※この作品はR-18です。

【2025.9.5コミック発売】異世界で淫魔師ハレム【完結】   作:ドン・ドナシアン

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605 亜空間を追う

「呼ばれて飛び出て、じゃじゃじゃじゃーん。クグルスだよ。やっほっ、ご主人様」

 

 一郎の眷属である魔妖精のクグルスを呼び出すと、いつものように元気な声で一郎に飛び込んできた。

 手のひら大の羽のある妖精であるが、この世界においては、小さくて空を飛ぶ妖精というのは、クグルスのように“魔妖精”と決まっていて、性的な悪戯と悪意の象徴ということになっている。

 

 もとはと言えば、一郎を陥れるためにユイナが禁忌の魔道によって亜空間から呼び出したのが始まりであり、淫魔師である一郎が簡単に支配をしてしまって、いまに至っている。

 人界においては嫌悪の対象であるが、一郎にとっては大切な仲間のひとりだ。

 また、一郎の前の世界におけるアニメのキャラクターのような登場セリフは、以前、一郎が冗談で教えたものであり、なぜか、クグルスは気にいったらしく、一郎の呼び出しに応じてこっちに姿を現すときには、いつもこの言葉を使う。

 ほかにも、一郎がクグルスに教えた言葉はいくつかあり、“すけべえ”“えっち”“エロい”などがそうだ。

 これらも、クグルスのお気に入りである。

 

 いずれにしても、こうやって呼び出したのは、ジャスランとは同じ魔族でもあるクグルスから、あの魔族についての情報を得たかったからだ。

 ここは、たったいままでジャスランと戦闘をしていた男爵隊の陣営のある夜の森である。

 周りにいるのは、いつもの三人娘のほかに、マーズ、イット、ミウ、スクルド、そして、ガドニエルとユイナだ。

 もちろん、全員がクグルスの存在を認めている。

 

 ただし、エリカとスクルドについては、一郎の粘性体に包まれて完全に拘束しているし、しつこい性的悪戯によって半分失神状態だ。

 また、四肢を切断されているシャングリアについては、布に包まれてマーズに抱きかかえられている。

 

 とにかく、亜空間に逃亡してしまったジャスランを追わなければならない。

 いまだに、エリカとスクルドを支配する洗脳球を握ったままであるし、アルオウィンとイライジャの位置を一郎が淫魔術で探知できないことを考えると、おそらく、その逃げ込んだ先の亜空間に、そのふたりも監禁されているのだと思う。

 なんとしても、捕まえなければならないのだ。

 

「わっ、なにこれ、どういう状況? おっ、エリカとでか乳女は、ご主人様に可愛がってもらったのか? すごい淫気だなあ。そっちの格闘娘が抱いているのは、シャングリアか? なんで手足がないんだ? ご主人様がやったの? まあ、そういうのも好きでしょう」

 

 クグルスがそこら辺を飛び回りながら、一郎に向かってまくしたてる。

 一郎は苦笑した。

 

「いいから、こいつの話を聞きなさいよ。こいつに調べろって頼まれたことは、ちゃんとやったの?」

 

 口を挟んだのはユイナだ。

 ただし、ちょっと苦手意識を持っているらしく、マーズの陰に隠れた感じになっている。

 クグルスとの確執の発端になった褐色エルフの里の騒動のときには、結局、クグルスから悪戯されて身体を乗っ取られて、浣腸されたうえに里の中を破廉恥な格好で歩きまわされたし、久しぶりに再会した狭間の森では、最初はユイナがクグルスを徹底的に苛めるということがあったが、最終的には一郎に摑まったユイナに、クグルスはたっぷりと仕返しをしている。

 

「おう、尻娘か──。いつも尻穴はきれいにしてるか? ご主人様がその気になったときに、手入れが足りなかったら、ご主人様に嫌われるからな。よければ、ぼくが点検してやるぞ」

 

 クグルスが笑った。

 ユイナが怒りでかっと顔を真っ赤にするのがわかったが、一郎はあいだに入ってとめる。

 

「クグルス、ジャスランのことだ。改めてわかったことがあれば教えてくれ。エリカもスクルドもまだ支配されたままだし、女たちふたりがジャスランの亜空間に捕らわれたままなんだ。そいつは血紋術というものを遣うらしい」

 

 ここに向かって水晶宮を出立するにあたり、少しでも情報を集めようと、一度クグルスを呼び出して、ジャスランという魔族について知っていることはないかと訊ねていた。

 残念ながら、クグルスも情報を持っていなかったが、調べておいてくれるということになっていたのだ。

 

「ジャスラン? ああ、あれねえ──」

 

 クグルスは声をあげた。

 

「あれじゃないわよ。茶化すばかりでなくて、なにかわかったの?」

 

 コゼも口を挟む。

 

「ちゃんと調べたよ、ご主人様。ジャスランは、狂い女のジャスランといって、とんでもない女らしいぞ。血紋術の遣い手だ」

 

「狂い女だと……。まあ、そんな感じだったがな」

 

 不貞腐れるように言ったのはシャングリアだ。

 まあ、今回におけるジャスランからの一番の犠牲者だろう。

 

「あいつは半魔だからな。人間族の男との相の子だ。魔族の中では、純潔じゃないというのは蔑みの対象だけど、ジャスランは人間嫌いだからね。だから、人間の血が混じっていることをちょっとでも馬鹿にしようものなら、とんでもない仕返しをするらしい。例えば、そいつのことを汚された血が混じっていると小馬鹿にした女魔族がいてね……。ジャスランは怒って、そいつを滅茶苦茶に殴りつけて動けなくしただけじゃなく、さらに、岩に擦りつけて顔を削り取ったんだって……。ほかにも……」

 

「ああ、待て、待て、具体例はいいよ。ジャスランの狂女ぶりは、エリカたちもひどい目に遭ってわかった。血紋術について教えてくれないか?」

 

 一郎はとまらなくなりそうだったクグルスを阻んで、訊ね直した。

 

「血紋術? ああ、そうだね。それそれ」

 

 クグルスは、一郎の目の前に浮かんだまま、小さな首を数度頷かせる。

 

「ユイナからは、血紋術というのは、自分の血を媒体にして魔道効果を作る術だということは教えられた。つまりは、血を妖力の源として使うということだとね」

 

 一郎は言った。

 

「そういうことだね。ジャスランは、自分の血を離しても、それと繋がりを持てるんだ。そして、その血を通じて、力を飛ばして魔道を操るんだ。魔族の中でも珍しいみたいだよ。魔力とも違う。淫気とも違う。そのジャスランにとっては、力の源が自分の血なんだって」

 

「つまりは、あいつは自分の本体と離れていても、自分の血に支配を及ぼせるという理解でいいか?」

 

 一郎は言った。

 血紋術についての説明は、さっきユイナに教えてもらったばかりだ。

 つまりは、ジャスランの血は、ジャスランの本体そのものに繋がっている。そうであれば、その血があれば、逆にそれを辿って、本体を追いかけることも可能ということではないだろうかと思った。

 つまり、ジャスランの血が本体と結びつきを保っているとしたら、残っている血を辿って、淫魔術を本体に及ぼせる可能性を考えたのだ。

 

「そういうことだね。あいつにとっては、自分の血が命と一緒なんだ。ねえ、ご主人様、もしかして、そのジャスランを殺そうとしている?」

 

 クグルスが言った。

 一郎は、スクルドとエリカに視線を送って、ふたりが答えを発せる状態じゃないことを確認して、マーズに抱かれているシャングリアに目をやる。

 

「どうだ、シャングリア? 殺そうとしているか?」

 

「当たり前だ、ロウ」

 

 シャングリアは憤慨したように言った。

 一郎は頷いた。

 

「そうだな。殺そうとしているな」

 

「だったら、ジャスランの命の源は、ジャスランの血そのものだからね。血を全部蒸発させるような殺し方をしないと死なないよ。魔族というのは、ほかの人族のようにひ弱じゃないからね。とりわけ、ジャスランみたいに強い魔族じゃ、なおさらさ」

 

「蒸発か……。手間もかかるな……、普通に倒すのも、ここにいるみんなで総掛かりだったのになあ」

 

 一郎はちょっと驚いてしまった。

 

「そのことですけど、ご主人様。お願いですから、もうジャスランの前にはでないでください。スクルドのときも自分から正面に立つなんて、あたしは肝が冷えました」

 

 不満そうに言ってきたのはコゼだ。

 コゼはガドニエルとともに、一郎の直接の護衛を頼んでいた。それにも関わらず、一郎が積極的に前に出たりしたので、困ったのだろう。

 一郎は頭を搔いた。

 

「すまない」

 

 とりえあえず、それだけを言った。

 ただ、まだ、コゼがなにか言いたそうだったので、コゼの手を引っ張って抱きしめた。ちょっと狡いかもしれないが、まあいいだろう。

 

「わっ、ご主人様」

 

 一郎に突然に抱きしめられたコゼが困惑した感じになる。

 

「俺を守ってくれてありがとう、コゼ。エリカとコゼは俺の盾だ。これからも守ってくれ」

 

 一郎は片手で抱きしめたまま、コゼの頭をなでる。

 コゼがちょっと脱力した感じになる。

 

「……も、もちろんです……。ご主人様はあたしの命ですから……」

 

 コゼの言葉に、一郎はコゼを抱き締め直しながら頷いた。

 

「ありがとう……。そして、シャングリアやみんなは、俺の剣だな。よろしく頼むな」

 

 ほかの女を見る。

 

「もちろんです。今度こそ、逃がしません」

 

 イットだ。

 

「今度はあたしも前に出ます」

 

 マーズも言った。

 

「なに言ってんのよ。あんたが前に出たら、誰がわたしを守るのよ」

 

 すると、ユイナが不満そうに言った。

 コゼが一郎に抱かれたまま、首だけをユイナに向ける。

 

「あんたこそ、なに言ってんのよ。自分の身は自分で守りなさいよ。魔道遣いなんでしょう」

 

「わたしは、あんたらのように、戦闘向きにはできてないのよ。わたしに護衛をつけてくれないなら、危険がなくなるまで、ロウの仮想空間に隠れているわ」

 

「ロウって、呼び捨てにしないの──」

 

 コゼが怒鳴った。

 一郎はコゼをなだめるように、ぽんぽんと軽くコゼの頭を叩く。ついでに淫魔術でコゼの心に浮かんだ苛つきの線をすっと撫でて平らにする。

 途端に、コゼが落ち着いた感じになった。

 

「ねえ、ご主人様──。血ということであれば、あの魔族の血が残っておりますから。そこから、魔道の波動を読み取ることができるかも……」

 

 口を挟んだのはガドニエルだ。

 一郎は頷いた。

 

「もちろん、それはやってくれ。まあ、俺の考えていることは別のことだけどね」

 

 一郎は、コゼを離して、ミウの魔道で飛ばしたジャスランから切断した腕が残っている場所に向かった。

 果たして、そこにはジャスランの片腕が残っている。

 改めて見ると、確かにまだ腕として生きているみたいだ。

 魔眼で覗けば、切断された腕だというのに、性感帯であることを示す赤いもやが、薄くだが指の間や手首などに垣間見ることさえできる。

 切れた腕さえも、生きているのだ。

 さすがは高位魔族だろう。

 

 一郎は、ついてきた女たちを見回す。

 そして、ひとりちょっと大人し気にしているミウに目をとめた。

 魔道でジャスランの腕を飛ばして、さっきの戦いで最もジャスランを追い詰めたのはミウだ。

 だが、さっきのユイナの言い草じゃないが、戦い向きの性質ではないし、高位魔道に目覚めたことを除けば、まだまだ幼さの残る童女でしかない。

 魔獣との戦いとは違い、人と戦い、しかも、相手の腕を飛ばしてしまったということで少し怯えているみたいだ。

 そういえば、まだ、ミウは人は殺したことはないはずだ。

 

「ミウ、手伝ってくれ。そのジャスランの腕に俺の精をかける。その血に淫魔術が結べれば、俺の能力でジャスランを追えるかもしれない」

 

 一郎が考えたのは、まずはジャスランの血を淫魔術で支配し、その繋がりを通じて、亜空間に逃亡したジャスランを追いかけることである。

 やれるかどうかは知らないが、やってみて損はない。

 とにかく、可能性のあることはやることだ。

 ぼやぼやしていると、ジャスランが逃亡してしまうかもしれない。

 

「わ、わたしもジャスランの波動を追いますわ。うまくできれば、わたしもよしよしをしてくれますか?」

 

「いくらでもね。よしよしでも、まんまんでも」

 

 一郎は軽口を言った。

 

「相変わらず、えっちだねえ、ご主人様」

 

 ついてきていたクグルスが愉しそうに笑った。

 

「お、お手伝いします」

 

 一方でミウが寄ってきた。

 一郎の前に膝をついて立ち、一郎のズボンの前を外して、男根を露出させる。まだまだ幼いミウの小さな手が性器に触れて這い動くのはちょっと背徳の感じもあって興奮するかもしれない。

 

「ご、ご奉仕します」

 

 ミウが言って、一郎の男根の先っぽにまずは口づけをしてきた。

 こんなのどこで覚えてくるのか……。

 一郎はくすりと笑ってしまった。

 

 とにかく、ミウの心に触れて、そこに残っている怯えのようなものや、心の葛藤を探って鎮めていく。

 新たに沸き起こっている線は、ミウの性的興奮だろう。

 それはちょっと刺激をして活性化する。

 

 ついでに、淫魔術でミウに下腹部にも刻んでいる紋様を動かして、「二匹の蛇」を動かした。

 一郎の女たちのかなりの者には、一郎の爵位である「ボルグ家」の紋様が隠し模様で刻まれており、いつでも一郎の淫魔術で浮きあがらせられるし、自由に肌の中を動かすことができる。

 ボルグ家の紋様は「逆さ塔」と「二匹の蛇」であり、塔はヴァギナでもアナルでも貫かせて動かせるし、二匹の蛇は全身の性感帯という性感帯を自由自在に泳いで刺激できる。

 刺青のようなものなので手では防げないから、絶対に阻止できない刺激具というわけだ。

 ミウの幼い下腹部を二匹の蛇で刺激してやる。

 

「あっ、んああっ」

 

 ミウが口を離して大きく身体をのけぞらせた。

 

「ほらほら、早くいかせてくれ、さもないと、刺激をとめないぞ」

 

 一郎はすでに勃起している怒張をミウの唇に押しつけた。

 

「あっ、は、はいっ、んんんんっ」

 

 刺激に可愛らしく悶えつつ、ミウが口に性器を咥えた。

 一心不乱に一郎の性器をしゃぶり始める。

 

「上手だ……。もうちょっと強く吸ってくれ……。いいなあ……。今度は横を擦って」

 

 言われるままにミウが口を一生懸命に動かす。

 すでに、怯えは消えている。

 もう十分だろう。

 

「ミウの奉仕が気持ちいから、すぐにいけそうだ。飲まずに、その腕の傷口のところにかけてくれ。ちょっと嫌だろうけど頼む……」

 

 一郎は手でミウの頭を押さえ、腰にぴったりと押しつけるようにしながら言った。

 そのあいだも、蛇はミウのクリトリスに尾を巻きつけたり、頭を亀裂に出たり入ったりしていて、もう一匹はまだまだ平らな胸を服の下でしつこく泳いでいる。

 

「んんっ、んんんっ」

 

 ミウが軽く首を縦に振って、「わかった」という仕草をした。

 一郎は精を出すのと合わせて、ミウの身体を這う蛇を使ってさらに刺激を増幅する。

 興奮度合いのわかる赤いもやが一郎には見えるので、そこを主体に刺激してやれば、どんな女でもあっという間に昇天させることができる。

 それだけは、一郎の真骨頂だ。

 

「いくぞ」

 

 一郎はミウの口の中に精を放った。

 

「ん、んんんっ、んんんんっ」

 

 そして、同時にミウは達してしまった。

 しばらくのあいだ、ミウがぶるぶると痙攣を続ける。

 そして、脱力した。

 

「頼むぞ……」

 

 ミウの身体に軽く触れて、ジャスラン腕に押しやった。ミウがそっちに向かう。

 

「わ、わたしがお掃除を……」

 

 すかさずガドニエルが寄って来ようとする。

 しかし、コゼが割り込んで、ガドニエルよりも先に一郎の前に来た。

 

「ガドは、ジャスランの波動を追う仕事があるんでしょう……。さあ、あたしがしますね、ご主人様」

 

 コゼが残り汁の残っている一郎の性器を舌で掃除しはじめる。

 

「あん、そんなあ」

 

 ガドニエルが切なそうに腰をもじつかせた。

 一郎は笑ってしまった。

 

「いいぞ、お前ら。しっかりとすけべえになってきたなあ。特に小娘は、とってもえっちでよかったぞ。これからもご主人様に気に入られるように、立派な性奴隷として励むんだ」

 

 クグルスが宙を飛びながら言った。

 一方で、ほかの女たちは赤い顔でなんとも言えない色っぽい表情を浮かべて、内腿をもじつかせている。

 全員、ミウが一郎の性器を奉仕するのを見物していて、ちょっとあてられたのだろう。

 戦いの真っ最中だが、束の間の間隙ということだ。

 クグルスの言い草じゃないが、みんな“えっち”な女になったものだ。

 

 そのときだった。

 ミウがジャスランの千切れた片腕に残っている血に精をかけたところで、一郎ははっきりとした淫魔術の結びつきを感じた。

 まだまだ本体を完全に把握するまでにはいかないが、もしかしたら、そのまま亜空間に逃げたジャスランに淫魔術を伸ばせるかもしれない。

 

「ありがとう、コゼ」

 

 コゼの頭に軽く触れて、コゼを離させる。

 性器をズボンにしまってから、一郎は、とりあえず、新しい能力である「性感帯移動」の力で片腕にある薄い性感帯を足元にあった細い木の枝に移動させる。

 

「……さて、これで本体が感じてくれたらいいけどね。だが、どこかには繋がっている。もう少し淫気が多ければ、俺の亜空間と繋げることも可能かもしれない」

 

 一郎はそう言いながら、木の枝に移した赤いもやを増幅しつつ、手で刺激する。

 女たちが見守るように、寄ってきた。

 

 

 *

 

 

「くはっ」

 

 亜空間に跳躍したジャスランは、隠れ処(かくれが)である天幕の地面に、文字通り倒れ込んだ。

 

 やっと逃げられた。

 

 まだ心臓が激しく動いている。

 あんなに、誰かを怖いと思ったのは、生まれて初めてのことだ。

 ただ、ジャスランはこれが作られた恐怖だということはわかってきた。さもないと、あんなに弱そうな人間族の男をジャスランがこれほどに恐怖を感じるのはあり得ない。

 おそらく、真名を呼ばれたためだろう。

 真名を呼ばれたことなどないので、真名を口にされたら、魔族はその相手の支配に陥るということなど信じていなかったが、本当なのだと悟った。

 とにかく、怖かった。

 あの人間族が、恐怖で身体を凍りつかせろと口にした瞬間に、この恐怖が襲い掛かってきたのだ。

 

「ジャ、ジャスラン様、その腕は──?」

 

 悲鳴のような声をあげたのは、アルオウィンだった。

 いつも座っているソファーにはいなかった。なにをしていたのか知らないが、その横でうずくまるようにしていたみたいだ。

 ちょっと、焦ったような感じだなとは思ったが、すぐに違和感は消えた。

 アルオウィンが首に繋がっている長い鎖をジャラジャラと鳴らしながら、ジャスランを抱きかかえるようにしてきたのだ。

 ジャスランはアルオウィンに抱かれたまま、片腕のなくなった身体をソファに沈める。

 

「ね、ねえ、どうしたのですか、ジャスラン様。外で、なにがあったのですか? 治療は……」

 

 アルオウィンが心から狼狽えたようにジャスランを抱きしめてくる。

 しっかりと、ジャスランの顔を両手で持って、絶対に答えを引き出すんだという必死の顔だ。

 それだけ、心配をしてくれているのだろう。

 可愛い女だ。

 ジャスランは微笑んだ。

 

「ちょっと不覚をとっただけよ……。ち、治療は問題ない。血は魔道でとめた。なくなった腕は、まだ戻らないけどね……」

 

 切断されてしまった腕が生えるには、半年以上はかかるだろう。

 あいつら、どうしてやろう。

 ジャスランは、さっきの自分の醜態を思い出して歯噛みした。

 

「もしかして、ロウですか……?」

 

 アルオウィンが言った。

 ジャスランは頷いた。

 

「ああ……。襲撃を受けたよ……。スクルドとエリカ……。シャングリアも連れていかれた……。まあ、まだ繋がりは確保しているけどね」

 

 ジャスランは言った。

 すでに、エリカとスクルドに繋がっている洗脳球は亜空間に閉じた。

 ロウを殺せと命令をしたままなので、解除するまでロウを殺す行動をとり続けているはずだ。

 うまく殺せればいい。

 ロウが反撃して、ロウを守る女たちと同士討ちの末に、あいつらが殺されたら、殺されたでそれでもいい。

 しかし、生き残っていたら、探して連れていくことになるだろう。

 特に、スクルドにはまだまだ、仕返しをし足りない。

 

「ロウが来たんですね……」

 

 アルオウィンがジャスランを前側から抱きながら、真剣な顔で言った。

 ジャスランは頷いた。

 すると、アルオウィンが自分の首輪についた鎖を邪魔そうに揺すって、三回ほど金属音を鳴らしたと思った。

 ジャスランは首を傾げた。

 

「なに?」

 

「いえ、なにも……。それよりも、魔力が少なくなっています。補充しましょう。ご奉仕してもよろしいですか……?」

 

 アルオウィンは言った。

 確かに、魔力というよりは妖力をかなり使って、ちょっと乏しくなっている。傷ついた肉体を回復させるにも、亜空間を転移させてここから逃亡するにも、妖力の完全回復は必要だ。

 頼むか……。

 アルオウィンが教えてくれたエルフ族の「官能術」とやらが、妖力を回復させるということはもうわかっている。

 早く復活するには、魔力の回復が不可欠だ。

 

「やってちょうだい」

 

 ジャスランは言った。

 

「わかりました」

 

 アルオウィンがジャスランの具足を外し始める。

 ジャスランはされるがままにした。

 かなり脱力して疲れていた。だから、ジャスランは自分ではなにもせず、アルオウィンに任せきりにすることにした。

 それなりの時間がかかったが、アルオウィンはやっとジャスランを下着だけの恰好にさせることができた。

 

「では……」

 

 アルオウィンが跪く。

 ジャスランの下腹部から下着を脱がせて足首から取り去ると、顔をジャスランの股間にぴったりと密着させた。

 アルオウィンの舌がジャスランの股間を動き始める。

 

「お、おお、ああ……」

 

 切ない快感がぞわぞわと股間から全身に拡がっていく。

 気持ちいい……。

 思ったのはそれだ。

 

 嫌なことが消えていく。

 苛つきも、怒りも……。そして、得体の知れない恐怖も……。

 ただ、気持ちいい……。

 ジャスランはその酔いに身を沈める。

 

「あ、ああ、いいよ、アルオウィン……」

 

 身体を駆け巡る快感の痺れに、ジャスランは身体を震わせた。

 そのときだった。

 急に腕から、凄まじすぎる快感が襲い掛かってきた。

 

「んはああっ、な、なんだこれ──。うわっ、あはああっ」

 

 いきなりだったので、ジャスランは飛びあがりそうになってしまった。

 アルオウィンの与えてくれるものが静かなさざ波とすれば、たったいまやって来たのは津波のような快楽の激情だ。

 それが次々に全身にやってくる。

 なんだ、これ──?

 ジャスランは狼狽えてしまった。

 

「ど、どうしました……。ああ、こっちを見て──。目を離したら、嫌です──」

 

 アルオウィンが身体をあげてジャスランにしがみついてきた。

 ジャスランの頭を抱えあげて、唇を口に押し当てて舌を口に入れてきた。さらに両手でジャスランの頭を抱くようにして両耳に指を這わせてくる。

 ぞわぞわしてくすぐったいが、気持ちいいかもしれない。

 さすがは、エルフ族の官能術とやらだ……。

 

 しかし、それにしても、この腕からやって来る刺激はなんだ……?

 ジャスランは、この得体の知れない快楽の暴流が切断されて存在しないはずの腕からやって来ることに気がついた。

 

「ああっ、そこよ、そこ――。そのままようう」

 

 アルオウィンが興奮しているのか、わけのわからないことを叫んでは、ジャスランの口に吸いついてくる。

 可愛らしいものだ。

 

 そのときだった。

 なにかが首に刺さったと思った。

 

 針?

 

 本当に、突き刺さっている?

 

 なんだあ?

 背後から首になにかを刺されたのか?

 

「えっ?」

 

 途端に、身体が脱力していく。

 それだけじゃなく、魔力が急速に消えていく。

 いや、すべての魔道効果が一度に取り消されていく感覚が……。

 

「は、離せ、アルオウィン──」

 

 ジャスランは叫んだ。

 誰かが背後から、なにかを首に刺したのだ。その瞬間、身体がおかしくなり、全身から力と魔道が消滅させられていった──。

 

「その命令はきけないわね、ジャスラン……。洗脳球の縛りがなくなった感じがするわ。“魔族殺し”の毒薬を打たれれば、あんたでも無力になるのね。安心したわ」

 

 アルオウィンが不敵な笑みを浮かべたまま身体から離れた。

 ジャスランは目を疑った。

 どうして、アルオウィンが……?

 

 とにかく、懸命に力を振り絞って、首を後ろに向ける。

 すると、そこには、かなり衰弱している様子だが、地面の下の熱気部屋に監禁しているはずのイライジャがいた。

 手に中指程の長さの太めの針を持っている。

 あれで首を刺したのか?

 眼だって、潰しているのに?

 そもそも、どうやって、あそこから出たのだ?

 

 そして、“魔族殺し”だって──?

 もしかして、なにかの毒を塗っていた?

 

 混乱した。

 だが、どんどんと力がなくなり、あらゆる魔道が結べなくなっていく。

 亜空間にしまっていたものが次々に外に出現していく。

 さらに、この亜空間そのものが揺らぎ始めた。

 

「くっ、あ、亜空間が……」

 

 ジャスランは慌てた。

 痺れたように動かなくなってきた身体を捻ってソファーから転げ落ちさせた。

 とにかく、逃げないと……。

 考えたのはそれだけだ。

 

 なにが起きたのかは、まだ理解できない。

 しかし、思ったのは、もしも、亜空間が崩れれば、またもや、あのロウに摑まってしまう。

 そのことだ。

 

 怖い──。

 怖い──。

 怖い――。

 

 再び、激しい恐怖が襲い掛かってきた。

 逃げなければ──。

 もう、それしか考えられない。

 

「どこ行くのよ──」

 

 アルオウィンが後ろからジャスランの髪の毛を掴んだ。

 そして、顔を引きあがられて、思い切り地面に顔面を叩きつけられた。

 

「ふぎゅううっ」

 

 ジャスランは悲鳴をあげた。

 それとともに、完全に亜空間がなくなったのがわかった。

 外気の流れを肌に感じた。

 外の空間に戻ってしまった。

 愕然とした。

 

「おっ、戻ってきたか。亜空間と繋がる場所は合っていたぞ、ガド。ジャスラン様のお帰りだ」

 

 ロウの声だ。

 それだけじゃなく、ほかの女たちもいる。

 ジャスランはぞっとした。

 

「あんっ、もうちょっと時間があれば、わたしの手で亜空間に出入り口を繋げられましたのよ──」

 

 すると、あのガドがなぜか口惜しそうに叫んだのが聞こえた。

 

 

 

 

(第95話『復讐するは我にあり』終わり。第96話『処刑遊戯』に続く)

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