どうしようもない怒りが全身に込みあがってきた。

 情けない──。

 情けない自分に対する怒りだ──。

 

「ど、どいつもこいつも、殺してやる──」

 

 ステファンは喚いた。

 

「くせになるぜ、のしちまえよ──」

 

「放っておけよ、酔っぱらいだろう──」

 

「いいから殴れよ──。殴れってばあ──」

 

 いつの間にか、大勢の野次馬のような者に囲まれていた。

 けしかける者もいれば、たしなめる者もいる。

 男もいれば、女もいる。

 

「くそおっ、殺せ──。俺は生きる価値のない人間だ──」

 

 誰かが馬乗りになって、ステファンの首を絞めている。

 そいつに向かって叫んだ。

 

 殺すなら殺せ──。

 

 ステファンに生きる価値がないというのは知っている。

 命を捧げると思った女が、残酷な目に遭っているのを目の当たりにしながら、なにもしなかった臆病者だ──。

 ステファンには生きる価値はない──。

 

 殺せ──。

 殺すなら殺せ──。

 

 ステファンは喚いた。

 

 だが、急に首を絞める手が緩んで、身体に乗っている重みもなくなった。

 身体が持ちあげられる。

 誰かに肩を抱かれている。

 

 柔らかい……。

 そして、小柄……。

 女?

 どうやら、女に肩を抱えられて立たされているようだ。

 

「この人はあたしの知り合いよ──。迷惑をかけてご免なさい──。連れ帰るわ。本当にご免なさいね……」

 

 その女が一生懸命に周りに話している。

 ステファンを殴っていた男や、取り囲んでいたい男女が去っていく。

 

「ちょっと、あんた、金持ってんでしょう? 自分の勘定はしてよね」

 

 肩を担いでいる女がステファンにそう言い、懐に手を突っ込んだ。

 金子を入れている革袋がそこにある。

 女はそこから幾らかの硬貨を取り出して、追ってきた店の者に支払った。

 

「歩くわよ、ステファン」

 

 女が言った。

 そして、ステファンは肩を担がれたまま、歩かされ始めた。

 だが、ステファンはその女が誰なのかわからなかった。

 どこかで見た気もするが……。

 誰だろう……?

 歩きながら女の顔を見た。

 若い──。

 結構美しい顔立ちだ。

 そして、やっと思い出した。

 この女は冒険者だ。

 ニーナが最初に雇った三人連れの冒険者のひとりだ。

 

「あ、あんたは……ぼ、冒険者……らな……。ニーナ……様が……雇った……」

 

「そうね──。コゼというわ。いまの依頼者はトーイさんだけどね」

 

 コゼという女が言った。

 

「トーイ──? トーイがいるのか──? あの男──?」

 ステファンは声をあげた。

 

「いいから歩いて──。ほ、本当に身体を預けないでよ──。ちょっとくらい歩けるんでしょう──。頑張って歩いて──」

 

 女が言っている。

 

「トーイといったか? お、俺はあいつに言いたいことが……ある──。そこに連れて……行け……。ニーナさ、様のことを……言いたい……。トーイは禄でなしだ──。ニーナ様は口惜しいが、あの男のことが……好きだったんだ──。そ、それなのに……な、なんで、トーイは……ニーナ様を……守らなかったんだ──。お、俺は……ニーナ様を……守ることが……で、できなかった──。お、俺は、ろ、禄でなしら……。なあ、きいてくれ──。俺は禄でなしなんら──」

 

「わかったから、歩いて──。そのトーイさんのところに向かっているのよ──。いいから歩くのよ──」

 

 コゼが苛立ったように声をあげた。

 だが、ステファンは言わなければならないと思った。

 自分はどうしようもない意気地なしなのだ。

 それを話さなければならないと思った。

 あんな変わり果てたニーナ……。

 それなのになにもしなかった。

 

 ニーナ……。

 

 涙が出てきた……。

 どうしようもなく悲しかった……。

 情けない──。

 

「コゼ、俺は情けない男なんだ──」

 

 ステファンは喚いた。

 

「う、うるさいわねえ──。重いったら──」

 

 コゼが叫び返してきた。

 

 

 *

 

 

「あなたは最低の男です──。ニーナさんが助けて欲しいときに、突き放して見捨て、いまさら助けようと思うなんて──。今日一日だけで、ニーナさんがどんな目に遭い続けているかわかったでしょう──。あなたは悩んだというけど、そのあいだニーナさんは、あのドルニカという性悪女のために、悲惨な目に遭い続けているんですよ──。ニーナさんが大切な存在だと思っているのなら、どうして、もっと早く決心しなかったのです──」

 

 トーイに対するエリカの罵詈雑言が続いている。

 一郎はもはや苦笑するしかなかった。

 

 王都の一画にある廃屋だった。

 今回のクエストのために、わざわざ借りた家であり、家主には数日間のみということで借りたのだ。

 破格の借り賃を支払ったが、その代わり、一郎たちのことは他言無用ということで頼んだ。

 これから女伯爵と対決しなければならない。

 そのための処置だ。

 

 相手は伝手を使って王軍の将軍のひとりやふたりくらいは自由に動かせるくらいの権力の持ち主だ。

 しかも、子飼いの暗殺者もいる。

 うっかりと宿屋なんかにいたら、先手を打たれて軍を派遣され、理由をつけて捕えさせるということもやりかねない。

 

 冒険者ギルドもひとつの権威だが、所属する冒険者が不当な理由で捕らわれたくらいでは動いてはくれないだろう。

 このクエストを受けたとき、あの副ギルド長のミランダが、わざわざ“危ないと思えば、この一件からは手を引け”という忠告をした。

 それは、ミランダもこの一件には、権力を握る女伯爵が絡んでいることが、わかっていたからに違いない。

 

 そのうえで、これに関与するなら、あとは自分たち自身の責任でやれ、ということを仄めかしたのだ。

 だから、念のために、ずっと使っていた宿は引き払い、一度姿を消すことにした。

 

 また、今日一日の情報収集だけで、ニーナの悲惨な状況は十分すぎるほどわかった。もう一度聞き込みにいったコゼはまだ戻っていないが、たった一日、調査をするだけで、ニーナがかなりの悲惨な状況になっていることが判明したのだ。

 

 やはり、ニーナが監禁されているのはドルニカの屋敷だ。

 

 いずれにしても、確かなのは、王都におけるニーナの屋敷はすでに売りに出されているということだ。

 十人ほどいた家人も全員が数日以内に解雇されている。

 

 あのステファンという執事も行方不明だ。

 

 ニーナ自身はドルニカの屋敷にずっといるようだが、彼女の境遇は悲惨を通り越して、言語を絶するものだ。

 いまのところ確証もなく、単なる噂にすぎないが、家人たちやドルニカ家の奴隷たちへの聞き込みによれば、ニーナは明らかに薬物中毒の状態であり、毎日、毎晩、男奴隷たちに犯され続けているということらしい。

 

 また、先日はドルニカの屋敷で晩餐会も行われていて、それに関与した者たちによれば、ニーナは首輪ひとつを身に着けただけの素裸で唄を歌わされ、客たちの目の前で料理の入った皿に放尿させられ、しかも、それを犬食いで食べさせられたという。

 それを男奴隷たちに犯されながらやらされたという話だ。

 

 その後、酔った客たちの尿を飲み、男客や女客の性器を舐め、最後にはすりこ木を渡されて、客たちの囲む卓の上で、自ら尻で自慰をやらされたという話もあった。

 

 話半分としても凄まじすぎる酷い仕打ちだ。

 

 だが、薬物中毒のニーナは、逆らえば薬がもらえないので、もはやどんなことでもドルニカの命令には逆らえないらしい。

 

 聞けば聞くほど、無惨な状況であり、もはや、トーイに聞かせるのは憚られたが、エリカはトーイはそれを知るべきだと主張して、いま話している。

 

 トーイはあまりの内容に呆然としていた。

 いまは、身体を震わせて涙を流している。

 

「お、俺が馬鹿だった……。ド、ドルニカ様……いや、あのドルニカを信用していたばかりに……」

 

 トーイが言った。

 

「それについても、わたしたちは忠告しましたよ──。あの女伯爵は危ない女だと──。それなのに、あなたはニーナさんが雇ったわたしたちを放逐して、ニーナさんが、あの鬼畜女に拷問されるに任せたのですよ──。もしも、あのとき、すぐにニーナさんを助けることをやっていたら……。こ、こんなことには……」

 

 エリカが感情を制御できなくなったかのように、上ずった声になって言葉を詰まらせた。

 ふと見ると、エリカもまた口惜しそうに泣いていた。

 一郎は黙って、エリカを引き寄せて肩を抱いた。

 

 エリカの怒りは、ニーナとドルニカに関わりながら、一郎やエリカたちも彼女の一件から手を引き、その結果、取り返しのつかない状況になってしまっていたことについての自分たち自身への苛立ちでもあるのだろう。

 一郎自身も、ギルドを通じた新たなクエストとして依頼されるまで、完全に手を引くこと以外に、なにかできたのではないかと思わなくもない。

 

 少なくとも約十日前のニーナがドルニカに王都に連れ戻された直後であれば、ニーナが受けた恥辱や苦役は少ないもので済んだと思う。

 調べる限りでは、ドルニカ家の警護は厳重だが、手が出せないというほどではない。

 一郎の不思議な力や、エリカやコゼの武術があれば、そこに捕らわれている女のひとりくらいを助けだすことはできると思う。

 

 だが、なにもしなかった。

 一郎たちもまた、この王都でのほほんとした日々を送っていただけだ。

 それに対する悔悟の気持ちは、一郎にもある。

 

「ところで、トーイさん──」

 

 一郎は口惜しさにすすり泣きをしているトーイに声をかけた。

 これだけは、はっきりさせないとならない。

 

「は、はい……」

 

 トーイが一郎に視線を向けた。

 

「ニーナさんの状況は、いまエリカが語ったとおりです。話半分だとしても、酷い状況です。ニーナさんは毎日のように男奴隷に汚され、薬物中毒に苦しみ、心を引き裂かれるような目に遭い続けています──。うまく助け出したとしても、ニーナさんは、元のニーナさんじゃないかもしれません。それでも、ニーナさんを受け入れられますか?」

 

「あ、当たり前だ──。ニーナの心が傷ついていたとしても、この俺が癒してみせる──。今回の依頼で長年の蓄えは消えたけど、借金をしてでも薬物中毒についても治療の手段は探す──。もう、迷わない──。俺にはニーナが必要だ。歌姫ニーナではなく、ただニーナが必要なんだ──」

 

「もしかしたら、男奴隷の子を宿していても?」

 

「ニーナの子は俺の子だ──」

 

 トーイはきっぱりと言った。

 その眼に迷いはないし、言葉にも一瞬の躊躇もなかった。

 

 とりあえず、一郎はほっとした。

 ニーナを助け出したとしても、トーイがそれを受け入れられないのであれば、ニーナは救われない。

 だが、少なくともトーイは、ニーナを受け入れると言った。

 一郎はトーイを信じることにした。

 

「……わかりました。だったら、俺たちは全力でニーナさんと救い出します。薬物中毒もなんとかなるかもしれません……。確約はできませんが……」

 

 話を聞いている限りにおいて、ニーナが侵されているドラクスの魔薬というのは、媚薬に属するもののようだ。

 そうであれば、一郎の淫魔力で影響を消せるかもしれないし、クグルスもいる。

 

 おそらく、大丈夫だと思う……。

 ただ、薬物の影響は消せても、傷ついたニーナの心の傷を消すことはできない。

 それを癒せるのは、おそらく世界にただひとり、トーイだけだ。

 

 そのとき、外に通じる戸がノックされた。

 決められた回数と間隔で戸が叩かれる。

 

 コゼだ──。

 エリカが立ちあがり、杖を持ったまま戸に向かう。

 この家全体に、エリカの魔道により結界がかかっている。エリカでなければ、罠が作動して侵入者はそれに捕らわれる。

 戸が開く。

 やはり、コゼだ。

 だが、誰かの肩を担いでいるようだ。

 完全に泥酔した男がそこにいる。

 

「ご主人様、珍しい拾い物をしましたよ」

 

 コゼがそう言って、その男を家に連れ込んで、床に寝かせた。

 

「こいつは──」

 

 驚いた。

 そいつはステファンだ。

 一郎たちの調べでは、この数日、行方不明になっていたステファンだ。

 だらしなく酔っていて、服もぼろぼろであちこちに傷もあるが、確かにニーナの執事だったステファンという男だ。

 

 そのステファンが眼を開いた。

 最初は状況がわからないらしく、床に寝たまま一郎たちに視線を彷徨わせていたが、トーイの姿を見つけた瞬間に、いきなりがばりと起きあがった。

 そして、驚いたことに、トーイに掴みかかったのだ。

 

「お、お前は、ニーナ様の幼馴染の宿屋の息子──。ど、どうして、ニーナ様を見捨てた──。なんで、あの女伯爵にニーナ様を渡した──」

 

 明らかに呂律の回らない状況ながら、ステファンはトーイの襟首を掴んで罵倒を浴びせ続ける。

 一郎はエリカたちと協力して、やっとのことでステファンを引き離した。

 だが、まだ暴れそうな気配だ。

 

「仕方ないわね……」

 

 エリカがステファンに杖を向けた。

 すると、ステファンがまるで糸の切れた操り人形のように脱力して床に崩れ落ちた。

 見ると、寝息をかいている。

 

「目が覚めたら、正気に戻っていると思います」

 

 エリカが言った。

 

「どうしたんだ、これ?」

 

 一郎はコゼに視線を向けた。

 

「酔って暴れていたんです。それで連れてきました」

 

 コゼが言い、簡単に事情を説明してくれた。

 

 それによれば、ステファンはかなり自暴自棄な感じで、無理な酒をあおってって暴れていたのだという。

 それをコゼが偶然に見つけて、連れてきたのだそうだ。

 そして、コゼが最初にニーナに雇われていた冒険者のひとりだと気がつくと、一転して泣きながらニーナのことを訴えたらしい。さらに、ドルニカに対する悪口を言い続け、また、ニーナの唄は最高の芸術だと喚き散らしたとのことだ。

 

 言葉の合間には、ニーナを助けられないステファン自身が情けないと繰り返し泣いたようだ。

 

「本当に持て余しました──」

 

 コゼが疲れたように言った。

 

「だけど、よくやってくれた……。そうなのであれば、このステファンという男は、もしかしたら、使えるかもしれないな……」

 

 一郎はふと思いついた策があり、頬を綻ばせた。

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