【2025.9.5コミック発売】異世界で淫魔師ハレム【完結】 作:ドン・ドナシアン
長くなりましたので、小エピソード区切りを入れます。「ジャスラン篇」の後半となります。
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606 “王”の帰還
「申し訳ございませんでした」
目の前のモーリア男爵が深々と頭をさげた。
モーリア男爵隊の陣地の中でも、男爵自身用として準備されている天幕の中である。
その中で一郎は、ガドニエルとともに首座の位置に並んでいる椅子に座って、立姿で謝罪の姿勢をした男爵を相対としていた。
立ったままの相手に、座ったまま応対をするというのは、随分と尊大な態度のようで、少しばかり居心地も悪いのだが、こういうことも、これからは必要なのだろう。
「ロウ=ボルグ・サヴァエルヴ・サタルスとして、謝罪を受け入れます。楽にしてください、男爵」
一郎は応じた。
男爵が頭をあげる。だが、武具に包まれている姿勢は崩さない。武人上がりの男爵と耳にしているが、シャングリアの父親から引き継いだモーリア男爵家を並みの伯爵家以上の力にのし上げたのは、彼の流通の手腕だと耳にしていた。しかし、やはり、目の前の男爵は、どこからどう見ても、武骨な「武人」という感じである。
その彼が、一郎に対して貴人に対する礼をしている。
まあ、そうせざるを得ないように、こちらが求める対応をしているのだが……。
一郎は、ブルイネンの忠告を受け入れて、ガドニエルから贈られている“ロウ=サヴァエルヴ・サタルス”として、男爵と接することにした。
“サヴァエルヴ”というのは、エルフ族社会における上級貴族としての地位の格付けのある姓であり、ハロンドール王国内であれば、侯爵以上の格式があるのだそうだ。
ハロンドール王国でも、一郎も一応は“子爵位”をもらっているので、爵位だけのことであれば、男爵であるモーリアよりも高いのであるが、一郎が受けている“ボルグ”の姓は、功績に応じる一代限りの貴族として使われてきたものであるらしく、それほどの権威はない。
しかし、ガドニエルから受けた“サヴァエルヴ”は違う。
一郎がこれを名乗ったときには、相手は上級貴族としての応対をしなければならないそうだ。
それを怠れば、エルフ王族家を愚弄することになり、大変な非礼になるということである。
エルフ族王家は、この大陸で、ローム皇帝家を凌ぐ、もっとも古い王家というだけでなく、この世界の文明技術に不可欠な魔石の唯一の生産地であるナタル森林の支配者として、大変に権威があるようだ。
まあ、そうには見えない残念女王なのだが……。
ともかく、そういうこの世界の貴族社会の慣わしについても、これからは慣れていかなければならないのだろう。
一郎は、エルフ族女王ガドニエルの伴侶にして、ハロンドール王家の王太女イザベラの子の父になる。それにふさわしい立場を手に入れることを一郎は決めているのだから……。
「ありがたき」
男爵が短く言った。
すると、エルフ族の女兵がモーリアの座る椅子を持ってきて、一郎たちが座っている正面に置く。
一郎たちの椅子がある場所は、高くはないが台が敷かれて、一段あがっているので、少し見下ろす感じだ。
モーリアは運ばれてきた椅子に座った。
もっとも、ここにある椅子も台座も、もともとすべて男爵が自分用として使っていたものだ。
それを天幕ごと、明け渡されるというかたちで、一郎たちが使うことになったのだ。
この貴賓用の天幕だけでなく、十連ほどの天幕が一郎をはじめとするエルフ隊のために提供をされている。
一郎たちが乗っ取ったモーリア男爵隊の陣地内である。
提供されたのは、陣内の中央部分にある男爵家の幕営であり、一郎やガドニエルが入ったことで、もともとそこにいた男爵たちは、主幕営を護衛する位置にあるその周辺天幕に移っている。
ただ、すでに半分の勢力は男爵領に帰還をしていた。
ここに残った主力は、捕らえているジャスランの「処刑」が終わり、ジャスランに拷問されていた一郎の女たちの治療が終了すれば、一郎たちとともに、そのまま男爵領に向かうことになっている。
先行の半分は、その準備のために帰還したのだ。傭兵たちの半分もそれに同行した。
残りの男爵たちと傭兵は、一郎たちがまだ、出立できないので、その護衛ということだ。
まあ、護衛といっても、数では圧倒する彼らを三十人ほどしかいないエルフ族の女隊が制圧してしまったのだから、実際には不要なのだが、これも体裁というものらしい。
とりあえず、現在は中央の主天幕を一郎たちがエルフ族の“クロノス親衛隊”とともに占拠し、その周りをモーリア男爵が率いるモーリア隊が囲んでいるというかたちになっている。
「それでよろしいですね、ガド?」
一郎は隣に座っているガドニエルに軽く視線を向けた。
これも、ブルイネンの提案だ。
ガドニエルについては、認識阻害の魔道具で女王ではなく、ただのエルフ美女として同行させることを考えていたのだが、むしろ権威を利用すべきであり、利用して欲しいとブルイネンに言われて、一郎は考えを改めた。
だから、いまのガドニエルは、“お忍び”の体裁ではあるが、エルフ族女王としての外観をそのままにしている。
さすがに、水晶宮でいるときのような動き難そうなドレスは身につけていないが、軽装ではあるが、女王の立場を損なわないそれなりの服装だ。もっとも、スカート丈は短く、膝上まで脚は露出している。一郎が好きな短いスカートだけは譲れないと、本人が強硬に主張したのだ。
まあ、これについては、ハロンドールの王宮でも、イザベラがそうだったので、貴婦人としての廉恥を損なうということはないだろう。
「ロウ殿のよろしきように」
ガドニエルがまるで“女王”であるように鷹揚に頷いた。
エルフ族の女王ガドニエルといえば、君臨が百年を超え、この大陸の君主の中では、最も古く最も権威のある王らしい。
ましてや、これまでイムドリスという隠し宮の中に閉じこもり、一度も姿さえ示さなかった女王である。
その女王が目の前にいるというのは、大変なことなのだ。
モーリア男爵も、態度には表さないように努力しているのは垣間見れるが、かなり緊張しているのが伝わってくる。
しかし、そのガドニエルに、一郎が普通に接し、ガドニエルもそれを当たり前にように対する──。
このことで、一郎の権威を高めればいいというのがブルイネンの主張だ。
一郎は受け入れることにした。
モーリア男爵も、一郎がガドニエルを愛称呼びしたときには、ぎょっとした表情になった。
ただ、ガドニエル自身がにこにこしているので、改めて一郎へ向ける表情を恐縮した様子にした。
権威を利用するというのは、こういうことなのだな……。
一郎は思った。
それにしても、本来であれば、横のガドニエルが当たり前の姿なのだが、“狭間の森”で初めて会ったときから、ずっと一郎に対しては“ぽんこつ”だったので、こうやって、行儀良くしているガドニエルに接すると、どうしても慣れない芝居をしているようにしか見えなくて困惑してしまう。
まあ、実際に芝居をしているのだろうが……。
しかし、本当は、一郎の雌犬志望の残念女王だと教えたら、モーリアはどんな顔になるのだろう。
ちょっと想像しておかしくなった。
一郎は悪戯したくなり、気取っているガドニエルの股間に粘性体を飛ばして、軽くクリトリスを包んで振動してやった。
「んんっ」
ガドニエルがびくりと身体を硬直させて、顔を真っ赤にした。
さらに、内腿を強く締めつけるような動きをして、ぎゅっと手摺りを掴む手に力を入れている。
しかし、“女王”らしくない態度を見せれば、三日間、一郎がガドニエルに触らないという罰だと言い渡しているので、一生懸命に我慢している。
面白い──。
「ロウ様……」
一郎が悪戯を始めたことに気がついたのだろう。
椅子の後ろに立っているエリカがたしなめるように言葉をかけた。
一郎の座る椅子の後ろには、武装をしているエリカとコゼが立っている。
ガドニエルの背後にはブルイネンだ。
また、天幕内にはエルフ族の親衛隊の中から五人ほどが連れてこられて、護衛隊として侍ってもいた。
全員が一騎当千の女傑なので、こんな護衛は必要ないのだが、これもまた演出というわけだ。
ところで、エリカについては、ジャスランに拷問を受けていた立場だったので、体調が回復するまで休んでいろと言ったのだが、一郎の警護は譲れないと涙目で訴えてきて、それでこうやって、コゼと一緒に護衛につかせた。
すでに洗脳球も魔道で溶かしてしまっているので、その点は問題ないと考えたこともある。
まあ、一郎としても、誰よりもこのふたりに守られるのが安心する。
一方で、ジャスランに囚われていたほかの女たち、すなわち、イライジャ、シャングリア、スクルドについては、ミウたちが治療をしていて、ほかの天幕に寝かせている。
アルオウィンについては、それほどの外傷もなく、元気にしているのだが、いまはイライジャたちについているところである。
それにしても、アルオウィンとイライジャの行動については、感嘆してしまった。
特に、アルオウィンは、言葉巧みにジャスランをおだてて、彼女の懐に取り入り、亜空間で監禁されながらも、あの狂い女が暴走しないように、ずっと活動していたのだという。
しかも、灼熱部屋で殺されかけていたイライジャを救い、最終的には、イライジャに密かに渡した“魔族殺し”の毒薬で、ジャスランの魔道を封印して、亜空間で捕らえたのだ。
魔族殺しというのは、あのアーサーのいるタリオ公国で開発されたものらしく、魔族のすべてに効果のある最強の魔道封じの毒薬なのだという。
もともと、ノルズが持っていたものであり、アルオウィンも、ノルズから提供されたようだ。
そして、イライジャもまた、ジャスランによって両眼を潰されながらも、アルオウィンに渡された魔族殺しの毒を見事にジャスランに刺すことに成功したという。
ふたりとも洗脳球の支配状態に陥らされながら、反撃の機会を待ち、ついにジャスランを倒してみせたということだ。
今回の最大の殊勲がアルオウィンとイライジャであることは間違いないだろう。
「男爵、三日ほど、ここで休息をとります。ジャスランに傷つけられた女たちを回復させるために必要な時間です。その後、男爵領でしばらくお世話になります。向こうでは、王国内がどうなっているのかについては、まずは情報を得たいと考えています」
「心得ております。わしも、ずっとこの森にいましたもので、情報には疎いのでが、先に戻らせた者に可能な限りの情報を集めるように指示をしております。男爵領ではそれなりの報告をさせていただきます」
「期待しています」
一郎は頷いた。
とりあえず、モーリア男爵とともに、男爵領に入る――。
決めているのはそこまでだ。
それからどうするかは、まずは情報を得てからだ。
とにかく、現状況では、なにかを判断するには情報が少なすぎる。
「あ、あの……ごしゅ……いえ、ロウ殿……」
そのとき、不意に横のガドニエルが小さな声をかけてきた。
涙目だし、顔が真っ赤で、いつの間にか汗びっしょりになっている。
忘れていたが、ずっと粘性体で股間を悪戯しっ放しだった。
一郎はクリトリスの振動を緩めてやる。
ただ、停止はしない。
ガドニエルがちょっと脱力した感じになるとともに、哀願するような表情を向けた。
なにをお願いされているのかわからないが、雌犬志願のガドニエルのことだから、実際にはこうやって苛められるのも、本心では彼女の望みには間違いないだろう。
「……ばれたら、三日間な……」
一郎は、男爵には聞こえない声でガドニエルにささやく。
ガドニエルがはっとした顔になったのがわかった。そんなに、一郎に触ってもらえないという罰が嫌なのだろうか。
一郎はほくそ笑んでしまった。
さらに、ガドニエルのスカートの内側に粘性体を送り込み、今度はアナルの中でディルドのかたちになって、蠕動運動を開始してやる。
「おうっ」
ガドニエルが全身を突っ張らせるような仕草をした。
「ロウ様」
今度はエリカが強くたしなめた。
相変わらずに真面目な女だ。
まあ、その真面目なエリカが、一郎に調教されて、雌の姿になるのが愉しいのだが……。
「ガド、色々あったから疲れたのかもな。もう少し待ってください」
一郎は素知らぬ顔でガドニエルに声をかける。
ただ、アナルの振動だけでなく、弱めたとはいえクリトリスの振動もそのままだ。
ガドニエルがぎゅっと手摺りを握ったまま小さく頷く。
いまは、声を出すこともできないのかもしれない。
しっかりと強く口を結んだままでいる。
「さて、男爵、ジャスランのことですが、処刑についてはこちらでやります。お任せいただきたいと思います。あれは魔族であり、特別な殺し方をしなければ死なないのです。処刑が終われば、もちろん一報はします」
一郎は言った。
ジャスランのやったことについては、すでに男爵には説明済みだ。
男爵たちが操られたのも、なにからなにまでジャスランのせいということにした。実際には、ヴィーネという王家から派遣された魔女に扮したスクルドが、指輪の魔具を全員に渡し、これを利用してジャスランが男爵たちに操心術を刻んだのであるが、これもまた、ジャスランが主犯ということにして、そのときには、ヴィーネことスクルドも操られていたということにしている。
すでに、スクルドがジャスランに、惨い扱いを受けて公開で辱められたことを大勢が見ている。
全部をジャスランのせいにしないと、ややこしいことになる。
「わかりました。お任せします」
男爵たちにも被害を与えたジャスランなのだが、彼女の処置については、こっちに一任させてもらい、彼女を「訊問」をして得た情報を男爵家に渡すということでどうかと申し出ていた。
男爵としても、操られていたといえども、エルフ族女王のガドニエルに攻撃したという大きな負い目がある。
なにを言われても受け入れるしかないだろう。
やはり、男爵は納得して頷いた。
「ところで、傭兵隊と男爵隊の兵の負傷の状況は、どのような様子でしょうか?」
ブルイネンによって制圧させたモーリア隊だが、結局誰も殺してはいないと報告を受けている。
わずか三十人ほどではあるが、エルフ族親衛隊とモーリア隊では、圧倒的な力の差があり、彼らを殺すことなく抵抗できなくすることが可能だったらしい。
ただ、無傷というわけにはいかない。
だから、訊ねたのだ。
「問題ありません。それについては、お礼を……。兵たちを救ってくれてありがとうございます。それと、部下たちにも、傭兵にも罪はありません。ガドニエル女王陛下に剣を向けることになったのは、一重に、わしの罪であります。わしひとりの首で、ほかの者については免罪をしていただくようにお願いします」
男爵が椅子に座ったまま深く頭をさげた。
一郎はそれを制し頭をあげさせる。
「男爵もくどいのですね。俺もガドも、一切を問題にするつもりはありません。公式には、モーリア家と俺たちとの騒乱などなかったことになるでしょう。俺たちはガドニエル女王ととともに、ナタルの森にやってきて、この場所で男爵たちの隊と接触して、男爵家に客として迎えられた……。まあ、そういうことでしょうか」
「恐縮の極みです。このご恩は幾重にも……」
「ならば、俺を王家には引き渡しはしないという約束をしてもらえますね?」
一郎は頬に微笑みを浮かべたまま言った。
元はといえば、この一連の騒動は、ルードルフ王が一郎を手配犯として捕縛命令を発したことから端を発している。
モーリア男爵も、本来はそれを口実に、一郎の身柄の確保を指示されていたはずだ。
スクルドは、男爵には王家の一派に一郎の身柄が渡る前に保護して欲しいという物言いをしたようだが、まあ、一郎を捕らえようとしていたのには変わりない。
「無論です。モーリア家は、ロウ殿とガドニエル女王陛下の保護を約束します。一身に変えましても」
「感謝します。では、そういうことでよろしいですね、ガド?」
わざとガドニエルに振る。
「ふえっ──。あっ、も、もちろんです──。い、いえ、もちろんだ」
ガドニエルがはっとしたように言った。
本当に面白い。
すると、またもやエリカが咳ばらいをする。
一郎は苦笑した。
「……しかしながら、一連のことが終わりましたら、わしについては、けじめはつけるつもりです。わしは男爵を辞します。そして、シャングリアに男爵を譲りたい」
すると、モーリア男爵が言った。
一郎は首を傾げた。
だが、少し考えてから、エルフ族の女兵に声をかけた。
「悪いが、シャングリアを呼んでくれ。マーズに連れてきてくれるように頼んでもらいたい」
一郎は言った。
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「王の帰還」
クロノス朝の初期におけるロウ皇帝の忠臣で名高いモーリア公爵が男爵時代に残した手記にある言葉である。
モーリアの手記によれば、当時初対面であったロウの印象について、人当たりはいいが、醸し出す厳かな気勢のようなものがあり、一介の冒険者あがりと侮っていた心が一瞬で吹き飛んだとある。
まさに、王の帰還という雰囲気があり、なぜか自然と頭がさがったと、当時の公爵の記録には残されている。
ギター著『一日一頁読む歴史の言葉』より