【2025.9.5コミック発売】異世界で淫魔師ハレム【完結】 作:ドン・ドナシアン
サキは唖然としていた。
目の前では、ここに集めた大勢の女たちが集まり、今日の調教の反省会という奇妙な話し合いが続いている。
指名をされたひとりひとりが、今日の調教の成果を口にし、これからどんな調教に励んで天道様、多分、ロウのことを言っているのだと思うが、そのロウに気に入られる淫女になるのかという目標を口にするのだ。それに対して、周りの者が助言や意見を言い合ったりする。
そんな奇妙な集会が続いている。
「な、な、なんだこれ、お前たちがやらせているのか?」
サキは小さな声で言った。
この奴隷宮の管理を総括させているサキの眷属のひとりであるラミダナは首を横に振った。
「とんでもない。勝手にやりだしたのだ。集会だそうだ。連中は祭儀だと呼んでいるようだ」
「祭儀だと?」
サキは人族の習慣に詳しいわけではないが、祭儀というのはスクルズのような巫女が務めている神殿で行う信仰のための儀式のことをいうはずだ。
つまりは、これは連中の信仰の儀式だということか?
後宮で拡がりつつあった奇妙な信心行為が、あっという間に、こっちの奴隷宮に影響を及ぼしたのだろうというのは間違いないが、これはなんとなくサキが目指していたものとは違うかなあと思ってしまった。
このラミダナの物言いじゃないが、なにかおかしい。
集めている令嬢どもは、ロウへの贈り物なのだが、こんなのをロウは喜んでくれるのだろうか。
ちょっと不安になった、
とにかく、その「祭儀」が続いている。
中心にいるのは、さっきまでここで淫靡な調教を受けていた令嬢や貴婦人たちであり、当然ながら全員が全裸だ。
ほとんどの者は、まだ身体が赤く上気して火照っており、肌にはべっとりと汗や涙や涎、あるいは、股間から垂れている愛液などがまとわりついていて、淫靡な香りも凄まじく、また、その裸体の上に生々しい鞭痕が残っている者が半数以上であり、妖魔であり同性のサキの眼で見ているだけでぞっとするほどに艶めかしい。
裸体は、三十数名の赤チョーク組と同数程度の青チョーク組だ。
その周りには、召使いの装束を身に着けている貴婦人たちが取り巻いていて、ほとんど全員が青チョークだ。この間まで、黄色チョークを着けさせていた者も多数いたはずだが、調教を受けることを条件に、ことごとく青に変わったようだ。
この連中も、たまたま今日は家事をしていたが、明日には交代で調教を受けるのだろう。
黄色チョーク組で調教を希望する者については、青チョークに変えて調教参加を許したとラミダナが言っていたが、どうやらほとんどの者が青チョークになっている。
いまでも、かなりの人数が集まっているが、祭儀が続いているいまでも、家事を中断して参加しにきているのか、青チョークはまだまだ続々と部屋に入ってくる。
集まる者に、黄色チョークはほとんどいない。
結局、どうやら、残っている黄色チョークは、前に立つ公爵家のフラントワーズや、サキが夜会などで接したこともあるボードワール侯爵夫人など五人だけのようだ。
この集団の中では年配にはなるのだろうが、まだ四十代か、かろうじて五十歳に届いているくらいであり、見た感じ、まだまだ女として瑞々しい感じだ。
黄色チョークにはしているが、ロウは女の好みにはうるさい方ではないので、ああいう年増も気に入るかもしれないと思って、ここから追い出さなかった。
基本的には、生娘集団の赤チョークが贈り物の本命だが、ここに残しているのは、どいつもこいつも、全て、ロウの性奴隷候補なのだ。
「……以上です」
いま喋っていたのは青チョークで調教を受けていた女だが、彼女の番は終わったらしい。
「よい心掛けです。青チョークは天道様のお手はつかないかもしれませんが、天道様を想うことはできます……。天道様をお慕いすることそのものが、天界から戻って、わざわざわたしたちに言葉を残してくださったスクルズ様のお導きなのです。報いがなくても頑張りましょう」
祭儀を進めている公爵夫人のフラントワーズが言った。
青チョークの大半が大真面目に頷いている。
また、フラントワーズは手に小さな小冊子を持っている。薄い本のようだが手作りのようだ。
また、続いている祭儀において、反省の言葉を述べるのは、全員という感じではない。
フラントワーズが適当に指名をして当てている。
いまのところ赤チョーク組と青チョーク組が五人ずつくらい指名を受けている。
次に指名されたのは、赤チョークの若い令嬢だ。
サキも記憶しているがエリザベスという公爵家の娘だ。
公爵家を潰したとき、女はことごとく全裸にして荷駄馬車に載せて、ここに連れてきたが、小生意気にもサキにくってかかってきて、張り飛ばしたのを覚えている。
しばらく見ていなかったが、かなり大人しくなっている感じだ。
「ア、アンジュ―公爵家のエ、エリザベスです……。きょ、今日は青チョークの皆様と……しょ、触手の池で感度の開発をしました……。わ、わたくしは赤チョークとしては、か、身体の淫らさが足りないので……」
そのエリザベスが立ちあがった。
足元がふらついている。
どうやら、調教のための触手の池に浸かりすぎ、全身が脱力しているらしい。息も荒いし、立つのもかなりつらそうだ。
そのとき、前にいる黄色チョークのうちの比較的若い女が口を開いた。
若いといっても四十歳くらいだが、エリザベスの母親だ。
名はマリアのはずだ。
まあ、だが、さすがは公爵家だろう。平素から身体の手入れに怠りないようであり、まだまだ女として十分に価値がある身体と見た目をしている。
それはともかく、そのマリアが口を挟んだ。
「エリザベス、家名を名乗るのはやめなさい。すでにアンジュー公爵家はありません。いずれにしても、ここにいるのは、すべて天道様にお仕えするために集められた女として平等なのです……。身分をひけらかすような真似はやめるのです」
そのマリアが厳しい口調で言った。
エリザベスははっとしたような表情になる。
「そ、そんなつもりは、お母様……。あ、あの、癖になっていて……。もうしわけありません、皆さま……。改めて、エリザベスです……。きょ、今日は身体の開発をしました。み、皆さまに追いつているかどうかはわかりませんが……、あ、明日からも頑張りたいと思います」
エリザベスは座ろうとした。
しかし、マリアがそれを阻んだ。
「まだです。待ちなさい、エリザベス──。お前は自分が口にしたとおりに、まだ未熟です。夜の自主調教はどうするのです──」
「で、でも、お母様、もうわたくしは身体がくたくたで……」
エリザベスが泣きそうな顔で言った。
「いいわけはやめなさい。それは全員が同じです──。それでも天道様にお仕えするために全員が努力しているのです。お前は人一倍励まなければならないのに……」
「まあ、お待ちください、マリア様……」
そのとき、フラントワーズが口を挟んだ。
「……娘だから厳しくしたい気持ちはわかりますが、過度に身内に厳しいのも、逆に身内びいきというものです」
「申し訳ありません、フラントワーズ様……」
マリアが頭をさげた。
一方で、まだ立ったままのエリザベスは余程に疲労困憊しているのだろう。内股になり、腿を擦り寄せるようにしている脚の膝が少し震えている。
見ていると、股間から垂れている愛液が足の指まで垂れている。
まだまだ、かなりの淫情状態らしい。
それにしても、なんなんだ、この茶番劇は……。
いや、茶番ではない。
この連中はどこまでも真剣だ。
それが伝わってくるだけに、ちょっと怖い。
人族の信仰というものに触れるのは初めてがだ、これがそれなのか?
ラミダナが怖いと言うのはよく理解できた。
それにしても、先日奴隷宮に、死んだはずのスクルズがのこのことここに現れたことから端を発して生まれた奇妙な信仰もどきは、もの凄い勢いでこちら側の奴隷宮を席巻してしまったらしい。
最初に信仰もどきに染まった連中については、スクルズが無意識で発したらしい光魔道が、ここで虐げられていた者の一部に心の底からの幸福感を呼び起こしてしまい、それがスクルズが生き返ったと誤認したことによる「奇跡」に接したことから、なぜか連中に不思議な信仰心を芽生えさせてしまった。
また、スクルズは、向こうで貞操帯による焦らし責めで四六時中苦しむ者のために、触れれば快感が発散できるというディルドを置き土産に残していったのだが、それが必要だった向こうの連中は、焦らし調教の苦しさから逃れるために、進んでその信仰に参加もした。
いま前に立っているフラントワーズが、スクルズの残したディルドに触って焦らし責めの苦しさから逃れて快感を得るためには、信仰に参加することを条件にしたからだ。
それで、向こうではあっという間に信仰もどきが広まった。
それは知っている。
その連中をここに混ぜたので布教活動をしたのだろうが、まだ数日だ。
ここまで影響を与えるか?
「……いや、これは……?」
しかし、サキはあるものに気がついて、思わず呟いた。
気がついたのは、集まっている連中の全員になんらかの魔道の影響が見えることだ。
これはスクルズの発した光魔道か……?
「なにか言ったか、サキ様?」
ラミダナがサキに視線を向ける。
サキは「なんでもない」と首を横に振ったが、じっと連中を観察してみた。
いや、確かに連中にはなにかの魔道の影がある……。
間違いない……。
そんなに強い魔道ではないが、それがこの連中を極端に信心深い状態にしている?
この全員に薄く拡がっている魔道の痕跡のようなものはなんだろう?
もしかしたら、前にいる連中が、その「信仰」を拡散するために魔道を拡げている?
サキは訝しんだ。
しかし、感じるのは洗脳魔道のような闇魔道ではない。
もっと違うものだ。
むしろ、光魔道……。
また、スクルズか?
いずれにせよ、それがなにかはわからないが、一体感というか、心の共有を促進するという感じの魔道に思える……。
だが、人間族の貴族の連中に魔道を嗜む者が多いのは知っているが、この宮殿内の敷地では限られた者以外は魔道を遣えない。
だから、洗脳魔道も効果を持つわけがないのだが……。
とにかく、もう少し観察してみようと、サキは目の前の祭儀に集中した。
祭儀ではまだエリザベスの「反省の言葉」というのが続いていて、そいつがひとりで立っている。
「あ、あのう……」
そのとき、ほかの令嬢が手をあげた。
最初に反省を述べたアドリーヌといかいう令嬢である。
令嬢の中でも、清楚な雰囲気がする美少女であり、サキが最初から目をつけている娘だ。
「なんでしょう、アドリーヌ?」
フラントワーズがアドリーヌを指名した。
「エルザべス様に限らず、夜の自主調教は、どうしても体力的につらい者もおります。それは仕方がないと思うのです……。だから、天道様にお仕えするために女を磨くためになる別のことをしてはどうかと……」
「別のこと?」
マリアが口を挟んだ。
「はい──。あ、あの、わたしは以前からエリザベス様がとてもお綺麗でお美しく、特に身のこなしや衣装の着こなし、女性らしい仕草が素晴らしいと思っていました。調教によって淫らさを身に着けるのも大切ですが、天道様に気に入っていただけるには、そのような外見の美しさや優雅さも必要かと……。だから、夜の自主調教がお辛い方は、その代わりに、天道様に気に入ってもらえる身のこなしや着飾り方、化粧の仕方などの勉強会をしてはどうかと……」
「なるほど」
フラントワーズが声をあげた。
「女の外見を磨く勉強会──。それはいいですね。エリザベス、お前はそういうものが得意でしょう。若い組の者にそれを教えなさい。それだけでなく、天道様にその気になっていもらえるようないやらしい服の脱ぎ方なども研究しなさい。それなら、体力がなくてもできますね。明日、今夜研究したことを発表するとともに、いやらしい脱衣も披露なさい。それをもって、自主調教に変えるといいでしょう」
フラントワーズが続けて言った。
エリザベスはほっとした表情になった。
「わかりました。では、まずはわたくしとともに、触手調教を受けた赤チョークの者と一緒に研究会をします。ほかにも希望する方がおられればどうぞ……」
エリザベスがしゃがむ。
そのとき、助け船を出してくれたアドリーヌに、お礼をするように小さな会釈をした。
「……では、全体反省会についてはこれで終わります。発表しなかった者についても、夕食前の各組ごとの話し合いのときに、ほかの者に今日の成果と明日の目標について披露することにしなさい。毎日の切磋琢磨──。これが天道様にお仕えする者の務めです。では、続いて祭典に入りましょう。マリア……」
フラントワーズがマリアに呼びかけた。
マリアが集団の隅にいた青チョークに合図をする。
彼女たちが数名、広間の外に出ていく。
なにかが、また始まるようだ。
サキはラミダナに視線を向けた。
「この連中はいつから、これを?」
「サキ様が後宮から黄色チョークの集団をこっちに寄越してすぐだ。なんか勝手に始めだして。やめさせる理由もないから放っているけど、だんだんと変な感じになっていくし、なんだか狂気じみているだろう? サキ様、人族というのはこういうのが普通なのか?」
「そんなわけないだろう」
サキは吐き捨てた。
すると、ラミダナが溜息をついた。
「そうか……。この数日は調教のときの様子も変わってきてな……。以前とは異なり、鞭打ちや電撃をありがたそうにするのだ。天道様にお仕えするための修行だといってな……。ちょっと怖いぞ」
「そうだろうさ」
サキは言った。
だが、サキも困惑している。
こんな風になるのはまったくの予想外だったのだ。
この奇妙な光景をロウが目の当たりにしたらどうなるのか……。
せっかくのロウの贈り物なのに、ロウもまた奇妙だと思ってしまったら、ロウに褒めてもらうというサキの思惑が水の泡になるのだが……。
「……それにしても、さっきから天道様と呼んでいるのは、
「サキ様があの連中に、ロウ様にお仕えするのだと教えると、何人かがそう呼び始めて、あっという間に正式の呼び方になったみたいだ。あたしも知らないけど、古い言葉で“天道様”というのは、“クロノス”という意味があるらしいな」
「へえ……」
サキは言った。
そのとき、広間の外からさっき出ていった数名の青チョークの女たちが、小さな車の付いた台車二台を運んできた。
いずれも真っ赤な布が置いてあり、ひとつは以前サキも見たスクルズの木彫りの人形が置いてある。そのスクルズ人形の横に新しい像があるが、ここからは遠くてわからないものの、あれはロウの彫像に見える。
また、もうひとつの台の赤い布の上にもなにかが置いてあり、その上に白い布が被せてある。
間違いなく“あれ”だろう。
それにしても、今度はなんだ?
その祭壇のようなものが運ばれると、フラントワーズがずっと手元に持っていた小さな冊子を開いた。
それを合図にするように、後ろで立っていた調教係の雌妖たちが集団の後ろに加わる。
サキは首を傾げた。
調教をする者と受ける者がああやって一緒に並んで座るというのに、奇妙さを覚えたのだ。
「……調教係の雌妖たちは昨日くらいから、ああやって集会に参加するようになったのだ……。駄目だという理由もないし……」
ラミダナが困ったように言った。
「なんだと?」
サキは両眉をあげた。
そのとき、フラントワーズの声が広間に鳴り響いた。
「……では、今日も天道様の行われた奇跡について勉強しましょう。これは、冒険者ギルドに出資もしておられたランジール夫人からのご提供の情報です……。天道様がこの王都にやって来られてすぐのことです──。天道様はこの王都の地下水路に巣食う大ラットを操り、何百匹も一度に退治するという奇跡を行われました。そのときの話です……。では、教典を朗読します……」
フラントワーズがずっと手に持っていた冊子を開いた。
その瞬間、その冊子からなにかの不思議な力が目の前の令嬢や貴婦人たちに注がれたような気がした。
「あっ、これは──」
サキははっとした。