【2025.9.5コミック発売】異世界で淫魔師ハレム【完結】 作:ドン・ドナシアン
530 女王の側近たち
その日の軍務を終わり、軍営内に当てられている私室に戻ったブルイネンは、夕食をどうしようかと思案していたが、そこにアルオウィンが訪ねてきた。
ブルイネンは驚愕したが、とりあえず立ちあがって、アルオウィンを部屋の中に招いた。
「アルオウィン、もう起きてもいいの?」
アルオウィンは、先日、イムドリス宮を奪回したときに、ほかの女たちと同様に救出されたのだが、それまでに受けた拷問や虐待で身体と脳を激しく損傷していて、ずっと養生所に収容されて魔道治療を受けていたのだ。
なにしろ、ブルイネンが、ガドニエルやロウたちとイムドリス宮に入ったとき、アルオウィンは、ダルカンに隷属されていて、四肢を切断されていたうえに、拷問まがいの性交の強要と薬物の大量投与を長期間受けていて、外観だけでなく、内臓もぼろぼろになっていた。
しかも、ダルカンの喉元に喰らいついて、一矢酬いたものの、それにより復活したパリスにより、尻の穴から口までを杭で串刺しにされ、さらに痛覚を直接に脳に繋げる魔道を受けて、脳が毀れた状態だったのだ。
少なくとも、ブルイネンが養生所に運んだときには、完全な発狂状態だった。
それから、数日──。
ブルイネンは、何度か様子を確認しに行ったものの、毀れた頭と心の損傷が激しくて、まだ他人と面会をさせる段階ではないと医師に断られ、遠目から外観が元に戻ったアルオウィンの姿だけを確認するだけで、ずっと面談などさせてもらえなかったのだ。
そのアルオウィンがいる。
しかも、元気そうだ。
まともそうだし……。
ブルイネンは驚いた。
「どうしたの、アルオウィン? もう、養生所は出ていいの?」
「いいのよ。もう退院したわ。いつまでも横になってられないわよ。復帰祝いに付き合ってもらうわね、ブルイネン」
アルオウィンは、持っていた袋から果実酒の瓶を取り出した。
さすがに、酒はどうなのかと思ったが、アルオウィンは勝手に器を二個取り出して、卓に並べだす。
そして、皿も出して、一緒に持ってきたらしい干し肉を盛り置く。
「ねえ、アルオウィン、お酒は……」
「退院したということは許可されたということよ。いいから、座りなさい、ブルイネン。話があるのよ」
アルオウィンがブルイネンを席に促す。
これは、ブルイネンの忠告など、耳を貸すつもりはないみたいだ。
まあ、そりゃあ、養生所の医師が大丈夫と言ったのであれば、酒も問題ないのだろうが……。
「ねえ、本当に、もう飲酒は許可を受けているの?」
「そう言ったわ。さあ、飲もう」
アルオウィンは果実酒の瓶の封を切り、卓の上に置いた二個の器に酒を注ぐ。
仕方なく、ブルイネンも、アルオウィンに向かい合うように椅子に座り、器に手を伸ばした。
「いただくわ」
口をつける。
驚いた。
滅多に口にできないような上等の酒だ。
随分と奮発したものだ。
肉もただの干し肉じゃない。
特殊なやり方をした高級品だ。
干し肉とは思えないほどに柔らかく、口の中で溶けるように消えていく。
ブルイネンはびっくりした。
「気に入ってくれてよかった。わたしの妹は調理系の魔道の遣い手なのよ。酒も肉も、そこまで熟成させるのに五年以上もかかっているわ。うちの実家の秘蔵品よ」
「えっ?」
ブルイネンは目を丸くした。
五年の魔道熟成肉といえば、超高級品だ。
ただの酒のつまみに口にしていいものじゃない。
驚いて、さらに伸ばそうとしていた手を引っ込める。
その様子を見て、アルオウィンが声をあげて笑った。
「いいから、どんどん食べて、飲みなさい。せめてものお礼よ……。助けてくれてありがとう。あなたが養生所にわたしを運んでくれたのはよく覚えてないけど、養生所でそう聞いたわ。本当にありがとう……」
すると、アルオウィンが急に真顔になり、飲みかけていた器を卓に置き、座ったまま深々と頭をさげた。
ブルイネンは困ってしまった。
「……ま、待ってよ。助けたのはわたしじゃないわ。わたしはただ養生所に運んだだけよ。助けたのは……」
助けたのはガドニエルであり、ロウだ。
そう言おうとして、少し躊躇した。
説明していいものかどうか迷ったのだ。
アルオウィンの重篤は、身体よりも心の傷のはずだ。
覚えてないなら、その記憶を呼び起こしていいのかどうか、判断つかない。
外観の治療については、エルフ族の魔道であれば、それほどの問題もなく治療ができる。ましてや、アルオウィンについては、地上最高の聖女とも称すべき、ガドニエルが自ら治療を施したのだ。
それこそ、命さえ残っていれば、一日もかけずに身体の治療は終わってしまうだろう。
数日は安静にして、急激な強制回復に身体が馴染むまで、身体を休める処置は必要になるが、酒くらい問題はない。
しかし、アルオウィンの場合は、問題は頭と心の治療なのだ。
魔道で身体は治せても、毀れた心の治療はできない。
なにしろ、あれほどの仕打ちを受けたのだ。
まともに生活が可能となるまでに何年もかかるかもしれず、一生治らないかもしれないとガドニエルも心配していた。
養生所にずっと隔離されていたのも、意識を回復したアルオウィンが記憶を思い起こして、衝動的に自殺をしてしまわないようにという心配のためだ。
他人との面会が謝絶されていたのも、それが理由だったはずだ。
もっとも、いま、目の前にいるアルオウィンは、以前とまったく変わらないように見える。
いや、むしろ陽気だし、そうかといって、線が切れたような明るさではない。すごく安定しているように見える。
「そうね。あなたに訊ねたいのは、まさにそれよ。わたしを助けたのは誰なの? 身体の治療をしてくださったのはガドニエル様よ。それも覚えている。でも、もうひとりいる……。でも、ぼんやりとして、それ以上のことが思い出せないのよ……」
アルオウィンが言った。
「覚えて……ないの? 全然?」
あるいは、囚われになったいるときのすべての記憶がないのだろうか?
しかし、それなら、アルオウィンの心が安定している理由もわかる気がした。忘れている記憶では、アルオウィンの心は傷つけられないだろう。
だから、いま、アルオウィンはまともなのか?
まあ、だけど、記憶がないということが、まともだと称していいかどうかは判断がつかないが……。
しかし、アルオウィンは首を横に振った。
「誤解しないでね。ほとんどの記憶はあるわ。ダルカンやパリスになにをされたのかも覚えている。だけど、ぼんやりとして、細かいことまで思い出すことはできない。……というよりは、努力すれば記憶は辿れるけど、まるで、他人事のような情報としてしか、思い起こせない」
「他人事?」
「そう……。どう考えても、事実であり、そして、あれが本当に私に起こったことなのだとすれば、自殺してもおかしくないくらいの仕打ちなのに……。そして、あれは確かに本当のことだし……」
「アルオウィン──」
ブルイネンは声をあげた。
アルオウィンの口から、自殺なんて言葉が出たからだ。
しかし、アルオウィンは、にやりと微笑んだ。
「自殺なんてしないわよ……。というよりも、記憶がぼんやりとして、わざわざ考えないと思い出せないと言ったでしょう。だけど、こんなことは、とても不自然よ。まるで、これからの生活に支障がないように、情報としての記憶はあるのに、それが、わたしの一切の感情に結びつかないようになっているのよ。わたしの心を守るために……」
「記憶がないのではなく、記憶が感情と離されているということ?」
ロウだ……。
そんなことは、ガドニエルにも、ラザニエルにもできないと思う。
ダルカンによって、心と正気を毀された女たちを次々に抱いて、淫魔術で正気を取り戻させたのは、ロウのやったことである。
アルオウィンについても、同じことをしたのだろう。
まあ、そのやり方は特殊だったが、効果は劇的だった。
ブルイネンの部下も、大勢犠牲になっていたが、ロウのお陰ですでに職務に復帰している。
「そういう点では、わたしにとっては、あの日々は存在しないことになっている。どういうことなのか、説明が難しんだけど、わたしの心が毀れたりしないように、極めて都合よく、記憶に携わるものだけについて細工をした感じなのよ。こんなことは魔道でもあり得ないわ」
「そ、そうなの……」
とりあえず、相づちを打つ。
すると、アルオウィンがブルイネンの顔を覗き込むようにしてきた。
「……その顔は知っているわね、ブルイネン……。誰なの? わたしは、それを教えてもらいに来たのよ。これは魔道じゃない。少なくとも、知られているような魔道じゃないはずよ。ガドニエル様じゃないわよね。でも、養生所でも教えてくれなかったし……」
「そ、そうなのね……」
養生所の者は、ガドニエルの指示書を携えたロウが、収用された女たちを次々に訪ねてきて、女たちの部屋にこもり、その後、女たちが劇的な精神の回復をしたことは知っている。
どんな方法で、ロウが「治療」したかまでは知らないはずだが、ロウによる処置という認識はあるはずだ。
だが、ロウの「治療」に関するロウの行動は、ガドニエルにより強い箝口令が出ている。
アルオウィンに、誰が治療したのかを告げなかったのは、そのためだろう。
もちろん、ブルイネンについては、詳しいことを承知している。
そもそも、女たちの寝かされている病室に、看護人を人払いして、男のロウとふたりきりにさせるわけにもいかず、ずっと同行したのも、部屋に防音の結界をして、他にばれないようにしたのも、ブルイネンなのだ。
あれは疲れた。
ロウと心が傷ついて狂った女たちが、性愛で交わるのを延々と見学しなければならなかったのだ。
なんの拷問なのかと思った。
「さあ、教えて。わたしの治療をしてくれた、もうひとりの人物は誰? 妹のセリアも同じように助けてくれたのよね? さあ、言って。ほらっ」
アルオウィンがブルイネンの器に果実酒を注ぐ。
ブルイネンは困ってしまった。
アルオウィンに、本当のことを教えていいか判断がつかないのだ。
なにしろ、アルオウィンはとても誇り高く自尊心の強い女だ。
そして、女が好きというわけではないが、ブルイネンが知る限り、性癖が潔癖に近く、なによりも極端な男嫌いだ。
そのアルオウィンに、ロウのことを語っていいかどうかを迷った。
アルオウィンについては、当時はまだ身体の治療が終わっておらず、ブルイネンが同行したときには、アルオウィンのところは訪問してないが、後日処置したのだろう。
彼女の記憶操作をしたのはロウに決まっている。
しかし、それを言えば、当然に、どうやって、それをしたかという話になるはずだ。
だが、男といえばそれだけで毛嫌いする彼女が、治療のためとはいえ、自分をロウが犯したと知れば、どんな反応をするか……。
「クロノス様よね……」
アルオウィンがじっとブルイネンを見た。
やっぱり隠せないか……。
ブルイネンは嘆息した。
アルオウィンに限らず、ダルカンに囚われていた女たちは、ことごとく、ロウの淫魔術の恩恵を受けて、正気を取り戻し、いまや、ロウは助けられた女たちを中心に大変な人気者だ。
ロウに助けられた女たちは、ロウに抱かれたことで、自分たちが正気を取り戻したことをちゃんと記憶していて、箝口令が敷いてあるとはいえ、女たちのあいだでは、ロウのことは公然の秘密状態だ。
アルオウィンが、この情報に辿り着かないはずがない。
しかし、彼女たちの中には、ロウに身体を奪われたことに、恨みを抱く者は皆無だ。
それどころか、もう一度抱いて欲しくて、ロウの周りを機会さえあればうろうろしている者ばかりだ。
女王親衛隊出身で、ロウに助けられた女たちも、ロウに関係する任務に就かせてくれと、ブルイネンのところに殺到している。
なにしろ、ロウに身体を犯されたといえ、もともと女たちは性奴隷扱いの仕打ちと大量薬物投与の影響を受け、ついに正気を失ってしまった者たちである。
いまさら、貞操についての強い抵抗は消え失せていただろうし、そもそも、ロウの性愛はとても気持ちがいい。縛って抱きたがるという抱き方には嗜虐的なところもあるが、与えられる快楽と幸福感はすさまじい。
気が触れてしまうほどの残酷な記憶の地獄にいたところを、ロウに抱かれて精を注がれることで、最高の快感とともに幸福感に包まれて蘇ったのだ。
ブルイネンも彼女たちに接しているが、アルオウィンと同様に、地獄のような日々のことが記憶にはあるが、やっぱり、それが感情の損傷に結びつかないように処置されているようだ。
ロウに反意を持つ理由もなく、絶対的な感謝を向けられるのも当然で、ロウは心の支配まではしなかったので、彼女たちの記憶はちゃんとあるのだが、むしろ、そのときの身体の快感を忘れることができない女たちは、いまでもロウにもう一度抱いてもらおうと、機会を伺っていると耳にする。
そんな女たちを中心に、ロウのことは公然の秘密なので、アルオウィンの調査能力があれば、記憶がなくてもロウに辿り着くのは当たり前だろう。
隠しようもない。
「ま、まあ、そうね……。でも、ロウ様は……」
素直に認めた。
しかし、ロウの弁護はしておかなければ……。
「わかった……。あなたのその顔を見れば十分よ。やっぱり、彼はわたしに噂通りのことをしたのね。つまり、わたしの身体を……。わかった。それはいいわ。それよりも……」
「ねえ、聞いてよ、アルオウィン──。ロウ様は……」
ブルイネンは慌てて言った。
とにかく、ロウが単純な女好きでも、好色でも、無秩序に淫乱な男ではないことを説明しておかないと……。
いや、でも、それに近いのか……。
しかし、とにかく……。
「それはいいと言っているでしょう。それよりも、わたしをクロノス様に紹介しなさい、ブルイネン。クロノス様に会わせて」
だが、アルオウィンがブルイネンの言葉を遮った。
「えっ?」
予想外の言葉に、ブルイネンは面食らった。
しかし、その顔は、さらに意外だった。
アルオウィンの顔は真っ赤だったのだ。
しかも、まるで初めて恋をする少女のように、その表情には、はにかむような、恥ずかしがるような、なによりも、誰かを愛おしむ感情がありありと浮かんでいた。
そして、ちょっと興奮したように小鼻を大きくして、ブルイネンに縋るような視線を向けている。
ブルイネンは目を見開いてしまった。
「じ、実は何度か会いに行ったのよ……。だけど、クロノス様の女たちの守りが固くて、近づくこともできないの……。もちろん、話しかけることも……。それで、どうしようかなあと、思っているときに、あなたがクロノス様に懇意だという噂を知って……。ねえ、そうなんでしょう?」
「えっ? こ、懇意って……」
「そもそも、あなたって、スカートなんて、はいたことすらなかったのに、その短いスカートの軍服……。あなたの部下の女兵だって、軍服のスカートを短くしているわよね……。あなたが部下たちに強要していること? とにかく、あなたがクロノス様の女になったというのは本当なんでしょう──? 白状しなさい、ブルイネン」
アルオウィンは言葉を叩きつけるようにブルイネンに言った。
ブルイネンは首を横に振った。
「ち、違うわ──。部下たちは勝手に短くしているのよ。ロウ様が短いスカートから女の脚が見えるのが好きだというのは本当だけど……」
「そこじゃない──。クロノス様の女かどうか、訊ねているのよ──」
アルオウィンが声をあげた。
ブルイネンは仕方なく、首を縦に振る。
よく考えれば、隠すようなことじゃない……。
まあ、なんだかんだと、一日置きくらいには、ロウのところに通っている。
噂になるのも当たり前だろう。
いまや、水晶宮中の若いエルフ女が、滞在しているロウの行動を追っている。
とにかく、英雄様、クロノス様とすごい人気なのだ。
ロウの部屋に足繁く通い、そして、部屋に迎えてもらっているブルイネンに、彼女たちの嫉妬の視線を感じないわけではない。
「そ、そうね……。女にしてもらっているわ……。わたしもロウ様の女よ……」
ブルイネンは言った。
もう何度も抱いてもらっているし、ロウから自分の女だと、繰り返し告げてもらった。
このところ、やっと自分もロウの女だという自覚もできたところだ。
すると、いきなり、ずいとアルオウィンの顔がブルイネンに接近した。
「しょ、う、か、い、し、な、さ、い」
アルオウィンの必死な表情と勢いに、たじろいだものを感じた。
「しょ、紹介っていっても……。だけど、紹介して、どうするの?」
それだけは訊いておかなければならない。
雰囲気からすれば、ロウに害を加えようという気配はないが、男嫌いのアルオウィンだ。
あんな目に遭っただけに、まさかとは思うが、ロウに乱暴をするというようなことは……。
しかし、ブルイネンのその質問に、アルオウィンは、さらに顔を真っ赤にした。
「どうするのって、そりゃあ……」
アルオウィンが恥ずかしそうに身体をもじつかせる。
なんだ、これ?
目の前にいるのは、本当にアルオウィンか?
「……クロノス様のことを覚えていないとはいったけど、でも、かすかにはあるのよ……。とても……気持ちがいいことをしてくれたことを……。ああ、だけど、やっぱり、あれは本当のことだったのね……。だ、だったら、なんとか……もう一度、クロノス様に……。ねえ、ブルイネン──」
「ねえ、って言われても……」
まあ、とにかく問題はないようだ。
ブルイネンはほっとした。
「じゃあ、いいわよ……。いまから行く?」
「い、いまから──?」
すると、アルオウィンが悲鳴のような声をあげた。
ブルイネンは、その声の大きさにたじろいだ。
「い、いまからは、ちょっと……。そ、それに、ちょ、ちょっと覚悟が……。いや、準備が……。勝負下着じゃないし……。明日……。明日がいいわ──。ねえ、明日、連れていって──。し、支度もあるのよ……。そ、それに、短いスカートを見つけないと……。か、身体だって、まだ、今日は洗ってないし……」
「そんなの必要ないと思うけど……」
ロウの抱き方は特殊だ。
信じられないくらいに、恥ずかしいこともさせられることもある。
それを事前に説明しておいた方がいいだろうか……?
「必要あるのよ──。と、とにかく、話を通しておいてね──。約束よ──。ほら、これを食べて。こっちも飲んで」
賄賂のつもりなのか、アルオウィンが持ってきた酒を肉を勧めてくる。
だが、その顔に、心の底から嬉しそうな微笑みが洩れているのを確認し、ブルイネンは思わず、貰い笑みを浮かべた。
そして、果実酒の入った器に手を伸ばした。