【2025.9.5コミック発売】異世界で淫魔師ハレム【完結】 作:ドン・ドナシアン
王都内の全市民に向けて、あの教典の朗読を流すだと?
映録球に記録を刻んで……?
「冗談ではない」
サキは思わず言った。
「冗談などではありません。もちろん、教典を拡めるためには、映録球に興味を持ってもらわなければなりません。ですから、出回らせる映録球には、若い者たちの痴態を映し込ませます。元貴族令嬢たちの破廉恥な姿など、王都の市民にとっては良い娯楽でしょう。あっという間に複製もされるくらいのものに仕上げてみせます。若い者たちにしても、信仰のためと説明すれば、否とは言いません」
若い娘たちの痴態だと──?
まあ、確かに娯楽だろう。
複製も可能なようにしておけば、そんなものは一度世に出せば、あっという間に王都のみならず、近隣にも伝わっていく気もする。
勝手自由ということにすれば、行商人たちも地方に運んでいくかもしれない。
だが、そんなことをこの女は令嬢たちにさせるつもりなのか──?
「そういう問題ではない。そもそも、なんのためだ?」
サキは強い口調で訊ねた。
しかし、フラントワーズは大して動じた気配もなく、柔和な微笑みを浮かべただけだ。
「なんのためとだと質問なさるのですか? そのようなこと自明の理ではありませんか。天界から復活された救世主のスクルズ様の言葉をできるだけ広く伝えたいのです。ロウ=ボルグ卿こそ、我らが主、すなわち、
「スクルズはそんなこと託さん──」
サキは呆れて怒鳴った。
また、考えたのは、
あの教典には、いわゆる「魅了の術」と似る緩やかだが洗脳効果がある。
いまはまだそれほどでもなく、教典に接した者の全員に影響するわけじゃないが、それでも、おそらく、耳にした者を信じやすくする効果くらいはある。
また、この教典は、現時点においても、スクルズの言葉を心の底から信じるここの信者たちのために、かなりの言魂の強化がされている。
信者が増えれば増えるほど、この言魂はさらに強くなる可能性もあるだろう。
多分、そうなる。
まあ、映録球ならば直接には教典には接しないので、その教典に言魂が重なりかかるということはあり得ないが、この教典が世に出ることで、強力な洗脳具になる可能性を作ることになってしまう。
あの教典の文字を読みあげるだけで、言魂が流れて人族の中に弱い洗脳を作り出す。それくらいなら、映録球越しでも確実に効果があると思う。
ちょっと危険だ。
いずれにせよ、教典の音読を映録球に記録し、それを王都に広めた時点で、この奴隷宮の外に、ここにいる連中と同じとはいわないが、それなりの人数の似たような狂信者を作ってしまうだろう。
そんなことは、さすがにさせられん。
「失礼ながら、復活なされたスクルズ様に会ったのはわたしたちです。サキ様であろうと、それを否定することは許しません」
フラントワーズがきっぱりと言った。
「なにいっ──。わしに言っとるのか?」
サキはフラントワーズを睨みつけた。
後ろの四人は顔を引きつらせたが、フラントワーズだけは平然としている。顔色さえ変えない。
その代わりに、ちょっと目を閉じて、ほんのわずかに身体を硬直させたと思った。
「ほ、本当に意地の悪い貞操帯ですね……。お、お話のあいだくらい、と、とめていただくわけにはいきませんか……?」
フラントワーズが小さく吐息をしながら言った。
貞操帯の振動だ。
それが起こったに違いない。
その証拠に、フラントワーズの顔がほんのりと赤くなった。
黄色チョークの全員が同じものをしているが、いまは、間隔も強弱も無規則に動くように妖力で刻んでいるので、サキでさえも、いつどんな風に動くのかは予想できない。
いま、作動したのはフラントワーズだけなのだろう。
後ろの四人には変化はない。
また、以前のように四六時中動いているというわけではないが、だからこそ、突然に動くときには、いやでも感じざるを得ないだろう。貞操帯の内側には、女の股間を苛む大小の突起が無数についていて、振動とともにそれが動き回るようになっている。
「それが調教であろう。主殿に仕えるための淫乱な身体を作るためのな」
サキはにやりと笑った。
「そうでした……。わたしとしたことが、つまらないことを申しました。ご放念ください」
「そうだ。そして、お前たちは奴隷だ。主殿に仕えるために集められたな。それを忘れるな。スクルズの言葉を信じるも、信じないも好きにせよ。だが、それはこの奴隷宮の中のだけのことだ。教えを世に拡めようとするなどいらんことだ。お前たちは、この奴隷宮のことだけを考えておればいい。ここはお前らの残りの人生を過ごす場所だ。それを忘れるな」
サキは言った。
フラントワーズが小さく脱力した。
とりあえず、振動がとまったのだろう。
「しかし……」
「くどい──」
サキは声をあげた。
今度はフラントワーズがびくりと身体を震わせた。
それだけの怒気を声に込めたのだ。
妖魔将軍サキの怒気だ──。
さすがに、一介の人間族の貴族女ごときに耐えられるわけがない。
「……映録球への教典の言葉の朗読の件は忘れよ。お前たち自身が奴隷宮の外に関わる必要はない。それと、官吏の肩代わりの件は頼む。書類作りに必要なものも、勅令とやらの運搬もこちらに任せよ。すべて、ラミダナに言え……。よいな、ラミダナ?」
「わかった、サキ様──」
ラミダナがびしりと姿勢を正して言った。
サキはこれで話は終わりとばかりに、広間の外に立ち去ろうとした。
そのとき、向きを変えたサキの前に、フラントワーズがずいと出て来て、前を阻んだ。
「聞いてください、サキ様──」
「くどいと言ったであろうが──」
サキは前に立ちはだかたフラントワーズを張り飛ばした。
「きゃああっ」
フラントワーズが倒れる。
「フラントワーズ様──」
「大丈夫ですか──」
ほかの四人がフラントワーズを抱きかかえる。
それほどの力を注いだつもりはなかったが、フラントワーズの口からは血がつっと流れ出た。
張り手で口の中を切ったのだろう。口の横が痣のようになって赤く腫れている。
サキは舌打ちした。
「ラミダナ、治せ」
サキは振り返って言った。
攻撃系の妖術は得意だが、治療系の妖術はサキは得手ではない。
すぐにフラントワーズの顔から痣が消滅する。
フラントワーズが立ちあがった。
「な、何度殴られても、わたしは怯みません。救世主様……スクルズ様の教えを皆に説くのは、わたしの運命なんです。あの奇跡をできるだけ知ってもらわなければ……。どうか、もう少し耳を傾けてください、サキ様──」
「うるさい──」
サキは怒鳴りあげた。
しかし、フラントワーズの顔には一歩も引きそうにない信念のようなものがある。
サキは呆れた。
なんというしつこさだ。
力のある妖魔でさえ、サキに怒気を浴びせられ、張り倒されれば、大抵は大人しくなる。
一介の人間族の女の分際で……。
そして、フラントワーズが固く持っている小さな冊子にちらりと目をやる。
あれが狂信の源か……。
この教典の言魂によって増幅されているスクルズに対する盲信が、こいつの頑な態度を作っているに違いない。
やはり、この教典は邪魔だな。
頑固さは奴隷にはいらん。
「その教典はとりあげる。次からは複製を使え──。寄越せ──」
サキは手を伸ばした。
すると、フラントワーズが初めて、顔に恐怖の色を浮かべた。
「こ、これは渡しません──。スクルズ様の奇跡が染み込んだ教典なのです──。これだけは渡すわけにはいきません。たとえ、サキ様にも──」
フラントワーズが絶叫した。
だが、サキはその物言いに引っ掛かった。
スクルズの奇跡が染み込んだ教典……?
「もしかして、お前、知っておるな……?」
サキはフラントワーズを見た。
必死に両手で教典を抱くようにしている。
その手は震えていた。
また、フラントワーズを庇うように、ほかの四人がフラントワーズの前に出た。彼女たちも必死の表情だ。
サキは唖然とした。
「サキ様、この教典を渡すことだけはお許しください。絶対に渡せません。これは特別なものなのです。ほかの複製の教典にはこの力は宿りませんでした。これが唯一なんです──」
フラントワーズがさらに言った。
サキはフラントワーズを睨んだ。
そして、確信した。
「お前たちは、この教典がただの教典でないことをわかっていたな……」
質問でなく確認だ。
サキは複製を使えと言っただけだ。信心行為のようなものまで禁止しただけじゃない。
それにも関わらず、目の前の教典にこだるのは、この教典だけに不思議な力が宿っていることに気がついているに違いない。
「言魂のことですか……? もちろん承知しています。これもまた、スクルズ様の奇跡です。わたしたちの作った手書きの教典に、なぜか魅了の魔道が宿ったのですから……。この一冊だけ唯一……。これが奇跡でなくて、なんだというのでしょう」
フラントワーズは平然と言った。
サキはびっくりした。
「お前はそれを承知で朗読に使っているのか? つまり、魅了の効果があると知っていて……」
「わたしだけでなく、全員が知っています。令嬢たちもです……」
「全員が知っていて、受け入れていると?」
それは予想していなかった。
「受け入れています。当たり前のことです。天道様やスクルズ様に対する信仰が教典の朗読により、どんどんと深まるのですから……。それだけでなく、皆で必死にこの教典に向かって祈りを捧げました。ここにいる百人以上の全員がです。そして、教典はさらに力を持つものになりました。だから、これはスクルズ様だけでなく、全員の魂が刻まれているといっていいものなのです……。従って、これだけは渡せません」
「魅了だとわかっているなら、すぐにやめよ。それには洗脳効果がある。繰り返しが限度を超えると、心の狂気が宿る。いまはまだいいが、さらに言魂が強くなれば危険だ……。いや、いまでもすでに狂気が垣間見えるぞ……。フラントワーズ、命令だ。それを渡せ。使い過ぎれば狂う……。危険ではないと思ったが、それは間違いだ。それは危険だ」
サキは言った。
しかし、四人の後ろにいるフラントワーズは首を横に振る。
さらに、その顔がふっと笑った気がした。
「……狂気など……。家を潰され……王に犯されて……。その光景を全王都に流されて辱められて、貴族としても、一介の女としても、世にはもう出られない……。すでに狂っておりますよ……。でも、スクルズ様の奇跡は本物でした。まさにその証拠がこの教典です。わたしたちは、これとともに狂気の中で生きていきますとも……。ここが狂気の世界であるなら、全員が喜んで狂気に染まります。それがスクルズ様のお導きですから……」
フラントワーズが静かに言った。
サキは嘆息してしまった。
スクルズめ……。
とんだ、狂信者を作りあげていった……。
ちょっと連れ戻して、あいつにこそ、この責任を取らせたい──。
どうするんだ、これ……。
「もう一度言うぞ──。その教典を渡せ。渡さねば強引に取りあげるだけだ。祭儀は複製でせよ──」
サキははっきりと言った。
「取りあげられれば、自殺します。わたしだけでなく、ここにいる全員が死にます。魔道で封じられようとも、あらゆる手段で死んでみせます。ここに集められた全員が信仰に殉じます」
フラントワーズが言った。
サキは今度こそ激怒した。
脅すような物言いが気に入らない。
それで思い出したが、いまは王宮敷地内にいるために魔道が封じられているが、この公爵夫人のフラントワーズはそこそこの高位魔道遣いだったはずだ。
だからこそ、魔道封じの結界を破るということは不可能ではないかもしれない。
フラントワーズの言葉は、十分に実行の可能性がある。
「お前は、わしを脅しておるのか──」
前の四人を突き飛ばして、フラントワーズに掴みかかる。
必死で教典を守るように後ろ手に庇うが、それには構わなかった。
襟を掴んで、服を縦に引き破る。
よろけたところを腰を蹴り飛ばした。
「ひぎいいっ」
フラントワーズが転がる。
それでも、教典だけは守っている。
サキの手には破り取られたフラントワーズの服の残骸が残っている。それを捨てる。
「おやめください──」
「お許しを」
「お願いでございます」
「サキ様、どうか……」
四人がフラントワーズを庇うように、サキの前を身体で阻む。
サキはそれを次々に張り飛ばして、フラントワーズの前に立ち、まだ残っている服を全部破り取った。
フラントワーズの裸身が露わになる。貞操帯だけの裸だ。乳首には一個ずつの鈴が糸でぶらさがっている。
これでこそ、奴隷に相応しい哀れな格好だ。
うずくまっているフラントワーズの身体をまた蹴った。
教典を両手で守るフラントワーズが横に転がる。
乳首の鈴がちりんちりんと激しく惨めに鳴った。
「貴様は奴隷だ──。それをわきまえよ──」
サキは妖力を注いで、貞操帯の振動を激しいものにしてやった。
「ああっ、んふうううっ」
フラントワーズが股間をすり寄せるようにして、身体をのけ反らせる。
さらに、身体をがくがくと震わせて、淫らな声をあげた。
この奴隷宮ですっかりと作り変えられた敏感な身体であり、令嬢たちに比べれば年齢は重ねているが、まだまだ瑞々しい肌をした女ざかりだ。
淫情責めに耐えられるわけがない。
「んぐううっ、あああっ、な、なんと、なんと言われても、し、信仰だけは……。あああっ、し、信仰は捨てません──。んふうううっ」
フラントワーズが身体を硬直させて絶頂するような仕草をした。
それで気がついたが、いつの間にか大勢の令嬢たちや貴婦人たちが周りを取り巻いている。
まだ、この広間に残っていた者たちが全員集まっていたのだ。
サキは舌打ちして、とりあえず、振動だけはとめてやった。
フラントワーズががくりと脱力する。
「フラントワーズ様──」
「しっかり……」
黄色チョークの四人も戻って来て、フラントワーズを抱き起こした。
フラントワーズが彼女たちに掴まるようにして立ちあがる。
その貞操帯の隙間からは、淫情の印である愛液が縁から流れ出て腿を濡らしている。
全身は脂汗をかいていて、まだ上気して肌が赤い。
「サ、サキ様……。し、信仰はお許しください。それをお認めしてもらえれば、全てのことに協力します。わたしには、もうそれだけなんです。わたしだけでなく、ここにいる全員は、もう貴族として生きることはできません。これしかないんです……。でも、信仰があります。それをスクルズ様を生き返って教えてくださったのです。いまでは、ここに監禁されてよかったと思っています。心の底から……。どうか、信仰だけは……」
フラントワーズが必死の口調で言った。
彼女だけでなく、彼女を庇っている四人の黄色チョークの貴婦人たち……。
さらに、百人に近い令嬢や貴婦人たちがじっとサキに挑むような視線を向ける。
ちょっと、サキもたじろいでしまった。
「……さ、さもなければ、全員が自殺します……。全員です。でも、お認めくだされば、なんでもします。行政の肩代わりもお任せください……。サキ様……」
そのときだった。
なにを思ったのか、フラントワーズが突然に教典を開いた。
「……主は悔い改める者を許しました。主は言われた。主を信じるものは素晴らしい幸福感に包まれるだろうと……。主の言葉は悪意を持つ者の心を清めました。次に主はその者をお抱きになりました。彼女は白い光に包まれ、その幸福感によって、自分が浄化されたことをはっきりと悟りました……」
「やめい──。わしに説教を垂れるか──。悔い改めよとでも言いたいか──」
声をあげたが、さっきほどの激昂はない。
ちょっと呆れた気分になっただけだ。
この期に及んでも信心かと思ったのだ。
それにしても、違和感を覚えた。
言魂の勢いが強いのだ……。
さっきの祭儀のときとは比べものにならないくらいにだ。
もしかして、さっきの祭儀のときには意図的に言魂の力を意図的に抑えていたか……?
まさかとは思うが、サキに危険なものと悟られないように、サキがいたから、わざと言魂の影響を抑えたか?
そんなことができるか知らないが、そう思わせるくらいに、いまは言魂の力が強い。
頭がぼーとするほどだ。
考えてみれば、フラントワーズもそこそこの魔道遣いだ。
この魔道を封じる結界内でも、魔道を高めるのでなくて、影響を低めることならできるのかもしれない。
奴隷だと思っていただけに、見くびっていたか……?
もともと、スクルズの魔道が根源だし……。
いずれにしても、やはり危険だ。
ここまで影響が強ければ、問題ないという結論にはならない。
やはり、取りあげねば……。
そもそも、もしも、言霊が拡散するのを許したら……。
いまは、言霊のこもった教典はひとつなので、拡がりの中心は一箇所なのだが、その影響を受けた狂信者が増える度に、言霊の力は強くなる。
やがて、複製の教典にまで言霊の力がうつるかも……。
すると、その複製がまた狂信者を増やして、また言霊の教典を作り……、狂信者が拡散して、また教典を……。
サキには、ロウが激怒しそうな未来が待っているような気がしてぞっとした。
とにかく、サキは慌てて首を横に振って、頭にかかりかけた霞のようなものを打ち払った。
すると、フラントワーズが口を開く。
「いえ、わたしはただ、サキ様もそうではないかと思っただけです。わたしたちは、天道様にお仕えせよとスクルズ様に教えられ、それを実践することで幸せになれました。でも、わたしたちはまだ天道様にお仕えはできていません。その準備をしているだけです。それでもこんなに幸せなのですから、実際にお仕えになっているサキ様だったら、どんなに幸福なのだろうかと思いまして……」
フラントワーズが変なことを喋った。
だが、一応はサキは表向きは、まだルードルフの寵姫ということになっているはずだ。
もしかして、スクルズがサキが本当にロウの愛人のひとりであることを教えたか?
一応は、こいつらをここに監禁したのは、ルードルフの名を使っているが、まあ、さすがに、なにもかもルードルフのせいというのは、もう無理か……。
それにしても、また頭に
なにを考えようとしていた……?
急に頭が回らない……。
まあいいか……。
「まあ、確かにロウ様に仕えて幸せだが……」
「やっぱり、サキ様は天道様の……。そうだったのですね──。もう一度、お聞かせください。天道様にお仕えすることは幸せですよね」
「そうだ」
サキは断言した。
ロウに仕えることは幸せだ。
妖魔将軍として、誰であっても、その風下に立ったことはなかったが、ロウであれば許せる。
ロウであったからよかったと思っている。
サキの幸せはいまや、ロウに仕えることにある。
それで気がついたが、フラントワーズが後ろ手に隠すようにしていた教典を前に持って来ている。
しかも、立っている距離が近いので、ほとんどサキは教典に接さんばかりだ。
なにかが頭をよぎったが、すぐに気にならなくなった。
「サキ様の強い心を言葉でお聞かせください。わたしたちは知りたいのです。サキ様のお心も……。教えてくだされば、調教にもっと励みます。必死でやります。どうか言葉を……」
「わしの幸せは、主殿とともにある──。これでよいか──」
なぜ、わざわざそんなことを口にする気になったかわからないが、そう言った。
目の前の教典にさらに強い力が帯びるのがわかった。
まあ、別段の問題はないが……。
「……サキ様、どうかご冷静にお考えを……。論理的になってください。わたしたちは、この信仰とともに心から、天道様にお仕えします。それはサキ様もお望みなのではないですか? サキ様が調教官様たちに、わたしたちを天道様に相応しい性奴隷に調教せよとご指示なさったのでしょう? 国王の命令などではなく、サキ様のご指示ですよね……。だったら、性奴隷になります。それはもう喜んで……」
「そうだ。お前らは、
「そのために、わたしたちは信仰を守ります。それだけでなく、それを拡めます──。すべての人民が天道様にお仕えすればいいと思っています。教えを拡げるのも使命と思っています。しかし、そう考えることに、サキ様になんの損がありますか? お考えください。サキ様にはなんの損もないはずです」
「損はある──」
サキは怒鳴った。
フラントワーズは意表を突かれたような表情になった。
「損はあるのだ……。わしが主殿に叱られるではないか……。主殿は人を操るのがお好きではないのだ。怒られる……」
絶対にロウは、言魂であろうと、ほかの手段であろうと、人の心を操るような行為を嫌がると思う。
度が過ぎると烈火のごとく怒ると思う。
いまでも、ぎりぎりの線だ。
これ以上、事態が深刻となると、必ずロウが嫌悪する。
しかも、言魂の厄介なところは、これは自分が信じようと思った心を強化するくらいの影響しかないということだ。
だから、一度影響を受ければ、解呪されるということはない。
信じたのは、自分自身の心のことだからだ。
フラントワーズだけでなく、周りの女たちの全員が、急に弱々しい口調で喋ったサキに目を丸くした。
すると、フラントワーズがさらにサキに近づいた。
そして、耳に口を近づける。
「……よくお考えを……。天道様の信者が王都にどんどんと増えるのです。ご自分のことではなくて、天道様のことをお考えを……。それになんの損が……? この教典の言葉を拡げさせてください……。ほら、ここに書いてあります……。救世主様は言われました……。この言葉をできるだけ多くの者に伝えよと……」
フラントワーズがまたもや、教典の一節を読み始めた。
サキの頭はますますぼんやりとしてくる。
まったく、これは思考力を奪う……。
だが、なぜかサキはフラントワーズの行動をとめる気になれなかった……。
それよりも、フラントワーズの発した言葉に、どんどんと意識が吸い込まれるような……。
「主殿の損……?」
また、なぜか妙な説得力とともに、フラントワーズのその言葉が心にすとんと入ってきた。
「天道様の立場でお考えを……。ほら、この教典にも書いておりますよ……」
フラントワーズが再び教典を開いて、それに見合う文書を選んでまたもや朗読しはじめた。
この朗読が始まると、たちまちに急に心がすっきりした気がする。
「サキ様、天道様の立場でお考えを……。天道様こそ、尊いお方であるという教えを広めるのは、天道様のおためになります。叱られてもいいじゃないですか。それが殉じるということです。すべては天道様のために……。なんの問題もありません」
「すべては天道様ため、主殿のためか……」
まあいいか……。
ロウに損になる話ではないのだ。
認めてやるか……。
勝手にやると言ってるし……。
「わかった。もうよい。全部、勝手にせよ。映録球の手配についてもラミダナに申し伝えよ。その代わり調教に励め。主殿のご帰還は近いぞ──。また官吏の代行もやれ」
「お任せください」
フラントワーズが柔和に微笑んだ。
その笑顔を見ながら、サキはふと思った。
なんとなくだが、奴隷にしたつもりのこいつらに、もしかして自分は使われているのではないかと……。
結局、言い分を認めるように説得されてしまったし、考えてみれば、マゾに染まりかけているこいつらにすれば、この奴隷宮の調教も、こいつらに性的満足を与えるための奉仕のようなものじゃないか?
被虐の快楽を与えているのはサキたちであり、サキたちこそ、ここにいる連中に性奉仕をしているようなものだ──。
そう考えたが、まあいい……。
まあいいか……。
問題ないのだろう……。
そんな言葉が頭に過った。
サキは広間を後にした。
*
その二日後──。
王宮の触れが王都内に流れ、王都住民に対して配布する映録球を視聴するように命令が発せられた。
市民の集まる噴水広場を始め、あちこちの公園や辻に、映録球が設置されて記録が流された。
流されたのは、若い令嬢たちが全裸で淫らに絡み合う映像だった。
これを見ろという王命に、市民たちは色めきだち、また、その目的もわからなかったが、とにかくあっという間に、その衝撃的な映像のことは王都中の話題になった。
繰り返し流されるので、多くの市民がそれに接した。
破廉恥な映像とともに、なにかの朗読が流れるのだが、それについては誰も気にしなかった。
とにかく、公開されたものについては、数日間で誰もが知っている映像になった。
王都のみならず近隣にも噂が拡がる大きな話題にもなった。
なにしろ、貴族令嬢の痴態が堂々と日中に、王都広場などで公開されるのである。
王都が不穏な情勢であることもわかっていたが、その映像を見たさに王都にやって来る者も増えた。
複製も自由ということだったので、目聡い行商人たちは、さっそくその破廉恥映像を複製して、地方に運んで行きもした。
だが、日にちが進むにつれ、だんだんと映像ではなく、後ろに流れている言葉の内容が人の言の葉に乗るようになったいった。
幾日もしないうちに、ロウ=ボルグの名は王都では知らぬ者のない人物として認識されるようになった。
彼こそ、奇跡の人物だと……。
そう強く訴える者の数も、日を追うごとに次第に多くしていった……。
ゆっくりと王都の外にも……。