【2025.9.5コミック発売】異世界で淫魔師ハレム【完結】 作:ドン・ドナシアン
首──。
目の前でパリスの首が飛ぶ。
シャングリアの剣が首から弾き飛ばしたのだ。
ほぼ同時に、後ろと横からマーズの剣とイットの爪が胴体を貫いている。
また、気がついたが、両脇にいたパリスの部下も首から血を流して崩れ落ちている。
こっちは、イットのようだ。
先にふたりを絶命させてから、パリスを襲ったのに、爪がパリスを貫くのに、シャングリアたちとほぼ同時だった。
相変わらず、凄い……。
「やったぞ、ロウ──」
シャングリアの勝ち誇った声──。
振り返って嬉しそうな微笑みを浮かべる彼女に、一郎は笑みを返した。
宙を飛んでいるパリスの首が床に落ちていく。
だが、そのとき、ほんの一瞬だが、そのパリスの視線が一郎の視線と一致した気がした。
まさか、笑った……?
悪寒が走る。
妙な不安感が一郎を襲った。
「待て、みんな──」
叫んだ。
理由はない。
とてつもなく嫌な予感がしたのだ。
そういえば……。
闇魔道──。
人の心の持つ闇の部分に憑りついて、それを増幅して他者を操る魔道──。
それが、ふと頭をよぎる……。
憎悪──。
恐怖──。
あるいは、不安というような感情──。
人の心に宿るさまざまな悪感情を媒体として力を行使する魔道──。
ならば──。
殺意は──?
目の前の相手に対する明確な「殺意」こそ、最大の闇の心ではないか……。
なぜ、そんなことを考えたのかわからない。
しかし、パリスの首が床に落ちる、ほんの瞬きするほどのあいだに、一郎が考えたのは、それだ。
一郎は、ほとんど意識することなく、普段は亜空間に隠している「王家の宝珠」という首飾りの魔道具を出現させて、手に巻き付けていた、
「王家の宝珠」──。
それは、王都にいる一郎の
別に一郎が命じたわけじゃないのだが、あのサキは、一郎に媚びを売るというただそれだけの目的のために、ハロンドール王が肌身離さずに身につけていたはずの「護り具」を偽物にすり替えて盗み出してしまったのだ。
無論、発覚すれば百回処刑されても足りないほどの大罪だが、その辺りは、妖魔には関係のない斟酌だ。
それで、一緒に国王の後宮につけている
しかも、これだけのことをしておいて、実のところ、あのサキは、ハロンドール王に身体を許しておらず、しかも、身体を許していないことを王に気づかせていないという。
それはともかく、この「王家の宝珠」は所持している者に向けられたあらゆる悪意のある攻撃をそのまま跳ね返してしまうという伝説的な魔道具らしい。
一郎は、ほとんど無意識のうちに、それを出現させて、手に巻きつけていた。
「うわっ」
「きゃああ」
一郎が思わずあげた声と同調するように悲鳴をあげたのは、一郎に抱きついていた童女魔道師のミウだ。
目の前で一郎が手にしていた宝珠が音を立てて弾け飛んだのだ。
強い風のようなものが身体に当たったが、瞬時に風のように感じたのは、強い魔道の波動だと思った。
つまりは、それだけの魔力が宝珠が破壊されることで爆風となって発生したということだ。
王家の秘宝の宝珠が破壊されるほどの魔力──?
常識的な魔道でそんな現象が起きるわけがないから、さっきの一瞬で非常識なほどに強力な悪意ある魔道が宝珠にぶつかったということだ。
「マーズ──。シャングリア様──」
そのとき、ミウが絶叫した。
視線を向ける。
眼を見張った。
パリスの胴体の前にいるふたりが床に崩れ落ちている。
しかも、それだけじゃなく、服から出ている腕や顔に真っ黒い紋様が浮き出ていた。
呪術──。
すぐにわかった。
もしかして、パリスに手をかけたことで、ふたりに闇魔道による呪術が刻まれてしまったのか──?
魔眼を使う──。
“シャングリア=モーリア
人間族、女
…………
…………
生命力:↓↓↓
…………
…………
状態
一郎の性奴隷
淫魔師の恩恵
性奴隷の刻印
死の呪い↑”
“マーズ
人間族、女
…………
…………
生命力:↓↓↓
…………
…………
状態
一郎の性奴隷
淫魔師の恩恵
性奴隷の刻印
死の呪い↑”
『死の呪い』──。
ステータスにその文字が浮かんでいた。
「だめだ──」
絶叫していた。
やはり──。
しかも……。
恐ろしいほどの勢いで生命力を表す数字が減少している。
「待て──」
一郎はふたりを亜空間に戻していた。
思考が追いついてきたのは、その後だ。
ふたりを一時的に避難させた亜空間の中の時間を限りなく停止状態に近くする。
亜空間の中とはいえ、完全に時間をとめることは、さすがの一郎でもできないが、本来であれば一瞬に過ぎない時間を数十日単位にまで引き延ばすことならできる。
とりあえず、それしか思いつかなかった。
放っておけば、この場でふたりは死んでしまっただろう。
「じゅ、呪術です──。闇魔道の……。イットさん、完全にその男の命を絶って──。術者が死ねば、術は消えます。あるいは、そこに魔道石があるかも──。それを破壊するだけで……。とにかく、術の発祥点を消滅させれば呪術は消えるはずです──」
ミウが声をあげた。
死の呪いで崩れ落ちたシャングリアとマーズに対して、イットは元気だ。
イットは生まれつき絶対的な魔道耐性を持つ──。
だから、パリスに手をかけたことで発動したらしい「死の魔道」もイットには効かなかったのだと思う。
やはり、パリスを殺そうとすることが呪術の引き金になっていたのは間違いなさそうだ。
一郎は舌打ちする思いだ。
自分の死の代わりに、こんな隠し技を準備していたとは……。
一方で疑念も浮かぶ。
自分を殺した者に対する呪術などあり得るのか……?
さきほどのミウの言葉のとおりであれば、そんなことをしたところで、自分の命が絶たれた瞬間に、呪術は消滅してしまうはずだが……。
「ご主人様……。こいつ……、心臓がない……」
そのとき、刃物のように伸ばした右手の爪をパリスの胸に貫かせているイットが呆然とした声で言った。
心臓がない……?
そのとき、床に転がっているパリスの生首が突然にけたけたと気味の悪い笑い声をあげた。
「やっぱり、おかしな男だなあ、てめえは。どっから、つっこんでいいかわけがわかんねえぜ。この地下牢で転送魔道は遣えねえ筈なのに、女を出したり、引っ込めたり……。しかも、お前は呪いをはじき返し、その獣人娘は、呪術が効かねえときたもんだ。本当にわけがわかんねえ……」
パリスの首が笑い声とともに愉快そうに喋った。
ぞっとする光景だが、まだ死んではいない……。
それだけはわかる。
だから、呪術の効果が消えないのか……。
とにかく、呪術は本物だ。
一郎の亜空間にふたりを取り込んだことで、一郎にもそれを感じる。
それだけでなく、呪術ごとふたりを一郎が飲みこんだことで、一郎自身にも呪術の影響がじわじわと広がっていく感覚も……。
これはまずいかも……。
パリスに対する殺意を利用されて、いまここでパリスの呪術が一郎たちに向かって発動してしまったことは、魔道が通じないイットは当然として、逆にミウにも、ユイナにも発動しなかったことでも明らかだ。
そして、一郎に対しても呪術は発動した。
直接に手をかけたわけじゃないが、女たちに事前に命じてパリスを殺すように指示していたのは一郎である。
だから、呪いは一郎にも発動した?
むしろ、主対象は一郎へのものだったかもしれない。
しかし、それは宝珠によって防がれたのだろうと思う。
もっとも、本来なら反射をするはずの呪術が反射ではなく、宝珠の破壊という結果を呼んだ。
それだけ強力な呪術だったのだろう。
いずれにしても、その呪術は一郎にも影響を与えているかもしれない。
いまのところ、身体に影響を与えることはないが、いまこの瞬間でも、それが一郎の身体に侵食しつつあるのか?
まともに呪術を喰らったシャングリアとマーズは、その場で昏倒して死に瀕するほどの状況だったが、一郎については、そのふたりを亜空間に隠しただけの影響なので、まだまだ発症には時間が気がする。
パリスの呪術に対する知識はないが、その可能性も……。
だが、もしかしたら、数日もすれば、一郎の身体にも、シャングリアたちを襲った黒い紋様が発生して、そのときには、すぐに命を奪われるだろうということも……。
それを防ぐには、ミウの言うとおりに、パリスを殺せばいいのだろう。
でも、とてつもなく、嫌な予感がする……。
魔眼保持者としての勘が……。
「いや、転送じゃなくて、空間術か……。だが、空間術で人間を隠せるのか……? そんなことができるとは思わなかったぜ。つくづく、淫魔師というのは不思議な存在だ」
生首のパリスが余裕
「ちっ」
舌打ちとともに、イットが跳躍した。
返り血で半身を濡らし、長く伸ばした爪に血が滴っている
その爪がパリスの生首に突き刺さる。
「殺しちゃだめえっ──。そいつの身体は
そのときだった。
部屋の隅でぐったりと横たわっていたと思ったユイナが絶叫したのだ。
しかし、そのときには、イットの爪はパリスの頭を完全に串刺しにしていた。
たったいま、首だけで喋ってみせたパリスは、すでに事切れた。
それは確実だ。
「えっ?」
イットが爪をパリスの頭から抜き、困惑したようにユイナに視線を向けた。
「どういうことだ、ユイナ? お前、こいつについて、なにを知っている──?」
一郎もユイナを見た。
しかし、ユイナは意外なほどの強い視線で一郎を睨み返してきた。
「そ、それはこっちの言葉ね……。しばらくぶりだけど、あんた、何者? 急に女が消えたり、出現したり……。それでいて、魔道とは違う感じだった……。呪術をかけられた女たちはどこに行ったのよ?」
ユイナはだるそうに裸体を起きあがらせた。
ステータスを覗く。
“ユイナ
褐色エルフ族、女
年齢18歳
ジョブ
魔道遣い(レベル10)
魔道技師(レベル20)
生命力:100
攻撃力:10↓
経験人数:男20
淫乱レベル:SS↑
快感値:100
状態
一郎の性奴隷(凍結)
媚薬による欲情”
確か、先日は、「パリスの奴隷(偽)」という言葉があったと思うが、いまはない。
つまりは、目の前のパリスが命を失ったことで、ここにいた連中に施されていた奴隷状態から解放されたということ?
それとも、最初から支配術にはかかっていなかった?
いずれにしても、ユイナがいまは誰の支配にも陥っていないのは確かだ。
まあ、一郎の性奴隷の支配が残ってはいるが……。
しかし、“凍結”とあるので、本人にも、その自覚などないだろう。
ふと見ると、首に装着されていた「奴隷の首輪」がふたつに割れて、床に落ちている。
「お前の勝手な都合で、俺たちを巻き込んだお前の最初の挨拶がそれか?」
「な、なによ……」
一郎の言葉にほんの少しだが、ユイナが顔を赤らめた。
パリスが一郎に目をつけたのは、ユイナが持っていた禁忌の魔道書を一郎が持っていると嘘を吐いたのが発端だ。
さすがに恥じ入る感情は少しはあるみたいだ。
まあ、ほんの少しのようだが……。
「まあいい……。それよりも、お前、なにを知っているんだ、ユイナ? 目の前のパリスは死んだ。だが、俺の女たちに直前にかけられた呪術は消滅していない──。どうやったら、呪術が消えるんだ?」
一郎はユイナに詰め寄った。
彼女が鞭痕だらけの褐色の裸身を隠すように両手で身体を覆う仕草をしながら、一郎を険しい表情で睨んできた。
一方で、全身は赤く火照っていて、いまだに汗が凄い。
胯間からはぽたぽたと愛液が滴り落ちている。
どれだけ強い媚薬を使われたのだと思った。
「はっ、俺の女? それにしても、あんた、何人愛人を作ってんのよ。こいつらもあんたの女で、さっき消えたのも? それでエリカさんもなんでしょう? エリカさんは、なにも言わないの?」
そして、急に蔑むような口調で言った。
一郎は眉をひそめた。
それにしても、あんなに媚薬で欲情させられているのに、見かけだけは気丈に振る舞っているのは感心する。
「そんなの、いまはどうでもいいだろう」
「まあ、そうだけどね……」
ユイナが嘆息した。
「とにかく、知っていることを話せ──。一刻を争うんだ──」
一郎は怒鳴りあげた。
だが、ユイナが動じた様子はない。
むしろ、その顔に不敵な笑みが浮かんでいる。
「おお、怖い……。言っておくけど、わたしを見くびらないことね。これでも、禁忌の魔道の遣い手よ。パリスのしたことは、わたしだってできるのよ……。あんたを呪い殺すことだってね……。もっとも、いまは魔道封じを刻まれたままだからできないけど……」
ユイナは片手を背中側にやって肩にかかった髪をあげて、一郎に背を向けた。
そこには、花を連想させるような幾何学的な小さな赤い紋様がある。
もしかして、あれは魔道を封じる紋様なのか……?
「質問に答えろ、ユイナ──。知っていることを口に出せと言ってるだろう──。シャングリアとマーズを襲った呪術はどうやったら消えるんだ? さっさと喋るんだ」
一郎はさらに言った。
だが、ユイナが禁忌の魔道の遣い手──?
はったりもいいところだが、彼女が禁忌の魔道に深く傾注して、その研究にのめり込んでいたのは事実だ。
そして、この世界にやってきたばかりの一郎が、ユイナと出逢って二年近くが経っている。
あるいは、そのあいだに、かつて封印されたはずの禁忌の魔道を身につけるための何かをユイナは発見した?
考えられるか……。
だからこそ、この世界に点在する瘴気を大陸中に増大させたいパリスの興味を引いてしまったという可能性もある……。
「そこの小娘が言ったじゃないの……。呪術でもなんでも、魔道の発生点を消滅させてしまえば、呪術は消えるわ。それよりも、あのふたり、一瞬にして消えたけど、さっきのはあんたの魔道? 魔道という感じじゃなかったけどね……。そこの女たちも含めて、突然に出現したのもよくわからないんだけど……」
亜空間も魔道の一種だが、一郎については淫気を力の源とする淫魔師の能力でそれを遣っている。
だから、魔道とは似ているものの、異なる波動でそれをやっているはずだ。
パリスも同じだったが、ユイナにも亜空間のことはわからないようである。
「思わせぶりな言い方に付き合う余裕はないんだ。あのふたりにかかった死の呪いは、いまでもふたりを襲っているんだ。どうやったら消えるのか、知っていることがあれば、喋ろと言ってんだろう──」
いいかげんに苛ついてきた一郎は、ユイナの右の腰を軽く蹴りとばした。
そんなに力を入れたつもりはなかったが、かなり弱っていたのか、ユイナは仰向けにしっくり却ってしまった。
「ひがっ、痛いわねえ──」
「やかましい。俺でもぶち切れるときは切れるぞ──」
構わずに、その腹の上に足を載せて体重をかけていく。
「んぐうっ、い、痛いいっ、や、やめてよお」
ユイナが一郎の足から逃れようと、裸身を暴れさせだす。
一郎は足に少しずつを力を入れていく。
細く美しい肉体と強靭な身体が特徴のエルフ族だが、さすがに大の大人の男である一郎の力にかなうわけがない。
しかも、ユイナはさっきまで、パリスによって拷問めいた凌辱をされていて、身体がいうことをきかないみたいだ。
ユイナが一郎の足の下で苦痛に呻く声を出し、だんだんと抵抗を弱めていく。
女に暴力を振るうなど、らしくないとは思うが、いまはそれどころではないのだ。
パリスの呪いを解く手段を手に入れなければ、亜空間の中のシャングリアとマーズはやがて、ゆっくりと死んでいく。
あるいは、亜空間から出せば、その瞬間にシャングリアとマーズに死が訪れる。
「パ、パリスはし、死んでも完全には死なないように、自分の命を割って、その欠片を別の場所に、か、隠しているのよ──。それを破壊しないと、あいつに本当の死はない──。き、禁忌の魔道にそういうのがあるのよ──。い、痛いってばあ──。や、やめてよお」
ユイナが絶叫に近い声を出した。
知らず、一郎はユイナを踏みつける足に力を入れ過ぎていたようだ。
一郎は腹から胯間側に足をずらして、軽く足の裏でぐりぐりと刺激してやる。
「んひいいいっ、うふううう」
ユイナが身体を突っ張らせて軽く達した。
一郎は足を除けた。
「な、な、な、なにすんのようう、この変態――」
ユイナが胯間に両手を当てて、真っ赤な顔で怒鳴った。
一郎は、ミウにユイナの身体に解毒の魔道をかけるように指示した。
媚薬を使用されている状態は、いわゆる毒状態だ。
普通は毒消しで治る。
「はい……」
ミウがユイナに魔道をかけると、ユイナが落ちついた感じになった。
「あら、ありがとうね、小娘」
「小娘?」
礼を言ったものの、ユイナの小娘呼ばわりに、ミウもちょっとむっとしている。
「ところで、ユイナ、なぜ、そんなことまで、お前が知っているんだ。自分の命を別の場所に隠しているなんて、パリスがお前に喋るわけないだろう──」
肉体を殺しても死に至らないパリスの秘密──。
それについてユイナは、パリスが自分の命の一部を別の場所に隠しているからだと主張するが、そんなことをユイナが知っているわけがない。
辻褄が合うことは事実であるものの、どうにも、この娘は最初に遭ったときから、ずっと信用ができない。
自分に都合がいいように、本来は知らないことを適当に喋られて、それが的外れだったら、それが判明したとき、もう手遅れになっている可能性もあるのだ。
「へっ──。わたしには禁忌の魔道があると言ったでしょう──。大抵の魔道は封印されたけど、完全に魔道を遣えないわけじゃないのよ……。弱い魔道はひそかに遣えるわ……。パリスにわからないように、あいつの力を覗くことくらいならできる……。それに、奴隷状態にしているからと安心して、あいつも、あいつの仲間も、油断してわたしの前でべらべらと、なんでも喋るしね」
ユイナが踏まれていた腹と胯間を押さえるようにして、しかめ面をしながら上体を起こした。
そして、一郎の顔をきっと睨みつける。
「……そもそも、あんたも、しばらく見ないうちに下品な男に成り下がっているじゃないのよ。それに実は淫魔師だったの? しかも、女奴隷がたくさん……。本当に慎みがないのね」
一郎は目を見開いた。
ちくりとなにかの刺激が心に当たった気がしたのだ。
もしかして、魔道──?
一郎は少し驚いた。
ユイナはなにかを探るように、じっと一郎に注目し続けている。
「鑑定術のようなものか……?」
ユイナは一郎の能力である魔眼に近い魔道を駆使できるのか?
信じられないが、事実なら驚きだ。
だったら、ユイナは本当に、パリスの秘密をこの一箇月余りの時間で明らかにしたのかもしれない。
淫魔師であることも、女をたくさん保持していることも、パリスはユイナの前で口にしていた可能性もあるから、必ずしも、ユイナが魔道で見抜いたとは限らないが……。
「……えっ、あんたは、魔眼保持者……?」
すると、ユイナが眉間に皺を寄せて、呟くように訝しむ言葉を口にした。
今度こそ、びっくりだ。
ユイナの力は本物だ。
淫魔師であることは一郎は近い者には隠してはいないが、魔眼の力があることについては、エリカでさえ教えていなかったのだ。
なにを隠している──?
だが、一郎の魔眼では、それらしいものは、なにも出なかった。
パリスさえ欺いていた気配だし、このユイナにはなにがあるのだ──?
「本当になにかを知ってんだな、ユイナ──。だったら、パリスの命の欠片とやらの場所を言え。あるいは、あいつの死の呪術を解除する手段だ。時間がない。教えろ──」
すると、ユイナが得意そうに微笑んだ。
「……だったら、わたしを安全な場所に連れていって──。保護するのよ。それから、この背中にある魔道封印を消して。これには、強い魔道で比較的簡単に除術できるわ。それから、わたしには手を出さないでよね。淫魔師のあんたの操りになるのはご免なの……。それと……」
ユイナがいきなり饒舌に喋り出した。
なんだか腹がたってきて、こいつを犯し直してやろうかとも思った。
ユイナはわかっていないようだが、すでにユイナは一郎の淫魔力の支配下にある。それが発動しないのは、ただ一郎が凍結状態にさせているだけのことだ。
支配に置いた記憶はないが、あの冤罪裁判の直後に、たっぷりと犯してやったから、知らぬ間に支配下にしてしまったということだと思う。ただ、一郎にその気がなかったから、凍結状態になっただけだと思う。
ユイナの身体に、もう一度、精液を注ぎ込めば、それでユイナに与えている淫魔の支配は有効となると思う。
あるいは、唾液だけでも、完全支配ができるに違いない。
そうしてやろうか……。
「パリスが残した命の欠片の行方を喋るのが先だ。言わないと、ここに置いていく」
「だったら、あんたの女は助からないわね。世の中にどれだけ人間がいると思っているのよ──。誰ともわからない相手をどうやって見つけるのか教えてもらいたいわね」
ユイナが挑むように一郎を睨む。
だが、一郎ははっとした。
しかし、いま、ユイナは“人間”と言った。パリスは、自分の命の欠片をに人間に隠しているのか?
「人間と言ったな……。パリスの命の欠片は、誰かの身体の中にあるということか?」
一郎は言った。
すると、ユイナが勝ち誇った表情になる。
「欠片であろうと、命そのものであろうと、命は人の中でしか保てない。そんなことも知らないの?」
「知るかよ──。なら、誰だ──。早く白状しろ」
「情報はそこまでよ。ここから先は、わたしを安全な場所に逃がしてくれてからよ。絶対にそれは譲らないからね──」
ユイナがきっぱりと言った。
一郎は歯噛みした。
「ロウ様……。あたしに命じてください……。苦しめろというなら、苦しめます……」
すると、ミウがぽつりと言った。
視線を向けると激しく怒っている。
一郎は嘆息しつつ、ミウの頭にぽんと手を置く。
「……お前は、そんなことしなくていい。まあ、こいつに口を割らせるのは、実は難しいことじゃないんだ……」
「な、なによ、や、やる気──。小娘もよ──。わ、わたしは、喋んないわよ──。これは、わたしが助かる切り札なんだから──」
ユイナが少し怯えたように後ずさりした。
「ご主人様、なにかの集団がここにやってきます──」
そのときだった。
扉に張りつくようにしていたイットが声をあげた。
「まずいわ……。あの淫乱太守女のカサンドラの兵ね。とにかく逃げるわよ──。捕まると面倒よ。太守夫人のカサンドラはパリスの女なのよ。ただの仮体とはいえ、ここにはパリスの屍体があるんだから……」
ユイナの表情が険しくなる。
「どこかに逃げる場所は?」
一郎はユイナに言った。
ユイナが眉間に皺を寄せる。
「はああっ? あんたって、いきなり、ここでパリスを殺すようなことをしでかしておいて、どうやって逃げるか考えてなかったの?」
ユイナが呆れたという声を出す。
「どうなんだ? 知っているのか、知らないのか──」
声を荒げた。
すると、ユイナが小馬鹿にしたような表情になった。
「ついてきなさい。それよりも、なにか着るものない? あんたも、ちょっとは隠したら? まあ、気にならないならいいけど……」
ユイナが立ちあがりつつ、ちらりと一郎の裸身に視線を送ったのがわかった。
一郎は亜空間から身体を覆うマント二枚と履き物を出すと、一枚で自分の身体を包みつつ、もう一枚のマントを履き物とともにユイナに放り投げた。