【2025.9.5コミック発売】異世界で淫魔師ハレム【完結】 作:ドン・ドナシアン
月明りの下に、樹木の枝からぶらさげた肉塊がある。
スージーは、やや離れた場所から隠れた状態で、その死にかけている男を眺めていた。
こいつが死ぬのは、あと一ノスほどだろうか。
殴って弱らせたので、もう悲鳴も助けも叫ぶ気力はないようだ。
ただ、呻くような声がか細く口から流れ出ている。
肉塊は、だらしなく太っており、長い不摂生のためと思うが肌は張りもなくて醜くかった。そして、禿げかけた頭を地面に向け、束ねられた足首に縄をかけて、逆さ吊りになっている。
大人しくさせるために顔を殴りつけたので、鼻は曲がり、左目の周りが腫れあがってふさがっている。
また、両手首から下は切断して、ない。
切った場所からは血が流れ続けているが、頭を下にしているので簡単には死ねないはずだ。
ほかにも、このルロイが雇った用心棒の男たちはいたが、それは死骸にして、離れた場所のあちこちに斬り捨てたままだ。
しかし、この男だけは、生かしたまま捕らえて、たっぷりと痛めつけてから、逆さ吊りにしてやったというわけだ。
スージ―は、この男ができるだけ苦しんで死ぬように、そういう殺し方を選んだのだ。
さらに、ぶらさげているルロイは、下半身になにも身に着けていない。
スージーが剥がした。
そして、その股間には、男としてあるべき性器がない。
それもまた切断して、頭の下側にある地面に、手首と一緒に放置している。
もしも、この男が死ぬまでのあいだに、野犬などが持っていかなければ、死んだルロイの口に性器を咥えさせて立ち去るつもりである。
そうすれば、こいつが賊徒団の報復として殺されたということを万人が知るだろう。
それがスージーに与えられたドピィからの最後の“命令”だった。
クロイツ領内にある小さな城郭から山麓に差し掛かりかけた街道辻のそばだ。
旅人が通りかかれば、まさに死にかけている小太りの男を見つけるだろうが、このところ物騒なので、呑気に街道を夜に移動する者などほぼ皆無だ。
頻発している平民の暴動の鎮圧のために移動する領軍や傭兵団などはいるとは思うが、いずれにしても、彼らが樹木から逆さ吊りをされたルロイを見つけるとしても、それは明日の朝以降だ。
もしかしたら、数日後かもしれない。
そのときには、あの男は確実に死んでいる。
スージーは、こいつが死ぬのを見届けてから、ドピィに教えてもらった場所にいるはずの妹に会いに行く。
ルロイの惨たらしい死骸は、いずれは発見されると思うが、そのときには、スージ―はすでに関係のない場所にいるはずだ。
「くそう……」
スージーは、ひとりで草むらに座って、“それ”を眺めながら、静かな身体の疼きに苦しんでいた。
夜眠るとき……、なにもせずにひとりでいるとき……、あるいは大きな感情に我を忘れた後でそれが終わってふと安堵感に包まれそうになるとき……。
そんなときに、こういう身体の疼きに突然に襲われるようになっていた。
いまもそうだ。
ドピィに与えられた命令によって、冒険者ギルドに賊徒団の情報を売ったルロイを追いかけて、逃亡をしようとしていたところを捕まえた。
雇ったらしい護衛を皆殺しにし、本人を拉致すると、魔術の力も借りて、ここまで連れてきた。
そして、殴りつけて無力化すると、両脚を縛って街道沿いの樹木に逆さにぶらさげると、手首と性器を切断してやった。
やっと、こいつに復讐ができた。
そのとき、スージーに襲ったのは、殺したかった男にやっと手を掛けられた歓喜だったが、死ぬのを待つ間、しばらくこうやって物陰で待っていると、またもや、あの疼きがスージーの身体を襲ったというわけだ。
熱い……。
身体が熱い……。
股間が疼く……。
スージーは、知らず自分の乳房をぎゅっとに握りしめていることに気がつき、慌てててそれを離す。
しかし、身体の熱は去らない。
ますます、スージ―を苦しめる気がする。
こいつに受けた仕打ちを身体が忘れないのである。
夢にさえみる。
昨夜の夢は、ぶらさがっているルロイから性の拷問を受けて三日目の光景だった。
二日間、眠ることも許されずにひたすらに、性的嗜虐を受け続けたスージーは、三日目には徹底的な官能責めに遭った。
すでに、奴隷の首輪は刻み終わっていて、本来であれば、その時点で頭領のドピィにスージーの身柄を渡さなければならなかったはずだが、ルロイたちはそれを報告せずに、スージ―をさらにいたぶった。
奴隷の刻みをされてしまったスージーには、ただただ、それを受け入れるしかなかったのだ。
拘束はされなかったが、奴隷の首輪が抵抗を許さない拘束だ。
ルロイをはじめとして、男たちがスージーを交代で抱いて精を放った。
ひたすらに耐えたが、身体を鋭敏にする媚薬を使われて、なにも考えられなくなった。
男たちが繰り返してスージ―を犯す。
必死に耐えようとしたが、十人近くもいる男たちがいなくなることなどなく、拷問そのものの性交が続いた。
やがて、犯すことに飽いたのか張形を使われた。
あるいは、暇つぶしだという破廉恥な行為も強要された。
縄瘤を作った縄を股に挟んで歩かされたり、目の前で放尿をさせられたりした。
淫具を股に入れたまま四つん這いで歩かされた。
全員の股間を舐めた。
足の指もだ。
尻の穴を舐めさせられたときには嘔吐しそうになったが、奴隷の首輪は、スージ―が命令なく、男たちの尻の穴から舌を離すのを許さなかった。
そして、血が沸騰するような恥辱が終わると、再び輪姦が始まった。
これがひたすらに繰り返された。
口にできるのは水分だけだ。
しかも、連中の小便である。
噛み千切ってやりたかったが、奴隷の刻みはスージーに抵抗を封じていた。自害することも……。
やがて、頭が白くなった。
気がつくと、全身を痙攣させている自分がいた。
それでも、ルロイたちは憑かれたように交合を繰り返した。
そして、丸一日……。
ありとあらゆる体液を流しながら、それでもスージーは犯され続けた。
今度は放尿どころか、脱糞さえもした。
スージーは許してくれと泣きじゃくった。
最後にはドピィがやってきて、スージ―を連れていってくれたが、それからがむしろつらかった。
夜に眠ると、そのときの悪夢がまどろみの中で繰り返すようになったのだ。
静かになると身体が疼いて仕方がなくなった。
思わず股間に伸びる手に耐えた。
しかし、朝起きると、手は局部に触れていた。
ドピィは、スージ―を抱かなかった。
しかし、裏切ることのできない奴隷である安心感からか、しばらく経って、ドピィは自分のことをスージーに語り始めた。
これだけの大きな賊徒団の頭領であるにも関わらず、ドピィはなんの志のようなものも持っていなかった。
人を集めるために、苦しんでいる奴隷をさらって開放し、あるいは、飢えている流民を引き受けて生活をさせ、時には無法をする貴族をさらって、復讐をさせてやるということをしていたが、驚いたことに、ドピィには、別段に、貴族に恨みもなければ、平民を救ってやりたいという気持ちなど皆無だということだった。
ただ、そういう大義名分があった方が人は集まるし、ドピィは自分が求めるものを手に入れるために、自分のところに人が集まることを必要としていたのだ。
ドピィが十年かけて思い続けているのは、幼い頃からの
これも知らなかったが、ドピィ自身が爵位を失った下級貴族の血を持っているのだという。
だが、父親がなにかの罪を鳴らされて一家は離散した。
当然に婚約も解消されて、幼馴染は別の貴族男に嫁いだそうだ。
よくある話だ。
そんな話は平民にすらある。
しかし、ドピィはそれが許せなかったらしい。
女が嫁ぐ前夜に、女の実家に忍び込み、駆け落ちを誘ったそうだ。だが、当たり前だが、女は悲鳴をあげて助けを呼び、ドピィは犯罪者として一年ほどを鉱山で働かされたあと放逐された。
そして、ドピィの復讐が始まった……。
自分を裏切り……、誓いを捨てて、ほかの男のものになった女を奪い、自分のものにする……。
ただ、それだけのために、ドピィは十年をかけて、大盗賊団を作った。
そして、いま、女が嫁いだ侯爵領に、その賊徒団をぶつけて、女を奪い返そうとしている……。
とんでもない馬鹿だと思った。
しかし、軽蔑をする感情は生まれなかった。
剥き出しの感情……。
それを十年継続して、ひとりの女を得ようとする男……。
悪くない……。
馬鹿ではあるが……。
ドピィに身体を求めたのは、スージ―からだった。
すでにそのときには、夜な夜なの凌辱の記憶の蘇りに苦しむようになっていた。
ルロイたちに受けた屈辱の記憶は、死ぬほどの苦痛でしかなかったが、身体の疼きはそういう行為を必要としていたのだ。
また、同じことをドピィにされるなら、それはスージーを苦しみから助けてくれる気がした。
それくらいには、スージーは、この
だが、拒否された。
ドピィは、女は抱かないのだという。
驚いたが、賊徒団で誘拐をした女たちを賊徒たちに凌辱させるくせに、自分では一度も、そういう女に手を出したことはないという。
自分が抱きたいのは、あの女だけだと真顔で言った。
なんという阿呆なのかと思った。
しかし、嫌ではない……。
あんな風に馬鹿な男は、スージ―は嫌いではなかった……。
抱かれる代わりにスージーは、ドピィの精を口で慰めることを申し出た。
女を抱かないというわりには性欲は強いらしく、毎日精を出すことをドピィは必要としていた。
だから、自分の手で出す代わりに、スージ―が口でやろうと説得をした。これは“自慰”と同じだと……。
ドピィは、女たちを乱暴に扱わせるくせに、案外に女には
少しばかり奉仕をしただけで、ドピィは奴隷にしたはずのスージーの扱いをよくした。
優しくなったのだ。
ちょろいといえばそれまでだが、存外、心の底は善人なのかもしれない。
まあ、悪党には違いないのだろうが……。
もちろん、それを批判するつもりはない。
スージーも、あのトリスタンに飼われる奴隷として、大抵の悪事はやっている……。
「怒りか……」
スージーは再び、ふと呟いた。
離れた場所でぶらさげている男は、もうすぐ本当に肉塊に変わるだろう。
スージ―は、首にかかっている首輪に触れながら、これからのことを考えた。
ドピィから受けた命令は、あのルロイを殺すことであり、それが終われば、自由にしていいと言われているのだ。そして、あらゆる隷属の縛りを解除されている。
残っているのは、ドピィに危害を加えないことと、新たに与えられる命令に服従するくらいだが、二度と会わないのであれば関係ない。事実上の奴隷解放だ。
それどころか、ドピィが死ねば、隷属を解除する処置までしてある。
ドピィはこの叛乱で、目的さえ達成すれば、死ぬつもりのようだが、そのときはスージーは奴隷解放されるというわけだ。
性欲の解消のために口で奉仕しただけで、これだけの情をかけてくれるのであるから、ドピィの本質は、実際には心優しい善人なのは間違いないのだろう。
だが、十年の歳月は、ドピィを容赦のない賊徒団の頭領にした。
あそこまで彼の心を荒ませたのが、クロイツ侯爵夫人となったその女のせいだと思うと、スージ―は彼女を許せない気がする。
それはともかく、今回の賊徒の叛乱に際し、ドピィはまずはあちこちに手をまわして、わざと襲撃を起こして、領地軍に民衆を討伐させた。
なんのために、そんなことをするのかと訊ねたときに、ドピィが口にした理由が“怒り”という答えだった。
叛乱が嵐のような勢いとなって、圧倒的に強い軍隊を覆い潰すには、正気さえ失うような燎原を燃やす尽くす憎悪が必要なのだそうだ。
絶望の中からは、叛乱は起こらない。
怒りの中にこそ、叛乱は起きる。
だから、わざと民衆の怒りを焚き付けるのだそうだ。
それがドピィの言葉だった。
そして、ドピィは待っているようだ。
次々に発生する暴動は、簡単に領軍に鎮圧されていく。そして、首謀者は見せしめとして残酷に処刑されていく。
だが、それでも暴動は続く。
これを繰り返せば、必ず、今度は自発的な民衆の暴動に拡大することになる。
ドピィはその状態を作ろうとしているみたいだ。
民衆などいくら殺されてもいいし、それによって手の付けられない無秩序を作りあげた状態で、隠し村に集めた賊徒団を動かすつもりのようだ。
なかなかの策士ではある。
無辜の民を扇動して、勝ち目のない暴動に引きずり込むなど、おそろしく悪辣なやり方ではあるが……。
とにかく、ドピィという男は怒りの男だろう。
考える策も、人の抱く憎悪をよく利用している。
そして、その怒りの力を、およそ十年という時間をたったひとりの女に対して向け、その復讐のためにこれだけの大集団を作りあげた。
怒りこそ、ドピィの行動の原動力だということがなんとなくわかる。
いずれにしても、ドピィは実に周到であり、頭のいい男だった。
わずかな時間だったが、ドピィの内面にまで接していたスージーには、それがわかる。
人の憎悪や欲望というものを巧みに使う。
人間が持つ悪感情というものを実によく利用するのだ。
貴族に対する恨みつらみを増幅させ、偉そうにしている高貴な者たちを徹底的に虐げる愉しみを覚えさせ、ただただ人生に絶望してすべてから逃亡してきた者たちを軍事力にしたてあげた。
誘拐をした貴族たちを凌辱して残酷に処刑してしまうのは、ドピィが作った賊徒には必要な生け贄であり、なによりも、彼が目的としている貴族領における叛乱の決起には、憎悪の持続が不可欠だからだ。
平民の起こす叛乱など、最終的に成功するわけがない。
誰よりも、ドピィはそれを認識していた。
だが、それを気づかせないように、貴族への憎悪と貴族たちを殺す快楽で、部下たちには恐怖を忘れさせる。
ドピィがしているのは、そういうことなのだ。
そして、そういったすべてのドピィの行動原理が、十年前に彼を裏切ったのだという、このクロイツ侯爵領の侯爵夫人である女性なのだ。
それにしても、十年――。
これほどの長さをひとりの異性に持続できる激情などあり得るのか?
たとえ、その感情が憎しみであっても――。
「羨ましいね……」
スージーは呟いた。
そのとき、ぶらさがっているルロイから、いつの間にか小さな呻きさえ消え、呼吸音もなくなっていることに気がついた。
スージ―は、肉塊の生死を確認するために、立ちあがった。