【2025.9.5コミック発売】異世界で淫魔師ハレム【完結】 作:ドン・ドナシアン
「なによ……。わざわざ、呼び出したのはなにさ、小娘? それに、大女と獣人娘まで……。わたしをリンチにでもかけようっていうの」
挑発的な物言いで、ユイナが鼻を鳴らした。
ミウたちに割り当てられた客室のひとつだ。
もっとも、誰も使っていない部屋である。
ガドニエルは、ロウとその女たちのために、ひとりひとりに客室をあてがってくれたのだが、しかし、ミウも含めて、結局ロウと同じ部屋で休むのを選び、全員がロウの部屋に集まってしまったのだ。
ロウの部屋は一番上等で広い貴賓室であり、女全員が集まっても休める十分な広さがあった。
無論、寝台は足りないが、床の上で寝て、なんの支障も感じない者たちばかりだし、ミウもそうだ。
それに、ロウは、ガドニエルやラザニエルを愛人にしてから、また性欲が強くなった感じであり、毎晩のように女全員を抱き潰すまで性愛を終わらない。
ミウたちだけで足りず、ガドニエルのところやノルズやラザニエル、さらにブルイネンとかも呼び出したり、部屋を訪問したりして抱いているくらいなのだ。
だから、結局のところ、女の全員が、ロウのところでそのまま気絶したまま休むことになるということもある。
とにかく、そういうわけで、与えられた部屋は女の人数分だけ余っている。
ここは、その余っている部屋の中でも、ロウの部屋とはもっとも反対側になる端だ。
そこに、ユイナを呼び出し、マーズとイットとともに連れてきたところだ。
「そんなことはしません。でも、話があって呼び出しました。座りませんか」
部屋には寝台もあれば、ひと組の椅子と卓もある。
ユイナは、軽く肩を竦めると、椅子に座って足を組んだ。
ミウは、マーズとイットとともに、寝台に並ぶように腰かける。
「……で、話って?」
すぐにユイナがミウたちに視線を向ける。
ミウは口を開きかけた。
だが、ミウが言葉を紡ぐ前に、ユイナがさらに言葉を挟んできた。
「……言っておくけど、態度を改めろっていう説教なら無駄よ。わたしはわたしだし、いまさら、性格は変えれないわ。猫を被れって言われれば、できないことはないけど、いまさら、あんたらの前で、そんなことをしても無駄でしょう? あいつだって、これでいいと言っているしね。ましてや、一番の小娘の分際で、わたしに説教しようとしたりして、わたしを爆笑させないでよね」
ユイナがにやにやとしながらミウに言った。
マーズとイットが、むっとしたように身体を動かしたが、ミウはふたりを制する。
「面白いですね、ユイナさん。イライジャさんやエリカさんには、ちゃんとした話し方をするのに、他の人には、わざと怒らせるような物言いばかり……。もしかして、強い人には逆らわない主義ですか? だけど、気をつけた方がいいですけど、ユイナさんって、あたしたちの中では一番弱いですよ。自覚ありますか?」
わざと挑発的な言い方をしてあげた。
ミウだって、このユイナにはいつもいつも馬鹿にされたような言い方ばかりされて、ちょっと腹がたっていたのだ。
「はあ? ちょっとくらい、魔道が遣えるからって、調子に乗るんじゃないわよ──。わたしだって、そこそこ遣えんだからね」
ユイナが激昂した表情になって、さっと魔道の杖を抜く。
杖なしでも魔道は遣えるが、エルフ族や人間族の場合は、杖があればさらに魔道の効果を増幅することができるので、魔道遣いは杖を持っていることが多い。
ミウ自身も、魔道の師匠であるスクルズから杖をもらっていた。
しかし、いまはほとんど使っていない。
ミウの魔道は杖なしでも、十分に強い効果を乗せることができるようになったからだ。
魔道でユイナの杖を弾き飛ばす。
「いたいっ」
ユイナの杖が後ろに吹き飛び、ユイナが手首を抑えた。
ミウはユイナの上の空間だけを一気に重くする。
「ひうっ」
ユイナが椅子ごと転げ落ちて、押し潰されるように、うつ伏せに床に倒れた。
そのまま動けなくなる。
「な、なによ、これ──? あ、あんた、こんな空間術まで遣えんの? 高等魔道じゃないのよ──」
ユイナが悲鳴をあげた。
おそらく、見えない力に背中を押し潰されて、身体を起こすことができない状態なのだろう。
そういう魔道をかけている。
「わかってもらえましたか? ユイナさんが一番弱いということを……。強い者に逆らわないなら、ユイナさんが一番弱いんですから、もう少し態度を気をつけた方がいいと思います。いつも、わざと、コゼさんを怒らせる言い方をしますけど、見ていて、はらはらするんです。コゼさんなんて、本当にユイナさんを一瞬に殺しちゃいますよ」
ミウは魔道を浴びせ続けながら言った。
「わ、わかった──。わかったわよ──。いいかげんに、これやめてよ──。わかったから──」
ユイナが喚いた。
ミウは魔道を解く。
「やれやれ……。怖いわねえ。それで人間族のまだ子供とはね……」
ユイナが大きく息を吐き、ゆっくりと身体を起こした。
「子供じゃありません。もう十二歳です」
ミウはむっとして言った。
「十二は子供よ。本当はセックスなんて、まだしちゃいけない歳なのよ。まったく、あの男の鬼畜さには呆れるわね……」
ユイナが椅子を起こして、ユイナたちのいる寝台に寄せるように置き直してきた。
それはともかく、ロウがミウを抱くことについて、ユイナが批判めいた言い方をするのは面白くない。
ロウはミウにとって、神様みたいな人なのだ。
「ロウ様はあたしのことを思って……」
そのときだった。
いきなり、ユイナが服の袖から霧吹きのような水が飛び出して、ミウの顔にかかったのだ。
その瞬間、全身の理力がさっと発散するのがわかった。
「きゃあああ」
ミウは悲鳴をあげた。
すぐにわかった。
これは、「魔道師殺し」と呼ばれる毒液だ。
もっとも、身体には支障はない。
ただ、魔道師の持つ理力を一気に消失させて、魔道をしばらく使えなくする効果を持つ。
それで、魔道師殺しと呼ばれている。
「ひうっ」
一気に体内の理力が消滅するのがわかった。
その衝撃でミウは、その場にうずくまってしまった。
「なにをする──」
「ユイナ──」
気楽そうに見守っていただけだったイットとマーズが、横で怒ったように立ちあがるのがわかった。
イットがユイナの襟を握って、ユイナを投げ飛ばして、寝台に叩きつける。
さらにマーズがユイナの腕を背中に捩じあげた。
「触んないでよ──」
ユイナが叫んだ。
「ひがああっ」
マーズが手を離して床に飛ぶ。
ユイナの身体から電撃が放射されたのだ。
「こ、こいつ──」
イットが珍しく激昂したような声をあげる。
そして、ユイナを裏返して、顔を天井に向けさせた。
「わっ、そうだ──。こいつ、魔道が効かないんだった──」
ユイナが焦ったような声を出して、顔を蒼くしたのがわかった。
イットが手をあげて、ユイナに殴りかかるような仕草をする。
「ま、待って──。大丈夫よ。喧嘩しないで──」
ミウは、さっと魔道でユイナの身体を拘束し直して、寝台に四肢を拡げて恰好で拘束した。
ユイナがぎょっとした顔をする。
「な、なんで、魔道師殺しが効かないの?」
ユイナが目を丸くしている。
「いいえ、効きました……。でも、あたしは、
ミウは起きあがったマーズに言った。
マーズがまだ身体が痺れているような仕草でユイナに取りつく。
「なに? あんたらがわたしを犯すの? 服を脱がせてどうする気よ」
ユイナがけらけらと笑った。
別に追い詰められている様子はない。
マーズがユイナから次々に上衣を剥ぎ取っていく。
さっきかけられた毒液の入った袋のほかに、幾つかの暗器のような魔道具が隠してあった。
ユイナの上半身は、いまは胸を包んでいる布の下着だけだ。
「ねえ、こんなのに気を使ってあげることはないんじゃないの、ミウ? もう放っておけば?」
イットがユイナを睨みつけて言った。
いまは、ミウたち三人が寝台に仰向けに貼りつけているユイナを見下ろしているかたちだ。
「気を使う? なんのこと? こんなことして、なにを気を使っているっていうのよ?」
ユイナが悪びれた様子もなく、下から不敵な笑みを浮かべたまま言った。
なんだか余裕がありそうだが、まだ隠している抵抗手段があるのかもしれない。
まあ、いずれにしても、ユイナと喧嘩をするつもりで、ここに呼び出したわけじゃない。
「あたしは話をするつもりで、ユイナさんを呼んだんです。それなのに、暴れるから……」
「最初はあんたじゃないのよ──」
ユイナが怒鳴った。
「いいえ、最初はユイナさんです。杖を抜きましたよね」
「抜いただけよ。なにもしてないわよ、小娘」
言い返してくる。
なんだか疲れてきた。
いきなり、魔道遣いが杖を抜けば、それは剣士が剣を抜くのと同じだ。
それを知らないユイナでもないはずなのに……。
「じゃあ、いいです。話をしたくて、お呼びしたんですが、話はしたくないというなら、あたしたちは行きますね。そのまま、寝台から離れられないように、魔道をかけていきますね。声も防音の魔道で漏れないようにします。そのまま、朝まで……。いえ、明日の昼くらいまで、そうしていてください、ユイナさん」
ミウは言った。
そして、そのとおり、寝台に魔道をかけて、ユイナの身体の拘束をしてしまう。
ユイナもそれがわかったのだろう。
ぎょっとした顔をしている。
「……ユイナさんって、ロウ様の言いつけで、お股とお胸に“女淫輪”という淫具をつけておられますよね。ロウ様に精をもらわないと、性の疼きで苦しいんですよね? いつも、もがいておられますもの……。だったら、明日の昼までなんて、大変ですね。ロウ様にも、皆さんにも、都合よく説明しておきます。どうぞ、この部屋でひとりで愉しくお過ごしください」
ミウは言った。
ユイナが顔色を蒼くした。
「こ、小娘、このわたしを脅迫しているの──?」
ユイナが声をあげるとともに、逃れようと魔道を遣い始めたのがわかった。
しかし、今度はへまはしない。
ミウが寝台に施した処置により、ユイナの出した魔道は、そのまま発散して効果を消失させている。ユイナが焦ったような顔になった。
「わっ、わわっ、これ……。わああ、ま、待って──。ちょ、ちょっと待って、話し合いましょうよ。ねえ──。そ、そうよ。話って、なんだったのよ? ねえ、話はなに?」
ユイナが暴れながら叫んだ。
「なにが話し合いだよ」
「そうだ。さすがに、あたしも、もう許せないぞ」
イットとマーズはまだ不機嫌そうだ。
ミウは宥めた。
ふたりが、腹立ちまぎれながらも、ミウに任せるという表情をする。
もともと、ユイナをここに呼んで話し合いをしようと決めたのはミウだ。
ふたりとも、最終的にはミウに任せてくれるようだ。
「ねえ、ユイナさん、あたしたちは仲良くすべきと思うんです。ユイナさんも新参者の会に入りませんか?」
「新参者の会?」
ユイナが怪訝な表情をした。
「別にロウ様の女たちの中で、徒党を組むとかそう言うんじゃないんです。ただ、ここにいる者で協力し合って、ロウ様にたくさん愛してもらえるように、助け合おうっていうことです。あたしたちは新参者組の会と呼んでます」
「そんな名で呼んでいるのはミウだけだけどな」
マーズが茶化すように言った。
ミウは咳ばらいをした。
マーズが微笑みながら肩を竦める。
「……なにをするというわけじゃないんですけど、お互いに情報を交換し合って、ロウ様がご興味を抱いていることを教え合ったり、気に入ってもらえるように性技の勉強会とか……。まあ、寵愛の順番が来たときに、なるべく、この集まりの中から、一緒に抱いてもらう女を同行に選ぶとか……」
「ああ、そういうこと……。つまりは、寵を取り合う派閥ごっこをしようということね。いいわよ。損になることじゃないしね……。そもそも、いつもいつも、あの生意気なコゼがロウにべったりとくっついて、離れやしないし……」
ユイナがぶつぶつと文句のようなことを言った。
その表情から、ミウは、ユイナがいつもコゼに突っ掛かるような物言いをするのは、コゼがいつもロウを独占するような行動をとるので、それが愉快でないからそうするのではないかと思ってしまった。
「あれっ? 承知なのか、ユイナ?」
マーズはあっさりとユイナが応じたのが意外だったみたいだ。
ミウ自身も、もっと馬鹿にされると思った。
「承知よ。さっきも言ったけど、損にはならないしね……。それに、性技の勉強だって、あいつが喜ぶなら、まあ、少しはやるわよ……。その代わりに、教えてよね……」
ユイナがちょっと顔を赤らめて言った。
ミウは魔道を解いた。
ユイナが身体を起こした。
「参ったわねえ……。その年齢で、すでにわたしよりも魔道が上とはねえ……。じゃあ、新参者同盟に加わるわ。よろしくね、小娘」
ユイナが悪びれた様子もなく、握手を求めるように手を出す。
だが、途中ではっとしたように真顔になった。
「……そういえば、あんた、名前はなんてのよ、小娘?」
「ミ、ミウですよ──。覚えてなかったんですか──」
ミウは呆れて声をあげた。
「小娘で困らなかったしね。前に教えてもらったと思うけど、ずっと小娘って呼んでいたから忘れたわ」
ユイナはあっけらかんと言って笑った。
その顔にはまったくの悪意もない。
ミウから見ても、まるで子供のように屈託のないユイナの笑い声だ。
これには、マーズもイットも横で苦笑している。
「これからは名前で呼ぶわよ、小娘……。いえ、ミウ」
ユイナが笑顔で手を差し出す。
とりあえず、ミウはその手を握って握手を交わした。
(第45話『拡がるクロノスの輪』終わり)