【2025.9.5コミック発売】異世界で淫魔師ハレム【完結】 作:ドン・ドナシアン
48 女副ギルド長の心配と忠告
「確かにロンド村からも依頼達成を確認しています。ご苦労様でした。報奨金の金貨十枚です、ロウ殿。それと“特異点”の発見と封印についても、村からの連絡で承知しています。これについては、王宮政府から特別金の金貨十枚が出ています。あわせて、金貨二十枚です──。お確かめください」
王都ハロルドの冒険者ギルドの受付に、任務終了の報告に向かうと、すでに依頼主だったロンド村の長からクエスト完了の連絡がしてあったらしく、すぐに報奨金の話になった。
受付のマリーの並べた金貨二十枚に、周囲の冒険者からどよめきと羨望の声がした。
これで、ギルドに属してからのクエストは、デルタ・ランクで受けたふたつを含めて、六個目になるが、ひとつのクエストでこれだけの報酬を得たのは、一郎も初めてだ。
ほかの冒険者がうらやむ声が上がるのは無理もないと思った。
今回の依頼は、王都から一日程度の距離があるロンド村の裏山に凶暴な野獣が出没するようになったから退治して欲しいというものだった。
すでに十人ほどの人死にも出ており、山に入れなくなったロンド村では深刻な事態になっているようだった。
一郎はその依頼を受けることにして、一日かけて、そのロンド村に行った。そこで事情を聞き、さっそくその問題となる裏山に入った。すでに村では山には立ち入り禁止の処置がなされており、余人とすれ違う可能性がないことを確認した一郎は、魔妖精のクグルスを呼び出した。
クグルスによれば、山全体に薄く瘴気が漂っているということだった。
どうやら、村人たちを困らせていた野獣の正体は、単なる野獣ではないようだと思ったのはそのときだ。
瘴気で溢れているということは、魔界からやってきた生物がそこにいる可能性が高い。
クグルスは、この山に潜んでいるのは魔獣ではないかと意見を言った。
それについては、エリカも同意した。
野獣ではなく、魔獣ということになれば、パーティ・ランクがブラボーの一郎たちには、本来は荷が重い。
魔獣と確信した時点で、クエストを中止して引き返すという選択肢もあった。だが、一郎はクエストを継続することにした。
魔獣というのは、かつて冥王と魔族とともに封印された魔族界に属する生物であり、すべての瘴気を消滅させ、魔族ごと異界に封印してから、この世界には存在するはずのない過去の生き物だ。
しかし、魔妖精のクグルスや冒険者としての経験のあるエリカによれば、ここ最近、魔族界とこの人族界の接触点が増えていて、そこから魔族界にある瘴気がこの世界に漏れ、こちら側に魔獣が出現することが珍しくないということだった。
その瘴気の漏れ出る場所を、こっちの人族たちは「特異点」と呼んでいる。
特異点は、なんらかのきっかけで、人族界にできあがった異界との出入口ということだ。
そこから瘴気が噴き出し、その密度が濃くなれば、異界に封印されている生き物たちは、次々にこっちの人族界にやってくることになる。
たとえば、ユグドラが制御していた「ルルドの森」がそうだ。あそこは瘴気が溢れかえり、死霊族、すなわち、アンデッドモンスターの巣窟のようになっていた。
洞窟などに特異点ができあがると、瘴気の密度が一気に高まるので、その洞窟には、異界からやってきた魔獣が棲み付いて、異界の凶暴な生物で溢れかえることになる。
そんな場所をこっちの人々は、“ダンジョン”と呼ぶ。
基本的に魔獣たちは、瘴気の濃い場所から出ることはないが、まれにその外に彷徨い出た魔獣が人族を襲うこともある。だから、そんなダンジョンや魔族退治は、冒険者ギルドを通じて、たくさんの依頼が入っている。
いずれにしても、異界の生き物は瘴気のない場所では、長く生きられないものの、瘴気のある場所であればどこでも拡がってくる。また、魔獣も瘴気を帯びており、魔獣そのものが瘴気のもとになることもあるので、魔獣を放っておくと、さらに瘴気が拡大して、どんどんと異界の生物が入り込むことになる。
しかし、人族は瘴気そのものを感じることは難しいし、特に害になるということはない。
だから、わかりにくい。
とはいえ、まだ瘴気の薄いうちは、魔界の生物のうち、比較的力の弱い生物しかやってこないからいいのだが、時間が経って濃くなれば濃くなるほど、凶暴で力の強い種がやってくる。
最悪は災害級の凶悪魔獣の大発生だ。
いや、最悪は異界への綻びがもっと拡大し、魔獣どころか、魔族や冥王そのものが、こちらに出てくることだろう。
そうなれば、もう歴史の彼方の冥王戦争の再来ということになるということだ。
いずれにしても、できるだけ早く瘴気を見つけ、まだ瘴気の薄いうちに、その場所で瘴気を異界から呼び込んでいる特異点を封印し直すことが重要だ。
だから、特異点封印には、冒険者ギルドからのクエスト達成金の報奨のほかに、王国そのものからも褒賞が出るのだ。
ところで、瘴気のないところでは、長く生命を保てない魔族の住人の例外が、クグルスのような淫魔族だ。
淫魔族は、かつてにおいても、魔族でありながら、瘴気のない場所に生息し、人族界の男女が発する淫気というエネルギーを餌とするのだそうだ。
従って、淫魔族というのは、ほかの魔族とは異なり、完全に封印された種族というわけではなく、ある程度は人族界に残っているらしい。クグルスのような魔妖精は有名らしく、その大きさから、すぐに魔族とわかるが、淫魔族の中には、大きさや外見が人族と大差がないものもいるようだ。
そういうものは、人族の中に混じっていても、なかなか発見することは難しいとも言っていた。
また、冥王とともに封印された魔族に対し、冥王戦争で人族に従い、この人族界に接触を保つ別の異界に移住をした種を「妖魔」と呼んだりするらしく、色々と複雑だ。
ともかく、瘴気を容易に感じることのできるクグルスの存在により、魔獣の居場所を見つけるのは難しくはなかった。
一郎たちは、捜索開始の最初の一日目にして、魔獣に遭遇した。
果たして、その山を徘徊していたのは、「ガリス」という巨大な鷹の身体にライオンの顔がある凶暴な魔獣だった。
それが三匹──。
その巣も見つけた。
そして、クグルスを含む三人の性奴隷の活躍により、かなり呆気なく三匹とも退治することができた。
例によって、ほとんど一郎が活躍できなかったのは言うまでもない。
さらに、一郎たちは魔獣退治に引き続いて、瘴気が溢れる原因である「特異点」そのものも見つけて、封印することに成功した。
異界と人族界を結ぶ特異点を封印するには、特異点を保持しているエネルギー体である「
特異点には、必ずその結晶体ができる。
それを壊せば、特異点は消滅するのだ。
魔瘴石は、路傍の石の如く、特異点の発生した場所に無造作に地面などにある場合もあるし、出現した魔獣が魔瘴石を喰らって体内に収めている場合もある。
魔瘴石を喰らった魔獣は、大きく力を増大するので、それを退治するのは容易ではない。
いわば、一郎が元の世界でやっていたゲームにおける「ボスキャラ」のようなものだ。
ともかく、ガリスという魔獣が出現したということは、どこかに特異点の象徴である魔瘴石があるということだ。
ガリスたちのどれも、魔瘴石を喰らった形跡はなかったので、どこかに存在すると考えた。
それはすぐに見つかった。
魔瘴石は巣のそのものにあった。
一郎が必撃の剣で破壊して、その山に漏れていた「特異点」を封印することに成功した。その証として、魔瘴石の欠片をロンド村の長に渡したのだ。
ロンド村の長は、自分たちの暮らす、すぐそばに特異点が出現していたと知って驚愕していたが、それも破壊されたとわかり、本当に安堵した。
一郎たちは歓待を受け、翌日の今日、また一日かけて戻ってきて、ここにいるということだ。
そのあいだに、あのロンド村から魔道通信で特異点発生とその封印が報告されたのだろう。
一郎たちは、それに対する王宮からの褒賞を本来の報奨金に追加されたのだ。
「金貨はどうなさいますか? このままお持ち帰りに? それとも、ギルドの契約している両替商に預けますか?」
受付の女性が言った。
両替商というのは、一郎の世界でいう銀行のようなものだ。
ただし、利子はつかない。
しかしながら、物騒なこの世界で大金をずっと持ち歩くのは危険であるので、その保管をしてくれるのが両替商だ。ひとつの両替商がなんらかの理由により、その預かっている金を奪われたりしても、両替商は全世界にギルドが拡がっているので、そのギルドが肩代わりしてくれるので安心だ。
また、「手形」という魔道により、全土に広がる両替商ギルドのどこでも預けた金を受け取ることができる。
なかなかに便利な存在なのだ。
「両替商で頼みます」
一郎が言うと、受付の女性が水晶玉のようなものを取り出して、テーブルの上に置いた。
一郎は右手を出すとともに、自分だけでなく、エリカとコゼにも右手をかざさせた。
この水晶玉に手をかざすことにより、魔道が刻まれて、預けた金貨を受け取ることができるのが、この三人のいずれかに限られるのだ。
これが「手形」だ。
無論、この受付嬢のマリーも魔道遣いだ。
さすがはギルドに仕える女性であり、受付嬢であっても、魔道使いのレベルは“10”もある。
相当の能力を持った魔道遣いだ。
そのとき、ギルドの待合ロビーの奥の部屋の扉が開き、副ギルド長のミランダが出てきた。
外見は童女だが、小矩族のドワフ族であり、実際には年齢は六十に達するベテランの女性だ。
ミランダは、いつものように身体の線にぴったりの革の上衣とズボンの上下を身に着けていた。ボンテージファッションだ。
このミランダとは、「歌姫事件」のときが最初だったから、そろそろ出逢ってから一箇月になる。
この一箇月、一郎とエリカとコゼのパーティは、立て続けに大きな依頼を受け、なぜか、その都度ミランダが対応していたので、結構頻繁に会っている。
そろそろ、打ち解けもしてきた感じだ。
だから、一郎には、なぜミランダが、こんなセクシーさを強調したような服装をしているかわかってきた。
ミランダは、どうやら自分がドワフ族であり、しかも童顔で、どうしても年齢が低く見られるのが嫌なようだ。
それで敢えて、あんな服装をしているらしい。
つまりは、あれは劣等感の表れなのだ。
しかしながら、何度見ても、一郎はミランダを“小学生”のようにしか思えない。
異常に乳房の大きい可愛らしい小学生だ。
一郎は思わず出た笑みを手で咄嗟に隠した。
「飛ぶ鳥を落とす勢いとはこのことかしら──。これで六個目のクエスト成功になるわね、ロウ、エリカ、コゼ──。しかも、今度は特異点の封印付きとはね……。やっぱり、あななたちはただ者じゃなかったわ。さあ、
ミランダがにこにこしながら言った。
「ランク昇格……、ですか?」
エリカが驚いた口調で言った。
「そうよ。
ミランダが示したのは、ミランダが出てきた副ギルド長室ではなく、アルファ・ランク以上のパーティにだけ使用が許されている個室だ。十部屋程度準備してあり、空いていれば、アルファ・ランクと
ミランダは、その空き室の一室に招き入れてくれたのだ。
一郎たちはその部屋に初めて足を踏み入れた。
広くはないが、狭くはない。
中央に向かい合う肘掛付きの長椅子があり、その真ん中にはテーブルがある。
また、壁には書籍がびっしりと並んでいた。
「……地政学、薬学、生物学……それに、著名なクエスト攻略の記録……。ロウ様、これまでに集められたギルドの資料のようです。これは大変に貴重なものだと思います」
一郎が書物に視線をやっているのに気がついて、エリカが感心したようにささやいた。
「魔道がかかっているので、この部屋から持ち出すことはできないけど、アルファ・ランク以上の冒険者は無料で読めるわ……。まあ、有能な冒険者に対するギルドからの優遇措置のひとつね」
ミランダが付け加えた。
もっとも、一郎はこの世界の文字の読み書きはまだできない。
奴隷あがりのコゼもそうだ。
三人の中で文字が読めるのはエリカだけであり、そういう点ではなにかの調べものをするときには、エリカに頼り切りになっている。
ミランダに誘導されて、向かい合う横長の肘掛け椅子に四人で腰かけた。一郎とミランダが向かい合うように腰かけ、一郎の横にエリカとコゼが座った。
「おめでとう──。あなた方は、これでアルファ・ランクよ。申請すれば、定住権ももらえるわ」
ミランダがにこにこしながら、卓の上に三個の首飾りのメダルを置いた。
一郎たちは、首にかけているブラボー・ランクであることを示す銀色のメダルを外してミランダに渡し、テーブルの上の金色のメダルを首にかけた。
「卓の上の鈴を鳴らせば、給女が来るわ。簡単な食事や飲み物なら準備できるわよ。こっちは有料だけどね」
ミランダがそう言いながらテーブルの上の鈴を鳴らす。
あらかじめ準備してあったらしく、すぐに給女が盆に四つの飲み物を載せてやってきた。
一郎たちの前に順番に置かれる。
温かいはちみつ酒のようだ。
「今日はあたしのおごりよ。乾杯しましょう」
ミランダが陽気に言った。
しかし、一郎は魔眼の力で、すぐに目の前に置かれたはちみつ酒の不自然さに気がついた。
どうやら、なにか一服盛ってある。
ミランダが、一郎たちに、ひそかに薬物入りの飲み物を口にさせようとしていることには驚いた。
ただ、毒の類いではないようだ。
その薬物の効果の内容もわかった。
はちみつ酒を運んできた給女のステータスを垣間見ることで、薬物入りの飲み物が、給女の「装備」として表現されたのだ。
だから、わかった。
一郎は腰にさげている必撃の剣の鞘を留めている紐をわざと外した。
大きな音をたてて、剣が床に落ちた。
「わっ──。な、なんですか?」
エリカが驚いたような声をあげた。
ミランダも声こそ出さなかったが、視線は完全に音がした床に向かった。
一郎はすかさず、自分の目の前にあったはちみつ酒とミランダの前のはちみつ酒を入れ替えた。
「すみません。紐が緩んでみたいです」
一郎はわざとらしく照れ笑いをして頭を掻いてみせた。
そして、床から剣を拾って腰掛けている椅子の上に引きあげる。
「じゃあ、乾杯しましょう」
一郎ははちみつ酒を手に持った。
持っているのは、本来はミランダの前に置いてあったはちみつ酒だ。
ミランダはすり替えられたことには気がつかなかったようだ。
四人のコップが真ん中で合わさる。
そのとき、コゼが悪戯っぽく微笑んだのがわかった。
コゼは一郎が杯を入れ替えるのを見ていたようだ。
一郎も微かな微笑みでコゼに返した。
エリカにも警告してやりたいが、それをすると、すり替えたのをミランダに悟られてしまう。
まあいい……。
命に別状のある薬物ではなさそうだし……。
ミランダは自然な仕草を装ってはちみつ酒を口にする。ただし、ミランダが口にしたのは、本当は一郎の前に置いてあったはちみつ酒だ。
一郎も飲む。
しかし、これはミランダの前にあったものであり、なにも入っていないことはわかっている。
コゼは一郎のやったことで、なにかに気がついたのだろう。
一郎が見る限り、飲んだ振りをして、そのまま杯を巧みに背中側に回して、少し中身を減らした。
エリカはなにも気にせずに、口にしたようだ。
「さて、ところで、ミランダ、俺たちの飲み物に、なぜ薬剤を混ぜたりしたのか教えてもらえますか? さしづめ、告白剤という魔道薬のようですね」
一郎は言った。
ミランダがぎょっとした表情になった。
「こ、告白剤?」
エリカが叫んで立ちあがった。
「な、なんで……? こ、これは絶対に見破ることのできない特殊な魔道がかかっているのものなのに……」
一方でミランダは、びっくりしたように目を丸くしている。
しかし、次の瞬間、その口が一度閉じて、すぐに再び開く。
「……つ、次のクエストの条件として、どうしても、あなた方の……、特に、ロウの性質について確認する必要があって、それで、やむなく……」
ミランダがそれを告げ、今度こそ、ぎょっとしたように顔色を変えた。
告白剤の効果により、さっきの一郎の質問に対して、ミランダの口が勝手に言葉を発したのだろう。
ミランダは驚いた表情になった。
「エリカ、座れ。別に毒じゃない──。おそらく、一時的に影響を与えるだけの軽いものだ──。それにしても、なるほど、ミランダが口にした通り、絶対に見破ることができないというのは本当なんだね。なにしろ、それを仕掛けたミランダ自身が、告白剤入りのはちみつ酒を口にしたことを見抜けないんだから……」
一郎はくすくすと笑った。
「い、いったい、どうやって……。あっ──。さ、さっき、あなたが剣を落としたときに……」
ミランダがはっとしている。
そして、失敗したという顔になる。
「あ、あたしとしたことが、とんだ間抜けね……」
ミランダは口惜しそうだ。
「それにしても、俺の性質を知りたいというのはどういうこと、ミランダ? あなたに隠し立てをするつもりはない。普通に訊ねれば、なんでも教えるつもりはあるよ」
一郎は言った。
もっとも、それは方便だ。
実際には、一郎には口にすると都合の悪いことがたくさんあり、告白剤などというものを飲まされて、根掘り葉掘り訊ねられるのは都合が悪い。
知られるわけにはいかないことのひとつは、一郎が異世界人であるということだ。
エリカには、召喚された異世界人に対する侮蔑意識は高いから、絶対に口にするなと忠告されている。
それから、魔眼保持者であるということ。
エリカとコゼには、一郎の淫魔術のことも、魔眼のことも説明しているものの、誰でも自分の能力や年齢や名前が覗き見されていると知れば気持ちが悪いだろう。
そもそも、魔眼という能力がこの世界の神話にしか出ないような伝承の能力だ。
そんなものを一郎が保持していると世間にもれれば大変なことになる。
さて、その魔眼だが、なかなかに便利な能力だ。
武器としてなにかを装備していれば、それを隠していてもわかる。その武器を持った状態での「直接攻撃力」の数値が読み取れるのだ。
たとえば、ミランダは、いまはなにも装備していない。
だが、直接攻撃力は“800”もある。
弓の達人のレベルのエリカが弓を装備したときの直接攻撃力が“700”であり、アサシンだったコゼが両手に暗殺用の暗器を持ったときの直接攻撃力は“700”だから、素手で“800”というのも、相当の怪力と体術の猛者ということだ。
一郎など、片手で首の骨を折るに違いない。
さすがは、怪力で知られているドワフ族というところだ。ギルドの職員になる前は、シーラ・ランクの歴戦の冒険者だったという話だったから、女だてらにかなりの活躍もしたのだろう。
しかも、一郎には、相手が妙齢の女であれば、その女性の性歴や身体の感度、感じやすい身体であるのか、そうでないのかなどが丸わかりなのだ。
たとえば、目の前のミランダなどであれば……。
ミランダ
ドワフ族、女
副ギルド長(冒険者ギルド)
元冒険者
年齢60歳
ジョブ
ギルドマスタ(レベル30)
戦士(レベル40)
魔道遣い(レベル5)
生命力:200
直接攻撃力:800
魔道力:100
経験人数:男10
淫乱レベル:B
快感値:300(通常)
状態
告白剤の魔毒
……となる。
これまでに身体を合わせたことのある男は十人。
淫乱レベルは“B”──。
一郎の魔眼によれば、淫乱レベルは、エリカのように、特に感じやすい身体であれば、“S”と表現されるし、それに次ぐのが、“A”、そして、“B”、“C”、“D”の順になる。“B”というのは、やや感じやすいという感じだ。コゼも、最初はDだったが、いまは“B”だ。
一度だけ、“E”という女に接したことがあるが、これは「不感症」レベルだと一郎は思っている。
また、ミランダの「快感値」は“300”──。
この数値は、どれくらい愛撫に弱いかという指標になり、この数値を基礎数として、女が淫情を覚えると、数値は下がり始める。
だから、エリカは、通常値が“100”だが、これはちょっとでも触れれば、たちまちの股間に蜜が溢れてしまうという性質となる。
ミランダの“300”は、まあ女としては、人並みだろう。
コゼもかつては、“700”だったが、いまは、この基礎数が“300”になっている。
この数値は、「調教」により変化するのだ。
いずれにしても、そんなことを「見られている」というのは嫌だろう。
これも言えない……。
また、他人に知られたくないものといえば、なによりも、一郎が「淫魔師」であるということだ。
淫魔師の最大の武器は、精液を使って女を支配し、呪術で心や身体を操ることができるということだが、そんな能力があると知られれば、忌避されるどころか、このギルドからの討伐対象にもされるような気もする。
そんな目には遭いたくはないので、それも言えない。
そうやって考えてみると、一郎には他人に隠しておかなければならないことは多い。
ところで、一郎の淫魔師としての力は、短い時間で急激に成長している。
一箇月前の「歌姫事件」で、ドラクスの媚薬を修得することにより、淫魔師レベルは、“67”にあがっていた。
淫魔師である一郎が精で支配できるのは、ジョブレベルの数値が下回る女であるが、“67”などという途方もないジョブレベルは、まずあり得ない。
伝説的な冒険者だったという目の前のミランダは冒険者ジョブが“60”でありとんでもないが、一郎はすでにミランダを上回っている。
エリカは戦士ジョブが最高で“20”、コゼもアサシンジョブが“20”であるが、これすらも滅多に存在しない高さであり、大抵は、どんな者でも、もっとも最上位のジョブが“10”を超えない。
一般庶民ともなれば、職業にしているジョブが“2”か“3”、高くても“5”だ。
つまりは、ほとんどの女は、一郎に犯されれば、すぐに一郎の下僕になってしまうということになる。
一郎には目の前のミランダさえも、精の力であれば屈服させる自信はある。
あの「歌姫事件」で性奴隷にしたドルニカは、噂によれば、王都を出て、領地に引っ込んでしまったらしいが、一郎の淫魔師の力で、ドラクスの禁断症状を与えたままであり、その禁断症状を止めるために、いまでも一日に数名の男奴隷の生出しを受けていることだろう。そして、それはドルニカが男奴隷の子を孕むまで続くはずだ。
また、領地に戻ってしまったドルニカだが、一郎と再び出逢うことがあれば、その瞬間に、どんな破廉恥な命令にも逆らえない一郎の性奴隷に成り下がる。
そんな状態にすることが、一郎には可能なのだ。
いずれにしても、告白剤などを飲まされて、それらのことを口にするわけにはいかない。
「ま、参ったわねえ……。このあたしが告白剤を飲まされるなんて……。しかも、本当はあたしが、飲ませようとしたんだから、文句もいうわけにはいかないわね……。まあ、先に謝っておくわ。ごめんなさい……」
ミランダが頭を下げた。
一郎は微笑んだ。
「それで、俺に告白剤を飲ませて、なにが知りたかったの、ミランダ?」
ミランダに対して、一郎はタメ口を使っているが、それはミランダの希望によるものだ。
この気さくな女副ギルド長は、余所余所しい態度を取られるのが苦手らしく、誰に対しても、そんな風に話しかけられるのを望む。
「じゃあ、言うわ──。あるクエストをあんたらの強制クエストにしようかと思っているの。だけど、それについて、まずは、ロウが女たらしでないことを……つまりは、女とみれば、すぐに手を出すような野蛮人でないことを確認する必要があって……」
ミランダが言い難そうに喋った。
「ロ、ロウ様は、野蛮人なんかじゃありません。そりゃあ、慎み深いお方だとは言いませんけど──」
すると、横のエリカが憤慨したように声をあげた。
「まあ、少なくとも、女とみれば、すぐに手を出す方じゃないわね。でも、女たらしだとは思うけど……」
コゼだ。
エリカとコゼの言葉に、一郎は苦笑した。
「で、でも、あんたらふたりを閨の技で支配しているとか……。それから、房中術が得意とか言っていたし……」
ミランダが少しはにかむような口調で言った。
そういえば、最初に面談したときに、そんなことを喋った気もする。
それはともかく、一郎はミランダの意外な反応に驚いた。
ミランダが一郎の性の技について言及したとき、ミランダの「快感値」が“300”から“240”まで、一気に下がったのだ。
一郎はびっくりした。
そして、一郎には、その理由もすぐに想像がついた。
これは、ミランダが一郎を性の対象として意識しているという兆候に違いない。
だから、百戦錬磨のはずの副ギルド長が、なんとなく、一郎に対して、たじろいだような雰囲気なのだ。
これはちょっと面白いな──と思った。
性のことで相手に優位に立っていることがわかると、一郎の心には大きな自信のようなものが漲ってくる。
かなうはずのない相手に、どんどんと強気になれるのだ。
これも淫魔師としての能力のひとつだとは思うが……。
それはそうとして、いまは、ミランダの言及した新しい強制クエストのことだ。
強制クエストというのは、通常は冒険者側が選択して受けるものであるクエストを、ギルド側から強制的に割り当てるもののことだ。
ランク上位のパーティは、ギルド側からの強制クエストを断れないという掟がある。
「それは事実だけど、誰彼となく、女を犯すわけじゃないよ。たとえば、俺はミランダを女として意識しているし、できれば抱きたいと思っているが、襲いかかるということはしない。こうやって、普通に応対している。そういう意味では常識人だ。安心して欲しいね」
一郎はわざとミランダをからかうような言葉を告げた。
「な、なんで、あたしなのよ──。あ、あたしなんか──」
すると、ミランダは目に見えて動揺した。
反応が素直で愉快だ。
しかも、ミランダのステータスにある「快感値」がまた下がって、“200”にまでなった。
本当に面白い……。
「ところで強制クエストの内容はなんですか、ミランダ?」
コゼが冷静に言った。
ミランダは赤らんでいた顔をはっとしたように平静にした。
そして、咳払いして語り始めた。
「……もういいわ。じゃあ、クエストの内容を説明するわ。王都から二日の距離にあるジーロップ山という大陸街道沿いに、小さな盗賊団が棲みついているの。規模は大きくない。せいぜい、十人程度の盗賊よ。アルファ・ランクに一箇月で昇任したほどのあんたらなら、どうということはないでしょう──。とにかく、その盗賊団を捕えて、少なくとも首領の身柄を当局に引き渡すこと。この際、生死も問わない──。それがクエストの内容よ」
ミランダが言った。
その程度であれば、どうということはない気もする。
だが、不思議な感じだ。
盗賊団であれば、本来は軍が取り締まるべきものだ。
もっとも、この世界では、あちこちに盗賊団のようなものが存在して、その数も多いので、限られた軍では手に負えないということはある。そんな仕事が冒険者ギルドに回ってくることは珍しくはない。
しかし、場所は大陸街道沿いだという。
城郭警護と主要な街道の警護は、完全な王軍や地方軍の管轄だ。
わざわざ、冒険者ギルドに依頼してきたのはなぜだろう?
しかも、ミランダは、さっき、一郎に告白剤を飲ませてまで、女に対する慎みの度合いを測ろうとした。
なにか裏がありそうだ。
「それだけ、ミランダ?」
一郎は言った。
「もちろん、それだけじゃないわ。このクエストの条件は、その盗賊団退治の任務には、シャングリアという若い女騎士が同行するということね。彼女と一緒に盗賊団を退治する。それが条件よ」
「シャングリア?」
一郎はどこかで耳にしたことがあるような気がして、首を傾げた。
「モーリア男爵家のお嬢様よ」
ミランダは言った。
「ああ──」
一郎は思い出した。
この一箇月で数回耳にしたことがあるお転婆で有名な若い貴族娘の名だ。姿は見たことはないが、随分と美人だとも聞いた。
ただ、男勝りで、女扱いされることが大嫌いであり、騎士団の有名な女傑だ。
また、モーリア家といえば男爵家だが、いまの代になり、飛ぶ鳥を落とすほどに成長した家とかで、やり手の男爵が領地経営に大成功し、並の伯爵家よりも余程に高い経済力があるそうだ。
「そのシャングリア嬢と一緒に、盗賊退治をするということですね?」
「そうよ、エリカ──。ただし、物言いには気をつけてね。そんな風に、女扱いされるのが大嫌いなのよ。男として扱ってあげて」
ミランダが言った。
「女なのに?」
コゼが含みのある口調で言う。
「そうよ──。女だけど、女扱いしないのよ──。そのシャングリアが同行する。手を出さないでね、ロウ──。それがモーリア家の依頼条件よ。本当は、女だけのパーティを望まれたんだけど、信頼のできるパーティで、女のみのパーティはないのよ。それで、あなたたちなら、三人のうちふたりが女だし、しかも、女性の方が猛者で、あなたはそれに守られている感じで、モーリア家の条件に近い気がすると思ってね……。報酬は金貨五枚よ」
告白剤の影響もあるのか、ミランダは歯に衣を着せない物言いをした。
暗に一郎は弱いと言っているようだが、それは真実だから、一郎も返す言葉はない。
ただ、笑うしかなかった。
だが、これでわかったが、このクエストの依頼主は彼女の実家のモーリア家のようだ。
どうやら、裏もわかってきた。
モーリア家としては、騎士団に所属している自家のシャングリアという娘に手柄を立てさせたいのだ。
それで、手頃な冒険者のパーティを同行させようとしているのだろう。
つまりは、一郎たちは、その女騎士の護衛であり、噛ませ犬ということだ。
「なるほど、俺たちの役割がわかったよ。そのシャングリア殿を守って、手柄をたてさせればいいんだね、ミランダ?」
「いいえ、彼女を警護することはクエストには含まれないわ。あんたらの役割は、あくまでも盗賊退治よ。ただ、彼女と一緒に行けばいいだけ。そして……」
「……そして、手を出さない。それは承知したよ」
一郎は笑った。
ミランダはほっとした顔になった。
「よかった。じゃあ、強制クエストを発動するわ。よろしく頼むわね。シャングリアは王軍騎士団の詰所にいるわ。さっそく、明日にでも接触して、出立の日付を決めてちょうだい」
「わかった──。じゃあ、これで、クエストの件は終わりだね?」
一郎は言った。
「そうね。行っていいわ」
ミランダが立ちあがろうとした。
「待って──。まだだよ。行ってはだめだ。俺に告白剤を飲ませようとしたでしょう? その始末が終わってないじゃないか」
一郎は笑いながら、ミランダを制した。
ミランダは不審な表情で座り直した。
「そ、それは謝ったじゃないのよ」
ミランダは言った。
「でも、罰は与えないとね。しこりが残らないように──」
一郎は言った。
「ば、罰──?」
ミランダがびくりと身体を一度震わせて、声をあげた。
その激しすぎる反応に、一郎はほくそ笑んだ。
一郎の勘が正しければ、このミランダは……。
「さあ、告白してもらおう。ミランダの性の歴史をね──。最初に性交したのはどんな相手だった?」
一郎はくすくすと笑いながら言った。
ミランダは告白剤を飲んでいる状態だ。質問をされれば、正直に喋るしかない。
しかし、そんなことを訊ねれば、通常であれば、烈火の如く怒るはずだ。
ミランダが怒りの反応を見せれば、一郎は冗談だったとやめるつもりだった。しかし、なんとなく、ミランダはそうは言わない気もする。
副ギルドマスターという立場や元冒険者としての強さの反面、性的なことについての「押し」には弱い──。
強く男に言い寄られれば、どうしても断れない。
実は、それがミランダの本質のような気もする。
しかも、エリカと同じように、“マゾっ気”も強いと思う。
ただの勘だが、この手のことで、一郎は自分の勘が外れること予想していない。
「な、なんで、そんなこと訊ねるのよ──」
ミランダが目に見えて、顕著に顔を赤くした。
素手の直接攻撃力が“500”もある怪力のドワフ女が、そんな言葉ひとつで狼狽えるのは、本当に面白いし、とても、魅力的だ。
一郎は思わず笑った。
「さあ、喋るんだ」
一郎は強く言った。
そして、結局のところ、告白剤の力により、ミランダは一郎によって、簡単にではあるが、十人の性遍歴を全部喋らされた。
やっぱり、思った通りだ。
ミランダは、言い寄られると、たちまちにたじたじになるらしく、その都度、素直に男に応じてきたところがあるようだ。
だが、うまくもいかなかった……。
その理由も一郎にはわかる。
このミランダは、おそらく被虐の性質があり、少し乱暴に扱われた方が興奮するのだと思う。
しかし、あまりにも強いミランダをそんな風に扱う男はいなかった。
それで、すぐにうまくいかなくなっていったのだろう。
最近では、副ギルド長にまでなった伝承のシーラ・ランク冒険者のミランダに言い寄る男もなく、すっかりと「お見限り」になってもいるようだ。
ミランダの「告白」のあいだ、一郎の魔眼にはミランダの全身に浮かぶ桃色のもやがどんどんと色を濃くするのがわかったし、「快感値」の数値はついに二桁になり、最後には“50”にまでなったのも確認した。
ここまで下がれば、ミランダの股間はねっとりと蜜で濡れているはずだ。
思った通りに、ミランダはマゾっ気が強い。
薬剤の力で「告白」なんてさせられて、かなりの性的興奮もしているのがわかる。
このまま性交に及んで、そのまま支配してしまうということも可能な気もした。
だが、まあやめた。
一郎は、この辺りで許してあげることにした。
「……も、もういいでしょう──。告白剤なんて、飲ませようとして悪かったわよ──。もう、やめてよ」
ミランダがついに我慢できなくなったように声をあげた。
「そうだね。じゃあ、これで許してあげるよ、ミランダ──。それよりも、今度家に遊びに行くよ。たしか、ひとり暮らしだよね。今度のクエストが終われば、三人で遊びに行くからね──。拒否は許さない──。その代わり、今回はミランダに恥ずかしいことを喋らせちゃったから、そのときは、俺たちの性癖を教えるよ。愉しみにしてよね」
一郎は立ちあがった。
ずっと呆気にとられたように横で聞いていたエリカとコゼも慌てて立ちあがった。
ミランダがはっとしたような顔になった。
「いいね、ミランダ──。約束したよ──。とにかく、クエスト処理に行ってくる」
一郎は強い口調で言った。
「う、うん……」
やっぱり、ミランダは拒否することはなかった。
たじろいだような表情ながらも、しっかりと首を縦に振った。