【2025.9.5コミック発売】異世界で淫魔師ハレム【完結】 作:ドン・ドナシアン
“イザベリアン
経験人数:男1
状態
魔獣化の闇呪術”
“ロルリンド
経験人数:男3
状態
魔獣化の闇呪術 ”
「馬鹿な。この狭間の森に魔獣が侵入しているはずが……」
ブルイネンの驚愕する声が横で響いたが、一郎の驚きはそれではない。
距離があるので、一瞬しか注目することはできなかったが、びっくりしたのは、醜いオーク族にしか見えなかった二匹の魔獣のステータスだ。
魔眼の能力がある一郎だが、実のところ、それほど魔獣のステータスを覗いた経験があるわけじゃない。
しかし、これまでの経験では、魔獣に固有の名前が見えたことはないし、また、さっきの二匹の醜悪な姿の魔獣は、“オーク族”と表現されていながら、欠損している文字で奇妙な文字が追加されていた。
なによりも、「魔獣化の闇呪術」という個体の異常状態を示す言葉……。
疑念を抱いたのは一瞬だった。
すぐに、さっきブルイネンが、この狭間の森にやって来れるのは、ブルイネンともうひとり、そして、エルフ族女王のガドニエルのみだと口にしたのを思い出した。
まさか……。
でも、闇呪術という表現にパリスの影を感じる。
「コゼ、追いかけろ──。ただし、傷つけるな──」
とっさに叫んでいた。
コゼは、すぐに駆けだした。
だが、すでに、さっきの二匹のオーク族は、繁みに隠れて姿は消えてしまっている。
もっとも、コゼなら問題ないだろう。
まあ、念のために、獣人族で感覚が抜群に優れているイットにも行ってもらうか……。
「イット、お前も行ってくれ。そして、コゼを追いかけて、さっきのオーク族は、エルフ族の成れの果てかもしれないから、絶対に傷つけるとなと伝えてくれ。それと、彼女たちの隠れ処があるはずだ。それを突きとめてくれとも……。それと、コゼにあとで埋め合わせするとも……。もちろん、イットも」
「はい、ご主人様──」
イットがくすりと笑ってから、駆けだす。
あのふたりなら、なんとかなるだろう。
「いまのは、どういう意味なのですか、ロウ殿?」
ブルイネンが驚いている。
「いまのって、埋め合わせの意味か?」
一郎は惚けてからかった。
「なっ、そ、そんなんじゃ――。エルフの成れの果ての方です」
ブルイネンが顔を真っ赤にして怒鳴った。
反応が
だが、一郎は、直接には応じずに、ブルイネンに質問をするために口を開いた。
「なあ、ブルイネン。もしかしたら、女王の暮らすイムドリス宮でガドニエル様に仕える女性エルフ族が行方不明になったりしている事件はないか?」
「えっ、行方不明? いや、わたしの知る限り……。いや、ない……。あっ、でも……。いや、やはり、ありません……。しかし、ガドニエル様の命令で水晶宮におりてきた親衛隊のみんながいなくなっています。どこにいるのかわからないのです」
ブルイネンは途方に暮れたように言った。
そう言えば、まだパリスに拷問を受けていた一郎を訪ねてきたときに、ブルイネンが親衛隊のことをそんな風に口にしていたと思う。
やはり、エルフ族が行方不明になっているということがあるのだと思った。
「親衛隊の行方もそうだが、イムドリス宮そのものにも、なにかあるんじゃないのか? なにか、思い当たることが完全にはないわけでもない感じだったな……。女王の周りだ。それとも、言えないことか?」
「い、いや、言えないということはないのですが、わたしと同じように、筆頭側近の格でガドニエル様に仕える女がもうひとりいて、彼女はアルオウィンというですが……、それは二箇月くらい前から、ずっと連絡が途絶えていて……。彼女はガドニエル様の耳目として諜者のようなことをしているのです。だから、外に出て、長く連絡が途絶えることは不思議ではないし……。まあ、ガドニエル様も問題ないとは言っていたし、彼女の任務について、わたしがすべてを教えてもらっていることはないですし……」
ブルイネンの物言いは、どうも歯切れが悪かった。
心配をしていないという彼女自身の言葉とは逆に、ブルイネンはアルオウィンのことを気にかけている様子である。
アルオウィンというエルフ族のことは、まったく知らないが、諜者として活動する彼女は、行方不明状態なのだろうか……?
なんとなく、その名に聞き覚えがあった気がしたが思い出せない。
とにかく、少なくとも、長く連絡が途絶えているようであり、そのことについて、ブルイネンは気になっているが、一方で、女王のガドニエルは問題にしていない──。
そういうことのようだ。
「そのアルオウィンという人が、二箇月も連絡がなくなるのは、これまでもあったのか?」
「ないこともありませんが、以前、もしものことがあれば、わからないからと、ガドニエル様が絶対に一箇月に一度は、イムドリス宮への連絡を厳命したことがあったのです。それ以来、アルオウィンはそれを守っていました。ガドニエル様だけではなく、わたしにも必ず……。だが、今回はすでに二箇月で……。でも、まだ二箇月だと言われれば、そうですし……」
「彼女の部下からの連絡もなし?」
「アルオウィンは、部下を好まないのです。いつもひとりで行動します。もっとも、諜者活動をしているときの彼女のやり方を全部承知しているわけじゃありませんから、あるいは、実際には、手の者のような者も扱うのかもしれないですけど……」
だったら、そのアルオウィンとは違うかもしれない……。
さっきの雌オークは二匹だった。
単独行動だとすれば、あの雌オークは一匹でなければならない。
だとしたら、行方不明だという親衛隊の方か……。
その中の女エルフが“魔獣化”の呪術をかけられているか?
しかし、なんとなくぴんとこない。
直観が働くときには、不可思議な確信のようなものが頭を貫く。なぜか、いまの推論には、心を揺らすものがない。
いや、もっと、女王に近い存在……。
一郎の予感が当たっていれば、ナタル森林を支配するエルフ族たちが、突然にパリスなどという悪党に従うようになったのか説明できるのだ。
もちろん、カサンドラという水晶宮を管理する太守夫人をパリスが支配していたということはあるだろう。
だが、もっと決定的ななにか……。
そういえば、さっき、ブルイネンが口走ったことによれば……。
「ブルイネン、さっき口走ったが、ここは狭間の森という結界に隠された場所ということでいいんだな? ほとんど存在を知られていない……」
確か、ブルイネンはそう言っていた。
「そうです。ガドニエル様の作られた場所です。存在を知られていない秘密の場所です」
「出入りの許されるのも、もしかして、存在を知っているのも、ブルイネンと、ガドニエル様と、もうひとり、いま話に出てきたアルオウィンという女性のみか?」
「そうです」
「カサンドラ太守夫人も知らない場所?」
「知らないと思います。ガドニエル様は、そう言っていました。ここを知っているのは、わたしたち三人のみだと……。なにか非常事態があったときの避難場所でもありますし……。誰かに知られれば、その用をなしません。秘密の場所なのです」
「だけど、俺たちを連れてきた」
一郎はからかうように言った。
ブルイネンは顔を赤くした。
「こ、ここしかなかったから──。ほかの場所など、カサンドラ殿の水晶軍にかかれば、すぐに発覚します。水晶軍は全員が魔道の遣い手です。魔道による追跡の手段はいくらでもあります」
「つまりは、出入りを許されている三人のうち、ひとりでもいれば、部外者でもなんでも、放り込むことはできるということだね? さっきのオーク族だって、そうやって、三人のうちの誰かが入らせたんだろうね」
「わざわざ、オーク族を……魔獣を狭間の森に? ありえません──」
「でも、そういうことだよね」
一郎は言ったが、実際には、わざわざ魔獣を三人のうちの誰かが、ここに入れたとは思っていない。
いまのところ勘でしかないが、おそらく、さっきの雌オークは、エルフ族の成れの果てだ。
闇呪術というやつで、魔獣化させられたのだろう。
行方不明のアルオウィンの可能性もあるが、つまりは、彼女の場合を含めて、ガドニエルの側近だ。
「なんのために、そんなことを……。い、いや、しかし、そうでないと辻褄は合わんのか……。だったら、アルオウィンは、ここにいるのか……?」
ブルイネンは怪訝そうな表情になって、ひとりごとのようにぶつぶつと呟いた。
「いや、そうとも限らないさ。ブルイネンでなければ、ガドニエル女王様か、やはり、アルオウィンという女性かわからないけど、なにかの事情があり、魔獣をここに連れてきたことがあったのかも……。もしかしたら、ガドニエル女王がこれを受け継ぐ、ずっと以前に魔獣をここに入れたことがあって、それが繁殖していたということもあるし……」
一応は、他の可能性も羅列してみた。
だが、ブルイネンは即座に否定した。
「さっきも言いましたが、それはないのです。そんなことがあったとしても、連れてきた者が狭間の森から出れば、一緒に入った者も同時に、狭間の森の外にはじき出されます。例えば、いまわたしが狭間の森の外に転送術で出れば、一緒に入ったあなた方も、外に出てしまいます。ここはそういう場所なのです。また、ここはガドニエル様が築いた場所です。ガドニエル様がここを作る以前は、存在しなかった場所です」
ブルイネンが断言するように言った。
一郎は肩を竦めた。
「何事も例外はあるだろう。ガドニエル様が、ブルイネンの知らないときに、狭間の森の仕組みを変えたのかも」
「いいえ──。そうであっても、結界条件が変質すれば、少なくともわたしはそれを感じることができます。でも、ここは、なにも変わってない……」
「わかった……。もう一度、確認するけど、何者であろうとも、ここには、ガドニエル女王様、ブルイネン、そして、アルオウィンという女性と一緒でなければ、入ることはできない……。そして、同行した者は、一緒にやってきた三人のうちのひとりが、この場所から出れば、自動的に一緒に外に弾き飛ばされる……。そういうことでいいんだな?」
「そ、そうです……。だから、あそこにオークがいたということは、ここにアルオウィンがいるということになるのですね……。しかも、彼女があのオークたちを連れてきたと……。だが、なんのためでしょう……?」
ブルイネンは途方に暮れた表情になった。
一方で一郎は、さらに推論を巡らせた。
ブルイネンの言葉はすべて正しいという前提にたてば、あのオークたちの正体がなんであれ、ガドニエル、ブルイネン、アルオウィンの三人のうちのひとりが、ずっと前からここにいたことになる。
一緒にいたブルイネンではありえないので、当然に、それは、ガドニエル女王かアルオウィンという女エルフのどちらかということだ……。
ガドニエル女王は、別段に行方不明にはなっておらず、ブルイネンは水晶宮に親衛隊とともにやって来るときには、イムドリス宮で女王から命令を受けたと口にしていたと思う。
消去法で、ここにいるのはアルオウィンだ。
だが、もうひとつの可能性も……。
「ブルイネン、話は変わるが、最近のことで、ガドニエル様の周辺について、ほかに、イムドリス宮で変わったことは? アルオウィンという人が戻っていないということのほかにだ……」
一郎は訊ねた。
「変わったこと? 特には……。あっ、そう言えば、二箇月ほど前に、イムドリス宮にオーク族が侵入するということがありました。結界の張ってある異相空間のイムドリス宮に、魔獣が入り込むなどあり得ないことなので驚いたのです。結局、原因も手段もわからなくて……」
「オーク族──。ちょっと、詳しく話してくれ」
一郎は声をあげた。
今度は、ぴんとくるものがあった。勘が働く感覚だ。
ブルイネンは、一郎の勢いに、ちょっと当惑気味に語り始めた。
つまりは、イムドリス宮への魔獣の侵入事件ということだそうだ。
魔獣が突如して、結界に包まれているばずのイムドリス宮に出没して、女王のガドニエルを襲ったそうだ。
ただ、館にあった転送魔具で脱出してしまい、いまだに、どこに逃げたのかわからないらしい。
ガドニエルに命じられて探したものの、なんの手がかりも見つからず、途方に暮れて冒険者ギルドにまで情報提供を求めたようだ。
「結界の張った異相空間に魔獣が? 随分とおかしな話ですね」
スクルドが口を挟んだ。
「オーク族がイムドリス宮に入り込むなんて、時々あることなのか?」
一郎は訊ねた。
「まさか──。まったく、ありえないことです。イムドリス宮の出入りを管理しているのは水晶宮のカサンドラ殿です。その水晶宮側からの行為以外に魔獣が潜入できる方法はないのです。この狭間の森以上の絶対結界に隠されているのですから……」
ブルイネンは言った。
だが、実際にガドニエルをオークが襲った……。
つまりは、魔獣であるオーク族とガドニエルが同じ位置にいた……。
まさかだが……。
まさかのまさかだな……。
しかし、一郎がパリスの視点で考え、ナタルの森を好きなようにするために、もっとも確実な手段……。
女王のガドニエルを……。
もしも、その手段が存在したならばの話だが……。
でも、本当に……?
一番最初の、一郎の突拍子のない思いつきに対して、どんどんと辻褄が合ってきた気もするけど……。
だとしたら、一郎たちは、とんでもない事件に巻き込まれたということになる……。
「ねえ、もう一度訊ねるけど、この狭間の森に入れるのは、エルフ族の女王のガドニエル様と、ブルイネン、そして、アルオウィンという女性エルフ族だけなんだね?」
「そうです」
「なら、この三人であれば、ここには、どこからでも入れる?」
「まあ、転送術があれば……」
「入る手段は転送術だけ? 歩いて入るとかは?」
「歩いて? ここがどこだかもわからないのに? 偶然にだって見つけることはできません。ここは、そういう場所なのです」
「だけど、ガドニエル女王様は知っているんじゃないのか? 場所がわかっていれば、歩いてここに来れるのかも」
「まあ、ガドニエル様ならできるかもしれません。そもそも、ここを作ったのは、ガドニエル様なのですから……。でも、わざわざ、そんなことをする理由がないでしょう」
「あったのかもね……。逃亡するために……」
一郎は呟くように言った。
聞き取れなかったらしく、ブルイネンが聞き返してきた。
一郎は、なんでもないと言葉を濁した。
その代わり、さらに質問をするために口を開く。
「ところで、ブルイネンは、その魔獣捜索についてどういう指示をガドニエル様から受けているんだ? とりあえず、捕らえろとか?」
「最初は……。だけど、いまは見つけ次第に殺せと命じられています」
ブルイネンは言った。
「……ところで、イムドリス宮に何者かが侵入したとすれば、さっきの話によれば、水晶宮のカサンドラ殿の力がなければ不可能なんだよね。魔獣の潜入について、彼女については捜査したのか? もっとも怪しいのは彼女だ」
一郎の言葉に、ブルイネンはちょっと困ったような表情になった。
「そ、それは、ガドニエル様からとめられて……。カサンドラ殿がこの事件に関係していることはあり得ないから、彼女について捜査はしてはならんと……」
これで、すべてが一郎の中で繋がった。
魔獣について捕縛、あるいは、殺戮を厳命しながらも、ガドニエルは、本来であればもっとも疑わしいカサンドラの捜査を禁止させた。
だが、そのカサンドラは、パリスの愛人でもあった……。
なによりも、パリスにはガドニエルを陥れる動機がある。
その手段があったのかどうかは知らないが、きっとそれくらいの能力は持っていたのだろう。
死んでもまだ、完全には死なないような不死身の体質を保持する闇魔道師なのだ。
「もしかしたら、イムドリス宮も、大変なことになっているかもしれないな、ブルイネン……。お前もなぜか、イムドリス宮に戻れなくなっていたんだろう?」
一郎は思い出しながら言った。
「大変なこととは……?」
ブルイネンが怪訝そうな表情になった。