【2025.9.5コミック発売】異世界で淫魔師ハレム【完結】 作:ドン・ドナシアン
目の前にあるのは、「香り草入り兎肉シチュー」、「バターつきホットケーキ」、「イチゴジャムのパイ」、「チーズ入りのサラダ」……。とにかく、そういう料理がテーブルいっぱいに置かれている。
いずれも手の込んでいる上品で綺麗な盛りつけの料理だ。
味も美味だった。
また、飲み物は、果実入りの蒸留水だ。
これもまた、よく冷やされていて、魔道によって冷却された高価なものだとわかる。
口惜しいけど、こっちも美味しい。
サイラスに連れられてやって来た料理店だ。
しかも、周りにほかの客がいるような場所ではなく、壁に囲まれた個室である。
調度品も豪華であり、明らかに高価なものだとわかる。
エリカは、ここでサイラスとふたりきりで食事をしている。
ずっと野宿やそれに近い旅をしてきたロウやエリカとは、縁のないような豪華な場所と食事だ。
とにかく、四ノスのあいだ、サイラスと一緒にいれば、エリカがかつて、カロリック公国を中心としてやっていたとき、冒険者として、“エルスラ”を名乗っていたことを秘密にする……。
そういう魔道契約を結んで、仕方なく一緒に過ごすことを決めたのだが、こうやって、ロウとも行ったことのないような場所に訪れるなど、罪悪感が半端ない。
エリカにとって不本意なのは、こんな状況で、味なんかしないと思いたいのだが、やはり、美味しいものは美味しいと感じることだ。
それが、本当に申し訳ないと思う。
なにしろ、ここに来る前に、エリカがコゼとロウに渡した籠入りの食事など、いま口にしている料理代の二十分の一にもならないだろう。
しかも、こんな男とふたりきりで……。
「どうした? 食が進んでいないか? だったら全部交換させる。ここは、俺の息のかかった店でな。クエストで面倒を見たこともある。それに、俺くらい特別になれば、ほかの客の料理を差しとめてでも、融通を効かせられる。肉料理よりも、魚かなにかがよかったか?」
「結構よ……」
エリカは言った。
確かに、食事のほとんどの皿は、それぞれの半分も口にしていない。
考えていたのは、女友達と会うと嘘をついて別れてきたロウのことばかりであり、そのことをずっと後悔しているのだ。
あのときには、あのアスカにエリカたちの逃亡先を知られないために、やむを得ないことだと思って、サイラスの条件を飲んでしまったが、よく考えれば、正直に、ロウに打ち明ければよかった。
また、ロウには、エリカが男とふたりきりで過ごすことを知られたくなかったので騙してしまったが、せめてそれについては、正直に打ち明ければよかったかもしれない。
サイラスが秘密を守る条件は、エリカと四ノスを一緒にすごすというだけのことだったから、宿屋の食堂でもよかったのだが、ロウに見られたくなかったから、サイラスの連れてくる場所までやって来た。
まさか、こんな高級料理店で食事をすることになるとも思わなかった。
これでは、まるで男女で逢引きをしているみたいではないか……。
本当に、ロウに知られたらどうしよう……。
エリカは、本当に後悔していた。
そもそも、なぜ四ノスと口にしてしまったのか……。
一ノスくらいにすればよかった。
おそらく、残りはまだ三ノスはあるだろう。
いずれにしても、なんでもいいから、サイラスと一緒に、四ノスを一緒にいなければ、あのときの魔道契約は成立しない……。
「だったら、遠慮はしないことだ。あの男程度の稼ぎでは、こういう店に来ることは不可能と思うぞ。だが、俺のような
サイラスが再び喋り始める。
一体全体、この男は何度“特別”と自分のことをいうのだろうと思った。
自慢話……。
誰かの揶揄話……。
そして、エリカへの口説き言葉……。
ずっと、この繰り返しだ。
本当に嫌になる。
どういう了見なのかはわからないが、この男がエリカをパーティに誘おうとしているのは確実のようだ。
しかも、どうも、エリカに女を感じているらしい。
エリカには完璧にその気はないが、どうやら、こいつは四ノスあれば、エリカを口説き落とせると思っている気配でもある。
とにかく我慢するしかない。
エリカは、いまは、この男の喋る話を聞くふりをしながら、飲み物ばかりを飲んでいた。
ほとんど相槌すら打っていない。
ああ、早く四ノス経たないか……。
そうしたら、すぐに戻って……。
ロウに……。
「……じゃあ、そうと決まったら、食事の後で買い物に行こう。再会を祝す贈り物の希望はあるか? 宝石とかか? あるいは髪飾りのような細工物がいいか? 俺くらいの冒険者であれば、好きなものを買ってやれるぞ」
サイラスの嬉しそうな笑い声が響く。
「えっ?」
話を耳にしていなかったので、エリカははっとした。
もしかして、適当な返事をしているうちに、贈り物を受け入れるという話になった?
とにかく、冗談じゃない。
「ま、待って、なにも必要ないわ──。さっきからはっきり言っているけど、あんたとパーティを組むつもりはないの。いい加減にしてよ──」
エリカは声をあげた。
だが、サイラスはなぜか驚いたような顔になった。
「おいおい、俺が誘ってやっているんだぞ。しかも、こうやって、ふたりきりの時間をすごすことに同意したということは、あの男にも見切りをつけたということだろう。俺はお前が浮気をしたことは許してやると言っている。俺も、再会をする前までのことをどうこう言うことはないしな。俺も、散々に、ほかの女と付き合っていた」
しかし、すぐに、サイラスは笑い声をあげた。
エリカは腹が煮えるのを耐えた。
本当に話が通じない。
実のところ、サイラスとともにここに来たとき、すぐにロウと男女の関係であることを教えた。
こいつが、エリカに女としての興味を持っていることがわかったからだ。
だが、それに対するこの男の言葉は、“許してやるから、心配するな”だった。
こいつに許してもらうことなどなにもないが、さらに、これは、ほとんど知らないはずのロウのことを蔑みはじめたのだ。
自分の自慢話をしながらだ。
激昂して殴りたかったが、残念ながら、おそらく、エリカでは一対一でサイラスには歯が立たないと思う。
だから、我慢している。
とにかく、四ノスだ……。
「あんたが誰と付き合おうが知ったことじゃないわよ。それに、同じことを何度も繰り返させないで──。わたしは、彼と一緒に行くの。旅の途中なの──。わたしとまったく関係のないあんたと、どうして、パーティを組まないとならないのよ──」
「もしかして、パーティを鞍替えすることに罪悪感を覚えているのか? しかし、実力のある者が、有利な条件で誘われたパーティに移動することは当然のことだ。ましてや、俺が誘っているんだからな」
「話のわからない男ねえ──。わたしは、ロウ様が好きなの──。彼はあんたなんかよりも、ずっと頭がよくて、頼りになる。そりゃあ、強くはないけど……。だけど、勇気もあるし……」
エリカは怒鳴った。
しかし、あの褐色エルフの里のことや、国境警備隊で闇奴隷をしていた商人からエリカを助けてくれたことを思わず口走りそうになって、慌てて口を閉じる。
「話なら俺がつけてやると言っているだろう。心配するな。お前はなにも考えるな。ただ、自分の本当の心に従えばいい」
「ロウ様に手を出したら殺すわよ……」
「いいから、心に従え……。お前は俺と一緒に行きたがっている……。無理をするな……」
「従っているわよ──。あんたとは一緒に行かない。彼らと一緒に行く──。以上──。この話は終わり」
「こいつ、照れてるのか?」
サイラスが片手で軽く前髪を払いながら、流し目のような表情をした。
もしかしたら、こいつのこういう仕草だけで、うっとりとなる女も多いのかもしれないけど、エリカはそもそも男が嫌いだ。
そのエリカが見初めた男はロウだけだ。
本当に腹が立つ。
そもそも、エリカを落とせると考えているだけでも屈辱だ。
「照れてない……。はっきりと言うけど、あんたのことは気持ち悪い……」
エリカは言った。
サイラスが驚いたように、目を丸くしたのがわかった。
そのときだった。
個室の扉が開いて、数名の給仕が入ってきた。
すでに、エリカは食事の皿には手を出すのをやめている。一方でサイラスの前の皿はほとんどが空だ。
「さげろ──。じゃあ、エリカ、どこにも行きたくないというなら、酒でも口にしてくれ。それくらいはいいのだろう?」
サイラスはそれだけを言うと、エリカの返事も聞かずに、給仕に指示をする。
酒……?
エリカは眉をひそめた。
実のところ、酒はあまり口にしたことはない。
一度、アスカと一緒に飲んだことはあるのだが、そのときに、アスカにもう酒は飲むなと言われたことがあるのだ。
そんなに酔ったという記憶もないが、そのときの記憶もないので、ずっとそれに従っていた。
いずれにしても、酒などとんでもない。
エリカは首を横に振った。
「酒は飲まないの……。これでいいわ。あんたは勝手にどうぞ」
エリカは口を挟んだ。
すると、サイラスが優雅そうに軽く肩をすくめる。
「じゃあ、勝手にやらせてもらう。だったら、木苺の焼き菓子を準備させている。それで相手をしてくれ」
サイラスが給仕に指示を加えた。
エリカはちょっと驚いた。
木苺の焼き菓子は、エリカの好物だったのだ。
食べ物の好き嫌いはあまりしないし、自分のことを滅多には他人に言わないのだが、かつてのエリカは、この男に好きな食べ物のことなど語ったのだろうか……。
まあ、食べさせてくれるというなら、食べたいか……。
確かに好物だし……。
「喜んでくれるようだな……。おい、すぐに持ってこい──」
サイラスが給仕たちに怒鳴った。
すでに、テーブルの上はほとんど片付けられている。
給仕たちが出ていく。
「よ、喜んでなんか……」
エリカは言った。
だが、サイラスが苦笑するような表情を浮かべた。
「相変わらずだな……。嘘が下手だ……」
サイラスがエリカに微笑む。
エリカは嫌悪感にぞっとする。
それにしても、嘘が下手……?
なぜか、ちょっと気になった。
そして、すぐに、さっきと同じ男性の給仕が入ってくる。
エリカの前に、黄色い美味しそうな焼き菓子が並べられる。木苺だけでなく、多くの食材が使われたたくさんの種類がある菓子皿のタワーだ。
食器は不思議な形状であり、小さな皿が枝のように見える部分に分かれて、ツリー状になっている。そこに、色とりどりの焼き菓子がそれぞれの皿に置かれている。
飲み物も入れ替えられた。
「わああっ」
エリカは思わず声をあげた。
とても、おいしそうだったからだ。
「さあ、食べてくれ、エリカ……。俺たちの友情の印だ……」
サイラスの前には、酒の杯が置かれている。
小さく切ったチーズとクラッカーのような食べ物もだ。
いずれににしても、エリカはサイラスの前で、感情を露わにしたことを恥じた。
「あ、あんたと友情なんてないわよ……。本当にしつこいわねえ……」
エリカは目の前の菓子のひとつをとって口にする。
だが、びっくりするくらいに美味しい……。
口に中で溶けるようになくなった。
なんだ、これ……?
次の菓子を手に取る。
こっちも美味しい……。
エリカは驚いてしまった。
そして、我を忘れた。
気がつくと、あっという間にたくさんの菓子を口にしていた。
でも、美味しい……。
エリカは、飲み物で口の中を湿らした。
これも信じられないくらいに美味しい……。
「お、美味しいわ──」
思わず声をあげてしまった。
そして、次の菓子に手を伸ばそうとする。
だが、なぜか目の前の景色が揺らいだ……。
さらに、身体に衝撃が走った。
毒……?
唖然とした。
しまった……。
薬を盛られた……?
こんな単純な手に……。
エリカは椅子から崩れ落ちていた。
身体が脱力している。
まったく、力が入らない。
「な、なに……こ、これ……」
エリカは床に崩れ落ちている。
ロウの命令ではいているスカートが丈が短くて、倒れたときに太腿の近くまでめくりあがってしまっていたが、それを手を伸ばして直そうとするが、手もまったく動かない。
また、全身の弛緩だけでなく、かっと全身が熱くなった。
股間が疼く……。
胸も……。
もしかして、媚薬……?
エリカはぞっとした。
「よく利くようだ。まあ、観念するんだな。こんなことはしたくはなかったが、素直にならないお前が悪い。俺はどんなことをしても欲しいものは手に入れる主義でな。媚薬を盛らせてもらった。まあ、俺に抱かれれば忘れられなくなる。心配するな」
サイラスが立ちあがって、近づくのがわかった。
エリカは恐怖した。
魔道を……。
しかし、あまりの身体の疼きのために、魔道を発動できない。
いや、発動したとしても、A級冒険者のサイラスには、簡単に無効にできるかも……。
熱い……。
疼く……。
媚薬と言った?
愕然とした。
なんという強烈な媚薬だ……。
エリカは逃げようと、四肢を突っ張らせた。
しかし、さらにスカートがめくれただけで、倒れた床の位置からほとんど動くことができない。
下着が露わになっている。
なにもできない。
また、乳房が痛い。
股間も……。
ぴーんと尖った先端にかけて、熱いもので痺れている。
股間に強い掻痒感が沸き起こる……。
助けを……。
だが、いつの間にか給仕もいない。
サイラスのふたりきりだ。
すると、突然に扉が開いた。
給仕?
だが視界が曲がっていて、誰が入ってきたのかわからない。
「おい、ここには誰も入れるなと言っただろう──。いや、お前は、誰だ──」
すると、サイラスの激昂した叫び声が部屋に響いた。