【2025.9.5コミック発売】異世界で淫魔師ハレム【完結】 作:ドン・ドナシアン
少しのあいだ、ルーベン(ドピィ)の物語が続きます。ご了承ください。
なお、彼は本章における「敵役」の予定です。
*
563 盗賊団の首領(その1)
森の中をしばらく進むと、地面が岩肌となり、馬の蹄の痕が消えた。
道らしいものはない。
しかし、トリスタンはあらかじめ教えてもらっていた情報をもとに、同行の魔道師とともに二頭で馬を進ませていった。魔道師はしっかりとフードを被って顔を隠している格好だ。
また、よく見れば、死んだマーリンが残していたメモのとおりに、ところどころの木々や岩に目印のようなものがある。
そして、しばらく進むと、人馬の気配が伝わってくる。
「とまれ──」
突然に声を掛けられた。
若い魔道師が咄嗟に結界を張ったのがわかった。
だが、ぎょっとした。
草の中から覗いているのは黒い筒だ。わずかに火の気配もする。
もしかして、銃か?
武器としては珍しい筒に込めた弾丸を火薬で発射する殺傷具だ。
タリオ軍も所有はしているが、製造は難しく、高価なのでまだまだ数が浸透しているとはいえない。それを一介の盗賊団が保持しているのか?
しかも、見張りに渡すほどに?
いずれにしても、魔道師の結界は、剣や弓は防いでも、銃弾までは突き抜けさせてしまうだろう。
トリスタンはぎょっとした。
「お前ら、どこに行く?」
草むらの中から男がぬっと出てきた。
注意深く、片付けをして構えた長い銃をこっちに向けている。やっぱり、すでに火縄には火が灯っている。
「カーリス様──」
背後で魔道師の狼狽えた声がした。
カーリスというのは、今回のことでトリスタンが使うことにした偽名だ、
振り返ると、後ろにもふたりの盗賊がいて、同じように銃を向けている。また、背後のふたりは中年の女だ。
前にいる男とともに、いかにも盗賊っぽいちぐはぐで汚れた恰好をしているが、銃だけが真新しく黒々と光っている。
また、ふたりの女とも、顔に醜い痣のようなものがある。おそらく、怪我の痕だと思う。
ふと見ると、目の前の男についても左手の指が三本ない。ただ、銃の引き鉄を引く分は問題ないのかもしれないが……。
盗賊の恰好をしているが、もともとは農民だろうと思う。
肌の色や武骨な身体つきは、それを物語っている。
「馬をおりろ」
前の男が舌打ちしながら言った。
トリスタンに対して憎悪のような視線を向けているのがわかる。
逃げようとすれば、すぐに銃で撃たれるだろう。
森の中が罠だらけの気配もする。
「頭領に会いに来た。手紙は送っているはずだがな。カーリスだ」
馬をおりて言った。
前側の男が後ろ側の女のひとりに確かめるような表情になる。
そして、小さく頷く。
「わかっている。頭領から案内するように伝達があった。さもなければ、貴族様なんて、ぶち殺してやるところだ。とにかく、馬はこっちで預かろう」
男が言い終わるとともに、わらわらと十人ほどの男女が出現した。
これだけの人数に囲まれていたなどと、まったく気がつかなかったので、トリスタンはびっくりしてしまった。
馬を奪われる。
魔道師とは引き離されるように、トリスタンだけが前側に残され、魔道師はずっと後ろに追いやられた。そして、盗賊たちの人影に隠れて姿が見えなくなる。
しばらくのあいだ木々を縫うように歩いた。
不意に視界が開けた場所に到着した。
目の前に門衛のような場所があり、木材で作った高い壁が拡がっている。しかも、壁の表面には、おそらく燃焼防止だと思われる黒い塗料が塗ってある。あちこちには、物見の塔も備え付けられていた。
これは、砦だ──。
考えていた以上の立派な砦であり、これにもトリスタンは驚愕していた。
正規の軍隊の砦だといっても通用するだろう。
これを盗賊風情が?
「カーリスという。頭領に会いに来た」
トリスタンは最初と同じことを言った。
門衛が合図をすると、音を立てて大きな木の門が開いていく。
数名で操作しているが重さもありそうだ。
案内人が入れ替わって、屈強そうな女ふたりが前に立った。
今度は欠損はないが、首に逃亡奴隷特有の火傷のような痕がある。奴隷には隷属の首輪を嵌めて逃亡を封じるが、不正な手段で強引に外すと、この女たちのような痕が残ることがあるのだ。
もっとも、大抵の場合は、無理矢理に外そうとすれば死ぬことになる。しかし、逃亡奴隷が存在するということは、この砦には、隷属の首輪を外せるなんらかの手段が存在するということだろう。
砦の中は、たくさんの建物があった。
男が多いが、女も少なくない。老人もいる。かなりの人数だ。畠のような場所まである。
馬も多い。
そして、人が集まっている一角に、ふと視線を向けてぎょっとした。
「あああっ、いやああ」
「ああっ、許してええ」
「んあっ、ああっ」
唖然とした。
裸の女が三人ほど、両手首とともに、大きな板に首を挟まれて中腰に立たされており、十数名の男たちが彼女たちを順番に犯しているのだ。
女たちは泣き叫んでいるが、助けようとしている者はいない。
奥には檻のようなものもあるので、おそらくそこから引き出されたのだと思う。檻は四つあって、三つは空であり、残りのひとつには若い女が入れられている。その檻の中の女も身体を丸めて泣くような仕草をしていた。
首枷で拘束されている女たちの下半身は露出するように、衣服を切り裂かれていて、顔面を含めて、身体のあちこちに男の精液らしき白濁液がかけられていた。
一方で、檻の中のひとりだけは、服を身につけている。
「あれは、なにかの刑罰か?」
思わず、前を歩いている女に言った。
すると、右側の女がそっちを一瞥して鼻を鳴らした。
「あれは、ただの貴族女だ。街道を旅していたのをさらっただけさ。近郊の子爵家の息子の嫁とその娘だ。領主が身代金に応じれば、命は助けて戻される。支払いを拒否すれば、殺して首を街道に晒すことになる。あの領主はどうするのかな?」
女が酷薄に笑った。
トリスタンは唖然とした。
「罪のない貴族の女にあんな仕打ちをしているのか──。なんと、非道な……」
思わずつぶやいた。
すると、今度は左側の女が振り返った。
「ふん、貴族であることが罪だ。この
このハロンドール王国工作にあたり、この王国内で治安悪化を扇動するために、殺された魔道師のマーリンが目をつけていた集団だ。
マーリンは、この密かにこの盗賊団に、武器や軍資金を横流していて、それもあり、この盗賊団は、この数年で一気に勢力を拡大をしていた。
トリスタンは、アーサー大公の指示で、マーリンのやっていたことを引き継ぐために、ここにやってきたのだ。
目的は、盗賊団を焚き付けて、大規模な反乱を起こさせることである。
タリオ公国は、近いうちに大きな軍事行動を考えている。
そのときに、ハロンドール王国に余計な関与をさせないというのもあるが、アーサー大公はゆくゆくは、この大陸全体の統一も考えていて、このハロンドール大国そのものを弱体化させるというのがアーサー大公の狙いでもある。
だが、トリスタンとしては、ここの頭領に会うのは初めてだ。
どんな男なのかと思っていたが、あんなことを許すとは、どうやら、かなりの
まあ、その方が御しやすいが……。
「だが身代金を奪うための人質なのだろう? あんなことをしていいのか」
だが、トリスタンはさらに言った。
盗賊団の砦の中で、彼らを批判するような言葉が危険だとは思うが、どうしても気に入らなかったのだ。
そもそも、平民の彼らが貴族をあんな風に扱うとは……。
トリスタンは舌打ちしたくなった。
「さっきも言ったぞ。ここでは貴族というのは、なにをしてもいい最下層の存在ということになっている。身代金を奪うための人質ではあるけど、食い扶持はもらわないならないしね。あの母子と侍女には、男の相手をさせることで食事代に使える銅貨が与えられるというわけだ。一回、銅貨一枚だけどね」
女が笑った。
なるほど、よく見れば首枷の下に平たい皿があり、それぞれの皿には、数枚の銅貨が放り込んである。
だが、銅貨というのは、十枚ほどあって、やっと小さなパンが買えるほどものでしかない。
一回の食事代を集めるには、何回男たちに犯されないとならないのか。
「あそこにいる四人とも貴族なのか?」
「いや、左のふたりが領主の息子の嫁と娘だ。右は侍女だな。侍女も男爵家の出だというので同じ仕打ちにさせている。檻にいるのは侍女ではあるが平民だ。領主が母娘の身代金を払えば一緒に戻されるが、平民の食事代はここでは無料なので、働く必要はない。だから、檻にいる」
貴族だから残酷に扱うということか……。
だが、ここの頭領は元はと言えば、確か……。
「それは頭領の指示か?」
「そうだ。うちの頭領は貴族嫌いだしね」
女が笑った。
トリスタンは鼻白んだ。
「同じ女が強姦されているのに平気なのか?」
我慢できなくて、トリスタンは言った。
すると、案内をしていたふたりの女が立ち止まって振り返った。
トリスタンを憎々し気に睨む。
「それまでにすることだ。ドピィ様のご命令があるので手は出さないが、命が惜しければ口を慎むことだ。さっきも言ったが、ここでは貴族であることが罪だ。お前も貴族だろう。その綺麗な肌や整えられている髪を見ればわかる。周囲を見回してみろ。お前を殺したくてたまらない者が大勢ここにはいるぞ」
右側の女が言った。
トリスタンは改めて周りを見た。
いつの間にか、トリスタンと女たちのやり取りは注目を浴びていたみたいだ。
ぎらぎらとした視線がこっちに集まっている。
トリスタンはぞっとした。
すると、もうひとりの女が口を開いた。
「そうそう、貴族女が強姦されていることが平気かと訊ねたね。平気さ。あの女の父親の領主はろくでなしだからね。あたしはそこから逃亡してきた奴隷さ。あんなんよりも、もっとひどい目に遭ったね。女として使い物にならなくされた。妹もいたけど、その領主に犯されて自殺した。婚約者もいたのにね……。そして、あたしは、あたしの妹がその領主の屋敷で自殺した罰として、奴隷にされた……。そんな奴の家族が残酷な目に遭うのは当り前さ。あれでもぬるいくらいだ」
トリスタンは絶句してしまった。
すると、女たちは再び前に歩き出す。
トリスタンは今度は無言のまま進んだ。
やがて、少し大きめの建物の前に着いた。
見張りのような者はいない。
ここが頭領のドピィの住まいなのだろうか?
入るように促されたので、トリスタンは思い出して振り返った。
「そうだ、連れを……」
そのときには、すでに同行の魔道師が後ろから連れてこられていた。
だが、両手首に腕輪を嵌められている。
魔道封じの腕輪だ。
「すみません、カーリス様……。この砦の中ではこれを嵌めるように言われて」
魔道師が申し訳なさそうに言った。
こいつの役割は、この盗賊団の砦の中でトリスタンの命を守ることもある。あっという間に無力化されたことで意気消沈している。
だが、トリスタンとしても、盗賊団風情で銃を何丁も所有しているというのは予想していなかった。
少なくともマーリンの遺したものには、そんな記録はなかった。
「仕方ないさ。しかし、もうひとつの役割は果たせ……」
トリスタンは言った。
フード越しだが、魔導師が蒼くなるのがわかる。
室内に入った。
またもや、後ろの見張りが別の男に入れ替わっていた。こいつも銃を持っている。
一体全体、ここには何丁の銃があるのだ?
室内を進む。今度は案内人はいない。
どちらに進めばいいかは、背後の男が指示をしていく。
広間のような場所に着いた。
椅子のようなものはなく、床に敷き詰めた絨毯の上に、男が胡坐をかいて座っていた。
長い黒髪をしていて、顔の一部に火傷のような傷もある。
また、その男の両側にはふたりの屈強そうな戦士がいた。ひとりは男で、ひとりは女……。
ふたりとも顔に傷がある。
「ノーブルの新しい部下だというカーリス殿だね?」
座っている男が言った。
ノーブルというのは、マーリンが使っていた偽名だ。
マーリンが死んだということは、送った手紙では伏せている。ただ、マーリンについても直接に盗賊団にやり取りしたことは少ない。ほとんどを伝言者を通じてた。
トリスタンも、直接に、この砦に乗り込むことは躊躇したが、やはり、このドピィという男が利用できる男なのかどうかを見極めたいと思って、直接に会うことにした。
トリスタンについては、これまでやりとりとしていたノーブルに関わるカーリスという者と伝えてある。
「そうだ。座っても?」
「好きなように。俺が頭領のドピィだ」
ぎらぎらとした目つきだ。
微笑んではいるが、ぞっとするような憎悪のようなものが顔に滲み出ている気がした。
こいつがドピィか……。
マーリンが遺したものによれば、かなり使える男という評価だった。
まあ、これだけの砦を維持するのであるから、その評価は正しいのだろう。
しかし、さっきの広場で見た貴族女たちへの仕打ちは、あまりにも冷酷なものだが……。
まあいい……。
「ノーブル様の指示で情報を持ってきた。武器と軍資金の情報だ。近く王都から南方の地方王軍に輸送隊が動く。保管される軍営倉庫の警備は穴だらけだ。ドピィ殿たちなら簡単に奪えるだろう? この砦に集まる者の志に役立つはずだ」
トリスタンは言った。
南に輸送される武器と軍資金というのは、マーリンの仕掛けで王宮に入っていたテレーズという女官が南方に横流しさせたものだ。
テレーズという女は、もともとマーリンが使っていた諜報を得意とする闇魔道を得意とする奴隷女であり、女伯爵で国王の寵姫のテレーズとしてハロンドール王宮に入り込んでいたのだ。
ただ、マーリンの死とともに、その女も行方不明になっている。
しかし、その前に仕掛けた物資の移送計画については生きていた。
トリスタンは、それをここの盗賊団に奪わせるつもりだ。
そして、その武器と軍資金を使って、大きな叛乱を発生させる。
問題はこいつらがその気になるかどうかだが、マーリンによれば、すでに彼らは蜂起を決めているという。
さて、どんな風に踊ってくれるのか……。
そのとき、いきなり、ドピィが馬鹿にしたような声で笑いだした。
「なにがおかしい?」
トリスタンは座りながら言った。
後ろで同行の魔道師も座る気配がある。
「いや、ノーブルやあいつが使っていた者は、訛りを隠す分別はあったが、今度の伝言者は随分と正直で隙が多いのだと思ってな。タリオ公国の手の者であることを隠したいのであれば、まずは、言葉の訛りを消すことだ。わずかだが、ローム地方の訛りが残っている」
ドピィが大笑いを続ける。
トリスタンはびっくりしてしまった。