【2025.9.5コミック発売】異世界で淫魔師ハレム【完結】 作:ドン・ドナシアン
「……どこの誰かわからない旦那様……。助かりたければ、話を合わせてください……。さもないと、あなたも、あの連れの女の方々も死ぬだけです……。なぜ、マーリン様の名を知っているのかわかりませんが、マーリン様は強力な魔道遣いです。ゴーストになったいまでも、一瞬であなた方を殺せます……。たとえ、すっかりと狂っているとしても……」
人間の少女の姿そのものの屋敷妖精のシルキーがささやいた。
「えっ?」
一郎は思わず、問い返した。
しかし、シルキーは「静かに」という意味の警告の音を鳴らした。
すると、密着させられていた長椅子に対する拘束力がなくなった。
この屋敷妖精のシルキーが魔道を解除したのだろう。
「……マーリン様を支配する主人を演じてください。あなたをピエールご主人様と思っているあいだは、マーリン様は大人しいです。でも、そうでないと思った瞬間に、あなたたちを殺します」
再びシルキーが早口で語った。
一郎はとっさに、ここは彼女に従うべきだと判断した。
いずれにしても、エリカとコゼが危険な状態だ。
あの媚香は強烈すぎる。
一郎は、ふたりのステータスを確認した。
“エリカ
エルフ族、女
冒険者
年齢18歳
ジョブ
戦士(レベル20)
魔道遣い(レベル10)
生命力:5↓
攻撃力:1(拘束状態)
魔道力:100
経験人数:男1、女3
淫乱レベル:S
快感値:2↓
状態
一郎の性奴隷
淫魔師の恩恵
媚香による泥酔(危機状態)”
“コゼ
人間族、女
冒険者
年齢20歳
ジョブ
アサシン(レベル18)
戦士(レベル20)
生命力:5↓
攻撃力:1(拘束状態)
経験人数:男26
淫乱レベル:B
快感値3↓
状態
一郎の性奴隷
淫魔師の恩恵
媚香による泥酔(危機状態)”
やはり、あの煙は危険だ。
媚薬の煙とゴーストは称しているが、効果が強烈すぎて毒と同じだ。
おそらく、これ以上あれを吸えば、そのまま頭の線が切断されて元に戻らなくなる。
すでに生命力があんなに低下するほどに影響を与えているのだ。
ふたりとも口から泡を吹き、鼻水も涙も垂れ流し放題の凄まじい状況だ。
「マーリン、女たちへの責めをやめよ」
一郎は叫んだ。
すると、女ゴーストのマーリンが一郎を険しい表情で睨んだ。
一郎は一瞬、恐怖に包まれた。
さっきまでの穏やかそうな表情が一変している。
眼は血走り、栗毛の長い髪がまるで下からの風に煽られたかのように逆立っている。さらに、表情には怒りと憎しみの感情がありありと噴き出ている。
「な、なんで……なんで、そんなことをいうの、ピエール……? お前は誰……? ピエールが女奴隷を調教するのを邪魔するはずがない……。そんなことはないはずだ……。お前はピエールではないのか……? もしかしたら、そうなのか……? もしかしたら……もしかしたら……もしかしたら……」
マーリンが呟き始めた。
そして、その声がだんだんと大きくなる。
「……だ、旦那様……。いけません……。マーリン様が違和感を覚え始めています……」
横にいるシルキーが焦ったような口調で小さくささやく。
一郎は緊張で溜まった唾液を飲む。
「やめろといったら、やめよ。なんという生ぬるい方法で調教をしているのだ。見よ。このままでは発狂するぞ。いきなり狂わせてしまうような緩い調教をしてどうする」
一郎はわざと怒るような声をあげた。
一方で、淫魔術を駆使して、エリカとコゼの回復を図ろうとした。媚薬の吸いすぎに関する影響であれば、一郎の淫魔術でそれを消せるはずだ。
だが、あの媚香は強すぎて、遠隔操作では操作はできなかった。
ならば、直接に身体に精を注げば……。
「ご、ごめんなさい、ピエール。ああ、わたしの調教は生ぬるかったのね……。狂わせてはならない……。そうね……。その通りだわ……」
マーリンの態度と表情が急に大人しいものに変わった。
次の瞬間、媚香の煙だけは消滅した。
だが、エリカとコゼの意識がほとんどない状態であることには変わりない。
よくはわからないが、一郎がピエールとかいう彼女の夫のふりをし、しかも、彼女に対して支配的に振る舞う限り、マーリンは安定するようだ。
だが、シルキーが諭した通り、一度怒らせれば終わりなのだろう。
マーリンの強力な魔道で三人とも殺すことができるというのは、その通りかもしれない。魔眼でステータスの読めないゴーストのマーリンだが、凄まじい力だけは感じることができる。
とりあえず、まずは、マーリンを支配しなければ……。
「……それよりも、久しぶりの俺の帰還なのだぞ。挨拶はどうした、マーリン? 調教を受けねばならないのは、俺の連れてきた女奴隷ではなく、お前ではないのか?」
尊大な口調で一郎はマーリンに言った。
「おおおおっ」
マーリンが喜悦のこもった雄叫びをあげる。
「……その調子ですよ……。上手ですね、旦那様……。地下に調教室があります……。とりあえず、マーリン様を下に行かせてください……。あの女たちには申し訳ないですが、マーリン様に、あの女たちの躾をしろと命じれば、マーリン様は、女たちを連れて、地下の調教室に行くはずです……。そのあいだに、旦那様には事情を説明します……」
屋敷妖精のシルキーが小声で言った。
マーリンがすっと一郎に近づいてくる。
一郎はとっさに片足をすっと前に出した。
ほとんど無意識の行動だったが、マーリンは再び悦びの声をあげて、その一郎の足の前に触れ伏した。
さらに、その足に接吻をするように、マーリンは顔を一郎の足に密着させた。もちろん、ゴーストのマーリンが口づけをしても、まったくなにかが触れたという感じはしない。
ただ、マーリンは一心不乱に一郎の足に口づけをしている。
やがて、ひれ伏した状態のまま、一郎に対して顔をあげた。
「……妻であり、卑しい奴隷のマーリンでございます。お帰りなさいませ、あなた……。そして、どうか、旦那様への挨拶を忘れたわたしに罰をお与えください……」
マーリンは言った。
その表情はすっかりと被虐の酔いに染まっている。
これは完全にピエールという夫に躾けられたマゾ女の顔だ。
とにかく、ピエールというマーリンの夫を演じ切ることだ。
「罰か……。そうだな……。では、俺はいまから、あの女奴隷を犯す。お前の罰は、それをじっと見ていることだ。お前の愛する夫が、ほかの女に精を注ぐのを片時も目を逸らさずに見続けよ。それを見ながら自慰をするのだ。それがお前への罰だ」
一郎はそう言って立ちあがった。
「おお──。この妻であるマーリンの前で、ほかの女を抱くと……? そして、それを黙って見続けて、しかも、自慰をせよというのですね……。なんという残酷な仕打ち……。なんという鬼畜な命令でしょう……。おおっ、おおおおっ……」
マーリンが感極まった声をあげた。
その口調は悲しみの響きではあるが、心から悲しいというよりは、嘆き悲しむ自分に酔っているという感じだ。
一郎は立ちあがって、宙に浮かんでいるエリカとコゼのところまでやってきた。
ゴーストのマーリンがついてくる。
「マーリン、ふたりをおろせ。そして、ここで、じっと見ているのだ」
エリカとコゼの身体が床に落ちた。
しかし、ふたりとも痙攣のような震えをするだけで、ほかの反応はない。
まずは、エリカの背後に回って、スカートと下着をおろす。
股間はまるで尿でも洩らしたような大量の愛液で溢れていた。
一郎は仰向けにしたエリカの両腿を抱えると、ズボンから取り出した怒張を一気にエリカの膣に滑り込ませた。
「んふうううっ」
失神状態だったエリカが身体をのけ反らせた。
すぐさま精を注いだ。
淫魔術は精を注ぐことで相手の女の身体と心を強く支配することができる。それは、すでに支配に落ちている女であっても同様だ。
マーリンの媚香でおかしくなっていたエリカの身体を精の支配の力で、元の状態に近づけていく……。
「んふっ、んふうっ、ふうっ……」
エリカの息が強くなる。
一郎は律動を開始した。
すぐそばでマーリンが食い入るように一郎とエリカを見ている。不自然な態度があれば、この狂ったゴーストがいきなり怒り出すかもしれない。
途中でもう一度精を放つ。
そのあいだも、一郎は腰を突きあげ続ける。
エリカの生命力が急速に快復していく。
「あはあああっ──」
エリカが絶叫して身体を震わせた。
あっという間に達したようだ。
身体が回復したことで、一郎の怒張の律動に快感を覚えることができるようになったのだ。
一郎は怒張をエリカの子宮に打ち続けながら、エリカに身体を覆い被せた。
そして、耳を舌で愛撫するような仕草で、エリカの耳に口を寄せる。
「……エリカ、コゼとともに、しばらく耐えろ……。話を合わせるんだ。俺はピエールというゴーストの夫を演じる……。そして、なんとか脱出方法を探る……。お前たちは抵抗するな……。下手に抵抗すれば、全員が死ぬ……」
エリカが目を見開いた。
聞こえたようではあるが、まだ完全には状況を飲み込めないらしく、不審と驚きの表情が顔に浮かんでいる。
まあいい……。
とりあえず、理解はできただろう……。
「そら、精を放つぞ。マーリン、見ているか? 俺が、お前という妻の前で、ほかの女を抱くのを見ているか?」
一郎は叫んだ。
律動を続けながら横を見る。
「おおおっ、見ております、ピエール……。あなたの残酷な命令をこのマーリンは忠実に実行しております。わたしは、あなたがほかの女を犯すのを見ながら自慰をしております」
女ゴーストは、自分で股間をまさぐる動作を続けている。
だが、一郎の淫魔術をもってしても、さすがにゴーストの身体に性感帯の地図である例の赤いもやは見えない。
「ああ、いく、いく、いきます──いぐうう──」
一郎に犯され続けているエリカが声をあげて、身体をのけ反らせた。
再び、エリカは達したようだ。
“エリカ
……
生命力:45↑
快感値:0
状態
一郎の性奴隷
淫魔師の恩恵”
とりあえず、もう大丈夫だ……。
一郎はがくがくと身体を震わせるエリカのステータスを確認しながら思った。さっきはあった“媚香による泥酔(危機状態)”という言葉も消滅している。
ほっとした。
それとともに、一郎の精の力でゴーストを支配できないかとも考えた。
実体のないゴーストを愛撫することなど不可能だが、精をかけることで支配に陥らせたりはできないだろうか……?
まあ、とりあえず、やってみて損はない。
「口を開け、マーリン。口を開くのだ」
一郎は声をあげた。
陶酔したような表情で横に跪いて股間をいじる動作を続けていたゴーストが、はっとしたように眼を見開いた。
「は、はい」
ゴーストの口が開いた。
一郎はエリカの膣からまだ勃起している怒張を出すと、その口めがけて、精を発した。
「ほおおお──」
マーリンは興奮しきった声をあげた。
だが、一郎の放った精はそのままマーリンの半透明の顔を突き抜けて、反対側の床に落ちた。
淫魔術で支配に陥らせたという感覚はない。
「ほおおお──ピエール──ありがとうございます──ピエール──」
だが、マーリンはまるで昇天したような表情と態度で全身をびくびくと痙攣のように震わせている。
「もうひとりだ。同じように見ていろ」
一郎はコゼに寄っていきながら、エリカを見た。
意識を戻したエリカが暴れ出したりしないかと心配だったのだ。
だが、とりあえず、エリカはさっきの一郎の指示がわかったのか、荒い息をして床に横になったままでいる。
一方で、コゼはさっきまでのエリカと同じように、まだ虫の息だ。
コゼのズボンもまるで水でも浴びたかのように股間部分がびしょびしょだ。
それを脱がせて、下半身を裸にした。
普通に抱こうと思ったが、ちょっとだけ悪戯心が芽生えた。
コゼのお尻を引き寄せる。
脱力をして意識が感じられないコゼの身体をうつ伏せにして、尻の亀裂を左右に開いて、肉棒の先端を菊門にあてる。
一郎の怒張の周りに油剤を浮かばせる。
「おお、そんなところまで……」
女ゴーストのマーリンが横で声をあげた。
すっかりと調教の終わっているコゼの肛門だ。
一郎が挿入を開始すると、コゼは楽々と一郎の勃起した一物を根元までお尻で咥え込んだ。
エリカと同じように、薬剤でも抽入するように、最初に精を注ぐ。回復を念じると、コゼの身体が一気に回復していくのがわかった。
ゆっくりと律動をはじめた。
しばらくしてから、二度目の精を注ぐ。
「んああっ、ああっ、はあああっ」
コゼの意識が戻った。
乳房を両手で掴んでぐいと上半身を反り返らせた。
「んふううっ」
体勢が変わったことで、お尻の敏感な粘膜を擦られたコゼが、興奮したように大きくの震えた。
声をあげるコゼに、さっきエリカにささやいたことと同じ内容を告げる。
コゼが目を開いて、顔を後ろに向けた。
そして、強く二度頷く。
これでいい……。
あとはただ犯すだけのこと……。
一郎はコゼの乳房をそのまま揉みながら、お尻を本格的に犯し始めた。
「ほおおっ、はあっ、はああっ」
コゼが悲鳴のような嬌声をあげる。
やがて、何度目かの律動のときに、コゼは最初の絶頂をした。
さらにストロークを続ける。
しばらくすると、コゼが二度目の官能の歓びを爆発させた。
一郎が精を放ったのは、コゼの三度目の絶頂のときだ。
「ほわあああっ、ご主人様──」
感極まって絶叫するコゼに、一郎は最後の精を放った。
コゼの生命力も完全に回復させることができたのを一郎は確認した。
一郎はコゼのお尻から肉棒を抜く。
一度振って滴を落とすと、そのままズボンにしまった。
「マーリン、地下に行って、このふたりの躾をせよ。さっきのような失敗はするな。決して傷つけるな。決して殺すな。無論、決して発狂もさせるな。後で見に行く。それまでは、躾をやめるな」
一郎は荒い息をしながらこっちを見ている女ゴーストのマーリンに言った。
「は、はい……。あなたの期待に応えられるように頑張るわ……。この女奴隷ふたりの調教をする……。あなたに褒められるように、しっかりと躾けてみせる……」
マーリンはそう言うと、さっと両手を拡げた。
次の瞬間、マーリンだけでなく、エリカとコゼの身体も消滅した。
移動術……?
つまりは、テレポーテーションの魔道術だ。
それができるということは、この異世界における一郎の知識によれば、マーリンは魔道遣いとしては、少なくともレベル25以上の能力はあるということだ。
おそらく、それよりも遥かに強力な魔道師に違いない。
それだけあれば、確かに一郎たちを瞬殺できるのは間違いない。
そのとき、部屋に小さな拍手が起こった。
一郎は視線を向けた。
少女姿のシルキーが手を叩いていた。
「素晴らしいですわ、旦那様……。本当に素晴らしい……。あんなにうまくピエール旦那様を演じなさるとは思いもしませんでした……。まるで、本当にピエール様が生き返ったのかと思いました……。わたくしめは、たったいままで、女たちは無理でも、あなただけでも逃がすことはできないかと考えていました。でも、それはやめます。どうか、お願いです。可哀想なマーリン様を助けてあげてください。それが地下に連れて行かれた女たちを含めたあなた方の全員が助かる唯一の方法とも思います」
屋敷妖精のシルキーが言った。
「唯一の方法? つまり、それに成功しなければ、全員死ぬということか?」
一郎は眉をひそめた。
「おそらく……。もしかして、旦那様は冒険者の方でしょうか? これまでも、この幽霊屋敷を解放するという目的で、何度か冒険者の方々が来られました。その中の何人かは逃げることがかないましたが、多くの方はマーリン様に殺されてしまいました」
マーリンという女ゴーストがいなくなると、屋敷妖精のシルキーがすぐに口を開いた。
“シルキー
屋敷妖精、雌
支配者
マーリン(ゴースト)”
改めて、彼女のステータスを確認した。
眼の前に立っている童女のような存在が、屋敷妖精と呼ばれるものであることは間違いない。
おそらく、支配者がマーリンとあるので、シルキーはこの屋敷に仕える者として、この屋敷の持ち主であるマーリンの支配にあるのではないかと思った。
それにしても、ミランダめ……。
一郎は内心で舌打ちした。
ここが斡旋屋が紹介した一郎たちの住まいであるわけがない。
おそらく、冒険者ギルドでメモを渡したとき、ミランダは間違ったメモを寄越したに違いないのだ。
「冒険者には違いないが、この屋敷にはクエストでやってきたわけじゃない」
一郎は言った。
「おお、でも冒険者には変わりないのですね。お願いです。マーリン様の魂を救ってください。奥様は旦那様のピエール様が亡くなられたことを受け入れることができず、ああやってゴーストになって、この屋敷に縛りつけられているのです。どうか、マーリン様の魂を解放してあげてください」
シルキーは言った。
厄介なことになったものだ。
一郎は嘆息した。
「……それよりも、エリカとコゼは大丈夫か?」
一郎は訊ねた。
シルキーの言葉によれば、この屋敷には地下があり、そこが調教部屋になっているのだという。ふたりは、そこに連れ込まれたはずだ。
「おそらくは……。あなた様があんなに念を押しましたしね。酷いことにはならないとは思います。でも、マーリン様は、あのふたりをピエール旦那様が連れてきた女奴隷だと思い込んでいるので、あのおふたりを調教しているのです……。調教といいますのは……」
「いや、いい……。調教というのが、なにをするものかはわかる。俺にもその趣味はあるんだ」
「おお、そうでしたね。なかなかに堂に入った“ご主人様”ぶりでした。あんなに興奮したマーリン様は久しぶりです。まるで、ピエール旦那様が戻ってきたかのようでした」
シルキーが思い出したように、嬉しそうな声をあげた。
「しかし、そのピエールという方は亡くなられたんだな? そして、あのマーリンも死んだ。ふたりが生きているときは、マーリンはピエールという人の妻でありながら、被虐の調教を受けていた。そういうことなのだな? つまりは、“遊び”として」
「まあ、それがおふたりの趣味でしたから……。それで、おふたりは幸せだったのです」
シルキーは息を吐いた。
「さっきみたいに女奴隷や娼婦を連れ込んで、マーリンに調教させるとかもやったか?」
一郎は訊ねた。
マーリンの反応は、そういうことが日常であるような自然な反応だった。
「そんな“遊び”もなさっておいででしたね」
「もしかしたら、最初はマーリンに調教をさせておいて、途中で攻守を交代させ、責めさせていた女奴隷にマーリンを責めさせるとかやったか?」
なんとなく訊ねた。
もしも、一郎がピエールだったら、そうすると思ったのだ。
これまで責めていた相手に逆に責められる……。
これにまさる惨めさはないだろう。
「おおお……。やっぱり、あなた様は、救いの人なのかもしれません。本当に何者ですか? マーリン様の名前もご存知でしたし、本当に偶然にやって来られた冒険者なのですか? ピエール様がお亡くなりになる前に、一度だけそんな“逆転遊び”をなさったことがあります。そのときは、本当にマーリン様は興奮なさいました。まったく、なぜ、それをご存知なのですか?」
シルキーがびっくりしたような声をあげた。
「……ただの勘だ」
一郎は肩を竦めた。
ピエールがどういう男だったかは知らないが、嗜虐の性癖については、一郎と似たようなところがあったのかもしれない。
だが、その“遊び”の記憶があの狂った女ゴーストにあるとすれば、エリカとコゼを殺してしまうには至らないだろう。
もっとも、度を越すとさっきの媚香責めのようなこともある。
絶対の安全はない……。
それにしても、この屋敷妖精のシルキーは、夫婦間の赤裸々な話をよく知っているものだ……。
「とりあえず、マーリンのことと、マーリンがどうして、ゴーストになったのかを説明してくれ」
一郎は言った。
すると、シルキーが語り出した。
それによれば、マーリンはある地方領主の娘であり、将来を嘱望された天才的な女魔道遣いだったようだ。
それに対して、ピエールはマーリンの父に仕える執事の子であり、本来であれば、結びつくことは許されないような身分の違いの男女だった。
だが、ふたりは恋に落ちた。
しかも、ただの人間であり、庶民の身分であるピエールが、自分の父親が仕える主人の娘を性的に調教をするというかたちでだ。
無論、許される恋であるはずがない。
だから、ふたりは駆け落ちした。
当然、ふたりはそれぞれの実家から絶縁状態となった。
そして、紆余曲折の末、落ち着いたのが、この屋敷だったようだ。この屋敷はピエールとマーリンの夫婦が建てたもので、シルキーはマーリンの魔道の力で引き寄せられた屋敷妖精であり、それでふたりに仕えるようになったそうだ。
屋敷妖精というのは、魔妖精クグルスのような魔族とは違う。
この世界ではよく知られている妖精であり、主人に仕えて、屋敷の掃除や手入れなどを行う召し使いのような存在らしい。もっとも、どの屋敷にもいるというものでもなく、珍しい存在には違いないようだが……。
いずれにしても、この屋敷でふたりは、嗜虐と被虐という屈折した愛を毎日のように交わした。
ふたりの愛の生活は十年以上続いたが、ある日、突然に終わった。
ピエールが不慮の馬車の事故で死んでしまったのだ。
だが、嘆き悲しんだマーリンは、それを信じなかった。
戻ってくるはずのない夫を待ち続け、待って、待って、それでも待ち、ついには、衰弱して死んでしまった。
シルキーによれば、マーリンが息を引き取ったときには、あまりの哀しみのあまり、すっかりと狂ってしまっていたようだ。
だが、死によってもマーリンの魂は救われず、彼女はこの世から離れることを拒否して、屋敷に留まってゴーストになってしまったのだ。
しかも、すっかりと記憶を歪めていて、馬車で出かけたピエールをいまだに待ち続けているということだった。
いずれにしても、それはもう数十年以上は前のことのようだ。
そのあいだ、この屋敷に留まり続けた狂ったマーリンとともに、屋敷を維持してきたのは、この屋敷妖精のシルキーの仕事なのだろう。
そして、これまでにも、何度か冒険者らしき者が、この屋敷に住む怪を取り除こうとやってきたことがあるらしい。
だが、いずれもマーリンの凄まじい魔力の前に、殺されるか、追い出されるかしたようだ。
「……なるほどなあ……。だが、彼女の魂の救うといっても、どうしてやったらいいんだ? 俺は神官なんかじゃない。ただの冒険者なんだ」
一郎は言った。
「神官なんかでは、マーリン様は救えません。マーリン様が望んでいるのは、ピエール様にもう一度愛してもらうことです。このままピエール様として、最後まで彼女を満足させてあげてください。そうすれば、マーリン様の魂は満足し、この屋敷から離れると思うのです」
シルキーが言った。
「最後まで愛するって?」
「マーリン様を犯してあげてください。そして、快楽の極みを与えてあげてください。ピエール様は、いつも、“遊び”の最後には、マーリン様を優しく抱いてあげていました。それがあれば、マーリン様の魂は浄化されると思います」
シルキーは言った。
「簡単に言うなよ。相手はゴーストだぞ。実体のない相手をどうやって犯せばいいんだ?」
一郎は声をあげた。
「駄目ですか?」
シルキーは悲しそうに言った。
「駄目とか、そういう問題じゃない。犯しようがないだろう。俺はマーリンには触れられないんだ」
「でも、さっきはいい感じでした。マーリン様は、あなたが、あのまま続ければ、最後には、気をやったかもしれません。あんなに興奮状態になったマーリン様を眺めるのは久しぶりのことでした。わたくしめは、本当に嬉しかったのです」
「だが、なあ……」
一郎は困惑して言った。
つまりは、マーリンに触れることなく、マーリンを絶頂させる快楽を与えなければならないということだ。
そんなこと可能なのだろうか……。
しかし、そのとき、ふと思いついたことがあった。
「なあ、シルキー──。そのピエールという男がマーリンを調教するときに使っていた淫具があるはずだ。それはどこかにないか?」
一郎は訊ねた。
調教に淫具は付き物だ。
直接に犯さなくても、ピエールが使った淫具で犯す真似をしたら、あるいは、マーリンは本当に刺激を受けたときと、同じような愉悦を覚えるかもしれない。
つまりは、ピエールの与える調教の歓びをはっきりと思い出させる淫具で、彼女の心から絶頂の快楽の記憶を呼び起こしてしまうのだ。
しかし、シルキーは首を横に振った。
「……申し訳ありません。わたくしめは、ピエール様とマーリン様にお仕えして、この屋敷の隅から隅までを掃除をし、あるいは、庭の手入れをして守って参りました。でも、ピエール様がそのようなものを残している場所というのは存じません」
シルキーは言った。
一郎はがっかりした。
「ただ……」
しかし、シルキーがつけ加えた。
「ただ、なんだ?」
「……ただ、中庭には、わたくしめも、マーリン様も絶対に入ってはならないとピエール様に厳命されていた霊廟があります。そこは小さな部屋になっておりますが、もしかしたら、そのようなものがそこにあるのかもしれません。マーリン様もそこには入りません。ピエール様の言いつけでございますから……。もちろん、わたくしめもそうです。なにしろ、生前のピエール様は、その命令を解除することなく、亡くなられたのです……」
「わかった。ならば、その場所を教えてくれ。早速行ってみることにする」
一郎は立ちあがった。