【2025.9.5コミック発売】異世界で淫魔師ハレム【完結】 作:ドン・ドナシアン
「んんっ、う、うあ……。ああっ、あっ、あああっ、だ、だめえ……くっ、ひいっ、ううう……」
ノルズは、絶叫して声をあげたい衝動に耐えて、必死になって歯を喰い縛っていた。
おそらく、この逆さ吊りの状態にされて、いくらも経っていないだろう。
その証拠に、ノルズの目の前で兎汁の朝食を食べているエマの皿は半分も減っていない。
だが、腸を襲う便意はとてもじゃないが抑えきれないほどの勢いに膨らんでいるし、身体を這い回る綿の淫具は、狂おしいまでくすぐったさを与えてきて、ノルズが懸命に肛門を締めつけようとするのを阻止しようとする。
また、逆さ吊りの苦しさに加えて、鼻輪に繋げられた鉄球による激痛がつらい。
そして、なによりも鼻の痒み──。
エマが面白がって鼻の中に塗りたくった掻痒剤のために、気が狂いそうになるくらいに鼻が痒いのだ。
それなのに、鼻を動かすと、鉄球を繋がれた鼻輪のために激痛が走る。だから、動くこともできない。
いや、多少は動いて痛みで痒みを癒すことがましか……。
とにかく、あまりのことに考えることもできない。
激しい便意──。
怖ろしいほどに感度をあげられた肌の敏感さ──。
その身体を動き回る綿の淫具の愛撫──。
逆さ吊りの苦悶──。
鼻輪を鉄球で引っ張られる激痛──。
そして、鼻の痒み──。
ノルズはあまりもの苦痛を幾つも同時に与えられて、すでに自分が限界になっているのを感じていた。
「うるさいわねえ……。ちょっとは黙っていられないの? 見てわかるでしょう。いま、食事中なのよ。それまで待ちなさいよ」
エマが食物を口に運びながら、にやにやして言った。
この馬鹿女は、ノルズが苦しそうにするのを眺めるのが愉しくて仕方がなさそうな表情をしている。
「た、頼むよ……。か、厠に行かせておくれ……。も、もう限界だよ……」
ノルズは、エマでなく、少し離れた場所でエマとノルズを見守るように眺めているアスカに向かって言った。
アスカについてはすでに食事は終わっていて、空になった皿は身体の横に置かれている。
「こらあっ、なんでアスカお姉様に媚び売ってんのよ──。あんたを調教しているのは、このわたしよ──」
エマが怒鳴り、床に転がっていてノルズに装着された鼻輪に繋がっている鉄球を蹴った。
「ふぎいいっ、んげえええっ」
鉄球は床を数回転してから、ノルズの鼻に引き千切るような激痛を与えてとまった。ノルズの鼻が鉄球を引っ張り戻すかたちになり、それ以上進まなかったためだ。
しかし、ノルズも鉄球を身体の下側にまで戻すことはできず、顔が鉄球で引っ張られ、身体全体が斜めになった体勢になる。
つまり、自分の身体の重みと鉄球の重みのすべてが、鼻輪を通じてノルズの鼻にかかったのだ。
ノルズはさすがに絶叫した。
だが、その痛みのおかげで、鼻の痒みの少しはましになる。
しかし、もうすでに怖ろしいほどの痒みが襲っているが……。
「ふふふ、アスカお姉様、見てください。この豚、苛められて感じていますよ」
そのとき、エマがくすくすと笑った。
ノルズはかっとなった。
「ふ、ふざけんじゃ──」
「だって本当よ。鉄球で鼻の痒みが癒されて気持ちいい? だけど、それでそんなに感じるなんて、あんたは豚よ」
エマが大笑いした。
しかし、苛められて感じるなんてことがあるわけない……。
アスカの悪戯で、とんでもなく感度をあげられているので、股間が濡れているのは確かだろうが……。
「ノルズ、優しくしてやりたいけどね。しばらくは、お前を調教するのは、エマだ」
すると、アスカは愉しそうに笑った。
ノルズは、鼻の激痛に呻き声をあげながら、口惜しさに歯噛みした。
エマが鉄球を動かして、身体の真下に移動させる。
やっと、身体が真っ直ぐになる。
「お願いだから、厠に行かせてくださいと、わたしに頼めば、うんちをさせてやるよ、豚」
エマは、ノルズが追い詰められているのを悟ったのか、満足そうな笑みを浮かべて言った。
「お願いだから、厠に行かせてください」
間髪入れずに言った。
くだらない調教ごっこのやり取りで、この女の溜飲をさげさせたくもない。
この状況では、ノルズの抵抗はかえってエマを悦ばせるだけだろう。
それよりも、言葉だけなら、いくらでもへりくだって見せ、心の中で舌を出してやる。
そして、隙を見せた瞬間に、およそ、生まれてきたことを後悔するほどに残酷に殺してやる。
そう決めた。
「なっ」
エマは、ノルズがあっさりと従ったのが、逆に気に入らなかったようだ。
その顔が怒りで真っ赤になった。
「なんで、言うとおりにするのよ──」
そして、怒鳴った。
馬鹿じゃないかと思った。
「お願いだよ。もう、限界なんだ。屈服する──。エマの言うとおりになんでもするさ。足でも、股でも舐める……。だから、厠に……」
ノルズは訴えた。
厠は小屋の外だ。
この山小屋を建てた者が一緒に作ったのだろうが、土に穴を掘って、それを布で囲っただけの場所だ。
しかし、厠は厠だ。
そして、そこに行かせてもらうには、この馬鹿女に哀願するしかない。
だったら、してやる。
どうせ、アスカの思いつきの嫌がらせにより、ノルズはエマの命令にも逆らえなくなってしまったのだ。
最後には、無理矢理にでも、隷属の刻印を通して行動を強要できるのだから、意地を張るだけ無駄なことなのだ。
でも、絶対に心の中では屈服してやらない──。
それがノルズの精一杯の意地だ。
「ははは、やっぱり、面白いねえ、お前──。ほら、屈服するって言っているよ。どうするんだい、エマ?」
アスカが笑い声とともに横から口を挟んだ。
エマは顔を赤くした。
「こ、こんなの口だけの屈服です、お姉様。心の底からのものじゃありません──」
エマが不本意そうに、アスカに言った。
そして、きっと鋭い視線でノルズを睨んできた。
「ノルズ、食事が終わるまで待ってなさいって、言ったでしょう。それまで、そのままよ。だけど、随分と余裕がありそうねえ。その綿虫ちゃんたちをもっと元気にしてあげるわね」
エマがそう言った瞬間、全身を這い回っていてノルズの身体をくすぐっていた綿が一斉に振動をし始めた。
そして、さっと動いてノルズの股間と肛門、ふたつの乳房に集中する。
「ひっ、ひいいいっ」
これには、ノルズも悲鳴をあげた。
「はあっ、はおおおおっ、い、いやあああっ」
ノルズは獣じみた声をあげて、逆さ吊りの肢体を揺りたてる。
動けば鼻輪が引っ張られて、激しい痛みが走るのだが、それも気にならないくらいの快楽の衝撃が全身を席巻する。
だが、それは絶対に許してはならない裂情だ。
少しでも気を抜くと、ノルズのお尻は、あっという間に汚物の噴流を噴きあげるに違いない。
とにかく、あまりもの過酷な責めに、鼻の痒みさえ気にならなくなりそうだ。
一方で快感が次々に走り抜ける。
ノルズはひたすらに、お尻の穴に力を入れ続けることだけを考えた。
一瞬でも力を抜けば終わりだ。
便意のうねりは波のように、遠ざかったり、激しくなったりするが、締めつけている股間を緩めれば、その瞬間に洩れてしまう。
これまでも、ノルズの身体からは汗が滴り、それがノルズの顔の下に水たまりのようになっていたが、綿の淫具を激しくされた途端に、まるで水でも浴びたかのように、かなりの量の脂汗が床に落ちていった。
気が遠くなるくらいの時間がすぎたとき、かたんと顔の近くで音が鳴ったと思った。
眼を開けると、汗で滲む視界に、空になったエマの皿が見えた。
「か、厠に……」
ノルズは必死になって、それだけを言った。
しかし、見上げたエマの顔は、ノルズのことを蔑むような冷笑だった。
「朝食が終わってからって、言ったでしょう。まだ、お前が食べてないわ」
エマがにやりと微笑んで、ノルズが逆さ吊りされている顔の前に、食物が盛ってあるもうひとつの皿をずっと置いた。
「そ、そんな……。い、いらない……」
ノルズは言った。
冗談じゃない。
これ以上の時間の浪費は、本当に命取りだ。
「食べないんなら、そのままよ。食べるんなら、おろしてやるわ」
エマは冷たく言った。
「た、食べるよ、うう……」
ノルズはそう言うしかなかった。
すると、両脚を吊っていた鎖が不意に足枷から外れた。
「ひいっ」
咄嗟に頭は守ったが、身体と肩を床に打ちつけられて、その衝撃で肛門の一点が緩みかける。
ノルズは声を噛み殺した。
それからは地獄だった。
ノルズの顔は鼻に繋がった鉄球のために、顔を床にくっつけんばかりまでしか床から離れられないのだが、その極端な前屈で跪いた姿勢で、怖ろしいほどの便意と局部と乳房を激しく責める綿の淫具に耐えながら、犬食いで食事をしなければならないのである。
もうなにも考えなかった。
ただただ、必死に皿のものを空にしようと顔を動かした。
顔も床もかなり汚れたが、やっと食べ終わることができた。
「汚いわねえ。床がこんなじゃない。全部、舐め取るのよ」
エマが怒鳴った。
すぐに、床に顔をくっつけて、舌を伸ばして床を舐める。
もう、一刻の猶予もない。
また、ついでに、床に押しつけるようにして、懸命に鼻を擦る。
これだけは気持ちいい……。
「ね、ねえ、か、厠に……」
やがて、やっと、舌による床の掃除が終わった。
もう限界だ。
ノルズは、また訴えた。
すると、不意に身体を愛撫していた振動がなくなった。
気がつくと、たくさんの綿の淫具が床に落ちている。
「アスカお姉様……?」
エマのきょとんとした声だ。
もしかしたら、とりあえず、綿の愛撫から解放してくれたのは、アスカの魔道だったのだろうか……。
「ちょっと、こいつに訊きたいことがあってね。すぐに返すよ、エマ……」
アスカがノルズに向かって言った。
そして、立ちあがって、なぜかノルズの傍にやって来る。
「とにかく、なにも教えずに調教した方が、ノルズの心が折れると考えたけど、いまの様子だと、これじゃあ、ノルズの屈服には時間がかかりそうだ。それよりも、お前が屈服しなければならない理由を教えてやろう。その方が受け入れて、心が折れやすいかもしれないしね」
「心を折る?」
ノルズはうずくまったま姿勢で下を見ながら言った
「だけど、汚れたねえ。顔を綺麗にしてやるよ」
すると、その風のようなものが顔と上半身に通り過ぎる。
また、顔の違和感がなくなったので、洗浄の魔道で食べ物の汁の汚れを取ってくれたのだろうか。
鼻の痒みさえなくなっている。
そのとき、顔に影がさした。
床に面しているノルズの視界に入ったのは、アスカの足だ。
そのアスカが鉄球を抱えあげて、自分の顔の近くに持ち上げた。
「んぎおっ」
鼻輪を引っ張られては、ノルズは顔をあげるしかない。ノルズはそのまま、膝立ちになる。
アスカは、そのまま鉄球を操って、ノルズの顔を寄せ、ノルズの唇を自分の唇にくっつけるようにした。
「ん、んんっ」
すぐに、口の中に舌が入ってくる。
アスカの舌がノルズの口の中で動き回る。
口の中まで愛撫に敏感にされているのか、アスカの口づけを受けると、閃光のような快感が股間まで貫いた。
慌てて肛門を締める。
一瞬だが、頭が真っ白になって我を忘れそうになり、本当にお尻が緩んだのだ。
ぎゅっと締めたものの、もしかしたら、ちょっと出たかもしれない。
ノルズは耐えられなくなり、アスカから口を離そうと顔を引こうとする。
しかし、鉄球を引っ張られるために、逃げることはできない。
ノルズは、もう抵抗することを諦めて、頭が真っ白になりかけるのに耐えて、全精神をお尻に集中した
「蕩けそうな顔をして可愛いじゃないかい……。まずはわたしの疑念を説明しよう……。状況がわかれば、頭のいいお前だ。自分が操られていることを理解するかもしれない……」
「あ、操り……?」
「さて、質問に答えな、ノルズ。この旅が始まってから、お前はずっと、外の連中とやり取りをしているよね。どういうことをやり取りしているんだい?」
アスカが口を離していった。
それとともに、持っていた鉄球を離して、床に捨てた。
「ひいっ、ひぎいっ」
当然に、ノルズの鼻は鼻輪で引っ張られて、鉄球と一緒に床に落ちていく。
当然に、鼻に激痛が走る。
また、衝撃とともに、ノルズは顔を床にほとんどくっつけるような格好になり、極端な前傾姿勢を強いられた。
そして、鉄球が床を動く。それについていくように、ノルズも激痛を受けながら動く。
「外の連中とやりとり? ねえ、アスカお姉様、こいつ、もしかして、わたしたちをパリスたちに売り渡す気じゃないでしょうか? きっと裏切るんですよ」
エマが横で金切り声をあげた。
パリスにアスカを売り渡そうとしたのは、お前だろうと言いたかったが黙っていた。
しかし、はっとした。
目の前の鉄球をアスカの足が踏み、いまにも蹴飛ばさんばかりに力を加えたのがわかったからだ。
そんな勢いで鉄球を動かされたら、信じられないような激痛があるに違いない。
ノルズはぞっとした。
「そ、それは……あ、あたしの部下だよ──。じょ、情報を集めてんだよ──。だから、ハロンドール王国の騒動のことを知ってんだよ──。それに、パリスの部下の動きだって、そいつらに調べさせてるんだ──。だから、うまく逃げてんだよ──」
とっさに答えた。
部下と連絡をとっていることに、アスカが気がついてるとは考えなかったが、別段、それほどに隠すことじゃない。
ちょっと考えれば、ずっとアスカと同行しているノルズが、あちこちの情勢に詳しいのだから、なんらかの手段で外に連絡を取っていると考えるしかない。
すると、アスカが鉄球から足を外した。
ノルズは、とりあえず、ほっとした。
「そうなんだろうねえ……。だけど、最初は確かに、ハロンドール王国を目指すように動いていたけど、いつの間にか、方向を変更してナタル森林側に向かい、いまは、もう三日以上もこの小屋から動かず、なにかを待っているかのようにじっとしている……。不自然じゃないかい……?」
「えっ?」
なにを言われたのか一瞬戸惑ったが、もしかして、アスカはノルズを怪しんでいるのか?
怪訝に思った。
「しかも、ナタル森林はパリスが自分の部下とともに、最近、暗躍していた場所だ。これは偶然かい? それとも、なにかがあって、意図的に方針を中断し、いまは誰かの指示待ちかい?」
はっとした。
確かに、考え方によっては、アスカをパリスに引き渡すような動きに見えないわけじゃない。
だが、だったら、そもそも、この魔女をアスカ城から連れ出さなければいいだけだし、アスカの思考の前提がおかしい。
それはともかく。このアスカは、まさか、本当にノルズのことを疑っているのか?
「えっ? お姉様、このノルズは、本当に、わたしたちを裏切って……?」
エマの驚愕した叫び声が頭の上から降ってきた。
いまのノルズは顔を床に密着するような体勢なので、エマやアスカの表情は見えないが、エマが最初にノルズのことを裏切り者と呼んだときには、それを信じているのではなく、アスカに媚びを売って、ノルズを冷酷に苛める大義名分をアスカからもらいたいという響きがあった。
しかし、たったいまの言葉には、心の底からの驚きと緊張が混ざっているように思った。
もちろん、半信半疑というところだろうが、少なくとも、エマはアスカがノルズを真剣に疑っているということを感じたようだ。
「そ、そんなわけないだろう──。だ、だったら、隷属の刻印で命令すればいいだろう。すべてを正直に話せとね。さあ、命令しな──。それで、あたしが、あんたらを裏切っていないのはすぐわかるじゃないか──」
怒鳴った。
もっとも、正直に話せと命令されれば、もしかしたら、ロウのことを語ってしまうことになる気もする。
しかし、少なくとも、ノルズがパリスと繋がっていないことだけはわかるだろう。
それに、大丈夫な気がするのだ。
隷属の刻印を受け入れてはいるものの、なんとなくだが、ノルズは絶対的なところで、アスカの隷属を受け入れていない気がする。
そもそも、隷属の魔道というのは、「主人」になった相手に対して、絶対服従というだけでなく、本質的に「恐怖」の心が芽生えるものである。
いまは、もうないが、考えてみれば、ロウがノルズを支配してくれる前は、パリスに対する恐怖心が間違いなくあった。おそらくらなんらかの隷属魔道をノルズの知らないうちにかけられていたのだろう。
だからこそ、違いがわかる。
いま、ノルズは、隷属の刻印を受け入れたにも関わらず、まったく、アスカに恐怖を抱いていない。
おそらく、それは、ロウの淫魔術をすでに受け入れていることに関係があるのだと思うが、だから、アスカに「命令」されたところで、本質的にロウに不利なことは、受け入れないで済む気がするのだ。
「ああ、そうだね。だけど、それを言ったところで、お前は嘘をつける可能性がある……。命令だろうと、行動であろうと、隷属の刻印を無視する場合がある……。そもそも、裏切っているか、裏切っていないのか、お前自身がわかっていなければ、なにが真実なのか、わかったもんじゃない……」
「えっ?」
アスカがなにを喋っているのか、すぐには理解できなかった。
だが、少なくとも、アスカはノルズの正気を疑っている気配だ。
「あいつは、特殊な操り術を遣っていた……。闇魔道のね…。隷属魔道じゃないから、掛け方も特殊らしいが、あいつは、それで人の心も記憶も操ってしまい、自分の思うままに動かすんだ。しかも、隷属魔道と違って、掛けられたこともわからないんだ。あいつの魔道に囚われた者は、自分がどうしてそんなことをやっているかの自覚なく行動してしまうのさ……。そんな状態の者に隷属魔道をかけたところで、真実なんて喋らせることはできないってことさ」
「な、なに言って……。闇魔道って……。あんた、あたしがパリスに操られているって言ってんのかい──? 冗談じゃないよ──」
今度はノルズが驚いた。
まさか、ノルズがパリスに操られている可能性をアスカが疑っているとは思わなかった。
「へえ、わたしは、パリスに操られているって、ひと言も言っていないけどねえ……。なんで、パリスだと思ったんだい、ノルズ?」
次の瞬間、天井の方向に向いているノルズの尻をおそらく、アスカの手が突然にいやらしく触ってきた。
「ひいいっ」
ノルズは、怖ろしいほどの便意に襲われている場所を直接に刺激され、必死になってお尻に力を入れた。だが、アスカの手は、凄まじいほどの快感の衝撃をノルズの身体に駆け抜けさせ、ノルズを絶望に襲わせる。
ノルズは便意と快感の疼きの二重奏の苦悶に、裸身をくねらせた。
やっと手が離れる。
でも、力は抜けない。
いつ、もう一度触られるかわからない。
油断して、刺激を与えられたら終わりだ。
「あ、あたしはパリスの元部下だったんだ──。だから、あ、あいつの闇魔道のことを知ってたんだ──」
正直に言った。
「お前、パリスの部下なの──。わたしやアスカお姉様を騙したの──」
乗馬鞭の打擲がお尻に飛んできた。
ノルズは歯を喰いしばった。
とにかく、便意との苦闘の最中では、愛撫の刺激にしろ、鞭の打撃にしろ、これ以上与えられば、確実にこの場で洩らしてしまう。
「も、元だよ──。ア、アスカさん──。た、頼むから、隷属魔道で質問してくれ──。それで、嘘じゃないのがわかるじゃないか──」
「いや、それは無駄だね。わたしにはわかるんだ。実際のところ、お前には、わたしのものではない、なんらかの支配魔道がすでにかかっている。最初は気がつかなかったけど、これだけ一緒にいて、しかも、この三日、ずっと観察する機会があったからわかったのさ。お前は、なにかの支配魔道を受け入れている状態で、このわたしの隷属魔道を受け入れた……。それがわかったんだよ」
アスカの指摘にノルズは愕然とした。
事実だからだ。
もしも、アスカがそれを見破ったのだとしたら、アスカがノルズのことを怪しいと考えるのは当然かもしれない。
「ま、待っておくれよ──。あたしがパリスの意図を汲んで動いているとしたら、あんたをアスカ城から逃亡させるのはおかしいだろう」
「パリスの考えていることなんて、わかるもんかい──。あいつは、人の心の隙や弱さを突いてくる。そこに闇の魔道を仕掛けるんだ──。愛の言葉をささやきながら、一方で平気で人の命を奪うような呪術をかけてしまうような男だ──。恋人と呼んだ相手を自分の野望の生贄にして、まったく平気な奴だ。そんな男が、今度はどんな心の罠を仕掛けようとしているかわかるかい──」
アスカが激昂したように叫んだ。
ノルズはびっくりした。
あまりにも、感情剥き出しのアスカの口調だったからだ。
だが、いまのは、アスカとパリスのことなのか……?
もしかして、ふたりは恋人関係だったこともあったのか……?
しかし、すぐに、ちょっと照れたようなアスカの失笑の音が聞こえた。
「こりゃあ、つまんないことを喋ったね……。とにかく、わたしが言いたいのは、お前が、わたしよりも先に、誰かから支配魔道を掛けられていることは事実であり、それは、パリスだろうってことさ……。しかも、お前自身がそれをわかっていない可能性も高い……」
「ち、違う──。パリスは敵だよ。あいつは、あたしを殺そうとしたんだ。死の呪いを仕掛けてね──。そんなやつのために動くわけない──」
「お前自身が知らないだけさ。どうせ、誰かの支配魔道に掛かっている自覚はなかっただろう? まあいい……。助けてやるよ。お前に存在する支配魔道は解除してやる。心配しなくても、方法があるんだ。心の底からわたしに屈服すればいい……。心を一度折るのさ……。それで、わたしの隷属魔道が強化されて、わたしの隷属魔道がパリスの支配魔道を上回る。そうすれば、わたしの解除魔道を受け入れられる」
アスカが優し気な口調で言った。
だが、その内容にはぞっとした。
心を折るだと──。
冗談じゃない──。
「だ、だから、パリスじゃない──。パリスの支配魔道のわけないんだ。そもそも、パリスが死んだって言ったのはあんただ──。死んだら支配魔道は消えるはずだろう」
必死で言った。
こうなったら、ロウに支配されていることを喋ろうかとも思った。
だが、そうしたら、アスカをロウの前に連れていき、淫魔術で支配させてしまうと企んでいたことがわかってしまう。
それどころか、今度はこの希代の魔女が、ロウのことを全力で阻もうとするかもしれない。
魔道契約をしていて、アスカはロウとの交合を逃げ出せないはずだとはいえ、やはり、いまはまだ早い気がする──。
でも、ロウを守るのがすべてに優先するのは間違いないが、このままでは、ノルズは意味のない調教をアスカから受け続けることになる……。
どうすべきか……。
「いいや、パリスだ──。確かに、あいつは死んだと思うけど、ここにあいつの命の欠片がある。まったく死んだわけじゃない──。影響力を残す方法もあったんだろう。とにかく、なにを準備しているかわからない男だ……。それにね……。お前にかかっている支配魔道がパリスのものだという証拠がある」
アスカが言葉の最後に少しだけ口調を和らげた。
「証拠なんてない──。違うんだよ──」
「いいや、違わない……。じゃあ、教えてやる……。お前にかけられているもうひとつの支配魔道は、このわたしの隷属魔道よりもずっと強いものだ。そんなに強い支配魔道を仕掛けられる者がふたりといるわけがない──。わたしが知っている限り、それは唯一、パリスだけなんだ」
アスカがきっぱりと言った。
ノルズは愕然とした。
「ち、違う」
ノルズは声を絞り出した。
こうなったら、ロウのことを告げない限り、それは説得力を持たないだろう。
なにしろ、この魔女は、ノルズには、アスカを上回る支配魔道が別にかかっているのを見破り、そして、アスカを上回る魔道遣いは唯一パリスだと思い込んでいる。
ノルズは決心した。
「わ、わかった。言う──。言うよ──。あたしを支配しているのは、ロウ=ボルグ──。その男だ。あんたが会おうとしている男だよ」
仕方がない。
これを喋らないと、アスカは本当にノルズの調教を開始するだろう。
だが、アスカは大声で笑った。
「わかった、わかった──。とにかく、パリスの支配が抜けてから、なんでも質問してやる。ナタルの森のこともね。いずれにしても、わたしよりも強い支配を受けている状態で、どんな質問をわたしがしたところで、まったくの無駄だし、さっきも言ったけど、わたしを上回る魔道遣いなんて、パリス以外にはいないんだよ」
「い、いや、いる──。いるんだ──」
ここまで言っても信用しないとは思わなかった。
アスカは、ノルズがかかっている支配術が、自分の能力よりも強いという一点で、これがパリスの呪術だと信じ込んでいる。
「……いいから、わたしに任せるんだ、ノルズ。調教を受けな。お前が心の底から屈服したとき、本当にわたしの魔道がパリスを上回る。いまは、受け入れられないかもしれないけど、パリスの支配魔道が消えれば、お前は、この調教を笑い流すことができると思うよ。パリスの仮体が死んだのは間違いないだろうし、絶対にお前に存在するパリスの支配は弱まっている。わたしに任せるんだ」
アスカが言った。
駄目だ……。
やっぱり、この女は、ノルズがパリスの支配魔道を刻まれていると思い込んでいて、しかも、それを解呪するには、ノルズの心の底からの屈服が必要なのだと信じきっているのだ。
そういえば、スクルズたちに、ノルズが魔瘴石を仕掛けたとき、あのロウは、いまのアスカと同じようなことを主張して、スクルズやベルズを調教で屈服させてから、魔瘴石を取り出したと後で耳にした。
呪術を解呪するのに、まずは心を折るというのは、解呪の常套手段なのだろう。
「と、とにかく、あたしを支配してえるのは、ロウという人で……絶対にパリスなんかじゃあ……」
「わかった、わかった……。とにかく、時間との勝負だろうからね。一日でお前のパリスの支配を抜いてやる……。ただし、この小屋の中の時間の歩みを緩める。わたしたち三人の時間を十倍の遅さで進ませる。つまり、一日で十日分すごすということさ。それでも足りなければ、もっと遅くする。とにかく、お前を支配しているものが消えるまで、永遠にだって続けるからね」
アスカがノルズの言葉を遮って言った。
なにを言ってるのかよくわからないが、つまりは、ノルズへの拷問は、時間を遅くすることで、ノルズにかかっているパリスの支配が消滅するまで延々と続けると喋っているみたいだ。
時間術と言っていたので、なにかの魔道なのだろう。
ならば、アスカはいつまでだって、ノルズへの拷問を続けられるということだ。
報告をしにくる手の者も、大きな異変がなければ、数日は戻らない。しかも、鳥の声で合図をする以外に小屋に、近づかないように厳命している。
つまりは、この魔女の気紛れ以外で解放される可能性が極めて低いということだ。
あるいは、ノルズの心が潰れるか……。
ぞっとした。
「……じゃあ、始めるよ──。ノルズ、この部屋の壁を十周しな。厠はその後さ。エマ、その乗馬鞭で追い立てるんだ。ちょっとでもとまれば、尻でも背中でも好きなところを打ちつけるんだ。ノルズの心をお前が折るんだ。ほかの誰よりも、こいつには屈辱のはずだ……。それでパリスの支配を解除できる」
「はい、アスカ姉様」
エマが嬉しそうに返事をした。
しかし、部屋を回れと言われても、この鉄球が……。
「ほら、ぼやぼやするな、豚──」
剥き出しになった臀部をエマが力一杯に鞭で打ち据えてきた。
それこそ、ノルズにとってとんでもない危機だ。
「んぎいっ、だ、だって──。て、鉄の玉が……」
「だってじゃない。鉄球を顔で押しながら進めばいいじゃない──。それとも、鎖を口で咥えて進むかだよ。考えればわかるだろう、この低能──」
エマがお尻を狙い撃ちにしてくる。
いくら気力を振り絞っても、お尻の肉を鞭が削ぎ、下肢の力が抜けてしまいそうだ。
ノルズは、懸命に舌を伸ばして、鼻輪に繋がっている鎖を口に引き寄せ、歯で挟むと、ずるずると鉄球を引きずりながら、身体を前に進ませ始めた。