【2025.9.5コミック発売】異世界で淫魔師ハレム【完結】 作:ドン・ドナシアン
562 賊徒の襲撃【ドピィ】
「あぐうっ、んぐうううう」
シャロンの身体がびくりと跳ねた。
女の
シャロンは、穴の開いた球体型の緘口具に塞がれている口から悲鳴を迸らせた。
四肢を拡げて寝台に拘束され、こうやって乳首とクリトリスの根元を縛られて放置されたのは、もう数ノス前のことだ。
この男は、侯爵家の屋敷を襲撃して守備兵や家人たちを無力化してしまうと、最初に侯爵夫人であるシャロンのところにやってきて、家人たちを追い出した。
そして、ひとりになったシャロンを剣で脅して、一糸まとわぬ素裸にさせると、大きなテーブルにシャロンを拘束し、さらに乳首と局部の糸吊りという残酷な処置を施したのだ。
シャロンの弁明も哀願も、まったく無視した。
そもそも、シャロンが喋ることさえ許さなかった。
それどころか、名前を呼び掛けただけで、怒り狂った表情になって、シャロンの口に緘口具を詰め込んだのだ。
意味のある言葉を口にするのを封じるために……。
襲撃に成功したばかりのドピィには、まだまだ部下たちに与えなければならない指示が多くあったのだろう。
彼は、こうやって無惨な格好をシャロンに強いたことで満足し、すぐに部屋を出ていった。
侯爵夫人のシャロンはただひとり部屋に残された。
そして、数ノス……。
シャロンを見張る者はいない。ただ部屋の外の廊下にはいる。
しかし、彼らが部屋に入ることは禁止したみたいだ。もしも、シャロンをただの一瞥でもすれば、最も残酷なやり方で処刑してやると、ドピィが部下を脅す声が部屋に中にも聞こえていた。
とにかく、ドピィはシャロンの裸体を自分以外に見せるつもりだけはないようだ。
それだけは、シャロンは安堵した。
そして、戻ってきたドピィが、残酷な糸吊りですでに精魂尽きているシャロンが縛られている台に近づくと、酷薄な表情を浮かべたまま、たったいま、局部を吊り上げている糸を軽く弾いたというわけだ。
「あぐうっ、んぐうううう」
シャロンは泣きじゃくった。
この男が、自分を憎んでいることは知っている。
もしかしたら、シャロンに復讐するために、徒党を組んで侯爵家を襲ったのかもしれない。
シャロンは、この男の執着をずっと昔から知っていた。
「これを外して欲しいか、雌犬……?」
部屋はふたりきりだ。
屋敷の中も、領地全体の状況も不明だ。
賊徒の討伐のために野戦に出たはずの、夫たちの率いる領軍がどこでどうなっているかもわからない。
ただ、気がつくと、領都にあたるこの城郭は賊徒団に襲撃されており、城郭のあちこちで略奪が始まっていた。
シャロンがわかっているのはそれだけだ。
領主である侯爵家の屋敷にも賊徒が殺到し、あっという間に占拠された。
シャロンなど、一番最初に、この賊徒の頭領の獲物として捕らわれてしまった。
「んぐううう」
シャロンは激しく首を横に振って、ドピィに哀願の表情を向ける。
しかし、ドピィはぐいと糸を引っ張って、新たな悲鳴をシャロンの口から引き出した。
そのドピィが手を伸ばして、シャロンから緘口具を取り外す。
大量の涎とともに、球体が口から取り出された。
「も、もう、ゆ、許してくださいまし……。こ、こんな残酷なことしなくても、あ、あなたには逆らいませんから……」
シャロンは必死で言った。
すると、ドピィがまたもや糸に指を掛けて揺する。
「ひぎいい、いたいいいいっ、んぎいいいっ」
「よく泣く雌だ……。だが、泣くのは早い……。嫌でもお前は、俺に泣かされる。なにしろ、侯爵夫人には、俺の子を産んでもらわないとならないからな。教えてやるが、お前の夫が率いていた軍は俺が壊滅させた。いずれは王軍がやってくるかもしれないが、いまは王都はそれどころではないしな。一箇月か……二箇月でいい……。お前が俺の子を孕むには十分な時間だ……」
三本の釣り糸が順番に弾かれる。
きーんという激痛が走り、シャロンは思わず身体を弓なりに反らせた。
両方の乳首、女の蕾……、それを限界まで糸吊りをされて、その糸を弾かれる仕打ちには、さすがにシャロンも泣き叫ぶことしかできない。
そして、もうひとつ、シャロンを追い詰めているものがある。
実は、三十歳に近いシャロンの身体は、この残酷な行為によって、激しい疼きを覚えていた。
開かされている局部から、見えなくてもはっきりと自覚できるほどの愛液が流れ出ているのがシャロンにはわかっている。
「どうやら、身体はもう堕ちたようだな。賊徒に拷問され、さらに強姦されようとしているのに愛液を垂れ流すのか……。だが、まだ犯さん……。俺はお前の心からの哀願が欲しい……。だから、お前が完全に屈服するまでこのままだ……」
ドピィは今度は一転して、吊り上げられているクリトリスを揉むようにいじりだす。
「ひいいっ、や、やめてええ、気が、気が変になるうう──。こ、こんなことしなくても……、わ、わたしは、あなたに……」
「あなたになんだ?」
ドピィは吊り上げられているクリトリスをちょっと強目にくりくりと擦り回す。
「きゃああん、お、おかしくなります──。と、とにかく、話をきいてえええ……」
シャロンは叫んだ。
とにかく、なにがどうなっているかもわからない程の半狂乱の状態になっている。
身体の中で最も敏感な場所を吊られて、こすり、しごかれるのだから堪らない。
「いやあああ、助けてえ、ルーベン──」
シャロンは絶叫した。
*
覚えてはいないのだが、わたし……シャロン=ベルフがルーベン=クラレンスに求婚をしたのは、出逢った当日のことだそうだ。
もっとも、それは、ふたりが四歳のときであり、ベルフ伯爵家と隣接するクラレンス子爵家のあいだで交わされた政略に伴う婚約のための顔合わせのことであるらしい。
両家とも実子は、それぞれの娘と息子しかおらず、わたしとルーベンの代で領地をまとめて領地貴族としての力の向上を図るのが目的だったようだ。
見合いといっても、たった四歳の子供だ。
親に連れられて、格上である伯爵家で出会いの場を作られ、お互いの親の視線のもとで、ふたりで一緒に遊んだだけのことである。
しかし、おそらく、わたしは年齢のわりにはませた子供だったに違いない。
両親が、いつもと違ってわたしを可愛く着飾らせたり、屋敷中が慌ただしくしていた理由を少しはわかっていたのだと思う。
だから、おっとりとやって来たちょっと抜けている雰囲気の男の子に、「結婚をしてあげる」という意味のことを喋ったみたいだ。
こうやって、わたしは、彼と婚約することになった。
わたしたちの国であるハロンドール王国の王妃であるアネルザ様の懐妊の慶事の発表と重ねるように、わたしたちの婚約が整えられた。
もう二十数年前のことになる。
そして、無事に婚約をしたわたしたちは、領土が近かったということもあり、繰り返して交流を深めていくことになる。
おそらく、家族以外に……いや、家族を含めて、もっとも親しい関係だったと思う。
婚約後二年もすぎると、家庭教師を招いた勉強も始まったが、それを一緒に受けるということになり、十日のうちの三日は、いずれかの領地で会うということを継続した。
夫となる予定のルーベンは当然だが、わたしもまた、場合によっては女領主としての地位を期待される可能性もあったからだ。
そして、その教育の中で、わたしは様々なことを学んでいった。
また、そういう学習が続くと、わたしにもこの国の置かれている状況というものも少しずつわかるようになっていった。
つまりは、わたしたちが政略による婚姻を結んだ頃のハロンドール王国は、必ずしも恵まれた時期とはいえなかったらしい。
幼児だったわたしには知るべくもないが、当時は強引な中央集権施策を続ける前々王一派と、領地貴族としての独立性を保ちたい貴族連合による内乱がようやく落ち着いたばかりの時代であり、つまるところ、王族も大貴族たちも疲弊をしていた時代であったようだ。
力のある大貴族は粛清されるか、爵位と領地を格下げされて軒並み力を失い、一方で王家もまた著しく勢いを失い、数多くあった王族たちは地位を追われ、気がつくと王家として残るのは、国王家のほかには、領地のないふたつの公爵家だけになっていた。
ただ、それこそが、治政の安定を望む前々王の望むかたちだったのだそうだ。
王族とはいえ、嫡流でなければ、王家の力を阻害する大貴族のひとつでしかない。
だから、王族もまた前々王による粛清の対象だったのだ。
前々王の狙いは、ハロンドール王国を国王を中心とする集権体制を作ることであり、その手段のために、例外のなく大貴族たちの弱体化を図ったのだ。
そして、その後に新たな態勢を作り直す──。
前々王にはそれだけの能力と気概があった……。
もしも前々王の寿命がもう十年も続けば、このハロンドール王国はいまとはまったく違う状況になっていた。
まあ、偉そうなことを語るが、これはわたしを教えてくれた家庭教師の受け入りだ。
彼は、あの内乱時代に家名を断絶させられた旧貴族のひとりであり、いまでも思い出すが、大層な皮肉屋だった。
領地にやってきた隊商の娘と恋に落ちて、ふらりと去ってしまったが今頃どうしているのだろう?
とにかく、その家庭教師の言葉によれば、前々王はこの国を乱すだけ乱し、王家と貴族家の両方を共倒れのように疲弊させた状況で、病に倒れてしまった。
高位魔道でも回復不可能な死病に倒れた前々王は、自分の死期を察して、慌てて、孫のルードルフ王子と領地貴族第一のマルエダ辺境候の婚姻を整えることになる。
自分がいなくなったことで、力を削ぎ過ぎてしまった王家の親族の代替えとなる後ろ盾として、マルエダ辺境候を選んだのだ。
マルエダ辺境候は、西にローム三公国、北にエルニア魔道王国と面する国境警備の要である。
さずがの前々王も、その国の防衛の柱である辺境候の力を削ぐわけにもいかず、マルエダ家は内乱の混乱とは無縁であり続けた。
代々のマルエダ家が王家に忠実であり、中央政治に無関心でほかの貴族たちとの繋がりが希薄であったということもあるのだろう。
多くの大貴族が軒並み力を失った結果、気がつくとマルエダ辺境候家は、王家を除く貴族第一等になっていたというわけだ。
そのマルエダ家の長女アネルザ様を王太子妃に迎えることになり、前々王が政務ができなくなるほどに病気が進行したことで、急遽、次代の王となるルードルフの父親のロタール王太子の国王戴冠式とルードルフ王子とアネルザ嬢の婚姻式が行われた。
前々王が崩御したのは、ルードルフとアネルザの婚姻式の十日後だった。
そして、そのほぼ一年後、アネルザ王妃が第一子の王女を生んだというわけだ。さらに、同じ年に第二王女でアン様とは異母妹になるエルザ様もお生まれになった。
つまりは、それが、ルーベンとわたしの婚姻式の年ということである。
しかし、賢王と期待されたロタール王の治世は二年しかなく、世はルードルフ王の治世時代となった。
そういう状況の中でわたしたちの愛は育まれていった。そして、十歳を超える年齢になると、わたしは、はっきりとルーベンへの愛情を感じるようになっていた。
婚約をした四歳の頃は、ルーベンよりも早熟だったと思うわたしだったが、十歳になっても、それは変わらなかったと思う。
ルーベンは、どちらかというと朴訥であり、頭の回転が速いというタイプではなく、またあまり感情が表に出ない少年だった。
それ比べれば、わたしはお喋りであり、人当たりがよく、勉強についてもわたしの方がずっと成績がよかったので、両家はルーベンよりも、わたしを女伯爵として当主に据えてもいいと考えたみたいだ。
ただ、わたしは知っていた。
ルーベンは鈍いようだけど、思慮深く、なによりも努力家だった。
本を読みのが好きで、喋ってなにかを他人に伝えるのは苦手だが、たとえ、それが家庭教師を満足させるような利発さを感じさせなくても、実はルーベンは頭がいい。
また、これは誰もが認めることだが、剣の腕は抜群だった。
わたしは武芸は嗜まないが、武芸の腕をあげるのは、毎日繰り返して継続する稽古だということは知っている。
ルーベンは努力できる人だ。
剣でも、勉強でも、社交でも……。
ただ、彼は他人よりも遅い。そして、表現が下手……。
しかし、着実に実力を蓄えていく……。
わたしが愛したルーベン=クラレンスというのはそういう少年だった。
ほかの誰よりも、わたしはルーベンという少年のことを知っていたし、なかなか花が開かず、認められることの少ないルーベンの実力をわたしが知っているということがひそかな自慢でもあった。
ルーベンがすごい人だということを他人が知る必要などない。
わたしだけが知っていればいい……。
そう思っていた。
大人の口づけは、わたしの十六歳の誕生日のときに、わたしからルーベンにねだって交わした。
一方でその当時、第一王女のアン様の婚約も決まってもいた。
アン王女のお相手は、キシダインという前々王時代に一度は没落した王族の末裔だそうだ。しかし、ルードルフ王の時代に何度か繰り返された恩赦に伴い権力を復活させた王族のひとりらしい。
それが、王妃アネルザ様に気に入られて、突然に中央権力の中枢にのし上がってきたようだ。
好色で怠情の評価の絶えないルードルフ王に比べれば、やり手で政策通のキシダイン卿は、貴族たちからの評判も高かったことを覚えている。
いずれにしても、慶事に合わせた婚姻ブームに乗り、わたしとルーベンとの結婚式も二年後と定められた。
おそらく、それが幸せの絶頂だったと思う。
だが、わたしたちの未来も、幸福も呆気なく砕け散った。
わたしとルーベンの婚約が解消されたのだ。
それどころか、ルーベンの実家であるクラレンス家は没落した。
わたしとルーベンが十八歳のときであり、予定されていた結婚式の直前のことだった。
いまにして思えば、それは中央で台頭したキシダインという政治家が引き起こした新たな政治闘争のあおりだったらしい。
しかし、当時はまったくの青天の霹靂だった。
もちろん、わたしには訳がわからなかった。
ある日、突然にクラレンス家の取り潰しが決まったと、心痛な表情の父親から知らされただけで、婚約破棄前に、ルーベンと会うこともできなかった。
クラレンス子爵家がなにかの罪を犯したということらしく、わたしが知ったときには、すでにクラレンス家は家人ごと四散した後だった。
わたしは呆然とした。
また、ルーベンとわたしの婚約は存在しなかったことにされて、わたしはキシダイン派に属する派閥のクロイツ侯爵への後妻になることも決まっていた。
わたしよりも、二十も年上の貴族であり、前妻は子ができなかったことから離縁され、若いシャロンに侯爵家の血を残すことを期待されたようだ。
否も応もない。
あまりのことに口を開くこともできなかったわたしは、悲痛な表情の父親から、わたしがその侯爵家に嫁ぐということで、ベルフ伯爵家は存続するのだと諭された。
さもなければ、潰されるのだと……。
わたしはやっとぼんやりとだが状況を理解した。
つまりは、ベルフ家もクラレンス家も、中央政治における派閥からすれば、「国王派」という国王の嫡流に強い忠誠を誓う集団に属していたらしい。
ただ、国王のルードルフ王は、
それに代わって現われたのが、アン王女の婚約者となった後、王妃アネルザ様の強い後押しによって、王都の名をとったハロルド公を名乗ることになったキシダイン卿の派閥であり、どうやらキシダインに与することを良しとしなかった国王派の貴族たちが、次々に生贄として罪を鳴らされて取り潰されているということのようだ。
ルーベンのクラレンス家は呆気なく潰され、キシダインの子飼いの貴族に入れ替えられた。さらに、ベルフ家もまた、同様の憂き目に遭うところだったという。
しかし、キシダイン派である侯爵家にわたしが嫁ぐことで、ベルフ家は生き残ることができるのだということだ。
受け入れるしかなかった……。
そして、ルーベンに再会したのは、急ぎ整えられた侯爵家への輿入れが数日後に迫ったある夜のことだ。
どうやって入ってきたのかわからないが、わたしの寝室に窓から侵入してきたルーベンは、わたしに一緒に逃げようと告げたのだ。
ルーベンはぼろぼろの恰好をしていた。
瞳は憎悪に染まっていて、あれが、あのおっとりしたルーベンなのかと見間違えたほどだ。
だが、ルーベンは真剣だった。
わたしが侯爵家の後妻として嫁ぐことになったことを知っていて、シャロンを幸せにするから、このまま逃亡しようと誘ってきた。
貴族ではなくなったが、冒険者になって必ず身を立てる……。
だから、ふたりで幸せになろうと……。
嬉しかった。
心の底から嬉しかった……。
それができたら、どんなに幸せだろうと想像した。
だが、できない。
わたしひとりのことであれば迷いはしないが、わたしが駆け落ちで失踪してしまえば、キシダイン派に鞍替えすることで存続できることになったベルフ家もまた、消滅する。
それがどんなに理不尽なことであっても、国王のルードルフ王は、代々忠誠を誓う国王派の貴族を守らない……。
わたしが侯爵家に向かわなければ、必ずキシダイン卿という政治家は、国王派だったベルフ家を潰す。
わたしは拒否した。
それどころか、強引に連れ出そうとしたルーベンの手を振りほどくと、悲鳴をあげて侵入者の存在を家人に報せた。
さらに、貴族でなくなったルーベンには用はないくらいは怒鳴った気がする。侯爵家に嫁ぐ以上の幸せをルーベンが与えてくれるはずがないとも……。
ルーベンにも、わたし自身も未練が残らないためにそう叫んだ。
でも、本当はわたしの心が、ずっとルーベンにあることは間違いなかった……。
ルーベンは、わたしが拒否することを予想していなかったのだろう。ましてやルーベンを完全拒否するような罵倒など……。
逃亡する気配さえ見せずに、ルーベンは呆然としていた。
そして、あっという間にルーベンは捕らわれた。
最後まで、信じられないという表情でわたしを見ていた。
それが彼との最後になった。
父親に頼んだのは、ルーベンを殺さないでくれということだ。
一応は、父親はそれを承諾するような言葉は口にした。
しかし、それが聞き入れられたのかどうかはわからない。
ルーベンをどうしたかは、教えてもらえなかった。
数日後、そんな事件などなかったように、予定通りに侯爵家に嫁いだわたしは、侯爵夫人になった。
十年近く前のことだ……。
*
それから、ずっとわたしは侯爵家の屋敷で暮らしている。
クロイツ侯爵家だ。
王国の南部に領土を持ち、領土内に数個の中級の城郭を持つ大貴族である。北域は王領とも接し、一時期はクロイツ侯爵家といえば、領土貴族の五本に入るのではないかという評判も獲得しようとしていた。
侯爵も多忙を極めて、ほとんどの時間を王都で過ごしていたと思う。
クロイツ侯爵は、キシダイン卿の重鎮のひとりだったのだ。
そのあいだに、王国ではそれなりの出来事もあった。
恋多き貴公子の評判で、なかなかに進まなかった第一王女のアン様とキシダイン卿の婚姻が成立したのは、わたしがクロイツ家に嫁いで六年目のことであり、二十六歳のときである。
また、第二王女のエルザ様が、ローム三公国の筆頭公国のタリオ公国の若き大公のアーサーの正妃として嫁いだのも、同じ年のことだ。
ルードルフ王の惰弱ぶりの風評は、ますます大きくなっていて、王都から離れたこのクロイツ領の領民でさえも、無能王とあからさまに侮蔑するようにもなっていた。
一方で、わたしは領地に留まったままであり、静かな時間が過ぎていくだけだった。
結局のところ、一度も王都には行ったこともないし、呼ばれることもなかった。
夫には愛人も多くいたようだが、わたしも含めて、侯爵の子を孕むことはなかった。なによりも、わたしは、この五年はクロイツ侯爵との性行為そのものがない。
しかし、侯爵家にそれどころではない事態が襲ったのだ。
その衝撃とは、侯爵の派閥の領袖のキシダイン卿の突然の失脚だ。
キシダイン派の重鎮だったクロイツ侯爵家だったが、飛ぶ鳥を落とす勢いで権勢を拡大し、次代の国王に間違いないと目されていたキシダイン卿が突然に失脚したのだ。
第三王女であり、第一位の王位継承権を持つイザベラ王女を暗殺しようとして失敗したという。
しかも、流刑のために護送中に雷に当たって死んでしまったのだ。
キシダイン派は一気に瓦解した。
もちろん、クロイツ侯爵家もそのあおりを受けた。
また、クロイツ家に襲った打撃は、キシダイン卿の失脚だけではなかった。
夫人であるわたしには、詳しくは教えられなかったが、クロイツ家がやっていた商取引のほとんどの事業の失敗が重なっていて、短いあいだに多額の損益を出していたようだ。
クロイツ侯爵は必死にその立て直しに翻弄していて、それもあり、ほとんど領地に戻って来なかったのだ。
そして、さらに混沌の状況がやってきた。
王都で大きな騒乱が起こったらしく、王都にいる貴族たちが突然に捕らわれたり、家族を王宮内に連れていかれて人質にされたりされたのだ。
しかも、王都に住む住民に突如として大きな重税がかけられたりして、王都からは脱走者が続発した。
さらに、アネルザ王妃が捕縛されたという報せが届いたり、そのアネルザ王妃の実家のマルエダ辺境候が反ルードルフ王を唱えて、反乱の旗を掲げたりと……。
さらに、今回の事件……。
あっという間のことだった。
クロイツ領で発生した賊徒の叛乱だ。
もともと治安は悪くはなかったが、キシダイン卿の失脚後は、クロイツ領内も相次ぐ商取引の失敗で景気が傾き、大量の失業者が都市部に溢れ始めていた。
治安もだんだんと悪くなっていたことは事実だ……。
そんな状況で、都市部に近い農村で発生した暴乱が短いあいだに拡大して賊徒として膨らみ、幾つかの農村や小都市を呑み込みながら、わたしのいる領都に向かって進軍してきたのである。
賊徒の頭領の名は、ドピィ……。
「愚か者」という意味らしい……。
そのころは、王都を脱出してきたクロイツ卿は、領都に戻って来ていたが、すぐにその対応のために、討伐軍を率いて軍を出発させた。
それが三日前……。
そして、今日……。
城門をあっという間に破った賊徒軍が城郭を略奪し始めた。
この屋敷も襲撃を受けて、頭領のドピィ自らが侯爵夫人であるわたしを虜囚にした……。
*
「いやあああ、助けてえ、ルーベン──」
シャロンは泣き叫んだ。
ドピィと仲間たちから呼ばれていた頭領が部屋にやって来たとき、変り果ててはいたが、それがルーベンだということが、シャロンにはすぐにわかった。
だが、シャロンが「ルーベン」と呼び掛けると、ルーベンは顔を激怒に染めて、その名前で二度と呼ぶ名と怒鳴ったのだ。
自分の名は、
ルーベンという男はすでに死んだのだとも……。
「その名で呼ぶなと言っただろう──」
ドピィ、すなわち、ルーベンが激しく局部と乳首を引っ張っている糸を揺すった。
「ひいいっ、ち、違う──。あ、あなたを受け入れます──。も、もう侯爵家を見捨てても、実家が潰されることもない──。わ、わたしは、あ、あなたと逃げたかったの──。だ、だけど、あのとき、それは許されなかった──。だ、だから──」
「うるさい──。都合のいいことを言うな──。俺はお前に復讐するために……、俺との愛を裏切ったお前を奪うために、ここまできた──。ここにやって来た。お前を孕ませる──。お前を汚した侯爵の首は今頃は獣の餌になっているだろう。その夫人のお前は俺に犯されて、俺の子を産むんだ──」
「わ、わかってます──。ル、ルーベン──後生だから、糸を外して──。なんでもしますからああ」
「やかましい、その名を呼ぶなと何度言えばわかる──」
ルーベンは怒鳴ると、シャロンを拘束している台にあがってきた。
ふと視線を向けると、ズボンから勃起した怒張を露出させている。
さらに、シャロンの腰を下から持ちあげると、前戯もなしに、一気にその怒張をシャロンの股間に貫かせた。
「んはああああっ、ああああああっ、ルーベン──」
あっという間に絶頂が込みあがった。
シャロンは昇天してしまった。
「淫売め──。挿入しただけでいきやがったか──」
ルーベンが憎しみのこもった口調で嘲笑い、さらに激しく抽送を開始した。
*
【クロイツの動乱】
……兇王ルードルフの起こした王都の苛政を発端として発生した王国南部域の賊徒による叛乱のこと。
叛乱がクロイツ侯爵領で最初に勃発したことから、一般に「クロイツの動乱」と称されている。
叛乱は、ドピィと名乗る天才的な軍略家に率いられた賊徒がクロイツ侯爵領内で役所や軍を襲撃し、クロイツ領都を占領したことから始まる。
ついで、さらに南部に駐留していた王軍を撃破することで、賊徒勢力は一時期南部域の一角を支配することになった。
しかしながら、地方王軍が敗れるという事態に際しても、王都の宮廷はルードルフの暴政によって有効な対処をすることができなかった。
それに際して、ノールの離宮に幽閉されていたイザベラ王女と、当時ナタル森林の変異に活躍し、エルフ女王のガドニエルから英雄認定を受けたばかりのロウ=ボルグが……(以下略)。
ボルティモア著『万世大辞典』より
(ここに再録した引用文は、すべてスクルズ記念国際図書館から許可を受けて初版本から抜粋して採録したものである。)