【2025.9.5コミック発売】異世界で淫魔師ハレム【完結】 作:ドン・ドナシアン
エリカは、階段を降りて宿屋の一階に向かっていた。
昨夜のうちに、軽く摘まめる食事を飲み物とともに三人分を籠に入れ、翌朝に取りに来るまで置いておいてくれと頼んでた。
それを受け取りに向かっているのだ。
もっとも、すでに朝の時間は過ぎて昼に近くなっている。
宿泊している宿屋は、一階部分が酒場を兼ねた食堂になっているという典型的な造りになっていて、エリカたちは三階に宿泊していた。
二階部分から一階に降りる階段になると階下が見えてきた。
食事時を外れているので、ほとんど人はいない。
小雨は降り続いているが、出立を予定する者は出立し、用事のある者は外出をしていくような時間なので、いまの時間に食事をしている者はいないのだ。
これがもう少し、格のさがる宿屋になれば、夜の仕事をしている者が遅めの朝食をとったりしていることもあるが、この宿屋の格だとそういう客層の者はいない。
従って、階下は閑散としている。
それにしても、身体がだるい。
そもそも、朝食として頼んでいたものを受け取るのがこの時間になったのは、朝からロウが激しかったからだ。
おそらく、ロウは昨日のうちから、そのつもりだったのだろう。
考えてみれば、多目に食事を頼んでいた気がする。
昼の分も含めた量を見込んでいるに違いない。
ただ昼食の習慣はロウと旅をするようになってからのことだ。
エリカとしては長く冒険者をしていたということもあり、朝食と夕食の真ん中で昼に食事をする習慣はない。
ただ、ロウについては、もともとの世界では一日に三食をとるのが普通だったみたいだ。
だから、エリカも、ロウと旅をするにあたり、昼食として簡単なものを準備するようにしている。
しかし、たったいままで性愛をしていたこともあり、股間にはまだロウの性器が入っている感じがして、むずむずする。
今朝の責めは、筆責めだった。
しかも、いつの間にか四肢を寝台に拡げて拘束されて、失禁するまで筆で股間をくすぐられたのだ。
ロウとコゼのふたりがかりでだ。
どうして、コゼが責め側になったのかわからないが、いつの間にかそういうことになっていたのだ。
おそらく、エリカよりも早起きをしたコゼがロウに言い含めたに違いない。
さすがに明るい陽射しの中で二人に見られながら放尿するなど受け入れられずに、必死に抵抗したが、朝に溜まっている膀胱を刺激されて、エリカはついに準備されていた布の上に放尿してしまった。
失禁している最中に、さらに股間を刺激されて、おしっこをしながら絶頂するという醜態付きでだ。
死ぬほど恥ずかしかった。
だが、その後、興奮したロウに犯してもらって、信じられないくらいの快感を味わった。
ロウと旅をするようになったしばらく経つが、エリカは自分の中に被虐を受け入れる性癖があることを認識せざるにはいられない。
以前から、自分のそういう面には気がついていたが、ロウから恥ずかしいことをされたり、拘束されて犯されたりすると、信じられないくらいに興奮する。
それとも、相手がロウだからだろうか……。
とにかく、やっとひと息つき、エリカも朝の調教の余韻から開放されてきたので、頼んでいる食事を受け取りに来たということだ。
今頃は、コゼはロウから「フェラチオ」の特訓をさせられているはずだ。
朝食を持って戻ったら、エリカも参加をすることになっているが……。
「おはようございます」
一階におりたエリカは、厨房側に声をかけた。
「あら、おはようさん」
すぐに準備されていた籠を渡される。
ピクニックに持っていくようなひと抱えのものだ。
中を改めると、水を入れた瓶が三本と、パンで果物や肉や野菜を挟んだものがたくさん入っていた。
焼き菓子のようなものもある。
「はいよ。遅かったねえ。昼になっちまうかと思ったよ。受け取りに来るまで、声をかけないでくれってことだから、待っていたけどね」
宿屋の人懐こそうな五十過ぎと思う人間族の女性が笑って言った。
エリカは頬んだ。
「ありがとうございます。明日はほかの客と一緒に、ここで朝食をとると思います」
エリカは代金を渡した。
宿賃も食事代もすべて前払いになっている。
この籠の食材もお金と交換だ。
そういう約束になっているのだ。
「あいよ。じゃあ、ごゆっくり」
宿屋の女性の屈託のない言葉を背に、エリカは三階に戻ろうとした。
そのときだった。
隅で紅茶のようなものを飲んでいた若い人間族の男がすっと立ちあがって、エリカの前に出てきたのだ。
いままで男がそこにいることさえ、気にとまらなかったが、考えてみれば、その男はずっとそこに座っていたと思う。
その男がエリカの前を塞ぐように立った。
「久しぶりだな、俺だ」
男が言った。
「俺?」
俺って誰だ、と思った。
しかし、男からは自信の塊のようなものが全体から垣間見れる。
久しぶりというくらいだから、面識はあるのかもしれないが、いずれにしても、この手の声掛けは珍しくない。
ロウには伝えていないが、ロウに愛されるようになってから、以前からかなりあった口説き言葉や誘い台詞を頻繁に受けるようになっていた。
いまのように、ひとりでいるときには、かなりの確率で男に声を掛けられる。
いちいち相手にするつもりはないので、鼻であしらって終わりだが……。
「悪いけど……」
エリカは横を通り抜けようとした。
だが、いきなり腕を掴まれた。
かっとなって蹴り飛ばそうとしたが、すっと軽く足を払われて体勢を崩してしまった。
両手で籠を持っていたこともあり、うまく動くことができなかったのだ。
「わっ」
気がついたときには、強引にいままで男が座っていた席の前の椅子に座らされていた。
いずれにしても、エリカを簡単にあしらってしまうとは、それなりの腕だと言っていい。
エリカはびっくりした。
ただ、頭に血も昇った。
「なにすんのよ──」
エリカは掴みかかろうとした。
だが、男はさっと避けて、向かい側の椅子に座り直す。
見た目の軽そうな雰囲気とは想像しづらい、素早い身のこなしと体術に、エリカは唖然とせずにはいられなかった。
どこの誰だか知らないが、かなりの遣い手と思う。
しかし、そんなの関係ない。
ぶちのめしてやる──。
エリカは机越しに男を掴みかけた。
「おいおい、まさら俺を忘れているわけじゃないよな。それとも照れてんのか、エルスラ?」
「えっ?」
ぎょっとした。
エルスラ?
なぜ、その名を?
一瞬にして、背に冷たいものがどっと流れた。
エルスラというのは、アスカから逃亡をする以前まで、エリカが使っていた冒険者用の偽名だ。
これは、まずい──。
アスカのところにいた時期を除けば、その名を使っていたのは、カロリック公国で冒険者をしていた短い期間だけのことなので、本名のエリカに戻せば、まずわからないと思っていたのだが、知り合いということになれば、エリカがハロンドール王国に逃亡したことがアスカに伝わる可能性が出てくる……。
ロウに迷惑がかかる……。
どうしよう……?
どうするべきか……。
「おっ、思い出してくれたか? まあ、そうだろうな。一度会えば、俺を忘れる女なんているわけもないしな」
暴れかけていたエリカが口をつぐんだので、男はなにか勘違いしたみたいだ。
満足そうに笑いかける。
しかし、じっと顔を見るが、どうしても思い出せない。
面識があった?
わからない……。
もしかして、カロリック公国の冒険者時代だろうか?
「ああ……悪いんだけど……、なんの用なの……?」
いずれにしても、この変な男と問答をするつもりはない。
要件を確認して、その後、無礼をされた仕返しをすることに決めて、エリカは口を開いた。
すると、男の顔が急に険しくなり、不機嫌さが顔に浮かびあがる。
「まさか、本当に覚えてない? いや、そんな筈はねえな。俺を試しているならやめることだ。俺は試されるのは好きじゃねえ。馬鹿にされている気がするしな」
なにを言っているのだと思った。
試すとか、そんな遊びをお前とするかと思った。
一気に冷静さが消滅していく。
もういい。
「あっそう……。じゃあ、そういうことで」
エリカは立ちあがった。
籠は膝に抱いたままだったが、それをしっかりと持ち直す。
「待てって、エルスラ──。わかったよ。拗ねてんだな。俺だよ、俺。昨夜、この城郭で偶然にお前を見つけてな。それで冒険者のパーティに誘ったやろうと声をかけたんだ。ちょうど俺はソロでな。新しいパートナーを探していた。だから、お前と組んでやろうと考えている。嬉しいだろう?」
男がにやりと微笑みながら言った。
やっぱり、冒険者?
そして、エリカははっとなった。
思い出したのだ。
「サイラス?」
やっぱり、カロリック時代の冒険者としての知り合いだった。
臨時パーティを組んで三回ほど、組んだことがあるだろうか。
もっとも、エリカは、半年ほど
下心満載でエリカに声をかけてくる男も多かったし、いちいち全員覚えていられない。
サイラスは、長くはなかったソロ時代の中で最後の方に連続でパーティを組んだ男だったと思う。
その後、エリカは、アスカ城の傭兵として雇われる仕事を受けてカロリックを離れ、そのままアスカに気に入られて愛人になったのだったが……。
とにかく、あのサイラスだ。
そう思うと、この鼻につく自信満々さは、かすかに記憶にある。
自分が美しいと信じているナルシストであり、忌々しいことにそれなりに腕もある。
確か、ソロで
エリカは興味はなかったが、サイラスを狙っている女は大勢いたはずだ。
そのサイラスがここに?
エリカは唖然とした。
とりあえず、座り直す。
「おう、サイラスだぜ。それで答えは? “はい”か“わかったよ”のどっちだ?」
お道化た口調でサイラスが笑った。
エリカはむっとした。
そういえば、こういう気取った態度が昔も大嫌いだったのだ。
おそらく、いまのも気の利いたことを口にしたつもりなのだろう。
「お断わりよ。じゃあね」
今度こそ立ちあがろうとした。
しかし、サイラスは身体をあげて手を伸ばし、籠を上から押えるようにしてきた。
エリカは椅子に戻された。
さすがにむっとする。
「いいから拗ねるなって。冴えない男と連れの女と一緒なのは知っているぜ。そいつらと袂を分かつ時間くらい待ってやるって。この俺が声をかけてんだぜ。断わる手はないだろう」
サイラスが声をあげて笑った。
エリカは呆れた。
なんでそんな思考になるのかはわからないが、突然に声をかけて、エリカがこいつと仕事を組むことに同意すると信じているのか?
冗談じゃない。
「忙しいのよ。いい加減にしてよ──」
エリカは怒鳴った。
籠の上のサイラスの手を弾く。
今度こそ立ちあがる。
「お前こそ、いい加減にしろよ。パーティを組んでやるって言ってんだろう、エルスラ」
「さっきから、その名で呼ばないでったら──。いまは、エリカよ──」
エリカは大きな声をあげた。
その瞬間、向かい合うサイラスの顔が一瞬曇った。だが、すぐに訝しむような表情が浮かぶ。
エリカは、しまったと思った。
すると、今度は、サイラスはにやりと微笑んだ。
「ほう、もしかして、エルスラという名は隠しているのか? そういえば、髪を切ったんだな。変装のつもりか? なるほど、なるほど、名を変えて、カロリックから、ハロンドールに来たのか……。ここは移民の国だしなあ……。なるほどなあ……。こっちにくりゃあ、人の波に紛れて、隠れることも難しくねえか……。ほうほう……」
微笑んだ顔のままサイラスがエリカの耳元に口を寄せるようにして囁く。
エリカは歯噛みした。
これはまずい。
逃亡していことを悟られたか……。
アスカから逃亡していることまではわかりようもないが、この男はナルシストこそ鼻につくが、ひとりで
弱みのようなものを握られれば、なにをどうするか……。
「エルスラと名乗っていたエルフ美女がエリカと名を変えて、ハロンドール王国に移ってきている……。もしかして、これは情報として金になんのかねえ……。だったら、試しに売ってみるかな。カロリックや三公国の情報屋にも、それなりの縁がある。俺としちゃあ、こっちに目的があるわけでない旅の途中だし、向こうでこっちで得た情報を売るのもいいかもな。もしかして、買う相手がいるかもだしなあ」
サイラスがエリカを視姦するように全身を眺めてくる。
エリカは腹が煮え返った。
同時に、面倒なことになったと思った。
ひと言口走ったばかりに、この男に弱みを握られたかもしれない。
アスカがエリカたちを探しているのは間違いないと思う。
あれだけのことをしたのだ。
探すとすれば、もともと、アスカの手の者がエリカに声をかけてきたカロリック公国など、一番最初に探すだろう。
そこにある情報屋に、エリカとロウの情報を持っていかれたら、あのアスカがハロンドールに逃亡してきたエリカたちの足取りを見つけてしまう。
これは、本当にまずい……。
「やっぱり、それは困るみたいだな……。だったら、座れよ。話くらいはしようぜ。それとも、このまま別れるか? そうなれば、俺はどこで、なにを喋んのかわからないけどな」
サイラスが椅子に座り直した。
エリカは迷ったが、結局、もう一度椅子に座り直す。
この男をこのまま立ち去らせることだけはできないのだ。
「なにが望みよ……?」
エリカは仕方なく言った。
話などしたくはないのだが……。
「さっき言ったぜ。俺とパーティを組め。お前がカロリックに戻るのは都合が悪いというなら、俺もこっちを拠点にしてやろう。もともと、ここしばらくは、ここを拠点にしてたんだ」
「わたしは、すでにパーティを組んでいるわ。まだ登録はしてないけど、王都に到着したら……」
「あの弱そうな男だろう? よくわからんが、やめとけよ。それとも、俺が話をつけてやろうか?」
「ロウ様に手を出すんじゃないわよ──」
エリカは激昂して机を叩いて叫んだ。
すると、またもやサイラスが不敵に微笑んだ。
「なるほど、なるほど……。あの男はロウ……。王都で冒険者登録するんだな? そりゃあ、情報として売れんのかねえ。お前たちを探している者がいるんなら、情報に値段がつくかもなあ……」
エリカは歯噛みした。
わざと怒らされたのだと悟った。
それで、またもや、余計なことを喋ってしまった。
背に汗が流れる……。
「あんたとなんか、一緒に行くわけないわよ。たったいま会って、あり得ないわ。そのくらいわかるでしょう?」
仕方なくエリカは言った。
この男とまともに話をするのはなんだか悔しいが、納得をさせて追い払うのが一番いいのかもしれない。
「だったら、会ったばかりでなければいいのか? ならば、ちょっと付き合えよ。久しぶりの再会を記念して親睦を深めようぜ」
「親睦?」
「デートしようと言っているんだ。その籠の中は食事だろう? それは部屋に置いていけ。お前は俺としばらくデートする。旨いものを喰わせてやる。俺は、そのデートでお前を口説き、パーティを組むことを同意させる。時間は夕方までいい。それでお前が同意しなければ、すっぱりと諦めてやろう」
「デート?」
冗談じゃないと思ったが、それで諦めるなら簡単かもしれないと思った。
夕方まで我慢すれば、こいつはどこかに行ってしまうのだ。
時間をかけたところで、口説き落とされる可能性は微塵もないのだから、ほんの少しのあいだ、我慢すればそれで済むのかも……。
「ああ、そうだ。俺がお前を口説き、お前はその時間を俺に与える。それでいい。お前が口説けなくても、口説けても、俺は情報屋にはネタは売らない」
「約束する?」
「魔道の契約をしてもいいぜ」
サイラスは言った。
エリカもサイラスも魔道を遣える。
魔道遣い同士は、魔道を介した契約行為が可能だ。
破ることのできない誓約を交わすこともできる。
エリカは決断した。
「時間は四ノス──。その時間、あんたと一緒にいる。その結果に関わらず、あんたは、わたしとここで会ったことを他で口にしない……。魔道契約よ」
エリカは術式を机に刻む。
サイラスが術式を重ねて、魔道契約が成立した。
「よし、これで成立だな」
サイラスが微笑んだ。
この笑顔が気に入らない。
最後には絶対に、こいつの顔に拳をめり込ませてやると決めた。
すべては、契約が成立してからだ。
誓約を交わした以上、交換条件の四ノスの時間をこいつと過ごしさえすれば、こいつは誰にもなにも喋れない。
殴るのはそれが終わってからだ。
いや、いっそのこと殺してしまうのがいいか?
だったら、どこか人気のない場所に行くのが都合がいいが……。
「とりあえず、仲間に断ってくる。あんたは外で待って」
エリカは言った
ロウとコゼには、昔の仲間に会ったからちょっと会ってくるとだけ説明しよう。
相手が男などということは絶対に知られたくないから、女友達ということにするつもりだ。
ほかの男とのデートを承知したなど、どんな理由があっても、ロウに言えるわけがない。
だから、サイラスには、先に外で待つように言ったのだ。
「約束を破るなよ。ひとりで来い。俺はお喋りじゃないが、約束を破られると、口が軽くなるかもしれん」
「いいから、外に出てなさい」
エリカは籠を持って、三階に向かって階段をあがっていった。
ロウに嘘をつかなければならない憂鬱を抱えながら……。
*
新年あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願します。