【2025.9.5コミック発売】異世界で淫魔師ハレム【完結】 作:ドン・ドナシアン
440 淫魔師対闇魔道師
喉の奥からしたたる唾液を、一郎は首をあげて飲みこんだ。
口を左右に押し割って、常に口を開いたままにさせている棒状の口枷のために、唾が顎の下に流れ続けるからだ。
それでも、かなりの時間、こうやって放置されているので、すでに一郎の口から下はかなりの涎で濡れているし、顔から落ちる唾は、一郎の膝の上に向かって大きな溜まりを作っている。
ただし、唾液を受けとめているのは、大きな石の板だ。
一郎は、パリスが改めて指示をしたらしい陰湿な責め苦を受けたまま放置されていた。
身体は薄い革製の身体にぴったりの袋で包まれている。革から出ているのは、首から上だけだ。
服とは言えない革袋には袖の部分はなく、一郎の両手は革の包みの中で後ろ手に革紐で拘束された状態できつく包まれている。
また、脚の部分も左右には分かれてはおらず、両脚をぴったりと密着させた状態で袋状の包みだ。
つまりは、一郎はまるで芋虫のような状態で、革の袋に包まれているという状態なのだ。
その恰好にされた後、両脚を正座状態で床から離れられないようにさせられ、数本の鎖で床にある金具に折り曲げた脚の上から拘束された。
しかも、その正座の腿の上に、重い石板を三枚乗せられた。
石板は一郎の腿の上から落ちないように、縄で胴体に結ばれてもいる。
さらに、首には天井から垂れた細い縄が巻かれていて、ちょっとでも身体が傾こうものなら、容赦なく首が縛るように細工をされているのだ。
この状態で、おそらく半日は過ぎているのではないだろうか。
すでに足の感覚はほとんどない。
革の中は、絶えず流れ続けている汗で蒸れかえっていた。
しかも、責め苦はそれだけじゃない。
意地の悪いことに、一郎の周りには、煌々と燃える炭火を置いている四個の大釜が置いてあり、それが密室を地獄のような暑さに保っていた。
頭は朦朧として、痛みのようなものも感じてきている。
おそらく、熱中症の状態にあるのだろう。
パリスの狙いは、次の「訊問」の前に、限界まで一郎を弱めることにあるようだ。
いつまでたっても、一郎が屈服しないためだろう。
まあ、訊問の前に、まずは抵抗する力を完全に奪ってしまうのは、拷問の常套手段だ。
とにかく、部屋にあるのは、四周に燃える炭の不愉快な音と、一郎の鼻から漏れる荒い息──。
そして、唾液をすする音──。
時折、揺れる首縄の擦れる音──。
それだけだ。
いまは、部屋には一郎のほかには誰もいない。
立ち去る前にブルイネンが魔道で暗示をかけたパリスの部下たちもいない。
置き去りにして放置という状況だ。
それも、一郎の神経を追い詰めて、心を削ぐための手段のひとつだと思う。
もっとも、一郎は、壁の幾つかから、一郎を見張る視線をはっきりと感じていたし、そのステータスも読んでいた。
一郎を壁の向こうから見張っているのは、パリスの息のかかったあの男たちだ。
第一、身体を痛めつけられる拷問なら、まだましだ。
尻を掘られそうになったときには、自制心が千切れるかと思ったが、なんとかいまのところ無事である。
まあ、パリスとしては、一郎を屈服させるのが目的のはずだから、効果が低いとみなして、次のやり方に変えたというところだろう。
一郎としては、とりあえずほっとしている。
あと知りたいのは、無事にエリカが救出されたかどうかだが、エリカの脱走に成功し、コゼとイライジャの安全を確認できたら、クグルスには戻ってくるように指示している。
それまでの我慢だ。
エリカが助かったことがわかれば、この時間稼ぎの茶番は終わりにする予定である。
また、拷問のあいだに気がついたが、一郎に接近するエルフ族はまだひとりもいない。
どうやら、パリスは一郎に対する拷問をエルフ族の兵ではなく、あの自分の息のかかった者たちだけでやろうとしているらしい。
それも、助かってはいる。
ブルイネンにエリカの保護を頼んだとき、一郎に拷問をかけ続けていると思う暗示をかけてもらった。
だから、彼らは自分では気がつかないながら、十分に一郎に手加減をしていた。
こうやって、きつい目に遭っているのは、パリスが戻ってからだ。
それにしても、あのパリスは、心の底から嗜虐癖なのだろう。
男でも女でも、残酷に肉体を傷つけて拷問するよりは、圧倒的な恥辱や屈辱を与えて心を潰すような仕打ちが好きみたいであり、これもその一環だ。
本当にえげつない。
部屋の扉が開いたのは、すでに時間間隔も失われて、放出し続ける体液のために、視界が完全に歪んでしまってからだった。
本来であれば、とっくの昔に脱水症状で失神してしまっておかしくないと思っていたので、あるいは、この部屋に流れる空気に、気付け薬のような香がたちこめられているのかもしれない。
「馬鹿みたいに熱いな。そんなに熱いのが好きか、色男?」
入ってきたのは、パリスだった。
右手に鎖を持ち、左手に乗馬鞭を持っている。
「んがっ」
くぐもった女の悲鳴に、一郎は顔をあげた。
驚いたことに、鎖の先には、素っ裸で四つん這いになっているユイナがいた。
ユイナの首にはその鎖に繋がった首輪があり、口には穴の開いた箝口具を嵌められていて、穴から滴る唾液がぼたぼたと落ちていた。
首輪は『隷属の首輪』だ。
「お前の想い娘のはずだが、いまは俺の性奴隷だ。連れてきてやったぜ」
ユイナは泣きそうな顔で膝を床に付けない歩き方で這い進んでいる。そのため、どうしても、脚よりも短い腕側が沈んだ体勢になり、ユイナの腰はみっともなく、高く掲げた状態になっている。
また、その裸体には不自然なくらいに真っ赤で、最初から汗がにじんでいる。
魔眼で確認したが、かなりの媚薬を飲まされている気配だ。
また、やはり、ステータスには、“パリスの支配(弱)”とある。
もしかしたら、ユイナは、なんらかの方法で、パリスに支配されてないのに、完全に隷属しているように思わせている?
それにしても、どうでもいいが、想い娘?
一郎がユイナを?
こいつ、なにをパリスに信じ込ませたのか……。
パリスが軽く手を振ったのがわかった。
その瞬間、パリスの周りをひんやりとした風が包むのがわかった。冷たい外気が一郎の顔をわずかに掠めた。
しかし、それだけだ。
パリスは、冷たい外気を自分の周りだけに固定したようだ。
その証拠に、鎖の先のユイナの身体は、あっという間に真っ赤になり、ぼたぼたと汗が滴りだした。
「ほら、ちんちんだ。犯されまくったお前の身体を恋人に見せてやりな」
びしりと音がして、ユイナの尻から乗馬鞭が激しく鳴った。
ユイナのことを恋人と思ったことはないが、パリスは、ユイナに『隷属の首輪』を嵌めさせて、すべてを正直に喋ることを強要して、一郎との関係と引き出したようだから、ユイナが一郎のことを「恋人」だと口にしたことを信じているのだろう。
また、ここに来る前に、パリスがエリカから情報を引き出すために拷問した可能性は高い。
エリカの身体に忍ばせたクグルスには、パリスがエリカを訊問しようとしたら、エリカの身体を操って、こちらに都合のいい情報を「自白」させろと指示した。
つまりは、一郎はエリカにはなんの感情も持っておらず、いまだにユイナのことを心から愛おしく思っているという「情報」だ。
一郎の「弱点」が間違いなく、ユイナであるというエリカの告白だ。
闇魔道師のパリスは、操ろうとする者の悪感情を発生させることを最初にする。
そのために、一郎が大切にしようとしている女を目の前で痛めつける可能性がかなり高い。
陳腐な策だが、パリスは、一郎を「支配」するために、そうやってくる気がした。
ただの勘だが、なかなかの下衆男のようだから、そうやってくると思ったのだ。
だから、それに乗じて、こちらに都合のいい情報をパリスに与えてはどうかと考えた。
自分の力を過信しているパリスなら、エリカに操り魔道を仕掛けて、まさか、実際にはエリカが本当は操り状態にならないとは思わないだろうと考えた。
一方で、一郎は淫魔師としての自分のステータスから、いかにパリスとはいえ、一郎の淫魔術が刻まれているエリカが真の意味でパリスに落ちないと信じている。
これも勘だが、この世界にやってきて、一郎の勘が当たらなかったことは数えるほどしかない。
「んひいいっ」
鞭で打たれたユイナが悲鳴をあげた。
そして、弾かれたように、四つん這いの体勢から身体を起こして、両手両脚を左右に大きく開いてしゃがみ込んだ格好になる。
それで気がついたが、ユイナの全身には新しいものも、古いものも合わせて、無数の鞭痕がある。
ここでユイナがどんな扱いを受けているかは、それだけで悟り知れた。
まあ、気の毒とは思ったが、ある意味、自業自得だ。
禁忌の魔道なんかに手を出すから、パリスのような男に目をつけられたのだ。
さて、これからどうするかな……?
だが、そのとき、パリスの表情に、かすかだか不審の色が浮かんだ気がした。
わずかだが、ほんの少し首を傾げた。
こいつの考えていることは、ある程度、予想がついているので、なにを疑念に感じているのかはわかるが……。
しかし、まだ、早い……。
おそらく、そろそろ、けりがついている頃だが、確信が持てるまでは……。
「……ちっ、澄ました顔しやがって、じゃあ、どこまで平静でいられるか試してやるぜ」
パリスが軽く舌打ちしてから、ユイナの背中を鞭で引っぱたいた。
「んぎいいっ」
ユイナが悲鳴をあげて、一郎の方向に倒れ込む。
「ユイナ、命令だ。どっちの穴で犯して欲しいか喋るんだ。尻の穴か。前か? 嘘をいうことも、口をつぐむことも禁止する。どっちで犯されたいか、口にしろ」
パリスが言った。
そして、ユイナから口枷を外した。
隷属の首輪をした状態の命令だから、ユイナには嘘はつけない……。
少なくとも、パリスはそう思っている……。
そのうえでの嫌がらせだ。
パリスの目的は、一郎に悪意の感情を抱かせること……。
こいつの能力は闇魔道……。
人の心に浮かぶ悪感情を増幅して支配することを得意にしている……。
一郎の目の前でユイナをいたぶることで、一郎の心に憎悪心を増幅させようとしているのだ。
そして、一郎の心の悪意が臨界点を突破したら、闇魔道を一気に一郎に注ぎ込む魂胆だ。
「……い、いや……。いやです。許して……。目の前でだけは……」
うつ伏せに倒れているユイナが唇を震わせた。
一郎は苦笑しそうになった。
ユイナが恐怖に包まれているのは本当だが、半分は演技だ。
なかなかの役者だ。
ユイナが一郎の「恋人」だと嘘をついているのは、パリスの欲しい情報を持っていると思わせている一郎にとって、ユイナが大事な女だと認識させるためなのだ。
そうであれば、拷問をしても、殺されることはない。
一郎を追い詰めるための「人質」に、ユイナがなるからだ。
その演技でずっと、こいつらから身を護ってきたのだから大した娘だ。
「んっ?」
パリスが一郎を怪訝な表情で見た。
そろそろ、ばれたか……?
さすがに、この状況で、一郎が目の前で起きていることに愉快がる感情を浮かべたことに不審を覚えたのだろう。
パリスは、目の前の人間の感情を読めるのだと思う。
少なくとも、人の抱く悪感情は感じるはずだ。それを武器に利用する闇魔道師であれば、人の抱く悪感情を感じれないことはおかしい。
パリスは、一郎が、憎悪や恐怖、不安、屈辱といった感情を抱けば、間違いなくそれを知ることができると思う。
だから、それにも関わらず、ユイナを拷問しても、一郎の心が平静を保ち続けることに違和感を覚えているのだと思う。
しかし、正直にいえば、一郎はユイナのことをまったく愛おしいとも、大切とも思えない。
はっきりといえば、パリスのことに、一郎たちを巻き込んでくれたはた迷惑な娘としか考えられないでいる。
一郎がユイナを助けてやろうと思うのは、イライジャに頼まれたからだ。
ここまでか……?
だが、エリカの安全を確認しない限りは……。
もう少し、時間を……。
パリスの顔に疑念が浮かび出している。
「んんんっ」
一郎は怒ったような声を箝口具越しにあげてやった。
パリスがちょっとだけ、ほっとした顔になる。
「……まあいい。おい、ユイナ、命令だと言っただろう。拒否の言葉も禁止だ。前か、後ろか、どちらかを必ず選べ。命令だ」
「お尻は……いや……」
ユイナが小さく言った。
だが、一郎の眼には、ユイナの身体が、前側よりも、後ろ側に濃い赤のもやがあることが見えている。
それにもかかわらず、尻を犯されるのを拒否したというのは、ユイナが、本当は『隷属の首輪』の支配下にないというなによりもの証拠だ。
ユイナに対するパリスの隷属が中途半端であることは、薄々確信していたが、今度こそ、一郎は自分の考えが完全に正しいことがわかった。
「じゃあ、決まりだ。四つん這いになれ。こいつの前で孕ましてやる──。おい、色男、教えてやろう。こいつには、一度も避妊薬は飲ませてねえ。それどころか、妊娠しやすくなる薬物を数日前から投与している。そろそろ、本当に孕むかもな」
パリスの「命令」に、ユイナがのろのろと身体を起こして、パリスにお尻を向ける。
おもむろにズボンをおろしたパリスが、ユイナの股間を後ろから男根を挿入した。
姿は子供だが、一物だけは大人のそれだ。
ユイナの身体は、前戯なしにそれを受けとめていく。
「あ、ああああっ」
ユイナの身体が弓なりになった。
挿入されただけで、軽く達したらしい。
ユイナを蝕んでいるのは、相当に強力な媚薬のようだ。
「どうだ、色男? こんなに好き者に調教してやったんだぜ。最初の頃こそ、犯されるたびに、泣きながら、お前の名を呼んでいたが、いまじゃあ、珍棒が気持ちよくてしょうがない雌犬だ。自分の女が他人に犯される感想を言いな」
パリスは腰を使い出す。
すると、ユイナの喘ぎ声が大きくなり、激しく総身をよじりだす。
そして、ユイナの身悶えはすぐに一段と露わになる。
再び頂上に昇りつめようとしているのがわかる。
「う、うううっ、あああ、だ、だめええ、ゆ、許してええっ」
しばらく、パリスが律動を重ねただけで、ユイナの身体は、ぶるぶると痙攣をして、激しく身体を突っ張らせた。
「また、お前の恋人は、気をやりがったぜ、淫魔師」
それでもパリスはユイナを犯すのをやめない。
さらに十回ほどの律動で、またもやユイナが達した。
短い時間の連続絶頂で、ユイナは早くも白目を剥きかけている。
「んんひいいっ」
さらに絶頂──。
ユイナの身体が脱力して突っ伏す。
腕の力が失われて、上体が床についたのだ。
ただ、足側はパリスが抱えているので、腰はあがったままだ。
もはや、完全な凌辱だ。
しかし、一郎はそれを平然と見続けた。
自分の性欲のコントロールも、淫魔師の一郎であれば、思いのままである。
パリスの思惑に逆らって、心を動かさないようにするのは難しいことじゃない。
「なんか、おかしいな──。てめえ、なんで怒らない。憎悪しねえ? こいつは、お前の大切な女じゃのか──」
やっと、ユイナを犯し続けていたパリスが、投げ捨てるようにユイナを放った。
完全に力を失っているユイナが投げ出された状態で、ばたりと床に倒れる。
一方で、魔道を飛ばしたのか、一郎の口に嵌まっていた箝口具がぼとりと床に落ちた。
「……くうっ……。つ、ついでに、板もどけてくれよ……。痛みが気になって……、見物に集中できない……」
拷問のために乱れている息を整えながら、一郎はパリスにわざと微笑みかけてやった。
パリスの顔が歪んだのがわかった。
「ああっ? もしかして、ユイナがお前の恋人だというのは、こいつの思い込みか? すっかりと、情を失ってやがるのか?」
パリスが面白くなさそうに、一郎の膝に乗っている石板に腰掛けて、体重を預けてきた。
膝が砕けるような激痛が走り、一郎は呻い声をあげた。
「ぐううううっ、お、重いんだよ──。どけよ──。これでも、俺は、女を凌辱するのが大好きな変態なのさ。だが、お前の性の技は今少しで愉しめなかったぜ。俺に変わりな。正真正銘の調教というのを見せてやる。そんな、ままごとじゃなくてな」
一郎は嘯いた。
次の瞬間、顔に火花が走り、ぐらりと身体が傾きかけた。
口の中に血の味がさっと拡がる。
手に持っている乗馬鞭で、パリスが一郎の横面を引っぱたいたというのがわかったのは、口の中に噴き出した血が咳ととともに、吐き出されてからだ。
「言いやがったな──。じゃあ、今度はエルフ女だ。お前の前で、はらわたを引き出してやる。もしかしたら、離れていたその娘よりも、一緒にいた女の方がすっかりと情が沸いているのかもしれねえしな」
パリスがどこかに合図をするために、振り返りながら石から降りた。
だが、すぐに振り返った。
「おやっ? 今度は怒りやがったな? 目の前でユイナが犯されても心を動かさなかったお前が、やっぱり、エリカだと嫌なのか?」
パリスが驚いたように、こっちを見た。
一郎は歯噛みした。
さすがに、エリカを殺すと言われては、一郎とて心を静かにしたままにするのは不可能だ。
その心の揺れを、パリスに見抜かれたか……。
「……そうか。お前の弱点はエリカだったか……。だが、エリカも、ユイナをお前が大切にしているはずだと喋ったのだがなあ……。まあいいか……」
パリスがにやりと笑う。
これは、一郎を追い詰める材料として、ユイナではなく、エリカを選択した表情だ。
一郎は内心で舌打ちした。
「おい、エリカを地下牢から、ここに連れて来い。すぐにだ──」
パリスが壁に向かって叫ぶ。
そして、得意顔を向けて、パリスがこっちを向く。
しかし、しばらくして、部屋の扉が開いて、困惑顔の男が入ってきた。
首を傾げているその男が、パリスに耳打ちをする。
すると、パリスの表情が変わった。
「どういうことだ──? 誰の命令だ──?」
パリスが声をあげた。
一郎は、自分の工作がうまくいっていることがわかった。
だから、思わず笑ってしまった。
パリスたちが不審顔を一郎に向ける。
「……エ、エリカがいないんだろう……? この施設じゃなく、もっと警備の軽い外の収容所に移されたんじゃないか。誰の指示か知らないけどな……」
一郎は言ってやった。
パリスの顔がぎょっとした表情になる。
「はあ? なにを言ってやがる、お前?」
パリスが一郎を睨んだ。
だが、一郎はやっと確かめたかった情報が得られたことに満足している。
ユイナはここにいるし、エリカはすでにここにはいない。
エリカが外に移されたことをパリスが知らなかったのであれば、エリカの救出に成功する確率は高い。
この状況を待っていたのだ。
懸命に我慢に我慢を重ねて、パリスが一郎の前にユイナを連れてきて、そして、エリカの安全が確認される状況を……。
そのとき、さらに別の男が部屋に飛び込んできた。
「パリス様、大変です──。ブルイネン隊長が──」
その男が叫んだ。
一郎は、その言葉だけで、なにが起こっているのかを完全に悟った。
しかし、パリスはまだ、なにがなんだか、わからないという気配だ。
「ブルイネン? あいつは部屋に閉じ込めていただろう? あいつがどうした?」
パリスがふたり目の部下に訊ねた。
視線が離れる。
一郎は、亜空間を解放した。
ずっと一緒に移動していた女たちが、目の前に出現する。
「ロウ、なんで、もっと早く、わたしたちを出さない──。ふざけるな──」
「そうです。あたしたちは怒ってます」
シャングリアとミウだ。
宿から脱走するとき、一郎に表側で同行したのはエリカだけだったが、ほかの女たちについては、亜空間に隠して、ずっと一緒にいてもらっていた。
そして、ユイナを救出できる状態になったとき、亜空間から出て、ユイナを確保させるつもりだった。
エリカを同行させたのは、一郎ひとりだけだと、あまりにも不自然だからだ。
女たちは、一郎が自ら囮になることには、不賛成だったが、最終的には合意した。
しかし、一郎やエリカが、パリスにいたぶられ続けることには、猛烈に激怒していた。一郎は、表で起きていることをずっと亜空間で待機している女たちに伝えていたのだ。
エリカについても、当初の予定とは異なり、一郎と引き離されるという誤算はあった。
しかし、それは、一郎の唾液と精液で操り状態にしたブルイネンという女エルフ隊長を使って、とにかく、ここから離れた場所に引き離すということをさせた。
あちこちを動き回って、一郎の指示の実行を仲介したのは魔妖精のクグルスだ。
そのために、一郎は、一時的だが、大量の淫気をクグルスに譲渡していた。
綱渡りのような策だったが、ブルイネンという女隊長は、うまく、エリカを連れ出すことに成功したようだ。
「なんだ?」
「うわあっ」
「ひっ」
ぎょっとしているパリスに、シャングリアの剣が襲いかかる。
さらに、マーズとイットも亜空間から飛び出して、パリスの背後に出現する。
「うらあっ」
「しゃあ──」
シャングリアに続いて、マーズとイットも、パリスに襲いかかる。
呆気にとられているパリスの部下は、目を丸くして身体を凍らせている。
それはパリスも同じだ。
一方で、ミウの魔道も拡がった。
一郎にのしかかっていた石板が弾け飛び、拘束から解放された。
なにをしたのかわからなかったが、一郎を包んでいた拘束衣は様々な拘束具ごと吹き飛んでいる。
「ロウ様──」
汗まみれの一郎の裸体を泣きべそをかいているミウが抱き締めた。
冷却魔道を遣っているのか、熱さえ帯びていた一郎の身体が一気に冷やされる。
「くらえっ」
シャングリアの大声が響く。
先に飛び出したシャングリアの剣が一閃して、パリスの首が胴体から離れて宙を舞ったのがはっきりと視界に入った。
ほぼ同時に、マーズの剣も背中側からパリスの胸に突き刺さり、イットの爪が横方向からパリスの心臓を串刺しにしたのもわかった。