【2025.9.5コミック発売】異世界で淫魔師ハレム【完結】 作:ドン・ドナシアン
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移動術で転移したのは、岩壁に周りを囲まれている台地のような場所であり、緑の絨毯のような芝目の草で地面が覆いつくされている森林地帯だった。
辺りには背の低い樹木が拡がっており、ところどころに熟れきった果実がぶら下がっている。
エランド・シティに到着するまでに突破してきたナタル森林そのものの場所のように思えた。
だが、とても空気が澄んでいた。
とても、気持ちのいい場所だ。
「服を乾かします」
ミウが魔道でびしょ濡れだった身体と服をひとりひとり乾かしてくれていく。
一郎は裸体にマントを一枚まとっただけだが……。
「ありがとう、ミウ」
とりあえず、一郎は草むらに座り込んだ。
身体のだるさは続いている。
しかし、心臓を締めつけるような苦しさはもうない。
ただ、やはり、ひどい空腹感に似た飢餓感はある。
そして、ふと見ると、濃かった手の斑紋が薄くなりかけている。
呪術の効き目が薄くなった?
場所が変わっただけで?
一郎はちょっと驚いた。
「ご主人様、ちょっと楽になったみたいだね。ここは瘴気がないみたいだ。さっきの場所は、瘴気がかなり蔓延していたしね。ここにいれば、多分、これ以上はひどくはならないかもしれない。いいところに連れてきたな、ブルイネン」
クグルスが一郎に寄って来て言った。
「本当ですか?」
「あっ、なんか斑紋が小さくなっている。よかった……」
ミウとコゼが一郎の手を覗きこんできて、少し安心したように言った。
ほかの女たちも心配そうに寄ってきた。
「ああ、かなり気分もよくなった……。そうか、瘴気のせいか……」
一郎は女たちに言った。
だが、言われて気がついたが、ずっと通って来たナタル森林には、なんとなく淀んでいる得体の知れない風のようなものが薄っすらとたちこめていた気がする。
ナタル森林と同じ景色でありながら、完全に澄み切ったこの場所に接することで、改めてそれに気がつくことができた。
おそらく、あの得体の知れない汚れている空気のようなものが、いまナタル森林全体に
いまにしてわかる。
「だけど、あのパリスとかいう変なやつ、魔族みたいに瘴気遣いなのかなあ。瘴気を呪術の媒体に使うなんてね……。変なの──」
クグルスがぼそりと言った。
いずれにしても、つまりは、ここはエランド・シティを包んでいるナタル森林とそっくりの場所でありながら、瘴気に接していない違う場所ということではないだろうか。
ブルイネンは、そこに連れてきたようだ。
「ああ、こ、ここなら、誰にも邪魔されません……。どんな魔道でも、絶対に追っては来れないはずです。太守夫人のカサンドラ殿にも……」
ブルイネンが仮面を外して、一郎に抱きつくように寄ってきた。
ふと見ると、完全に顔が上気して、すっかりと欲情している。
そういえば、この女エルフ隊長のブルイネンを操るために、淫魔術で発情状態にしたのだった。
さらに、ブルイネンにつけたクグルスにも、その発情が継続するように淫魔術をかけ続けるように指示していた。淫魔術の支配から離れられないようにするためだ。
さすがは、女エルフ隊長であり、本来は気丈で凛としている性質なのか、しっかりと外見では平静を装っているものの、実際には完全に身体が性の疼きで欲情しきっているらしい。
こうやって接すると、欲情しきった性の香りをぷんぷんと醸し出している。
しかし、そのブルイネンの襟首をコゼがむんずと掴んで、一郎に抱きつこうとしていたのを引き戻した。
ブルイネンは尻もちをつくように、草に倒れる。
「な、なにをするのだ、コゼ殿──」
「それは、こっちの台詞よ──。いきなり、なにすんのよ。あたしたちのご主人様よ、この役立たず──」
「や、役立たずって……」
「役立たずじゃないのよ──。エルフ兵の隊長のくせに、エルフ兵どもに命令できないなんて……。逆にエルフ軍を乗っ取るくらいのことはできなかったの? だったら、あんなに苦労しなくてすんだのに」
「わ、わたしはエルフ族の女王のガドニエル様の親衛隊長なのだ。カサンドラ殿の率いる水晶宮のエルフ軍の指揮権はない──。あの連中に敵対して、ああやって戦うことだって、ガドニエル様に背くことであり、許されないことなのに……」
「あんたが役立たずってことには変わりないのよ」
「なっ……。さ、さっきだって、あの洞窟に繋がる秘密の経路だって、わたしがいなければ……」
「たまたま、水晶宮の地下洞窟から接近したら、クグルスがご主人様の気配を見つけただけじゃない。とにかく、ご主人様はいまは具合が悪いのよ。さかってんじゃないわよ」
コゼが小馬鹿にしたように小さく鼻を鳴らした。
「さ、さかっているなど……。そ、そんなことはしない。ただ、お身体がだるいのであれば、せめて抱きしめて、お慰めしようかと……」
「それをさかっていると言うのよ──。そもそも。水晶宮の地下の洞窟で真っ直ぐに、ご主人様に合流できたのは、クグルスのおかげよ」
「おっ、いい事言うじゃないか、小さいの。ご主人様にくっついていいぞ」
コゼに褒められた魔妖精のクグルスがくるくると回る。
一方で、コゼもさっと一郎に寄ってくる。
「ありがとう、クグルス……。ご主人様、お具合が悪いのはわかっています。だから、どうか、コゼに甘えてください……」
今度はコゼがすり寄ってきた。ブルイネンを罵倒したときとは、声の高さまで違う。
一郎は苦笑した。
だが、すると、今度はそれをエリカが後ろから同じように襟首を掴んで戻した。
「んぎっ、な、なによ、エリカ──」
「あんたこそ、なによ、油断も隙もない……」
エリカがコゼをひと睨みした。しかし、すぐに一郎にさっと顔を向けた。
ぎょっとした。
視線がぶつかった瞬間に、みるみるとエリカの目に涙がいっぱいに溜まってきたのだ。
思わず、たじろいでしまった。
「な、なんだ、エリカ……」
「なんだじゃありません……。ひ、酷いです……。ロウ様も……クグルスも……。だ、だけど、ロウ様が無事でよかった……」
エリカが一郎の前に跪くように腰を落とした。
涙がぼろぼろとこぼれる顔を寄せて、両手を拡げて一郎に抱きつこうとする仕草をしてくる。
一郎も両手を拡げて、待ち受ける体勢をとった。
なにが起こったのかわからないが、余程のことがあったのかもしれない。
淫魔術を遣ってエリカの感情に触れると、一郎との再会に喜んでいる心の一方で、凄まじいほどの激怒の感情も荒れ狂っている。
パリスを始末するために、水晶宮に居残った一郎の一方で、エリカについては逆に水晶宮から追い出すように工作させたのだが、その過程においてかなりのつらい目に遭ったのは間違いないだろう。
しかし、エリカを残らせておけば、あのパリスは一郎に闇魔道を仕掛けるために、一郎の目の前で、エリカをいたぶり殺すくらいのことはやりかねなかった。
まあ、まだ目の前だったら、反撃のやりようもあったが、離れた場所で四肢をもがれた後で連れてくるということも考えられた。
だから、エリカを逃がすことを最優先にすることは、必要なことだったと思っている。
でも、それで腹をたてているのであれば、とにかく、抱き締めておくに限る。
気が強く短気だが、心の切り替えも速く、あっさりとした気性のエリカだ。
すぐに機嫌も直ると思う。
「ひっ」
しかし、またもや、エリカも一郎に抱きつく直前に後ろに倒れていった。
さっきエリカに倒されたコゼがエリカを引っ張ったようだ。
「あんた、人の邪魔をしておいて、自分が先に抱きつこうなんて、図々しいのよ。ずるいわよ」
コゼだ。
エリカが尻もちをついたまま、勢いよく首を後ろに回してコゼを睨む。
「あんただって、同じことブルイネンにしたじゃないのよ。それに、わたしはロウ様に抱き締めて欲しいの。あの忌々しい記憶をロウ様に上塗りして欲しいんだから──」
「あたしだって同じよ──。足に穴を開けられて木馬責めをされたのよ──。イライジャだって──」
「わ、わたしなんて、あ、あんなに恥ずかしい目に……」
「お姉さま方、落ち着いてください……」
ミウが言い合いを始めたエリカとコゼを宥めるように声をかけた。
ただ、胡坐に座っていた一郎の膝の上に、ちょこんと身体を乗せてきた。
一郎は苦笑しながら、軽く抱きしめてあげた。
すると、可愛らしく微笑んで、一郎の胸に頬をすり寄せるようにしてきた。
まるで、猫のようだ。そういえば、魔道の師匠のスクルドも猫のように一郎に甘えてくるし、まさに猫の主従かな?
なんだかおかしくなり、一郎は笑ってしまった。
「うわっ、この小娘──」
「ちょ、ちょっと──」
コゼとエリカが顔を真っ赤にして声をあげた。
「だから、落ち着いてくださいって」
ミウはそう言いながらも、一郎から離れまいとするかのように、小さな腕を一郎に身体に回してくる。
エリカとコゼが無理矢理に引き剥がそうかとするような勢いで迫ってきた。
「相変わらずですね、皆さま……。ちょっと出遅れました。ひ、久しぶりなんで勘が……。ところで、ミウ、随分と元気そうですね。ちゃんと、ロウ様のお役に立っているようで安心しました」
すると、スクルドが一郎のところに迫ってきた。
どうでもいいけど、どの女も一郎との距離が近い。
まさに、密着するように代わる代わる話しかけてくる。
いや、密着しているか……。
「え、えええっ、スクルド様って、ス、スクルズ様だったのですか──? な、な、なんでここに──。誰だろうとは思っていたんですけど、てっきり、ブルイネン様が連れてきたエルフ族のどなたかだと……。ス、スクルズ様、お、お久しぶりです──」
一郎にしがみついていたミウが仰天した声をあげた。
髪の毛が違っているとはいえ、やっと、スクルズであることに気がついたみたいだ。
可哀想なくらいに、驚愕している。
「色々とあったのです……。いまは、スクルドと名乗っているので、そう呼んでくださいね……。でも、やっぱり、ロウ様は素晴らしいですね。ミウがこんなに元気に……。それでね……。ところで、ちょっとどきなさい。わたしは、まだロウ様のお匂いが不足です。ここは、ちょっと譲って……」
「な、なぜ、スクルズ様がここに? 追いかけてきたのですか?」
ミウは目を丸くしている。
ただ、一郎の膝の上から退く気配はない。
むしろ、ぎゅっとしがみついてくる。
こいつはこいつで、なかなかに一郎の女たちに染まってきている。
どうやら、スクルズ……いや、スクルドであろうとも、譲る気はないみたいだ。
「色々と事情があるのです。王都の異変のことも、ご主人様にお話をしないといけませんし、だから、ちょっとそこを……」
スクルドが横入りするように、ミウを押す。
だが、ミウも負けじと、一郎に抱きついて離さない。
なにをやっているのだろう、この主従は……。
一郎も、どうなるのか、おかしくなった。
「異変……ですか?」
ミウがスクルドに押されながらも、必死に一郎にしがみつき、この期に及んで惚ける口調で相槌を打つ。
「ええ、アネルザ様のこととか、イザベラ様とか、アン様のこととか……。とにかく、大切な話が……。ね、ねえ、ミウ、わたしが譲って欲しいと頭をさげてるのですよ」
「ですから、大切な話をなさってください。あたしのことは、気にしないで……」
ふたりが一郎の膝の上の取り合いを始めた。
一郎はなんだか、おかしくて噴き出してしまった
そのときだった。
「いい加減にしてよ、あんたらみんな、さかってんじゃないわよ──。それよりも、ここはどこよ──。もう大丈夫なの──?」
大きな声がした。
ユイナだ。
全裸に黒いマントを巻きつけただけの恰好で、一郎の横で仁王立ちになっている。
「ユイナ……? ああ、あんたも一緒なのね……。奴隷の首輪がないようね……。ロウ様にまた助けてもらったの? いつもいつもだけど、わたしたちに、大迷惑をかけた代償に?」
エリカが皮肉たっぷりの口調でユイナを見た。
ユイナの顔がさっと赤くなる。
「い、色々とあったんですよ、エリカさん。ま、まあ、こいつに迷惑をかけたことは認めますけど……」
「ロウ様のことを、もう一度でも、“こいつ”なんて、口にしたら、その口、引き裂くわよ──」
凄まじいほどのエリカの怒声が響き渡った。
ユイナの顔が今度はさっと蒼くなった。
「……耳にしていたとおりの迷惑娘ね……。しかも、生意気……。ねえ、ご主人様、こいつ手足を切り離して、首と胴体だけの人形みたいにしていいですか? 手足くらいスクルドが復活すると思うし……。しばらくのあいだ、毎日、死ぬ目に遭わせてやればいい……」
コゼが鼻を鳴らした。
ユイナがまずます真っ蒼になった。
「お前ら、相変わらずだな……。おう、尻娘、元気だったか? 随分と男経験も増えたみたいだけど、尻を犯してくれる男は見つかったか? このご主人様ほどに気持ちよくしてくれる男はいなかっただろう」
そのとき、一郎の横で宙を舞っていたクグルスがユイナにけらけらと笑いかけてきた。
ユイナの顔色がまた真っ赤になる。
忙しい娘だ。
「ねえ、これ、やっぱり、あのときの魔妖精じゃないのよ──。まだ、こいつと一緒に……」
「また、こいつと言ったわねえ──」
「いや、いまのこいつは、こいつじゃなくて……」
「こいつって、言ったああっ」
エリカが本当にユイナに飛びかかりかけた。
「お、おい」
一郎は膝に乗せていたミウを横にどけて慌てて、エリカを引きとめる。
「ちょ、ちょっとおやめになって……」
そばにいたスクルドも、ふたりの間に入って、とめにかかる。
「とにかく、ここが安全な場所だというのは確かなんだな、ブルイネン?」
一郎は、なんとかエリカを落ち着かせようと思って、わざとブルイネンに訊ねた。
圧倒されたように、一郎たちを見守るかたちだったブルイネンが勢いよく頷く。
「は、はい……。ここは
「ほう……」
一郎は頷いた。
すると、すぐ隣にいたスクルドが突然にぼろぼろと涙をこぼしだした。
一郎もぎょっとしたが、ほかの女も驚いている。
「ああ……、やっぱり、ロウ様の……ご主人様のそばは、いいですねえ……。色んなことを考えていたんですけど、本当にどうでもよくなりました。主のそばで指示を待つというのが、こんなに気持ちがいいとは……。ありがとうございます、ご主人様……」
スクルドが泣き出した。
気後れする感情に襲われたが、ぐっと我慢してスクルドの肩を抱く。
スクルドが甘えるように、ごしごしと顔を一郎の胸に擦りつけてくる。
どうでもいいけど、“ご主人様”呼びはやめないのだろう。
まあいいか……。
とりあえず、一郎はブルイネンを促した。
ブルイネンが説明を始めた。
それによれば、よくわからないが、どうやらここはエランド・シティに近いただの森というわけではなく、むしろ、隠された秘奥と称されているエルフの女王のガドニエルが棲むという“イムドリス”という場所に近い異相空間の世界らしい。
それで、ナタル森林を包もうとしている瘴気の淀みからは一線を画しているのだろう思った。
いや、さらに話を聞いたところ、そもそも、浮遊都市と称するエランド・シティそのものが、実は結界に隠された異相空間に存在する都市でもあるようだ。
エルフ族は、その高い魔道能力を駆使して、どんな異種族でも侵略することが不可能な空間を作って都市を築き、それを浮遊都市と称して、他種族を誤魔化しているとのことだった。
その内容も驚きだが、エルフ族の秘密中の秘密に違いないことを、あっさりと教えたブルイネンにも、一郎は驚いてしまった。
「とにかく、情報を交換しよう……。イット、悪いが辺りを警戒しておいてくれ……。念のためだ……。それと、スクルド、ちょっと待ってくれ。色々と訊きたいが、ちょっと落ち着いてからだ」
一郎はイットとスクルドに声をかけた。
イットはすでに周囲を見張る態勢になって、ちょっと離れて辺りの気配を探る姿勢になっていたが、一郎の命令に大きく頷いて、さっと外側を向いた。
「もちろんです」
スクルドも大きく頷く。
ただ、ぺったりといつの間にか、一郎の横の位置を確保している。
一郎の半身にぎゅっと抱きついている。
一郎もくすりと笑ってしまった。
とりあえず、一郎は、他の女たちも近くに寄せた。
そして、まずは、コゼに話を促した。