※この作品はR-18です。

【2025.9.5コミック発売】異世界で淫魔師ハレム【完結】   作:ドン・ドナシアン

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50  四人で囲む焚き火

 野宿をしている夜闇に炎が浮かんでいる。

 焚火は馬車のそばで熾しており、そこからいい匂いが立ち込めてきた。

 夕食の煮炊きができあがってきたようだ。

 入っている食材は、最初の里で手に入れた野菜と新鮮な肉だ。女物の小物と衣類を渡す代わりに、幾らかの食糧をもらったのだ。

 

 行商人に扮して、ジーロップ山に向かう旅の一日目だ。

 今朝早く王都を出て、昼過ぎに街道沿いに近い小さな山里に立ち寄り、さらに、その里を夕方前に出発して、いま、この山中で野宿をしようとしているところだ。

 目的のジーロップ山までは、まだ距離がある。馬車の移動で、あと丸一日というところだろう。

 

 第一夜目は野宿となったが、野宿といっても今回は馬車のある旅だ。

 徒歩の旅の野宿ほどつらくはない。

 それに一郎は、野宿は嫌いではない。

 エリカたちの野外料理は美味しい。

 それを味わえるからだ。

 

 ここに辿り着く前に、立ち寄った里では一郎たちが積んできた女物の小物や衣類は悦ばれた。

 城郭から離れた里などでは、王都で流行っている小物や衣類が入ってくることはない。里長に許可をもらい、一郎たちが行商人を装って売りに出すと、たくさんの女たちが集まってきた。

 一般に女というのは話し好きだ。

 

 噂話を集めるのに、女を集めて訊ねるよりも、手っ取り早い方法はないと思う。この先のジーロップ山に巣食う盗賊のことを一郎が問いかけると、すぐに女たちは一斉に喋り出した。

 

 その里は、ジーロップ山とはまだまだ遠いので、それほど有益な情報はなかったが、確かに半年ほど前から、ジーロップ山には小さな盗賊団が巣食っているようだ。

 それほど大きなものとはいえないようだが、大陸街道沿いに出没するので、時折やってくる行商人たちは難儀をしているようでもあるとも女たちは話していた。

 ただ、幾らかの金さえ払えば、命までは奪わないらしく、たくさんいる盗賊団の中でも危険な方には数えられてはいない感じだ。

 

 ジーロップ山の盗賊団を退治するという話をギルドに持ってきたのは、大伯父と呼ばれているシャングリアの実家の男爵だ。

 その大伯父は、シャングリアの育ての親であり、シャングリアに盗賊団を退治させて、功績に箔をつけてやりたいと考えた。

 そうかといって、あまりにも危険すぎるものだと、シャングリアにもしものことがあるかもしれないから心配だ──。

 そんなことを考えて、適当な対象として、ジーロップ山の盗賊団に目をつけたのだろう。

 

 この辺りは国王の直轄領のはずだが、王都からは遠い。

 王都から二日かけて遠征して討伐するほど目立つ存在でもないから、まだ討伐は行われていないが、主街道の安全は領域の治安を維持するために重要な任務だ。

 大きな脅威でなくても、それをひとりで果たしたとなれば、まあ、そこそこの手柄としては数えられるだろう。

 一郎は納得した。

 

 一郎が座っているのは馬車の御者台だ。特にすることはない一郎は、そこでなんとなく、手持ち無沙汰にしていた。

 馬車を曳かせていた一頭のウマは、いまは御者台の先にはない。

 この大陸のウマは力が強く、一頭でも十分にこのくらいの馬車は曳く。そのウマは、いまは馬具を外して、この周辺を自由にさせている。放しても逃げない。適当に草を食べ終わり、水場で水分を取って、朝までには戻ってくるはずだ。

 

 また、野外での野宿だが、誰も警戒のようなことはしていない。

 エリカがこの馬車の周りに、警戒のための結界魔道を張り巡らせていて、それで十分に安全が保てるからだ。エリカが刻んだ結界の外からでは、この焚火と馬車が見えないようになっているとともに、近づこうとしても、いつの間にか方向を逸れてしまって、不審な者や危険な獣がやって来れないような魔道の仕掛けがあるらしい。

 だから、寝ずの番などの警戒をしなくても、比較的に安全に野宿をすることができるのだ。

 

 従って、一郎にしても、シャングリアにしても、特にすることもなく、それぞれに、ぼんやりと時間を潰していた。

 一方で、エリカとコゼはふたりで協力して、夕食の支度を続けている。

 

「ロウ様、もう少しでできあがります。待っていてくださいね」

 

「ご主人様の好きな米も入れましたよ」

 

 焚火で素焼きの土鍋で料理を作っているエリカとコゼが声をかけてきた。このふたりは意外にも料理は上手だ。

 エリカは狩猟族として、故郷の里で鍛えられたらしく、野外における動物の肉の捌き方、食べられる野草、あるいは香草の使い方をしっかりと身に着けている。

 

 コゼは、前の主人の奴隷だった時代に、アサシンの腕を鍛えられながらも、余裕のあるときには、厨房の手伝いもさせられていたということであり、そこで料理のやり方を学んでいたようだ。

 一郎はこのふたりと旅をするようになってから、料理というものをしたことがない。やろうとしても、料理器具の使い方もわからないので、うまくはできないと思う。

 また、異世界人の一郎には、元の世界の料理の知識などないから、独創的な料理をこの世界に生み出して大儲けする自信も皆無だ。

 本当にエリカとコゼが料理の腕があってよかったと思っている。

 

 また、食事について、なによりも嬉しいのは、この大陸にはしっかりとした米文化があるということだ。

 だから、米が食べられる。

 もっとも、本来、稲作が盛んなのは、このハロンドール王国を含む大陸の南側ではなく、北側のエルニア王国らしい。南側のハロンドール王国や、エリカが以前に旅をしたローム三公国の付近は小麦粉文化だ。従って、こっちの本来の主食は、小麦の粉から作るパンであり、あるいはパスタだ。

 だが、いまでは、北側から稲作も伝わっていて、場所によっては米も作っているし、主要な城郭では食米が流通している。米を手に入れることは難しくない。

 エリカもコゼも、一郎が米が好きだということを知っているので、こうやって野外で料理をするような機会があれば、積極的に米を食事に入れてくれる。

 

 一郎は本で学んだことがあるが、一郎の元の世界でも、米文化だったアジアに対して、小麦文化だった欧州があった。その結果、アジアの人口密度は高く、欧州の人口密度は低いという現象が歴史で起こった。欧州文明が世界の中心となったのは、欧州で産業革命が起きて、技術的な格差が大きくなったためであり、それがなければ、世界史の中心的な役割は、人口密度が高かったアジアだったはずだというような話だったように思う。

 一般に、米は作地単位面積辺りの産出穀物量が多いので、狭い地域でも多くの人口を支えられるのに対して、小麦粉文化の地域では、粉にする手間があるので拡散する穀物が少なくなり、大きな人口にはなりにくいからだ。

 

 この大陸も同じだ。

 南側のハロンドール王国やローム三公国に比べれば、北側のエルニア王国は人間族の人口も多く、そのため国力ももともと強い。

 その結果として、同じ人間族が主体の国でありながらも、ハロンドールやローム三公国が移民を奨励し、エルフ族やドワフ族のような亜人種を積極的に受け入れているのに比して、エルニア王国は閉鎖的らしい。

 向こう側では、エリカのようなエルフ族でさえ、賤民扱いされて差別される。移民も基本的には受け入れていないようだ。

 そもそも、国境を閉鎖しており、原則として出入国を禁止している。誰もエルニア国の実態さえ、知らないのだ。

 

「シャングリア、もうすぐ、食事らしいぞ──。こっちに来いよ」

 

 一郎は馬車とは離れて石にもたれて座っているシャングリアに声をかけた。

 シャングリアは昨日のような王軍騎士団の鎧ではなく、傭兵を思わせるような灰色の上下布衣と革の鎧を身に着けて腰に剣をさげている。白銀の髪は後ろで無造作に束ねているが、やはり、美人だけあって、そんな姿さえ華やかに感じる。

 

「不要だ──。わたしは、遠征用の乾燥パンを携行している。お前たちの世話にはならん」

 

 夜闇の中から声が戻ってきた。

 一郎は息を吐いた。

 そして、御者台から降りて、シャングリアが腰かけている石に歩いていく。

 なるほど、シャングリアは、平らで大き目のビスケットのようなものをちまちまとかじっていた。

 

「ちょっと、それを食べさせてくれ」

 

 一郎はそう言うと、返事を待たずに、シャングリアの手元からそれを無造作に取りあげた。

 

「な、なにをするか──」

 

 シャングリアが血相を変えた様子で怒鳴ったが、一郎はそれを手で制して、少し端っこを折って食べてみた。

 お世辞にもうまいとはいえない。

 

「こんなもの、うまくもなんともないじゃないか。そんなものは、しまっておけよ。それよりも一緒に鍋を食べるんだ。あんたの分の食器もエリカたちは準備しているんだ」

 

 一郎は乾燥パンを返しながら言った。

 

「お前たちの世話にはならん。わたしはこれで十分だ。この仕事のあいだに必要な食事の分は携行しているのだ」

 

「だけど、うまくないだろう。エリカとコゼの作る鍋はうまい。一緒に食べてくれ」

 

「食事にうまい、不味いなどどうでもいい──。そんなことを気にするのは女だ。この乾燥パンは栄養もあるし、十分に空腹は満たせる。放っておいてくれ」

 

 シャングリアは不機嫌そうに言った。

 だが、焚火で煮ている鍋の匂いがここまで漂ってきていて、本当にうまそうで食欲を誘う。

 一郎も御者台から、シャングリアが仕切りに鍋を気にして、ちらちらと視線をやっていることに気がついていた。

 あの料理に興味を抱いていないはずはないのだ。

 一郎はもう一度、さっと乾燥パンを取りあげた。

 

「ま、また──。いい加減にしろ、返せ──」

 

 シャングリアが怒鳴って立ちあがった。

 

「頼むから一緒に食事をしてくれ。明日には二個目の里に立ち寄ることになる。一個目の里では、大した情報を得ることはできなかったが、明日立ち寄るのは、ジーロップ山の麓の里だ。なにか有益なことがわかるはずだ。それについて、食事でもしながら話し合いたいのだ。リーダーがいてくれないと、話し合いにならない」

 

 一郎は言った。

 この女騎士は、本当に気位が高くて扱いが面倒だ。事実上の指図をしているのは一郎だが、シャングリアをリーダーということにしていないと、機嫌が悪い。

 しかも、冒険者である一郎たちを見下す態度が強くて、こっちから話しかけても、禄に返事もしない。

 本当に面倒くさい。

 

「ふん──。なにが情報だ。そんなものはどうでもいい──。里になど立ち寄らずに、真っ直ぐにジーロップ山に行けばいいのだ。そして、そこにいる盗賊団を残らず退治する。それだけでいい」

 

「そんな闇雲に向かっても、連中の隠れ処を探すだけでも大変だぞ。それにどんな連中かわからないのに、こっちから仕掛けるのは危険だ。しっかりと情報は集めないと……」

 

「だから、お前たちはただ着いてくるだけでいいと言っているだろう──。討伐はわたしひとりで十分だ──」

 

 シャングリアは怒鳴った。

 無計画で無鉄砲なシャングリアの言葉に一郎は呆れてしまった。

 そのとき、焚火側から声がした。

 

「ご主人様──。できました──。おいでください──。シャングリアも来たければ、来れば──」

 

 コゼだ。

 

「そんなわからずや、放っておけばいいですよ──。こっちで食べましょう、ロウ様」

 

 エリカの声もした。

 コゼはそうでもないが、エリカはこの一日だけで、態度の悪いシャングリアをはっきり嫌いだと決めたようだ。

 放っておけば、大喧嘩をしそうなふたりのあいだで、なだめ役に回っていたのは一郎だ。

 

 一郎は嘆息した。

 そして、ちょっと考えて、ものの言い方を変えることにした。

 

「あんたの言い分はもっともかもしれないが、俺たちとしてもその麓の里で情報を取るつもりで、行商人に成りすますために積み荷を仕入れたんだ。儲けるわけにはいかないが、元手くらいは取り返さないとならない。だから、里には寄りたい。頼むから寄ってくれ──。それに、情報はあって困るものではないはずだ」

 

「金に汚い冒険者らしい物言いだな──。まあいい──。認めてやる──。とにかく、それを返せ──」

 

 シャングリアが一郎が取りあげた乾燥パンを取り戻そうと手を伸ばした。

 一郎はさっとそれを避けた。

 

「いや──。これは俺にくれ。一度、軍人用の携行糧食というものを味わってみたかった。これは後で俺がもらう──。その代わり、鍋料理を食べてくれ」

 

 一郎は言った。

 

「なに? つまりは交換ということか? まあいい。それが欲しいならやる。確かに冒険者ふぜいには珍しいものだろうからな──。その代わり、お前たちの食事をもらうぞ。これは交換だ」

 

「それでいい。来てくれ」

 

 一郎はシャングリアを焚火の側に促した。

 本当に面倒くさい。

 

「あら、来たの?」

 

 焚火のところまでやってくると、エリカが嫌味な言葉をシャングリアに向けた。

 シャングリアがむっとして、エリカを睨んだ。

 

「やめないか、エリカ」

 

 一郎は声をあげた。

 エリカの気持ちはわかる。

 この一日、最初はエリカもシャングリアに打ち解けようと、積極的に声をかけたりしていた。だが、シャングリアから戻ってくるのは、その都度辛辣な言葉か、あるいは意図的な無視だ。

 それに冒険者である一郎たちを蔑んでいるのは態度で明白だし、とにかく、エリカは、なによりも、自分のことよりも、一郎に対するシャングリアの態度が気に入らないようだ。

 それですぐに険悪な雰囲気になった。

 

 それに比べれば、コゼはシャンゼリアとはそれほどの雰囲気はない。

 コゼは、一郎とエリカに対しては、打ち解けた態度も取るが、基本的には、ほかの人間には人見知りの傾向があるので、シャングリアに話しかけもしないし、進んで接しようともしない。

 だから、仲違いの状況にはならないのだ。

 

 いずれにしてもエリカの言葉が、言葉だけのことなのはわかっている。

 焚火の周りには、石を並べて、ちゃんと四人分の席があるし、四人分の食器もある。

 一郎はシャングリアを座らせて、一郎自身も石に腰かけた。

 四人で焚火を囲むかたちになった。

 

「ご主人様、どうぞ」

 

 コゼが一郎に、鍋から取り分けた料理の入った椀と木製のフォークをくれた。

 鍋の中身は肉と野菜と米と香草で煮込んだものだ。鼻を刺激する香りが渡された椀から放たれている。

 

「あんたも、ほら」

 

 エリカがシャングリアに椀を渡した。

 

「こ、これは物々交換したのだ。わたしは、こいつに軍人用の乾燥パンを渡したのだ。お前たちに恵んでもらうわけではないぞ」

 

 シャングリアがエリカから椀を受け取りながら言った。

 

「随分と長い“ありがとう”ね」

 

 エリカが皮肉を言った。

 コゼとエリカも自分たちで料理をよそった。

 食事になった。

 やっぱり、エリカとコゼの料理は美味しい。一郎は口の中に拡がる味に思わず舌鼓を打った。

 

「お、美味しい──。これは美味しいぞ──」

 

 すると、突然にシャングリアが大きな声をあげた。

 打って変ったあまりにも、シャングリアの素直な言葉に一郎は少し驚いた。

 だが、シャングリアは顔全体に悦びを浮かべて、料理をどんどんと口に入れている。

 その姿は見ていて気持ちがいいほどだ。

 ふと見ると、エリカとコゼも呆気にとられている。

 

「これは美味しい──。わたしはお前たちを軽く見ていた。こんな美味い料理を作れるのだ──。大いに感心した」

 

 シャングリアは食べながら言った。

 これまでの頑な態度からは考えられないような素直な言葉に、一郎は呆れるとともに驚いた。

 だが、もしかしたら、知らない者に壁を作るような態度も、素直さの表れであり、シャングリアとしては、ただただ素直に振る舞っているだけだったのだろうか。

 そんなことを思わせるような、大袈裟な賛辞の言葉だ。

 

「そ、そりゃあ、どうも……」

 

 エリカは当惑したように返事をした。

 シャングリアの椀はあっという間に空になる。

 エリカがその椀を取りあげて、シャングリアに二杯目を入れた。

 その中身もあっという間にシャングリアは食べ終わった。二杯目は無言だった。そのあいだに、一郎たちも食事をした。

 

 やがて、鍋が空になった。

 コゼが全員から食器を集めて土鍋を持った。

 

「ご主人様、洗ってきます」

 

 今夜はコゼが片づけ係のようだ。

 一郎は頷いた。

 コゼが去っていく。

 すぐそばに小川がある。

 そこにいくのだろう。

 

「……この闇の中をひとりで?」

 

 シャングリアは歩き去っていくコゼの背中を眺めて、ちょっと驚いた顔で言った。

 コゼが照明の類を持っていかなかったことが意外だったようだ。月明かりはあるが、この辺りは樹木が生い茂り、真っ暗だ。

 

「コゼは夜目が利くんだ。それについては、エルフ族のエリカも同じだけどな。このふたりは、俺が歩けないような闇の中でも平気で走ったりする」

 

 一郎は笑った。

 コゼはもともとアサシンだ。闇の中を気配なく近づいて、相手の寝首を掻くという仕事をずっとしていた。それで夜目が得意なのだ。また、狩猟民族であるエルフ族のエリカが、元来目がいいのはいうまでもない。

 

「そうなのか……。すごいな。本当に走れるのか、エリカ?」

 

 シャングリアが感心した声をあげながらエリカを見た。

 

「そ、そうね。このくらいなら明るいくらいよ」

 

 エリカが当惑した口調で言った。

 戸惑いの理由は一郎にも理解できる。

 おそらく、シャングリアからエリカに話しかけたのは、これが初めてだろう。

 美味しい食事をすることで気持ちが安らいだのか、シャングリアもやっと緊張を解いたような感じなのかもしれない。

 とりあえず、いい傾向だ。

 

「そうか……。走れるのか……。わたしはこの暗さでは駄目だな。灯りなしには進めない。昨日の練兵場でも、あのコゼとエリカは見事な武器さばきを示したし、わたしはお前たちを理由もなく、低く見ていたのかもしれない。さっきの食事も一流の料理人並みの美味しさだった。お前たちは実はすごいのかもしれん。謝っておく」

 

 すると、シャングリアはエリカにすっと頭を下げた。

 一郎は驚愕したが、無論、エリカはそれ以上だ。

 シャングリアに頭を下げられて、エリカは目を白黒している。

 一郎にはやっぱり、このシャングリアの本質は素直さだと確信した。

 頑なに感じた態度は、冒険者というものをシャングリアが蔑んでいたからであり、一方ですごいものはすごい。美味しいものは美味しいと賞賛する度量は十分に備わっているようだ。

 

「だが、エリカとコゼがそれなりの女傑であることは認めてやるが、やっぱり、お前は平凡だ。今日一日観察していて思ったが、ロウはふたりに比べて見劣りがする。弱いし、わたしと同じで夜目は利かないのであろう? 料理ができるわけでもないし、ウマの扱いは、エリカとコゼがずっと交代でやっていたな。確かに歳は上だがそれだけだ。なんで、お前にエリカとコゼが従っているのだ?」

 

 シャングリアはロウに視線を向けた。

 さすがに、一郎も苦笑するしかない。

 まさか、女傑ふたりを性の力で調教して、従わさせているなどと口にはできない。

 

「ロウ様のことを悪くいうと怒るわよ、シャングリア。ロウ様は頭がいいわ。洞察力に優れていて、間違った決断はなさらないわ」

 

 エリカはむっとした口調で言った。

 エリカはそう言うが、一郎は自分が洞察力に優れてもいなければ、頭もよくないことは自覚している。

 エリカやコゼの足元にも及ばない平凡人であることは間違いない。

 少なくとも、一郎はそう思っている。

 エリカの誉め言葉も、一郎には皮肉にしか感じない。

 もっとも、一郎には、魔眼保持者として、相手の能力などを瞬時に見分ける能力と、魔眼保持者の付加能力であるらしい勘のよさはある。エリカには、それが洞察力と感じるのかもしれない。

 

「そうか……。まあ、エリカがそう言うならそうなのかもしれん……。ところで、ずっと気になっていたのだが、訊いていいか、ロウ?」

 

 すると、シャングリアが言った。

 

「なんでも訊いてくれ」

 

 一郎は言った。

 やはり、いい変化だ。

 一緒に美味しい食事をしたことで、やっとシャングリアは、一郎たちと打ち解けてもいいという気持ちになったのかもしれない。

 一郎もほっとした。

 

「お前をご主人様と呼ぶあのコゼ、そして、このエリカ──。随分と親密な感じがするのだが、もしかしたら、どちらかはお前の愛人なのか? それとも、どちらとも、本当はそんな関係ではないのか?」

 

 シャングリアが真面目な顔でそう言った。

 突然のシャングリアの突っ込んだ質問に一郎は面食らった。

 どう応じようかと考えていると、エリカが口を開いた。

 

「ふたりともそうよ。お優しいロウ様は、わたしもコゼも、同じように愛してくださるわ」

 

 エリカがあっさりと答えた。

 エリカとしては、隠し立てするなんの理由も見出せなかったのだろう。

 だが、一郎がエリカとコゼのふたりの女傑とも恋人にしているとエリカから伝えられたシャングリアは目を丸くしている。

 

「お、お前たちほどのふたりが、この平凡な男を揃って受け入れているのというのか? 信じられん」

 

 シャングリアの正直すぎる反応が返ってくる。

 横で聞いている一郎は苦笑するしかない。

 

「いい加減にしなさいよ、シャングリア──。さっきから、ロウ様を馬鹿にするような言葉ばかり……。いくら、ロウ様のご命令でも、そろそろわたしも切れるわよ」

 

 エリカがむっとして言った。

 

「いいさ、エリカ。俺が平凡な能力……というか、普通以下の能力しかないことは確かだしな。お前たちふたりがいなければ、野垂れ死ぬだけの男だ。それは自覚もしているから、いちいち怒らなくていい」

 

 一郎は笑いながら言った。

 だが、エリカが憤慨した様子で首を横に振った。

 

「ロウ様はすごい能力を持っておられます。もっと自信を持ってもいいと思います」

 

 エリカが断言するように言った。

 こんなエルフの美少女の女傑に、そんなことを言われて嬉しくはないはずはないが、一郎のすごい能力といっても、一郎に思いつくのはひとつしかない。そして、それはとても褒められた力でもない。

 

「すごい能力というのは……これか?」

 

 一郎は手のひらを上にして右手を出し、空中で股間を愛撫するように指を動かした。

 焚火の炎に照らされて赤いエリカの顔が、さらに真っ赤になった。

 

「ち、違います──。そ、それもすごいけど……。で、でも、わたしが言っているのは、他人を見抜く能力とか……正確な判断力とか……。今回だって、前回だって、その前だって、全部、ロウ様の考えた策でクエストを成功させたんです。わたしもコゼも、ロウ様に従って動いただけですよ。ロウ様は、冒険者パーティのリーダーとしての素晴らしい素質があります。これは絶対です──。このわたしが保証します」

 

 エリカが言った。

 そう言われれば、そうかもしれない……。

 一郎はふと思った。

 

 エリカとコゼのふたりが尽くしてくれるので、いつの間にか一郎も本当のリーダーであるという気分になり、何事も一郎が指図するようになっていたように思うが、それでいままでにクエストを失敗したことがない。

 あのミランダも、クエスト成功率が完璧の期待の新人パーティだと、いつも褒めてくれる。

 もしかしたら、本当に性技以外でも、ある程度の取柄があると自分で思ってもいいのだろうか……?

 そんなことを思った。

 

 まあ、性奴隷の支配がかかっているエリカの言葉だから、一郎への褒め言葉など、話半分以下に聞いておくことが正しいだろうが……。

 

「い、いまのロウの手付きはどういう意味だ? まさか、お前たちはこの男と身体の関係もあるのか?」

 

 すると、シャングリアが声をあげた。

 心なしかその声は上ずっているように感じた。

 

「は、反応するのは、そこ──? あるわよ。ロウ様はわたしもコゼも同じように愛してくださると言ったでしょう──。それについて、ほかにどんな意味があるのよ」

 

 エリカが呆れたというような口調で言った。

 

「つ、つまり、お前たちは、この男に抱かれているというのか? しかも、ほかの女をこいつが抱くのも許容していると──?」

 

「なに、あんた? ヤハフ教徒?」

 

 エリカが眉をひそめた。

 ヤハフ教徒というのは、一郎もよくは知らないが、北側のエルニア王国を中心として拡がっている唯一神の宗教らしく、エルニア王国以外のほとんどの人種が信仰しているティタン信仰とは一線を画するようだ。

 一郎がエリカに教えられた知識では、ティタン信仰は、人間族だけでなく、エルフ族、ドワフ族、海洋民族、獣人族の主神まで取り込んだ多神教だが、ヤハフ教徒には、彼らが「我が主」と呼ぶ唯一神しか存在しないようだ。

 

 ティタン信仰の特徴は、他人種の信仰に寛容なことであり、むしろ、各人種の主神が集まって、ひとつの信仰を形成しているのがティタン信仰なのだ。

 

 たとえば、人間族の主神は、農耕の女神であるヘラティス──。

 エルフ族の主神は、狩猟と戦いの女神であるアルティス──。

 ドワフ族の守り神は、鉱山と工芸の女神であるミルネバ──。

 エルニア王国のさらに北方にある少数種族や遊牧民族の女神であるテルメスも、ティタンの神々に加えられている。

 そして、この各種族の共通の守り神は、知恵の女神こと、メティスであり、これらの五人の女神を妻にしているのが、太陽神であり男神のクロノスだ。

 ちなみに、一郎の持つ魔眼の能力はメティスの能力であるらしい。

 いずれにせよ、クロノスと五人の妻は、ティタンという神界にいるとされるために、総称してティタン信仰と呼んでいるのだ。

 

 このように、ティタン信仰が、ほかの信仰の神を取り込むとともに、各種族の他信仰に寛容であるのに比べて、ヤハフ教徒はほかの信仰を認めないので排他教とも言われるらしい。

 

 また、ティタン信仰では、神々の頂点のクロノスに五人の妻がいるくらいだから、一夫多妻は別にタブーではない。

 エリカが、シャングリアをヤハフ教徒かと訊ねたのは、一郎がふたりの女を恋人にしているということに、シャングリアが嫌悪感のようなものを示したからだろう。

 ヤハフ教徒は、唯一神であるほか、一夫多妻を認めずに一夫一妻が教義のひとつだ。しかも、快楽のための性行為を認めず、性行為は子作り以外にはかわしてはならないともされるらしい。

 まあ、一郎には受け入れられない信仰だ。

 

 ちなみに、この世界には五個の月がある。五個の月が一度に出ることもないが、月の出ない夜もない。クロノスの五人の妻は、それぞれの五個の月になぞらえられていて、夜空に浮かぶ月に表された女神をそれぞれの夜にクロノスは抱いているのだとされるらしい。

 月の出ない夜がないことから、“クロノスはひとり寝をしない”という言葉もあるのだそうだ。

 つまりは、クロノスは絶倫の神の代名詞でもあるのだ。

 

 いずれにしても、ティタン信仰であるこの世界の大部分の者は、他信仰に寛容だといっても、自分たちの神を否定するヤハフ教徒は好きではない。

 エリカが顔をしかめたのは、シャングリアがヤハフ教徒的なことを言ったと感じたのだろう。

 

「わ、わたしはヤハフ教徒ではない──。だが、この男がクロノスだというのか?」

 

 シャングリアは言った。

 妻をたくさん持つ男のことを五人妻を持つクロノス神をなぞらえてそう呼ぶ。

 一夫一妻がタブーではないものの、それはすべての男女にあてはまるということではない。

 妻をたくさん持っていいのは、クロノスにあやかってもいいくらいの“能力の巨大な男”だけだという不文律もあり、大抵の男女は、やはり、夫と妻はひとりというのが普通でもあるのだ。

 

 さらに言えば、この世界では、一郎の元の世界に比して、女の力が強い。元の一郎の世界では、男の役割だった役割にも、たくさんの女性がそれらの職につき、社会の中で貢献している。

 

 従って、一夫多妻だけではなく、一妻多夫も社会的に認められている。

 一妻多夫の女神といえば、クロノスの五人目の妻であるテルメスだ。テルメスは、クロノス以外にも夫がいて、たくさんの子を産んでいるということになっているようだ。

 テルメスは“多淫”の代名詞でもある。

 

「ロウ様は、わたしたちのクロノスよ──。放っておいて──」

 

 エリカは不機嫌そうに言った。

 

「それほどの者なのか……?」

 

 シャングリアが考え込むような仕草をした。

 

「俺たちのことよりも、シャングリアはどうなんだ? それだけの美人だ。恋人はいるのか?」

 

 一郎は訊ねた。

 

「な、なに──? お前、わたしを愚弄するのか──。恋人などいない──」

 

 シャングリアがいきなり怒鳴った。

 これには一郎も当惑した。

 

「なんで、恋人がいることが愚弄することになるんだ?」

 

「わたしは男にうつつを抜かすような女ではない──。いや、女でもない──。わたしは女扱いされるのがなによりも嫌いなのだ──。だから、わたしに言い寄るような不届きな男は、片っ端からとっちめているのだ。そんな男は、公衆の面前でわたしの剣で叩きのめしてやっている」

 

 シャングリアは怒鳴った。

 さすがに、一郎もびっくりした。

 

「あ、あんたは、あんたに言い寄る男をそんな目に遭わせているのか?」

 

「当然だ。わたしよりも弱いくせに、わたしを女扱いするなんて許せないからな。わたしは女扱いされるのに我慢ならんのだ。わたしに言い寄るということは、わたしを女だと考えているということだ。わたしにはそれが許せない」

 

 シャングリアがきっぱりと言った。

 

「だけど、あんたは女だろう……」

 

 一郎は困惑して言った。

 

「女ではない。騎士だ」

 

 シャングリアが大きな声をあげた。

 

「なんで、そんなに女扱いをされることが嫌なんだ?」

 

 一郎は訊ねた。

 これだけ女が社会で認められている社会で、女であることを頑なに拒む理由が一郎には理解できないでいた。

 

「わたしは強い。それなのに、もっと弱い男の騎士の配下につかされている。それはわたしが女であるからなのだ。わたしが男であれば、もっと上の地位にわたしは着いていたはずだ。わたしは男に産まれたかった。そうであれば、弱い男の下で働くなどという恥辱を味わわなくてもよかったのだ」

 

 シャングリアがきっぱりと言った。

 だが、一郎は王都を出立する前に集めたシャングリアの評判について思い出した。

 シャングリアが騎士団で認められない理由は、シャングリアが女であることではないと思う。シャングリアは、自分勝手でほかの騎士仲間を無視して勝手な行動ばかりする。それがシャングリアの評判であり、シャングリアが個人的な強さの割りに騎士団で認められていないのは、その辺りに原因があると一郎も思う。

 しかし、シャングリアにとっては、自分が女であるから認められないと思い込んでいるようだ。

 

 そのとき、一郎たちが囲んでいる焚火に人が近づく気配がした。

 コゼだ。

 鍋と食器を洗って戻ってきたのだ。

 

「賑やかね。ずっと声が聞こえていたわ」

 

 コゼが馬車の荷台に鍋と食器を載せながら言った。

 そして、一郎たちがいる焚火に戻ってくる。

 

「コゼ、お前もエリカと同じように、このロウをクロノスだと認めるのか?」

 

 シャングリアが言った。

 

「クロノス? ああ、妻をたくさん持つほどの男と認めるのかという意味ね……? ふふふ……。それ以上よ……。あたしは、ご主人様のためなら死んでもいいと思っている……。嘘じゃないわ……。本当よ……。ご主人様は、あたしを救いだしてくれた……。その恩に報いるなんて不可能よ……。それなのに、ご主人様はあたしを愛して、そして、仲間だと……家族だと言ってくれる……。本当にありがたいと思っているわ」

 

 コゼが静かに言って微笑んだ。

 

「コゼ……」 

 

 一郎はコゼの言葉に驚いて絶句した。

 コゼがそれほどまでに、一郎のことを想っていてくれているとは思わなかったのだ。

 

「お前という女傑までエリカと同じように、この男に参ってしまっているのか、コゼ? お前も一流の遣い手なのであろう? それは身のこなしでわかるのだ。それなのに、こんな男に仕えて満足なのか?」

 

 シャングリアが不満そうに言った。

 どうやら、さっきから突っかかってくるのは、シャングリアが一目置くことに決めたエリカやコゼが、普通の能力にしか思えない一郎に慕っている様子を示すのが気に入らないからのようだ。

 シャングリアの価値観では、強い女は男に従うべきではなく、ましてや、そんな女が男に媚びるというのは許せないに違いない。

 

「……満足しているわよ、シャングリア。でも、あたしもあんたの気持ちがなんとなくわかる気もする……。あたしも女になんて生まれてきたことを後悔していた……。もしも、男だったら……。そんな風にずっと思っていた……」

 

 コゼがぽつりと言った。

 そして、みるみる顔が暗くなっていく。

 まずい……。

 一郎は思った。

 

 コゼがいま考えているのは、一郎に出逢う前、男たちの性便所のような扱いを受けていたあの恥辱の少女時代のことだろう。

 でも、一郎はそのことをコゼには思い出してもらいたくはない。

 あんなことが現実だったなんて、コゼには思ってもらいたくないのだ。

 

「そうだろう、コゼ。そうであるはずだ。お前もそれなりの女傑だ。わたしは認めている。コゼが男として産まれていれば、もっと活躍の場が与えられたに違いない。わたしもそう思う。そして、わたしもそうなのだ。男に産まれていれば、きっと……」

 

 シャングリアが喜色ばんで言った。コゼが自分に同意してくれたような発言をしたのが嬉しかったのだろう。

 しかし、コゼはそんなシャングリアを小馬鹿にしたような表情で見た。

 

 一郎はどきりとした。

 あんな表情は、一郎たちと旅をするようになってから、すっかりと消滅していたものだ。

 コゼの本質は明るさだ。

 そして、屈託のない笑顔だ。

 だが、笑うこともできないような現実がずっとコゼを押し潰し続けた。

 それがあんな笑みをかつてのコゼに作らせていた。

 その表情が戻りつつある……。

 

「なに言ってんのよ。あんたみたいなおめでたい女と一緒にしないでよ……。女でなければ出世できた? なに馬鹿げたことを言ってんのよ。女に産まれてきたくなかったなんていう言葉は、あたしのような地獄を味わってから言いなさいよ」

 

 コゼの笑顔が自嘲気味なものに変わった。

 やはり、あの笑みはよくない。

 一郎は思った。

 

「地獄……?」

 

 だがさらに、シャングリアが反応した。

 

「地獄よ。女どころか、あたしはこの世に産まれてきたことさえ、後悔し続けた。このロウご主人様と出逢うまでは……」

 

「なに、言っておるのだ? どんな地獄を味わったというのだ、コゼ? 説明せよ」

 

 シャングリアが言った。

 だが、一郎はこれ以上はコゼが危険だと判断した。

 この話題はコゼが心の底に封印したものを心の表側に浮き出させてしまうに違いない。

 

「うるさい、シャングリア。どんな地獄でも知ったことか。それ以上、訊ねるな」

 

 一郎は怒鳴った。

 

「な、なにを言っている……」

 

 いきなり一郎に叱るような声をあげられたシャングリアは、一瞬にして険しい表情に変化したが、一郎はそれを無視した。

 

 それよりもコゼだ。

 

「コゼ、考えるな。いまだけのことを考えろ。お前は俺に愛されるために産まれてきたんだ」

 

 一郎は大きな声で言った。

 そして、手を伸ばして、強引にコゼを引き寄せる。

 コゼの暗い心の影は一郎が淫魔師の力で打ち砕いた。

 だが、ともすればいまのように、すぐにその影が顔をもたげることがある。

 

 コゼは苦しいのだ。

 

 奴隷の首環で男たちの性の処理をする道具のように扱われていた長い少女時代のことを考えると、コゼは心が裂けるような気持ちになるらしい。

 そんなときは、そんなことを思う余裕がないほどに抱いてやる。それでコゼは心の平静を保てる。

 あの闇に吸い込まれずに、いつもの明るいコゼでいられる。

 一郎はそれを知っていた。

 

「ご、ご主人様……?」

 

 いきなり、一郎に抱き寄せられたコゼが顔を真っ赤にした。

 一郎は石に座っていたが、引き寄せたコゼは一郎の脚のあいだに両膝をたてるように跪いている。

 

「シャングリア、これからは大人の時間だ。勝手を言って悪いが、馬車の中で先に休んでくれ。エリカ、毛布を二、三枚おろせ……」

 

 一郎は言った。

 エリカが立ちあがる。

 

 エリカもまた、コゼがときどき暗い気分に襲われて、発作のように心が苦しむことがあることを承知している。そんなときは、その都度、一郎が激しくコゼを愛してやって、コゼが心の穴に落ち込まないように「処置」していることも承知している。

 

「な、なにをするつもりだ。まさか、ここでふしだらなことをするつもりではないだろうな」

 

 シャングリアがびっくりして怒鳴った。

 

「……ふしだらなことをしているつもりはない……。コゼ、顔をあげろ……」

 

 コゼがうっとりとした表情で顔をあげる。

 一郎はコゼの口に唇を合わせた。

 口の中を蹂躙してやる。

 コゼの鼻息が荒くなっていく。

 一郎が性感帯として鍛え、一郎が教えてやった口吻の快感だ。つまりは、一郎が教えてやった官能の歓びだ。

 コゼは口を愛撫される愉悦については、一郎しか知らない。

 だから、コゼを黒い心の闇に吸い込まれないように繋ぎとめられる。

 

「な、な、なにをするのだ。やめないか。わたしの前だぞ」

 

 血相を変えたシャングリアの声がする。

 しかし、一郎は無視した。

 

「ほら、ロウ様に馬車に引っ込んでいろと言われたんでしょう、シャングリア。さっさと中に入りなさいよ──」

 

 エリカが馬車にあった毛布を運んできながら言った。

 

「な、なんで、わたしがロウの指示に従わねばならんのだ。わ、わたしはどこにも行かんぞ──。だ、だから、やめんか──」

 

 シャングリアが喚きたてた。

 だが、もう一郎もさすがに面倒くさくなった。

 それに、いまはコゼをしっかりと抱いてやりたい。

 エリカも、もうシャングリアを無視するつもりになったようだ。

 持ってきた毛布を焚火のそばに拡げている。

 

「……コゼ、いいか……?」

 

 一郎はコゼをエリカが拡げてくれた毛布の上に導いてささやいた。

 シャングリアは、てこでも動くものかと駄々を捏ねている。このまま抱いていいかとコゼに訊ねたのだ。

 しかし、コゼがくすりと笑った。

 

「いつも、平気で人前で辱める鬼畜なご主人様のくせに……。ふふふ……。あたしは、ご主人様が愛してくれるのなら、もっと人の多い城郭のど真ん中でも嬉しいです……」

 

「愉しいことをいうねえ……。じゃあ、今度、それもやろう……。エリカ、お前も来い──。三人で愛し合おう……」

 

 一郎は毛布の外に立っているエリカに声をかけた。

 そして、コゼの服を脱がしていく。

 

「はい……」

 

 エリカもまた、その場で服を脱ぎだしている。

 横でまだ喚き続けている女の声がするが、もう、一郎にはその声は頭に入らない。

 見たければ見ればいい……。

 たっぷりと熱い三人を魅せつけてやる……。

 

 いや……。

 

 やはり、いまはそれもいい。

 少なくとも、この瞬間は、コゼと、そして、エリカのことだけを考えるのだ……。

 一郎は裸にしたコゼの小柄な身体を横たえた。

 

「エリカは乳房でコゼの乳房を擦り合せろ。そして、お互いの肌を舐め合え」

 

 一郎はそう命じてから、顔をコゼの股間に近づけた。

 下肢を押し割り、舌でコゼの股間の亀裂を押し広げていく。

 

「はうううっ」

 

 コゼの身体が反り返った。

 一方で、コゼの乳房と乳房を擦り合わせはじめたエリカからも甘い声が洩れだす。

 

 誰かが悲鳴をあげながら、馬車の中に駆け込んでいくのがわかった。

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