【2025.9.5コミック発売】異世界で淫魔師ハレム【完結】 作:ドン・ドナシアン
503 シティ連続破廉恥事件
カサンドラは、混乱の中にいた。
水晶宮への第一報は些事としてすぐにカサンドラに入ることはなく、カサンドラが接したのは、水晶宮に届いた内の第二報からだ。
すなわち、下層地区で騒動を起こしている女のうち、ひとりはカサンドラが手配を命じたアスカに間違いないという報告だ。
カサンドラはびっくりした。
慌てて、第一報を遡って報告させたところ、その第一報というのは、下層地区で若い人間族の女をほとんど素っ裸にして、犬のように四つん這いで歩かせている女たちがいるという馬鹿げた内容だったらしい。
あまりにもふざけた内容だったので、カサンドラには届かなかったようだが、その女たちの容貌が第二報として届けられ、それが、カサンドラがナタル森林の全土のエルフの里に発していたアスカの手配書の人相と合致したために、カサンドラへの報告が慌てて届いたというわけだ。
とにかく、アスカが、よりにもよって、水晶宮の存在するエランド・シティに出現したという報告には驚いてしまった。
アスカをエルフ族の敵として、ガドニエルの名で大陸全土に死刑犯として、手配せよと命じたのは、ほかならぬガドニエルであり、直接に部下に指示を発したのはカサンドラである。
だが、半分は本気ではかなった。
だから、最小限度の手続きしかしなかったし、ガドニエルは命じたものの、各王国にエルフ族の女王の名で親書を送りつけ、諸王国にアスカの処刑依頼をするまでのこともしなかった。
なにしろ、アスカ城の女王のアスカこそ、ほかならぬ、百年以上前にオデッセイという旅のエルフ男とともに出奔し、ずっと行方知れずになっていたラザニエル王女であり、いまのエルフ族の女王であるガドニエルの実の姉かもしれないのだ。
それが事実かどうかははっきりとはわからないが、カサンドラについては、九分通り事実であろうと確信している。
ただ、ガドニエルがどう考えているかわからない。
しかし、紆余曲折の末に、ガドニエルは数日前に、アスカへの処刑指示を発した。
アスカが実の姉のラザニエルの可能性があるにもかかわらずだ。
それが事実だ。
もっとも、今回のために集めたアスカの風貌は、カサンドラやガドニエルが承知しているラザニエルの容貌とは、かなり異なっていた。
ラザニエルほどになれば、魔道で外見はいくらでも変えられ、容貌はもっともあてにならないものである。
そのため、人相書きを回したところで、アスカがラザニエルならば、逃亡の妨げにはならない。
それがわかっていたから、人相書きまではカサンドラも大して躊躇することなく回したのだが、まさか、自らシティにラザニエルが現れるのは想定外だ。
アスカ城の女王のアスカがラザニエルであるという情報をカサンドラに教えたのは、あのパリスだ。
即座には信じなかったカサンドラだったが、信じざるを得ない証拠を次々にパリスに呈示され、同時に、そのラザニエルを人質にパリスから性行為を迫られることになった。
なにしろ、パリスは、ラザニエル自身から聞き出したとしか思えない、カサンドラとラザニエル、そして、ガドニエルとの性的関係のことを熟知しており、それに加えてパリスは、アスカことラザニエルは、パリスたちの奴隷同然の境遇であり、カサンドラがパリスに身体を開かなければ、ラザニエルはさらに惨めな立場になると脅迫をしてきたのである。
とにかく、情報だと思った。
それもあり、カサンドラは、パリスのとの関係に応じた。
しかしながら、カサンドラは、そのパリスとの性行為において、ずっと忘れていた嗜虐の性癖を呼び起こされてしまい、これ以降、パリスから離れられなくなってしまったのだ。
それが、パリスとの関係の始まりである。
それはともかく、ガドニエルがずっと心配していたラザニエルの行方のことだ。
カサンドラは、パリスとの愛人関係であることを隠して、独自の捜査によって得た情報として、アスカ城のアスカが、ラザニエルであるらしいという情報をガドニエルに伝えた。
ただし、自分がパリスという得体の知れない男の愛人になったことは隠したかったし、なによりも、そのときにはカサンドラはパリスとの肉欲から離れられくなってしまっていて、パリスがラザニエルを人質にしているなどという、パリスに不利になることをガドニエルに伝えたくなかったのだ。
従って、ガドニエルに伝えたのは、パリスとの関係抜きの、一般情報としての範疇としてだ。
だから、ガドニエルへの情報伝達が、いかにも不完全なものになってしまったことは否めない。
当然ながら、情報には期待しつつも、ガドニエルからは、ラザニエル救出ではなく、さらに精緻な調査を継続せよという指示を受けた。
まあ、当然だろう。
なにしろ、当時は、アスカ城や皇帝家による陰謀工作が取りざたされていて、そのために、ガドニエルが諜報担当のアルオウィンをアスカ城に送り込むことを検討していたくらいであり、ずっと行方知れずだったラザニエルの情報が入ったことには喜びつつも、ガドニエルもナタル森林に不利な謀略の当事者であるアスカが、実の姉のラザニエルだという情報には半信半疑になってしまったのだ。
カサンドラがちゃんと自分の知っている情報を正しく伝え、アスカはパリスたちの傀儡にすぎず、パリスの奴隷だと表現するほどの立場かもしれないと説明すれば、ガドニエルの判断は異なったかもしれないが……。
結果として、カサンドラは、パリスの水晶宮への訪問のことも、パリスがラザニエルを「奴隷」だと称したことも伝えることができず、自分がある意味、重要な情報をガドニエルに隠したことになったことについては、カサンドラの心に、悶々とした深い悔悟として残ることになってしまった。
だが、その後、意外な事実がわかった。
実はイムドリス宮にとじ込もって、各国の国王の正式の使者でさえ会うことなどないはずのガドニエルが、なぜかパリスを知っていたのである。
しかも、かなり親しい関係のようだった……。
あれは、ロウ捕縛のために、ガドニエル女王の許可が必要な水晶軍による戒厳令をかけろとパリスが迫り、結局、カサンドラも拒否できなくて、パリスの求めのまま、パリスをイムドリス宮に連れていったときだった。
あのときは、ガドニエルとパリスが知己であることに驚いた。
しかし、それは、もしかしたら、カサンドラがガドニエルに疑念を抱いた最初かもしれない。
もっとも、そのときの違和感は、今朝、ある噂を世間の流言のひとつとして報告を受けるまでは、はっきりとしたかたちにはならないでいた。
いずれにしても、あのパリスとガドニエル女王の面会からすぐに、アスカに関する調査の中止命令が届き、やがて、水晶宮内でパリスが惨殺されるという事件が発生した。
次いで、そのガドニエルから、パリス暗殺の首謀者として、アスカ城のアスカに対する処刑命令が発せられるという状況になり……。
わけがわからなかった。
しかし、夕べ遅くから早朝にかけて、当然に、ガドニエル女王に関する疑惑が次々に水晶宮にもたらされたのだ。
いまのところ、情報源も不明……。
なぜか急に、上層地区と下層地区の両方で噂が流れ出したようだ。
つまりは、現在、イムドリス宮にいるガドニエルは偽者であり、実は本物のガドニエル女王はすでに死んでいるという噂だ……。
一笑に付すのさえ馬鹿馬鹿しい内容なのだが、カサンドラには思い当たることがあった。
あまりにも態度や物言いが異なってしまったガドニエル……。
水晶宮側の者で常続的にガドニエルと会うのは、カサンドラのみであり、その噂に接した者でそれが真実の可能性があると考えるのは、カサンドラ以外にはいないだろう。
だが、その唯一であるカサンドラは、もしかしたらと思った……。
いまイムドリス宮にいるのは偽者?
そんなことが、あり得るのか?
しかし、例えば、アスカ、すなわち、ラザニエルに対する反応……。
最初に、ラザニエルの行方がわかったかもしれないとガドニエルに告げたときには、ガドニエルも疑いを抱く様子ながらも、狂喜乱舞の様子を示し……。しかし、先日については、ラザニエルの行方など興味無さそうだったし、姉のラザニエルかもしれないアスカに躊躇なく処断指示を発し……。
そもそも、パリスのことをガドニエルはどうやって知ったのだ?
なぜ、ガドニエルは、パリスの死を問題視した?
どうして、アスカがラザニエルであるかもしれない可能性に興味を失った?
それらのことが不思議だった
万が一……。
カサンドラは、自分の中に沸いてしまった疑念を消すべく、隠し宮であるイムドリス宮に赴き、ガドニエルに会おうとした。
だが、理由なく完全封鎖になっていた……。
ガドニエルは、いつの間にか、イムドリス宮側から水晶宮からの接触を切ってしまっていたのである。
そんなことは、これまでに一度もなかった。
少なくとも、それひとつでさえ異常なことだ。
疑念は膨らむばかり……。
もしも、ガドニエルが入れ替わっていたとすれば、これも納得できる態度の豹変だが……。
いずれにしても、いまはともかく、ガドニエルからアスカの処断指示を受けたときには、ガドニエルの真の意図はわからなかったが、その指示は絶対だと思った。
しかしながら、アスカ城のアスカがラザニエルに間違いないことは、ほぼカサンドラについては確信していたし、どう対処すべきが判断のつかぬまま、とりあえず最小限度の手配の処置だけをして、いまに至っていたのだ。
ところが、その当事者のアスカが、自らエランド・シティに乗り込んできたというのは、まさに青天の霹靂だ。
「アスカともうひとりの女の行方は、まだ掴めません」
水晶宮の執務室に、やってきた伝令が報告を伝えてきた。
カサンドラは、とりあえず頷くとともに、次いで、口を開いた。
「……それで、シティの住民はどうしているの?」
「混乱が始まったすぐでは建物に籠って出てこない者が大半でしたが、自分たちには被害はなさそうだと思い始めたところで、犠牲になっているエルフ兵を見物する野次馬が拡大しつつあります。とにかく、大混乱です」
伝令が応じる。
「指示があるまで外出禁止──。それを徹底させなさい……。いや、待って──。もういいわ。待機の隊を出動させなさい。ただし、少数による出動は禁止。シティ内で秩序の維持に当たらせて。せめて、可哀想な晒しものになっているエルフ兵を好機の視線から防ぎなさい──」
カサンドラの言葉を伝えるために、すぐに伝令が立ち去っていく。
再び、執務室にひとりなると、カサンドラは大きく嘆息した。
どうして、こんなことになったのか……。
カサンドラは、最初に接した報告以降、次々に送り込まれる報告に、すっかりと混乱をしてしまっていた。
なにしろ、アスカがシティに現れたという情報に次いで始まったのは、まるで
すなわち、最初の事件は、下層地区における破廉恥事件だ。
その首謀者が手配中のアスカだという情報に接して出動したアスカ捕縛の一隊は、現場に到着したという彼らからの報告直後に連絡を断った。
不思議に思い、追って確認のための班を派遣してみると、確認者たちがそこに発見したのは、約五十人のエルフ兵の一隊がことごとく昏倒し、しかも、装備や衣服をちりぢりに溶かされて、ほとんど素っ裸の状態で動くこともできずに転がっているという信じられない光景だった。
また、その場所では、エマと名乗るアスカの連れと思われる娘も見つかったが、そのエマは強力な透明の結界の檻に裸で閉じ込められていて、さらに派遣された魔道遣いの誰にも、結界を解くことができないというのだ。
エマについては、水晶宮から、追加の魔道師隊まで送り込んだが、いまだに結界の檻から出せないらしい。
一体全体、どういうことだと混乱していると、次いで、まったく別の場所で第二の事件が発生した──。
上層地区にある軍営近くにアスカを含むと思われる二人組の女が突然に出現して、たまたま軍営から出ようとしていた一隊を地面から発生させた触手に襲わせて、やはり服を溶かした挙句に、触手で絡めとって、白昼の中で淫靡な愛撫責め仕掛けたというのだ。
たまたま、その一隊の半数以上がエルフの女兵だったこともあり、軍営の前では多数のエルフ女に対する触手による公開凌辱の光景が展開されるという前代未聞の状況になっている。
しかも、かかっている魔道が強力であり、軍営や水晶宮の魔道遣いが寄ってたかっても解除できず、それだけでなく、下手に近づくと、その魔道遣いまで触手に絡めとられるという具合であり、いまでも難儀しているそうだ。
なによりも、肝心のアスカともうひとりの女は、すでに現場から消え去った後であり、女兵隊への触手による公開凌辱の場所では、アスカは発見できなかったという報告も入った。
そういう報告がカサンドラに次々にもたらされて、呆気にとられているところに、またもや第三の事件だ。
今度は、またもや下層地区にアスカが現れ、たまたま警邏中の十人ほどの一隊がアスカたちに奇襲により襲われて、腰から下の衣類を下着ごと奪われて、大通りの真ん中に膝から下を地面に埋め込まれて、晒されたというのだ。
しかも、その十人のうちの三人が女兵であり、アスカと一緒に行動している人間族の女が、悪戯半分で女兵の後手を拘束し、魔道で取り出した振動する丸い淫具を女兵たちの股間に貼りつけて放置したという。
それが目撃者及び襲撃後に救出された男兵からの情報だ。
また、彼らによれば、それを面白がったアスカが、またもや女兵に結界の檻を刻んだため、駆けつけた救援隊によって、男兵は助けられたものの、女兵については、いまだに、そこで泣きながらよがり狂っているのだという。
また、やはり、アスカたちは姿を消していて、彼女たちは見つけることができなかった。
そして、第三の事件を通じて判明したことだが、どうやら、そのふたりは、跳躍術を防止する魔道波が流されているはずのシティにおいて、跳躍術で跳びまわっているということだった。
常識では考えられないことであるが、アスカがラザニエルであれば、それは頷けることだ。
ナタルの森において、間違いなく、最高の魔道遣いは女王のガドニエルであったが、少なくとも、ラザニエルが出奔した時点においては、魔道力では姉のラザニエルがずっと勝っており、アスカとラザニエルが同一人物であるならば、エランド・シティの魔道防止の結界がアスカに通用しないのはあり得ることだ。
また、なによりも、エランド・シティの魔道制限の結界は、女王家の一族の魔道波には、通用しにくいように刻んである。
この二重の理由により、やはり、アスカがラザニエルだというのは信憑性が高い。
それから、同じような馬鹿げた破廉恥事件の報告が第四、第五、第六と続き、その都度、カサンドラは水晶軍を派遣してシティの混乱に対応している。
もはや、水晶軍だけでなく、内務要員まで動員した。
まさに、てんてこ舞いだ。
「カサンドラ様、また新たな報告です」
またもや、伝令がやって来た。
すでに執務室については、カサンドラだけになっていて、今度の報告者は普段見ない顔の者だった。
魔道力の高い者は、水晶軍の要員でない者も狩り出して、晒しものになっている者の救出に当たらせているので、誰かと交代したのだろうと思った。
「今度は、どこよ──?」
カサンドラは、内心の苛つきを隠す気にもなれずに、報告をした者に怒鳴った。
扉からやって来たのは、二人組の伝令だ。
二人組……?
しかし、ずっと報告者はひとりだったので、わざわざ連れだってきたのはなぜだろうという疑念がふと沸いた。
すでに、どの現場でも、人手不足の状態だ。ひとりで問題がない伝令にふたりで……?
だが、そのときには、外からこちら側を遮断する結界が二人組のひとりによって、張られてしまった後だった。
はっとした。
もしかして、閉じ込められた──?
カサンドラは、びっくりして腰を浮かせた。
「今度の事件はここだよ、カサンドラ」
女兵のひとりが言った。
「あたしらと一緒に遊ぼうじゃないかい、カサンドラちゃん」
すると、もうひとりの女兵も茶化すような物言いをした。
ここに賊――?
驚愕するとともに、カサンドラの背に冷たいものが流れた。