【2025.9.5コミック発売】異世界で淫魔師ハレム【完結】 作:ドン・ドナシアン
思慮は海のように深い。
その反面、限りなく陰湿だった。
兵を動かすこと、あるいは組織作りの才能は山のように高く、彼は集団の長として、天賦の才能を発揮した。しかし、そのやり方は、周囲が怖気るほどの悪辣さを伴った。
なによりも彼は怒れる男でもあった。
怒りを自分の持続する強靭な意思の根源にした。
さらに、他人を怒らせて冷静さを失わせ、また、味方の抱く憎悪の感情を利用して、巧みに人から狂気のような力を引き出した。
いずれにしても、彼は一代の英雄になる素質があった。
しかし、ひとりの女性を心に刻んで忘れることができなかった愚者でもあり、そのために、生き方を間違った。
それが、ルーベン=クラレンスという下級貴族の令息として生まれ、
スージ―=ケルビン(※)著『ドピィ、または、ルーベン=クラレンス子爵令息伝記』より抜粋 (※ スージ―=ケルビンは、サタルス朝の初期に活躍したケルビン姉妹の姉にあたる。)
*
馬車は、山越えの街道に差し掛かったらしく、揺れが大きく感じるようになってきた。
レベッカは、馬車の窓を開くと、馬車の横を並走している騎士を手招きした。
「なにか?」
小走りに駆けている馬を寄せた騎士が眉間に皺を寄せながら、声の届く位置まで寄ってくる。
伯爵夫人であるレベッカとレベッカの姪にあたるシャーロットが、クロイツ領から隣接の伯爵領に帰領するにあたり、クロイツ侯爵がつけた護衛隊の指揮官だ。
侯爵軍の将校にあたる騎士であり、五十人ほどの騎馬が一緒だ。
レベッカは、この土地の領主であり、侯爵のクロイツの妹である。
姪のシャーロットとともに、兄のクロイツ候を訪問していたが、いまは、侯爵領の急激な治安の悪化に伴い、予定を繰り上げて嫁ぎ先である隣接の伯爵領に戻る途中である。
もともと、この訪問は、レベッカの里帰りという名目であったものの、本当は、夫の伯爵家の事業悪化に伴い、資金援助を侯爵家に申し出るためのものであった、
だが、結局のところ、その話し合いが満足にできぬまま、帰路につかざるを得なくなった。
それについては、夫には申し訳なく思っている。
だが、実家に戻って来て接したのは、レベッカが嫁いでいる伯爵家以上に困窮している侯爵家の実態だった。そして、頻発しはじめた侯爵領各地における暴動の発生や、大きな賊徒団に侵入という治安の悪化である。
レベッカは、伯爵家に連絡をして、急ぎ、迎えの護衛隊を寄越してもらい、侯爵領を離脱することにした。
侯爵領の美しい田園を観光させようと思って同行してきたシャーロットにも、結局侯爵家の屋敷内から一歩も出れないままであり、そういう意味では完全に無駄足だった。
それはともかく、レベッカは強行軍であるこの移動に閉口していた。
侯爵領を少しでも早く脱したいという指揮官の言葉は聞いていたが、あまりにも揺れが大きくて、とてもじゃないが、これ以上耐えられるものではなかった。
「揺れが不快です。もう少し速度を落としなさい。それとそろそろ休憩をとりなさい」
レベッカは、馬車に顔を寄せてきた隊長に、窓越しに命令した。
朝に出立してから、陽はそろそろ中天に差し掛かろうとしているが、まだただの一度も休息をとっていないのだ。
さらに、街道が平地沿いの経路から山越えに差し掛かったことで、かなりの振動が馬車に伝わっている。
四十女であるレベッカは、すでに疲労困憊だ。
隣に座っている姪のシャーロットも、まだ十六歳と若いものの、ひどい移動による馬車酔いで、ぐったりとしている。
馬車には、もうひとり、レベッカと同じ年の四十歳になる侍女が向かいの席に座っているが、彼女もまた疲労で真っ蒼になっている。
「申し訳ありませんができません。あと一ノスで峠に着きます。そこに広場になっている場所がありますから、休息を一度入れたいと思います。それまでご辛抱を──」
しかし、隊長はあっさりと拒絶した。
レベッカはかっとなった。
「いいから休憩をしなさい──。それと、さっきから何度も馬車が跳ねて、舌を噛みそうになったわ。とにかく、とめなさい──。速度も落としなさい――」
「ご容赦を、奥様……。少しでも早く伯爵領に戻りたいのです。それよりも、窓をお閉めください。危険です」
「危険なことなどないわ──。危険なのは、この悪路よ。シャーロットも、わたくしも死んでしまうわ──」
怒鳴りあげた。
そのときだった。
馬車の前後で大きな騒乱が発生したのを感じたのだ。
同時にたくさんの金属音のようなものがあり、窓から見える騎士たちが、突然に悲鳴をあげてばたばたと倒れるのが見えた。
「きゃあああ──」
「なに──? なんです──?」
レベッカもシャーロットも侍女も、動顛して悲鳴をあげる。
なにが起きたのかわからない。
あちこちで「敵襲、敵襲」という声が聞こえる。
「奥様、窓から離れてください──」
侍女が慌てたように怒鳴った。
次の瞬間、きんという音とともに、隊長の胸から血が噴き出し、隊長が呻き声とともに、馬から落ちていくのが見えた。
「いやああああ」
レベッカは恐怖に声をあげた。
横のシャーロットも恐慌に陥っている。
侍女が窓に手を伸ばして閉じる。
すると、ものすごい勢いで馬車が進みだした。
「ひああっ」
窓を閉じるために中腰になっていた侍女がひっくり返って頭を打った。
「お、おばさま──」
「シャーロット、捕まって──」
一方で、レベッカは席から振り落とされそうになったが、必死になって怯えているシャーロットを抱きかかえた。
しかし、馬車が上に、下に、右に、左にと激しく動き、レベッカもまた恐怖に包まれた。
そして、しばらくすると、馬車が急激に停車した。
レベッカは、シャーロットとともに、馬車の床に投げ出された。
「ひいいいっ」
「きゃあああ」
ふたりで金切り声をあげた。
「お、奥様……。シャーロットお嬢様……」
ようやく侍女が意識を戻したのか、レベッカたちに声をかけてきた。ふと見ると、倒れたときに頭を切ったのか、侍女の頭からは、少し血が垂れている。
レベッカもあちこちを打って痛い。
そのときだった。
馬車の扉が左右同時に、乱暴に開かれた。
「おりろ、貴族女──」
「お前もだ──」
首に赤い布を巻いている男たちが目を血走らせて、馬車に入り込んできた。
外に引きずり出される。
「な、なにをするの──。無礼者──」
レベッカは怒鳴ったが、複数の男たちに手足を押えられて、地面に倒された。
すぐに別の男たちが左右から両脚を抱える。
「離しなさい──」
レベッカは足をばたつかせたが、その足は宙に浮いていた。もうひとりが背中を抱えあげる。
馬車がとまっているのは、両側が林のようになっている場所だったが、その林の中に連れ込まれる。
シャーロットも一緒だ。
「侍女はいい。縛って、馬車に放り込んでおけ。貴族女たちは、徹底的に犯せ。抵抗が激しいようなら手足を折れ。だが殺すな。だが、誰が見ても凌辱されたとわかる格好にしろ。親族を汚されて、侯爵が怒りに狂って我を忘れるようにな」
馬車の横には、ひとりだけ真っ赤な装束を身についている男が剣を抜いたまま騎馬でいたが、その男が周囲の男たちに指示を出すのが聞こえた。
それで気がついたが、馬車の周りは完全に賊徒たちでいっぱいだ。
護衛の騎士たちはひとりもいない。
「いやあああ、助けてえええ──」
絶叫が聞こえた。
シャーロットだ。
仰向けに地面に倒されて、五、六人の男たちに手足を押えられてる。そして、ドレスを乱暴に引き千切られているのが視界に入った。
「シャーロット──」
レベッカは絶叫した。
だが、レベッカもまた、身体を押さえられて、着ているものを引き裂かれる。
「お、お、おお、や、やめなさいいっ」
暴行される──。
レベッカを本物の恐怖が包む。
歯ががちがちと鳴って声が出ない。
激しく身を捩る。
だが、動くのは首から上だけだ。
どんとんど服が剥がされ、切断され、下着にまで手が掛かった。
「こっちは年増か──。だが、さすがは貴族女だな。真っ白な肌だぜ。しかも、綺麗な顔だ。年増側になったから貧乏くじだと思ったが、これなら、いくらでもおっ勃つな」
レベッカの脚のあいだに立った男がズボンを緩めだす。
目を見張った。
男がズボンを下着ごと脱ぎ、勃起した男の性器が露わになったのだ。
「ひいいいい」
レベッカは震えた。
そして、横を見ると、すでにほとんど素裸になっているシャーロットが賊徒のひとりに跨られて股間を貫かれていた。
激しい男の腰の動きに、シャーロットは苦悶の悲鳴をあげ続けている。
「そんなことを口にすると、動けなくなった騎士どもにとどめを刺す組に回った連中から刺されるぜ。罠にかけて動けなくなった騎士の脳天に、銃の弾を射ち込むだけの詰まらねえ仕事だ。それに比べれば、貴族女を辱める仕事なんて天国だ。ドピィ様についてきてよかったぜ」
レベッカの上半身を押えている男のひとりが下品そうに笑った。
「揉んでやってくれ。ちょっとは気分を出させようぜ」
怒張を出している男がレベッカの股間の前に屈み込み、レベッカの恥毛をまさぐりだす。
同時に左右から乳房をふたりずつくらいから揉まれ始める。
「うううっ、や、やめなさいいいっ」
扱いは乱暴なのに、愛撫だけは一斉に柔らかい手管で刺激を加えられる。
レベッカは呻いた。
ざわめくような感覚が全身を駆け巡る。
一方で、横ではシャーロットが激しく悲鳴をあげている。
「向こうは性急な連中ばっかりが集まっちまったか? 可哀想に生娘のご令嬢を碌な愛撫もせずに珍棒を貫いちまうとはねえ。まあ、こっちは優しく扱ってやるよ。ただ、ふたりで百人ほど相手をしてもらうから、結局はどうやったって同じだろうけどな」
愛撫をしながら、股間側に男が言った。
そのあいだも、全身をあちこちまさぐられる。
こんなことで女の反応をしてしまうのは屈辱なのだが、何度も何度も股をいじられて、しばらくすると次第に股間が濡れてくるのを感じた。
それにしても、いま百人を相手させると言った?
レベッカはぞっとした。
「もう少し慣らしてえが、時間も限られてるしな。とりあえず、一発目だ」
男が身体の上から覆いかぶさってきた。
男の怒張が股間に近づく。
必死に脚を閉じようとするが、数名の賊徒たちに押さえられてびくともしない。
肉棒が一気に股間の奥に滑り込んできた。
「んぐううううう」
抗うことのできない暴力にレベッカは悲鳴をあげた。
屈辱が全身を駆け巡る。
男がしばらく腰を振っていて、すぐにレベッカの股間に精を放ったのがわかった。
「交代だ。忘れていたけど、妊娠しやすくなる薬液だ。避妊草の代わりにたっぷりと飲んでくれ。騎士どもは殺されていっているけど、お前らは、俺たちの精で種付けをするだけで、侯爵の領都の近くで開放することになっている。うちの頭領に感謝してもらわねえとな」
鼻を摘ままれて、得体の知れない飲み物を口の中に強引に注がれた。
同時に、最初の男と交代をした別の男がレベッカの股間に怒張を貫かせた。
*
クロイツは激怒していた。
この一箇月ほど、神出鬼没の賊徒団による領内の被害が続いていた。
最初は、ユンデ市における領地軍への襲撃だったが、それを機会に数日から十日ほどに一度の頻度で、赤い布を巻いた騎馬団による侯爵領への襲撃が起こっているのだ。
ユンデに次いで襲われたのは、領地に近い食料庫の開放だった。
領都の近傍には、侯爵家が税として収めさせた食料庫のある施設が十数箇所存在していた。
無論、侯爵軍の騎士で警護をしているが、このところの暴動の鎮圧に勢力を割いていることもあり、その勢力は少なかった。
そこを襲われた。
最初の一箇所から始まり、賊徒による騎馬隊で押し寄せては警護の兵を蹴散らして、一日のうちに次々に倉庫を開放されてしまったのだ。
そして、自分たちで奪うことなく、領民に開放しては、そのまま次の倉庫を襲うということを繰り返したのである。
領都にいる部隊を揃えて鎮圧に向かわせたときには、賊徒たちは散り去った後だった。それまでに十の倉庫群のうち、半分が奪われた。
領民が奪っていった穀物も一部は回収できたが、大半は戻ってこないままだ。
ユンデ市のときと同じ赤い布を巻いていたことと、騎馬に乗った集団だということで同じ連中だと判断したが、どうやら、彼らこそが、王領から南下してきたという
次は、ユンデ市に続いて起こった小都市の暴動が切っ掛けだった。
クロイツが恐れていたように、ユンデ市の鎮圧に失敗したことから、同じような住民の暴動がほかの都市でも起こったのだ。
ユンデのときには油断してしまった鎮圧軍が住民に乱暴を働いている隙を突かれて失敗しているので、そのときの鎮圧軍はしっかりと警戒をさせていた。
だが、またもや、現われた賊徒団の騎馬は、小都市で暴れる住民を制圧していた部隊ではなく、彼らに兵糧物資を届けるために移動をしていた小部隊に襲い掛かったのだ。
街道が狭い谷地になっているところを奇襲された彼らは、なすすべなく全滅して、兵糧は焼かれてしまった。
また、隊長が女騎士であり、さらに女兵が混ざっていたことから、男の騎士や兵は皆殺しにされたが、女たちは連れていかれて、数日後に凌辱された死体が街道に放り投げられていた。
三度目は、領地内にあるクロイツの数軒の別荘だ。
こっちは、建物には管理をさせている召使いくらいしかいなかったが、三日連続で賊徒たちの焼き討ちに遭い、すべて消失した。
碌な警備もなかったため、これについてはなすすべもなかった。
四度目は、再びユンデ市だった。
最初の暴動から、改めて領軍を進めることで、やっとのこと市民たちを鎮め、市街の治安を取り戻していたのだが、そこに堂々と白昼に賊徒がやって来た。
暴動を治めた治安部隊の大半が領都に戻り、一部を残して去ったところを襲われてしまったのだ。
残っていた軍兵は殺され、さらに、そこにあった冒険者ギルドが襲撃された。
連中が残した立て札によれば、クロイツが依頼して冒険者に懸賞を出して捜索させた賊徒団の拠点に関する情報収集のクエストを受けた報復ということのようだった。
そこにいた冒険者たちも抵抗はしたが、賊徒たちは大量の銃を持っていて、武器で抵抗しようとした彼らを遠方から撃ち殺し、ギルドにある建物に油を撒いて火をつけたということだった。
いずれにしても、数件続いた赤い布を巻いた賊徒団たちの襲撃でわかったのは、彼らがただの賊徒ではないということだ。
しっかりと統制された行動──。
数百騎の騎馬と揃えられた大量の銃という王軍に匹敵する装備──。
侯爵軍の動きを完全に察知しているとしか思えない情報力──。
すべてが単なる並の動きではなかった。
また、忌々しいのは、動き回っている賊徒たちの拠点がどこなのか、さっぱりとわからないことだ。
襲撃された場所も、地域的な統一性はなく、領地内のあちこちに及んでいる。情報集めにしても、それに協力しようとしたギルドが報復をうけたことで、冒険者たちも及び腰になっていた。
長く重税で課して苦しめていた市民たちが協力するはずもなく、さっぱりと賊徒たちの居場所が判明しない。
一万の勢力だというが、その多くは彼らが自給自足をするための人数であり、戦闘力としては数分の一程度しかないというのは耳にしていた。
だから、拠点さえ見つかり、そこを鎮圧すれば、動き回っている数百騎ほどの騎馬集団など恐れる必要もないはずだが、肝心の拠点がわからない。
クロイツは歯噛みするばかりだった。
そして、今朝入ってきた報告は、クロイツをさらに憤怒させた。
一箇月半ほど前から、クロイツ領に里帰りをしていた隣接の伯爵家に嫁いでいた妹と同行の姪がいたのだが、侯爵領の治安の悪化に伴って、急遽、伯爵領に戻ろうとしていた。
その帰路に、賊徒団に襲撃をされてさらわれている。
これが三日前だった。
護衛をしていたのは、伯爵家から迎えにきた伯爵家の騎士団だったが、彼らは全滅して皆殺しになったのだ。
狭い山道に入ったところで、上から岩を落とされて混乱し、そこを連中の持っている銃や弓で狙い撃ちにされたらしい。
はらわたが煮え返るほどの巧みなやり口だ。
連中の中には、余程の戦巧者の軍師がいるのだろう。
そして、さらわれた妹の伯爵夫人と姪が今朝になって、発見されたのだ。
夜のうちに置いていったらしい荷車に、荷台に縛られていたふたりが領都の城郭の門から少し離れた場所に捨てられていたそうだ。
侯爵領の治安の悪化に伴い、夜にはしっかりと領都の城門を閉じていたこともあったのか、警備の兵も朝になるまで気がつかなかったみたいだ。
それはともかく、発見された状況だ。
ふたりは全裸にされて、荷台に四肢を拡げて拘束されていて、口に布を突っ込まれて猿ぐつわをされていた。
それだけでなく、全身には男たちの欲望に晒されたというのが明らかな痕がびっしりとあり、さらに男の精液が身体中にかけられていたようだ。
股間に木で作った張形が挿入されて、縄で股間に封をするという念を入れた辱しめだったらしい。
荷台に、クロイツの縁者という立て札があったので、誘拐をされていた妹たちだということがすぐにわかり、クロイツは保護をさせたが、いまのところ、完全に正気を失っていて、まともに話もできない状態だ。
クロイツは怒り心頭に達していた。
「連中の息の根をとめるんだ──。侯爵家の全軍を準備させろ──。領都のこともいい──。連中さえ皆殺しにすれば、それで終わる──。なんでもいい──、連中はどこにいるんだ──」
クロイツは怒鳴りまくった。
侯爵家の館は軍の詰め所のようになっていて、軍の主立つ者が屋敷の広間に集まっているが、立て続けの屈辱的な報告に、全員が俯いたまま口を開かない。
クロイツは、目の前の茶器の置いてある小さな台を蹴りとばした、
紅茶の入っている器が割れて、中身が床にぶちまけられる。
そのときだった。
軍営になっている広間に入ってきた兵が領地軍の隊長になにかの報告をした。
すると、すぐに、その隊長がクロイツのところにやってくる。
「お館様、有力な情報です。連中の拠点らしき場所がわかりました。王領に近い北側にあるケルサ村という山村の部落です。そこの住民が賊徒たちに入れ替わっているという情報が入りました」
「なんだと──?」
クロイツは、思わず立ちあがった。
それが真実なら、今度こそ、蠅のように忌々しいあの連中を叩き潰せる。
隊長が続ける。
それによれば、情報そのものは、一箇月ほど前に冒険者ギルドに入っていたものらしい。
賊徒団からの脱走者と思われるルロイという男が、ケルサ村が賊徒団の拠点だとギルドに密告して懸賞を持っていっていたみたいだ。
ただ、その情報が一箇月も届かなかったのは、それがユンデにあった冒険者ギルドであり、最初の襲撃と二度目の襲撃の混乱のために、情報がどこにも出ずにとまっていたようだかららしい。
それが、どうして、いまになって出てきたかまでは不明だが、この領都にある冒険者ギルドに、やっと、そのときの情報が回ってきたということのようだ。
「間違いないのか──。その情報提供者はどこにいる──? 確かめさせろ」
クロイツは怒鳴った。
すると、隊長が首を横に振った。
「実のところ、そのルロイという男が密告の翌日に、山の中で殺されて惨たらしい死骸になって街道にさらされていたようです。その情報もいま届いたのです」
「連中の報復として殺されたか……?」
ならば、真実の可能性が高い。
クロイツは、すぐに偵察を向かわせることを指示するとともに、可能な限りの勢力をケルサ村に向かわせる準備をするように命じた。
*
三日後──。
情報が集まって来ていた。
ケルサ村に賊徒の拠点があるというのは、やはり事実のようだった。
部落全体が賊徒と入れ替わっているために、潜入まではできなかったが、明らかに普通ではない集団がケルサ村に集まってるということが確かめられた。
なによりも、以前にはなかった防壁が部落全体を取り囲み、見張り台のようなものまであちこちに建てられているということだった。
さらに、三日前に入ってきた密告の情報に続いて、ケルサ村が賊徒団の拠点だという密告情報が次々にもたらされていた。まるで、塞がれていたものが堰を失ったかのような情報の集まりだ。
「ケルサ村が賊徒団の拠点であることは間違いない──。こちらの全勢力はどのくらいになる──」
クロイツは言った。
「五千です」
隊長の言葉にクロイツは頷いた。
「ならば、すぐに出動させろ。わしが自ら陣頭に立つ」
クロイツは叫んだ。
忌々しい賊徒の糞ったれめ──。
考えられる限りの残酷な手段で処刑してやる──。