【2025.9.5コミック発売】異世界で淫魔師ハレム【完結】 作:ドン・ドナシアン
「そりゃあ、女王様だろう。決まってんじゃねえか。あの美貌、身体、神々しさ……。まさに世界一の美女だぜ。まったく、俺たちも運がいいぜ。なにしろ、百年近くも隠し宮に閉じこもっていて、実際に姿を見た者は滅多にいねえというエルフ族の女王様をあんなに間近で拝ませてもらったんだ」
「女王様なんて、あんまり身分が違っていて、珍棒もおっ勃つ気がしねえよ。俺はもっと身近でいいや。エリカとかいうエルフ女とかいいじゃねえかあ。スカートも短くて、お色気まんまんでよお。それに、いつも英雄様の近くにいて優しそうだし」
エインに次いで、ビスが言った。
すると、シーズが口を開く。
「なにが優しそうだよ。俺はあのエリカ嬢が“楽団”のドッキーとアスロの睾丸を蹴り潰したのを目の前で見たぜ。ものすげえ、おっかなかったぞ。そもそも、エリカ嬢のどこが身近なんだよ。十分に神々しいくらいきれいな嬢ちゃんだったじゃねえか」
「馬鹿たれ。普通の女なんか、英雄様の周りにはいねえよ。そんなこと言ったら、誰も彼も、しがねえ傭兵稼業の俺たちにゃあ高根の花だ。だけど、憧れるくらいはいいじゃねえか」
ビスが言った。
すると、エインとシーズが笑いだしてしまった。
ビスは笑われてむっとしているが、横で三人の話を聞いていただけだったデズも苦笑してしまった。
ナタルの森である。
もっとも、エルフ族の里が点在しているエルフ族の支配域とは離れている外縁部であり、ハロンドール王国の国境のすぐ近くだ。
デスの所属する傭兵隊である“
魔族女が絡んで色々あったが、英雄様たちと一回だけ戦ったほかには、戦らしい戦もなく、ひたすら森の中に逗留するだけの楽な仕事だった。
そもそも、魔族女に操られて戦ったときのことは、記憶が曖昧でよく覚えてないのだ。従って、あの戦闘も、その前のことも、頭の中はぼんやりとしている。
まあ、結局、死んだやつはいなかったし、モーリア男爵家は、飛ぶ鳥を落とす勢いのある金回りのいい貴族様であり、今回の仕事も大人しく森の中で待機しているのがほとんだったにしては、実入りもよかった。
待機のあいだの食事もそれなりだったし、酒もふんだんに提供があった。
おそらく、デスの経験でも、一、二を争う“おいしい”仕事だったと思う。
だが、明日で終わりだ。
すでに、英雄様たちを始め、男爵隊の本隊の連中も、数名を除いて、森を立ち去っており、傭兵団については、ここに残っている天幕などを片付け、明日にやってくる男爵家の荷馬車に積み込むまでが契約となっている。
もっとも、男爵家では、集めていた傭兵団との契約の延長を考えているとは耳にしている。
どうなっているのかわからないが、遠い王都では王様が狂ったという噂であり、有名な美人神殿長をはじめ大勢の貴人たちが処刑されたり、貴族夫人や令嬢が王宮に連れ込まれて奴隷にされたりしているらしい。
それで、王国内の貴族が一斉に反発して、国内が急に不穏になり、三公国に接する西部ではあの辺境候が王家に叛乱するための兵を集めまくっているというし、南部では農民あがりの盗賊団の叛乱が起きて、大きな貴族領が丸々占拠されたりしているそうだ。
男爵様がどう動こうとしているかは知らないが、モーリア男爵家といえば、代々知られている武門の家である。
先祖を辿れば、傭兵団の首領が爵位と領地をもらって男爵を名乗るようになった貴族であり、戦ともなれば、自領の軍よりも大きな勢力の傭兵を集めて参加するのが伝統だ。
どこの戦に参加するつもりなのかは知らないが、傭兵団を据え置きたいということは、なにかしらの意思もあるのだろう。
ただ、新しい契約は、急に揉めだしているとも聞いている。
話によると、代表傭兵団だった
どうなるのかわからないが、まあ、その辺りは、隊長とか副隊長がほかの傭兵団とも話し合って考えるのだろう。
デスのような下っ端は、ただ言われたとおりに戦場で働くだけだ。
しかしながら、今回のことでは、なにかにつけて、楽団の連中がおいしいところだけを独占していた。だから、あいつらに苛ついてもいた。
例えば、夕べの最後のジャスランとの夜については、楽団だけでやったらしいし、英雄様たちとの戦いの直前に、大食堂天幕でジャスランが人質にしていた英雄様の女を使って、卑猥な宴をしたらしいが、それも楽団の者しか入れなかった。
デスたちは、そんなことがあったのを後で知っただけで、人質になっていた英雄様の女というのが、誰のことかということさえ知らない。
あいつらは狡いのだ。
一昨日の夜の輪姦だって、英雄様が全部の傭兵に参加させろと言わなかったら、自分たちだけで独占したと思う。
事実、昨日一日のジャスランへの一連の刑罰は、楽団だけが関与して、ほかの三個の傭兵隊は加わってない。
だから、
「おう、ずっと黙ってるけど、デス、お前の好みは誰だよ? エリカ嬢か? シャングリア様なんてのもよかったな。貴族様らしいが、颯爽と歩いてて格好いいしなあ。それとも、ブルイネン隊長?」
「いやいや、デスは可愛いのが好きなんじゃねえか? コゼって女とか、イットという獣人娘じゃねえか。あんまり外に出てこなかったけど、ユイナとかいう黒い肌のエルフも可愛い系だな」
エインが声をデスにかけてきて、さらにビスが言った。
デスはどう言おうかと迷った。デスの好みの女はいるが、絶対にからかわれると思ったからだ。
それよりは、別の適当な女の名を出すか……。
しかし、迷っていたら、三人はすぐにほかの女の話をしだした。
黒肌エルフの姐さん系のイライジャ、筋肉美少女のマーズ、エルフ兵の女の名も出た。
さらに、英雄様のそばをちょろちょろしているミウという童女の話題になる。デスは知らなかったが、あの子はあんなに幼いのに、かなりの魔道遣いだということだ。無詠唱で高位魔道を遣ってたという話だ。
「……ええ、嘘だろう。ありゃあ、多分、十歳? それとも、九歳? まあ、そんなもんだろう。そりゃあ、将来は美人になりそうな感じだけど、将来の話だぜ」
シーズが首を横に振る。エインがそのミウも英雄様の女のひとりだろうと言ったからだ。
しかし、デスはあり得ると思った。
横から口を開く。
「いや、俺は見ましたよ。そのミウちゃんは、英雄様と大人の口づけしてました。英雄様は、なにかのご褒美とか言ってましたけど……。ミウちゃんは、顔をとろんとさせて、女の顔してましたし……」
観察力が鋭く、耳も目もいいのが、デスの取り柄である。デスはなにかの作業のときに、たまたま、そんな光景を遠目で見たのだ。
「本当かあ、デス? かああ、英雄様もすげえなあ」
シーズが素っ頓狂な声をあげた。
「えっ、でも、それは浮気なんじゃ?」
ビスだ。
「浮気? なにがだ?」
エインが首を傾げた。デスもビスがなにを言っているのか理解できなかった。
そして、すぐにビスの誤解がわかった。
ビスは、英雄様は女王様の王配になるので、周りの女たちは、ものすごく仲がよさそうだけど、上司と部下の関係だと思っていたようだ。
デスも含めて、周囲の女はほとんど、英雄様と男と女の関係だと説明すると、ビスはびっくりしていた。
「そもそも、最初のときに、ブルイネン隊長が、みんな英雄様の妻になる人だから、粗相をするなって全員に説明してたじゃねえかよ。なに聞いてたんだよ」
エインがげらげら笑う。
「俺はそのとき、のされて倒れてたんだ。聞いてねえよ。だけど、本当か? みんな、英雄様の女?」
ビスが顔を赤くして言った。
すると、誰かが、そばに足をとめた。
「おう、お前ら、なにを楽しそうに話してんだ?」
通りかかったのは、デスたちの傭兵隊で補給の長をしているファルコだ。
“
「英雄様の部下の女の話ですよ。どの女が好みっかってね」
「けっ、人の女の話をしてもしょうがねえじゃねえかい。全部、英雄様の女だぞ」
ファルコが首をすくめた。
「だけど、英雄様は女王の連れ合いなんでしょう? 目の前でいちゃいちゃしているところ見ましたぜ」
ビスだ。まだ半信半疑らしい。
すると、ファルコが大笑いした。
「それがどうした。俺は、女王様だけじゃなくて、ほかの女全員といちゃいちゃしているところ見たぜ。英雄様用の天幕の中で、女王様だけじゃなくて、女たち五、六人に薄物一枚着させて抱きつかせていたのを見たんだ。あれ見たときには、本当に俺も英雄になりてえと思ったものさ」
「裸に薄物一枚? もしかして、あのエリカ嬢もですか?」
ビスが眼を大きく見開いた。
「おう、ビス、お前はエリカさん狙いだったのか。諦めな。エリカさんもいたぜ。楽団の隊長さんと一緒に俺が入ったときには、ひとりだけ出遅れた感じで立っててな。“ロウ様の意地わるう”とか言いながら、可愛らしく抱きついてたぜ。薄物越しだが、おっぱいもきれいだったぞ、ビス」
「くうううっ、俺は英雄様じゃなくていい──。そのときのファルコさんになりたかったあ」
ビスが叫んだ。
全員が大笑いした。
「まあ、元気だせや、ビス。気前のいい男爵様が酒まで置いていってくれた。しかも、楽団の連中が酒飲んでやらかしやがったんで、男爵様が怒って、酒の差し入れを楽団にはしなかったんだ。それで、あっちに向かう分の酒も回ってきたぜ。倍は飲めるぞ」
「そいつはすげえや」
エインが口笛を吹いた。エインは酒好きなのだ。
「楽団の連中が英雄様と騒ぎを起こしたって聞きましたが?」
デスは言った。
「おう、さすがはデスだ。耳が早いな。女魔族のことがあったろう? 夕べは楽団の連中だけで独占しやがったんだけど、英雄様に引き渡すときに、まだ酒に酔っていた楽団の隊長が英雄様に絡んで、コゼっていう人間族の女にのされたって話さ。後でそれを聞いた男爵様が激怒してるってことらしい。まあ、残ってる男爵家の者からの又聞きだけどな」
「楽団の隊長って、狂戦士ベルセルさんじゃないですか? 女にのされたんですか?」
シーズが横から訊ねた。
「のされただけじゃねえよ。瞬殺だ。しかも、右手の親指をへし折られたらしいぜ。楽団のところの治療士が俺のところに、薬草を譲って欲しいってやってもきた」
「へえ、ベルセルさんが女にねえ……。コゼって、あのかわいい顔したちっこい女ですよね」
エインだ。
「かわいい顔してても、怖い女だということだ。やっぱり英雄様の女だぜ」
ファルコが言った。
全員が笑いながら頷いた。
「まあいいや……。お前ら、誰か暇なら食事の支度を手伝えや。その代わり、酒を余分に回してやる」
すると、ファルコが言った。
「あっ、俺、行きますよ」
デスは手をあげた。
「俺もだ。酒をくれるんなら喜んで」
エインも膝を叩いて立ちあがる。
「よし、お前らふたりに頼む。ウサギをさばいてくれ。五羽も罠にかかってな。今夜はウサギ鍋にしようかと思ってんだ」
「ウサギですか?」
ファルコとエインが歩き出したので、デスもついていく。
だが、ウサギといえば、デスは思い出したことがあった。
「ウサギって、赤黒の毛のやつは、罠の中にはいませんでしたか? この辺をうろうろしているウサギで肉を喰らうウサギなんですよ」
デスは前を歩く
ウサギは本来草食である。
しかし、デスが目撃をしたそのウサギは、肉のようなものを食べていた。赤と黒の毛並みの珍しい個体であり、最初は魔物かと思ったが、毛並み以外は普通だった。
だから、あまりにも珍しいから覚えていたのだ。
「肉を喰うウサギ? そんなウサギなんかいねえだろう」
エインが歩きながら振り返って言った。
だが、ファルコは首を横に振る。
「いや、うちの故郷には、たくさん野ウサギがいる集落だったから知ってんだが、ウサギは草だけを喰うと思われているけど、実は小さな動物の肉は喰うぜ。しかし、赤黒の毛並みのウサギなんてのは見たことはねえ。今日の獲物の中にもいなかったな」
「そうですか」
デスはなんとなくほっとした。
あのウサギが罠には嵌まらなかったことがわかったからだ。
別にウサギに思い入れはないが、赤毛と黒毛のまだらの毛並みといえば、英雄様が処刑したと耳にしたジャスランという魔族を思い出すからだ。
英雄様たちには酷いことしたらしいし、デスたちも操られて戦わされたりしたが、正直にいって、それはなんとも思わない。
だが、デスの記憶に残るのは、
英雄様の与えた罰として手足を短くして抵抗できなくされていたが、とにかく、いい身体だった。
人数が多かったので二回しかデスには回ってこなかったが、なんといっても、あそこの締まりはいいし、身体が敏感で、いくらでもいきまくる。
それでいて、気の強さは変わらず、絶頂を繰り返しながら、その合間で犯している男に対して悪態をつくのだ。
そのちぐはぐさがよかった。
昨夜は、楽団の連中が独占したので、デスもジャスランにはありつけなかったが、あのウサギの毛並みが、ジャスランを思い起こさせたのだ。
だから、あの変な毛並みのウサギが無事でよかったと思った。
「じゃあ、頼むぜ。血抜きは終わってる。毛皮は使うからな。ちゃんと剥がしてくれよ」
ファルコが傭兵隊の厨房所の前で言った。
確かに、樹木の枝と枝に張った紐にぶら下げられているウサギは、どれも茶色い毛並みだった。
ジャスランの髪にそっくりな赤と黒のまだら毛などいない。
デスは、早速、一羽目に手を伸ばした。
*
犬だな……。
犬……。
山犬がいい……。
ウサギであるジャスランは、森の中を駆けながら思った。
人間族の山猟師には、普通に山犬を食べる習慣がある者も多いからだ。山犬なら人族の口に入る可能性が高い。
それが人間族だとしても、いまはそれを受け入れる気持ちでいっぱいだ。
サキの目にとまり、異界にある魔族の里に居場所をもらう前の一時期は、ジャスランも人間族の世界を放浪していた。
だから、多少は彼らの習慣には知識がある。
なんといっても、人間族は数が多い。人の海の中に紛れやすい。力を取り戻すには時間もかかる。それまでは、サキからも、ロウからも見つからないようにしないとならないのだ。
このウサギの中の血に混じっているジャスランを山犬が食べれば、ジャスランの命は山犬の命を乗っ取って繋がり、さらにその山犬を猟師や猟師の家族が食せば、ジャスランは血紋術で、その人間を乗っ取ることができる。
そうすれば、あの連中に対する復讐の線もどこかに見つけることができるというものだ……。
しかし、運がよかった……。
あのロウという男の得体の知れない術に捉えられて、一切の魔道を封じられ、さらに複数の手段で血紋術を使えなくされたときには、絶望したものだ。
なにしろ、あの状態でうまく血を使って復活ができたとしても、ジャスランの血に、ロウのなんらかの術式が刻まれていることには変わりない。
ロウの支配に陥っているジャスランが復活するだけだった。
だが、あの高炉という処刑具で本体が生命をなくしたとき、ジャスランの命が宿ったのは、まだ、ロウに一切の支配をされていないときのジャスランの左手首から先の一部だった。
爆裂で残っていた親指の先の中にあった血だ。
ジャスランは、その血に復活をしたのだ。
ジャスラン自身も忘れていたが、ロウたちに捕らわれる直前に、ジャスランは、エリカを人質にして、スクルドを見世物にして、あいつへの復讐を愉しんでいた。
そのとき、エリカの身体を爆裂させようとしたのだが、その炸裂環が急にジャスランの手首に飛び移ってきて、ジャスランは左手首から先を吹き飛ばされてしまったのだ。
そのときの肉片と血が草むらの中に残っていた。
あの死の直後に気がついてみると、ジャスランはその肉片に残った血の中に復活していたというわけだ。
……本当に運がよかった。
ロウに捕らわれた後、ロウからはスクルドたちにやった行為の報復として、最初に四肢を切断されたが、あの四肢ではどのみちだめだった。
あれは、ロウに支配されてしまった身体の一部だ。
そこから復活しても、ロウに支配されている状態に変わりはない。
あれに比べれば、ジャスランが復活した肉片と血は、なんの支配もされていない血と肉だった。
それどころか、唯一、洗脳球ではなく、ジャスランの血を飲ませて、血紋術を刻んでいたエリカの支配も、この血は握ったままだったのだ。
ほかの三人の支配は、洗脳球を通してだったので洗脳球を破壊されてしまえば、支配の手段はないが、血で支配を刻んだエリカだけは、まだ肉体支配の繋がりが持続している。
本当に運がいい……。
ジャスランが復活した親指の肉片の一部に残っていた血がついた草をウサギが食べ……。
すぐに、そのウサギを操って、残っていた親指の肉と血を食べさせた。
ウサギの罠があったので、それにわざとかかって、傭兵たちの中に復活することも考えたが、ジャスランを犯しまくった傭兵たちは復讐の対象であり、あの中の誰かに復活するなど冗談じゃないと考えた。
だから、あの連中の陣地から離れることにしたのだ。
さて、どうやって復讐してやろうか……。
ジャスランは、ウサギの身体で森の中を走りながら考えた。
まあ、とりあえず、力を戻すことだろうが……。
まずは、山犬に……。
次いで、猟師に……。
だが、猟師に食べられるために捕らわれるのは、ここから遠くにすることにしよう。しばらくは、山犬として動き、あの連中から完全に離れたところで、適当な猟師に捕らわれることにしようか……。
そして……。
すると、走っている先に、お誂え向きの山犬の群れがあった。
ジャスランは、彼らに向かって突進した。
山犬に食べられるために……。
*
「かあしゃん、もう、たべていい? ちょっとらけだよ。あいみよ。あいみ……」
五歳になる娘のホリーが一生懸命に強請っているのが聞こえた。
ダンは、山小屋の中で罠の整備をしながら、微笑ましくその会話を聞いていた。
“あいみ”というのは、“味見”のことだ。
味見というのは、料理をする者がその料理の味を調えるためにするものだが、娘のホリーは、料理の途中のつまみ食いのことを“味見”と覚えてしまったみたいだ。
しかも、うまく、味見と発音できなくて、“あいみ”という。
女房は、なんだかんだと、ホリーにつまみ食いをさせるのだろう。
台所から聞こえる母娘の会話に耳を傾けながら思った。
ダンは、カロリック公国の北側の山の中を拠点とする山猟師である。家族は三人であり、妻と娘とともに、この山小屋で暮らしていた。
都市部の方では、戦が続いているらしいが、いまのところ、こっちの山の方は平和である。
タリオ公国のランスロットという若い将軍が略奪と暴力をしながら、カロリック公国の公都に向かって侵略を続けていて、その影響で食材があちこちで不足をしており、獣の肉などは、普段の三倍くらいの高値で卸すことができる。
だが、昨日罠で捕らえた山犬については、都市の肉屋には卸さずに、家族のためにとっておくことにした。
町の噂によれば、おそらく公国は、タリオに征服をされてしまうだろうということだった。
そうなれば、このカロリックはどうなるかわからない。
ランスロットというタリオの将軍は、戦上手のようだが、随分と残酷な人らしい。住民などが逆らえば、その町の領主家族などを皆殺して、さらに町を焼き払ったりということをするかもしれないそうだ。
事実、国境近くの町では、タリオに戦わずして降伏したところは、町を安堵してもらったが、抵抗したところは、女子供まで含めて虐殺されてしまったという。
怖い将軍らしい。
とにかく、そういう状況なので、捕れた肉も、下手に金に換えるよりは、現物として保管しておく方がいいと女房と話し合った。
幸いにも保管用の塩には備蓄があるので、保管のために加工することは問題ない。
だから、少しだけ夕食として家族で食べ、残りは塩で加工して保管することにした。
その山犬鍋を今夜、向こうで料理しているというわけだ。
「ぎゃああああああ」
そのときだった。
けたたましい女房の悲鳴が聞こえた。
びっくりして、ダンは台所に駆けつけた。
「どうした──? あっ」
びっくりした。
台所では首を包丁で切断されて、女房が血だまりの中で死んでいた。
その横には、血のついた包丁を持っているホリー……。
ダンは唖然とした。
「この童女の身体は、このジャスランがもらう。お前らは、邪魔だから死ね。万が一にも、私の復活を洩らされたら困るしな」
ホリーが飛びかかってきた。
最期に見たのは、ほとんど表情を変えずに、包丁をダンの喉に振るう娘のホリーの姿だった。
ホリーの髪は、なぜか赤と黒のまだら色に変化していた。
「んがああっ」
五歳の娘とは思えない素早い動きに、ダンは避けることもできずに首を切断されてしまった。
(第4話『処刑遊戯』終わり)
*
【作者注】
ジャスランが復活した肉片とは、『602 放尿踊りと……そして……』の中で、炸裂環で飛ばした左手首から先の一部のことです。
また、彼女の台詞のどこかに、「I'll be back」と入れたかったのですが、結局断念しました(笑)。