【2025.9.5コミック発売】異世界で淫魔師ハレム【完結】 作:ドン・ドナシアン
「とりあえず、あの夜になにがあったのかを話してくれるか、コゼ」
「わかりました」
まずは、コゼとイライジャの状況を確認することにした。
やはり、一度は捕らえられて、大変な目に遭ったようだ。
だが、なんとか脱走して、冒険者ギルドに匿ってもらったらしい。イライジャも安全であり、そこにいるとのことだ。
ただ、エビダスとかいうギルド長に一度裏切られて、いまは一日以内に解毒剤を飲まないと効果が発生してしまう致死性の毒薬を飲ませて、無理矢理にこっちの命令に従わせているそうだ。
とりあえず、解毒剤はイライジャに渡しているらしい。
一郎は驚いた。
「だが、大丈夫か? 解毒剤を渡したら、すぐに寝返りしそうだし、かといって、渡さないと死んでしまって騒動が拡大するんじゃないか?」
「抜かりありません。渡す解毒剤にも毒が混じっていて、やっぱり解毒剤を翌日に渡さないと死にます。あいつは、毎日解毒剤入りの毒を飲まないとならないということです。考えたのはスクルドですけどね」
コゼがちらりとスクルズを見た。
すると、スクルズがにっこりと微笑んだ。
「皆様のためなら、喜んで法も義も犯します。もう神官でもありませんし」
「頼もしいね」
一郎がそういうと、スクルズがこっちがたじろぐくらいの満面の笑みを浮かべた。
一郎は苦笑した。
「じゃあ、こっちのことを話そう」
一郎は、一郎たちが陥っている深刻な状況について説明した。
すなわち、パリスを殺すことに成功したものの、死の呪いに侵されて、シャングリアとマーズが死に瀕していること──。
そのため、仕方なく、時間を封印して亜空間に隔離していること──。
さらに、パリスは完全に命を失ったわけではなく、どこかに“命の欠片”を隠していて、それを消滅させないと、シャングリアたちは死の呪いから逃れられないことなどを説明した。
そして、王家の宝珠のおかげで、直接の呪いは阻止したが、ふたりを亜空間に入れていることもあり、一郎もまた、呪術の影響を受けていると言った。
ついでに、ユイナから聞いた限りの、パリスの秘密についても言及した。
一郎の話が進むにつれて、エリカとコゼとスクルドの顔がどんどんと険しくなっていくのがわかった。
「……確かに、さっきも思いましたが、禍々しいものがロウ様に憑りついている気がします……。とりあえず、治療をしてみましょう。まずは、光魔道で剥がせないか、やってみます……」
そう言うが否や、すぐになにかの術を一郎にかけ始めた。
だが、だんだんと表情が険しくなる。
しばらくやっていたが、やはり、パリスによる死の呪術は、一郎から剥がせないみたいだ。
一郎は、スクルドを制した。
「いや、もういいよ……。とりあえず、ありがとう、スクルド」
一郎はそれだけを言った。
「申し訳ありません。おそらく、光魔道で解除できると思うのですが、わたしの力でも無理みたいで……。しかし、なにか方法を探します。ええ、命に変えてでも……」
スクルドも口惜しそうな顔をしている。
すると、エリカが我慢できなくなったように、ユイナの前に立ちあがった。
「ユイナ──。ロウ様たちの呪いを解くには、どんな方法があるのよ──。言いなさい──。なにかを隠そうとしたら……」
「か、隠そうなんてしてません、エリカさん──。でも、死の呪いを解くには呪術者を完全に殺すしか……。だけど、パリスは多分、自分の命の
「命の欠片? 誰よ。そいつを殺せば、ロウ様やシャングリアたちが助かるのね」
「いえ、そういうわけじゃ……」
「そうじゃないって、なによ――。パリスの命が何個あるか知らないけど、片っ端から処分すれば、ロウ様が助かるんでしょう――」
「そ、そうなんですけど……」
ユイナもエリカの剣幕にたじたじになりかけている。
この傍若無人のエルフ娘がエリカにだけには苦手意識を持ってるのが面白い。
しかし、これでは話がきけない。
一郎は口を挟むことにした。
「アスカだ。アスカがパリスの命の欠片を持っている。ユイナの推測だけど、俺もそれが正しい気がする。状況証拠だけど……」
「アスカ様――?」
エリカがびっくりした声を出す。
「アスカ?」
「アスカって、ご主人様を殺そうとしているとか言ってた?」
「あの刺客を送りつけたアスカですか?」
ミウ、コゼ、スクルドもそれぞれに怪訝そうな表情だ。
「アスカ様を殺す……」
エリカは困惑している。
アスカはエリカの情婦だった。だから、心情的に殺すことに躊躇いがあるとかいうことではなく、多分、純粋にアスカの強さを知っているから、途方に暮れている感じのようだ。
だが、一郎はさっきから、ユイナが殺してはならないと言いかけていることが気になった。
「ユイナ、命の欠片で復活するというのは、どういうことなんだ? すでに、パリスは生き返っていると考えていいのか?」
一郎は訊ねた。
もしも、パリスが復活しているなら、間違いなく一郎たちに復讐しにくるだろう。
ねちっこい性格そうだったし、手段も選ばないと思う。
それこそ、一郎の女たちにとばっちりがくるかもしれない。
だからこそ、一郎はすでにパリスが生き返っているのかどうか知りたい。
時間があるのか、それとも、ないのか……。
「言っておくけど、わたしの見つけた古文書を解析した結果のことよ。正解なんかわかんないからね。とにかく、それによれば、パリスはいま、
「乗っ取るって……。じゃあ、アスカ様はどうなるの?」
エリカだ。
「死にます。……というというよりは、パリスの復活の条件がアスカという女が死ぬことなの……。それだけじゃなく、復活したときには、命の欠片を入れていた者の能力も吸い取ります」
「えっ?」
「パリスの性格のまま、アスカの能力か……」
エリカは絶句し、一郎も唖然とした。
なんだかんだで、子供の身体をしていたパリスの個体としての身体能力は高くなかった。
だから、奇襲が成功したが、今度は用心するだろうし、面と向かって襲ってくることもないと思う。必ず、背中から襲いかかるようなことしかしてこない。
それでいて、あのアスカの力を手に入れるのだ。
絶望的な未来しか思いつかない。
それにしても、命の欠片を預けているときには生かしておかねばならず、それを使って復活するときには、殺すということか……。
だから、地下洞窟でアスカのことを仄めかしたときに、殺してはならないと言ったのか……。
だが、どうでもいいけど、こいつは、エリカと話すときと、一郎と話すときの口調も態度もがらりと変わる。
本当に人間族嫌いなのだと改めて思った。
「あのう……。呪いを剥がすには、ほかにも方法があると思う……」
そのとき、不意にブルイネンが口を出してきた。
全員がブルイネンに視線を向ける。
「この魔道遣い殿の言う通りだ。光魔道でいい。だが、もっと強い力が必要だ。とにかく、ロウ殿を包んでいるその魔道が強い闇魔道のようだというのは、いまでもわかる。だったら、それを上回る光魔道で浄化ができるのは間違いないと思う」
「だけど、この魔道馬鹿のスクルドの魔道力でも無理なのよ。とにかく、解決できるんだったら、みんなで力を合わせてなんとかしてよ」
コゼが口惜しそうに言った。
「……残念ながら、わたしは光魔道は遣えない……。それに、量よりも質の問題だから、重ね掛けはこの場合は意味がないのだ。まあ、心当たりがあるにはあるのだが……」
ブルイネンだ。
「光魔道か……? あっ──」
そのとき、エリカが気がついたかのように、小さな声をあげた。
「そうだ、エリカ殿……。この世で最大の光魔道の力を持つお方……。エルフ族の女王のガドニエル様だ……。女王様の力であれば……」
「なるほど、ガドニエル女王……。耳にしたことはあります……。凄まじい魔道力を持ったお方だと……」
スクルドも思い出すように言った。
「だったら、連れていきなさい、ブルイネン──。いますぐに、その女王のところに、ご主人様を連れていくのよ──」
コゼだ。
すごい形相でブルイネンを睨みつけている。
「そうもいかない……」
だが、ブルイネンは暗い表情になった。
「なんでよ──」
今度はエリカが怒鳴る。
「ガドニエル様がおられる館……。イムドリス宮に入る光の道を管理するのは太守夫人のカサンドラ殿だ……。しかも、イムドリスへの“門”は水晶宮内にあるのだ。カサンドラ殿の協力なく、イムドリスに通じる光の道は開かない」
ブルイネンが心痛そうに言った。
「……のこのことカサンドラという女のいる水晶宮に行けば、捕まりに行くようなものか……」
一郎は呟いた。
なにか方法を考えなければならないか……。
まあ、カサンドラも女であれば、ガドニエルという女王も女だ……。
近づくことさえできれば、完全服従させる手段がないわけではないか……。
「じゃあ、パリスが命の破片を隠している生命体をご主人様が操るか、ガドニエルという女王をご主人様がたらしこむことだな……。だけど、それよりも、いまのことだよ、ご主人様」
声をかけてきたのはクグルスだ。
「いまのこと?」
「その手の紋様は呪いだよね。だったら、周りにいるこいつらの誰でもいいから、ひとりか、ふたりを抱き潰しなよ。ご主人様は淫気切れを起こしているよ。だから、パリスの魔道なんかに負けてしまうんだ。本来であれば、このくらいの闇魔道なんて、ご主人様は跳ね返せるはずだよ」
淫気切れ……?
思いもよらなかった言葉に一郎はクグルスを見た。
「淫気切れってなによ?」
コゼが言った。
「ご主人様は偉大なる淫魔師様だよ。そんじょそこらの魔道が通用するお方じゃないんだ。だけど、力の源がなくなれば、さすがに抵抗力も落ちるさ。ねえ、ご主人様、最後に女を抱いてから、どれくらい経っている? しかも、ぼくに淫気の力を分け与えたりして……。ご主人様の身体には、ほとんど淫気が残っていない。力が入らないんじゃない?」
「力が入らないって……。だったら、身体が異常にだるいのは、呪いじゃなくて、淫気切れ……?」
驚いたが、思い当たることもある。
淫気切れのことなんて考えもしなかったものの、そう知らされてみると、自分の身体になにかが枯渇している感覚がある。
ずっと感じていた不可思議な飢餓のような感覚は、どうやら淫気切れだったらしい。
そうか……。
パリスに捕らえられる直前にエリカを抱いてから、二日ほどの時間がすぎている。
あれから、当然に誰も抱いていないし、エリカを最後に抱いたときだって、中途半端な感じだった……。
なによりも、身体にあった大量の淫気をクグルスに託していた。また、拷問から体力を維持するのに、無意識に淫気を使っていたのかもしれない。
だから、捕らえられたときには、不足気味だったということか……。
それなのに、身体に負担を与える亜空間術を幾度も遣っている。
だから、淫魔術か……。
「じゃ、じゃあ、ロウ様がわたしたちを抱けば、とりあえず、元気になるのね。呪いが浸透する時間も稼げると……」
「ご主人様だったら、呪いの侵攻は完全にとめることができると思うね。ご主人様は淫魔師の格がとてつもないだけに、遣う淫気の量も桁違いなのさ。だから、お前らのような女がたくさん必要なんだ。さあ、わかったら、よってかたってご主人様に抱き潰されろ」
クグルスが元気よく言った。
「そういうことなら、あたしが……」
コゼが近づいてくる。
「なんで、あんたなのよ──。わたしは一番奴隷で……」
「わ、わたしは、はるばると、王都から来たのです。後生です──。こんなことをはっきりと口にするのは、叱られるかもしれませんが、抱いていただけないでしょうか……。いえ、そういえば、ご主人様に罰を受けることが……。縛ってください。それとも、痛いことでも……。どうか、お好きに……」
スクルドも混じってきた。
なんだか、鬼気迫る勢いだ。
「お待ちください、お姉さま方、スクルド様も……。皆さまが抱き潰れたら、ロウ様をお守りする者が減ります。あたしなら、魔道遣いは、スクルド様も、ブルイネン様もおられるし……」
今度はミウだ。
さっと一郎の腕を掴んでくる。
「ま、待ってくれ……。わ、わたしはもう身体が熱くて……」
ブルイネンが半泣きの表情で一郎にじりじりと身体を寄せてくる。
一郎はまるで肉食獣のような女たちに、思わずにんまりとしてしまった。
しかし、コゼがなにかを思い出したかのように、急に動きをとめて、真顔に戻った。
「そうだ、忘れてた、ご主人様。王都が大変みたいなんです──。スクルド、話して──」
「王都?」
横でエリカも首を傾げている。
「あっ、いえ、それはもう少し落ち着いてから……。ちゃんと説明をして、もっと、ゆっくりとお仕置きをされたいし……。アネルザ様もサキさんも出し抜いて、ここに来たわたしの権利……。でも、あれかしら……。イザベラ様とアン様のことだけでも先に……」
スクルドがなにか考えるような表情になる。
だが、喋っている内容がいま少しわからない。
そのときだった。
「何者だ──?」
イットの大声がした。
一郎は視線をイットの声の先に向けた。
ちょっと距離があるが、そこにいたのは二匹の魔物だ。
腰に布を巻きつけ、大きな布を両手に持ち、そこにたくさんの果実を載せている
なんで、ここに?
「馬鹿な。この狭間の森に魔物が侵入しているはずが……」
ブルイネンがびっくりしている。
一方で、向こうも一郎たちの存在が思いもかけないことだったのか、二匹は雄叫びのような声をあげて、果実を放り出して逃亡していった。
「コゼ、追いかけろ──。ただし、絶対に傷つけるな──」
一郎は慌てて叫んだ。