※この作品はR-18です。

【2025.9.5コミック発売】異世界で淫魔師ハレム【完結】   作:ドン・ドナシアン

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484 勝ち目のない戦い

「はいはい、どうどう、はい、どうどう──。豚、そこで回りなさい」

 

 愉しそうに歌いながら、背中に乗っているエマが、ノルズの乳首に繋げられている両方の「あぶみ」に、思い切り足に力を入れた。

 

「ひぎゃあああ」

 

 乳首に横から穴を開けて細い金属の棒を刺し込まれている金具には、ノルズが足を載せる「あぶみ」の足置きだけでなく、糸で繋げられているクリトリスに刺し込んだ金属の小さな針にも繋がっている。

 エマが足を踏ん張れば、乳首だけでなく、肉芽も引っ張られるように糸をぴんと張らせているのだ。

 激痛で倒れそうになるのを必死に耐え、ノルズは全身の力を振り絞って、エマを載せたまま、小屋の中で四つん這いの身体を回転させる。

 

 拷問は多分、五日目になっている。もちろん、アスカの作った偽物の時間間隔のことだが……。

 いや、六日……、七日……?

 とにかく、もう時間の感覚はほとんどない。

 

 ただ、薄暗くなったために小屋に灯された燭台により、もうすぐ夜が来るのだなと思うだけだ。偽物の日にち感覚らいしが、この小屋の中にも、ちゃんと朝も夜も訪れる。

 無論、夜になっても、ノルズに眠りが許されるわけではない。

 

 最初の二日は凄惨ともいうべき、連続絶頂の快楽拷問だった。

 三日目からは、一転して徹底的な恥辱によるいたぶりが続いている。

 エマが起きているあいだは、ずっとエマによる虐待を受け続け、夜中になれば、鼻輪を天井から引っ張られて立たされて放置され、朝になってまた調教を再開するという繰り返しだ。

 

 そうやって、眠ることを許されぬまま、五日にも及ぶ拷問──。

 

 そんなことに耐えられるわけがないが、それを可能としているのがアスカの魔道だ。

 アスカは、いまは調教の大半をエマに任せて見ているだけだが、ノルズが限界に達していると見極めると、魔道で体力だけを回復させ、さらに眠らせないように、覚醒の魔道をかけるのだ。

 それで、無理矢理に拷問を受け続けられるだけの体力を戻されて、意識を失うことを阻止するというわけだ。

 ずっとそれが続いている。

 そのあいだ、ノルズが倒れぬように、死なないように最低限の体力と意思力が残るように、アスカに回復させられる。

 

 だが、それで肉体は回復できても、精神は限界だ。

 なによりも、眠れないというのが、ノルズの理性とか、意識とかいうものをどんどんとすり潰していく。

 

 限界は越えている……。

 しかし、限界を越えたにもかかわらず、アスカは強引にノルズを引き起こして、拷問を受け続けさせる。

 この限界のさらに果てに、なにがあるのかわからない。

 なにかが壊れていっている。

 ノルズはそれをはっきりと自覚している。

 

 いまやらされているのは、エマを背中に載せて、四つん這いで小屋の中を歩き回るという行為だ。

 それをするために、エマはノルズの乳首に穴を開けて、小さな釘のような細い棒を通し、そこに足を載せる「あぶみ」を取り付けたのだ。

 さらに、肉芽にも針を刺して、両乳首の金具に糸を張って繋げた

 

 どんなことをされても、なにをやらされようとしても、ノルズには抵抗は不可能だ。

 アスカを主人として刻んでいる隷属の刻印により、アスカからエマの言葉に絶対服従をすることを命令されている。

 そのため、エマに逆らえない。

 

 いまは、拘束はされていないが、「絶対に倒れるな」と命令をされて、エマを乗せて「馬」をやらされている。

 命令をされている以上、ノルズの身体は限界が来ようとも、四つん這いで歩き続けるしかなく、倒れることも許されない。

 倒れるのは、ノルズの身体の骨か筋肉が千切れるかして、物理的に動けなくなったときだけだろう。

 実際、いまも自分では、もう動けないと思っているのに、ノルズの裸体はエマを乗せて四つん這いで歩き続けている。

 

「そら、気合いだよ」

 

「や、やめ……」

 

 エマの手がさっとノルズのお尻に向かったのがわかった。

 ノルズは恐怖で引きつった。

 

「んぎゃああああ」

 

 自分でもどこにそんな力が残っていたのかと思うほどの絶叫が、ノルズの口から迸る。

 絶叫の理由は、肛門に流された電撃の激痛だ。

 ノルズの尻には、エマが施した馬の尻尾を模した淫具を挿されているのだ。

 外側は馬の房尾だが、肛門の内側部分は男性器という淫具であり、尾の付け根部分を強く握ると、内側に電撃が流れる仕掛けになっている。

 それで尻の穴に電撃を流されたのだ。

 ノルズは激痛にのたうちたくなるのを、与えられている「命令」により、強引に耐えさせられ、電撃にがくがくと全身を痙攣させながら、身体をその場で必死に回転させる。

 

「少しは目が醒めたでしょう?」

 

 エマが尾から手を離して、手綱に手を戻す。

 手綱はノルズの鼻輪に繋がっている。

 わざとらしく、強く引っ張られ、その激痛にもノルズは悲鳴をあげた。

 

「このまま今夜は、ずっと乗馬をしようね、豚。そしたら、休んでいいわよ……。ただし、鼻を天井からぶら下げられたままね。頑張ったら、足の裏の半分までを浮かせるだけで許してあげるわ。不甲斐ないようなら、床につけられるのは、足の指だけになるまで鼻輪を引き揚げるわよ」

 

 エマがげらげらと下品な笑い方をする。

 もう口惜しいという感情も沸かない。

 ただただ、終わりのない苦悶に対する恐怖があるだけだ。

 

 追い詰められている……。

 それは知っている……。

 全身からは、絶え間なく脂汗が流れ落ち、額に滲んだ汗の汁は、眉でとまらず、目の中に次々に入ってくる。

 そのたびに、目を閉じるのだが、開いていても、閉じていても、目の前にあるのはどこまでも深い深い真っ黒な闇でしかなかった。

 

 とにかく、歩く……。

 それしか考えることができなくなっている。

 

「んぎいいっ」

 

 右の乳首側のあぶみが床側に押される。

 そちら側に回れと言うことだ。

 背中の上のエマが怪鳥のような声で喚いているが、なにを言っているのか理解できない。

 

 すると、尻に激痛──。

 ノルズは絶叫して背中をのけ反らせそうになる。

 だが、刻まれている「命令」がエマを振り落としたり、歩くのをやめてとまったりすることを許さない。

 

 耐える……。

 

 左の乳首に激痛──。

 左に向きを変える。

 

 今度は右……。

 右に曲がる……。

 

 また、右……。

 左……。

 進む……。

 

 また、左……。

 進む……。

 

 今度は右……。

 

 左……。

 

 前……。

 

 両方の乳首に激痛……。

 回転だ……。

 

 痛みが緩む。

 前だ……。

 

 次は右……。

 

 左……。

 

 すべての思考が停止する。

 ひたすらに、激痛を通じて肉体に与えられる命令に従って身体を動かす。

 

 怒りはない。

 口惜しさもない。

 ただただ、与えられる指示があるだけだ。

 

 ノルズの中には、いつの間にか闘争心のようなものが完全に消滅していた。

 だが、そのことで、ふと頭になにがよぎる。

 自分はなにかと戦っていたはずだ。

 

 だが、誰と……?

 なんのために……?

 

 不思議な感覚だ……。

 一体全体、自分はなにと戦っていたのだろう……?

 ずっと、何者かと戦っていた気はするのだが……。

 勝ち目のない戦いを……。

 

 突然に鼻輪が両方引っ張られた。

 停止の合図だ。

 ノルズは悲鳴をあげてとまる。

 背中の重みが消滅した。

 エマが降りたのだろう。

 温かいものがノルズの上半身を抱きかかえ、引き寄せられた。

 

「……なにをどうやって、助けて欲しいんだい、ノルズ?」

 

 いつの間にか自分を抱き締めている女が訊ねた。

 一瞬、状況がわからなかったが、やっとノルズを抱いているのがアスカだとわかった。

 それはともかく、しばらく苦しめられていたお尻の異物がないみたいだ。

 アスカが魔道かなにかで消したのだろうか……。

 まったく気がつかなかった……。

 

 しかし、それよりも、どうやらノルズは「助けて」という言葉を繰り返していたようだ。

 その哀願は、いまでもノルズの口から漏れ続けている。

 

「た、助けて……。もう助けて、アスカさん……」

 

 確かに言っている。

 弱々しく口走っているのは、ノルズ自身に間違いなのだが、それはノルズであって、ノルズではない感じだった。

 拷問に屈して、情けない哀願をしているノルズを、いま、もうひとりのノルズがぼんやりと眺めている……。

 そんな気持ちに襲われていた。

 

「だから、なにを助けるんだい?」

 

 アスカの声……。

 とても優しい口調……。

 すべてを包み込みような……。

 

「もう……許して……。眠らせて……。ほんの少しでもいい……。お願い……。寝たい……んだ……」

 

 そう必死に告げた。

 我知らず、ノルズは嗚咽を洩らしていた。

 

「許してもいい……。だけど、その代わり、なにをするんだい、お前は?」

 

 また、アスカの声──。

 この声に縋らなければ……。

 それしか考えられなかった。

 

「なんでも……。なんでもするよ……。あんたの……奴隷に……なる……。心から……」

 

「すでに、お前はわたしの奴隷だ……。だけど、“唯一”じゃない。お前は自分の身体にパリスの隷属を刻んでいる。それを捨てるんだ。わたしの唯一の奴隷になれば、もう許してやる」

 

「そ、そんな……男……知らない……。あ、あたしの……ご主人様……は……、ロウ様……。いまはロウ様で……」

 

「わかった、わかった。そう暗示をかけられているんだったね……。じゃあ、ロウとやらを見限って、このアスカに従いな……。それで終わりにしてやろう」

 

「なんでも……従うよ……」

 

 まったく躊躇なく、ノルズはそう口にしていた。

 この絶望の闇から逃れるためなら、どんなことでも受け入れられる──。

 そう思った。

 

「ふふふ、アスカお姉様、この豚、きっちりと感じてましたよ。股がびっくりすくらいに濡れ濡れ……。きっと、わたしにいたぶられて感じていたんですよ」

 

 横から別の女の声がした。

 しかし、ノルズにはもうなにもわからない。

 感じるのはアスカのことだけ……。

 ノルズを抱き締めているアスカの手が、すっとノルズの胸に移動した。

 

「ああ……」

 

 ノルズは声をあげていた。

 いつの間にか、乳首と肉芽の金属が消滅している。

 その両方に、アスカが代わる代わる愛撫を始める。

 余りの気持ちよさに、ノルズは迸る快感の嵐のまま、吠えるような声をあげていた。

 

「誰の、なんになるのか、自分の声でもう一度言うんだ──」

 

 アスカの一方の手がノルズの局部に移動した.

 クリトリスをゆっくりと回される。

 

「ど、奴隷──。ああっ、ああああっ」

 

 気持ちいい……。

 それしかない……。

 

 すでに狂気がノルズを覆っていて、心の崩壊が始まっていたと思うが、アスカによって与えられる快感が、まだノルズが狂っていなかったことを教えてくれた気がした。

 ノルズは自分の身体が飛翔する心地になった。

 恍惚の彼方に向かって快感が浮きあがる。

 

「んああああっ」

 

 アスカの二本の指が恥部に侵入してきた。

 耐えることなど不可能だ。 

 ノルズは声を放っていた。

 体内に横溢していた欲望という欲望が、アスカによって引きあげられ……。

 暴発させられ……。

 そして、解放されていく。

 

「ノルズ、お前はなんになるんだい──。もっと、言うんだ──」

 

 耳元で怒鳴られた。

 アスカの指はノルズの秘部の中で踊るように動いている。

 気持ちのいい場所を叩くようにほぐされる。

 くすぐられ……。

 強く……。

 弱く……。

 抽走する……。

 

「はあああっ、ど、奴隷──。あたしは──。あ、あんたの、ほおおおっ、はああ、奴隷だよ──」

 

 次々に新しい快感が送り込まれる……。

 ノルズは甲高い声をあげ続けた。

 

「お前はわたしのなんだ──?」

 

 また怒鳴られた。

 

「ど、奴隷……。あたしはアスカさんの唯一の奴隷……」

 

「もっと、大きな声で──」

 

「奴隷だよ──。あたしはアスカさんの唯一の奴隷だよ──。ほかの誰かの奴隷じゃない──。あ、あんたの奴隷になる──。あんただけの奴隷に──」

 

 絶叫した。

 それとともに、一番気持ちのいい奥の部分の場所をアスカの指が弾くように動く。

 身体が溶けていくような絶頂感が全身を打ち抜き、次に快感の爆発が起こった。

 

「ふわあああっ」

 

 昇天の衝撃が全身を貫く──。

 アスカに唇を塞がれた。

 ノルズは夢中になって、アスカの舌を吸い、唾液を飲みこむ。

 それで思ったが、鼻輪もまた、いまはもうないようだ。

 鼻輪が装着されていては、それが邪魔になり、アスカとこんなに荒々しい口づけはできない。

 

「んふうううっ」

 

 ノルズはアスカと唇を重ね合わせたまま、アスカの背中に回した両腕をに力を入れ、さらに膨れあがる歓喜に全身をわななかせた。

 なにかが小さくなり、なにかが大きくなる……。

 そんな不思議な感覚がノルズを支配した……。

 

 アスカの中にノルズが溶け込んでいく……。

 それは途轍もない安堵感に違いなかった。

 すべてをこのアスカに支配される。

 なによりも勝る快感だ。

 しかし……。

 

 全身をわななかせ、ノルズは肉悦の頂点を極めさせられていく。

 だが、違う……。

 なにかが残る──。

 

 失っていはいけない……。

 なにか……。

 

 いや……。

 それを失いたくない……。

 最後の……。

 一線……。

 

 でも、気持ちがいい……。

 しかし、ノルズの知っている最大の悦楽とは、それは違っていた。

 そのことがかすかにノルズの正気を留めさせ、圧倒的な官能の暴発に襲われながらも、わずかに残る理性によって、かつて味わった「本物」と、いまの快感が異なることを教えてくれる。

 

「わたし側に来い、ノルズ──」

 

 そのとき、焦ったようなアスカの声が響いて、突然に身体を床に放り投げられた。

 

「正座をして顔を真っ直ぐに向けて動くな──。命令だ──」

 

 アスカの怒声がする。

 即座にノルズは、裸身を起こして正座になる。

 もの凄い勢いで平手が襲った。

 堪らず、ノルズの上体が大きく傾く。

 「命令」による身体の静止を、びんたの衝撃が越えたのだ。

 

「馬鹿たれが──。礼はどうした、奴隷──」

 

 髪の毛が掴まれて身体を起こされる。

 

「あ、ああっ、ありがとう、ござ、ござい……」

 

「遅い──」

 

 反対側から叩かれる。

 

「ア、アスカお姉様──。叩くのはわたしが……」

 

「邪魔すんじゃない、エマ──。これはわたしの戦いだ──。あの忌々しいパリスとのね──」

 

 また平手──。

 顔が吹き飛ぶような衝撃──。

 

「礼が遅い──」

 

 また叩かれる──。

 そして、気がついたが、叩くと同時にノルズはアスカによって回復術をかけられているようだ。それほどの後遺症のようなものはない。

 しかし、瞬間的な衝撃と激痛はすさまじい。

 

「あ、ありが──」

 

 言い終わらないうちに、平手が襲う。

 

「んぐうっ」

 

「んぐう、じゃないだろう──」

 

 さらに威力の強い平手が来た。

 ノルズは必死にお礼の言葉を叫んだ。

 しかし、容赦のない平手がそれを阻止する。

 

 右──。

 左──。

 右──。

 左──。

 右──。

 左──。

 右──。

 左──。

 右──。

 左──。

 

 延々と続く……。

 そろそろ、終わるだろう……。

 頬を張られ続けながら思う。

 しかし、その予想をはるかに超えて、びんたの連打がノルズに叩き込まれる。

 

 右──。

 左──。

 右──。

 左──。

 右──。

 左──。

 

 いつの間にか、悲鳴すらあげられなくなる。

 それでも続く。

 

「はあ、はあ、はあ……」

 

 アスカの疲れたような声が聞こえた。

 平手打ちが終わったのだ。

 アスカは、荒い息をしていた。

 

 一方でノルズは、ぶるぶると身体を震わせている。

 わけのわからない官能の熾火がぶすぶすぶと燃えて、黒々とした花をノルズの中に咲かせられた気分だ。

 

 快感……?

 不思議な気持ちだった……。

 

 いま沸き起こっているのは、さっき与えられたアスカによる絶頂の残り火ではない。

 火が出るような平手打ちを浴び続けながら、その中で燃えあがらせてしまった官能の炎だ。

 感じている……。

 ノルズはアスカに殴られながら、どうしようもなく身体を疼かせてしまっていた。

 

「……体力の限界を越えさせる愛撫責めでもだめ……。睡眠をとりあげる拷問でもだめ……。調教の屈辱も……。その先に与えられる快感の飛翔でも手ごたえがない……。こうなったら、徹底した肉体の拷問で思考を飛ばすしかないかい──。これでもかい──」

 

 顔面の横にアスカの横蹴りが飛んできた。

 顔の骨が砕けたと思うような衝撃が襲ったが、ノルズが床に倒れ込むときには、アスカの回復術が顔を治療してくれている。

 

「はがあっ」

 

 ごんという音がして額が床に打ちつけられた。

 アスカが起きあがろうとしたノルズの後頭部を上から力一杯に踏んづけたからだ。

 

「もっと叩いて欲しいだろう、ノルズ……?」

 

 ぐいぐいとアスカの足に力が加わる。

 アスカはなにかを焦っていて、とても苛立っている様子だ。

 しかし、ノルズには、そんなことよりも、自分の身体に走る抜ける得体の知れない戦慄に震え始めてしまっている。

 

「は、はいっ……。もっと叩いて欲しい……」

 

 自分の口から出たとは信じられない言葉だった。

 だが、確かにノルズは、アスカから与えられる暴力の衝撃を欲していた。

 まるで、抑えることのできない魂の叫びのようだった。

 

「……どうか、好きなだけ、ぶって……おくれ……」

 

 ノルズは正座の姿勢に戻り直して、上体をアスカに向かって傾けた。

 

「アスカお姉様、今度はわたしが……」

 

「邪魔だって、言ってんだろう──」

 

 エマが横に吹っ飛んだ。

 アスカが魔道の衝撃波を放ったのだ。

 

「まだ、抜けない──。なぜ、離れない──。お前はなんに執着してるんだい──。逃げて来い──。お前だけはパリスの呪いから脱するんだ。わたしのようになるな──。わたしのように……。お前は、まだ逃げられる──」

 

 すぐにアスカの右腕がうなるように振られる。

 倒れる間もなく、今度は右側に向かってアスカの左腕──。

 そして、左──。

 また、右──。

 乾いた音がノルズの両頬で鳴り続ける。

 

「ふふふ、手ごたえを感じてきたよ……。今度こそ、本物の快感を覚えたようだ……。どうやら、お前はこういう快感が身体に馴染むようさ」

 

 連続で叩きながら、やっとアスカがほっとしたような口調で言った。

 

 そのとおりだ。

 ノルズは感じている。

 叩かれながら、ノルズは腰を揺すぶっている。

 どうしても、我慢できない果汁がどんどんと股間から流れ続けている。

 それがわかる……。

 

 もっと……。

 もっと……。

 もっと──。

 

「もういっちょだよ──」

 

 今度はアスカが前側から顔面を蹴りつけた。

 ノルズは仰向けにひっくり返り、頭の後ろをしたたかに床で打つ。

 息ができない衝撃が襲うが、アスカの魔道がノルズを包んで、それで、すぐに楽になる。

 

「そのままにしてな、ノルズ。お前は、わたし専用の床になれ。床だからね──。腹を上にして寝そべって動くんじゃない。暴れることも、逃げることも、声を出すことも禁じる。床だ、ノルズ──」

 

 天井がおぼろげに見ていたノルズの両眼に、アスカの足がうつった。

 ずっと素足だったはずのアスカだったアスカの足に、貴族女が舞踏会で履くような踵が尖ったパーティ靴がある。

 その尖った踵がノルズの下腹部に乗った。

 

「うう、むぐうっ」

 

 ノルズは目を見開いて、歯を喰い縛る。

 悲鳴だけは噛み殺したが、アスカの体重が靴の底にぐいぐいとのしかかる。そして、もう一方の靴も胸のあいだに喰い込んだ。

 

「くううううっ」

 

 さすがに甲高い声が出た。

 

「床の分際で声を出すんじゃない、ノルズ」

 

 アスカが嗜虐的な笑いをしながら、足を踏み変えて、ノルズの下腹部に両方の足を乗せるようにした。

 

「んふうっ」

 

 懸命に声を我慢する。

 そのノルズの身体の上をアスカが交互に足を動かして歩き始めた。

 

「んぐう、んふうっ」

 

 逃げ場はない。

 ひとりの成人の女が二本の足を両方載せて、ノルズの裸体の上を歩くのだ。

 当然に、すべての体重をノルズの肉と骨で受けるしかない。

 凄まじい苦痛がノルズに襲いかかる。

 

「……アスカお姉様、わたしが……」

 

 またエマの声がする。

 だが、再び壁に叩きつけられる大きな音が響いた。

 

「邪魔するんじゃないよ、エマ──。これは、わたしとパリスの戦いだと言っているだろう──」

 

 アスカが怒鳴りながら、ノルズが横にした顔の上を踏みつけて通り抜けた。

 だが、すぐに反対側から、再びノルズの上をアスカが歩き出す。

 

 しかし、ノルズに残っている微かな意識がノルズの内心に、嘲笑を呼び起こす。

 

 なにが戦いだ。

 

 両手両足どころか、逆らう心そのものまでも封じておいて、戦いもないものだ。

 これが戦いならば、こんなに理不尽な戦いはない。

 ノルズにとって、まさに勝ち目のない戦いだ。

 

「まだ、床になりきらないようだねえ。声が出てるよ」

 

 アスカが両方の乳房の上に足を乗せて笑った。

 そして足踏みを始める。

 

「んああっ」

 

 口から迸ったのは苦痛の悲鳴ではない。

 歓喜の声だ。

 ノルズは、アスカから与えられる暴力の前に、あらゆる情感を外に弾き飛ばしていた。

 残るのは純粋な欲望の炎そのものしかない。

 踏まれ続けるたびに信じられない痛みが走るが、即座に治療術で傷は癒される。

 そのことも、疼くような激しい快感をノルズに引き起こす。

 

 身体が熱い……。

 灼けるようだった。

 アスカの足が胸側から下腹部に移動する。

 そこでも、小刻みな足踏みが始める。

 肉芽に靴の踵の尖った先端が喰い込む──。

 

「んぐうううっ」

 

 ノルズは再び絶頂していた。

 弾けるような勢いで、蜜が股間から漏れ出るのがわかった。

 

 これまでずっと耐えていたものをノルズは一気に放った。

 それは、この五日の中でどんな屈辱を受けても、どんなに正気を失いそうになっても、どんな快感で心を弾き飛ばされようとも、決して離さなかったものだ。

 だが、ついに、ノルズはそれを離していた。

 

「……解呪する……」

 

 アスカが小さく言った。

 なにか柔らかくて温かいものがノルズを包む。

 それが、大きくなり……。

 そして、すべてを覆った。

 

 いまこそ、アスカの本物の奴隷になった──。

 

 はっきりとそれを感じた。

 最後の最後まで、ノルズの心がこだわっていた絆のようなものはもうない。

 すべてがしっかりとアスカと繋ぎ直されている。

 

「お、終わったよ……。やっとパリスの刻みを解き終わった……。ああ、終った……」

 

 アスカが嬉しそうな口調で言った。

 ノルズの身体から降りたアスカがノルズを抱き起こす。

 

「手荒なことをしてすまなかったね……。だけど、なんとしても、お前が受けているパリスの洗脳の刻みを解かないとならなかったんだ……。だけど、もう終わった……。お前の洗脳は解けている」

 

 アスカが満面の笑みを浮かべた。

 そのとき、すぐそばで大きな騒音が起きた。

 

「おっ、なんだい?」

 

 アスカが驚いた声をあげた。

 横に出現したのは、大量の荷物だ。

 ノルズの魔道力が低下したことにより収納魔道の能力を失ったため、異空間に格納していたノルズの旅の所持品が外に出てしまったのだ。

 ありとあらゆるものが、雑多にうずたかくせりあがり、小屋の半分を占拠している。

 

「あ、あんたが……あたしの……ロウ様の支配を……あたしから……解いたりするからさ……。だから、能力が低下して、収納魔道が遣えなくなったのさ……」

 

 ノルズは乾いたような声で笑った。

 アスカが顔をしかめるのがわかった。

 

「……だったら、お前についても、わたしの力で魔道を底上げしてやるよ。それで収納魔道を遣い直しな……。それにしても、まだ、ロウのことを言うのかい──。洗脳は解けたはずだ」

 

 ノルズはアスカに横抱きにされたまま、アスカを見上げている顔を小さく左右に振った。

 

「も、もう……わかるはずだよ……。あ、あたしは……嘘を言っていない……。あたしを支配していたのは……ロウ=ボルグ……。あ、あんたがイチと呼んでいた男だよ。あんたから逃げた男さ……。だけど、あんたを助けてくれるのも……その……ロウだ。嘘じゃない……。し、信じて……おくれ……」

 

 ノルズは言った。

 ロウの支配は消滅したらしい。

 それがわかる。

 ロウのよって引きあげられていた能力が低下しているのを感じる。

 

 あの男は、淫魔師の力で女を支配することで、女の能力を底上げする不思議な力を持っていた。

 ノルズの能力が低下したということは、本当にロウの支配がノルズから消えたということだ。

 もっとも、だからといって、ロウに助けられたことに対する恩義がノルズから消滅したわけじゃない。

 

「イチだって……? お前、本気で言っているのかい? 馬鹿を言うんじゃないよ」

 

「ほ、本当さ……。実は……かつて、あたしも……本当にパリスに呪術をかけられていた……。死の呪いをね……。だ、だけど、解いてくれた……。ロウ様が……。だ、だから、きっと、あんたの呪術も……ロウ様は解いてくれる……」

 

「ロウ……? つまり、イチのことかい? 本当にあのイチのことを言ってんのかい……?」

 

 アスカが半信半疑という表情になる。

 ノルズは、しっかりと首を縦に振った。

 

「ロウ様だよ──。ああ、すごいのさ、ロウ様は……。それに、セックスがとても……、お上手なんだ……。きっと……、あんたも虜になる……」

 

 ノルズは、ロウとのセックスを思い出して、声に出して笑った。

 アスカに支配されたといっても、ロウに対する激しい感情も、まだ残ったままだ……。

 それは、支配をするとか、されるとか、そんなものとはまったく違う感情だ。

 

 いや、違わないかもしれない……。

 彼にすべてを支配されたい……。

 彼のものになりたい……。

 愛されたい……。

 愛したい……。

 ロウの支配を脱しながらも……。

 アスカの完全な支配に陥らせられながらも……。

 その気持ちだけは、消すことのできない純粋な想いとして、ノルズの中に存在し続けていた。

 

「どうして……。もしかして、まだ、洗脳が……? いや、違う……。洗脳は完全に解けている……。もうなにも、わたしの隷属以外の縛りはない……。だけど、なんでそんなことを……。あっ、そうだ──。ノルズ、本当のことを言うことを命じる──。嘘は禁止だ──」

 

「何度訊ねられても答えは一緒さ……。あんたを助けられるのは、ロウ=ボルグ……。あんたが恨みを抱いていたあの男だよ……。エリカ……つまり、あんたのエルスラをさらった男さ……。しかし、間違いなく、ロウという男は……あんたに刻まれている……パリスの縛りを解き放ってくれる……。何度でも言う……。あたしを信じて……おくれ……」

 

 アスカは信じられないという表情で目を見開いている。

 すると、エマがまたもや、そばに来た。

 

「ねえ、アスカお姉様、もう終わったんでしょうか? 次はわたしにもやらせてくださいな。やっぱり、アスカお姉様の責めって、すばらしいですね。人間を仰向けにして、その上を歩くだなんて」

 

 エマのおもねるような声が横でした。

 すると、アスカの顔が酷薄に微笑んだ気がした。

 

「ノルズ、お前に与えていたエマに関わる命令を解除する。魔道の制限も外す……。逆に、エマは今度は、ノルズの言葉に絶対服従……。どんなことでもするんだ。這えと言われたら這い、立てと言われたら、命令を解除されるまで立ち続けな……。そして、死ねと言われたら、死にな……」

 

 アスカが言った。

 ノルズは、驚きと歓喜で、自分の目が大きく見開くのがわかった。

 

 同時に最大の快感が込みあがる。

 この女に復讐ができる……。

 復讐を……。

 

「ひ、ひいいっ──。ア、アスカお姉さま──」

 

 エマの絶叫が部屋に響く。

 その悲鳴にアスカの笑い声が重なった。

 

「責める者と責められる者……。これが逆転するということほど、愉しい見世物はない……。前にも言ったはずだ」

 

 アスカが笑いながら言った。

 ノルズは、アスカの腕から起きあがる。

 そして、真っ蒼になって震えているエマに向かって、にやりと微笑みかけた。

 

「エマ、床に這いな……。舌を出すんだよ……。犬みたいね……。命令だ……。舌で床を舐めるように前に出せ」

 

 顔を真っ蒼したままのエマが、ノルズの言葉に慌てて床に這いつくばった。

 言われるままに舌を出す。

 

「もっとだよ──。もっと伸ばせ──」

 

 怒鳴った。

 恐怖のあまりエマがぼろぼろと涙を流しだすのがわかった。

 痙攣するように身体を震わせている。

 エマの舌が限界まで伸びて、床に密着する。

 ノルズは、魔道で床の下から床ごとエマの舌に大きな釘を突き出させた。

 

「えげえええ、えげえええっ」

 

 床と舌を打ちつけられたエマが発狂したような悲鳴をあげた。

 それでも、エマは顔を床から離すことができない。

 血を舌から流しながら、号泣して悲鳴をあげ続けている。

 

「えげつないねえ、ノルズ──。まあ、とにかく、お前がどんな仕返しをするのかと、愉しみにしてたんだよ」

 

 アスカが陽気な声で手を叩いて笑う。

 それで気がついたが、たったいままで低下していた魔道が再び増量している。

 アスカがノルズの魔道力を引きあげたのだろう。

 また、エマの口から流れる血がとまっている。

 これもアスカの魔道に違いない。

 とりあえず、ノルズは、浣腸器と大量の香辛料。そして、下剤液と木桶を残して、復活した収納魔道で、さっき飛び出してしまった荷物を亜空間に収納し直した。

 

「いまでも時間は、あんたの時間術で遅くなったままかい、アスカさん……?」

 

 ノルズはアスカに訊ねた。

 

「そうだね。約束通りに一日も経っていないよ。小屋の外の時間は、お前がわたしの拷問を受け始めた日の夕方前ってところかねえ……。まだ、夜にもなっていないよ」

 

「だったら、そのまま頼むよ。長い長い時間をかけて嬲り殺したいんだ」

 

「いいけどね」

 

 アスカが苦笑したような声で言って、そのまま壁にもたれて座り込んだ。

 そのときには、ノルズの意識はエマに戻っている。

 

「えげえええ、ぐるじてええええ」

 

 舌に釘を床の下から打ちこまれたエマが号泣している。

 

「香辛料が……たっぷりと入った下剤を……尻穴と口の両方からたっぷりと入れてやるよ、エマ──。もちろん、肛門には栓もしてやる。たっぷりともがき苦しむといいよ……。覚悟しな……。言っておくけど…、簡単に殺してもらえると……思うんじゃない……。お前が死ぬのは……、あたしがお前に復讐するのに……飽きたときだけだ……」

 

 まだ呼吸は整わないが、あれほど尽きたと感じていた気力が、みるみると沸いてくるのがわかる。

 ノルズの言葉に、エマが舌を床に打ち抜かれたまま、号泣を始めた。

 

 

 

 

(第37話『魔女と毒婦と性悪女』終わり)

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