【2025.9.5コミック発売】異世界で淫魔師ハレム【完結】 作:ドン・ドナシアン
455 雌オークの正体
「あっ、ご主人様」
イットは小さな岩山の頂上で、岩陰に隠れるように座り込んでいた。
この周辺は、果実の成っている樹木群が途切れて、林から岩山が突出しているような場所だ。一郎たちが登ってきた反対側の眼下に見える場所も、そんな場所だった。
一郎たちがやって来ると、イットは眼下を指さした。
正面には、ほとんど垂直に切り立った大きな岩壁があり、その岩壁にできている自然の洞窟の前に、五匹ほどのオーク族が車座になっている。
「連中はなにをしているの?」
エリカがイットの横に隠れるようにしながらささやいた。
一郎もその隣に陣取り、他の者もそれぞれに、下から見つかりにくい場所に隠れる。
ここにいるのは、一郎にイット、案内をしてきたコゼと、一郎と一緒にやってきたエリカ、スクルド、ミウ、ブルイネンである。
ユイナとクグルスはいない。
ここに来るまで、かなりの距離があったから、あの速度では相当に遅くなるだろう。
クグルスには、多少はユイナで遊んでいいとけしかけてやった。悪戯好きの魔妖精のことだ。さぞや、ユイナをもてあそんで愉しんでいるに違いない。
調子に乗ったときのクグルスは本当にどうしようもないので、今頃はユイナも大変なことになっているかもしれない。
さすがに、あのクグルスに、なんでもしていいと口にしたのは、やりすぎだったかもしれないと、ちょっと可哀想にもなってきている。
だけど、まあいいか……。
いずれにしても、クグルスは離れても一郎の気配を探れる能力があるし、ブルイネンの説明の通りならば、ここには危険な生き物が入り込む余地はなく安全なはずだ。
「食事を作っているように見えます、エリカさん」
イットが応じた。
確かに、雌オークたちが囲んでいる中心には、大きな葉っぱがあり、そこに雌オークたちが採集したと思われる果実が食べやすい大きさに、小さく切断されて、並べ置かれている。
使っている道具は、岩を薄く砕いて作った石包丁のようなものだ。
それで器用に、雌オークたちは皮を剥いたり、果実を切ったりしているのだ。
「オーク族が果実を? 連中は肉食じゃないのか?」
ブルイネンが首を傾げている。
「いえ、オーク族は肉食を好むけど、基本は雑食よ。肉しか食べないというのは俗説だわ」
エリカが即座に否定した。
まあ、ブルイネンも、エルフの高位貴族らしく、同じエルフ族でも、エリカのように俗世でもまれているわけじゃない。
エリカは冒険者としての経験もあるし、魔物の習性などについては、エリカの方が精通しているのだろう。
もっとも、一郎も、オーク族が果実を食べるという認識はなかった。
むしろ、彼らは獣の肉だけを好み、食料がなくなれば、群れの中で争い出し、共食いすらする習性まであるとまで聞いていた。
「だけど、あんな風に行儀よく食事はしない。そうだな、エリカ?」
「それは、そうですね。ロウ様の言うとおりに、あれは、随分に大人しいですね。連中はほとんど知性もなく野蛮ですから」
エリカが頷いた。
いずれにしても、オーク族は粗野で乱暴な生き物であり、あんな風に丁寧に果実を切ったりしている光景は奇異だ。
この距離では魔眼は遣えないが、一郎はあれを見て、おそらく、一郎の勘が正しいのではないかと思った。
「ロウ様、あのオークたちには、なにか呪術のようなものを感じる気がします。距離があるので断言はできないんですが……」
ミウだ。
一郎の横でじっと目を凝らす仕草をしていたのだが、どうやら魔道を使った探知のようなことをしてくれていたみたいだ。
「呪術?」
ブルイネンが訝しむ声を出した。
「そうですね。確かに……。だけど、本当に魔道を安定して遣えるようになったのですね、ミウ。頼もしいですよ」
スクルドがミウを称賛した。
「あ、ありがとうございます」
ミウが嬉しそうな顔をする。
「呪術か……。それにしても、この狭間の森に、オーク族がどうやって入り込んだのだろう? 呪術というのは、その謎に関係があるのか……?」
ブルイネンは不思議がっている。
この狭間の森という場所は、ブルイネンの説明によれば、ガドニエルというエルフ族の女王が作った特別な場所であり、ガドニエルに許された者、すなわち、ガドニエル自身とブルイネン、そして、アルオウィンというふたりの側近しか開くことができない結界で包まれているのだそうだ。
ここに入れるのは、その三人と、三人の連れてきた者のみであり、しかも、彼女たちが連れてきた者にしても、ここに置いていくことは不可能らしい。
同行者として入った者は、ここに連れてきた者が外に出れば、一緒に、この場所から転送術で弾き飛ばされる仕掛けのようだ。
すなわち、ブルイネンからすれば、ここにオーク族が入り込むのは不可能なのだ。
たが、現にあの雌オークは存在する。
ブルイネンは、それが信じられないようだ。
「簡単だ。ブルイネンの言うことが正しいのだという前提に立てば、ここに彼女たちを連れてきたのは、ガドニエル様か、アルオウィンさんという人のどちらかさ。そして、あの雌オークたちが、まだここに留まっていられるということは、そのふたりのうち、彼女たちと同行した方が、まだここに留まっているということしかあり得ない」
「ありえん──。いや、あり得ません……。で、でも、そう言われると、そう考えるしかないのか……。だけど……」
ブルイネンは困惑している。
「おりよう、みんな。それで、全てがわかる。ただ、覚悟をしてくれよ、ブルイネン」
一郎は立ちあがった。
この距離では、魔眼は遣えない。
ただ、近づきさえすれば、ほぼ完全なことがわかるだろう。
「待ってください。おりるのですか?」
エリカが心配するように言った。エリカは、一郎の危険について心配しているのだ。もっとも、オーク族は凶暴で怪力だが、知能が低く、それほど心配する魔物ではない。
一郎だって、オーク族くらいなら、容易く扱える。
だけど、エリカの心配ももっともだ。
「わかっているよ。エリカとコゼ、そして、スクルドは俺の横にいてくれ。一緒におりよう。ミウとイットは右から、ブルイネンは左側から回り込んでくれ。あのオーク族を逃がしたくないんだ。ただ、まずは危害を与えないでくれ。無力化するだけだ。とにかく、手を出すのは俺の指示を待って欲しい」
一郎の指示に、女たちが頷いた。
だが、ブルイネンは、不審そうな表情になる。
「待ってください──。その前に、教えてください。さっきから、ロウ殿は、あの魔物たちに心当たりがあるような雰囲気です。なにか勘づいていることがあるなら、先に教えて欲しい」
ブルイネンの言葉に、まだ確信が持てない状況で一郎の推測を語るのは、どうしようかなと思ったが、すぐに、なにも教えないで深刻な状況になるよりは、不確かな情報でも、それを共有すべきだと思い直した。
「そうだね……。じゃあ、言うよ。だけど、その前に確認したいことがるんだ。もしかしたら、イムドリス宮で、ガドニエル様に仕える侍女か召使いの中に、イザベリアンとロルリンドという名の者はいないか?」
一郎は訊ねた。
このふたりの名は、この狭間の森で最初に遭遇した二匹の雌オークのステータスにあった名前だ。
そして、その二匹のステータスには、間違いなく「魔物化の闇呪術」という言葉があった。
「イザベリアンに、ロルリンド……? ふたりとも、ガドニエル女王様の傍近くに仕える侍女です。それがどうかしましたか?」
ブルイネンは怪訝な顔をした。
だが、これで一郎の推測は、ほぼ確信に近いものに変わった。
「これで、わかった。だったら、あそこにいる雌オークのうち、二匹はその侍女だ。パリスの術でオーク族の醜悪な姿に変えられているんだ。そして、これは、俺の想像だけど、あの五匹の中か、それとも、すぐ近くにガドニエル様もいると思う。雌オークの姿で……」
「ええっ?」
ブルイネンが目を丸くした。
それは、ほかの女たちも同じであり、全員がにわかには信じられないという表情をした。
しかし、一郎としては、わかりやすぎる推理である。
一郎は語った。
即ち、あのパリスは、このエルフ族の故郷とも称されるナタル森林に、瘴気を充満させ、あのルルドの森のように魔族や魔物がはびこる魑魅魍魎の場所にしようという陰謀を企てていた。
それ自体は、とても実現するとも思えない途方もない謀略だが、パリスはそれを可能とするため、エルフ族の女王のガドニエルに手を出したのだ。
それも、操ったり、殺したりということではなく、ひそかにすり替わるという手段でだ。
なぜ、わざわざ魔物化の呪術を選んだのかはわからないが、おそらく、ガドニエルというエルフ族の女王ほどになれば、下手に闇魔道で操るよりも、魔物化の呪術の方が確実だったのかもしれない。
とにかく、なんらかの罠をかけて、パリスはガドニエルを傍に仕える侍女たちごと、呪術をかけて魔物にしたと思う。
そして、あるいは、そのまま魔物として捕えようとしたかもしれないが、ガドニエルは魔物になったまま逃亡をしてしまった。
ブルイネンに、執拗に、避け谷に侵入したオーク族の捕縛を命じていたのは、それが理由だったと思う。
一郎は自分の考えを説明した。
「ガドニエル様が──? だったら、いま、イムドリス宮にいるのは……」
「偽者だろうね。もしかしたら、連中はアルオウィンというガドニエル様の部下にも変身できる手段を持っているようだから、ガドニエル様にも変身ができるのだと考えていい」
一郎はブルイネンの疑念に、そう答えた。
それがもっともしっくりくる推理だ。
これまでに知り得た不自然だった事項が、すべてこの推理で符合する。
「まさか……。そんなことは信じられることじゃない……。いや、だが、偽者の可能性を指摘されれば、随分と心当たりがあります。この数箇月、ガドニエル様は、確かにまるで人が変わったみたいでした。わたしは、それがイムドリス宮に魔物の侵入を許した心労のためだと思っていたのですけど……」
「姿を魔物に変えられたガドニエル様は、おそらく、逃亡のために、この狭間の森に逃げ込んだのだと思う。ここなら、魔物狩りにも、ブルイネンの部下や、カサンドラ殿の水晶軍の捜索からも隠れられる。ブルイネンも、オーク族がこの狭間の森に逃げ込んだ可能性は考えなかっただろう?」
「間違いないかもしれません。ミウが指摘した通り、非常に強い呪術の縛りを感じます。エルフの女王様が呪術にかけられるなら、女王様の魔道力に匹敵する強さの呪術が必要ですが、あれはそれくらいの強さです」
スクルドが横から言った。
一郎は頷いた。
「し、しかし、信じられない……。あの醜悪なオークたちが、女王様や侍女たちだとは……」
ブルイネンはいまだに、半信半疑という感じだ。
「信じることだ。少なくとも、この狭間の森に入れるのは、ガドニエル女王様かアルオウィン殿のどちらかしかいないのだから、魔物化の呪術をかけられたのは、ふたりのうちのひとりだ」
一郎はきっぱりと言った。
もちろん、この狭間の森に逃げ込んだのが、アルオウィンの側だった可能性もあるものの、おそらく、女王のガドニエルの方だろう。
水晶宮でも、このナタル森林の瘴気の拡大でも、パリスはかなり好き勝手やっていた。
ナタルの森は、いまや、どこもかしこも、溢れる魔物や魔獣の影響で大変なことになっている。
この状況でありながら、エルフ族の女王のガドニエルが、なんら動く気配がないというのは、すでにガドニエル自体が入れ替わっている可能性が高い。
そもそも、一郎がパリスの立場なら、最初に狙うのは、ガドニエルだ。
下手に側近に先に手を出して、ガドニエルに警戒されるよりは、まだ警戒をしていないうちに、まずは頭を狙う。
「とにかく、行けばわかる。それと、付け加えるけど、俺には呪術を解くことできる。信頼してくれ」
一郎は言った。
もっとも、問題はあの醜悪な生き物を相手に、この一物が勃起するかどうかだがな……。
一郎が促すと、女たちも眼下の洞窟の前に向かって、崖をおり始めた。
*
「ギャ?」
五匹のうち、まず一匹が反応した。
びくりと、醜悪な豚に似た顔がぴくり動き、次いで、けたたましい叫び声をあげた。
「ギャギャギャギャギャ──」
まるで怪鳥の鳴き声だ。
五匹が一斉にそばにあった棍棒や石斧のような武器を手に取る。
一郎は、忍び寄って隠れていた岩場から出て、五匹の前に出た。
五匹は目の前だ。
その五匹が一斉に武器を持って飛び出してきた。
両脇のエリカとコゼが、一郎を防護するために少し前に出る。スクルドは一郎の後ろだ。
「いけええっ」
一郎は地面に手をついた。
襲いかかってくる五匹の雌オークに対して、粘性体を地面に沿って飛ばす。
「ギャギャッギャ──?」
「ギャアア、ギャアア──」
「グギャギャアア──」
「ギャガギャギャ──」
「ギャギャギャ──」
五匹が五匹とも、一郎の粘性体に足元を包まれて動けなくなる。
「こんなものかな」
ほっとした。
どうなることかと思ったが、呆気なく無力化することに成功した。
「ご主人様──」
「ロウ様──」
「ロウ殿──」
岩場の左右側から回り込んでいたイットとミウ、そして、ブルイネンが走り寄ってくる。
彼女たちも一郎たちに合流して、粘性体に捕まっていまだに暴れ続けているオーク族に目をやった。
「こ、これが、本当にガドニエル女王様たち?」
ブルイネンが険しい顔をしている。
一郎は、首を横に振った。
「……ここにはいないね。イザベリアン……、ロルリンド……、マリレンド……」
一郎はステータスで知ることができる彼女たちの本来の名を順に口に出す。
ブルイネンによれば、確かに、それは、ガドニエルの侍女たちの名に間違いないとのことだった。
しかし、ブルイネンが呼び掛けても、オーク族たちは大人しくなる気配はない。
ただ、奇声をあげて暴れようとするだけだ。
もっとも、一郎の粘性体はしっかりと彼女たちを捕まえているので、逃げられる心配はないが……。
「……いや、わたしには信じられません。このオーク族たちが、本当はエルフ族たちなどと……」
「確かに、知性の欠片も感じないわね」
ブルイネンの呟きに続いて、コゼも口を開いた。
それは一郎も同じ思いだった。
姿は魔物に変えられていても、それだけのことであり、一郎たちが助けに来たことを教えれば、すぐに理解し合えると思ったのだ。
それに、面識のない一郎たちだけでなく、彼女たちにとって、よく知っているはずのブルイネンもいる。
だが、いまのところ、ブルイネンの呼びかけにも反応した気配はないし、そもそも、言葉を理解している様子もない。
これは、思ったよりも、最悪の状況かも……。
「どうです、ミウ? 呪術を感じますか?」
スクルズがミウに声をかけた。
「は、はい、スクルド様……。あのう……、ロウ様、強い呪術です。隠れていますが、なんらかの闇魔道だと思います」
ミウが一郎に向かって言った。
「よくできました。素晴らしい魔道解析です」
スクルドが満足したように頷いている。
ああやって、真面目なときには、スクルドも、この年齢で神殿長に選ばれるに相応しい高位魔道師としての貫禄と頼もしさを示す……。
だが、とても淫乱なのだ。
一郎はちょっと笑ってしまった。
そのときだった……。
なにかが、岩の洞窟の中から現れる足音があった。
「ご主人様──」
スクルドが声をあげた。
「わかっている──。ガドニエル様だ──」
一郎は叫んだ。
“ガドニエル
オーク・シャーマン(エ**族)、雌
経験人数:男10、女1
状態
魔物化の闇呪術”
まだ姿は見えないが、先にステータスを覗くことができた。
間違いない──。
「ガドニエル様──?」
ブルイネンも叫んだ。
洞窟から、
なにも身に着けていない巨体の雌オーク──。
「ガアアアアアアア──」
凄まじい咆哮だ──。
びりびりと身体が震えるほどの声に、全身が金縛りになったかのように動かなくなるのを感じた。
「うわっ、これ、魔道です──」
エリカが悲鳴をあげた。
そうか──。
オーク・シャーマン──。
つまりは、魔道を遣えるオーク族──。
「拘束を解きます――」
スクルドが叫んだ。
途端に、オークの叫び声が小さくなり、金縛りが解けた。
「ガドニエル様──。俺たちは敵じゃない──。助けに来たんです──」
絶叫した。
そして、同時にガドニエルの足元に向かっても粘性体を飛ばす。粘性体は見事にガドニエルの膝から下を包み込むことに成功した。
やった──。
と思ったが、それは一瞬だ。
「ヒガアアアアア──」
だが、またオークの咆哮がして、一郎の粘性体が弾けるように消滅するのが見えた。
「うそっ」
一郎はびっくりした。
「危ない──」
次の瞬間、一郎はなにかに体当たりされて、横に飛んでいた。
一郎を突き飛ばしたのはエリカだ。
そして、たったいままで一郎がいた地面に、ガドニエルのオークが飛ばした衝撃波が大きな陥没を作っていた。
そして、一郎の代わりになったエリカが衝撃波に巻き込まれて吹き飛んでいる。
「きゃあああ」
「エリカさん」
スクルドが飛ばされるエリカを魔道の膜のようなもので包むのがわかった。
崖に直撃する直前に急速に速度が落ち、エリカがふわりと地面におろされる。
「ミウ、ご主人様についていて」
スクルドが叫んで前に出る。
結界の透明の膜のようなものが前に出現した。
「ロウ殿、あれは本当にガドニエル様なのか──」
ブルイネンも一郎に駆け寄ってきた。
一方で、コゼやイットは、ガドニエルを牽制するように、武器で威嚇しながらガドニエルに接近しようとしている。
「多分、間違いない……。ただし、魔物化が進行している。おそらく、もう、自分のことも、ブルイネンのことも、もちろん、俺たちのことなど、なにもわからなくなっていると思う。呪術で白痴化して、魔物としての知性しか持っていないようだ」
一郎は叫んだ。
それにしても、これでは、ガドニエルを攻撃しないで、無力化するなんてできっこない。
そして、一郎に向かって襲撃する気配だったガドニエルは、さっと体勢を変えて、コゼたちに向かう様子を示した。
「待て、危ない──」
一郎が叫ぶのと、ふたりがオークの大きな腕で弾き飛ばされるのが同時だった。
スクルドの腕がそっちに向く。
さっきのエリカのように、飛ばされるふたりが透明のクッションに守られたように地面に落ちる。
「こらあっ、こっちよ――。そして、ブルイネン、ぼっとしてんじゃないわよ」
起きあがっていたエリカがオークの足元に魔道を飛ばし、オークがコゼたちを追いかけようとするのを威嚇した。
直接にぶつけないのは、一郎の事前の指示を覚えているからだろう。
また、エリカはブルイネンに叱咤の声をかけた。あのオークたちがエルフの女王たちだと認識したのか、明らかにブルイネンの行動は鈍い。
もはや、どうしていいのか迷っている感じだ。
ガドニエルのオークがこっちに振り返る。
「大人しくしなさい――」
スクルドがオークとこっちとのあいだに炎の壁を作った。
雌オークがたじろいだのがわかった。
間隙ができたのを利用して、コゼたちを確認する。
弾き飛ばされたようだが、とりあえずふたりとも起きあがっている。
「ギャガギャガガガガガ――」
「うわっ」
そう思ったら、スクルドの作った炎の壁がオークの咆哮の衝撃波で吹き飛ばされた。
そこから、雌オークの巨体が憎悪の表情をして、突進してくるのがわかった。
「きゃああああ」
魔道をかけるために前に出ていたスクルドが体当たりで飛ばされて宙に舞った。
「スクルド――」
「スクルド様――」
一郎の叫びに続いて、ミウが反応してスクルドに向かって防護魔道をかける。
しかし、その隙を狙ったように、オークのガドニエルが衝撃波を一郎に向かって飛ばしたのがわかった。
「いかん――」
たまたま、一郎の横にいたブルイネンが剣で衝撃波を叩き切る。
だが、すでに第二波が目の前だ。
「うわあっ」
「ぐああっ」
ブルイネンとともに身体を吹き飛ばされる。
衝撃を感じて、目の前が真っ暗になった。