【2025.9.5コミック発売】異世界で淫魔師ハレム【完結】 作:ドン・ドナシアン
水晶宮の庭園に急遽作られたという式典会場には、多くのエルフ族が集まっていた。
その人数は、三千、いや、五千人はいるだろうか。それとも、もっと?
それなりの大きさのある庭だが、見渡す限りの向こうまで人が集まっている。
よくもこんなに集めたものだ。
エルフ族が多いものの、人間族を含めて、ほかの種族も混じっている。水晶宮で働く官吏や軍人だけでなく、一般のシティの民衆も集めたのだろう。
おそらく、ガドニエルやアスカの手配だ。
できるだけ多くの者に式典を見せたい──。
そういえば、ガドニエルがそんなことを閨で口にしていた気がする。
それとも、それを言ったのは、アスカだったか……?
いずれにしても、ここに集まった者たちばかりでなく、魔道通信でシティに映像を公開しているし、各王国等の首脳にも、式典の模様は流されるのだそうだ。
これは、この式典の位置づけが、一郎たちへの栄誉授与式というだけでなく、水晶宮とイムドリスが皇帝家の陰謀によるパリスの支配から、完全に解放されたということを知らしめる対外的な儀式でもあるからだそうだ。
「すごいねえ……。まあ、集まっている者たちが注目しているのは、ガドであり、突如として現れた女王の美貌の姉のラザだろうけどね……」
一郎は、ロウの介添人として横にいるアスカにささやいた。アスカのことを本名のラザニエルからとり、“ラザ”と呼ぶのも慣れてきた。
考えてみれば、この世界に召還されたとき、目の前のアスカから殺されそうになって逃亡したときには、まさかこんな風になるとは思わなかった。
しかし、いまや、アスカことラザニエルも、エルフ族の女王でアスカの妹のガドニエルも一郎の性奴隷なのだ。
式典はすでに始まっている。
いまは、一郎に対する栄誉の授与に先立ち、女たちに対する栄誉授与が行われているところだ。
よくはわからないが、演出上、一郎に対するものとは別にするらしい。
だから、一郎はアスカとともに、台上の一部に準備されている椅子に腰掛けたままである。
台の中央に視線をやる。
美男美女揃いのエルフ族の高官が居並ぶ中、着飾った一郎の女たち、すなわち、エリカ、コゼ、シャングリア、マーズ、ミウ、イライジャ、イット、ユイナが緊張した面持ちで、ガドニエルから贈られる赤い光を放つ銀細工の飾り付きのブローチのようなものを胸に装着してもらっている。
あれが、勲章なのだそうだ。
残念ながら、表に出ると都合が悪いノルズとスクルドについては、あとでこっそりと同じものを渡すことになっているそうだ。
いまは、会場の奥で、ふたりでこの式典を見守っているはずだ。
女たちが受け取っているのは、「
とにかく、エルフ族女王の贈る栄誉としては、もっとも権威のある名誉だと言っていたと思う。
また、名誉には報酬も付随していて、今後毎年、彼女たちが死ぬまでの間、ずっとかなりのまとまった年金が水晶宮から支払われるのだそうだ。
冒険者パーティとしてではなく、ひとりひとりの個人に対する報酬というのは、全員が驚いていた。
特に、これまで自分自身の財産というものに縁のなかったコゼやイットなどについては、その報酬額の大きさにも目を丸くしていた。
式典は、そのイットが勲章をもらう番になっている。
アスカによれば、おそらく獣人族で水晶宮に入ったのは、イットが最初だろうということだ。
だが、それに対する特段の混乱のようなものは感じない。
完全にガドニエルとアスカが、根回しをしてくれたのだと思う。
それにしても、そのことでも、改めて、この土地における獣人族の地位の低さのようなものを一郎は感じた。
一郎は視線を台の下の民衆に向けた。
この式典の場所は台上になっていて、こちらに面する庭に数千の聴衆がびっしりと埋まっている。
みんな、それなりの着飾った服を着ているが、明らかに平服の者たちも混じっている。
それにしても、改めてエルフ族は美男美女揃いの種族なのだと思った。
集まっている者の多くがエルフ族なので、誰も彼もが外観が美しく、体形もすらりとしており、見目麗しいのだ。
台上と会場の要所に立っている水晶軍の警護兵についても、深紅の軍装に身を包んでいて、ひとりひとりが、ひとつの芸術品のように綺麗だ。
一郎は感嘆していた。
「わたしはともかく、ガドニエルが一般民衆に姿を現すなんて、滅多になかったことだからね。イムドリスに引っ込んで表に出ないことで、ずっと権威と象徴を保っていたんだ。それだけでなく、水晶宮そのものが一般市民に開放されることは、これまで一度もなかったのさ。物珍しさで集まっている者も大勢だよ……。お前についても、いまは物珍しさかもね……。ガドニエルから最高の感謝を贈られるらしいという人間族の男がどんな者なのか、ちょっと興味があるということかね」
アスカが顔を寄せ、にやりと微笑んで、一郎の耳元でささやいた。
彼女がガドニエルたちと一緒でなく、一郎の横にいるのは、水晶宮の太守であり、女王にしてエルフ族女王のガドニエルの実の姉のアスカが、一郎の世話人、つまり、介添人を務めることで、一郎の権威付けをしてくれようとしてくれているらしい。
あまり遠慮する理由もないので、今回は彼女たちが準備する段取りに大人しく乗っかっている。
それに、これまでは、目立たないように、ハロンドールの王都でも影に隠れて、あまり表には出ないように、ずっと気を使ってきたが、これからは違う。
できるだけ積極的に表に出て、功績や栄誉などを手に入れなければならない。
ガドニエルに求められたものに応じた以上、全力でそれに努力するつもりだ。
それが、彼女ほどの身分の女性が、一郎のような一介の風来坊に、心を寄せてくれたことに対する気持ちというものだろう。
馬鹿みたいな夢物語だろうと、エルフ族女王の正式の夫になり得るような身分に成りあがってやる。
一郎はそう決意していた。
「だけど、これだけの美男美女と一緒に並ばされるなんて、ある意味拷問かもね。ひとりだけ、貧相な男がいるなあとか、思われているんだろうな」
一郎は自嘲気味に微笑んだ。
ガドニエルが劇的なほどに美しいのは当然だが、豪華な装束に身を包むエルフ族の高官たちも綺麗であり、一郎の女たちも負けず劣らずに、美しくて可憐で可愛らしい。
一郎の横にいるアスカだって、とんでもない大美人だ。
どうしても、自分だけは貧相に見えてしまうだろう。
だが、アスカがくすりと笑った。
「いや、お前は、なかなかに目立っているし、ここにいる者の中では一番の存在感を出しているよ。自分で気がついていないのかい?」
アスカがささやいた。
存在感……?
なにを馬鹿なことをと思った
外見も中身も平凡な自分のことは、誰よりも一郎自身が知っている。
だが、それ以上は口にしない。
少なくとも、アスカはそう思ってくれているみたいだ。
だったら、いいか……。
それにしても、思ったよりも退屈だと思った。
ふと見ると、台の中心では一郎の女たちに対する勲章授与が終わり、彼女たちの前に、ひとりの壮年のエルフ族の男が現われて、民衆に向かって喋り始めていた。
どうやら、いま女たちに与えられた栄誉についての説明や、功績の内容について語っているみたいだ。
一方で女たちは、まだ緊張している面持ちで、演説をしている男の後ろに横一列に並んで神妙にしている。
一郎は淫魔術で、女たちの股間に刺激を送ってやった。
そんなに強いものじゃない。
ちょっとばかり、肉芽が振動をされたくらいの小さなものだ。
女たちの顔が一斉に赤くなり、全身が一瞬がくりと身じろぎした。
これは面白い……。
一郎は、自分の手のひらを膝の上に出して、人差し指と中指で捏ねるように動かす。
この指の動きに連動する刺激が遠隔で、女たちの股間に伝わるはずだ。
さらに女たちが小さく悶えだす。
必死に我慢する姿が可愛く、愛らしい。
おっ──。
エリカはやっぱり一番敏感なのか、ほかの者はそれなりに真っ直ぐに姿勢を保っているのに、ひとりだけ膝を割りそうになっている。
さすがにちょっと加減してやるか……。
エリカだけについては、遠隔刺激を小さくした。
それで気がついたが、イライジャとユイナが、もの凄い形相で一郎を睨んでいる。
悪戯を咎めたいようだ。
だが、それは逆効果だ。
返事代わりに、ふたりの刺激をお尻の穴にも拡大する。
ふたりが同時に、歯を喰いしばって、ぐいと背伸びをする仕草になった。
「お前、なにかやってんのかい……?」
すると横でアスカが怪訝そうな声でささやいた。
一郎はアスカに顔を向ける。
「みんな退屈そうだしね。ちょっとした遊びだよ。ラザも参加するかい?」
すると、アスカがぎょっとした顔になった。
そのときだった。
演説が終わり、男が中心から引き下がる。
それに合わせて、一郎も悪戯を中止した。
女たちが一斉にほっとした顔になる。
「お前の番だよ、小僧」
アスカが小さく言った。
一郎は立ちあがり、そのまま中心に向かう。
入れ替わるように、女たちがたったいまままで一郎が座っていた場所にある椅子に移動してくる。
すれ違うときに、女たちが一郎にひと言ありそうな顔でひとりひとり、一郎を見ていく。
ただ、困惑顔の者、怒っている者、恥ずかしそうにする者、甘えてるような顔の者、ひたすら目を合わさないようにしている者、とにかく色々だ。
一郎は全て知らん顔をした。
「ロウ卿はこちらに……」
中心にいくと、ガドニエルがいつもとは異なる口調ながらも、恭しそうに一郎に礼をとり、たったいままで自分がいた、さらに一段高い台に、一郎を促した。
一郎はちょっと驚いた。
そこは、エルフ族女王の席だ。
「わたしの命を救ってくださり、イムドリスを解放していただいた英雄様に、高い場所から遇する礼をわたしは知りません。どうか、こちらに……」
ガドニエルがはっきりとした口調で言った。
その声はしっかりと会場にも、風の魔道で送られている。
これも、演出なのだろう。
一郎は頷くと、そのままガドニエルと入れ替わるように台にあがる。
ガドニエルが嬉しそうな表情になった。
「栄誉の前に、すべてのエルフ族を代表して、お礼を……。そして、ガドニエル個人としても、最大限の感謝の意をここに……」
「妹とともに、感謝を……」
すると、ガドニエルとアスカが一郎に向かって頭をさげて、その場に両膝をついた。
物知らずの一郎だが、女が両膝を床につけて頭をさげるという動作が、貴人に対する最大の儀礼だということくらいは知っている。
少なくとも、一介の冒険者、いや、たとえ、一郎がハロンドール王国の高位貴族だとしても、このふたりの身分と立場で、公の場でする動作じゃない。
一郎は貴族とはいえ、子爵であり高位遺族じゃない。しかも、領地もないただの名誉爵位だ。
むしろ、ただの冒険者という立場が正確だ。
困惑した。
だが、それに合わせるように、民衆側から割れるような拍手が起きた。
一郎は民衆に面するように立っているので、拍手と歓声をあげる者の中心が、水晶宮の女たちだというのがわかった。しかも、一郎が「治療」のために抱いた女たちだ。
その女たちが歓声をあげることで、その周囲もつられるように声をあげ、拍手を送ってくれている。
これが集まって、どっという迫力で一郎に襲いかかる。
さすがにたじろぐものを覚えた。
「……では、このガドニエルの名で栄誉……いえ、感謝の意を表すものを送ります……。まずは、ロウ=ボルグ卿に、天空勲章を贈りたいと思います」
ひとしきりの歓声と拍手が終わると、いよいよ儀式となった。
きれいな布を敷いた盆を女官が運んでくる。
さっきの女たちがもらった「金月勲章」よりも、ひと周り大きい宝石が付けられた勲章が載せてあった。
一郎の立っている台上にあがってきたガドニエルが、盆から勲章をとり、一郎の胸につける。
事前に耳にしていたことによれば、まだ誰にも贈られたことがない、最高の名誉勲章らしい。
それを最初に受けるのが、人間族の一郎ということだ。
「……本当に感謝しています。ガドにとっては、ロウ様に出逢えたのが一番の奇跡です……」
勲章を胸に装着しながら、ガドニエルが一郎に聞こえるか聞こえないかの小さな声でささやいた。
「悪いけど、二度と解放はできないよ……。雌犬の女王様……」
一郎もささやき返した。
すると、それだけで感極まったような溜息をガドニエルが吐く。
それだけでなく、ちょっと悶えるように、短いスカートから出る脚を擦り合わせるような仕草をした。
言葉だけで、どれだけ感じるのだと呆れた。
しかも、大したこと言ってないのに……。
思わず頭を撫でたくなる衝動を抑えて、その代わりに軽く遠隔で股間を撫ぜる刺激を送る。
「んっ、ロ、ロウ様……ご主人様……」
ガドニエルが真っ赤な顔になり、びくりと身体を跳ねさせる。
そのとき、小さな舌打ちがした。
台の下にいるアスカだ。
真剣な顔で一郎に、小さく首を横に振っている。
一郎は肩を竦めて、ガドニエルへの悪戯をやめる。
「あっ……」
ガドニエルがほっとしたような、それでいて、少し残念そうな表情になって、軽く脱力したようになった。
そして、勲章をつけ終わり、一郎に顔を向ける。
なんともいえない、一郎に甘えるような可愛らしい表情だ。
一郎も思わず微笑んでしまう。
そのガドニエルが、一度大きく息を吐き、くるりと身体の向きを変えて、民衆側に身体を向け、一郎の横に立った。
すると、アスカもあがってくる。
一郎はふたりのエルフ女王姉妹に挟まれて立つかたちになった。
「このロウ=ボルグ卿は、エルフ族の英雄──。その英雄にふさわしいお礼を贈らなければなりません。まずは、ロウ卿に、エルフ族女王の名で栄誉姓を贈りたいと思います。まずは、“サヴァエルヴ”の姓を──」
ガドニエルの言葉に、再び一斉に歓声を拍手が起きた。
これについては、一郎は事前に教えられていなかったが、アスカが耳元でささやき、名誉姓といって、付け加えて正式に名乗ることのできる別姓ということのようだ。
「サヴァエルヴというのは、エルフの救世主という意味だ。歴代のエルフ族の英雄には贈られている。エルフ族以外でもらうのは、小僧が最初さ。まあ、小僧の英雄認定だね」
そして、アスカが小さな声で言った。
「お姉様……。まだ、小僧って……」
拍手の続く中、ガドニエルが不満顔でアスカをたしなめる。
一郎は「問題ない」とアスカとガドニエルに小さく言った。
しばらく、拍手が続いたところで、ガドニエルがそれを手で合図をして静める。
「また、ロウ=ボルグ卿には、一代限りのエルフ族の名誉上級貴族としての地位と、元老院会議参加の権限のある勲位も贈ります」
ガドニエルが言った。
またもや拍手が起きる。
これは事前に聞いていた。
つまりは、一郎が一代限りではあるが、エルフ族において、上級貴族の地位を与えられるということだ。
ハロンドール王国でいえば、爵位をもらって貴族になるということと同等だ。
上級貴族扱いの勲位であり、成りあがりを望む一郎が帰国に際して箔をつけるための贈り物ということだ。
一応は、これで一郎もここでは上級貴族だ。
王国に打診なしで爵位のようなものを受けるのは、本来であればご法度かもしれないが、貰ってしまえば、王国側でも、それなりに一郎を扱わざるを得なくなる。
「そして、最後に──」
再び歓声を拍手を静かにさせたガドニエルが、また口を開いた。
「……まだあるの?」
一郎も苦笑した。
「あるのさ。ふたりで考えたんだ。これこそ、とっておきの贈り物だ。まあ、ただの名誉だけどね……」
アスカが耳元で言った。
「サタルスの姓をさらに栄誉姓としてお贈りしたいと思います──」
サタルス──?
また、苗字か?
一瞬、しんとなったが、すぐに大きな歓声になった。
「“サタルス”というのは、エルフ語でクロノスの意味だ。こんな大それた姓なんて、エルフ女王家だから贈れるんだ。いずれにしても、これでお前は、いま生きている者の中では、唯一、クロノスの名を本名に持っている男ということになる」
大きな歓声に混ざって語りかけたアスカが教えてくれた。
この世界で、クロノスの名がどれだけ、価値のあるものとされているかは、もう一郎も知っている。
その名を姓として、くれたということだ。
「素直に感謝するよ。だけど、よくも、これだけの栄誉を揃えられたね。元老院は反対しなかったのかい?」
まだまだ歓声と拍手は続いている。
一郎は手をあげて、それに応じながら、ふたりに言った。
「まあ、反対もあったけど、大したことはない。お前は、エルフ族の女を中心に、すでに人気者だしね。賛成する者の方が多かったよ」
アスカが笑った。
「それにしても、これで俺の名は、“ロウ=ボルグ・サヴァエルヴ・サタルス”か? 随分、長い名になったなあ」
「その名で千年も二千年も、ロウ様の栄誉をエルフ族で語り続けます」
ガドニエルがきっぱりと言った。
「大袈裟だなあ」
一郎は笑った。
だが、ガドニエルが真顔で「本当です」と応じた。
「……だったら、俺からもうひとつ欲しいものを要求していいかな、ガド?」
台にあがっているのは三人だけなので、小さな声なら軽口でも、周囲には聞こえない。
ガドニエルが一郎を見る。
「なんでも言ってください──。どんなことでも、なんでも準備します」
ガドニエルが力強く言った。
「じゃあ遠慮なく……」
一郎はガドニエルを抱き締めた。
ガドニエルだけでなく、アスカはもちろん、台上のエルフ族の高官たち、さらに、気がついた民衆も驚いたような声を一斉にあげた。
「欲しいのは、ガドの愛だ。奪うよ──」
ガドニエルの唇に唇を重ねる。
ただ重ねただけじゃない。
舌を差し入れ、ガドニエルの口の中にある感じる場所を舐めまくる。
ガドニエルが身体を硬直させたのは一瞬だ。
すぐに、一郎に力強く抱きついてきて、舌を入れ返してきた。
さらに、周囲が騒然となったのがわかった。
「……まったく……」
呆れたような声はアスカだ。
だが、怒ってはいない。
苦笑している感じだ。
一郎はしばらくのあいだ、ガドニエルとの口づけを続けた。
この式典の会場で、ガドニエルの唇を奪うことは、最初から決めていた。
大変な波紋と影響があることはわかっている。
だが、ガドニエルは一郎の女だ──。
誰がなんと言おうと──。
彼女がエルフ族の女王であろうと、なかろうと──。
ロウは、ひとりの女として、ガドニエルも愛している。
彼女は一郎ものだ。
表に出始めたガドニエルに対して、タリオ王国のアーサーをはじめ、あちこちの王公貴族が政略結婚の触手を伸ばしているのは知っている。
だから、これは牽制だ。
ガドニエルが一郎の女であることを大陸中に宣言しているのだ。
「……口づけくらいはいいけど、ここでセックスを始めないでおくれよ」
アスカが半分笑って声をかけてきた。
それを合図にするように、一郎はガドニエルから顔を離す。
だが、その手はガドニエルの腰を抱いたままだ。
ガドニエルが一郎にもたれかかるように身体を寄せる。
とても、嬉しそうな顔だ。
この表情を見れば、もう一郎とガドニエルの関係は、全員が理解しただろう。
「も、もしも、ロウ様が望むなら……。ガドはどこでも……、誰の前でも大丈夫です……。ガドは徹頭徹尾、ロウ様のものです──」
ガドニエルがロウの顔をじっと見つめながら言った。
心の底からうっとりとしているような目で……。
「いい加減にしないかい、色呆け女が──」
アスカが舌打ちしたのが聞こえた。
「……それはこの後だね。部屋に全員を集めてくれよ。ブルイネンもね。それに、このあいだ、部屋に来たんだけど……アルオウィンも呼んでくれ。俺の元の女たちも含めて、明日の朝まで腰が抜けるまで愛してやる。そして、出発だ――」
「はい、ロウ様──」
歓声とどよめきと拍手と多少の怒声がいまだに注ぎかかる中、ガドニエルがはっきりと聞こえる声で返事をした。
アスカも、これについては駄目とは言わず、むしろ、恥ずかしそうに顔を赤らめた。
(第49話『クロノス英雄式典』及び「9章 エルフ族の英雄」終わり)
*
【ロウ=サタルス】
サタルス朝最初の人。出生年及び生年地は不明。彼の出自については、多くの歴史学者の研究があるが、まだ統一された見解はない。
彼の出生に関する記録が、なぜ完全に抹消されているのかについては諸説あるが、伝承によれば……。
(中略)
……彼には、二十人(さらに多いという説もある)の正妃がいたことが知られているが、最初に婚姻を宣言した女性が、当時、ナタル森林を中心として繁栄していたエルフ族の女王のガドニエル=ナタル・サタルスであることはよく知られている。(なお、ロウの正妃の第一妃は、最初の婚姻者のガドニエルではなく、エリカ=サタルスである。)
彼は、旧帝国皇帝家の陰謀がガドニエルの治める宮殿を危機に陥れたとき、ガドニエルの姉のラザニエルとともに、ナタル森林に現れ……(中略)……。
……事件後に行われた栄誉式典で、ロウ=サタルスがガドニエルとの婚姻を宣言するというのは、多くのサーガにある名場面であるが、それは脚色された作り話である。
しかしながら……。
『年代記(第五巻)・英雄伝』コリネリア・ポリス著(*)
* ここに記録した引用文は、国際統一図書館に貯蔵されている初版本から、許可を受けて採録したものである。
*
【作者より】
長くかかりましたが、前のバージョンで投稿していた分については、これで全部終わりです。
これ以降は、すべて新たに作って投稿するものになります。
ノクタ版の際には、ハロンドールの再入国直前で待ち受けのモーリア隊とスクルズとの戦いの場面で話が途切れたと思いますが、それについては、すでに状況が変わっており、使えませんので、次回分からオリジナルです。
ところで、私の記憶によると、時折、後書きで登場させている未来の書物シリーズは、本来、本話に載せたものが最初だったと思います。ノクタ版では、この後に王都の騒乱が時間を遡ってまとめて入り、次いで、水晶宮の親衛隊騒動の順だったと思います。
だから、そのままのかたちにしておきました。
また、しばらく投稿が中断します。
現在、仕事で長期出張中であり、ホテル生活が続いていて、家に戻ってパソコンに向かえるのは、師走の二十日頃になる見込みです。それまでは、どうしても作品が作れません。
ご了承ください。
なお、同時並行で継続している『嗜虐西遊記』については、スマホで修正して再投稿だけなので、なんとか継続できると思います。