【2025.9.5コミック発売】異世界で淫魔師ハレム【完結】 作:ドン・ドナシアン
「はあ……」
「ふう……」
後ろを歩くふたりの気怠そうな息が聞こえる。
コゼとスクルドだ。
一郎は振り返って、口元を緩ませる。
「休んでていいと言っただろう。ちょっと、ガドの大叔母に会ってくるだけじゃないか」
「冗談じゃありません。そ、そんな相手とご主人様を護衛もなしに会わせられるわけないじゃないですか。とにかく、は、離れませんからね」
「そうです……。わたしもご主人様から目を離したとあっては、エリカさんに叱られますわ。ましてや、敵とお会いになるのに……」
コゼとスクルドだ。
もっとも、勇ましそうな言葉のわりには、ふたりとも足元がふらついているのがわかる。
まあ、無理もない。
ラザニエルから伝言があったとき、直前まで一郎とセックスをしていて、ひと休みのつもりでゆっくりとしていたところだった。
一郎は女を抱くときに、どうしても相手を追い込む性癖があるようであり、どちらかというと自分が気持ちよくなるよりも、女側が快感に錯乱して我を忘れる姿に接するのが好きなようだ。
だから、ついつい、女には無理をさせてしまう。
それはともかく、コゼにしても、スクルドにしても、まだまだ足がふらついている状態だ。
これが亜空間セックスであれば、精神的な疲労はともかく、体力的なものは現実側には及ぼしにくいところがあるが、ふたりとは普通に抱き合っていた。
ふたりとも、無理についてきたが、まだまだつらそうな感じではある。
一郎の淫魔術で回復させることも可能だが、こうやって色香をむんむんさせて、出歩く姿が可愛いので、このままにすることにした。
「なにが敵だい。わたしもいれば、ガドニエルもいる。万が一にも、こいつには危険なことはさせないよ」
口を出したのは、一郎を迎えにきたラザニエルだ。
向かっているのは、ガドニエルが来客と面談としているという「小謁見室」である。幾つかある女王の謁見室の中で、もっとも私的な面会に使う場所らしく、一郎はそこに向かっている。
ガドニエルと面談をしている「来客」が一郎と会いたがっているということだからだ。
「じゃあ、なんでご主人様を連れていくんですか──? そっちの親戚のことなんだから、自分たちで解決すればいいんじゃないですか」
コゼが不機嫌そうな口調で言った。
「まあ、折角の機会だ。ラザやガドの親族という相手に会っておくさ。これから長い付き合いになるかもしれないしね。それにしても、今日は、シャングリアも大叔父殿に会いに行ったし、親族面談の日なのかねえ」
一郎は軽口を言った。
実のところ、ラザニエルから伝言があったのは、女王家の親族にあたる「大伯母」という人物が一郎との面会を求めているという話だった。
大伯母といっても、親の姉という意味の伯母ではなく、世代的には五代近く前のエルフ族の王の妹という女性ということだ。
ただ、大変な女傑であり、これまでの十人以上のエルフ族の夫を持ち、愛人との間の子を含めた数は五十人を超えるのだという。
エルフ族は寿命が長いこともあり、元来、生涯に産む子の数が少なく、数百年ほどある一生のあいだに、多くても三人程度しか生まないらしい。
だから、五十人の子供というのは、エルフ族の高位貴族としては、とんでもない子だくさんということになるようだ。
しかも、王家の血を持つので、血筋の息子や娘の多くがナタル森林のエルフ族の支配層の重鎮についており、さらにその孫世代、ひ孫世代まで含めると、エルフ族の高位貴族や重要な地位にある者は、ことごとく彼女の血を引いているといっていいらしい。
つまりは、大変な大物なのだ。
「面倒な相手だというのは確かだけどね……。その気になれば、どうにでもなる。彼女自身が権力を持っているわけでもないし、元老院に席があるわけでもないしね。政権に関係のある地位から退いてから数百年は経っている。まあ、追い返してもいいんだけど、彼女が突然に訪問してきたのさ。一族の大長老だし、わたしもガドニエルも無碍にはできない」
ラザニエルがくすくすと笑った。
一郎は、自分の横で屈託なく笑う彼女に、改めて可笑しみのようなものを感じた。
そもそも、一郎がこの世界に「召喚」という手段でやってきたとき、一郎はアスカだったラザニエルによって奴隷にされて酷い扱いを受けた。そして、アスカからエリカを連れて逃亡し、不倶戴天の敵同士のようになり、なぜか、いまは男女の関係になって、しかも、一郎が上位の関係で、ラザニエルは一郎の性奴隷である。
考えてみたら、不思議なものだ。
「だけど、それはご主人様に関係ない話じゃないですか」
コゼが不満そうに言った。
「まあ、そうかもしれないけど、さっきも言ったけど、面倒な相手であること確かでね。元老院に席のある者の半分は、彼女の血を受け継いでいたりするのさ。あれに反対されれば、これまで落ち着きかけていたものがひっくり返らないとも限らない。なにせ、影響力があるからね」
「落ち着いていたものというのは、ご主人様とガドさんの関係のことですか?」
スクルドだ。
「まあ、そういうことだね」
「でも、元老院は、ご主人様とガドさんについては反対されてないのでは?」
「反対はしてないさ。そもそも、未婚の女王が誰を恋人にしようが、元老院といえども反対なんかできないさ」
「あら、女王陛下が誰を恋人にしようがそれは自由ということですか?」
「まあね。人間族の王室では婚姻前の貞操を守ることが大事とは聞くけど、そんなのは寿命の短い人間族だけの慣習さ。こいつが人間族であることには、眉を
ラザニエルが言った。
「一時的? あの女王様は、そんな感じじゃないんじゃないですか? “
コゼが再び口を挟んだ。
「さすがに、番の誓いのことは元老院には報告してない。時期尚早さ。そんなことを報告すれば、まとまるものもまとまらない。わたしとしては、もはや、ガドニエルとこいつの関係を応援するつもりではいるけど、ゆっくりと時間をかけて既成事実化していくのが賢明だと思っている。すでに、“
「エルフ族の方々は、ご主人様をガドさんのお相手として、お認めになったんじゃないですか?」
スクルドが言った。
「だから、恋人としては認めているということさ。でも、さすがに女王の伴侶としては別問題になるね。だから、ガドニエルは、こいつと結婚するとまでは、
スクルドの言葉に、横を歩くラザニエルが軽く息を吐く。
パリスが死んだ後の混乱の中、一郎はパリスに支配されていたエルフ女たちの「治療」のために、三日かけて全員を抱いて淫魔術の支配に置いた。彼女たちの肉体だけでなく、毀れた心を元に戻すために必要だったのだ。
ただ、女王に仕えるくらいの女性たちなので、エルフ族の社会の中ではかなりの高位階級に属する女性たちだったようだ。
彼女たちが実家に働きかけ、今回の一郎の「英雄認定」に結びついたとは耳にしている。
ただ、確かに、一郎とガドニエルの仲は公然の愛人関係というものであり、別段、エルフ族の元老院を代表するエルフ族社会が一郎をガドニエル女王の夫と認めたわけでもない。
一方で、ガドニエルが、一郎と“
その事実については、ラザニエルも、当面は絶対に隠せと厳命しているとも聞いている。
当のガドニエル女王は、隠すつもりがないみたいだが、彼女が突っ走るのを、物事にはタイミングというものがあると、懸命にとめているのがラザニエルなのだ。
ラザニエルは、人間族の一郎がエルフ族女王の夫と認められるように、時間をかけて元老院工作をするということは約束をしてもらっている。
一郎としては、表向きの肩書など気にはしていないが、まあ、任せているというのが本音だ。
「あっ、もしかして、その大叔母という人に、ガドがご主人様と“
コゼが言った。
「ご明察。本当に、あいつは嫌になるよ。しばらく黙っていろという言葉が理解できないのかねえ。わたしは別に難しいことも言っていないし、無理も強要してないつもりだけどね。こいつと愛し合うのはいい──。反対してない。だけど、すでに、
ラザニエルが深く嘆息した。
一郎はやっと状況が呑み込みかけてきて、思わず頬を綻ばせた。
「つまり、それでガドさんの危機というわけですか?」
すると、スクルドが口を挟む。
「まあね。先日の英雄式典の映像のことで大叔母が訪ねてきて、世間話をするうちに、あいつが余計なことをぼろぼろと喋って、ややこしいことになったんだ。女王を退位しろとまで迫っている。ガドニエルのことを、後先考えない、ろくでなしとまで罵っている。まあ、困ったものさ」
「退位ですか?」
「ああ」
「だけど、退位していいなんて、ガドは喜びそうですね」
コゼだ
「それが一番困っていることさ。大叔母に女王をやめろと怒鳴られて、ガドニエルが“はい、喜んで”と答えたものさ。あいつ、馬鹿なのかい」
ラザニエルが吐き捨てた。
一郎は吹き出した。
「そもそも、人間族とは違って、エルフ族は代々少子型だ。先王も、先々王の係累はほとんどなかった。簡単に王位を替われる者などない。大叔母だって、ただ喚いているだけで、本気で女王をやめろと迫っているわけじゃないんだ。まあ、そういう性格なのさ」
さらに、ラザニエルが言った。
「新しい女王なら、ラザがいるだろう」
一郎は笑いながら言った。
「冗談じゃない。一度、闇落ちしたわたしが、女王なんてあり得ないね」
「そんなの表に出てない?」
「とにかく、ごめんだよ。だから、お前を連れていくことにしたのさ。向こうもそれを望んでいるしね。一度、会わせろってさ。最初は無視しようかと思ったけど思い直したんだ。最初にも言ったけど、権力はないけど、元老院だけでなく、エルフ族の高位貴族の中に、かなりの影響力を持っている。支配しておいて損はない」
「支配ねえ……」
一郎は肩をすくめた。
「エルフ族の中でも大変な長命だけど、枯れた外観はしてないよ。先祖返り種だと言われているけど、確かなことはわたしたちも知らない。ただ、歳のわりには綺麗だとは思うよ。エルフ族だしねえ。もっとも、どうして、大叔母がエルフ族の中でも、ひと際長い寿命を持っているのかは謎さ」
「まあ、会ってみようか。だけど、会った瞬間に、女王を寝取った人間族だと言って、殺されはしないよねえ?」
一郎は半分冗談で、半分本気で言った。
「そこまでの魔道力はないはずさ。それに、ガドもいれば、わたしもいる。後ろのふたりもいる。そんな場所で無体はしないさ。そもそも、大叔母はあまり、魔道が得意じゃないしね」
「魔道が得意じゃない? エルフ族の王族に連なる者ですのに?」
口を挟んだのはスクルドだ。
ラザニエルがお道化るように両手をあげる。
エルフ族の王族だから、魔道力が高いのが当たり前なのかは知らないけど、スクルドは、大叔母と呼ばれるエルフ族の女性が、魔道が得意ではないというのが不思議そうな口調だ。
「大叔母の魔道能力は、すべて見た目の歳をとらないことに使われていると言われているね。実際に、いくらエルフ族とはいえ、三百年も経てば、さすがに老いが外見に出る。だけど、あの大叔母は、少なくとも八百年は生きていると言われているからね」
「八百歳?」
一郎は驚いて言った。
もっとも、エルフ族の寿命の相場というのは承知してないが……。
「とにかく、人払いもしているし、防音の魔道もかけている。さくっと犯してしまいな。それで万事解決だ。抵抗しても、わたしらが四人がかりで押えつけてやるよ」
ラザニエルが一郎を見て白い歯を見せる。
「それは、犯罪だろう」
一郎は苦笑してしまった。
やがて、やっと大叔母が待っているという場所についた。
部屋の前には、エルフ族の親衛隊の女兵が十名ほどで警備をしており、一郎の顔を見ると、一斉にぽっと顔を赤らめて笑顔になる。
一郎は小さく手を振った。
「お前たち、しっかりと仕事しな」
ラザニエルが呆れたように言うと、親衛隊の女兵たちが焦ったように真顔になる。
部屋に入る。
しかし、目の前に薄い膜のようなものがあり、部屋の中は見えない。
だが、ラザニエルについて、そこを通り抜けると、急に視界が広がった。
すると、ソファに向かい合って腰掛けるガドニエルと、もうひとりのエルフ族の女性が見えた。
一郎たちが入ってくると、エルフ族の女性がこっちを振り返った。
確かに若いな──。
ガドニエルの前にいる女性が、「大叔母」とラザニエルが呼んでいる人物なのだろう。
千年近くも生きている女性とは思えない。
さすがに少女のようにとは言えないが、一郎の価値観では、四十前後の品のいい女性という感じだ。
これが、エルフ族の高位階級に影響を大きな持っている長老格の女性か……。
もう少し、老人姿を予想していたので、ちょっと意外だった。
確かに、十分に抱けるか……。
「そなたがエルフ族の英雄の人間殿か? それほどの大人物には見えんがのう……」
エルフ族の女性が蔑むような表情になった。
だが、その顔がすぐに困惑したような顔に変化する。
そして、顔を険しくして、首を傾げた。
「ええ、そうです──。ロウ様です。わたしのご主人様なのですわ。素晴らしいお方なのです──」
一方で、エルフ族の女性と向かい合う場所に座っているガドニエルがぱっと破顔した。
満面の笑みを一郎に向けてくる。
「はいはい、もう惚気は聞き飽きたよ。それにしても、本当にこの男が?」
エルフ女性が一度、ガドニエルを振り返ってから大きく嘆息して、一郎に再び視線を向ける。
だが、やはり怪訝そうな顔になる。
しかし、一方で一郎もまた、困惑してしまっていた。
目の前の大叔母という女性のステータスだ。
“ケイラ=ハイエル(田中享子)
エルフ王族(日本人)
エルフ族(転生者)、女
年齢850歳(20歳)
ジョブ
魔道遣い(レベル4)
招魂士(レベル50)
生命力:200
攻撃力:50(素手)
魔道力:1000
経験人数:男***、女**
淫乱レベル:A
快感値:200
能力
招魂術”
随分とおかしなステータスだと思った。
年齢は、八百歳超えと二十歳が重なっているし、招魂術という得体の知れないジョブや能力がある。
なによりも、田中
日本人の名前?
一郎は、動顛してしまった。
「どうしましたか、ご主人様?」
「ちょっと、お顔の色が……」
コゼとスクルドが不審そうに、一郎の顔を覗き込むのがわかった。
だが、目の前の大叔母、ケイラ=ハイエルというエルフ女性もまた、唖然とした顔になっている。
「えっ、人間族って言っていたのに……。あの映像じゃわかんなかったけど、本当に黒髪? しかも、まるで日本人みたいな……」
ケイラがほとんど呟くように言った。
だが、一郎は聞き逃さなかった。
「日本人? そう言った?」
一郎は思わず声をあげた。
「ちょ、ちょっと待って……。まさか……」
すると、突然にケイラが声をあげた。
「……ねえ、ご主人様……。さっきから、なにを喋っているんですか? いまのは、どこの言葉ですか?」
「そうだよ。いきなり、なんだい? どうしたのさ、大叔母も、ロウも……」
そのとき、コゼ、さらに、ラザニエルが困惑した口調で言った。
それで気がついたが、どうやら、一郎は無意識に、元の世界の言葉で語っていたみたいだ。
これまで、言葉については気にしたことがなかったが、召喚術でこの世界に呼ばれたときから、なぜか、最初からこの世界の言語で喋っていた。召喚術に付属する能力向上のひとつらしく、だから、言語を意識したことなどなかったので、一郎はたったいま、二年ぶりに、自分が日本語を喋ったことに気がつかなかったのだ。
「ど、どういうこと……? なんで……?」
ガドニエルやラザニエルの大叔母こと、ケイラだ。
しかし、口にしているのは日本語だし、まるで口調も雰囲気も変化した。
「ねえ、まさか……。い、一郎お兄ちゃん──?」
ケイラが一郎の顔を覗き込むようにしながら、大声を発した。
やはり、日本語だ。
しかも、“一郎お兄ちゃん”──?
この世界でも、前の世界でも、一郎のことをそう呼んだのは、ただひとりの人物しかいない……。
伯父さんのところの……。
だけど、あり得ない……。
絶対に……。
だが……。
「悪いけど、ふたりきりにしてくれないか?」
一郎はみんなに言った。
とりあえず、こちらの世界の言語で……。