【2025.9.5コミック発売】異世界で淫魔師ハレム【完結】 作:ドン・ドナシアン
「リンガーン・リンガーン・ゴンガーン・リネット……。面倒だ。リンガーンとこれから呼ぶ。そう名乗れ。それと、動くんじゃない。動くと、うっかりと的を外して、とどめを刺してしまうからな」
獣人娘の後ろにいるロウが宙から、短銃を取り出して自分に向けるのが見えた。
リンガーン……。
その名で呼ばれたことは、ただの一度もない。
自分の真名の存在さえも忘れていた。
しかし、真名をあっさりと見抜かれるとは……。
それにしても……。
魔族にとって、真名の存在は致命的な弱点だ。
しかも、高位魔族であればあるほど、真名の支配に弱い。
ほかの種族よりも、遥かに強力な能力を持つ個体が多い魔族が、どうしても人族たちにしてやられるのは、この真名の存在があるからだ。
だから、高位魔族はあらゆる手段で自分の名を隠すが、魔道力の高い人族には、鑑定術のようなもので、あっさりと真名を見抜く個体がいる。
そうやって、人族は魔族を支配し、そして、陥れ、遥かな過去には、人族に協力的だった魔族をことごとく追い出し、苛酷な蛮地に種族のすべてを追放した。
その主体となったのがエルフ族だ。
さらに、その主役の末裔がエルフ王家というわけだ。
死地に等しいあんな荒地の果てに、魔族のすべてを追いやったのだ。
苛酷すぎる環境において、次々に種を滅亡させて、失っていく同胞たち……。
あんなところで生き抜けるものか──。
それでも、魔族たちは力を尽くし、懸命に命を継ぐ努力をし続けた。
地獄のような環境の中で、ゆっくりと滅亡に向かいながら……。
エルフ族にとっては、歴史に埋もれた記憶の彼方の話でも、追放され、滅亡しようとしている魔族にとっては、厳然とした“いま”の話なのである。
だから、パリスは本来あるべきものを取り戻すために、生まれ育った蛮地を旅立ち、南方荒地と呼ばれる人外地を踏破して、志を同じくした同胞たちとともに、こっちにやってきたのだ。
本来、魔族が持っていた土地を取り戻すために……。
しかし、厳しく凄惨な旅の中で、一緒に旅立ってきた仲間たちも、ひとりひとりと途中で死んでいった。
もともとパリスは、死に瀕した相手を殺すことで、相手の能力の一部を奪い取ることができるという闇魔道の特殊能力があった。
それは、魔族の血が濃いものの、身体の一部に人族の血が流れているというパリスならではの突然変異だったかもしれないが、とにかく、それはほかの魔族たちにもない力だった。
死んでいく同胞たちは、追放されたあの大陸から、魔族が生存できる土地を奪い戻すという夢のために、パリスに自分の能力を託そうと、瀕死の状態になると、自分の身体をパリスに殺させたのだ。
それがパリスの力の根源だ。
このときの同胞たちの能力が集まることで、やがて、パリスは闇魔道を開花させて、自分が殺したり、殺されたりした場合に、相手を取り込み、全ての能力のみならず、姿形や魂そのものまでを乗っ取るという闇魔道を完全に身につけることができたのだ。
パリスの命は、あのとき泣きながら、パリスに殺されることを選んで死んでいった仲間の命でもある。
そして、旅の果てに、たったひとり、この地に辿り着いたパリスは、最初に出逢った人間族を殺して、その姿を借り、皇帝家というやはり、人族の中でも滅びつつある権力者の一門に拾われたのだ。
それがこの土地におけるパリスの野望の始まりだ。
そして、長い年月がすぎ、なかなかに瘴気を地に充たす方法は見つからなかったが、やがて、その可能性のある方法をいくつか発見した。
次いで、魔族を追いやったエルフ族王家の末裔の女、すなわち、ラザニエルを手に入れることにも成功し、さらに、冥王の復活といういう戯言を利用して人間族の皇帝家に権威と財と人脈を使わせ、ついに、瘴気の発生を永久的なものにすることに成功しようとしていた。
もう少しだった。
あと少しで、死んでいった仲間たちの……、いまでも滅びようとしている種族の生き残りの者たちが求め続けた魔族の安住の地が手に入るかもしれないところだったのだ。
それなのに……。
それなのに、ここで夢が潰えるのか……。
砕かれるのか……。
この淫魔師だという人間族の男のために……。
畜生……。
畜生……。
パリスが魔族であるために……。
真名に支配されるというどうしようもない欠陥を生まれながらにして持っている種であるために……。
ここでも、その真名のために……。
魔族であるがゆえに、追い詰められるのか……。
パリスは歯ぎしりした。
いずれにしても、こいつらは真名をしっかりと言い当てて、さらに、目の前のロウは、パリスに新しい名を命名した。
これで逆らえない……。
しっかりと、魔族扱いをよくわかっていやがる……。
「やっぱり、嫌な男だったな、お前は俺の闇魔道を跳ね返し……、そこにいる獣人族には魔道そのものが効かねえ……。いやな連中だ。やっぱり、あのとき拷問なんで悠長なことじゃなく、さっさと殺しとくべきだったぜ。くそおおおっ」
「落ち着けよ、リンガーン……。お前らしくない……」
ロウの指が短銃の引き金に力を込めていく。
畜生……。
忌々しいくらいに、こいつは冷静だ。
これじゃあ、闇魔道が封印されてなくても付け入る隙がない……。
まったく銃を持つ指にぶれがないのだ。
真っ直ぐに短銃は、パリスの身体に向けられている。
「お、お、俺はパリスだ──。それ以外の名で呼ぶんじゃねえ──」
絶叫した。
「そうかい、リンガーン。なら、動くなよ……、命令だ」
ロウが新たな名を呼ぶ。
それにより、パリスの身体は金縛りにあったように動かなくなる。
あらゆる意味での抵抗力がなくなる。
獣人族の娘の肩越しに差し向けているロウの銃声が響き、炎を押しつけられたような熱と強く棒で打たれたような衝撃が両肩に加わった。
「うぐっ、あがあっ」
ロウの撃った短銃の弾がパリスの両肩を貫通して、骨を砕いたのがわかった。
二連発の短銃のようだ。
撃ち終わったが、一瞬で消滅して、すぐに新しい火のついた短銃がロウの手に戻る。
さしづめ、収容術のようなものだと思うが、こいつのは神がかりだ。
まったく理力の動きを感じない。
その銃がまた、火を吹く。
「んぐうっ、ふがあっ」
がくりと両膝が床に着いた。
今度は両腿を撃ち抜かれたのだ。
さらに二発──。
正確に一発ずつが膝の骨を砕く。
ぺったりと床に足を折り座った状態で、もう動くことができない。
「ち、畜生……」
パリスは呻いた。
大量ではないが、身体に命中した六発の銃弾傷から血が流れて、パリスからどんどんと力を奪っていくのがわかる。
パリスは必死に顔をあげて、ロウを睨みつけた。
「き、気に入らねえ、畜生……。気に入らねえ……、畜生……気に入らねえ……、畜生……。そ、そのすまし顔が気に入らねえ──。ち、畜生、すかしやがって、畜生──。お前らのような……お前らのような人族が……お前らが……」
「忘れたのか……。なにを恨みに思っているか知らないけど、俺はお前らに召喚された外界人だ。魔族としての人族への恨みを俺にぶつけられてもねえ……。お前はいつも、恨みをぶつけるような物言いをするけど、そうじゃねえ思考もしな」
ロウが静かな口調で言った。
だが、その腕には、再び火縄に火がついている新しい短銃が握られている。
こうやって面と向かっているとわかるが、この男の心はこっちが驚くほど平静だ。闇魔道で付け入る隙が見つからない。
それにしても、ここまでの男だったか……?
仮体としてのパリスがこいつに殺されてから、ダルカンの身体に復活するまでの直接の記憶は無論ないが、ダルカンの記憶を辿れば、パリスがこいつに殺されたのは、つい数日前のはずだ。
だが、あのときに感じたものとはまったく異なる、圧倒的な格の違いというものを、いまはこいつに感じる。
なんなんだ、これ?
絶対にかなわない……。
そんな感覚だ。
強いものに従ってしまうという魔族の持つ生物としての本能のようなものが、パリスを勝手にロウに頭をさげさせてしまう。
とにかく、恥さらしの姿を示すわけには……。
パリスは負けそうになる気力を振り絞る。
死ぬわけには……。
ここで死ねば、あのダルカンの想いが無になる。
あいつが死と引き換えに残したものがなかったことになる。
ダルカンとは地獄でしか再会できないだろうが、こんなにも早く向こうに行ったら、叱られるだろう……。
いや、あいつは怒りはしないか……。
ちょっと呆れたように苦笑するかな……。
そして、また愉しいことを……。
「お、お前、ロウ……。ねえ……」
そのときだった。
アスカがロウに声をかけたのがわかった。
ロウがこっちに銃を向けたまま、視線だけをアスカに向ける。
しかし、獣人族の娘がしっかりと、パリスを見張っていて、逃亡の隙は無い。
そもそも、真名による支配がパリスに、ロウに逆らうことを許さない。
「わたしに……、わたしにやらせておくれ、なあ……。頼む……。こいつだけは……、こいつだけは許せない……」
アスカが近寄ってきた。
さっきまで、ノルズの治療にあたっていたが、いまはすでにノルズの四肢は身体にくっついている。ただ、ノルズは眠っているようだ。
四肢を切断して、さらに復活させるという荒療治だ。
身体への負担も当然大きい。
それにしても、すべてがこのノルズのパリスに対する隠し手にしてやられてしまった。
たかが、ひとりの人間族の女ごときに……。
畜生……。
こいつだけは……。
こいつだけは……。
そのとき、再び銃声が鳴った。
「あぐっ……」
「往生際の悪い奴だなあ……。いや、雌か……。お前から殺気を感じたぜ」
ロウが新たに撃った銃は、パリスの股間を撃ち抜いたのだ。
股間から血がだくだくと流れ出す。
パリスが手にしていたのは、猛毒を刃に塗った手投げ矢だ。
それを最後の力を振り絞って投げようとしたのだ。
その矢が激痛のために、手からこぼれ落ちる。
「ち、畜生……。本当に嫌な奴だな……」
「それは俺の台詞だ……。どうでもいいけど、最後の力を振り絞って、最後っ屁を放ちたいなら、なんで俺を狙わない? どうして、ノルズなんだ?」
「ノルズを?」
アスカが顔を険しくした。
しかし、パリス自身もわからない。
言われてみれば、なんでノルズを最後に一矢報いて殺そうとしたんだろう。
確かに、最後の力を尽して殺すなら、ロウじゃないのか……。
だが、なぜか、ロウには手を出す気にはならなかった……。
本能……?
なぜか、わからない……。
どうして、そう思ったのか……?
「アスカ、悪いが、あんたの身体には、こいつの命の欠片が埋まっているね。魔瘴石も……。だから、やめた方がいい……。おそらく、あんたがこいつに手をかけると、また、闇魔術でとり込まれるおそれがある……。まあ、あとでゆっくりと取り去ってやる。それまで待てよ」
ロウがアスカに言った。
アスカが目を丸くして驚いている。
パリスもびっくりした。
なぜ、知っている。
「なぜ、それを知ってるんだい、お前?」
アスカも言った。
すると、ロウがにっこりと微笑んだ。
「勘がいいのさ」
ロウが笑った。
「ご主人様……。さっきは申し訳ありません……。護衛を命じられながら、こいつの動きを察知できませんでした……。護衛失格です」
獣人娘ががっかりしたように言った。
しかし、ロウが獣人娘の頭に優しく触れながら、首を横に振る。
「一瞬後には、きっとイットも気がついたさ……。俺の方が先に気がついた。それだけだよ」
こいつ、こんなにすごい奴だったか……?
パリスはロウに圧倒的なものを感じて、唖然としてしまった。
「ところで、お前、さっきも言ったけど、簡単に死ねるとは思うなよ。徹底的に残酷に殺してやる。お前がやった、この女の扱いひとつとっても、その酬いに十分だ。彼女の手足を切断したのは、お前か?」
なんとことを言っているか、一瞬わからなかったが、無限苦痛の串刺しにしてやったエルフ女のことを言っているようだ。
だから、なんなんだ。
すでに、助けられているじゃないか。
「それがどうした」
パリスはロウの顔を見た。
しかし、すぐに目を逸らせてしまった。
こいつが怖い……?
はっとした。
生まれて初めての感情だ。
「……だったら、どんな風に殺すか教えてやる。彼女、つまり、アルオウィン殿とまったく同じように手足を切断して尻の穴から木杭を口まで貫かせる。しかも、同じように扱ってやる。簡単には死なさない……。治療術で死なないようにする。もちろん、闇魔道が復活するような下手は打たない。尻穴から口まで木杭を貫いたまま、逆さに水晶宮の前に晒してやる。お前が死ねるのは、一箇月後だ」
「好きにしな」
パリスは吐き捨てた。
「パリス、いえ、リンガーン……」
そのとき、エルフ族の女王……ガドニエルがすっと前に出てきた。ロウの横に立つ。
「お前を全エルフ族の仇敵と定めます。エルフ族女王の名において、お前に死刑判決をくだします。お前だけじゃなく、お前をここに派遣したローム皇帝家についても同様です。エルフ族女王として、三公国に討伐依頼をします。ナタルからも兵を出させます」
「せいぜい、派手に滅亡させてやれよ。祖先の栄光にすがる世間知らずの爺どもだ。公国も喜ぶだろうさ。目障りな形だけの宗主を滅ぼす大義名分ができるんだからな」
パリスは笑った。
慎重に隠していたつもりだったが、いつのまにか、パリスが皇帝家に属していて、ナタルの森への謀略が、冥王復活のためにやった皇帝家の陰謀の一環であることが、ばれていたようだ。
まあ、冥王復活のために、瘴気を充満させる必要があるという、たわ言そのものが、パリスのでまかせだが……。
まあ、あんなやつら知ったことか。
利用価値があるから、連中の飼い犬でいてやったが、あいつらが望んでいるローム帝国による人類社会の再統一など、世迷い事もいいところだ。
いや、世迷い事だったのは、パリスの野望も同じか……。
ナタルの森を魔族の大拠点にして種族を呼び寄せ、さらに、ハロンドールやエルニアに魔族軍を侵攻させて、失われた魔族の世界を人族から取りあげる……。
その夢が……。
ここで志半ばで、潰えるんだな……。
皇帝家が滅びるなら、パリスの一派も同時に滅びる。パリスの組織も皇帝家に依存していた。
それに、もともとパリスの存在なしに、成立しない組織だ。パリスがナタルの地で処刑されたと知れば、勝手に瓦解する。
パリスは自嘲した。
「ガトニエル、その出兵にはわたしも参加する。それがけじめだし、義務だ」
アスカだ。
すると、ガトニエルが小さく首を横に振った。
「いえ、お姉様には、ここでナタルの森の再建を……。今回のことは、ナタルの地の大きな痛手でした。パリスに好き勝手やられ、森は荒れ、魔物は横行し、各里は大変な難儀をしてます。どうか、皆を率いて元の森の復活を……」
「もちろん、それも協力するさ。わたしの全力を尽くしてね。荒事だって、小間仕事だって、お前の下で一生懸命に働かせてもらう。だけど、ナタルの森からエルフ軍を他国に送るなど、森の歴史にはないことだ。それは名目だけでもいいから、女王の姉のわたしが率いるのが筋だと思うよ」
「いえ、お姉様には、ここで女王としての辣腕を……」
「はい? 女王って……。女王は、お前だろう」
アスカが眉をひそめたのがわかった。
「いえ、わたしは、このロウ様とハロンドールに行くんです」
ガトニエルがぽっと頬を赤らめて、満面の笑みを浮かべた。
なんだこりゃ?
「はあ? ハロンドール? なにしに行くんだい?」
「結婚とか……。きゃっ」
ガトニエルが嬉しそうに笑った。
「ちょっ、ちょっと、待ちな、ガトニエル──。イチ、いや、ロウ、どういうことだい──?」
アスカが声を荒げた。
「うん……。ちょっと待ってな、アスカ……。それに、イチでもいいよ……。それよりも、その話は後にしようか、ガド」
ロウが苦笑した。
「本当に、場をわきまえないわねえ、この女王様」
小柄な女が呆れたように笑うのが見えた。
ロウが咳払いする。
「話を戻そう……。パリス、覚悟しろ。さっそく、お前の死刑執行だ……。その前に、仮にも魔族の雌なら、俺の淫魔術が通じるだろう。イット、こいつの
「糞ったれ」
パリスは言った。
ロウが周りの女たちに合図をした。
銃弾で動けないパリスの身体に一斉に女たちが群がった。
四肢を拡げさせられて、手足を抑えられた。
獣人娘がパリスの顎を掴む。
「んがああっ」
力いっぱいに口の骨を握り潰されて、がきがきと顎が砕けたのがわかる。
まとまった血が口から噴き出するともに、力を入れることができなくなった口がだらりと開いた。
ロウが床に仰向けに貼りつけられたパリスの顔の上に跨る。
「たっぷり飲め、命令だ」
酷薄な口調でロウが言い、性器をズボンから出す。
すぐにじょろじょろとロウの小尿が口の中に落とされていく。
「ガド、アルオウィン殿がやられたのと同じ木杭を魔道で出せないか? ただし、長さは倍はいる。なにせ、水晶宮の前に晒さないとならないしな」
ロウが小便をしながら言った。
勝手にしろ──。
糞ったれが……
パリスは心の中で悪態をついた。
そして、思った。
ごめんな、みんな……。
ごめんな、ダルカン……。
せっかく、自分に命をくれたのに……。
お前と地獄で再会するのは、一箇月後らしいぜ……。
次に会うときには、俺が本当は女だということを教えてやるよ……。
言っておくけど、女に戻って抱かせたのは、お前だけなんだぞ……。
お前は、ただの戯れだと思っていたみたいだったけど……。
愉しかったな……。
また、お前と遊びたいぜ。
今度、生まれ変わったら、世界を滅ぼして根絶やしにして、残った廃墟で夫婦ごっこをするなんてどうだ?
お前とふたりなら、面白そうじゃないか……。
「パリス、真名をもって命じる。もしも、まだ蘇りの手段があるなら解除しろ。ほかに、命の欠片を隠しているか?」
「あが……がっ……」
そんなものはない。
しかし、砕かれた顎では喋ることもできなかった。
いずれにしても、真名による支配のためか、あるいは、小便という体液で縛った淫魔師とやらの操りのせいかはわからないが、嘘をつこうという気にはなれなかった。
命の欠片はふたつだ……。
アスカの身体とダルカンの身体……。
それだけだ。
もっとも、俺自身の復活に限ってだがな……。
「そうか……。じゃあな、悪党」
思念が飛んだ。
身体を裏返しにされて、うつ伏せにさせられたのだ。
そして、尻に木杭がねじ込まれる感覚が……。
「うぎゃああああ」
パリスは、泣き叫んでしまった。
「みっともないわねえ。わたしにやったことをやられているだけじゃないのよ」
この声はユイナとかいう、ひとつ前の仮体のパリスに向かって、ロウの恋人だと称した黒エルフの娘か……。
パリスは自分のはらわたにぐいぐいと杭が貫く感覚を気持ち悪く味わいながら、我慢できなくて号泣し、哀願の悲鳴を吐いていた。
確かに、自分でも情けないくらいの、みっともない声で……。
(第82話 『イムドリスの開放』終わり、第83話に続く)
*
【エルフ族の罪】
……ロウ=サタルスの残した言葉のうち、有名なもののひとつ。
ロウは帝国の統治にあたり、全種族が忘れてはならないこととして、「エルフ族の罪」を言及しており、晩年までのあいだに残した手記などにも、この単語はたびたび登場する。
しかしながら、その意味する内容は伝承されておらず、現在のところ、多くの歴史研究者によって何度も研究の試みが行われているが、現在でも解明されていない。
ボルティモア著『万世大辞典』より(ここに再録した引用文はすべてスクルズ記念国際図書館から許可を受けて初版本から抜粋して採録したものである。)