【2025.9.5コミック発売】異世界で淫魔師ハレム【完結】 作:ドン・ドナシアン
592 待ち受けていた罠
「よく来たわね、エリカ。気分はどう?」
「最悪よ」
エリカは不機嫌さを隠すことなく、ジャスランに言った。
身につけているのは、まるで下着のような股間と乳房を隠すだけの革製の具足だ。こんな格好で人前に引き出されて、気分などいいわけがない。
連れてこられたのは、五十人ほどのモーリア隊の傭兵が集まる大天幕であり、エリカをここまで連行してきた兵によれば、いつもは兵たちが食事をする場所なのだそうだ。
ここは、モーリア男爵家がハロンドールの国境を越えたナタル森林に展開をさせている一隊の集結地である。
エリカたちは、ここに監禁されているのだ。
「シャングリアは生きてるの?」
「彼女も含めて、全員が生きてるわ。女兵のふたりは返したけどね。スクルドへの伝言を持たせないといけないし……。あんたらを殺すのは、スクルドを捕らえてからよ。せいぜい、残酷に殺してやるわね……。スクルドへの見せしめよ。もちろん、スクルドは最後に殺すわ。あいつが大好きなご主人様を殺させてから、自殺させるつもりよ」
ジャスランが憎々しげにエリカに言った。
エリカは心の中で舌打ちした。
ここにいるジャスランが準備していた罠にかかり、このモーリア隊に捕らわれてから、丸一日が過ぎている。
油断といえばそれまでだが、そもそも、エリカたちには彼女たちと敵対する理由がなかった。
だから、あんなに卑劣な罠が準備されているなど、思いもよらなかったのだ。
エリカたちの役割は、ロウの身柄を確保するために密かに展開をしているという情報だったモーリア隊を説得して、エルフの女兵隊とともにハロンドール国内に戻るロウを無条件に通過させるように約束させることだった。
彼らを手配したのは、いまや、ハロンドールの王都で、国王を監禁して王宮に閉じこもっているという妖魔のサキであり、どういう拗れ方なのか理解不明なのだが、いまや、国王の名によってロウは手配犯になっており、しかも、サキとアネルザが対立して、ロウの身柄の確保競争のようになっているそうなのだ。
このモーリア隊は、サキ側の手配でロウの身柄を確保するために国境越えのナタル森林に派遣されている一隊ということだ。
そういう事情は、スクルドから教えられていたので理解はしていた。
しかし、サキが手配に使ったモーリア隊は、シャングリアの実家であり、シャングリアを連れていけば、わざわざ強引に突破しなくても、話し合いで通過させてくれるのではないかという期待もあった。
そもそも、サキそのものが、ロウを通じてだが、エリカたちの仲間だ。
敵対する必要など皆無なのだ。
そして、そんな思惑もあり、とりあえずは、モーリア隊には交渉で臨むことになった。
実際に、イライジャが冒険者ギルドを利用し、モーリア男爵にわたりを作り、魔道通信で交渉をやったようだ。
そして、男爵からは、あっさりと、本当にシャングリアがこっちに同行しているのであれば、王家の命令ではあるが、ロウを捕縛するということはしないという返事を受けることができた。
後で考えると、それは完全な罠だったのだが……。
それで、エリカは、当人のシャングリア、交渉をしたイライジャ、さらに、移動にエルフ王家の移動術の設備を使うことになったので、その隠し場所を知って運用もできるアルオウィンの四人でロウたちに先行をして、モーリア隊と接触を図ることになったの。
先遣隊ともいえるエリカたちには、「クロノス親衛隊」と通称することになったエルフ族の女兵ふたりがさらに同行した。女兵とはいえども、ロウの性支配を受けて能力が桁あがりになっている強兵であり、これだけで十分な戦力のはずだった。
わずか、二百ほどの傭兵程度には、不覚をとるという予想もしていなかった。
だから、油断したのだ。
事前の交渉によって、話し合いの場所として設定した森林内の一角には、十人ほどの部下を連れたモーリア男爵自身が待っていて、にこやかな表情でエリカやシャングリアたちを待ち受けていた。
最初の直接交渉も順調に進み、男爵はシャングリアが健勝であることを喜ぶとともに、こちらの要求を全面的に受け入れ、すぐに隊を引きあげさせようと約束をしてくれた。
ほっとした。
そして、さらに詳しく内容を詰めるために、このままモーリア隊の本隊に合流するということになり、その日はモーリア隊で宿営場所も提供するということになった。
このときには、誰もモーリア男爵に疑いは持ってなかった。
ただ、到着したモーリア隊の様子が、スクルドから事前に耳にしていたのとは違うなとは、ちょっと思った。
スクルドからは、モーリア隊には、姿を隠すための魔道を込めた指輪を全員分準備して渡していて、森の中に隠蔽して隠れるように、彼らが展開をしているだろうと聞いていた。
だが、実際に到着したモーリア隊は、油断なく警戒をしているが、ちっとも隠れてはおらず、堂々と森林内に陣を作っていた。
しかも、陣内の中央には、ここのような天幕をたくさん作っていて、隠すことなく堂々と宿営をしていたのだ。
違和感があったが、スクルドの言葉には明らかになにかを隠しているようなおかしな部分もあったので、なにかの情報違いだろうとは思った。
そして、護衛隊のふたりを天幕に残して、細部の交渉をするために案内をされた別の会議用天幕の中で、突然に爆発の洗礼を受けた。
なにが起きたかわからなかったが、もうすぐ男爵が戻ると言われて待たされた天幕が、そこにいた案内役の複数の傭兵とともに、大爆発を起こしたのだ。
いや、その傭兵たちそのものが、爆薬を大量に腹に入れた生きた兵器だったのだ。
咄嗟に魔道の壁を展開して防いだが、衝撃までは免れなかった。
また、無論、エリカたちを囲んでいた傭兵については、全員が爆発によって即死していた。
そして、倒れて動けないエリカたちのところに、傭兵を率いたジャスランが現れた。
彼女を見たのは、それが初めてだった。
スクルドからジャスランの存在は耳にしていたが、サキの部下だと教えられていただけで、怒らせたというニュアンスであり、あそこまで恨みを抱かれているとは聞いてない。
もしも、知っていたら、もっと警戒しただろう。
なにしろ、あのスクルドは、なにかというと「問題はない」とにこにこと微笑んで言うので、なら大したことはないだろうと錯覚をしたみたいだ。
情報を隠したスクルドには、怒りを覚えたが、いずれにしても、ジャスランがスクルドに対して、殺したいほどの恨みを抱いているというのは、後で知ったことだ。
ただ、このときには、女傭兵の恰好をした彼女について、ほかの女兵同様に、ただの傭兵だと思っていた。
二百人の傭兵の中には、女も大勢混ざっており、女傭兵は珍しくなかったのだ。
しかし、集まってきた兵たちに対し、倒れているエリカたちに容赦なく電撃棒で繰り返して攻撃するように命じるのに接して、少なくともリーダー格なのだろうとは考えた。
そして、現われたモーリア男爵を顎で使うようにして、シャングリアについては、支配が効かないので抵抗できないように手足の骨を折れと指示したのにはびっくりした。
そして、彼女がジャスランなのだろうと予測した。
黒と赤のまだらの特徴のある髪をしていた若い女であり、明らかに憎悪の視線をエリカたちに向けていた。
それはともかく、驚いたのは、モーリア男爵が躊躇なく、頭を打って動けないシャングリアを拘束させて、本当に手足の骨を折るように部下に命じたことだ。
エリカは叫んだが、ほかの者同様に、強い電撃をエリカもまた浴びせ続けられていて、まともに抗議の声さえ叫ぶことはできなかった。
そのうちに、魔道封じの効果のある拘束具を装着されて、自由を奪われるとともに、エリカ、イライジャ、アルオウィンについては、ひとりひとり、ジャスランから爆風を受けて身体から流れる血を採集された。
それがどういう意味があるのか知ったのは、あとでジャスラン自身から、スクルドに恨みがあり、スクルドの仲間は誰も彼も、最終的には殺してやるのだという彼女の決意を聞かされたときだ。
とにかく、その後、エリカは隠して準備してあった檻車の中に閉じ込められ、シャングリアを含めて、ほかの仲間とも引き離されて監禁された。
檻車の前に、ジャスラン自身が現われ、エリカにスクルドへの恨みを滔々と喋ったのは、監禁されてから少し経ってからだ。
エリカは、魔道封じの腕輪はされていたが、実のところ、檻車に入れられるときに、拘束は解かれていた。
そのときには驚いたが、そのときのジャスランは檻車の鍵を開いて、エリカに外に出るように言ったのだ。
訝しんだが、魔道を封じたくらいで油断したなら、それに乗じるだけだ。
檻車を出たところで、ジャスランに飛びかかろうとしたが、ジャスランに「その場で伏せろ」と口にされると、エリカの身体は突然に自由を失って、地面にひれ伏してしまった。
エリカは驚愕した。
そして、ジャスランは、「洗脳球」がしっかりと効果を発揮しているという意味の言葉を口にすると、次々にエリカの行動を縛るような言葉をぶつけ、エリカがまったくジャスランに逆らうことができないようにしたのだ。
このときに教えられたのが、洗脳球の効果だ。
それは、ジャスランが持っている強力な支配系の魔道具であり、血を使って洗脳球と魔道遣いの魔道波を結びつけることにより、本来は頭から発信させるはずの首から下の身体への指示を、洗脳球を持つ者からの指示にすり替えることができるというものなのだそうだ。
そのとき、エリカは、ジャスランが透明の水晶玉のようなものをずっと握って、エリカに言葉をかけ続けていることに気がついた。
そんな支配具があるのかと愕然としたが、エリカが自由を奪われたのは確かだ。
ジャスランが次に命令をしたのは、エリカが身につけているものをすべて脱ぐことであり、エリカの身体はジャスランに逆らうこともできずに、勝手に服を脱いでしまった。
下着まで脱いで全裸になったときには、あまりの屈辱ではらわたが煮え返りそうになった。
いずれにしても、以前に、ロウの支配をすでに受けている以上、ほかの者の支配に陥ることはないと言われていたので、自分が呆気なく自由を奪われて、ジャスランの支配に入ったことには、驚くしかない。
だが、どうしていいかわからなかった。
ジャスランは立ち去り、そのまま檻車に戻れと言われて、いままでずっとその中にいた。
今度は鍵はかけられず、見張りさえいなかったが、ジャスランの言葉に逆らえなくされたらしいエリカの身体は、逃亡するという行動はとることができなかった。
そのまま、丸一日……。
水も食べ物も与えられることなく、時間が過ぎた。
そして、少し前に、ジャスランが檻車に現れて、いま身につけている下着のような具足だけを渡して、あとで部下が迎えに来たら同行しろと告げたのだ。
約一ノス後……。
エリカは言われたとおりに、ジャスランが寄越した傭兵に連れられて、この大食堂の天幕にやって来たというわけだ。
「……それよりも、思ったよりも元気そうね。喉が渇いたでしょう。水よ」
ジャスランが座っている場所の前で立たされたエリカに、彼女が言った。
そして、持っていた水を履物を脱いだ自分の片側の素足にかけた。
「なっ」
エリカは意味がわからなくて顔をしかめたが、次にかけられた言葉に愕然とした。
「舐めなさい。それがお前の水よ……。あんたって、ロウ=ボルグの一番奴隷なんだってね。だったら、一番屈辱的な目に遭わせてやろうと思ってね。だって、あのスクルドが慕っているロウの一番の愛人なら、スクルドの代わりよ。あれが来るまで、わたしの玩具、いえ、生け贄になりなさい」
ジャスランが言って、宙からあの透明の球体を取りだして握った。
「うわっ」
エリカの身体は勝手にジャスランに跪き、その濡れた足に舌を這わせだした。