【2025.9.5コミック発売】異世界で淫魔師ハレム【完結】 作:ドン・ドナシアン
485 消滅した闇魔道
ある日の午後だった。
後宮の中庭で長椅子に横たわって午睡をしていたサキは、違和感を覚えて目を覚ました。
「な、なんだい……?」
サキは瞬時に覚醒した。
そして、すぐに違和感の正体がわかった。
ずっと刻まれていた支配術の欠片が突然に除去されたのだ。
支配術とはいっても、事実上はなんの効果も及ぼしていない闇魔道である。
サキにそれをかけたのは、もうこの王都から消えているテレーズであり、あの女はサキを真名で支配するとともに、幾つかの魔道をサキに受け入れさせていた。
闇魔道もそのひとつだったが、実際には、真名の支配はともかく、テレーズの闇魔道程度はまったくサキに影響を及ぼしてはいなかったのだ。
だが、真名で支配されている関係で、完全に除去することもできないでいた。
問題はないものの、まるで喉に引っ掛かった小骨のように、サキに不快感を与えていたものだ。
それがなくなった……?
サキは首を傾げた。
「もしかして、あいつ、死んだかい……?」
思わずひとり言を呟いてしまった。
かかっていた術が突然に除去されるということは、術者が意図的に解いたか、術者にその能力がなくなるような事態が発生したかということだろう。
どこでなにをしているか知らないが、これまで放っていたものを、あいつが意味もなく術を解くことを思いつくとも考えられないし、そもそも、術を掛けるにしても、解くにしても、すでに王都にもおらず、遥かに離れているはずのテレーズがサキに魔道の効果を及ばせるわけがない。
そうだとしたら、死んだかだ。
死ねば術も消える。
だが、それも違う……。
闇魔道は消滅したみたいだが、真名の支配はまだまだ残っている実感がある。
テレーズは死んでない……。
「まあいいか……」
サキは立ちあがった。
いずれにしても、サキに不快感を与え続けていたものがなくなったのであれば、問題はないだろう。
だが、それよりも、思い出したことがあったのだ。
この王宮は、先日のベルズとの大喧嘩以来、完全封鎖をして、あらゆる外部との接触を遮断して、情報も人の出入りもほぼ完全になくさせていたが、その源になっているのは、ルードルフが自分でやった王家の宝具を使った支配具だ。
その支配具でルードルフに王宮内の人間の全員を操らせ、逆らうことができないようにして、この王宮全体の敷地内に全員を閉じ込めている。
王兵たちには、何人たりとも出入りさせるなと厳命もしている。
いまのところ、王宮封鎖はうまくいっていると思う。
だが、そのルードルフを支配している手段は、テレーズの闇魔道だ。
あの女がルードルフの心の中に隠れいていた兇暴な部分と、性的な鬼畜の部分を際限なく拡大し、冷酷で疑心暗鬼の王を仕立てあげ、その結果、ルードルフは勝手に自分のところの王家の支配具とやらを持ち出して、誰もルードルフに逆らうことができないようにしたというわけだ。
サキの王宮封鎖も、そのルードルフの支配具を活用して、内部の者を閉じ込めているにすぎない。
しかし、サキからテレーズの闇魔道がなくなったということは、ルードルフに与えていたテレーズの闇魔道も消滅している可能性が高い。
つまりは、あいつが正気に戻る可能性だ。
まあ、あれの場合、なにが正気だかわかりはしないが……。
とにかく、もしかしたら、面倒なことになっているかも……。
そのときだった。
ルードルフを見張らせている眷属のひとりが血相を変えた感じで、こっちに走ってきた。
「サキ様、人間族の王が──」
慌てた口調でその眷属の女がサキに叫んだ。
サキは舌打ちした。
「なにかあったかい?」
「わ、わかりません。突然に叫び始めて……。でも、様子がおかしくて……。とにかく、サキ様にお知らせしようと……」
そいつが言うには、たったいまのことだが、ルードルフが閉じ込めている後宮の一室でいきなり喚き散らし始めたようだ。
眷属も、訳がわからず、とりあえずサキに報告をしに来たということのようだ。
「わかったよ」
サキは舌打ちをして、移動術で中庭から後宮内に跳躍した。
ルードルフの部屋の前の廊下に着く。
確かに怒鳴り声が部屋の中から響き渡ってくる。
廊下には遠巻きだが、女兵に化けさせた眷属が驚いた様子で見ている。また、黄色チョーカーの人間族の令夫人たちも、ふたりほどいる。
常時発情を強要している貞操帯が外れて素っ裸だ。
令夫人どもの身体は赤いし、かなりの汗をかいているから、もしかしたら情事の真っ最中だったのだろうか?
本来、黄色チョーカーは、召使い組のつもりだったのだが、ルードルフがのべつまくなしに女を抱こうとして、十人ほどの青組だけでは足りなくなり、結局黄色組もあてがった。
いまは、ロウのために性奴隷調教を続けている赤組と、それ以外の黄色組の二組編成だ。
なんとなく、そうなったのだ。
それはともかく、突如として、ルードルフが発狂したように叫び出したから、びっくりして飛び出してきたか?
まあ、そんな感じだろう。
「そこで待ってな」
サキは言って、ルードルフの入っている部屋の扉を開けた。
テレーズが施していた闇魔道が消滅して、あの男が我に返ったなら、サキの使える支配術をもう一度掛け直すだけだ。
闇魔道そのものとは違うから、テレーズが施していた状態とまったく一緒というわけにはいかないが、大人しくさせるには十分だ。
すると、部屋の中には、いまだに服を身に着けずに寝台の上で頭を抱えているルードルフがいた。
「おやおや、参ったねえ……」
サキは、思わず呟いた。
もしかして、これは完全に我に返ってしまったか?
目の前の男は、このところずっと、人が変わったかのように、悪王そのものになっていたが、それはテレーズによる感情の操りが前提だった。
テレーズがこいつの感情を操作して、都合がいいようにルードルフの兇暴性を現出させて行動を操作していたのだ。
それが、テレーズの闇魔道が停止したために、本来の感情がルードルフに戻ったということだろうか……?
なんとなく合点がいった。
悲鳴をあげてうずくまっているこの男は、闇魔道が消滅して、性格が元に戻ったということだろう。
それで、一気に恐怖に襲われたに違いない。
なにしろ、支配されて感情を操作されていたとはいえ、それが解けても、記憶が消滅するわけじゃないのだ。
いや、それよりも、支配をされていたという自覚すらないだろう。
闇魔道の影響とはいえ、あの兇暴性もまた、ルードルフの本来の性質そのものなのだ。
テレーズは、それを増幅したにすぎない。
凶暴さを心に隠していない者を闇魔道で兇暴にすることはできない。
だから、あの蛮行もまた、ルードルフが自覚のもとやったことということだ。
いずれにしても、元来、この男は小心者だ。
自分がいままでやって来たことについては記憶にもあり、それを自ら望んでやったという認識があるはずだ。
操られていたとも考えないだろう。
とにかく、それで一気に小心者の感情が支配し、自分のやったことの恐ろしさが襲ったか……。
つまりは、王都住民に対する突然の不当な重税──。
また、王宮の多くの大臣や将軍の魔道具による精神支配……。
商業ギルドの破壊と重鎮たちの処刑──。
二公爵の残酷な晒し刑──。
なによりも、王都で人気の神殿長スクルズの処刑──。
さらに、王都に所在していた貴族夫人や令嬢を人質として後宮に監禁し、思うままに、性的にいたぶって遊び狂ったこととか……。
まあ、令夫人と令嬢集めは完全にサキのやったことだが……。
とにかく、これだけやれば、国王として自分が、これからどうなるかということはわかるはずだ。
もっとも、テレーズやサキは存在しない感情を作りあげたわけじゃなく、自制心を弱め、この男の好色や冷酷さを増幅しただけだ。
そしたら、こうなったのだ。
それにしても、国王がこれだけ悲鳴をあげているのに、誰ひとりやって来ない。
犯していたらしい黄色組の夫人ふたりは逃げていったみたいだし、助けようとする部下は近くにはいない。
サキが近寄らせないように処置しているからだが、いたとしても、もはや誰も、こいつを心配したり、助けようとすることはないだろう。
それがこの男の立場を一番物語っている。
すでに、こんな男を守ろうとする者などおらず孤立無援だ。
まず、ここは後宮なので、この男以外は女しかいない。
そして、サキがさせたことだが、この男が抱いていた真の欲望を剥き出しにさせて、侍女であろうと、召使いであろうと、警護の女騎士であろうが、好きなように犯させた。
それでみんな逃げてしまったのだ。
男の大臣や官吏たちは本宮側だが、必要な指示はこっちから一方的に送って、そいつらにやらせていた。
逆らわないように王家の操り具で大人しくさせているから文句も言わないが、逆に言われたこと以外は消極的だ。
いずれにせよ、もう、閉じこもっている王のことを心配などしないだろう。
かなり、逃亡したとも耳にしてるが、面倒なので、大してサキは把握してない。
いまは、自由な出入りは全部禁止にさせている。
いずれにせよ、ルードルフが我に返ったなら、王宮側にいる人間族の支配がどうなっているか……。
あいつらを全部支配し直すのは面倒だ……。
いままで通り、ルードルフに操らせて、ルードルフだけをサキが言いなりにするのが、一番手っ取り早いんだが……。
とにかく、いまさら面倒なことは避けたいし、こいつが我に返った以外は全部順調だ。
こっちの後宮にいるのは、黄色と青組を混ぜたとはいえ、サキが連れてきた半裸の貴婦人どもだけであり、そいつらについては、四六時中、貞操帯の微弱な振動で苛み、媚薬で発情状態にしながら働かせている。
若い令嬢たちを中心とした赤組も、いまや積極的に性修行に励むようになっていた。
性修行以外の後宮運営も問題ない。
黄色チョーカーの貴婦人たちに指図をしているのはサキの眷属の雌妖魔たちだが、最初こそ、下仕事に慣れてない貴族女たちばかりで、労働させるのは苦労したようだが、一生懸命やれば、定時の排便排尿の時間以外でも貞操帯を開放して、自慰を許すようにしたそうだ。
なにしろ、ずっと身体が疼いている状態なので、時折発散させないと狂ってしまう。
それにより、働きがよくなったらしい。
また、股間は封印しているが、乳房は逆に剥き出しだ。
性欲に狂っている貴婦人たちは、暇さえあれば、自ら胸を刺激して、発散できない性の疼きを解消もしているようだ。
最近では、胸いきできる女も増えているようだし、召使い役の女たちには乳首に鈴をつけさせているのだが、家事の合間に胸揉みをする女たちによって、あちこちでちりんちりんと鳴っている。
いずれにせよ、ロウが国王になって出迎える支度は着々と整っている。
いまさら、かき乱されてたまるか──。
「陛下、大丈夫だ。問題はないぞ」
とりあえず、言ってみた。
あのテレーズは、この言葉でテレーズの闇魔道が浸透し、一切の心配事が消失するようにルードルフに暗示をかけていた。
テレーズの闇魔道がなくなったいま、感情を操作することができなくなったために、効果は期待できないが……。
「サ、サキなのか──」
がばりと顔をあげた。
「そうじゃが……」
「貴様、余に仕返しに来たか──」
いきなり、目の前に眩い光が炸裂して何も見えなくなる。
同時に身体が床から離れ、背中を壁に叩きつけられた。
なにが起きたかわからない。
「ぐがっ」
サキは頭を振った。
おそらく、至近距離で強力な攻撃魔道を受けたのだと思う。
視界が少し戻ると、眼を血走らせたルードルフが絶叫をしながら、まったく関係のない壁に向かって衝撃魔道を放っていた。
轟音がして魔道が炸裂する。
壁に大きな穴が開く。
「刺客じゃ──。刺客がおる。誰ぞ、おるか──。余を暗殺しようとする刺客だ──。誰か──」
ルードルフが絶叫して、今度は天井に魔道を放った。
吊ってある燭台が落ちて、床に当たって砕け散る。
やっとわかったが、ルードルフは赤ん坊の頭ほどの魔道球のついている大きな杖を持っている。
ルードルフなど、大した魔道遣いではないので、すっかり油断してしまったが、おそらく、あれは王族の魔道具だろう。
あの魔道具で、怖ろしいほどの魔道の効果の増幅を図っているのだと思う。
だが、いくら油断したとはいえ、サキともあろう者がルードルフ如きの魔道を喰らって倒れるなど──。
かっと血が昇る。
「なにをするか、ルードルフ──」
サキは立ちあがった。
だが、サキの上半身の服が真っ赤だ。
顔からの血の匂いがする。
おそらく頭をかなり切ったのだと思う。
サキでなければ即死だったろう。
「そこにおったか──」
ルードルフの杖が向く。
衝撃波が飛んでくる。
しかし、サキはそれを片手で払った。
油断さえしなければ、喰らうはずのない魔道だ。
杖から放たれた魔道の塊がサキに跳ね返されて、壁にぶち当たり、大きな衝撃を与える。
「ひいいいっ」
魔道を返されたことで、ルードルフは今度は顔を引きつらせて悲鳴をあげた。
もしかしなくても、自分のやったことに恐れおののいて、頭の線が何本が切れてしまったか……?
ぶち殺してやりたいが、この男はロウを王にするための大切な生贄だ。
死なすわけには……。
「た、助けてくれ、サキ──。お、お前や女たちを痛めつけるつもりなどなかったんだ。物狂い──。なぜか、物狂いしてしまって……。おう、そうだ。テレーズだ。あいつが全部悪い──。テレーズは死刑だ。それで許せ──よ。余を許せ──」
ルードルフが今度はぼろぼろと涙をこぼして泣き始めた。
なんだ、これは……。
完全に感情の統制を失った感じだ。
しかし、こいつに直接になにかをされた記憶はないがな……。
まあ、我に返ったついでに、記憶だったぐちゃぐちゃになっているのか?
とにかく、こいつは……。
「テレーズは死んだ。自殺したぞ。自分の罪を悟ってな……。お前も大人しくせい」
逃亡したと教えても、むしろ面倒だ。
サキは嘘をついた。
「ひいっ」
なぜか、ルードルフが短い悲鳴をあげた。
「とにかく大人しくせい……。それを寄越せ──」
サキはルードルフに近づいて、杖を奪おうと手を伸ばす。
ルードルフががたがたと震えている。
完全に常軌を逸している。
「余は……余は……余は……」
大きな杖を握りしめるようにして、ルードルフは真っ蒼な顔をしている。
そのときだった。
廊下に通じる扉が小さく外から叩かれた。
「あ、あの……へ、陛下……、どうかしましたか……。サキ様も大丈夫ですか……?」
入ってきたのは上気した顔をして、上半身が裸で下半身に貞操帯だけを身に着けているふたりの貴婦人だ。
さっき垣間見た黄色組の女たちだが、確か公爵家かなんかの夫人だったと思う。
あまりにも激しい喧噪に、さすがに心配になったのだろうか?
でも、さっきは遠巻きに見てただけだったが、なんでわざわざ?
「うわあああ」
だが、そのふたりが入って来たとき、恐怖で狂ったようになっているルードルフが絶叫して、杖を向けた。
「ひいっ」
「きゃあああ」
攻撃魔道が放たれようとしていることがわかったのか、ふたりが悲鳴をあげて、その場に腰を抜かしたようにしゃがみ込んだ。
「いかん──」
間に合わない。
サキはとっさに手を出して、魔道の進撃方向を阻む。
「んがああっ」
放たれたのは火炎魔道だった。
サキの手に弾かれて、火炎球がほんの少し逸れて、夫人たちの横を抜けて、壁を黒焦げにした。
その代わり、サキの手は火炎に包まれる。
サキは呻き声をあげた。
「サ、サキ様──」
「ひいい、サキ様──」
夫人たちが絶叫した。
「出てけ──。見てのとおりだ。王は狂っておる。誰も近づくな──。ほかの者にも言え──」
叫ぶ。
同時に足を振りあげて、ルードルフの横顔に蹴りを叩き込んだ。
「んげえっ」
ルードルフの首がほとんど反対側まで曲がり、寝台の上から落ちる。
魔道球の付いた杖が転がった。
「なにをしているか──。逃げんか──」
まだ、しゃがみ込んだままの夫人たちに声をかけながら、杖に向かって駆けよる。
「は、はいっ」
「はいっ」
夫人たちが扉から逃げていくのが横目で見えた。
一方で、床に転がったルードルフが、這いつくばるようにして、杖に手を伸ばした。
だが、サキの方が早い。
杖を足で踏みつけて、砕き潰す。
「ひいいい」
それを見て、ルードルフが尻もちをつくように、仰向けになった。
ふと見ると、剥き出しの男根が情けないくらいに縮こまっている。
「よくもやってくれたな、ルードルフ……。楽に死ねるとは思うなよ……」
ルードルフにゆっくりと寄っていく。
火炎弾を喰らった手がじんじんと痛んだ。
最初に喰らった頭への衝撃もまだ残っている。
まあ、放っておけば一日もすれば治療も終わると思うが、二発の近距離からの強力魔道の被弾は、さすがにきつかった……。
サキは、自己治療魔道があまり得意ではないので、人間族のスクルズやベルズがやるみたいに、瞬時に傷を完全に治すということまではできない。
だから、この男への怒りにはらわたが煮え返るが、ここで殺してはなんにもならない。
ロウのためだ。
サキは必死で自制した。
「ゆ、許してくれ。本気ではなかった……。余が悪かった。殺さんでくれ……。なあ、頼む。余とお前の仲だろうが……」
「どんな仲じゃ──」
大渇して、肩を蹴り飛ばした。
「ぼげっ」
そのままひっくり返り、頭を床に打ちつけて、ルードルフが変な声を出した。
髪の毛を掴んで持ち上げ、寝台に向かって投げ飛ばす。
「ふがっ、がっ」
身体のどこかを打ったのだろう。
ルードルフが悲鳴をあげた。
「もういい。
寝台に投げ飛ばしたルードルフに駆けていき、頬を三発ずつ平手を喰らわした。
怪我をした手で平手をしたことで、サキの手から血が飛び散るとともに激痛が走るが、いまはこの男に対する怒りでいっぱいだ
ぐったりしたところで、仮想空間から魔道封じの首輪を出して、ルードルフの首にかけた。
そして、この部屋だけなら自由に動けるほどの長い鎖を出して、寝台の脚に括りつける。さすがに、もう何発も殴ったので、ルードルフも大人しくなる。
サキは大きく息を吐いた。
そして、この部屋のもう魔道具を隠していないかどうかを探知する。
すると、幾つかの魔道具が隠されていることがわかった。
それを注意深く探して、片っ端から仮想空間に入れていく。
これもロウへの贈り物だ。
かなりの強力な防護具や攻撃具などだ。
「た、頼む……。ゆ、許してくれ。み、みんなに謝罪を……。そ、そうだ。余は王をやめる……。それで余のやったことを全員に謝罪を……。そ、そうだな……。余は小さな領地をもらって引退しよう……。王はイザベラだ。それで、イザベラの相談役として……」
「なにを虫のいいことを考えておるか──」
殴りつけた。
これ以上思い切り殴ると、死んでしまうかと思ったので、かなりの手加減は一応した。
それでも、ルードルフがぐったりとなる。
しかし。すぐに顔をあげる。
「だ、だったら、なにもいらん。ただの貴族として……」
もう面倒くさい。
サキは、今度は黙って頬をひっ叩いた
「ふぎいっ──。な、ならば……、た、ただの農民として……」
「やかましいわい──。もう喋るな──。お前の役目は、辺境軍を率いてやって来る主殿に殺されて、王位を引き渡すことじゃ──。それまで、ここで、好きなだけせんずりでもかいておれ──」
手を伸ばして、ルードルフの睾丸を握って軽く握ってやった。
「んぎいいいいいっ」
ルードルフが悶絶して白目を剥いた。
「んん? 軽くと思ったが、ちょっと力を入れ過ぎたか? まあいい。死んではおらんだろう」
サキは立ちあがった。
そのときだった。
再び扉から、人の気配がしたのだ。
視線を向ける。
そこにいたのは、恐々と扉の隙間から、こっちを見ている女たちだった。
さっきやって来た公爵夫人たちもいるし、ほかの者もいる。
十人くらいがそこに集まっていた。
「なんじゃ?」
サキは声をかけた。
すると、前側にいる女たちが、ルードルフが気絶をして、寝台に倒れているのを確認してから、扉を全開にあけた。
「だ、大丈夫でしょうか──?」
女たちがサキに向かって駆けてくる。
なんだ?
なにが大丈夫なのかを訊ねたのか、ちょっとぴんとこなかったが、とりあえず頷く。
「問題ない。こいつは魔道封じの首輪をつけて大人しくさせた。だが、気をつけよ。なにをするかわからんぞ。もう、こいつの世話はいい。危険じゃ。わしの直接の部下に任せる」
言葉をとり繕ろうのはやめた。
一応は、まだ寵姫ということになっているはずだが、すでに滅茶苦茶しているから、すでにこいつらの恨みつらみも、サキにも向いている思うし、すでに、ただの寵姫でないことには気がついるだろう……。
「あの、とりあえず、治療を……」
女たちがさっとサキを囲んで、王から守るように廊下に出した。
そして、治療箱のようなものを持っている何人かが、廊下に出たところで寄ってくる。
「治療?」
意外な言葉を聞いたと思った。
確かに負傷をしているが、こいつらがサキの治療をしようと思うとは考えなかったのだ。
「そのまま、ゆっくりと腰をおろしてください。こんなところで申し訳ありませんが、とりあえず、傷を治療した方が……」
サキは何人かに支えられるように、廊下の床に座らさせられ、夫人たちが膏薬や布当てなどをサキに施しだす。
ちょっとサキは面食らった。
「……あ、あのう、わたしたちは言いません……。サキ様があの悪王に手をかけたことは誰にも言いません。言いませんから」
「そうです。皆で口をつぐみます。とにかく、あの悪王はまだ健在ということにしましょう。外に出してしまっては、サキ様が大逆罪に問われます。ここに閉じ込めておきましょう」
「それと、わたしたちを助けてくれて、ありがとうございます。わたしたち、サキ様があの王に拷問をされながら、泣く泣くわたしたちを苛めるふりをしていたことを知っています。サキ様の気持ちはよくわかっています」
「はい、だからこそ、全員が助かる方法を考えましょう。もちろん、サキ様だけが犠牲になることはありません」
「みんなで話しましたが、とりあえず、あの暴王の怪我を治療させましょう。さもないとサキ様が王に手をかけたことがばれてしまいます。そのうえで、ゆっくりと毒かなにかで、死なせてはどうでしょうか」
「それにしても、このままでは、いつかわたしたちは、ここから出ないといけないのですね。そんなのは嫌です。どうしたらいいのでしょう、サキ様?」
「そ、そうです。それが心配なのです。わ、わたしたちも、娘たちのいる奴隷宮に行けないでしょうか? 調教も受けますし……」
夫人たちが口々にわけのわからないことを喋り出した。
サキは首をひねった。
*
なぜ、テレーズがかけていた闇魔道が消えたかについては、また、別の物語ということで……。