【2025.9.5コミック発売】異世界で淫魔師ハレム【完結】 作:ドン・ドナシアン
仮にも太守夫人だ。
ノルズは、カサンドラを本当に素っ裸で部下たちの前を連行させるつもりだったが、アスカが布一枚を与えてやるように言ったので、カサンドラには拘束を外したうえに、全身を包むマントを与えてやった。
カサンドラは、激しい快感で達したばかりなのが丸わかりの、ぼんやりとした虚ろな眼差しのまま、ノルズとアスカを従えて、アスカが結界を解いた部屋から外に出ていく。
果たして、そこにはびっしりと水晶宮の者たちが集まっていた。
軍の連中もいるようだ。
部屋におけるやり取りが、集まっていた連中に対して垂れ流しになっていたのは間違いない。
カサンドラをいたぶっているあいだ、アスカは、部屋に誰も入れないように結界を張ったものの、室内の声は逆に廊下に響き渡るようにしていたはずなのだ。
従って、カサンドラの「告白」は、この連中の耳にしっかりと入っただろう。また、このアスカがガドニエル女王の姉のラザニエルであるという会話も伝わったと思う。
だから、太守夫人を不当に監禁し、あまつさえ侮蔑を与えた潜入者だというのに、アスカとノルズに手を出そうとする者はいない。
全員がどう対応すべきか迷いきっているようである。
カサンドラを前にして出ていくと、さっと輪が広がるように、三人の前に空間ができた。
「も、問題ない……。こ、この方は……ラザニエル様に間違いないわ……。ガドニエル様の姉君様よ……」
カサンドラが気だるそうに言った。
ざわめきが大きくなり、それがだんだんと遠くにいる連中にまで拡がっていく。
「道を開けな。これから、イムドリス宮に向かう──。太守夫人は了承だ。もしかしたら、イムドリス宮におられるあんたらの女王は、とんでもない危機に陥っているかもしれない。だから、ちょっと見てくる。それだけだ」
ノルズは大きな声で言い放った。
「いまから、この水晶宮については、このラザニエルが預かる──。この中にはカサンドラ以外にも、わたしの顔を覚えている者がいるはずだ。そいつがわたしのことを保証しな──。パリスという悪党が、ガドニエルを狙っていたという噂を耳にして、わたしはガドニエルを助けるために戻ってきたんだ──。なにもなければそれでよし。もしも、万が一ということがあれば、わたしの命をかけて、あいつを助ける──。さあ、道を開けておくれ」
アスカが大きな声で叫んだ。
あらかじめ打合せしていた台詞だ。
ここに何十人集まったのか知らないが、これくらいなら、ノルズとアスカなら蹴散らすこともできる。
しかし、できれば大騒ぎなしに、鏡の間とやらに向かいたいのだ。
そして、いまのところ、水晶宮の者たちも、ノルズやアスカを阻止しようという動きを見せるものはいなさそうだ。
むしろ、どう対応していいか判断できないかのように動揺している気配である。
「どきなさい……」
カサンドラがもう一度言った。
今度はさっと道が開いて、前に進む経路ができあがる。
ノルズたちは、前に進み始めた。
「お待ちください、ラザニエル様──」
少し進んだときだった。
エルフ族の美丈夫が不意に声をかけてきたのだ。
軍人だ。
身に着けている軍装から判断すると、それなりの地位の者だろう。
ノルズたちは、前を阻まれて立ち止まるかたちになった。
「わたしの言葉を信じなさい、隊長──。この方はラザニエル様です。外のことも、すべて、お考えがあってのことです……。道を……」
カサンドラがノルズたちを庇うように、前に出てきた軍装の男の前に出る。
もっとも、外で起こした破廉恥騒ぎについては、もちろん、なにかの「お考え」など存在しない。
アスカとの悪乗りが愉しくて、ついはしゃぎすぎただけだ。
その男は首を横に振った。
「いえ、ラザニエル様を阻む気持ちはありません……。このお方が、ラザニエル様に間違いないことは、私にもわかります。ラザニエル様が失踪なさったときに、私はすでに水晶軍の現役でしたから……」
男が静かに言って、アスカの前に片膝をつく仕草をする。
それに合わせるように、周囲の軍人を始め、文官も含めた者たちが一斉に礼をとる仕草をした。
「エステバンかい……。久しいね。確か、前の王……、つまり、わたしの父のときには、親衛隊の副隊長をしてくれてたっけね。いまはなにしているんだい?」
アスカが声をかけた。
エステバンと呼ばれた男は、感激にびくりと身体を震わせたような仕草をした。
「おお、嬉しや──。覚えていていただけましたか──。いまは、水晶宮側に移り、この水晶宮の警備の全責任者の地位にあります」
「そうかい──。多少は出世したようだけど、大して、代わり映えしないねえ」
アスカが笑った。
エステバンと呼ばれた男が苦笑して軽く頭をさげる仕草をする。
「お恥ずかしき──。それよりも、イムドリス宮に乗り込みなさるとか……。どうか、ご同行をお許しださい。ガドニエル様に危害が加わっているのかもしれないという噂は、私たちにも今朝になって耳に入りました。その危難を憂いたラザニエル様が駆けつけてきて頂いたのは、臣下一同、その慧眼と仁愛にはただただ敬服するばかりです。しかしながら、たったいま戻って来られたばかりのラザニエル様のみに、この危難を委ねるのは、あまりにも我らが不甲斐ない──。どうか、私の同行もお許しを……」
エステバンが頭をさげた。
だが、アスカは首を横に振った。
「足手まといだよ。ここで大人しくしてな──。ところで、外で捕えた連中は、わたしの連れを除いて、いま、この瞬間に解放した。わたしらがイムドリス宮側に行ったら、鏡の間を閉鎖するんだ。そして、水晶宮の者については、全員に魔道監査をしな。その結果、闇魔道が掛かっている可能性がある者は全員を監禁するんだ──。カサンドラ、お前もだよ──。お前はお前自身を監禁しな。わたしたちが戻るまで、自室から出るんじゃない。お前にかかっていた呪術は、ほとんどがすでに解かれているけど、まだ、パリスは完全には死んでいないんだ。いつ、その影響が復活するかしれない」
「言われたとおりに……」
カサンドラが意気消沈したように頭をさげた。
エステバンも恭順を示す仕草をしてから、ノルズたちの前から身を除ける。
ノルズたちは、再び鏡の間に向かって進み始めた。
「……ところで、ノルズ……。思ったよりも水晶宮内が騒ぎになったけど、これだと、イムドリス宮にいる連中には、わたしらがやって来たことは、耳に入っただろうね……」
歩き始めたところで、アスカがノルズに近づいて、耳元でささやいてきた。
「当然だろうさ。パリスでなくても、こっち側にも幾人もの諜者を送り込んでいるさ。イムドリス宮で待っているパリスの残党が阿呆でない限りね……。まあ、本当にガドニエルというあんたの妹が偽者になっている場合だけど……」
「もしも、ガドニエルが本物なら、わたしが戻ってきたと耳にした瞬間に、尻尾を振ってやってくる。いまだに向こう側から音沙汰がないのは、むしろ、悪い兆候さ。最悪のことも考えるべきかねえ」
「大丈夫だ……。あんたの妹は死んじゃいないさ。パリスという男をあたしもいくらかは知っている……。利用する価値のある女は、あいつは殺さない……。徹底的に支配して苛め抜き、いたぶり尽して悦に入るのさ……。あんたの妹がすでに入れ替わられているなら、本物はどこかに監禁されている……。あたしはそう睨んでいるよ」
「簡単に捕らわれる女でもないんだけどね、あいつも……。まあ、とりあえず、イムドリス宮に行ってみるさ。それでなにかわかるだろう」
アスカが肩を竦めた。
やがて、鏡の間に着いた。
三人だけで部屋に入る。
「と、ところで、イムドリス宮への接触は向こう側から遮断されていて……」
部屋に入ると、カサンドラが困ったように言った。
「わたしが向こうからの遮断は解く……。もともと、エルフ王家の特有魔道だ。どんな高位魔道師がかけても、王家の者なら無効にできる……。いま、解いた……」
アスカだ。
「そ、そうですか……。だ、だったら、なんとか……」
カサンドラがかすかに頷く。すぐに、イムドリス宮に入る魔道を唱えだす
「向こうでガドニエルが健在なら、ガドニエルに送らせるよ。ガドニエルが偽者にすり替わっていて、万が一、わたしらが戻って来なかったら、それはわたしらが連中に負けたときだ。向こう側は完全に占拠されている。それを前提に、改めて対策を打ちな」
「はい、ラザニエル様……」
カサンドラはそれだけを口にした。
しばらくすると、目の前が白い光で包まれた。
やがて、光が薄くなっていく。
イムドリス宮側に入ったのだ。
だが、すぐに異変についた。
ノルズははっとした。
「な、なんだこりゃ――? ア、アスカ、これって……」
「これはカサンドラのせいじゃないよ──。あらかじめ、転送に細工がしてあったんだ。イムドリス宮側からの転送妨害だね──。わたしらふたりの身のみについては転送を許し、そのほかの一切の装備や装束については、転送を防ぐ細工さ」
「ちっ、あんたがいながら、罠に早速嵌まるなんて、どうしたんだい。服だから、まだよかったものの、身体をばらばらにする仕掛けがあったら、どうなってたんだと思うんだよ。しっかりしておくれ」
ノルズは舌打ちをした。
異変とは、ここに到着した途端に、ノルズもアスカも完全な全裸になってしまっていたことだ。
下着どころか、髪留め一個残っていない。
水晶宮の鏡の間側から、イムドリス宮側に転送されたはいいものの、こっちに着いたのは、身ひとつの素っ裸の状態だったのだ。
「ふん──。そういう仕掛けなら、すぐにわかったさ。服だけだから見逃したんだ」
アスカが不快そうに鼻を鳴らす。
「いずれにしても、どうやら、やっぱり、すっかりと準備が整ったところに招待されたというわけだね」
そのときだった。
突然にアスカが腰が抜けたように、その場にうずくまったのだ。
「こ、これは……」
うずくまったアスカが顔を真っ赤にして、身体を震わせている。
ノルズは驚いた。
「アスカ──?」
声をあげた。
だが、殺気が来た。
ノルズはうずくまったアスカを押し倒して、襲ってきた剣の下から退けさせる。
次いで、目の前の刺客の胴体を蹴り飛ばし、さらに襲撃してきた別の男の腕を掴んで強引に剣を奪うと、ふたりの男の喉をめがけて、さっと刃物を一閃させた。
「くっ」
一方で、アスカは苦しそうに、その場にしゃがみ込んだ。
そのときには、すでに刺客が襲いかかっている。
ノルズは、一閃でふたりの喉を斬り裂いて倒した。
背後にひとり──。
奪っている剣で腕を跳ねあげる。
うずくまるところを首を横から刺し抜く。
今度は矢──。
「アスカ――。しっかりしな――」
怒鳴りあげて跳躍しようとするが、アスカは自分の身体を抱き締めたまま、うずくまったままだ。
ノルズは、一瞬躊躇した。
しかし、その一瞬がノルズの反応を遅らせた。
「ちっ」
舌打ちした。
矢はアスカの身体に迫っている。
剣じゃ間に合わない――。
ノルズは咄嗟に左腕を出した。
しかし、矢が宙で静止していた。
訝しんだが、アスカだ──。
「はあ、はあ、はあ……」
真っ赤な顔のまま、アスカが片手を前にかざしている。
矢をとめる魔道壁を作ったのだろう。
視線を前に向ける。
射ているのはふたりだ。
柱の陰から小弓を扱っている。
ここは謁見室としてる使っている大きな広間であり、隠れられる調度品のような物は少ない。
この場での襲撃者の残りは、あのふたりだけのようだ。
「そこにいな、アスカ──」
駆けた。
アスカが宙でとめた矢はすでに床に落ちている。
その横を走り抜ける。
ふたりがぎょっとしたように、身体を竦ませるのがわかった。
しかし、すぐに我に返ったように、矢を番えようとしている。
だが、そのときにはノルズは連中の目の前だ。
舞うように身体を回し、ひとりの胸のあたりをしっかりと斬る。
残りの男に頭上から剣を落とす。
剣が途中で折れたが、惨死には十分だ。
顔に剣を刺したまま、その男も崩れ落ちた。
「大丈夫かい、アスカ?」
ノルズはこっちにふらつきながら寄ってくるアスカに声をかけながら、小弓を持っていた男たちが腰に持っていた短剣を二本見つけて、それを両手で持った。
武器はなんでも扱えるが、建物内における戦いではこっちの方がいい。
アスカがやってきた。
相変わらず、様子がおかしい。
片手で胸を隠すように抱き、もう一方の腕は股間を隠すように手で股を覆っている。
ノルズは噴き出した。
「なにやってんだい──。裸が恥ずかしいのかい──。そんなたまじゃないだろう」
すると、アスカが上気した顔をさらに真っ赤にした。
それにしても、あまりにも様子が不自然だ。
顔だけじゃなく、全身が上気して真っ赤だし、たったいま、ここに転送されたばかりなのに、すでにびっしょりと汗をかき、いまでもどんどんと滴り落ちている。
なによりも、手で覆っている股間から愛液が垂れ流れていて、それが膝下まで届いているのだ。
どうやら、身体が凄まじいほどの淫情に陥っているようだ。
媚香──?
思ったのはそれだ。
しかし、ノルズはなんともない……。
「か、隠してんじゃないよ──。む、胸が揺れると、か、感じてしまうから押さえてんだ。そ、それに、ま、股に風が当たっただけで……う、疼きが……。お、お前はなんともないのかい、ノルズ──。怖ろしいほどの媚薬が、た、焚きこめられているじゃないか」
アスカが歯を噛みしめて口惜しそうな表情で言った。
ノルズは思わず苦笑してしまった。
それにしても、風に当たるだけで疼く?
本当に?