【2025.9.5コミック発売】異世界で淫魔師ハレム【完結】 作:ドン・ドナシアン
「ご主人様……いえ、ロウ様……。ロウ様は、もしも、エリカさんと結婚できないとしたら、それでも、イザベラ姫様の旦那様になる選択をなさいますか?」
スクルドが急に神妙な表情になって訊ねてきた。
だが、真面目な表情なのだが、スクルドには、なんとなく一郎との会話を愉しんでいるような雰囲気が漂っている気配がある。
まるで、試されているようだなとは思ったが、一郎は正直に応じることにした。
「なら、しないな」
一郎はあっさりと言った。
すると、目の前のスクルドがくすりと笑った。
一方で、エリカが息を呑む音が聞こえた気がした。一郎は、一瞬だけエリカを見たが、エリカは照れたような、困惑したような……、そんな、ちょっと複雑な表情になっていた。
ミウとブルイネンは、一郎とスクルドの会話を静観する気配だ。
「でも、ロウ様は先程、イザベラ姫様とアン様のご懐妊のお話を耳にして、すぐにおふたりと婚姻すると口にされました。もともと、アネルザ様はそれをお望みでしたし、ロウ様は子爵の爵位をお持ちです。女王の王配としては爵位が高いとは言えませんが、ロウ様にはさまざまなご功績もありますし、反対する者がいても、アネルザ様が黙らせるでしょう。ロウ様が納得されれば、それなりの地位を与えられて、問題なくイザベラ様との婚姻はまとまると思います……」
「そうか?」
一郎は惚けた。
まあ、そうなのだろう。
そして、一郎もやっと、スクルドが言わんとすることがわかってきた。
イザベラとアンが孕んだことで、一郎はなに考えずに、結婚をして責任をとるということを口にしたが、王太女のイザベラと婚姻をするということは、この世界の常識では、一郎が王家に嫁ぎ、王配という立場の「王族」になるということになる。
この世界は、クロノス信仰というものがあり、複数妻を持つことはタブーではないが、王配となった一郎と重婚をして妻になるということは、その女性たちも王族の一員として王家の家族に加わるということだ。
そうでなければ、単なる妾や愛人でしかない。
いや、そもそも、王配として王家に入って一郎がイザベラのほかに、女を妻にするという行為そのものがあり得ないだろう。
さすがに、一郎もそれくらいはわかった。
とにかく、一代貴族とはいえ、爵位を持つ一郎はともかく、爵位もない一介の冒険者にすぎないエリカは、王族に加わることはできない。それはコゼも同様だ。
スクルドはそういうことを言いたいようだ。
「でも、そういえば、まあ、ちょっとした処置は必要ですけど……。それは、多分、大丈夫というか……」
そのとき、スクルドは何かを思い出したかのように、小さな声で呟くように付け足した。
どことなく、気まずい様子を示したように思えて、一郎は微笑んでしまった。
「言わんとすることはわかるよ。だけど、王都でなにがあったかを説明する前に、どうしても、俺の腹を探りたいというのであれば、さっき口にしたとおりだ。俺は別に、王家の権力に興味があるわけじゃない。別に取り柄もない、ただの淫乱男だ」
「い、いえ、ロウ様は取り柄がないなど――」
急に不満そうな声を出したのはミウだ。
しかし、一郎はそれを手で制した。
ミウが口を閉ざす。
一郎は視線をスクルドに戻した。
「……成り行きでたくさんの女性を愛するようになったけど、姫様やアンを軽んじるつもりはさらさらないが、だからといって、ほかの女性を蔑ろにはするつもりもない。俺からすれば、王家の女性だろうが、貴族だろうが、ただの冒険者だろうが、それとも、神殿長をやめてきて、なにかを隠している怪しい女であろうが、同じように愛しい女だ」
「か、隠しているつもりはありません。ちゃんとご説明します……。でも、ロウ様がどうお考えかによって、説明が変わってくるというか……。わかりました。お話します。ところで、王配として王家に入るつもりはないのですね? つまりは王家の婿に……」
「それがなにかの束縛をされるということであれば、そのつもりはない。ただ、俺の子を妊娠してくれたイザベラ姫様やアンと別れるつもりもない。彼女たちもまた、しっかりと俺の女だ。ましてや、俺の子供を産むのだしね」
「でも、アネルザ様は、ロウ様が王家に入ることを望んでおられますよ。イザベラ様やアン様については、そこまでロウ様を束縛するつもりはないかもしれませんが、王家を担っているアネルザ様は、ロウ様を王家で抱え込みたいでしょう。また、それが必要です。現実的には、女王が夫なしで子を作るのは、色々と問題もあります」
「イザベラの夫になるということが、ほかの女との婚姻を許さないということに繋がるなら、ほかの方法を考えるよ。制限は受けたくないしね」
一郎はうそぶいた。
もっとも、どういう方法があるのかということは思いついてはいない。ただ、スクルドが言ったように、単純にイザベラの夫として王族に加わり、ほかの女を妾という扱いをするということは受け入れられないと思った。
イザベラに一郎の子が生まれるということを考えると、そんな勝手なことを口にするのは許されることではないというのはわかるのだが、だからといって、いままで尽くしてくれたエリカたちとの付き合いが制限されるのは納得できない。
「アネルザ様は、ロウ様の女性とのお付き合いを束縛するおつもりはまったくないと思います。これまでと同じように、ロウ様は自由にエリカさんたち……、もちろん、わたしを愛していただきたいですが……。あっ、ともかく、ただ、表向きには、ロウ様の妻はイザベラ姫様、そして、アン様だけということになるとは思います」
「表だろうが、裏だろうが、束縛されるのであれば、婚姻というかたちはとらない。イザベラもアンも俺の女だが、エリカもそうだし、スクルド、お前も同じ俺の恋人だ。王家の仕来りなんか、俺の知ったことじゃない」
一郎は断言した。
スクルドがにっこりと微笑んだ。
「あ、あのう……。ロウ様、ロウ様のお気持ちは嬉しいのですが、わたしたちのことであれば、そのう……。いままで通りに愛していただけるのであれば、どのような立場でも……。それに、イザベラ姫様やアン様は、ロウ様のお子様を産むのですし……」
そのとき、エリカが遠慮するように口を挟んできた。
一郎がイザベラとの婚姻を拒否するようなことを言い出したので心配になってきたのだろう。
一郎はエリカに視線を向けた。
「だったら、お前にも俺の子を産んでもらう。いまはこういう状況だから、騒動が落ち着いたらな。それならば、お前も姫様も対等だ。子を理由に、どちらかだけと婚姻するということにはならない」
エリカの言葉を遮って、一郎は言った。
「えっ、子供……」
エリカは目を丸くして、そして、またもや、ぱっと頬を赤く染めた。
「わかりました。多分、そのようにお考えになると思いました。だったら、いまの王家を潰して、ロウ様が国王になるというのはいかがですか? そうなれば、ロウ様が王ですから、妻にする者の身分など関係ありません。どんな立場の者でも、ロウ様の自由にできます。ただ、そうなれば、穏便な方法というわけにはいかないかもしれませんが……。だけど、むしろ、ロウ様のお望みに近い結果になると思いますし……」
すると、またもや、スクルドがなにかを含んだような物言いを始めた。
一郎は面倒くさくなった。
「もういい。とにかく、王都でなにが起きたかを喋ろ──。禅問答みたいな会話は疲れる」
一郎は言い捨てた。
「ぜん……問答?」
スクルドは首を傾げている。
禅問答については、ぴったりの言葉は、こっちの世界にはないみたいだ。意味が通じなかったようである。
それはともかく、一郎は淫魔術でスクルドの性感を一気に、通常の百倍ほどに引きあげる。
そして、股間とアナル、さらに、両乳房に一斉に筆責めの刺激を送りこんでやった。
「ひゃあああ」
スクルドが真っ赤になって、全身をぐんと弓なりにして反り返った。
だが、一郎は容赦なくわ発生した赤いもやというもやに、次々に刺激を送り込んでやる。
「あああ、だめええええ」
スクルドが自分の身体を抱くようにして、大きな声をあげて仰向けにひっくり返った。
スカートがめくれあがり、着替えたばかりの下着が露わになる。
布越しだが、がに股になった股間から潮吹きが発生して、小尿を洩らしたように、スクルドの股間が濡れるのがわかった。
がくがくと身体を震わせて、スクルドが深い絶頂を続ける。
一瞬して快感を極めさせられ、スクルドは一切の慎みを保つ余裕もなく、あられもない恰好で快感を暴発させたようだ。
一郎は快感を送るのをやめた。
「うわっ」
「おう」
「スクルド様──」
エリカ、ブルイネン、ミウが突然のスクルドの痴態に驚いている。
一方でスクルドは、しばらく肩で息をしていたが、やがて、よろよろと上体を起こした。
「あ、ありがとう……ご、ございます……。や、やっぱり、す、素敵ですね……ご、ご主人様は……」
スクルドが前髪を汗で額に貼りつかせながらにっこりと微笑んだ。
「い、いまのはなんなのだ? なにか、魔道のようなものが動いたぞ。ロウ殿は魔道遣いなのか──?」
ブルイネンについては、一郎の淫魔師としての能力を深く把握していないのか、とても驚いている。
もっとも、すでに、ブルイネンにも淫魔術の洗練は数回は喰らわしているのだが、本人にはあまり自覚がなかったようだ。
とりあえず、ブルイネンについては放っておく。
「あと二、三回、瞬間絶頂を体験するか、スクルド? そうすれば、素直に隠していることを話すか?」
「そ、それも素晴らしいご提案ですが……は、話せなくなってしまいますので……。と、とりあえず、王都で起こったことをお話しします……」
スクルドがまだ絶頂の余韻が残っているような仕草をしながら言った。
一郎は頷く。
「……すべては、イザベラ様とアン様のご懐妊がわかったことから始まりました……。そのことを知ったルードルフ王が烈火のごとく怒ったのです……。それで王国全土にロウ様の捕縛命令を出しました。ロウ様たちが出立されてから、一箇月半ほどの時期だったと思います」
スクルドが語りだした。
「ほ、捕縛命令──?」
「ええ──?」
エリカとミウがびっくりして声をあげた。
一郎も驚いた。
ブルイネンについては、よく事情を認識はしていないと思うが、不穏な言葉に、やはり、戸惑った表情をしている。
だが、考えてみれば、一国の王太女だけでなく、離縁して神殿預かりになっているとはいえ、さらに、その姉の王女を同時に妊娠させたのだ。
しかも、一郎は爵位をもらったとはいえ、一介の冒険者だ。
あのルードルフが怒るというのが、想像しにくいが、常識的には当然だろう。一郎がほぼ庶民に近いことを思うと、百回死刑になってもおかしくはない。
そうか──。
いつの間にか、犯罪者扱いになっていたのか……。
だったら、王配どころではないか……。
一郎は苦笑した。
「もちろん、そんなことを許すわけにはいきません。アネルザ様はそれこそ、烈火のごとくお怒りになり、ルードルフ王に抗議しました。でも、王は王妃様の言葉をお受け取りにはなりませんでした……。それどころか、王妃様を国王に逆らったということで、監獄塔に監禁してしまったくらいで……」
「監禁塔? アネルザをあのルードルフ王が捕らえたということか?」
今度こそ、びっくりだ。
まずもって、あの腑抜けのような男がアネルザに逆らうような根性があったというのが想像しにくい。
それこそ、怠け者そのものであり、キシダイン裁判のときには、王の義務を放棄し、すべてをアネルザに丸投げをして、後宮に引きこもったような男だ。
それが、よりにもよって、アネルザを捕縛させて監獄塔に監禁させるということをやるだろうか?
どうにも信じられない。
まあ、それだけ、イザベラとアンを一郎が孕ませたというのが腹に据えかねたのかもしれないが……。
だが、あのルードルフが……?
そんなことをするというのが、どうにも、一郎の認識しているルードルフの性格に合致しないのだ。
なにか腑に落ちない。
「それで、アネルザ様とサキさん、ミランダとわたしは、国王に対して謀反を企てたのです」
スクルドがにこにこしながら言った。
「謀反──?」
声をあげたのはエリカだ。
一郎も声は出さなかったものの、謀反というのは穏やかではないとは思った。
しかし、一方で、アネルザとミランダとサキに加えて、スクルドまで組むのだから、あの腑抜け王くらいどうにでもなるのではないかとは思ったりもした。
しかし、謀反とは……。
「はい、謀反です。わたしたちは、ご主人様、つまり、ロウ様に対して、不当に捕縛指示を与えた悪王をやっつけようとしたのです。四人同盟です。言いだしたのはアネルザ様が最初だったと思いますが、それにサキさんとわたし、そして、ミランダが協力して、国王を罷免させる工作を開始したのです」
「悪王ねえ……」
一郎は頭を搔いた。
もとはと言えば、節操なく女を増やした一郎が原因なのだが、ルードルフを悪王と言い切った瞬間のスクルドは、目つきが急に険しくなった。
心の底から、これについてはスクルドも怒ってくれているのだと思った。
だが、四人同盟とはなんだ?
スクルドは、アネルザが言い出しっぺで、ほかの三人が協力したのだと説明したが、それについても、一郎はちょっと疑念を思った。
ミランダはともかく、サキが大人しくアネルザに従うという状況が思い浮かばなかったのだ。
確かに、キシダイン事件のときには、王宮工作については、サキはアネルザに協力して、キシダインの完全失脚の王都工作を成功させた。
だが、サキがアネルザに協力したのは、一郎があいだにいたからだ。
本来、サキは異常なまでに自尊心が高い女であり、異界に勢力地を持つ魔族たちの中でも、サキはかなりの格の高い女魔族である。多くの眷属も持っている。
一郎がいれば、そのサキも人族である一郎の女たちとも仲良くするが、一郎がいないのに、大人しく協調するような気がしない。
一方で、アネルザはアネルザで、かなり性格の強い女だ。
あっという間に喧嘩しそうだが……。
「それにしても、四人組の国王失脚の工作とはねえ……。しかし、アネルザとサキは仲良くできたのか? 仲違いのようなことはなかったか?」
一郎は思ったことを訊ねた。
すると、スクルドが笑い出した。
「やっぱり、ご主人様ですね。その通りです。最初こそ、国王失脚をさせるということでまとまったんですけど、すぐに大喧嘩になりました。わたしは、サキさんの側についたのですけど……」
スクルドがさらに語りだした。
その内容はかなりの過激なものだった。
一郎の捕縛指示を取り消さないルードルフに激怒したアネルザたち四人の企ては、ルードルフを本当の悪王に仕立てあげようというものであり、新しく入ってきたテレーズという女官を巻き込んだ、まさに、ちょっとした陰謀だった。
とにかく、ルードルフに次々と失政を繰り返させて、王都に重税をかけさせ、流通を混乱させ、さらに貴族たちを粛清まがいのことをさせ、国王から貴族や市民を離反させようとしたのだという。
一方で、妊娠のわかったイザベラとアンについては、騒動の早い段階で、ノールの離宮に送られたみたいだ。
これもルードルフの命令らしく、これにより、イザベラは政務から完全に切り離されることになったとのことだ。
それにしても、なんということだろう……。
「一時は、タリオ公国のアーサー大公とのあいだに婚姻話も立ち上がったようです。いまは、それどころではなく、白紙に戻ったと思いますが」
「アーサー……。まだ、付きまとうのか……」
さすがに一郎も、これには苦虫を噛み潰したような気持ちになった。
なにを考えているのかわからないが、本当に手を出したら、容赦するものか思った。
相手が一国の大公だろうと、一郎は許すつもりはない。
いずれにせよ、一郎を守ろうとしてくれるのは嬉しいが、やり方というものがあるだろう。
そもそも、そんなことをしなくても、一郎としては、王都に戻らなければいいだけの話だ。
いっそのこと、ほとぼりが冷めるまで、ハロンドール王国から離れていてもいい。
一郎がそう言うと、スクルドが激しく首を横に振った。
「とんでもありません。ロウ様が戻らないということに、耐えられるわけがありません。そんなことになるなら、本当にこの王国など滅んでもいいのです──。これはわたしたち四人の共通の思いです──」
スクルドが我慢ならないという口調で激しく言った。
その迫力がすごかったので、一郎はそれ以上のことを言いにくくなった。
「でも、本当にそんなことをやったの?」
エリカが横から言った。
スクルドは大きく頷いた。
「ええ……。やりました……。王都住民を対象に重税を……。それがテレーズと国王が贅沢をするためだと喧伝しました……。流通が混乱したので、王都は大変な物価高になり……。暴動も起きるようになりました……。あっという間に、王都の治安は乱れて、逆らう貴族や官吏への国王の粛清も相次いだので、王都から貴族たちが離脱するようになり……、そんな混乱の中、二公爵が処刑され、そして、わたしもまた処刑されたのです」
スクルドが言った。
「処刑?」
今度はミウだ。
スクルドはにっこりとミウに微笑みかけ、さらに説明した。
つまりは、偽装死工作ということだ。
スクルドは自分たちがけしかけたといっていいルードルフの悪政に対し、毎日のように神殿において批判演説をして、それで目をつけられたのだということだった。
いいや──。
そう仕向けたのだ。
だが、王宮に呼び出したスクルドに、ルードルフは持ち前の好色が沸き起こったということだった。
命が欲しければ、抱かせろとスクルドを脅迫したのだそうだ。
だが、スクルドは拒否して、脅迫目的でけしかけられた毒杯を呷った。
そうやって、神殿長のスクルドは死んだことになったのだそうだ。
もっとも、これはサキと企てた工作の一部であり、ルードルフがスクルドに身体を迫って脅して自死に追い込んだ様子は、映録球という記録用の魔具で、王都全部に映像として広められたらしい。
そして、今度こそ、本当に暴動が起きた。
ここまでが、スクルドの知っていることのようだ。
その後、死んだことになったスクルドは、王都を脱出して、スクルドと名乗りを変えて、髪の毛の色を魔道で変化させて印象を変え、一郎を追いかけてきたということのようだ。
「だから、偽装死か……」
一郎はスクルドのステータスを思い出して呟いた。
だが、それで思い出したが、スクルドのステータスは、そういえば“預言者”という得体の知れない言葉があった。
あれはなんだのだろう?
一郎は訊ねた。
「預言者? なんですか、それ?」
スクルドは訳がわからないみたいだ。
まあいいか……。
「だが、どうにも納得できないのは、サキやアネルザがけしかけたとはいえ、あのルードルフ王が重税をかけるようなことをしたり、周りの貴族たちを次々に粛清指示を出したりしたということだな。それに二公爵の処刑だって? あれは、そんなことをする性質じゃないんだ……。一国の王に、“あれ”呼ばわりは失礼とは思うが、女を抱くことしか興味のない男なんだぜ。まあ、多少は男も興味があるみたいだが、とにかく、好色なだけだ。悪政などという面倒は嫌う」
一郎は言った。
すると、スクルドはちょっと困ったような表情になった。
「先ほど、テレーズという女官長の名を出しましたが、実際には、この女官長に国王は操られております。闇魔道による支配だと思います。もしかしたら、サキさんはもっと事情を知っているのかもしれませんが、サキさんはわたしたちには、あえて、細かいことを隠している感じでした。ともかく、国王は次々に王都を混乱させる失政を繰り返しましたが、これは全部、テレーズという女官長が国王を操ってやったことです。わたしたちは、それを静観をして、その状況を利用したのです」
スクルドはさらに、これについても細かい説明をした。
またしても、驚くべきことだ。
つまりは、ハロンドール王国という大国の王宮に、心を操る闇魔道師が潜入して、国王をひそかに操ってしまったということになるのか?
そういう意味では、王都の混乱を直接に発生させたのは、サキやアネルザたちではなく、テレーズという女のようだ。
なんということだと思ったが、一郎は、その事態を起こした原因が、一郎にもあることを思い出してしまった。
「王家の宝珠」──。
どんな悪意のある魔道でも、物理攻撃でも、毒でも、呪いでも、とにかく危害を加えられれば、たちまちに、攻撃者にそれを跳ね返してしまうという王家に伝わる絶対の防衛魔具なのだが、それを偽物とすり替えて、本物を受け取ったのは、ほからなぬ一郎だ。
別段、一郎が命じたことではないが、サキがルードルフからこっそりとすり替えて、一郎に持ってきたのだ。
一郎も悪いこととは思いつつ、あまりにも便利なものなので、そのまま受け取ってしまった。
だが、もしも、ルードルフが本物を持っていたら、まさか闇魔道で操られるということはなかっただろう。逆にいえば、そんな絶対の宝具があるから、王宮そのものに隙があったのかもしれない。
まあ、一郎としても、あれがなかったら、パリスとの対決のとき、一郎も「死の呪術」を受けてしまい、一郎はもちろん、マーズもシャングリアも助けることができずに、三人ともあの場で死んでいたとは思う。
よくも、あんな宝具が手元にあったものだ。
改めて、間一髪だったことを自覚した。
「……なんとなく、全体が見えてきたが、最初に言いかけた、おかしな謎かけはどういうことなんだ? そして、アネルザとサキが仲違いをしたと口にしたっけ?」
一郎は訊ねた。
「アネルザ様の思惑は、国王の悪政によって心を離した貴族を団結させて、退位要求を突きつけることで、イザベラ様を即位させることです。ご主人様については、王配として、大公の地位を準備することを考えているみたいでした」
「大公か……。それで、そうなったら、エリカたちとの婚姻は不可能になるという話に繋がるのか……」
一郎は頷いた。
だが、そうなってしまったらなったで、一度崩れた王の権威は地に落ちると言っていいだろう。
国王の権威は低下し、イザベラの治政にも影響を及ぼす気がする。
貴族たちからすれば、イザベラを即位させたのは、自分たちだという認識が生まれると思う。その中心になった貴族たちの力が強くなり、イザベラは下手をすれば、彼らの傀儡のようになってしまうのではないか?
アネルザは、その辺りについてはどのように考えているのだろう……?
それとも、勢いで突っ走ったものの、そこまで深く考えてない?
一郎はちょっと心配になった。
「サキは、そのアネルザ様のやり方には賛成しなかったの?」
エリカが口を挟んだ。
スクルドが一郎に向けていた視線をエリカに向ける。
「そうですね……。サキさんは、アネルザ様とは違うやり方で、ご主人様を担ぐつもりでした」
「違うやり方?」
今度は一郎が横から言った。
「戦争です」
「戦争?」
一郎は唖然とした。
「サキさんは、アネルザ様を出し抜いて、ハロンドール王国に内乱を起こさせるつもりです。その旗頭にご主人様が担がれます。すでに地方貴族の叛乱軍を整えていて、ご主人様を確保でき次第に合流してもらい、王軍とのあいだに大きな戦を起こさせようと考えています。ただ、王軍そのものをサキ様が把握していて、万が一にも、王軍の勝利はありません。ロウ様は悪王を倒した英雄として、新しい国王になるというものです。サキ様の計画はそういった感じです」
スクルドは、さらに、これについては、ピカロとチャルタがサキの指示で絡んでいて、サキはほかにも異界から多数の眷属を呼び出して、王宮を完全支配に乗り出しているのだと付け加えた。
また、反乱軍として準備した地方軍の中心は、アネルザの実家のマルエダ辺境侯とのことだ。
サキは、その辺境候の操りにも成功しているという。
実行は、一郎の眷属のサキュバスたちのようだ。
そして、出し抜いたというのは、アネルザが退位要求の中心に考えていたマルエダ辺境侯をサキが把握してしまったことで、アネルザの計略が実現できなくなったことを示しているみたいだ。
「過激だが、アネルザ案以上に、事態を収拾した後の面倒が大きそうだな。旗頭に担がれた俺は、実際的な叛乱の盟主の辺境候と本物の王位を争って、陰謀ごっこをする羽目に陥りそうだ。冗談じゃないし、そもそも、なんで会ったこともない辺境候が俺を叛乱の旗頭に担ぐんだ?」
「そこまでは、ピカロさんたちが処置すると思います。サキさんたちは、ご主人様が旗頭として戦った戦で、ルードルフ王を倒したら、当然にご主人様が次の王になると考えてみるみたいです」
「そんな簡単じゃないだろう。戦争というのは、ある意味勢いで起きるが、それが終われば、勝った者同士の主導権争いだ。そもそも、戦になれば大勢が死ぬ。綺麗ごとを言うつもりはないけど、終わった後にイザベラに丸投げするとしても、立て直しのためだけに、イザベラは女王としての一生をすり潰すかもしれない。俺の子を産むのにね……」
一郎は内心で舌打ちした。
アネルザにしても、サキにしても、素人の一郎から見ても粗がある。なによりも、一郎を大切にしてくれるのはわかるが、本質的なことが見えていないのではないだろうか……。
そもそも、王権の権威を低下させたら、それを継ぐ者が非常に苦労するのは明白だろうに……。
いずれにしても、とんでもないことを始めたものだ……。
だけど、やってしまったことは仕方がない……。
だが、どう始末をつけたものか……。
一郎は嘆息した。
「アネルザ様のやり方も、サキさんのやり方も気に入らないみたいですね?」
すると、スクルドが一郎の顔色をうかがうような視線を送りながら言った。
「そうだな。気に入らない。言いたいことは山ほどあるけど、ここにいない者に文句を言っても仕方ない……。とにかく、イザベラ姫様とアンについては、そういった王都の混乱とは離れているということでいいんだな?」
「おふたりは、先ほどのご説明のとおりに、ノールの離宮におります。政務からは離されておられて、王太女としての権限を停止させられたかたちですが、侍女の方々の合流も果たせましたし、シャーラさんもいます。いまのところ安全と静養は確保されております」
「だったら、時間があると思っていいだろうね。サキにしても、俺が戻らない限り、内乱は始めないのだろう。アネルザにしても、退位要求の中心として考えていた実家をサキに乗っ取られたのでは動きもとれないはずだ……。まあいい……。とにかく、こっちはこっちで目の前のことを片付けるか……。王都のことはそれから考える」
一郎は言った。
向こうのことは心配だし、とんでもないことになっているという感覚はあるが、ここにいる一郎にはなにもできることはないし、むしろ、なにもしないことで事態が悪化しない気もする。
「ご主人様、あのう……。お仕置きについては、スクルドは覚悟しております。いつでも、どこでも、どんなことでも……。どうか、お気の済むまで、スクルドに辱めを……」
スクルドがちょっと欲情したような表情で言ってきた。
しかも、お仕置きと言いながら、かなり期待のこもったような顔を一郎に向けている。
心なしか、内腿を無意識に擦り合わせるような仕草もしているし、こいつがなにを考えているかということは明確だ。
まったく、この女は……。
「それはいい……。ところで、もうひとつだ。さっきのテレーズという闇魔道師の女官長だ。そっちは本当に抑えているのか?」
懸念があるとすれば、それだ。
心を操ることができる得体の知れない闇魔道師……。
なにか不気味だ。
それにしても、闇魔道師か……。
パリスも闇魔道が得手だったが……。
だったら、糸を引いてるのはパリス? いや、そんな感じはなかったな。状況的には、タリオのアーサー大公?
アーサーだったら、手段さえあれば、謀略も辞さないか?
プライドが高そうだったが、完全に鼻をへし折ってやったので、もしかしたら、恨みに思っているかもな……。
ちょっと思った。
「わたしの見たところ、サキさんとテレーズ殿は、なんらかの協力関係にあるように感じました。あまり関わりを持たせてもらえなかったので、なんとも断言はできませんが、魔道遣いとしての能力については、サキさんが格段に上かと……」
スクルドは言ったが、これについては自信がなさそうだった。
まあいい……。
これについても、ここでなにを思っても、一郎がやれることはない。なにかを考えるにしても、情報が少なすぎる。
意味のある指示のようなものをすることは不可能だ。
しばらく放置しても、最悪のところまでに進まないと信じるしかない。
それよりも、目の前のことだ。
亜空間で死に瀕しているシャングリアとマーズ──。
ふたりを助けること──。
そのためには、パリスの命の欠片を持っているはずのアスカを倒してパリスとの本当の決着をつけないとならないし、世界最高の光魔道の遣い手だというガドニエルというエルフ族の女王との接触を果たさなければならない……。
優先順位はこっちだ──。
一郎は、王都のことをしばらく頭から放置しようと決心した。
「ところで、ご主人様、王都のことですが、ご主人様がどういう選択も選べるように、準備してきたものがあります。それをお知らせしたいのですが……」
スクルドだ。
「準備してたこと?」
「王国の街道に張り巡らせた移動術の跳躍施設のことです」
「移動施設? ゲートか」
王都から出立する直前の頃からだが、スクルドは一郎が王都を離れたクエストがしやすいようにするという目的で、主要な街道を移動術の門で繋げて、瞬時に長距離移動ができるようにするという事業を開始していた。
そのために、王家や教会、さらに、ベルズにも協力させたりして、移動施設を張り巡らせるための経費を集めまくっていたのだ。
その事業の着手直後に、一郎たちは王都を出立したが、そのことなのだろう。
「表向きに知られているのは、王都から繋がる一部の跳躍経路のみのことです。でも、実のところ、誰にも知られていないように隠している跳躍経路をひそかに王都中に張り巡らせました。それを使えば、アネルザ様もサキさんも出し抜いて、思いもよらない場所に逃亡することも可能です……。アネルザ様の計画、サキさんの計画……。そして、もうひとつ……。ロウ様がいずれの選択も拒否して、どこかに逃亡してしまう計画……。それも選べるようにしました。どうか、ご決断の材料にしてもらえれば……」
スクルドが言った。
一連の話の中で、数度目の驚愕だ。
物流や軍事行動の役立てるために、あちこちから集めた経費を使って、出資者に教えていない他の跳躍経路を作っただと?
本当にそんなことを……?
ちょっと一郎は呆れてきた。
だが、まあいい……。
どっちにしても、いまは王国には戻れない。
こっちのことが片付いてからだ──。
「わかった。参考にする」
一郎はとりあえず、それだけを言った。
そのときだった。
「ちょっといい加減にしてよ──」
大きな怒鳴り声がした。
ユイナだ。
ちょっと距離を保った場所で、クグルスにからかわせていたのだが、そのクグルスがユイナの身体から飛び出している。
視線を向けると、珍しくクグルスが地面に両脚で立ち、呆然とした様子でユイナを見ている。
そして、なにかを言いたそうに、口をぱくぱくと開いたように見えた。
「黙りなさい──、性悪妖精──。黙るのよ──。わかったの──」
ユイナは汗びっしょりの状態で全身を真っ赤にして、両手で股間を押さえるようにして、クグルスを睨みつけている。
とにかく、まあ、かなり追い詰められているのは、間違いないだろう。
ユイナの首には、一郎の施した『絶頂封じの首輪』があり、そのユイナを一郎もいたぶったし、クグルスもさんざんに性的嗜虐をしたはずだ。
かなりの媚薬も注入したし、それでも絶頂ができないユイナは、性欲の飢餓状態になって、かなりの苦悶にあるはずだ。
「だ、黙らないね……。お、お前なんか、もっとひどい目に遭わせてやる。もっともっとね」
クグルスが地面に立ったまま言った。
しかし、なんとなく口調が不自然のような……。
そもそも、いつもけらけらと、他人を馬鹿にしたように笑っているクグルスの顔に、まったく笑顔がない。
なにか変だな……。
一郎は首を傾げた。
だが、まあいいか……。
一郎はスクルドに視線を向け直す。
「スクルド、とにかく、その話は置いておく。状況は理解した。だが、目の前のことを片付けなければ、シャングリアとマーズは助けられない。王都のことは、そっちをなんとかしてからだ」
「わかっています。とにかく、スクルドは、なにがあっても、ご主人様に従いますし、逆らうこともしません。どんなことでも命じてください。スクルドは奴隷になって、ご主人様の思うことを実現してみせます。どんなことでも……」
「わかったよ」
一郎は言った。
そして、ユイナを見た。
「な、なによ……」
ユイナが一郎の視線に気がつき、眉間に皺を寄せた。
一郎は立ちあがり、ユイナの前に立つと、すっと靴を履いた足を出し直す。
「なに?」
ユイナが怪訝な顔になる。
「さっきのことだ。いい加減に観念したかと思ってな。足を舐めれば許してやると言ったけど、すでに靴を履いてしまった。だから、靴を舐めろ。そうすれば、その首輪を外して、絶頂させてやろう」
一郎は言った。
「あ、あんたねえ……」
すると、ユイナが怒りに染まった顔で一郎を睨みつけてきた。