【2025.9.5コミック発売】異世界で淫魔師ハレム【完結】 作:ドン・ドナシアン
「それがあんたの償いかい? オデッセイだったかねえ? 馬鹿じゃないかい。次期女王っていう皆の期待を一身に背負っておいて、ただひとりの男にうつつを抜かして出奔かい? 間抜けな話じゃないかい」
ノルズはアスカをからかった。
「ふん──。命の恩人に報いたいとか、行儀のいいことを言っておいて、よくよく話を聞けば、結局最初の男にのぼせているだけのお前に言われたくないね。しかも、肝心の相手の男はお前の健気な働きをまったくご存じないときたもんだ。お前の方が間抜けさ」
アスカが、皮肉たっぷりにノルズに言い返してきた。
「お互いに、惚れた男に一途だというだけじゃないか。あんたは、オデッセイこと、パリス……。あたしは、ロウ様さ……。ところで、その決着もついたよ。これはほぼ間違いないことだと思うけど、あんたのオデッセイを殺したのは、あたしのロウ様だ」
ノルズはけらけらと笑った。
パリスの死の真相……。
エランド・シティに向かい、水晶宮に潜り込んだことで、緘口令を布いてあるらしい、その情報に触れることができた。
最大の収穫だ。
そして、最初にこの情報に触れたときには、ノルズも驚いたが、同時に嬉しくもあった。
アスカがあんなに恐れているパリスをあっさりとロウが殺すことができたということがわかり、やはり、ロウはただ者じゃなかったのだと実感できたからだ。
一方で、アスカは目を丸くしている。
「ま、まさか──。あの男がかい──? どうやって殺したんだい?」
「それはわからないね。だけど、確かだと思うよ──。太守夫人のカサンドラは恋人の敵討ちとばかりに、血眼になって部下にロウ様を探させている。だから、ロウ様がパリスを殺したということは間違いないのさ」
「だけど、パリスは、自分が殺す相手も、自分を殺す相手も、その姿と能力を魂ごと手に入れることができるという力があるんだよ──。だから、誰もあいつを殺せなかったんだ──。あいつに手をかければ、逆にそいつが命を奪われるんだ」
「それこそ、パリスの呪術がロウ様には効果がないという証拠じゃないかい──。これも確認できた情報だけど、パリスが死んだのは、水晶宮の地下だそうだ。そこからロウ様と連れの女たちは、水晶宮に連接している地下洞窟に逃げ込み、あんたの妹の親衛隊長の転送魔道で逃げてしまったようさ。水晶宮の兵たちのもっぱらの噂で、これについては聞き出すのに造作もなかったよ」
「なんで、ガドニエルの親衛隊長があの男に協力するんだい?」
「たらしこんだんじゃないかい? 親衛隊長は美人のエルフ女だそうだよ」
ノルズは笑った。
アスカが腕を組んで考え込むような仕草をする。
「……いや、でも信じられないねえ……。あのパリスをあの男が……? いや、ここにあるパリスの命の欠片が騒いでいるから、死んだというのはわかっていたんだが……。まさか、あの男がねえ……」
「ロウ様だよ──。いまのうちに練習しときな。今度出逢ったら、“いつぞやは済みませんでした。身体の中のパリスの命の欠片を連中の手の者に殺されないうちに取り出して、ついでに、重ね掛けされている様々な呪いの解呪もして欲しいから、お願いだから抱いてください”って、言わないとならないんだからね」
「抜かせ──。あんな男に……。とにかく、エルスラ、いや、エリカだったっけ? とにかく、エルスラのことは認めるよ──。それでいいだろう。それを代償に、あいつに解呪をさせるさ」
「ちょっとは下手に出た方がいいんじゃないかい、アスカさん──。とにかく、そのエリカというエルフ娘のことなら、ロウ様は、あんたの許可なんか欲しがらないと思うよ。むしろ、そんな物言いなんてすれば、気を悪くすんじゃないかい? まあどうせ、
「うるさいねえ──。そもそも、男の前に連れていくとか言っといて、話を聞く限り、お前が一途に想っているだけで、ほとんど他人じゃないかい──。いや、他人ならまだしも、向こうにしてみれば、あいつにちょっかい出して、返り討ちにあって逃亡した悪女だろうが──。わたしとなにが違うんだい──」
「まあ、それは任せな。ちゃんと、あんたの身体の呪術を解いてもらうように頼んでやるから」
ノルズは自信ありげに見えるようににやりと笑ってみせた。
もっとも、完全なはったりだ。
アスカの言葉は、至極ごもっともであり、実のところ、ロウにとってはノルズなど、アスカの言った通りに、ロウに敵対したという悪女でしかないだろう。
だが、ロウがずっと気にしていたアスカを連れていって性支配する機会を与えれば、ロウにとって得こそすれ、損になることはまったくない。
それどころか、それこそ、ノルズの命を助けてくれたロウに報いる恩返しになるだろう。
だから、今頃現われてなんだとロウが呆れようとも、ノルズはロウの前に、アスカとともに姿を現して、ちゃんと頭をさげるつもりだ。
本当は、あのお人よしのスクルズあたりがいて、あいだに入ってくれればいいのだが……。
しかし、死んでしまったのだ……。
一方で、アスカは不満そうに鼻を鳴らした。
「そりゃあ、わたしだって、それでパリスから解放されるんなら、藁にも縋る思いではあるけど、よくよく聞けば、お前があの男に尽くしていることだって、完全に片想いじゃないかい──」
「か、片想いって……」
「片想いじゃなくてなんなんだい──。いや、もっと悪いね。向こうはお前のことをほぼ知らないんだ。とにかく、わたしは、あいつとエルスラを殺しかけたことがあるんだよ。本当に大丈夫かい?」
「だ、大丈夫さ……」
ノルズはもう一度言った。
そして、もう一度考えたが、やっぱり大丈夫じゃない。
だんだんと心配になってきた。
ロウが逃亡したノルズのことを怒っているならまだしも、すっかりと忘れていたらどうしよう。
あれだけ、周りに美人、美少女を侍らせているロウだ。ノルズごときを完全に記憶から抹消させている可能性もある。
いや、そうかも……。
まあ、それはそれで仕方がないし、だから、ノルズがどうということもないが、できれば、ほんの少しでいいから、ノルズのことを覚えていて欲しいものだ。
我儘だろうか……。
いや、やっぱり、それは我儘だ。
ノルズは悟り直した。
「いまからでも遅くないから、お前があいつのために、命を賭けてあちこちを駆けまわっていることを教えな。どこに隠れているかわからなくても、お前のことだから、伝達手段くらいあるんだろう」
アスカが呆れたように言った。
ノルズは首を横に振った。
「じょ、冗談じゃないよ。そんなことして、あたしが死んだり、捕らわれたりしたらどうすんだい。もしも、ロウ様のために動いているということが伝わったら、あたしが死んだら心配するかもしれないし、捕らわれたりしたとき、万が一にも助けようだなんて、向こうが考えたらどうするんだい──」
「それだけのことをしてきたとは思うけどね。わたしはともかく、パリスやその一派を相手にして、よくやってるよ、お前は……。心配くらいさせればいいだろう──」
「だ、か、ら、心配させてどうするんだい──。あたしが恩返しだと思ってやってることは、あたしの想いのためだけに、あたしが好きでやってんだ。そのことであたしが死んでも、それをあの人が知る必要はないのさ。別に、褒めてもらおうとか、恩に着せて、好きになってもらおうとか考えているわけじゃないんだ」
「よくわからないねえ……。お前は、あの男のために死んでもいいと思うほどに、あいつに惚れたんじゃないのかい? もっとも、お前のような女がひとりの男を愛するなんて、柄じゃあないとは思うけどね」
「死のうが死ぬまいが、これは、あたしがあたしの満足のためにやっていることさ──。このこと自体に、あの人は関係ないし、あたしがロウ様のために動いていることを知ってもらう必要もない。あたしは、あの人の役に立っているという実感が欲しいだけさ」
これはノルズの本心だ。
だから、ロウには何も教えずに動き、そのために死のうとさえ思ったのだ。
それなのに、さっき、一瞬だが、ノルズはロウに覚えていて欲しいと思ってしまった。
なんと浅はかな……。
ノルズは首を横に振る。
「へっ、健気なんだろうさ……。エマに布瘤付きの褌を締めさせて悦ぶ嗜虐趣味の女と同一人物は思えないね」
アスカが苦笑した。
「その言葉、そのまま、あんたに返してやるよ──。あんたみたいに、男奴隷や女奴隷を拷問しては悦に更けるような女が、元はと言えば、希代の魔道力の遣い手として期待されていたエルフ族女王家の嫡女と同一人物だった方が驚きさ」
「惚れた男が悪かったのさ。とんでもない悪党でね」
アスカが自虐的な笑みを浮かべた。
このアスカが、実は、いまのエルフ族女王のガドニエルの姉であり、もともとはラザニエルという名の将来を嘱望された後継者だったというのは、アスカとともに、エマの新しい人格作りの作業をしているときに聞いたことだ。
酒を片手に、エマを作り変えるなら、こんな性格がいいとか、あんな身体がいいとか話しながら、さらに、お互いに身の上話を語り合ったのだ。
だが、それによれば、この魔女は、いまはこんな風になっているが、かつては、清廉潔白な外見を覆って人生を送っていた時代もあったらしい。
もっとも、ほかの者には隠れて、妹を自分の百合の性愛の調教相手にする程度の真面目さではあったようだが……。
百年以上も前の話らしいが……。
当時は、ガドニエルというちょっと羽目を外しがちのお転婆な妹と、それなりに助け合って、女王家の次期当主として、真面目に生活を送っていたらしい。
それが壊れてしまったのは、オデッセイという超美男子の流れ者のエルフ男にひと目出逢ってしまったときのことであり、この女が柄にもなく、その男にのぼせあがり、そのオデッセイに誘われるまま、エルフの里を出てしまったということなのだ。
しかも相手と“
アスカがノルズと酒を交わしながら語るには、そのオデッセイは、ラザニエルだったアスカがひと目で恋に陥るような美形であり、性格だって素晴らしく、まさにすべてを投げ打ってもいいとさえ思った男だったという。
だが、そのオデッセイこそがパリスなのだ。
そして、パリスがラザニエルの前に現れたのは、全てが、ラザニエル、つまり、いまのアスカをさらうための罠だったということだ。
パリスがアスカを狙ったのは、ただただ、パリスが考えていた大量の瘴気発生のための特異点として、アスカが「大量の理力を保持する人材」として必要だったからだ。
つまりは、道具である。
だから、パリスは。最初からアスカに目をつけ、たらしこんでさらうつもりで近づいたのだ。
しかし、アスカに言わせれば、
だから、少なくとも、パリスが、アスカを愛しておらず、道具としか考えていないのであれば、アスカの心はつがいの共鳴を起こすはずがなかったというのだ。
しかし、お互いに想い合っている証である“
だからこそ、アスカはオデッセイの本気を信じたのだ。
そして、エルフの森から、オデッセイとともに出奔した。
彼の「夢」をかなえるために……。
パリスは、ラザニエルを道具として狙っているだけだったのに、どうやって、
それも簡単だ。
パリスは、自分が殺した相手や、自分を殺そうとした相手の姿や能力を魂ごと奪って、自由に扱えるという究極の闇魔道の能力があるとのことだ。
それは、魔道で変身するという変身術でない。
それならば、鑑定術で見抜くことができる。エルフ族王家の嫡女ともなれば、鑑定術で見抜けない魔道の変身など存在しない。
しかし、パリスの闇魔道は、あらゆる魔動的な意味での完全に他人になってしまうのだ。
だから、アスカも見抜けなかった。
パリスは、オデッセイというかつて自分が奪ったエルフ族の青年の魂を利用してラザニエルに接近し、本気の恋をして、愛を語らせ、
そして、成立させた後は、パリスはそのオデッセイの人格を封印してし、自分側から
ただ、片側が消えたところで、相手の魂が完全に消滅しないと、消えないのが
その結果、アスカ側にはパリスに心が縛られるという結果が残ってしまった。
アスカは、いまだに、オデッセイだったパリスに愛情の気持ちを抱いている。
これこそ、アスカを縛っている最大の呪縛でもある。
いずれにしても、あとは、大した話ではない。
パリスはラザニエルに、アスカと名を変えさせ、殺人に誘拐、拷問に強盗、ときには謀略や、色仕掛けの調略の道具としてこき使った。
それこそ、男であろうと、女であろうと、老人であろうと、子供であろうと、悪人であろうと、善人であろうと、あらゆる種族、あらゆる境遇の者を殺させたり、拷問をさせたりし、ほかにも考えられる限りの悪事の片割れを手伝わされ、いつしか、そんなことには一切心が動かないような闇の感情しか抱けない女になったのだという。
また、挙句の果てに、パリスは、パリスが死んだときの保険として、アスカの身体を自分の魂の欠片の入れ物とし、さらに、そのことでパリスやパリスの手下に絶対に逆らえなくして、予定通りに瘴気の拡大のために特異点の発生源としての生贄にまでに落とし込んだのだ。
パリスが、自分の「魂の欠片」の入れ物にアスカを選んだのは、アスカがそれだけの魔道遣いだったからだ。
闇魔道が通用せずに、一度パリスが死んだ場合は、パリスの復活のためには、あらかじめ自分と切り離して保管しておいたパリスの命の欠片が必要となる。
だが、欠片の保管場所は、生きている身体でなければならず、しかも、保管容器である本体がパリスよりも先に死んだら、入れておいたパリスの魂の欠片も失われしまう。だから、「保管容器」は、なかなか死なない人間がいいのだ。
アスカはうってつけの「入れ物」だった。
そして、復活の儀式は難しいものでもないそうだ。
パリスが死んだあと、今度は、逆に入れ物であるアスカが死ねばいいのだ。
だから、パリスが死んだ以上、パリスの部下は目の色を変えて、パリスの魂の欠片を入れているアスカを殺そうとする。
ただの偶然だったが、ロウがパリスの仮体を殺す直前に、ノルズがアスカ城からアスカを逃亡させていたのは僥倖だった。
さもなければ、パリスの仮体の死後、アスカはあっさりと殺され、アスカ城でアスカの能力と姿をしたパリスが復活していたはずだ。
また、アスカの能力を利用したり、魂の欠片の入れ物として活用する一方で、パリスは徹底的な快楽調教をアスカに施したそうだ。
ノルズも巫女修行時代に経験があるが、ある程度の高位魔道遣いになると、淫乱であればあるほど魔道力があがるという、魔道遣いと性的快楽には不思議な関係性がある。
神殿界でさえも、修行の秘法として、高位魔道遣いの素質がある子女には、幼い時期から性的快楽に目覚めさせ、相互の同性愛を教え込む。
ノルズも、その時期を通じて、スクルズやベルズやウルズという巫女たちと仲良くなったのだ。
とにかく、パリスもそのことは知っていて、アスカを瘴気を生み出す道具として成長させるために、アスカに性調教を繰り返して、その魔道力を限界まであげたようとしたのだ。
中毒性のある媚薬、掻痒剤、淫乱剤、興奮剤……。
連続絶頂、寸止め調教、羞恥に対する興奮、苦痛を快感に変換させる被虐性……。
局部だけでなく、肛門はもちろん、ありとあらゆる身体の器官で快感を覚えることを淫具や魔道具で仕込まれ……。
男奴隷……、女奴隷……、ときにはパリスの手下……。
どこかからさらってきた子供まで遣って、パリスはアスカに背徳的な肉欲の悦びを叩き込んだ。
とにかく、パリスによるありとあらゆる手段で、アスカは、四六時中、淫事に耽っていなければ耐えられないような淫乱な身体と心に作り変えられたのだそうだ。
しかも、それについて、ほんの少しでも、パリスから愛が感じられれば、まだ、アスカは救われたという。
だが、アスカを調教するパリスには、一片の心も感じなかった……。
アスカは、そんなことをノルズと酒を飲みながら笑って語った。
つまりは、パリスが自分に心はないとわかっていながら、それでも、パリスから心が離れられないアスカは、パリスの命令のままに悪事を重ね、享楽にうつつを抜かし、退廃と堕落を繰り返し、やがて、それらのことに全く心も動かなくなり、性愛についても、与え続けられるだけでなく、自ら積極的に認めるようになると、嘘のように苦悩もなくなり、その結果、自分が嗜虐されるよりも、嗜虐する方が好きになるというように心が変わっていったそうだ。
そのうちに、アスカの召喚術も完成し、これが大量の瘴気を生み出すということがわかると、パリスは、ルルドの森と言われる場所の一角にアスカ城を建設して、そこにアスカを監禁した。
表向きはその女王だが、アスカの実態はパリスとその一派の奴隷だ。
そこで、ひたすらに瘴気を生み出す道具として扱われ続けた。
アスカ自身は、ずっとあのアスカ城に閉じ込められたまま、自分が望むわけでもない瘴気を生み出しては拡大させ、しかも、いつかその瘴気に自分自身が破壊されるとわかっていながら、果てしない快感の中毒のようにされた身体が欲するまま、いつしか、いまのように享楽だけに生きるようになって、ついには、稀代の悪魔女に悪堕ちしてしまったのだ。
「お前には感謝しているよ、ノルズ。パリスの連中が、今度はわたしの故郷であるナタルの森に手を出そうとしていると知ったときには、はらわたが煮えくり返りそうだった。だけど、なにもできない。そんなときに、お前は、わたしをアスカ城から連れ出してくれたんだ。まさに、エルフの守護神アルティスの加護としか思えなかったね」
アスカはけらけらと笑った。
だが、その眼は真剣だった。
ノルズは、アスカの偽悪的な態度の底に、まだ冷めきってはいない心を感じた気がした。
「あんたの守護神は、冥界の守母にして、退廃と堕落の女神のインドラじゃないのかい」
ノルズは軽口を叩いた。
「抜かすんじゃないよ──。偉そうに……。淫魔師だというロウのことをやたらに褒めるし、あんなに性技に長けた男はいないと繰り返すから、さぞや比較対象があるのかと思えば、お前、まだ、あの男にしか抱かれたことのない生娘同然の女じゃないかい──。笑わせるんじゃないよ」
「なっ」
アスカの言葉に、ノルズはかっと自分の顔が赤くなるのを感じた。