【2025.9.5コミック発売】異世界で淫魔師ハレム【完結】 作:ドン・ドナシアン
進軍を続けて三日──。
クロイツは侯爵用の奢侈な軍装を身に着け、白馬に乗って銀細工の飾りのついた被り物を戴いていた。
また、左右には、クロイツ家の家章が描かれた
ケルサ村に進む侯爵軍による賊徒団の討伐隊だ。
クロイツは、その討伐軍の中心を騎馬で進んでいる。
総勢五千の討伐隊である。
直属の侯爵軍の騎士団と、集められる限りの傭兵団、さらに臨時に徴収した軍兵たちまでいる。
その中には、ユンデの冒険者ギルドを潰されたことで恨みを抱く冒険者の連中まで含んでいた。
クロイツが侯爵として集められる最大兵力といっていい。
これを賊徒にぶつけるつもりだ。
蠅のように煩かった連中との追いかけっこも、これで終わりだと確信していた。
「前方に武器を持っている敵です。およそ、一千──」
ケルサ村に近づくと、斥候から報告があった。
続けての報告で、賊徒たちだと知れた。
ケルサ村は緩やかな山岳道を少し登った場所にあるのだが、その山岳の入口部分に簡易な陣地を作って、待ち受けているらしい。
武器も軍装もばらばらで、女も老人も混ざっているらしい。
全員が首に赤い布を巻いているらしく、
「策など不要だ。蹴散らしてやれ──」
クロイツは馬上で応じた。
進軍の速度は変わらない。
賊徒団の勢力は、一万にもなるというから、一千となれば、進軍する侯爵軍を待ち受ける前衛に違いないと思った。
また、賊徒団の総勢は一万だと言われているが、大部分は武器など扱えない流民集団だろう。
一箇月ほど侯爵領のあちこちを略奪した数百の騎馬隊はなかなかの精鋭だったが、おそらく、あれが賊徒団の限界だと思う。
拠点だというケルサ村にいる大半は、戦う能力のない者たちばかりだと思っている。
だから、問題などない。
集められる最大勢力は五千であり、賊徒どもの総兵力には満たないが、装備がまるで違うはずだ。
戦も知らぬ、素人とは全く戦いにはならないだろう。
その証拠が、前方の一千だ。
五千の正規軍に対して、ちぐはぐな武装の一千程度で待ち構えるなど、死ににきているようなものだ。
丘陵を通り抜けると、先に陣を構えている集団が見えた。
クロイツは進軍をとめなかった。
合図をする。
喚声をあげて、隊形を組んだ侯爵軍の前方側の各隊が飛び出す。
結局のところ、賊徒たち一千は三段の陣を構えていたが、まるで烏合の衆だった。
あっという間に蹴散らし、連中が逃亡していく。
こちらにほとんど犠牲のないまま、数百の賊徒の死体で辺りが埋まった。
「やはり、相手にならん。弱すぎる」
クロイツは馬上で笑った。
そのままケセル村に向かって、軍を進ませる。
山岳道に入った。
時折、左右の森から、ばらばらと人が出てくる。
地から湧いたような感じであり、前を進む隊が浮足立った感じにはなったが、取り囲む動きを示すと、すぐに逃亡していった。
それがしばらく繰り返された。
しかし、前進をとめるほどのものではない。
軍を進めませ続ける。
やがて、高い防壁で周囲を囲んだ砦が見えてきた。
防壁の両側は森になっていて、砦のようになっているのが、もともとケセル村と呼ばれる集落なのだろう。
こんなところに砦など作るわけがないから、これが賊徒どもが急増した砦に違いなかった。
「まずは包囲しろ。逃げないように後方にも周り込め」
防壁のところどころには、見張り台もあり、そこに賊徒らしき人影もある。
だが、向こうから討って出る気配はない。
むしろ静かだ。
クロイツは、防壁の左右の森を進ませて、後方にも部隊を回り込ませることに成功した。
しばらくして、包囲態勢が完全に整ったと報告が入った。
「突っ込め──」
クロイツは命じた。
思ったよりもしっかりとした城壁だ。
攻城兵器までは持ってきていないので、そのまま攻めたのでは、防壁を崩せない。
強引に乗り越えるか、突破口となる場所を破壊して内側に入り込み、中から城門を開くしかない。
ばらばらと防壁のあちこちに味方の兵が群がっていく。
城門側から銃声が鳴り始める。銃を賊徒が持っているのは、事前にわかっている。一箇月ほど暴れまわっていた賊徒の騎馬隊が銃でも武装して、侯爵領を攪乱し続けたのだ。
矢も跳んできた。
しかし、数が少ない。
これなら問題ない。
「所詮は、流民どもよ──」
クロイツは馬上で防壁の戦いを見守りながら周囲に言った。
抵抗が少なすぎるのだ。
すでに、縄をかけて乗り越えている場所もある。
それが複数だ。
あっという間に、防壁の上に味方が溢れかえる。
「開いた──」
喚声があがる。
城門が大きく開いたのだ。
内側に入った兵が城門を開けたのだ。
「行け──」
クロイツは剣を抜いて馬腹を蹴る──。
待っていた侯爵軍の騎馬隊で突撃する。
城門を抜けた。
続々と侯爵軍の各隊が席巻していく。
クロイツは、ほぼ先頭を騎馬隊とともに進んでいる。
「徹底的に皆殺しにせよ──」
クロイツは叫びながら、どんどんと村落の中心に向かって馬を掛けさせた。
内側は普通の集落だ。
陣のようなものは見えない。
なぜか、地面が濡れていて、村全体がぬかるみになっていて、馬の脚が取られる感じもあったが、このくらいであれば障害にもならない。
さらに、進む。
ただ、村全体がおかしな刺激臭に包まれていた。
それだけは閉口した。
だが、だんだんと違和感を覚えた。
まったく抵抗がないのだ。
いや、それどころか、人の気配がない。
なさすぎる。
クロイツはやっと疑念を感じた。
ここには、戦いもできない流民とはいえ、一万の人間がいるはずだ。
だが、城門で抵抗をした者たち以外には、クロイツたちを喰いとめようとする勢力は皆無だ。
「閣下──」
そのとき、前から集団がやってきた。
反対側から回り込んでいた味方だ。
そっち側についても、城門を破って部落内に突進してきたようだ。
「待て──。賊徒はどこだ──?」
クロイツは、前方からやって来た後方側から突撃して来た隊長に声をかけた。
向こう側でも、抵抗の少なさに、怪訝を感じていたみたいだ。
こっち側同様に、最初の抵抗以外は、呆気なく城壁を突破してここまで来たらしい。
「わかりません」
向こうの隊長も首を傾げている。
いやな予感がした。
「侯爵閣下──」
そのとき、最初に城壁の取りついた隊長が数名の部下を連れて駆けてきた。
賊徒兵らしき者を数名連れている。
「見てください」
斬られて血だらけだが、連行されてきた賊徒はまだ生きている。
しかし、その足には鉄の足枷がついていて、切断された鎖が枷に繋がっていた。
「こいつらは、防壁の近くで鎖で繋げられていたんです。武器で攻撃してきたのは、この連中です」
隊長が声をあげた。
鎖で繋ぐ──?
逃げないようにするためだとは思うが、なぜこんなことを……?
「どういうことだ──。言え──」
クロイツの横にいた家臣が賊徒に詰め寄った。
だが、そいつは悲しそうな表情で首を横に振るだけだ。
こいつを連れてきた隊長が口を開く。
「どうやら、口がきけないように、喉を潰されているようです」
「喉を?」
クロイツは怪訝に思った。
なぜ、そんなことを……?
そのとき、大きな喚声が遠くで起こった。
確認をさせると、突破したはずの城門がなぜか閉じたのだという。
いま、慌てて開こうとしているが、今度は外から封鎖されて、開かないらしい。
「いかん──。外に出ろ──。罠だ――」
クロイツは声をあげた。
そのとき、空から火矢が降ってきた。
しかも、圧倒的な数だ。
「盾──」
「盾を上にかざせ──」
あちこちで指揮の声がする。
しかし、地面に到達した火矢の炎が瞬時に、地面に燃え拡がる。
また、建物に届いた火は、やがて轟音とともに、あちこちの建物から爆発を発生させる。
「あっ、地面を濡らしていたのは油か──」
さらに、建物には火が着けば、爆発するような仕掛けもあったのだと思う。
クロイツは罠にかかったことを完全に悟った。
賊徒たちは、村落全体を罠にして、クロイツたちをわざと突破させたのだ。
そして、閉じ込めて火攻めにするつもりなのだろう。
おかしな異臭がすると思ったが、これは油の匂いをすぐに悟らせないためだったに違いない。
「撤退――。外に出よ。外だあああ」
クロイツは必死に大声を発した。
だが、そのときには、村全体が炎に包まれていて、煙で視界さえなくなっていた。
「とにかく、撤退だ──。砦の外に出るのだ──。急げ──」
クロイツは懸命に馬を駆けさせた。
そのあいだも、降ってくる火で炎が拡大し、大混乱が侯爵軍に生じ続けた。
短いですが、ここまでしか書けませんでした。続きは次回……。