【2025.9.5コミック発売】異世界で淫魔師ハレム【完結】 作:ドン・ドナシアン
目を覚まして小屋の外に出ると、仕掛けておいた罠に兎がかかっていた。
ノルズはさっそく食事の支度にとりかかることにした。
朝食だけじゃなく、今日一日分の食事だ。
鍋に大目に作って、夕食まで少しずつ食べるのだ。
アスカとエマが起き出してくるのは、もう少し陽が明るくなってからだと思う。アスカは基本的には朝は遅いし、エマについては昨日も一日中、体力の限界を越して調教をしてやったので、声をかけなければ昼までだって眠っているに違いない。
食事の支度など、あの奴隷女の仕事だとは思うのだが、あの馬鹿はああ見えて、元々はいいところのお嬢様らしく、まったく料理のようなことができないのだ。
それで、この旅の食事係はノルズということになっている。
食事の支度を始める前に一度覗くと、案の定、アスカは床の上で毛布をかけてしっかりと寝息をかいていて、エマは素っ裸のまま身体を丸めるようにして部屋の隅で熟睡していた。まだ、ふたりとも目を覚ます気配はない。
朝食の準備が終われば、まずはエマを蹴り飛ばして起こしてやろう。
それが、今日の調教の開始だ。
今日はどんな趣向でいこうか……。
あの娘をいたぶり抜く調教のことを考えると、すぐにノルズは、自分の全身がふすふすと、苛烈な欲望と情念に灼け始めるのを感じた。
やはり、自分はどうにも特殊な性癖でありすぎるようだ。
抵抗できない相手を泣き喚かせながら苛めつくし、尊厳という尊厳をとことんすり潰させるとき、ノルズの全身は目くるめく衝撃のようなものに貫かれる。
肉体と心の隅々に、嗜虐の悦びが満ち満ちていくのだ。
昨夜もエマという玩具で愉しんだ。
ほぼ一日中、あの手この手でいたぶり抜いてやったが、最後の責めはくすぐり責めだった。
小屋の真ん中で手足を拡げて動けなくしたエマの裸身をアスカとふたりがかりで徹底的に鳥の羽根で身体をまさぐったのである。
たかがくすぐりだが、度を越すと立派に残酷な拷問だ。
感じさせるくすぐりではない。
全身を痙攣させながら笑い続けるしかない刺激を無理矢理に引き起こすためのくすぐりだ。
やめてくれと笑いながら哀願するエマを許さず、ひきつけを起こして二度も失神したのを電撃で強引に覚醒させて、くすぐり続けた。
最後には失禁どころか、脱糞までしたのだから、後始末も大変だった。
一方で、旅についてはまだ再開のつもりはない。
だから、今日もエマ遊びだ。
気になっているハロンドールの王都の状況は、いまだに靄に包まれたようにぼんやりとしかわからないし、また、ロウたちがいるナタル森林の奥地にあるエランド・シティに関して、不穏な動きの情報がどうしても気になる。
エランド・シティの下層地区と上層地区で、大規模な軍の動きがあったという情報だ。
動いたのは水晶軍とも称されるシティの太守の率いるエルフ軍なのだが、誰かを捕らえようとしていたということまではわかった。
だが、その対象がロウだとしたら……。
どうも、その軍が捕らえようと動いた時期と、ロウたちがエルフ族の都に向かった時期が重なる気がする……。
ロウなのか……。
気になる……。
ノルズは状況の把握を急がせているが、場合によっては、アスカのことは放逐してでも、ロウの救出に向かうことを考えなければならないかもしれない。
とにかく、彼を死なせるわけにはいかないのだ。
絶対にだ──。
彼が与えてくれた命に報いるためのことを行動で返す──。
それが、いまのノルズが生きている意味だ。
あのとき……。
パリスに掛けられた「死の呪い」から無償の行為で救ってくれた……。
そのときに決めたのだ。
この人を生涯にわたって守り続けようと……。
それを決心して、彼の前から逃げ、持っているすべてのものを使って、ロウを陥れる存在を駆除し続けた。
アスカをアスカ城から連れ出して、彼のところに向かわせているのも、そのためだ。
ロウのことを敵視していたアスカが、ロウの淫魔術に捕らわれれば、それでロウの憂いはひとつ消える。
その工作に没頭しているうちに、陰謀好きのパリスが、刺客を送るなどにより、ハロンドールの王都で実力者として頭角を示し始めたロウにぶつかり合う気配を示しだしたので、それにも手を打った。
パリスが手を伸ばそうとしていたエルフの女王のガドニエル、パリスの飼い主である皇帝家の末裔を見張っているタリオ公国アーサーなどに対して、パリスの陰謀について、ノルズが作った組織を活用して情報を横流ししたのだ。
そうやって、パリスがロウのいるハロンドール王国にはあまり目が向かないようにもしたりした。
しかし、ノルズの預かり知らないところで、ロウは自らパリスが現段階でもっとも精力的な活動をしているエランド・シティとナタル森林に向かったのだが、そこでパリス一派と接触をしてしまった可能性がある。
エランド・シティで水晶軍のおかしな動きがあったのが、その兆候だ。
もしも、パリスに目をつけられてしまったのだとすれば、ロウが危険だ。
パリスは闇魔道の天才だ。
ロウという男の能力を知れば、絶対に彼を洗脳するか、あるいは精神的に追い詰めて心を壊すかして廃人にしてしまうかもしれない。
あるいは、これは噂であるが、パリスには能力の高い相手を殺して、その力を自分のものにしてしまうという力があるとも言われている。
ノルズからみても、ロウの能力というのは、とてつもないものである。
あのパリスだったらノルズから簡単に魔瘴石を抜いたり、パリスの施した死の呪いを打ち消してしまうロウの力を手に入れたいと思うのではないだろうか……。
とにかく、もしも、ロウがパリスに捕らわれたという情報があれば、ノルズはアスカを捨てて、彼を助けに行くつもりだ。
アスカをロウに与えられないのは残念だが、ロウが死んでしまったり、廃人になったりしては、ノルズのやっていることは元も子もない。
だから、もう少しここで様子を見る。
そう決めていた。
ノルズは小屋の扉を外から静かに閉め直すと、罠にかかった兎を掴み、首を切断して小屋の横の樹に逆さにぶら下げて、血を抜いた。
そのあいだに、鍋に水を張って焚き火を起こして、取っておいた茸を刻んで煮る。
やがて、水が沸騰してほのかな香りがするようになると、兎を捌いて鍋に放り込む。そのとき、肉だけでなく、内臓も洗って鍋に刻んで入れる。香草も足す。
しばらくすると、すっかりと肉が柔らかくなってきたので、野菜と米を収納魔道で異空間から出して鍋に加えて、さらに煮る。
実のところ、これはロウに貰った力だ。
彼は、抱いた女の能力を飛躍的に上げる力もある。
それは、ひそかにロウの観察を続けていくことでわかった。
どうやら、その恩恵を、ノルズもまた受け取ったみたいなのだ。
従って、こんなことを魔道で自在にできるのも、ロウのおかげというわけである。
ノルズは改めてロウへの感謝の心が沸き起こるのを感じながら、鍋が焦げないようにかき回した。
収納魔道だけでなく、跳躍魔道を駆使できるほどの魔道力や、さらに妖魔を使役する妖術師としての能力だって、ロウに抱いてもらってから、想像を絶するほどの向上をしている。
果たして、どれくらいの恩を返せばいいのだろう。
鍋ができあがった。
ノルズは、小屋のふたりに声をかけようと立ちあがった。
さて、今日のエマへの調教はどういうものにしようか……。
そろそろ、エマへの調教も変化が欲しいところである。
あるいは、男を交えるというのはどうだろうか?
そういえば、パリスの手の者については、ハロンドール王国の反対側の国境付近に使った囮に引きつけられて、かなりの勢力が遠くに離れているのだが、幸いにも、ノルズがこの一帯の周域に蔓延らせている土妖魔が、ふたりほどの男がこの周辺をうろうろとしている気配を掴み取っていた。
もしかしたら、そろそろ、パリスの手の者の一派が、この付近にもやって来たかもしれない。
このまま、妖魔に殺させてもいいのだが、その前に生け捕りにして、ここに連れてきて、エマへの嗜虐の道具として使ってもいいかもしれない。
用済みになった後で殺せばいいし、男が加わわることで、責めに変化がつくというのは、なによりも、あの淫乱魔女が悦びそうだ。
しかし、何よりも愉しいのは、もうこれで今日は調教を終えてやると告げておいてから、安堵して休もうとしているのを無理矢理に引き起こして調教を再開することである。
あの絶望的なエマの表情は、なによりもノルズの欲情を刺激する。
「飯の支度ができたよ。起きておくれ──。あれ?」
小屋に入って声をかけると、果たしてアスカは起きていて、すでに魔道で洗顔などを終わって、髪も綺麗に整え終わっていた。
「おはよう、ご主人様。早いね」
「お前ほどじゃないけどね」
ノルズが挨拶をすると、アスカはにっこりと微笑んだ。
振り返って、反対側の部屋の隅で寝ているエマの腰を蹴りあげる。
「ひいっ、あっ、お、おはようございます」
エマが悲鳴をあげて跳び起きる。
「おはようじゃないよ。ぼけっとすんじゃないよ。最下級の奴隷の分際で、このあたしに食事の支度の全部をやらせるつもりかい。とっとと起きて、椀に入れて運んで来い。そのくらいできるんだろう」
怒鳴りあげた。
エマは恐怖で顔を引きつらせながら、裸のまま外に出ていく。
このエマには、もう数日間、服を取りあげて渡してない。
逃亡の防止というのもあるが、まあ、ただの嫌がらせだ。
エマの衣類は、ノルズの収納魔道でエマに手が出せないように、しっかりと保管している。
「今日も旅は始めないのかい、ノルズ?」
エマが小屋の外に出ていくと、アスカが声をかけてきた。
アスカは、なぜか右手でじっと胸を押さえる仕草をしている。
心の臓でも痛いのか?
まあ、そんなこともないだろうが……。
「まあ、もう少しだね。数日は我慢しておくれ。あんたを追いかけている追っ手は、もう少しで完全に反対側の国境に引きつけられるはずなんだ。それまで、ここで大人しくして、こっちの気配を絶ってしまう。それをしてるのさ」
「ほう……」
「安全になれば、すぐに行く。そしたら、約束通りに、あんたをハロンドールの王都にいる呪術師のところに連れていく。その男なら、あんたの身体に入れられている呪い玉とか何やらは、簡単に取り出せるさ」
アスカは高い能力を持つ希代の魔道遣いであるが、パリスによって呪術にかけられて、彼女の命を脅かす「魔瘴石」や、アスカをして、パリスやその手の者に攻撃ができないように呪術をかけている「呪い玉」と称するなにかを身体に入れられている。
この旅にアスカを誘い出すことができた口実は、それをアスカの身体から抜き取ることのできる呪術師を紹介するということだ。
まあ、その呪術師こそ、ロウのことなのだが、魔道契約で約束をさせているので、ロウの前にアスカを連れていけば、アスカはノルズとの契約に従って、ロウに一度抱かれるしかない。
抱かれてしまえば、あとはロウのものだ。
この女は、ロウに逆らえない淫魔の縛りに捕らわれる。
それでロウに恨みを抱いているこの女は終わりだ。
「それなんだけど、予定を変更するよ、ノルズ。先にイムドリス宮に向かうよ。あそこに、エルフの女王がいる。ちょっと挨拶をしたいと思ってね」
アスカが言った。
「イムドリス宮って……」
一瞬、なんのことかわからなかったが、イムドリス宮というのは、ナタル森林の中心にあるエランド・シティから入る女王のいる結界世界のことだ。
ノルズは、長い期間ではなかったが、その女王のそばに仕えたことがあるので知っている。
だが、イムドリス宮に、この魔女がなんの用事があるというのだ?
まあ、とにかく、この魔女の気紛れに任せるわけにはいかない。
旅の目的地をエランド・シティに変更することも視野には入れていてはいたが、それを決めるのは、あくまでもノルズだ。
どんな小児病的な理由で思い立ったか知らないが、勝手なこと決められては困る。
「冗談じゃないよ。段取りもあるんだ。そう簡単には予定は変えられないね……。まあ、数日待っておくれ。とにかく、イムドリス宮やエランド・シティの状況も探るから」
とりあえず、そう言った。
あるいは、予定を変えて、ノルズたちがエランド・シティに向かうということもあり得るので、そのときには、この魔女の気まぐれを利用させてもらうことにしてもいい。
だが、いまはまだ、そのときではない。
「状況が変わったのさ。ずっと、パリスやパリスの手下に手が出せず、わたしがそっちに向かったところで、ガドニエルを助けることはできないからね……。だから、呪いを解くことができるのであれば、それを解いてからでもいいと思っていた。しかし、それを先にしなくてもよくなったかもしれない……」
「ガドニエル?」
エルフ族の女王ことか?
だが、やけに親し気な口調だ。
ノルズの心に疑念が湧く。
「パリスの呪いさえ消滅したならば、このわたしが引導を渡してやる。ナタルの森に手を出した害虫どもにね……」
アスカが不敵に微笑んだ。
ノルズは首を傾げた。
とにかく、なにを言っているかわからない。
状況が変わったって?
なんの?
「あ、あのう、準備ができました。お待たせしました」
エマが戻っていた。
振り返った。
木の板に載せた三個の皿に注いだ鍋料理を持っている。
扉のところで、素っ裸の彼女が当惑したように立った。
ノルズとアスカの会話に険悪なものを感じたのかもしれない。
「そこに置いときな、エマ。先に腹に食事を入れると、拷問で戻したりするかもしれないしね。食事前にひと遊びと行こうか……。ノルズ、お前には訊きたいことがある。まずは、パリスたちがナタルの森でなにをしようとしていたか、お前ならある程度知ってんだろう。それを語ってもらおうかね……。まあ、とにかく、その前に調教を受けな」
アスカが口元の微笑みを絶やさないまま言った。
「調教?」
知りたこいとがある?
それは結構だ。
いくらでも教える。
あいつのナタルの森における企みのことなら、すっかりと調査が終わっているが、別段、アスカに隠すことじゃない。
関係ないから口にしなかったが、知りたいなら言う。
しかし、調教?
とにかく、ナタルの森でパリスがやっていたのは、この森を瘴気で満たして、魔獣や魔族を呼び起こして、この森を魔族の地にするということだ。
そして、その魔族軍団を三公国やハロンドール王国に差し向ける──。
冥王の復活とともに、パリスが考えていた暴挙の謀略である。
「調教だよ。調教」
アスカがもう一度、冗談めかしく言ったが、ノルズはむっとした。
「調教ってなんだい──。とにかく、なんで、あたしが知ってんだい。いい加減にしておくれ。それよりも、この旅の予定については、あたしに任す約束だ。さもないと、身の安全は保障できないよ。パリスの追っ手と戦っているのは、このあたしなんだ。パリスの手の者に攻撃できない、あんたの代わりにね」
ノルズははっきりと言った。
いずれにしても、アスカのノルズに対する命令口調の物言いが気に入らない。
だいたい、なにが調教だ──。
ロウにアスカを差し出すために、一時的にこの女に隷属することを受け入れたが、どうせ、追っ手になにもできないアスカは、ノルズに逃亡の手助けを頼るしかなく、だから、ノルズにはアスカは手を出せない。
そう考えての隷属受け入れだ。
心の底ではアスカのことを“ご主人様”などとは思っていない。
そもそも、ロウを敵視している相手だし、ロウを悦ばせるための「捧げ物」に過ぎない。
「捧げ物」の分際で、ノルズに調教するだと──?
だんだんと腹がたってきた。
「だから、状況が変わったと言っただろう、ノルズ。もう、お前だけの力に頼る必要がなくなったのさ。お前の妖魔を操る力で、パリスの子分の連中を追い払い続けてもらっていたけど、たったいま、このわたしも、あいつに力をもらっている存在がこの周囲に近づけば、問答無用で攻撃魔道を加える結界を広く張り巡らせた。どうやら、パリスの呪術が解けたのさ」
「呪いが解けたって?」
「ああ、そうさ……。さもなくば、わたしが、あいつらに悪意ある魔道を向けられるわけがない。でも、現にできている。間違いない……。おそらく、パリスは死んだよ。仮の身体だけどね。だから、わたしの魔道を縛っていた、あいつの部下に手が出せないという呪術もなくなったというわけさ」
アスカはにやりと笑った。
ノルズは、呆気にとられた。
パリスが死んだ?
あの絶対に死にそうにない男が死んだというのは驚きだが、だいたい、どうしてそれがわかるのだろう?
「どういうことだい、ご主人様? わかるように説明してくれないと、いくらなんでも理解できないよ。パリスが死んだって、なんでわかるんだい──?」
思わず怒鳴り声をあげた
しかし、アスカは動じる様子もない。
そして、右手で自分の胸にそっと触れる仕草をする。
「ここには、パリスのもうひとつの命がある。だから、わかるのさ……。あいつの魂は消滅した。わたしの身体には、あいつにもしものことがあったときに、このわたしの身体を乗っ取れるように、あいつの魂の欠片が埋められているんだよ。そして、いま、あいつの仮体が死んだらしく、ここに残っているパリスの欠片が、わたしを乗っ取ろうとうごめいている……。わたしを殺したいとね……」
「もうひとつの命? 仮体? パリスの欠片? さっぱりとわからないよ──」
「だから、わたしが死ねば、ここにいるあいつの魂がわたしの身体を乗っとるのさ……、だから、なんとか死んで欲しくて暴れ出したよ。もっとも、わたしの力があれば、抑えこむのは造作もないけど」
「身体を乗っ取るって、なんのことだい?」
わけがわからなかった。
ただ、ふと思いついたことがある。
そういえば、闇魔道遣いの魔道に、自分の魂を分離するというものがあるというのは耳にしたことがある気がする……。
禁忌の魔道のひとつのはずだが、魂を分けておいて、もしも、死んだときにあらかじめ分離していた魂側に精神を移動させて、それで復活するのだ。
ただし、分離した魂の置き場所は、生きた人間でなければならず、その欠片が保管されていた存在に、精神が憑依して身体を乗っ取るという魔道だったと思う。
アスカの身体に、パリスの魂の一部が……?
しかし、そう考えると辻褄は合う。
アスカは、自分の身体に埋められているものを「魔瘴石」ともうひとつ「呪い玉」だと称していたが、その呪い玉というのがパリスの「命の欠片」であるのならば、アスカをして、パリスやパリスの部下に攻撃を加えられないようになっているのは納得だ。
埋められている魂の一部もパリスだ。
パリスが、パリス自身を脅かす行為を拒絶するのは当然である。
「それはいいのさ。いずれは、外に出して破壊してしまえばね……。わたしが死ななければいいだけの話だし。それよりも大切なのは、わたしがパリスの部下に手を出せるようになったということさ」
「手を出せるように……。もしかして、連中に掛けられていた呪いが解けたのかい?」
「パリスの仮体が死んだようだね……。それで、いまは一時的に呪術は解除状態だ……。パリスがこのわたしの故郷に手を出していたことには薄々感づいていた。でも、なにもできないし、下手をしたら操られて、利用されるから、知らないふりをしてたんだ。だが、手が出せるようになったんなら、話は違う。ナタルの森に手を出す連中は、どいつもこいつも八つ裂きにする──」
「ちょ、ちょっと……。なんでも教えるけど、とにかく、もう少しわかるように説明を……」
「話は後でいいと言っただろう。まずは調教だよ、ノルズ──」
「はああ?」
「さあ、ノルズ、直立不動で真っ直ぐに立て。いかなる抵抗も禁止する。魔道も妖魔道も勝手に遣うな。これは絶対の命令だ」
アスカの言葉とともに、ノルズに刻まれている隷属の刻印が効果を及ぼし、ノルズは身体を真っ直ぐにして動けなくなった。
突然のことに、ノルズは恐怖よりも先に呆然としてしまう。
「ど、どういうこと……? な、なにを……」
「別にどうということはないさ。ただ、折角の機会だから、愉しいことをしようと思ってね。どうにも、お前は、わたしに隷属したくせに、まったく奴隷のつもりはないだろう? だから、一度、奴隷の精神を刻み込んでやるよ。ナタル森林について訊ねるのはそれからだ……」
すると、この魔女は愉しそうな笑みを浮かべて、裸で突っ立っているエマにちらりと視線を向けた。
嫌な予感がした。
冷たいものがノルズの背に流れる。
「……エマ、それを置いて、こっちにおいで……。ノルズには、お前の言葉に逆らえないように、命令を与えてやるよ。だから、こいつを徹底的に調教しな。心の底に服従の心を叩き込むんだ。こいつを責めたいだろう?」
アスカがにやりと微笑むのが見えた。
ノルズはぞっとした。
「えっ、もしかして、本当に、このわたしに、ノルズ様……いえ、ノルズを責めさせてもらえるんですか?」
動けないので首を向けられないのだが、エマは歓喜に震えているようだ。
ノルズとアスカの会話のあいだ、ずっと食べ物を持ったまま立ち尽くしていたのだと思うが、それをそっと床に置く気配が伝わった。
「ふ、ふざけるんじゃないよ──。訊きたいことがあるなら、命令しな。あたしは、あんたの命令には逆らえないんだ。なんだって正直に喋るしかないだろう──。こいつに、このあたしの調教をさせるなんて、くだらないこと言うんじゃないよ」
かっとして喚いた。
しかし、目の前のアスカの顔が嗜虐の笑みで歪む。
「まあ、そうなんだけどね。その方が手っ取り早いしね……。でも、それじゃあ、面白くないだろうさ。だから、まずは、調教と行こうかと思ってね。今更、ガドニエルのところに行くのは、一日や二日遅れてもどうということはないだろうし、なによりも、責める者と責められる者……。これが逆転するということほど、愉しい見世物はないよ」
アスカが言った。
ノルズの身体に本物の恐怖が走る。
よりにもよって、なんという気まぐれ──。
この魔女め──。
「……ノルズ、お前に命令する。エマの言葉は、わたしの命令と同じ、絶対の命令だ。一切、逆らうことを禁止する……。め、い、れ、い、だ」
身体をアスカの「命令」が操るのがわかった。
本当にエマの言葉に逆らえなくなった……。
それがわかる……。
「へへへ、じゃあ、始めるわよ、ノルズ……。いや、豚……。まずは、服を寄越しなさい。豚が服を着る必要はないしね。その服はわたしがもらうわ」
冷酷な笑みを浮かべているエマがノルズの前に回って来て言った。
ノルズの手は勝手に身に着けているものを脱ぎ始める。
必死になって阻止しようとしたが、抵抗のしようがない……。
ノルズの魔道だって、すべて途中で遮断されてしまう。
遮断をするのは、ノルズ自身の力だ。
エマに逆らおうとする意思そのものが、ノルズの自らの力で阻止されるのだ。
「ねえ、アスカお姉様、この豚に鼻輪をつけたいです。やっていいですか?」
エマが甘えるように言った。
「好きにしな。わたしの魔道で、お前の魔道能力を一時的に引きあげてやるよ……。そういえば、あのエルスラも、こうやって魔道能力をあげてやったけねえ。懐かしいねえ……。それはともかく、エマ、淫具については、そいつに命令するといい。ノルズは収納魔道も遣える。そこになんでもかんでも置いていると思うよ」
アスカが笑った。
それとともに、確かにエマの身体に魔力が漲っていくのがはっきりとわかった。
また、そのときにはノルズは最後の下着の一枚をエマに渡していた。
ノルズは素っ裸になった。
「動くな──。じゃあ、鼻輪を出せ。その代わりになるものでもいいわ」
エマの言葉で、ノルズは、魔道で親指の先ほどの径の金属の環を取り出していた。
即座に、エマから取りあげられる。
「両手を背中に回せ、豚」
エマの言葉が終わるときには、鼻の中に魔道が走った。
気がつくと、エマがとりあげた金属の環は、ノルズの鼻に嵌まってしまっていた。
「いい顔になったじゃない、ノルズ。お似合いよ」
エマが心の底から愉しそうに笑った。
そのエマはとりあえず、ノルズが身に着けていたものを着ようと動いている。
「ちっ……。お、お前、こんなことをして、後でどうなるか……」
ノルズはあまりもの怒りに我を忘れそうになって、口走った。
「なんですって──」
次の瞬間、もの凄い勢いでエマの蹴りが腹に飛んできた。
「ふぐうっ」
がくりと膝が折れかけるが、ノルズは身体に力を入れて、それに耐えた。
「腹から力を抜くのよ。命令──」
エマが部屋の中にあった棍棒のようなものを掴んで言った。
ノルズはすっと息を吐いてしまっていた。
「ほらっ」
エマの持った棒がわざと無防備にさせられた腹を抉る。
「あぐうっ」
一気に四肢から力が抜けて、ノルズの身体は今度こそ跪いてしまった。