【2025.9.5コミック発売】異世界で淫魔師ハレム【完結】 作:ドン・ドナシアン
「か、痒い──」
アスカは悲鳴をあげて、その場にしゃがみ込んだ。
ほとんど無意識のまま、スカートの中に手を突っ込み、荒れ狂ったように下着を擦る。
痒い──。
痒いなんてものじゃない──。
とても、我慢できるものじゃない──。
それが一瞬にして襲いかかってきた──。
しかも、いまこの瞬間にも?細かい霧のようなものが下着の内側から噴射され続けられており、それが肌を通して浸透するように、局部やお尻の奥にどんどんと染み込む感じなのだ。
アスカは慎みなど忘れて、長いスカートを捲りあげて、荒らしく股間の下着を掻きむしった。
「ああっ、や、やっぱり……」
しかし、アスカは絶望の声をあげた。
思った通り、いくら布の上から股間を擦っても、まるでなにも触れていないかのように、内側に刺激が伝わってこないのだ。
布が堅いとか、布が動かないとかいうわけではない。
下着の外側と内側とが、まるで異相の空間であるかのように、外からの一切の刺激を完全遮断している。
これは、空間魔道を応用した怖ろしいほどの高位魔道だ……。
いや、魔道ではない……。
アスカには、この下着から魔道の源である理力をまったく感じない。
理力を帯びない魔道具はあり得ない。
しかし、似たようななんらかの力は薄っすらと感じる。
つまりは、淫魔力か……。
ロウの作った淫魔力の「魔道具」ということだ……。
いずれにしても、アスカほどの魔道遣いでも、想像もできない高位の術が掛かっている下着である。
怖ろしいほどの掻痒感が迸る媚薬の汁が布側からいまでも秘部全体に噴き出していて、膣と尻穴の奥にまで、どんどんと染み進むようになっているにも関わらず、外からでは刺激を遮断して、さらに脱ぐこともできなくして、うっかりはいた者をどこまでも苦しめるという代物だ。
よくも、そこまでの仕掛けを刻むことができたものだ。
本当に、無駄に能力を行使する男だ。
これほどの能力があれば、もっとほかの価値のあることが、なんだってできるだろうに……。
とにかく、ロウに連絡を……。
ガドニエルの言葉では、アスカが性の疼きに我慢できなくなれば、下着をはけというロウからの指示だったようだが、まさか、こんな仕掛けとは夢にも考えなかった。
アスカは、ロウに非常事態を伝えるための言玉を紡ごうと念を込めようとした。
「あれっ」
しかし、思わず声をあげた。
魔道が走らないのだ。
こっちも理力がないわけじゃない。
それは、ロウによって増幅されたものが、この身体に満ち溢れるくらいに漲っている。
だが、理力が凍結されたように動かない。
理力が動かなければ、魔道は遣えない。
これも、この下着のせいか……。
アスカは、ぐっと歯を喰い縛った。
おそらく、これをはいている限り、魔道は遣えないということに違いない。
つまりは、ロウに会わなければ、下着は脱げないし、魔道も遣えないのだ。
やっとわかってきた……。
これは罠だ
悪戯だ──。
ガドニエルからの伝言を受けたアスカが、すぐに下着を身に着けることを予想していたのか、していなかったのかわからないが、これを身に着けたら最後、すぐにでもアスカがロウのところに向かわなければならなくする仕掛けなのだ。
魔道まで封じるのは、そうとしか考えられない。
この下着は、アスカを限界まで苦悶させるための責め具なのだ。
それにしても、あの男、なんというものを作るのだ……。
アスカは、執務室側に移動した。
そこには、連絡用の魔道具がある。
簡単な通信具であり、魔道が遣えない者でも使用できるように、クリスタルの欠片が入っている……。
「こ、これも、無理かい──。な、なんてこった」
思わず悪態を口にする。
どういう仕掛けわからないが、魔道具がアスカの使用を拒否してしまう。
まさに、呪いの下着だ──。
つまりは、自分の足でロウのところまで来いということだろう……。
しかし、ロウたちがいるのは、水晶宮の中でも生活塔というべき場所であり、いまアスカのいる行政棟とは、ほぼ反対側だ。
そこまで歩くとなると、かなりの距離になると思う。
宮殿内を転移する簡単な跳躍具の施設も、ところどころにあるものの、おそらく、下着を脱がなければ、それらの魔道具もアスカは拒否されてしまうに違いない。
いずれにしても、魔道が停止させられた状態では、仕事にはならない。
一刻も早く、下着を脱がせてもらわなければ……。
そのとき、ふと思いついた。
別にアスカから赴く必要などない。
誰かに、ロウに伝言を伝えさせればいいだけだと思い当たった。
侍女のようなものは、うっとおしいだけなので傍はいないが、護衛は執務室の外にいる。
本来は必要ないが、水晶宮太守としての最低限の体裁だ。
呼び鈴を押す。
これは魔道ではないので、使うことができる。
「はい、太守様」
すぐに扉が開いて、ふたりの男の護衛兵がやって来た。
もともとは、ガドニエルの親衛隊の者であり、最初の頃に、ダルカンによってイムドリス宮から排除された者のうちのふたりだ。
ダルカンは、女の親衛隊はほとんどを性奴隷に落としたが、男については最終的には一部を除いて抹殺していた。
そういう意味では、このふたりは運良く生き残った者たちといえるだろう。
「ど、どっちかが水晶宮の客室にいる……」
そのときだった。
突如として、激しく下着の内側が振動をし始めたのだ。
「うわっ」
しかも、一瞬前まで、下着の当たる部分には柔らかな布地しか感じなかったのに、いまは膣の入口に抉るような堅い突起が発生している。
必死に我慢している痒みの場所を突然に刺激されて、アスカは椅子から腰を落としそうになった。
「ど、どうしました、太守様──?」
「太守様──?」
驚いたふたりが駆け寄って来ようとする。
「くっ」
思わず股間を両手で押さえかけたアスカは、すぐに体勢を取り直し、片手を前にやる。
「なんでもない──。く、来るんじゃない──。なんでもない──」
叫んだ。
すると、振動が止まった。
なんだ、いまのは……?
とにかく、アスカは懸命に息を整えた。
護衛兵のふたりは怪訝な表情をしている。
どういうこと……?
どこかで、ロウが見ているのか?
一瞬、そう思ったが、さっき下着が動いたとき、なにかの理力に似たものが、アスカの思考に反応した気がした。
もしかして、この下着は着用している者の心まで読むのか……?
アスカは大きく息を吸う。
試してみようと思ったのだ。
口には出さない。
しかし、護衛兵にロウへの呼び出しを頼もうと考える……。
「んんっ」
アスカは歯を喰い縛った。
下着から突起物が発生して再び振動をしたのだ。
間違いない。
これは、ロウがどこかで見張っていて、下着を操作しているのではない。
下着そのものが、アスカの考えたことに反応して、自分でロウのところに向かうこと以外のことを選択しようとすると、下着の内側の布地に突起物が発生して淫らに股間を刺激するようになっているのだ……。
アスカはロウに会いに向かう以外に、掻痒感から免れる手段がないことを悟った。
すると、下着が停止し、股間の内側が元の布地の感触に戻る。
やっぱり、アスカの思念に下着が反応している。
このことからも、それがわかった。
あいつ、なんというものを……。
アスカは唖然とした。
これと同じことを魔道でやろうとすると、幾つもの複雑な高位魔道を重ね掛けしなければならないのだろう。
アスカだって、これほどに複雑に魔道が絡み合い、さらに相手の思考まで探知するような魔道具は作れない。
作ろうとしても、もっと大きな魔道具になるはずだ。
女がはくような小さな布に、必要な術式を全部刻むなんて無理だ。
その方法すら想像できない。
「ちょ、ちょっと部屋を外すよ……。誰もついてこなくていい。急ぎの案件は言玉を飛ばせ。いいね──」
アスカは言った。
「わかりました」
護衛兵ふたりが出ていく。
太守付きの官吏に、アスカが席を離れることを伝えに行くはずだ。
護衛といっても、かたちだけのものであり、実際にはアスカが対処できない敵がいれば、護衛が何十人いても対応できない。
もともと護衛など必要ないし、無駄だ。
だから、アスカがそう言えば、無理に付いてこないことになっている。
「うう……、くっ、くそう……」
護衛が出ていき、ひとりきりになると、アスカはスカートをたくしあげて、もう一度下着を越しに、思い切り股間を擦ってみた。
なにしろ、一度動いて痒みが紛れたことで、眠っていた本能とむず痒さが完全に目覚めてしまったようであり、さらに掻痒感が激しくなったのだ。
これまでとは桁違いの痒みと熱さが沸き起こっている。
しかも、下着から放出されて肌に染み込む霧は、単なる掻痒感だけではなく、爛れるような性感の疼きまでも発生させている。
「ああ、そんなあ……」
そして、やはり、どんなに擦っても、まるでなにも触れていないかのように、下着の内側にはなんの刺激も伝わらない。
アスカは泣きそうになった。
「ロ、ロウは多分、部屋だろうねえ……」
ひとり言を呟いてから、今度こそ意を決して立ちあがる。
ロウの悪乗りに従うしかない……。
部屋を出る。
太守執務室は、多くの官吏の執務室に隣接している。
当然に、多くのエルフ族の官吏が忙しそうに廊下を行き来していた。
アスカは、痒みに眉をしかめそうになるのを耐え、懸命に表情をとりつくろい、さらにどうしても力が抜けてしまう下肢に意識を集中させて、生活塔に向かって歩き出した。
まだ残っていた部屋の前の護衛に、鷹揚に手だけを振り、可能な限り足早に進む。
「あっ、太守様。ごくろうさまです」
「太守様、お疲れ様です」
「太守様──」
「こんにちは、ラザニエル様」
しかし、忌々しいことに、アスカが歩くと、すぐにあちこちから声をかけられる。
いまや、アスカは、ロウとともに、イムドリス宮と水晶宮を救った英雄ということになっているのだ。
ガドニエルが意図的にそう流していることもあり、アスカが進むと、ひと言でも声をかけようと、次々に、男女を問わずエルフ族の官吏たちが寄ってくる。
だが、今日はそれがすごく煩わしい。
とにかく、簡単に声をかけたり、手をあげて挨拶代わりにしたりして、進んでいった。
それにしても、痒い──。
自分でもわかるが、顔はすっかりと上気しているし、全身からは不自然なほどのかなりの汗が滲み出ている。
アスカは息を吐くたびに、鼻を開くようにしてしまっていた。
荒れ狂うような股間の痒みは、どうしようもなく、アスカにそれを癒してくれる強い刺激を欲していた。
特殊な下着の効果により、どんなに腿を擦り合わせるようにしても、股間の内側にはその刺激さえも伝わることがなく、アスカは刺激が遮断されたことにより、耐えられないほどの焦燥感と欲情をどんどんと煽りたてられていった。
「あっ、ラザニエル様」
そのときだった。
正面からブルイネンが二名ほどの副官らしき女将校を連れて前からやって来た。
アスカは舌打ちしかけた。
手に書類を持っているブルイネンが、アスカに用事があるかのように駆け寄ってきたからだ。
水晶宮の太守であるアスカだが、水晶軍と通称するシティで編成するエルフ軍の最高司令官を兼務している。
今回の騒乱で、損害の主体だった親衛隊は解散となり、ガドニエルの警護は、水晶軍が担うことになって、親衛隊長だったブルイネンは水晶軍の重鎮となる将校に任じられた。
水晶軍は、森の各地に広がっている魔獣退治、さらに、ハロンドールの帰還にあたってロウが、場合によっては少数の隊を貸して欲しいという要望もしていて、そっちも対処している。
なかなかに忙しいのだ。
これまでの関係から、ブルイネンには、ロウの要望に応じる隊についての指揮と編成を任せた。
ブルイネンによれば、ロウに助けてもらった元親衛隊の女兵を中心に、希望者が殺到しているということだった。
「命じられた隊の編成のことですが、やはり女兵だけで編成しようかと……。人数は三十名ほどに絞りました。こちらがその編成で、編成要員とそれぞれの保有能力の一覧がこれです……。この欄が……」
アスカの前で立ち止まったブルイネンが、廊下で書類を示して説明をし始める。
必死に平静を装いながら、アスカは、それを手で制した。
ブルイネンだけなら、ロウの性奴隷仲間のようなものなのでいいのだが、同行の女将校の前で、ロウによって淫靡な悪戯を受けているなどということがばれるわけにはいかない。
「ま、待ちな……。しょ、書類は太守付きの官吏に預けておけ。い、急いでるんだ……」
アスカはそれだけを言った。
「あっ、失礼しました──。ところで、どちらに?」
ブルイネンが恐縮するように身体を開いて道を開ける。同時に、何気ない口調でそう訊ねた。
「ちょ、ちょっと、ロウのところにね……」
アスカはひと言だけ残して、歩みを再開した。
「あっ、英雄様のところですか──。だ、だったら、私……、いえ、よろしければ、小官が伝令を承ります──」
「あっ、ずるい──。是非、私に英雄様のところに──」
ロウの名前を出した途端に、一緒にいた若い女将校が黄色い歓声とともに、そう言った。
その表情から、彼女たちが少しでもロウに接触したくて、そう申し出たのは明らかだ。
選民意識が強く、人間族を蔑む傾向のあるエルフ族だが、ロウについてはわずか三日で、その評価は完全に一変していた。
誰も彼も……、特にエルフ族の女たちは、イムドリス宮を救った人間族の英雄に会いたがり、少しでもその機会があったりすれば、話しかけたり、握手を求めたりしているということも耳にしている。
特に、イムドリス宮に監禁されていて、直接に助けられたエルフ女たちは、ロウの性交の洗礼を浴びていることもあり、ロウの部屋に押しかけての贈り物攻勢や、露骨な誘いがすごいのだそうだ。
ロウの女たちが追い払っているようだが、とにかく、大変な人気ぶりらしい。
そのときだった。
「んぐうっ」
次の瞬間、アスカは肢体を折って、その場に立ち止まってしまっていた。
下着が振動し、まさに肉芽に当たる部分を激しく刺激したのだ。
ブルイネンたちがアスカの突然の反応に驚く視線を感じたが、どうにもできない。
アスカはがくりと膝を折って、下腹部を手で押さえてしまった。
「うくっ、ぐううっ」
喰い縛る歯の間から苦悶の声が漏れる。
それほどに掻痒感に爛れそうな股間を刺激される感覚は鋭く、とてつもなく気持ちよかったのだ。
「た、太守様──?」
「どうされたのです──?」
副官たちは驚きの声を発している。
しかし、ブルイネンのはっと息を飲んだ音が聞こえた。ブルイネンについては、ロウの性癖も、アスカたちとロウの関係も知っている。
すぐに、なんらかの嗜虐をアスカが受けていることを悟ったのだと思う。
「待ちなさい、お前たち──」
アスカを支えようと手を伸ばすふたりをブルイネンが制して、逆にブルイネンががっしりとアスカの肩を掴んだ。
「……ロ、ロウ様の仕業ですね……。ちょ、調教中ですか……?」
ブルイネンが顔を赤くして、アスカにささやいた。
アスカは首を小さく振る。
「そ、そんなんじゃない……。あ、あいつの悪戯だ……。うわっ──」
アスカはひっくり返しそうになり、ブルイネンにしがみついてしまった。
ロウのことを口に出したからだろう。
肉芽を責める突起物の振動がさらに激しくなるとともに、それに膣への刺激が加わったのだ。
「な、なんでもない──。そ、それよりも、伝令はいい……。大切な用件がある。じ、自分でいく……。んぐうっ、ひいっ」
アスカは、懸命にブルイネンにささやいた。
ブルイネンにすがろうとする思念を消さなければ、振動は消えないはずだ。
最初に下着が反応したのも、「自分の足でロウのところにやって来なければならないという」思考制限に引っ掛かったからだ。
副官たちが伝令を申し出たとき、一瞬だがそれを考えてしまった。
だから、反応した。
さらに刺激が増したのも、ロウの悪戯を受けていることをブルイネンに言ったことに対する、下着からの罰ということに違いないと思う。
アスカが伝令を否定する言葉を口にし、ブルイネンに「なんでもない」と懸命に繰り返すことで、やっと振動が停止した。
脱力しそうになるのを耐えて、アスカは身体を真っ直ぐに直す。
「あ、あの太守様……。お調子が悪いようでしたら、お休みになっていた方が……。伝令ならいくらでも務めます……。それとも、英雄様に太守様がご用件があることをお伝えしますか……」
女副官のひとりが心配そうに言った。
しかし、それは余計な言葉だ。
ロウに伝令──。
必死に頭からその思考を消そうとするが、その刹那、お尻に突起物が発生して、それが淫らに動き出した。
「んあっ」
悲鳴こそ呑み込んだが、アスカは天を仰ぐように全身を硬直させて立ち竦んだ。
お尻への刺激は、単に菊座の痒みを癒しただけでなく、ふたつの太腿や股間や頭にまで淫欲と被虐の悦びを爆発させた。
「で、伝令はいらない──。あ、あっちに行け──」
アスカは叫んだ。
詳しいことはわからなくても、ある程度の事情を察したと思うブルイネンが、当惑する副官を引っ張るようにして立ち去っていく。
それでやっと振動がとまる。
アスカはがくりとしゃがみ込みそうになった。
だが、多くの視線がまだ残っていることに気がつく。
ブルイネンたちはいなくなったが、従来していた官吏たちがアスカに奇異の視線を向けている。
アスカの異変に不自然さを覚えないわけがない。
彼らも、アスカの突然の反応に目を丸くしている。
アスカは、なにかを話しかけられる前に、急いでその場を立ち去った。
*
振り返る幾つもの視線や、たくさんの挨拶の言葉を浴びながら、なんとかそれをあしらって、やっとのこと、アスカは生活塔に辿り着いた。
とにかく、ロウのところに辿り着くまでだ……。
アスカは最後の力を振り絞るように、必死の思いで足を前に進ませた。
痒みは頂点に達している。
座り込みたいのを我慢して、奥歯をぎしぎしと喰い縛り、気丈を装って進む。
顔は伏せている。
前を向いていると、下手に声をかけられてしまい、その都度歩みを止められる。
だから、アスカだと気がつかれないうちに、その場を通り過ぎる。
そうやればいいと、途中でわかったし、実際にそうやって、ここまで辿り着いた。
しかし、もう限界だ。
奥歯は噛んでも力が入らないし、痒みの苦しさに唇は震え、長いスカートの中では滝のような汗が噴き出してもいる。
太腿の震えもとまらない。
腰はやむことのない痙攣が続いている。
消えることのない掻痒感がアスカを追い詰め、刺激を感じない内腿を強く擦り合わせながら歩くという、意味のない行為を虚しく繰り返していた。
「ちっ」
アスカは足を滑らせかけて、思わず舌打ちした。
こんこんと流れる果汁が下着から溢れて太腿の肌を濡らし、さらに膝にまで流れ、いまはサンダルの中の足の指にまで達したのだ。
それで足を滑らせかけたというわけだ。
外からの刺激は受けつけない下着だが、内側からは普通の布の下着とまったく変わらない。
アスカの股間から漏れ出る体液は、下着の布を濡らし、それでもとまらない体液がどんどんと下着の外に垂れでている。
いまや、重ささえも感じるくらいだ。
「おや、太守様──。こっちに来られるのは珍しいですね。誰かをお探しですか?」
生活塔のあがる階段をあがったところで、またもや呼びかけられた。
今度は恰幅のいい壮年のエルフ男だ。
面識はないが、向こうはアスカの顔を知っているようだ。親しそうでもある。高位のエルフ貴族のひとりかもしれない。
「あ、ああ、まあね……」
碌に返事をすることなく、アスカはその場を立ち去る。
不審な表情でそのエルフ男がアスカを見送る。
これまで、何十回も繰り返してきた行為だ。
やっと衆人環境から逃れられたのは、生活塔の中でも特別な貴人用の客室の一帯に辿り着いてからだ。
ここには、いまはロウの関係者しかいない。
ロウたちも、世話をする手伝いの者の存在を嫌って、自分たちだけでいいと断っているので、こっち側にはほとんど水晶宮の者がいないのだ。
ノルズの部屋もちょっと離れたところにあるが、同じようなことを口にして、ノルズも世話係を立ち去らせている。
また、ノルズの世話をしているのは、エマだ。
そして、やっと、ロウの部屋の前に着いた。
ロウは、同行の女たちと共同でひとつの客室を使っている。
本当は、女たちのひとりひとりに部屋を渡している。
奴隷だという獣人族の娘や、黒エルフの娘にまで個室の客室をあてがったのだが、それぞれの女が出し抜くように、ロウのところにやって来ようとして、結局、全員がロウのところに集まったそうだ。
「ロ、ロウ──。あ、開けな──。わ、わたしだよ──」
アスカは扉を勢いよく叩いて叫んだ。
魔道は封印されているので、言葉を伝える手段がない。
扉は魔道により閉まっている。
普段ならなんなく開けられるが、いまは無理だ。
「ああ──? なに? あいつへの贈り物なら、手紙付きでそこに置いといて──。夜這いなら無駄よ。ここには大勢の女がいるしね。ほかのエルフ女はお呼びでないわ。帰りな──」
すると、しばらくしてから、面倒くさそうな口調で、扉の向こうからエルフ娘の声が戻ってきた。
その声は、ユイナという褐色エルフの娘だろう。
アスカは激昂した。
「ふ、ふざけんじゃない──。早く、開けな──。扉を吹き飛ばすよ──。アスカだ──。ここを開けるんだ──」
あらん限りの声で怒鳴りあげた。
もう、股間の痒みは限界だ。
少しも耐えられない。
「アスカ……? ああ、太守様ですか……。ひとりですか?」
言葉はやや丁寧になったものの、少しの尊敬の念も感じられない口調のユイナの言葉が扉越しに戻る。
アスカはひとりだと叫んだ。
魔道で解錠される音がして、扉が内側から開かれる。
「わっ、ユイナ──」
「まだだって、言っただろう」
「うわっ」
「ひっ」
「きゃあああ」
女たちの焦ったような声が一斉に響いた。
アスカも唖然した。
部屋の内側に拡がっていたのは、ほぼ全裸のロウの女たちが、あられもない姿でそこら中に転がっている光景だったのだ。
たったいままで、ここで激しい乱交が行われていたのは明白だ。
しかも、女たちのほとんどは、身体に力が入らないらしく、アスカが入ってきたというのに寝そべったままでいる。
それでも、気だるそうに、そこら辺に散らばっている衣服や毛布に手を伸ばそうとはしている。
とにかく、凄まじい状況だ。
「いいじゃないのよ。この太守様も、あいつの性奴隷なんでしょう──。それにしても、いつまでもだらしないわねえ──。さっさと、身体を洗浄して、服を着なさいよ」
すでに衣服を整えているユイナが扉を閉めながらけらけらと笑った。
ほかの女たちは、まだ体液を身体に帯びたまま脱力状態だ。
ユイナのほか、エリカ、コゼ、シャングリア、ミウ、マーズ、イット、イライジャがいる。
つまりは、全員ということだ。
いや、あの巨乳の女魔道遣いがいないか……。名はスクルド……。まあ、どうでもいいか。
しかし、見渡す限り、ロウだけはいない。
「そ、それにしても、同じように抱き潰されたのに、どうして、お前は元気なの?」
部屋の隅から不思議そうに声を放ったのはイライジャだ。
イライジャは、寝台の下で薄い毛布で裸身を包むようにしている。
「そ、そうよ──。最後に相手したのも、あんただったし……。なにか仕掛けがあるの? 白状しなさい──」
コゼだ。コゼは隣にいるミウという童女とともに寝台の上にいて、肩で息をしている。
「教えて欲しいの、コゼちゃん? ちょっとした秘訣があるのよ。これがあれば、あんたの大好きなあいつに、もっと愛してもらえるわよ」
ユイナが小馬鹿にしたように言った。
コゼの顔が怒りで真っ赤になるのがわかった。
「なにか方法があるなら言うんだ、ユイナ──。わたしたちは一簾托生のロウの性奴隷仲間だぞ。抱き潰されたときに、効果的な回復のいい方法があるなら、もっともっとロウを悦ばせることができるのだ」
「そうよ、ユイナ──。言いなさい」
シャングリアとエリカだ。
どういう状況か不明だが、このふたりは、ほかの者とは別に、まだ後手の縄掛けをされたままである。
解いてもらおうとしていないし、ほかの者も解こうとしていないので、なにかの理由があるのだと思う。
どうせ、ロウの言いつけに決まっているし、極めてくだらない話だとは思うが……。
ふたりとも、起きあがらずに横になったまま怒鳴った。
「教えても、遣えるのは小娘くらいよ。ほかには、あの乳女かな」
ユイナが鼻を鳴らす。
「乳女? それに、こ、小娘って……あ、あたし……?」
ミウが不機嫌そうに言った。コゼの横にいるミウは、上半身は服を身に着けているが、下半身は裸体だ。おそらく、その恰好で抱かれたのだろう。
寝台の下には、さらに獣人族のイットと闘女のマーズがいるが、ふたりはまだ寝息をかいている。
やはり、裸だ。
「もったいぶらないのよ、ユイナ──」
イライジャが一喝した。
ユイナが肩を竦める。
「き、禁忌の魔道です、イライジャさん……。禁忌の魔道には性欲や性欲に火照った身体を制御する術も多数あるんです……。だけど、他人にかけるのは無理よ。あくまでも、自分自身にかけるだけ。だから、教えても扱えるのは、小娘だけですね……。残念だけど」
ユイナが言った。
どうでもいいが、ロウはどこだ──?
アスカは、口を開いた。
「だ、黙りな、お前ら──。い、いつも思っていたけど、お前ら、ちょっと騒がしすぎるよ。それよりも、ロウはどこだい──? あの悪戯男はどこにいるんだい──」
怒鳴った。
女たちが一斉にアスカに視線を向ける。
寝いてたイットとマーズまで身体を起こした。
「あいつは部屋を出ていきましたけど……。それよりも、もしかして、それって……。ロウの淫魔術の刻まれた“あの下着”をはいてますか?」
ユイナだ。
一瞬、目が細くなり、アスカを観察したと思ったが、すぐにアスカの状況を言い当ててきた。
眼球に刻んでいるとかいう鑑定の魔道だろう。
しかも、見抜いただけでなく、アスカを苦しめているこの下着について心当たりがありそうだ。
「ええ──? あの呪いの下着をか──?」
シャングリアが声をあげる。
その声には同情の響きがあった。
「も、もしかして、お、お前らもこれを……?」
アスカは訊ねた。
エリカが口を開く。
「全員、試験だといって、はかされました。はいたら、どんどんと痒みが走る下着ですよね……。しかも、脱げないし、刺激は遮断されるし……」
「脱がして欲しければ、あいつ、“乳首すもう”をして、勝ち抜けで外すって言うのよ──。ふざけてるでしょう──。とにかく、それ、もともとは粘性体だとか……。それを布のように変えたんです」
ユイナが思い出しながら怒りが蘇ったのか、憤慨した口調で声をあげた。
粘性体をこの下着に。
そして、乳首すもう──?
なんだ、その卑猥な響きは……?
そもそも、“すもう”ってなんだ?
「い、いや、あれも鍛錬のひとつで……。先生はあたしたちを鍛えるために……」
そのとき、闘女のマーズが少し遠慮した感じで口を挟んできた。
「はあ──。あれが鍛錬──? 乳首に洗濯ばさみをして、紐で引っ張り合うのが──? そんなの、あいつの冗談に決まってんじゃない。馬鹿じゃないの、筋肉女──」
「そんな言い方はない、ユイナ──。同じ奴隷の立場で──」
ずっと黙っていたイットが顔を険しくした。
マーズに対するユイナの言葉に、むっとしている表情だ。
「あたしは、もうすぐ奴隷解放されるわよ──。ゲートの基本設計作れば、解放するって約束したんだから──。もう提出して、しかも、採用されたって聞いているわ──。そうですよねえ──?」
ユイナがアスカに視線を向けた。
しかし、これが限界だった。
「く、く、くだらない駄々話をいつまでも聞かせるんじゃないよ。ここにいなければ、あいつはどこに行ったんだい──」
大声で叫んだ。
一瞬、部屋が静まり返り、再びアスカに全員の視線が集中する。
凄んで怒鳴ったものの、股間を苛む掻痒感は限界に達していて、アスカの腿は刺激を求めて激しく擦り合わせるように動いてたし、もう腰に力が入らなくて、前屈み気味だ。
なによりも、追い詰められていることが自分でもわかるくらいに、顔が上気していて、汗びっしょりである。
迫力など皆無に違いない。
女たちの顔がアスカへの同情の色で染まるのがわかった。
「……ロウ様はノルズのところだと思います……。そんなことを口にしていたような……」
エリカが申し訳なさそうに言った。
「それを早く言いな──」
アスカはそれだけ言うと、部屋を後にした。