※この作品はR-18です。

【2025.9.5コミック発売】異世界で淫魔師ハレム【完結】   作:ドン・ドナシアン

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607 剣の誓い

「大叔父」

 

 天幕の入り口から入ってきたシャングリアがモーリア男爵に声をかけた。

 男爵が振り返る。

 しかし、マーズに抱きかかえられているシャングリアの姿にぎょっとしたのがわかった。

 シャングリアは、いつもの女騎士の姿ではなく、いかにも病床の女が身につけるような無地の貫頭衣を着ているが、四肢を切断されたままなので、スカート部分にも袖の部分にもなにもなく、布がだらりとしているのだ。

 どうやら、男爵はシャングリアがこんな目にあっていることを知らなかったみたいだ。

 

「シャ、シャングリア、その姿は──?」

 

 男爵は立ちあがって叫び、そのまま絶句している。

 

「ジャスランにやられたのだ。だが、問題ないぞ。切断された手足はすぐに復活する。そうだな、ロウ?」

 

 マーズに抱きかかえられたシャングリアがじろりと一郎を見てきた。

 一郎は苦笑した。

 実は、治療に当たっているミウには、三人の体調の治療は実施しても、スクルドとシャングリアの手足の復活のための高位光魔道による回復術は待てと伝えていた。

 しかし、唐辛子汁を腹いっぱいに飲まされて、内臓も痛めていたスクルドとは異なり、シャングリアについては身体も気力も比較的元気だった。

 施そうと思えば、夕べのうちにシャングリアの四肢を復活させることも可能だった。

 だが、一郎が待ったをかけていることをミウから聞いたのかもしれない。

 一方で、イライジャの両目はすでに復活している。

 シャングリアが、なにか物を言いたそうに、一郎を睨んでくる。

 

「もちろんだ、シャングリア。世界一の治療術を施せる術師がふたりも揃っている。それと俺もな」

 

 支配している女限定で、彼女たちの身体の治療できる一郎だが、手足の復活のような大きなことも多分できる。

 やったことはないが、できるという確信だけはある。

 

 それはさておき、一郎はマーズに手を伸ばして、シャングリアを受け取った。

 そのまま、椅子に座ったまま、シャングリアを膝に抱きかかえる。

 

「わっ、ロウ。な、なんだ、なんだ」

 

 シャングリアが戸惑った声を出して、顔を真っ赤にした。

 いつもは一郎が抱くときだって、よがりながらもそれなりに凛としているので、意外に初心(うぶ)な面もあるのだと思った。

 実家の男爵の前だというのが照れているのだろうか。

 しかし、シャングリアは、すでに一郎の女である。

 それをモーリア男爵にも、明確に示しておく必要もある。

 一郎は膝の上のシャングリアを落とさないようにぎゅっと抱きかかえた。

 

「ちょ、ちょっと、ロウ」

 

 シャングリアが居心地悪そうにしている。

 

「あらいいわね、シャングリア、ご主人様に抱っこされて」

 

 後ろからコゼが声をかけてきた。

 

「向こうの天幕では、先生の話ばかりしていたのですから、折角だし、甘えるといいですよ」

 

 珍しくもマーズがくすりと笑って軽口を言った。

 一郎は微笑んだ。

 一方で、マーズはエリカやコゼと同じように、そのまま一郎の後ろに立つ位置につく。

 

「俺の話? どんな話だ?」

 

 一郎はシャングリアの顔を覗き込むようにした。

 

「そ、そんなことをここで言えるか──。大叔父の前だぞ」

 

「つまりは、ここで言えないようなことを話していたのか?」

 

 一郎は吹き出してしまう。

 すると、周りの女たちもくすりと笑った。

 シャングリアも失言に気がついたのか、さらに顔を真っ赤にした。

 

「な、仲がいい……のですな……」

 

 シャングリアから“大叔父”と呼ばれているモーリア男爵は、呆気にとられた顔になっている。

 一郎の前では、ただの女……いや、激しいプレイが大好きのかなりの“ハードM”を示す彼女も、ほかの者の前では、男嫌いと称されるほどに尖っている女である。

 まあ、一郎たちと出会って、かなり丸くなっているが、そういうシャングリアには、ほとんど接していなかったはずの男爵は、目を丸くしている感じだ。

 

「そうですね。仲はいいです。男爵、さっきの話に関係することですが、王都のことが落ち着いたら……、俺が落ち着かせてみせますが、そのときには、シャングリアとは婚姻を結ぶつもりです。ここにいる女たちともですけど……」

 

 一郎ははっきりと言った。

 男爵は面食らった顔になっている。

 なにを驚いているのかは知らない。

 しかし、すでに男爵は、王太女のイザベラが一郎との子を宿していることを耳にしているらしいし、それでいて、エルフ族女王のガドニエルと昵懇の仲を示していたので、心の内では困惑もしていたのかもしれない。

 しかし、ガドニエルだけでなく、イザベラも呼び捨てにして結婚を宣言し、さらに、シャングリアとの婚姻話まで出されたことについては、ちょっと戸惑いの顔を浮かべている。

 

「つまり、妾に?」

 

 男爵はちょっとだけ、不満そうな顔になった。

 まあ、当然の反応かもしれない。シャングリアはモーリア一族の女であり、先代のモーリア男爵の嫡女だ。

 そんなシャングリアが、大勢の女のひとり扱いというのは、やはり気に入らないだろう。

 しかし、一郎はこの話だけは、強引に押し通すつもりである。許可を求めるつもりもない。

 ただ、そうすると宣言するのみだ。

 だが、妾だと?

 

「妾ではなく、正式の妻としますよ。イザベラも、ガドも……そして、後ろの三人とシャングリアもです。この国では重婚は認められていますから」

 

「重婚──? い、いや、女王陛下と王太女殿下と婚姻して、シャングリアも同等に?」

 

 モーリアはますます唖然としている。

 まあ、馬鹿げたことを口にしていると思えば、思えばいい。

 だが、一郎は誰に反対されようとも、絶対にそれを実現させるつもりである。あらゆる手段を使ってもだ──。

 

「ええ、すでに、ガドには婚姻を承諾してもらっています。彼女は重婚を受け入れています。そうですね、ガド?」

 

 一郎はガドニエルを見た。

 しかし、ガドニエルは、いまだに一郎の性的悪戯を受けている真っ最中であり、これまでの話を聞いていたのか、聞いていなかったのかわからない。

 声を掛けられて、びくりと顔をあげた。

 それにしても、股間の刺激に苛まれながらも快感に耐えているガドニエルは、ただでさえ神々しいほどに美しい外観に、官能的な艶っぽさが加わり、これはまたすごい。

 悪戯をしている当事者の一郎でさえ、ちょっとどきりとしてしまった。

 

「ふ、ふえっ? な、なんですか、ご主人様?」

 

 ガドニエルが半分呆けた表情で言った。

 一郎は笑いそうになってしまった。

 もう“女王”を忘れてしまったみたいだ。失敗したら三日間、一郎をお預けだと諭して、ずっと我慢をさせていたはずなのだが……。

 

「へ、陛下──。ロウ殿は、陛下とロウ殿との婚姻のことをお訊ねです」

 

 ガドニエルの後ろについているブルイネンが慌てたように言った。

 ガドニエルがはっとする。

 

「け、結婚? も、もちろんですわ──。わ、わたしは、ご主人様の番(つがい)ですので──」

 

 ガドニエルが満面の笑みを浮かべて言った。

 これには、一郎も呆れるしかない。“ご主人様”と呼ぶなというのに……。しかも、番(つがい)のことは黙っていろと、ラザニエルから強く言われているのではないのか──。

 出発直前には、ケイラ=ハイエルこと、享子にも注意されていたが……。

 

「番(つがい)?」

 

 さすがに、男爵も驚いた声をあげた。

 この感じでは、エルフ族たちにとっての番(つがい)の意味についても承知しているみたいだ。

 

「その話は内密に……。ところで、ガド、三日間な……」

 

 一郎は吹き出すのを我慢しながら、まずは男爵に声をかけ、ついで、ガドニエルに小さくささやいた。

 ガドニエルが、やっとはっとした顔になる。

 

「み、三日──? いえ、そんなのは──。い、いや、ロ、ロウ殿、そのお話は、あ、後でいたしましょう。お、お願いですよ。よ、よいですね。いえ、お願いします……」

 

 ガドニエルが取り繕った表情に戻って、姿勢もただした。

 さっきまでの“ぽんこつ女王”の態度が消滅して、再び“エルフ族女王”の顔を取り戻した。

 まあ、“修正”の効果があったのかどうかは知らないが……。

 ふと見ると、モーリア男爵もぽかんとしている。

 まあいい……。

 とりあえず、ガドニエルを悪戯していた粘性体を消滅させて、ガドニエルを開放してやった。

 これ以上続けると、どんなぼろを出すかわからない。

 

「え、えええ? ご主人様──。ど、どういうことですか──。ガ、ガドは失格ですか? 駄目だったのですか──」

 

 しかし、股間へのいたぶりをやめたことで、なにを思ったのか、いきなり泣きそうな顔で立ちあがりかけた。

 これには、一郎もちょっと驚いた。

 

「へ、陛下、お座りを──」

 

 それを立ちあがる直前に、強引にブルイネンが肩を押さえて座り直させた。

 

「ガド、ちゃんとしないと、三日間だぞ……」

 

 一郎も小さな声でささやいた。

 すると、ガドニエルが明らかにほっとした顔になる。

 

「おお、ではまだ、約束は続いているということですね。それは重畳です」

 

 再びガドニエルが“女王モード”になった。

 一郎はまたもや苦笑した。

 

「繰り返しますが、色々と、くれぐれも内密に……」

 

 とりあえず、一郎は男爵に言った。

 すると、少し考える様子を示して黙った男爵だったが、すぐに顔に吹っ切れたような笑みを浮かべた。

 

「なるほど、恋の多きお方とは耳にしておりましたが、これ程とは……。いずれにしても、お祝い申しあげます……。先程申しました通り、モーリア男爵家は、ロウ殿とガドニエル女王陛下をお支持いたします。微弱過ぎて、なんの力にもならないかもしれませんが……」

 

 すると、モーリア男爵が静かに立ちあがった。

 男爵には帯剣を許していたが、その剣を鞘ごと抜いて反転させ、跪くと、一郎に向かって鞘側を差し出してきた。

 一郎は面食らった。

 

「おう、大叔父──。ロウに剣を捧げてくれるのか──」

 

 膝に抱いているシャングリアが大きな声をあげた。

 

「このユンゲル=モーリア、麒麟児のように破天荒なロウ殿に忠誠を誓いましょう。これでも、このユンゲルは、人を見る目はあるつもりです。どうか、わしの忠誠を受けてもらいたい」

 

「お、俺に?」

 

 さすがに一郎もびっくりした。

 

「わしは、商機を絶対に逃さないのが、なによりの自慢でしてね。これは、大波に乗るべきだと判断いたしました」

 

 すると、跪いている男爵が顔をあげてにやりと笑った。

 不敵な笑みだ。

 そういえば、このモーリア男爵は、辺境に近い小さな男爵家にすぎなかったモーリア家をあっという間に繁栄させ、男爵家でありながらも、二百もの傭兵団を簡単に集められるくらいの財を作った貴族だ。

 武人らしい姿からは想像がつかないが、実は大変な商売上手なのだ。

 その彼が、一郎を商機と判断した?

 

「ロウ、誓いを受けろ。武人にとっての剣の誓いは一度しかできない。大叔父は、陛下にも、まだ剣は捧げてはいないはずだ。その大叔父がロウを選んだのだ──」

 

 シャングリアが嬉しそうな声をあげている。

 しかし、一郎はいまだに困惑していた。

 

「……失礼ながら、あなたはこれから、大化けするかもしれない。それに乗っておけば、わしは大きな益を手に入れそうだ。わしはそういうものは、見逃さんのですよ。たったいま、直感が働きました」

 

 すると、男爵が一郎に向かって微笑んだ。

 

「直観ねえ……。だが、剣の誓いか……」

 

 さっきの一郎たちのやり取りの何を気に入ったのかわからないが、とにかく、男爵は一郎を認めてくれたみたいだ。

 しかし、確かにこれは大きい。

 淫魔術だけでここまできた一郎だが、この世界にやってきて、初めて淫魔術を遣わずに、味方を増やせたのだ。

 

「ロウ様、その剣を受け取って鞘を抜き、剣の腹を男爵殿の肩に当ててください。そして、なにか、お言葉を……」

 

 エリカが小さく言った。

 一郎は頷いた。

 とりあえず、シャングリアをもう一度マーズに渡してから、言われたとおりにする。

 

「モーリア殿、いえ、大叔父……。シャングリアにとって、あなたが大伯父なら、俺にとっても同じです。これから、よろしくお願いします、大叔父」

 

「命に代えても……」

 

 男爵が頭をさげた。

 一郎はモーリア男爵に剣を返した。

 男爵はもう一度、椅子に座り直す。

 

「これは素晴らしい。ロウ殿に最初に剣を捧げた武人ということだな。では、わたしからは、男爵にエルフ族の聖騎士の称号を贈りたい。もらってくれるか?」

 

 すると、ガドニエルが横から声をかけてきた。

 まだ、芝居は続けるのかと訊ねたくなったが、聖騎士だと?

 

「ブルイネン、これを卿へ……」

 

 しかし、ガドニエルは、すぐに魔道で手に宝石のついた勲章のようなものを取り出した。

 確か、一郎の親衛隊になったエルフ族たちが貰っていたものと同じだと思う。

 あれが、聖騎士の称号を与えるときに渡すものということになるのだろう。

 それはいいが、あのときといい、いまもそうだが、聖騎士の大盤振る舞いだとは思った。

 エルフ族の中では、かなりの名誉であると耳にしたが……。

 大丈夫か?

 

 だが、ブルイネンは反対する様子もない。だから、いいのだろう。

 ブルイネンは、それをガドニエルから受け取ると、ユンゲルに近づき、彼の右胸にそれを密着させた。

 どういう仕掛けなのか知らないが、聖騎士の印らしい星章っぽいものが、彼の胸にぶら下がった。

 

「おっ、これは──。お礼申しあげます」

 

 モーリア男爵が慌てたように立ちあがった。

 しかし、ガドニエルが鷹揚そうな態度でそれを制した。

 

「不要だ。ロウ殿に忠誠を誓ってくれた礼である。ロウ殿にとっての大叔父なら、わたしにとっても親族も同じ。これからはよろしく頼むぞ」

 

 ガドニエルが言った。

 こうやっていると、確かに女王である。

 なにかおかしくなった。

 

「まあいいか……。じゃあ……」

 

 一郎はシャングリアをマーズから受け取り直した。

 シャングリアがまた真っ赤になる。

 

「だ、抱っこはよい──」

 

「そう言うな。話があったんだ。しかし、そういうことであれば、まだ引退はできませんよ、大叔父」

 

 一郎は言った。

 

「引退? 大叔父、引退するつもりなのか?」

 

 シャングリアが戸惑いの声をあげた。

 

「今回のことは、わしの大きな失態だ。だから、その責任をとるかたちで、わしは男爵の地位をシャングリアに渡すつもりだったのだ。もともと、お前が引き継ぐべき爵位だったのだし、よい機会と思った。あのときには、わしにはまだ一族を黙らせる力はなかったが、いまのわしには、もう逆らう者は一族にはおらん。だから、爵位の譲渡は簡単だと思ったのだ」

 

「わたしは、男爵になどならないぞ。わたしはロウの剣だ。伴侶のひとりにもなるようだし、男爵を継ぐことはできん」

 

「そのようだな。忘れてくれ……。その代わり、お前を選んでくれたロウ殿に恩を返す。魔族に操られ、一族ごと処刑されてもおかしくはない罪を犯したわしたちを取り持ってくれたロウ殿だ。なにかできることがあれば、なんでもしよう」

 

 モーリア男爵は言った。

 一郎は頷いた。

 そして、男爵は立ちあがり、なにか必要があれば伝えて欲しいと言って頭をさげた。

 男爵が辞去した。

 すると、ガドニエルがいきなり立ちあがった。

 

「ああ、ご主人様、ガドはちゃんとやりましたよ。一生懸命に女王としてふるまいました。合格ですよね。ねえ、ご主人様」

 

 そして、文字通り、一郎の足のあいだに跪いてきた。

 

「わっ、陛下、まだです──。男爵殿は去ったばかりで……。お前たち、隠して──。それと防音の魔道をかけます」

 

 ブリイネンが慌てて、なにかの魔道をかけた。これが防音の魔道なのだろう。

 一方で、ほかの親衛隊の女兵も、一郎とガドニエルを隠すように、天幕の入り口に対して人の壁を作った。

 しかし、すでに彼女たちも、こんなガドニエルの姿に慣れっこになっており、微笑ましそうに笑っている。

 

「なにが合格よ……。不合格でしょう」

 

「まあね……」

 

 コゼとエリカだ。

 振り返ると、ふたりもまた、笑っている。

 

「えええ、そんなあ。なにが駄目だったのですか。ねえ、ご主人様──。ガドは三日間も、ご主人様に触わってもらえないのでしょうか。一生懸命に我慢しました。ガドは我慢したんです」

 

「そうだな。我慢してくれたな。ありがとう……。だけど、聖騎士なんてよかったのか?」

 

 一郎はガドニエルの頭に手を伸ばして撫でた。

 すると、ガドニエルが本当に嬉しそうな顔になった。

 

「あ、あんなものはいくらでも挙げられます。全く問題ありません」

 

 ガドニエルが元気よく言ったが、一郎はブルイネンに視線を向けた。

 

「問題がないことはありませんが、この場合は必要と判断しました。ロウ殿の野望を考慮すると、少しでもハロンドール王国の中に味方を増やすことは必要です。彼は信頼のできる人物のように感じましたし」

 

 ブルイネンが真面目な顔で言った。

 一郎は頷いた。

 

「さあて、とりあえず、男爵との面談も終わったし、ジャスランの様子を見に行くか。ブルイネン、後を頼む。ガドはついてこい」

 

「はい、ご主人様」

 

 ガドニエルが本当に愉しそうに立ちあがる。

 一郎に命令をされるのが、とことん嬉しいみたいだ。

 思わずほくそ笑んでしまう。

 一郎も立ちあがった。

 

「ま、待ってくれ、ロウ──。お、おろせ。このまま外に行くなど恥ずかしいぞ。外には、モーリア隊の連中もいるのだろう」

 

 一郎に抱かれたままのシャングリアが慌てたように言う。

 

「いや、モーリア隊は、この一隊を囲むように展開しているので、天幕周辺にはいないはずだぞ。それに、いてもいいじゃないか。俺たちが仲がいいことは、すでに男爵の公認になった。人前でいちゃいちゃしても問題ない」

 

「も、問題ないことはない──。さっきも言ったが、身内の前だと、は、恥ずかしいんだ。おろせ──。それに、早く手足を復活してくれ。ミウに訊ねたら、二ノスもあれば、失った四肢を復元できると言ったぞ」

 

「ガドなら、その四分の一の時間でいいらしいぞ。しかし、それは俺が愉しんでからだ。前から手足のない女を抱いてみたかった。抵抗する手段がないのをとことん愉しみながらね」

 

 一郎は笑いながら、抱いている手をずらして、服の上からシャングリアの胸をくすぐるようにしてやった。

 

「んはっ、や、やめろ、ロウ──。お前の物言いは悪趣味だ」

 

 シャングリアが胴体を悶えさせながら抗議した。

 しかし、天幕の外に出て、明るい日差しの下に出ると、ちょっと大人しくなる。

 

「知らなかったのか、シャングリア。俺は悪趣味なんだ。変態だしね」

 

「し、知っている……。ま、まあ、わたしも大概だしな」

 

 シャングリアが言った。

 顔が赤い。

 一郎は微笑んだ。

 

 

 *

 

 

 少し歩いて、ちょっと大きめの天幕の前にやって来た。

 同行しているのは、抱きかかえているシャングリアのほかに、ガドニエル、エリカ、コゼ、そして、マーズである。

 この天幕の中からは、なにも聞こえない。

 防音の魔道をかけてあるからだ。

 コゼがさっと前に出て、天幕の入り口になっている覆いを開けた。

 歩いて中に入ると、途端に絶叫が聞こえてきた。

 

「くそおおお、殺せえええ。もう、私を殺せええええ」

 

 声は髪の毛を束ねて天井からぶらさげられているジャスランだ。

 すでに四肢はない。もちろん、素っ裸だ。

 頭と胴体を残して四肢は切断し、魔道を込めて準備した特別の高炉(こうろ)のような大壺を使って、魔道で昨夜のうちに蒸発させた。

 血どころか、骨の破片も残っていない。

 ミウが吹き飛ばした片腕も、拾ってきて高炉に放り込んでいる。

 それはともかく、怒鳴っているジャスランだが、一郎に接すると、明らかにその表情に怯えが浮かんだのがわかった。

 不完全ではあるか、真名の支配によって、ジャスランには一郎に対する恐怖感を作り出している。

 それに囚われているのだろう。

 

「おう、まだまだ元気だなあ、ジャスラン。しかし、お愉しみはこれからだぞ。処刑執行は三日後くらいだ。それまでは生かしておいてやるから、せいぜい、俺たちを愉しませてくれ。あとでスクルドも来るだろうしね」

 

 一郎はシャングリアをマーズに預け返す。

 天幕の中にいたのは、イットとユイナだ。一応は見張りということだ。

 ほかの者については、養生のための天幕で身体を休ませている。

 

「まったく、うるさいったら……。ちゃんと魔族殺しの毒薬を大量に飲ませておいたわ。きちんと複製できているかどうかまではわからないけど、もしも、複製に成功していたら、すでにこいつの血は魔族殺しで染まりきっているわ。血の全部を入れ替えるくらいしないと、二度と魔道は遣えないわね」

 

 ユイナだ。

 彼女に頼んでいたのは、アルオウィンが持っていた“魔族殺し”を複製して、ジャスランに大量投与することだった。

 成分と調合要領がわかり、必要な材料があれば、ユイナでもできないことはないと言ったからだ。

 幸いにも、ノルズはアルオウィンに、毒薬に関する知っている限りのことを伝えており、材料についても、一度エルフ族の女兵のひとりを移動術のゲートを利用して水晶宮に返し、取りに行ってもらった。

 夜中だったが、水晶宮に残っていた享子が対応してくれたみたいだ。

 女兵は朝までに戻ってきて、今朝からはユイナがここで魔族殺しの複製を作り続けては、イットやマーズと協力して、無理矢理に口から飲ませ、尻からも注入して、徹底的に魔族殺しの毒薬に肉体を漬け込んだかたちにした。

 一郎は、ジャスランのステータスを確かめた。

 ちゃんと魔族殺しに染まり切っている。

 これなら、たとえ、逃げおおせる可能性があっても、二度と魔道は遣えないだろう。

 

「いや、ちゃんと機能している。ご苦労さん」

 

 一郎はユイナに声をかけた。

 天幕の隅にイットとともにソファに座っているユイナは、軽く肩をすくめた。

 

「じゃあ、ちょっと寝るわね。別に拷問に付き合う必要はないんでしょう?」

 

 ユイナが立ちあがった。

 

「ああ、イットもいいぞ。ここにいてもいいけどな」

 

 一郎は声をかけた。

 イットはちょっと迷ったみたいにしていたが、ミウたちの様子を見ると言って、天幕を出ていった。

 

 一郎は改めてジャスランの前に立った。

 ほかの女たちは、それぞれにソファに座り込む。

 食べ物も飲み物も揃っているし、それぞれに休息するような態勢だ。

 全員が長くなることを承知している。

 これから、三日間、ジャスランは一郎たちの拷問を受けることになる。

 長丁場なのだ。

 

「さて、お前には、ひとつだけ白状して欲しいことがある。まずは、それを訊ねるが、その前に抵抗を封じるための最後の仕掛けをするぞ。愉しませるつもりはないから、まあ、期待はするな」

 

 一郎はコゼにジャスランを天井から吊っている鎖を緩めるように指示した。

 

「どうぞ」

 

 コゼが操作具を動かす。

 勢いよくジャスランが地面に叩きつけられた、

 

「あぐうっ、く、くそう──。こ、殺せええええ、殺せよおおおお」

 

 頭と肩と腰を思い切り地面に当てたジャスランが再び喚きだした。

 

「心配しなくても、何十回も殺してやる。そして、何度でも生き返らせてやる。そこにいるガドは、光魔道の遣い手だ。息の根がとまっても、お前の魔族特性を利用して、血がありさえすれば、復活できるらしいね」

 

 一郎は言った。

 最終的には高炉に放り込んで、すべてを消滅させることで処刑するが、それまではたっぷりと償いをしてもらう。

 一郎も今回のことについては、怒り心頭にきているのだ。

 

 しかし、その前にだ……。

 一郎は、ジャスランの胴体を引き寄せた。

 

「な、なにをするんだ、人間──。ち、近寄るなあああ」

 

 ジャスランが喚いた。

 しかし、どうしても怯えが走るのか、顔が引きつり、身体がちょっと震えている。

 

「大したことはしない。お前が大嫌いな人間族の性器をお前の股間に突っ込むだけだ」

 

 一郎は片手でジャスランの裸体を押さえつつ、残った片手でズボンと下着を膝までおろして。股間を露出する。

 

「ひ、ひいいっ、や、やめろおおお」

 

 ジャスランが気がついて絶叫した。

 だが、一郎は股間を勃起させると、まったく前戯なしに、ジャスランの股間に怒張を思い切り突っ込ませた。

 

「ひぎいいいいい」

 

 ジャスランが金切り声をあげた。

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